著者
大島 宏行 後藤 逸男
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.263-271, 2008
参考文献数
36
被引用文献数
5

ウリ科急性萎凋症が多発する地域の土壌養分とりわけ,リン酸の蓄積実態を明らかにする目的で,茨城県筑西市において小玉スイカ栽培ハウス32ヶ所の土壌分析を行った.小玉スイカに対する窒素とカリ施用量は施肥基準量にほぼ同等であったのに対して,リン酸は約2倍に達した.また,堆肥からハウス土壌に供給される三要素の有効成分量の施肥基準量に対する割合は,窒素20.3%,リン酸72.7%,カリ62.7%であった.調査対象ハウスの土壌はいずれも黒ボク土であった.調査地域内の未耕地土壌は酸性が強く,交換性塩基や可給態リン酸を欠いていたが,ハウス土壌ではpH(H_2O),塩基飽和度,塩基バランスの他,可給態微量要素はほぼ適正な状態にあった.一方,作土中の硝酸態窒素は11.6〜732mgkg^<-1>におよび,その影響で電気伝導率は0.23〜2.39dSm^<-1>と著しく高かった.黒ボク土にもかかわらず,作土の可給態リン酸は510〜3,440(平均1,950)mgkg^<-1>におよび,その約20%が水溶性リン酸であった.40年間にわたり小玉スイカを栽培してきたハウスでは土層60cm内に酸分解性リン酸として4.36Mgha^<-1>におよぶ大量のリン酸が蓄積していた.リン酸蓄積層では著しいリン酸吸収係数と可溶性アルミニウムの減少が認められた.小玉スイカハウス土壌における土壌養分,とりわけ硝酸態窒素とリン酸の過剰蓄積実態が明らかになった.
著者
寺澤 秀和 大崎 満
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.80, no.6, pp.561-565, 2009
参考文献数
7

ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)で木材多糖の水酸基を架橋により保護して,木材パルプそのものを微生物の分解を受けにくい構造にした化学改質紙が,テンサイの紙筒移植栽培において,苗と移植後の生育,および収量に及ぼす影響を調査した.1)化学改質紙紙筒は,育苗中に紙筒や育苗土への微生物繁殖を抑制し,混抄紙紙筒にみられた微生物が苗の根に及ぼす障害を軽減し,移植時の苗の生育を増加させた.さらに,混抄紙紙筒に比べて良好な移植時の苗の生育は,移植後6月中旬の生育も向上させた.2)化学改質紙紙筒の収穫時の根重と糖量は,混抄紙紙筒と有意な差がなかった.根の肥大により紙筒が開裂する6月中旬から収穫期までの約4ヶ月間の栽培期間に,移植後初期にみられた紙質の違いによる有意な生育差が縮小した.
著者
長坂 克彦
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.239-240, 2005
参考文献数
5
著者
宮丸 直子 儀間 靖 與那嶺 介功 亀谷 茂
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.496-499, 2008
参考文献数
12
被引用文献数
3

沖縄県では台風や大雨時に赤土等の土砂が河川や沿岸海域に流出し、海洋生態系への悪影響が懸念され、大きな問題となっている。平成13年度の調査では、1年間で約30万tの赤土等が流出しており、そのうち74.4%は農地からのものであったと報告されている。これまで、耕種部門では減耕起栽培やグリーンベルト等の対策技術が開発されてきたが、コストや労力の増大から農家による実施は十分に進んでいない現状にある。沖縄県ではサトウキビや冬春期野菜の収穫後、春から夏にかけて休閑期間となるが、この期間は梅雨や台風の時期にあたり、畑面が裸地状態のままでは赤土流出が発生しやすい。そこで、沖縄で古くから土づくりのために利用されてきた緑肥を用いて、赤土流出防止を目的にカバークロップとしての評価をおこなった。供試作物としては、栽培面積が多いクロタラリア、近年導入されたピジョンピーとヒマワリ、一部離島で栽培されているフウキマメを選択し、生育特性および赤土流出防止効果について調査した。
著者
北村 八祥 松田 智子 原 正之 矢野 竹男
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.86, no.2, pp.114-119, 2015

厚生労働省は健康の維持・増進,生活習慣病予防を目的に,各栄養素の摂取量について基準を策定している(厚生労働省,2010)。多量ミネラルとしては,カルシウム(Ca),リン(P),マグネシウム(Mg),カリウム(K)およびナトリウム(Na)の5要素が取り上げられており,農産物はNaを除く4要素の重要な供給源となっている(厚生労働省,2010)。農産物に含まれるミネラル含量は,日本食品標準成分表2010(文部科学省,2010)に品目毎の代表値が示されているが,利用部位による違いは考慮されていない。今後,農産物の加工・業務用需要が増加する中,用途に合わせた部位の活用が進むことが考えられ,部位別のミネラル含量を明らかにすることには意義がある。特に健康増進を目的としたメニューや農産加工品の開発への利用価値は非常に高い。そこで,摂取量が最も多いコメ(Oryza sativa L. ),代表的な加工・業務用野菜であるキャベツ(Brassica oleracea L. var. capitata),タマネギ(Allium cepa L. )およびニンジン(Daucus carota L. )について,部位別のミネラル含量を調査し,ミネラルに着目した農産物提供の可能性を検討した。
著者
山田 和義 上原 敬義 内津 政直
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.108-111, 2013

きのこの人工栽培には大きく分けて原木栽培と菌床栽培があるが,特に菌床栽培では,年聞を通して多量に発生する使用済み培地の有効利用が課題となっている。きのこ栽培が盛んな長野県の場合,いずれもビン栽培(菌床栽培)されるエノキタケとエリンギでの使用済み培地の年開発生量は,その生産量(林野庁,2010)から合計約200Ggと推計される。エノキタケとエリンギの培地は,主要原料としてコーンコブミール(トウモロコシ穂軸破砕物)30~50%,米ぬか20~40%を含むため,良質な堆肥原料となり得る。これまでに,堆肥化した使用済み培地(以下,コーンコブ堆肥)中の窒素については,肥効率(ここでは,化学肥料の肥効に対する堆肥成分の肥料的効果の割合)を20%として施用すると,レタスやハクサイでは基肥窒素の50%程度を代替できた(山田ら,2009)。一方,コーンコブ堆肥には主に培地原料の米ぬか由来のリン酸が窒素の1.5倍程度含まれている。水稲に対して使用済みきのこ培地(主原料がコーンコブおよびオガクズの培地)の化学肥料代替利用を検討した結果ではリン酸肥効率は60~70%であった(長野県,2011)。こうしたことから,コーンコブ堆肥の利用は有機物施用による団粒形成促進等の土壌改良効果とともに,単価の高いリン酸肥料の代替資材としてコスト低減も期待できる。そこで,本県での野菜作におけるコーンコブ堆肥施用時のリン酸肥効率を設定するために,根菜類等を対象に検討した。
著者
佐藤 邦明 増永 二之 稲田 郷 田中 利幸 新井 剛典 海野 修司 若月 利之
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.449-458, 2005
参考文献数
25
被引用文献数
1

多段土壌層法を用いて,汚濁負荷の大きい河川浄化システムの開発を目的とし,福岡県を流れる一級河川遠賀川の支流,熊添川のBOD除去を対象に基礎試験を行い,資材および構造の検討を行った。H144×W80×D56cmの装置を10基作成し,通水層および混合土壌層資材を検討し,構造については資材が同じで土壌層の幅を変えたものを作成した。流入原水は対象河川と同程度のBOD値(約40mg L^<-1>)である農業集落排水処理施設の処理水を用いて4,000Lm^<-2> day^<-1>の負荷で実験を行った。混合土壌層において対象河川の河川敷における現地土割合が高い装置で初期に目詰まりが起こった。この現地土は旧炭坑由来の微粉炭を含み,易分散性のシルト・粘土含量が高く,孔隙の閉塞を起こし易いためだと考えられた。今回のような特殊な現地土を使用する場合には,他資材の添加によってその透水性を上げること,そして分散性を抑制することが重要であると示唆された。また現地土に黒ボク土を混合した装置よりマサ土を混合した装置で目詰まりが起こりにくかったことから現地土へは大きな粒径の割合が多いマサ土の添加が好ましいと推察された。BOD値においても,現地土のみより(平均8.0〜12.4mg L^<-1>),特にマサ土を混合した装置(平均3.3,5.4mg L^<-1>)で高い処理能力を示した。本実験条件では,土壌資材の粒径はシルト以下の粒径が20%程度まで,0.450mm以下が50%程度までであることが,混合土壌層の混合割合は,現地土:マサ土:木炭:腐葉土=4:4:1:1の容積比が最適であると示唆された。また,通水層資材の違いについてはBOD処理には大きな差は出なかった。構造については,土壌層幅が15cmの装置で最も優れた性能を示した。土壌層幅の大きな装置で先に目詰まりを起こしたため,土壌層幅が狭いほうが有利であると示唆された。T-P除去能も土壌層幅の狭い装置で良い結果を示し,土壌との接触効率が高かったためと考えられた。
著者
横山 明敏 佐伯 雄一 柴田 聡子 長友 由隆 赤尾 勝一郎
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 = Journal of the science of soil and manure, Japan (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.475-478, 2004-08-05
参考文献数
9
被引用文献数
2

宮崎県のハウス抑制キュウリ栽培の圃場において、本来ならば側枝となるべき側芽の伸長が抑制されたり、伸長しても途中で枯死する障害が多発した。その原因を究明するために、現地圃場の土壌調査と葉分析の結果から、亜鉛と銅の過剰障害による可能性が推定されたので、水耕法により検証した結果、亜鉛の過剰吸収が原因である可能性が強く示唆された。
著者
佐藤 孝 善本 さゆり 渡邉 俊一 金田 吉弘 佐藤 敦
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.53-60, 2007
参考文献数
24
被引用文献数
2

重粘土水田転換畑では,土壌の物理性(通気性,排水性)が悪いために,畑作物の生育が抑制され,生産性が著しく劣る場合が多い.本報では,マメ科カバークロップのヘアリーベッチによる重粘土の物理性改善効果と,ダイズの初期生育に及ぼす影響について検討した.秋田県八郎潟干拓地内の水田転換畑にヘアリーベッチを水稲立毛間に播種した.ヘアリーベッチは旺盛に生長し,根は深度約45cmまで達していた.HV区では土壌構造が発達し,特に亀裂構造が深度50cmまで形成されており,圃場の排水性は向上していた.また,HV区ではダイズの生育初期において根の吸収活性および根粒の窒素固定活性が高く維持され,生育も良くなっていた.以上の結果から,転換畑においてヘアリーベッチを前作に植栽することで,ヘアリーベッチの蒸散作用により土壌の乾燥化を促進させるとともに,根の伸長により土壌の亀裂構造(粗孔隙)および毛管孔隙が発達し,土壌の物理性が大きく改善されて,ダイズの初期生育が促進されることが明らかになった.
著者
森泉 美穂子 金田 吉弘 福島 裕助
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.372-377, 2010
参考文献数
10

熱分析(熱重量測定:TG、示差熱重量測定:DTA、示差走査熱量測定;DSC)は、有機物の熱分解特性から有機物の化学形態の特徴を知ることのできる簡便法の一つである。田畑輪換の繰り返しにより土壌有機物の化学形態がどのような影響を受けるかを熱分析(DSC分析)により解析した。日本各地の連年水田および田畑輪換田土壌を採集し、それらのDSC分析を行い、DSC曲線の形態から有機物の熱分解特性を検討した。また、田畑輪換が繰り返されている圃場土壌のDSC分析を行い、田畑輪換の繰り返しが土壌有機物の形態に与える影響を調査した。更に、土壌肥沃度の変化と土壌有機物の形態との関わりを調査するために、4種類の土壌型の水田および輪換田土壌を用いて大豆栽培のポット試験を行い、試験前後の土壌の培養窒素量の測定およびDSC分析を行った。
著者
稲原 誠
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.241-242, 2006
被引用文献数
1
著者
新良 力也 西田 瑞彦 森泉 美穂子 赤羽 幾子 棚橋 寿彦 佐藤 孝 鳥山 和伸 木村 武 矢内 純太
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.73-80, 2010
参考文献数
30
被引用文献数
1

我が国の水田ではコメの生産調整のために1969年から転作が開始され、1978年に水田利用再編対策が開始されてからは、連作の回避、地力回復、村落内の負担の公平性等の理由から田畑輪換が広く実施されている。1980年以降は水田面積約2,900,000haのうち調整面積は500,000haを超え、2009年度には作物の作付けされた水田面積2,330,000haの約3分の1(710,000ha)が畑地利用されているとみられる。このような状況の中でダイズ等の収量低下が顕在化し、土壌有機物含量等の肥沃度の低下が懸念されている。しかし、連作水田とは異なり、湛水・還元環境と落水・酸化環境の繰り返しが、有機物の蓄積や分解にどのような影響を及ぼし、土壌窒素給源等をどのように変化させているか、あるいは土壌リン酸の可給性が連作水田とどのように異なっているのか等についての知見は十分整理されていない。このため、田畑輪換条件での肥沃度変動の法則性やメカニズムの解明が必要である。一方、肥沃度維持対策では、家畜ふん堆肥や緑肥等の資材施用の有効性や適正施用量についての知見が必要であり、土壌からの養分供給や土壌への蓄積を踏まえた施用方法の確立が求められている。そこで、土壌肥沃度部門と肥料・資材部門が共同で、田畑輪換水田における肥沃度の現状と関連研究の到達点を共有し、今後の展望を明らかにするため、1.田畑輪換水田の現状と土壌管理についての問題提起、2.田畑輪換水田の土壌窒素と施用有機物の挙動、3.土壌有機態窒素の実体について、4.田畑輪換土壌におけるリン酸の挙動と各種資材による供給、5.家畜ふん堆肥を利用した肥培管理、6.緑肥を利用した肥培管理の6課題でシンポジウムを開催したので概要を報告する。
著者
川崎 晃 織田 久男 山田 宗孝
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.667-672, 2004
参考文献数
23
被引用文献数
5

カドミウム(Cd)の安定同位体(^<113>Cd濃縮金属,94.8%)をCdトレーサーとして利用する手法を確立するため,土耕ポット栽培のダイズ試験における最適トレーサー添加量を求めるとともに,Cdがダイズ子実へ移行しやすい生育時期について調べた.^<113>Cdの0.1M硝酸溶液(1,000mg Cd L^<-1>)を蒸留水で希釈し,ポット(1/5,000アール)あたりの^<113>Cdトレーサーの添加量が0.2mgもしくは1mgになるように注入した.収穫期のダイズ子実のトレーサー由来Cd濃度は,ポットあたり0.2mg添加時が0.01未満〜0.04mg kg^<-1>,ポットあたり1mg添加時が0.01〜0.10mg kg^<-1>となり,ほぼすべての処理区で^<113>Cdトレーサーが定量できた.また,トレーサー示加に伴う収量の低下や土壌pHの変化は認められなかった.すなわち,ポットあたり0.2mgの^<113>Cdトレーサーの添加により,ダイズの生育に影響を及ぼすことなく,Cdの吸収をトレースできることが明らかになった.ここで開発した^<113>Cd安定同位体を用いたトレーサー法は,従来のRIトレーサー法と異なり,RI管理及びRI半減期の制約を受けない利便性の高い試験法である.さらに,トレーサー出来のCdだけでなく,土壌、由来のCdも同時に定量できるという利点がある.この手法を用いて,生育時期の異なるクイズのポットに注入した^<113>Cdトレーサーの子実吸収量から,経根吸収されたCdがクイズの子実に移行しやすい時期は,粒肥大始め期より以前であることが示唆された.