著者
五十嵐 彰
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.185-196, 2018-10-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
41

配偶者とのみ性的関係をもつ,いわゆる「不倫」の禁止は現代の結婚制度の根幹を支える要素のひとつといえる.しかしながら,では誰が「不倫」をするのかを明らかにした日本の研究はほぼ見当たらない.本稿では日本における「不倫」行動の規定要因を機会および夫婦間関係のフレームワークを用いて検討した.分析結果から,労働時間や夫婦間関係の親密さ(会話頻度,セックスの頻度),子どもの数は「不倫」行動の発生に効果を与えないことが示された.男女ともに効果のある変数は学歴であり,高学歴になればより「不倫」しなくなるといえる.男性のみに効果のある変数は収入および妻との収入差であった.男性は収入が上がれば,また妻の方が収入が高ければ「不倫」するようになるといえる.
著者
藤田 結子 額賀 美紗子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.7-20, 2021-04-30 (Released:2021-05-26)
参考文献数
29

本研究は,女性活躍推進の流れの中,未就学児を育てる非大卒女性の稼ぎ手役割・職業役割に注目し,研究の問いとして「育児期の非大卒女性はどのような生計維持分担意識を抱いているのか」「ジョブ/キャリアの観点から,どのように自分の職業を捉えているのか」を考察することを目的とする.調査方法にはインタビュー調査と参与観察を用いる.調査の結果,高卒女性には母親役割の延長として家計補助をする傾向がみられたが,専門学校卒女性の事例には同等の稼ぎ手であろうとする意識,またキャリアとして職業を捉える傾向が明らかになった.しかし先行研究の大卒女性と異なり,本研究の非大卒女性の場合,生計維持分担意識が高くキャリア志向でも,妻のキャリアや家事育児に対する夫のサポートが少ないことがわかった.階層とジェンダーの観点からは,育児期の男性・大卒女性と比べて,育児期の非大卒女性はキャリアへの従事,家庭責任の軽減が難しかった.
著者
大沢 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.24-35, 2015-04-30 (Released:2017-02-04)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

働いて稼ぐこと,子どもを生み育てることにかかわる社会政策の影響を,比較ジェンダー分析する.1985年以来の相対的貧困率や非正規労働者比率の推移,近年の賃金動向を手がかりとして,日本において就業条件が劣化してきたことを概観する(Ⅲ).また,2000年代末のOECD諸国の貧困率および貧困削減率を検討する.日本では,税・社会保障制度による貧困削減率が,成人が全員就業する世帯や子ども(がいる世帯)にとって,マイナスである(Ⅳ–1).所得再分配がかえって貧困を深めるという事態はOECD諸国で異例であり,労働力人口の急減が憂慮される社会として,極めて不合理である.税・社会保障の負担面を見ると,日本の制度は累進度が最も低い部類であり,ひとり親世帯の負担が不釣り合いに重い.ただし民主党政権下の子ども手当は,所得が低い層ほど負担を大きく軽減していた(Ⅳ–2).Ⅴではアベノミクスの「成果」を検証したうえで,若干の展望を述べる.
著者
大沢 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.24-35, 2015
被引用文献数
1

働いて稼ぐこと,子どもを生み育てることにかかわる社会政策の影響を,比較ジェンダー分析する.1985年以来の相対的貧困率や非正規労働者比率の推移,近年の賃金動向を手がかりとして,日本において就業条件が劣化してきたことを概観する(Ⅲ).また,2000年代末のOECD諸国の貧困率および貧困削減率を検討する.日本では,税・社会保障制度による貧困削減率が,成人が全員就業する世帯や子ども(がいる世帯)にとって,マイナスである(Ⅳ–1).所得再分配がかえって貧困を深めるという事態はOECD諸国で異例であり,労働力人口の急減が憂慮される社会として,極めて不合理である.税・社会保障の負担面を見ると,日本の制度は累進度が最も低い部類であり,ひとり親世帯の負担が不釣り合いに重い.ただし民主党政権下の子ども手当は,所得が低い層ほど負担を大きく軽減していた(Ⅳ–2).Ⅴではアベノミクスの「成果」を検証したうえで,若干の展望を述べる.
著者
柳原 良江
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.41-54, 2021-04-30 (Released:2021-05-26)
参考文献数
23

代理出産とは,他者に妊娠・出産を依頼し,産まれた子を引き渡す契約を結び子を得る方法を指す.この方法はしばしば「新しい問題」とされるが,歴史的に見れば,東アジアで20世紀前半まで長らく行われた「契約出産」の一形態である.近年,グローバルな市場を構築する代理出産は,1976年に米国人弁護士が発明した商品に端を発する.90年代に体外受精を用いた代理出産が用いられ始めると,親権裁判では,子との遺伝的・身体的な繋がりではなく「子を持つ意志」が優先され,子を持つ意志と経済力さえあれば誰でも子を持てるようになった.代理出産で依頼者が求めるのは「近代家族」の形成である.代理出産は家族の多様化ではなく,近代家族を形成できる人々の多様化を引き起こした.したがって,代理出産で作られる家族は,均質な近代家族へと収束する.代理出産は,女性と子を危険に晒しながら,人々をより窮屈な家族観に閉じ込める装置となっている.
著者
原田 泰
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.13-17, 2000-07-31 (Released:2009-09-03)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

夫が外で働き、妻は家を守るのが日本の典型的な家族であるというイメージがあるが、専業主婦の誕生は新しい。伝統的な農家の嫁は働き手であって、専業主婦ではないからだ。専業主婦が誕生するためには、その夫がまず誕生しなければならない。そのような夫は、1920年代に生まれた。1920年代の経済発展が、多数の高賃金のホワイトカラー、男性熟練労働者を生み出した。戦後の高度成長のなかで、この専業主婦の夫はさらに一般化した。ところが今日、日本の高度成長は終わり、賃金は停滞している。男性だけの稼ぎで生活水準の向上を期待できなくなった。女性が働くことが当然に求められるようになっていく。男たちは専業主婦の夫から働く妻の夫に変わり、専業主婦を前提とした社会のあり方も変わっていくしかない。日本の「伝統的」家族も、その淵源は新しい。家族は社会の変化に応じて生まれたものである。それが生まれる過程で、過去の伝統や文化がさまざまな影響を与えたことは事実だろうが、決定的な力は経済環境にある。
著者
知念 渉
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.102-113, 2014

2000年代以降,「子ども・若者の貧困」に関する研究が数多く蓄積され,貧困家族を生きる子ども・若者たちの生活上の困難を明らかにしてきた.しかし,山田 (2005)が指摘するように,現代社会を生きる人々にとって,家族とは,生活に役に立つ/立たないという観点から理解できる「機能的欲求」には還元できない,自分の存在意義を確認する「アイデンティティ欲求」を満たす関係にもなっている.このような観点に立てば,従来の「子ども・若者の貧困」研究は,アイデンティティ欲求の次元における「家族であること」のリアリティを相対的に看過してきたと言えよう.そこで本稿では,「記述の実践としての家族」という視点から,文脈や状況に応じて流動する若者と筆者の間に交わされた会話を分析し,アイデンティティ欲求の次元における「貧困家族であること」のリアリティを明らかにした.そして,そのリアリティが,流動的で,相対的で,多元的であることを指摘し,その知見がもつ政策的示唆について考察した.
著者
片岡 栄美
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.30-44, 2009-04-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
20
被引用文献数
12 7

小・中学受験をめぐる親の教育戦略について,社会階層,社会的閉鎖性,リスク,異質な他者への寛容性,文化資本,社会関係資本の概念を用いて,社会学的に検討した。子をもつ親を母集団とする質問紙調査を,関東圏で層化2段確率比例抽出法により実施し,以下の知見を得た。第1に,受験家庭と非受験家庭の階層差は大きく,受験は階層現象であるが,受験の規定要因は高学歴の母親の影響が最も大きい。第2に,受験を希望する親たちは受験先の学校に文化的同質性を求め,異質なハビトゥスの親とは交流しないという意識と態度を示した。つまり受験は,社会的閉鎖性や異質な他者への非寛容につながる現代の階層閉鎖戦略である。第3に,受験は,親たちが教育リスクを回避するための主体的な学校選択である。第4に,受験を選ぶ親ほど自らの競争的な価値観を再生産し,一方で子どもへの価値期待では寛容性を強調する。第5に,受験組の親は地域ネットワークから切り離され,生活圏が分断化する傾向にある。
著者
松田 茂樹 鈴木 征男
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.73-84, 2002-03-31 (Released:2010-11-18)
参考文献数
20
被引用文献数
3 3

本稿では, 平成8年社会生活基本調査の個票データを用いて, 夫婦の家事時問の規定要因を探った。分析に使用したのは, 同調査のうち, 夫が60歳未満で就労している夫婦約1,200組の平日の個票データである。分析は, 夫と妻の家事時間が, 本人の労働時間と配偶者の労働時間, 家事時間にどのように規定されるかという点を中心に行った。多変量解析の結果, 次のことが明らかになった。 (1) 夫, 妻とも本人の労働時間が長くなるほど, 家事時間は短くなる。ただしその傾向は妻で顕著である。 (2) 配偶者の労働時間が長くなると, 本人の家事時間は増加する。ただし夫の家事時間は, 妻の労働時間が自分以上に長いときに増加する。 (3) 夫と妻の家事時間の間には, 一方が増加すれば他方が減少するというようなトレードオフ関係はない。これらの結果から, 妻が中心となって家事を行い, 妻がすべてできない場合に夫が支援するという現代夫婦の家事分担像が示唆された。
著者
知念 渉
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.102-113, 2014

2000年代以降,「子ども・若者の貧困」に関する研究が数多く蓄積され,貧困家族を生きる子ども・若者たちの生活上の困難を明らかにしてきた.しかし,山田 (2005)が指摘するように,現代社会を生きる人々にとって,家族とは,生活に役に立つ/立たないという観点から理解できる「機能的欲求」には還元できない,自分の存在意義を確認する「アイデンティティ欲求」を満たす関係にもなっている.このような観点に立てば,従来の「子ども・若者の貧困」研究は,アイデンティティ欲求の次元における「家族であること」のリアリティを相対的に看過してきたと言えよう.そこで本稿では,「記述の実践としての家族」という視点から,文脈や状況に応じて流動する若者と筆者の間に交わされた会話を分析し,アイデンティティ欲求の次元における「貧困家族であること」のリアリティを明らかにした.そして,そのリアリティが,流動的で,相対的で,多元的であることを指摘し,その知見がもつ政策的示唆について考察した.
著者
木村 裕貴
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.93-106, 2022-10-31 (Released:2022-11-15)
参考文献数
21

本稿では,1990年代以降に結婚に関する意思決定を行った1960年代から1980年代出生コーホートの女性を対象に,稼得力が結婚形成および配偶者選択に及ぼす影響の変化を検証する.これを通じて,男性の経済的地位低下と女性の両立見込み増大のいずれが女性の稼得力と結婚行動の関連を変化させる主要因なのかを明らかにすることが本稿の目的である.稼得力として複数の指標を用いた分析の結果,1960年代から1970年代コーホートにかけて,女性の稼得力が結婚形成に及ぼす影響が負から正へと転じた一方,1970年代から1980年代コーホートではほとんど変化がなかった.配偶者選択に対する影響はいずれのコーホートでもおおむね正であるが,1960年代から1970年代コーホートにかけて効果が増大した.以上の結果は,男性の経済的地位の低下が女性の稼得力と結婚の関連を転換させる主要因であることを示している.
著者
麦山 亮太
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.129-141, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
34
被引用文献数
3 1

雇用の流動化と未婚化・晩婚化が相伴って進むなかで,社会経済的地位およびその変化は結婚への移行にいかに影響しているのか.本稿は,社会経済的地位として従来着目されてきた雇用形態だけでなく職種と企業規模を取り上げ,さらにそれらの変化の経歴が結婚への移行に与える効果を明らかにする.1966–80年出生コーホートの経歴データを用いた分析により,以下の結果を得た.男女とも,一貫して非正規雇用で就業することではじめて結婚に対する負の効果が顕在化する.女性は雇用形態のほか専門職であることが結婚を促す.男性は雇用形態のほか大企業での勤務が結婚を促す.以上の結果は,職業経歴によって測られる安定性が将来の不確実性を軽減する役割を果たしていることを示唆する.雇用の流動化をはじめとする不確実性の増大のなかにあって,職業経歴を利用した時間的視座の導入は,人びとが結婚へと至る過程をより精緻に捉えることを可能とする.
著者
落合 恵美子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.39-51, 2004-02-29 (Released:2009-08-04)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

本論文の目的は, 徳川日本社会において結婚とは何であったかを明かにし, その基本的な特徴を示すことである。徳川時代の宗門人別改帳のデータベースを用いた歴史人口学的分析をその主たる方法とする。本論文は, 日本の結婚の三つの目立った特徴を描き出した。さまざまな側面における地域的多様性, 頻繁な離婚と再婚による流動性, そして一連のイベントからなる過程としての結婚という性格である。離婚はほとんど例外なく移行期に起きるので, 第2番目と第3番目の特徴は互いに関係している。移行期には嫁あるいは若夫婦は潜在的な両属性を保持していると考えられる。
著者
岩間 暁子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.177-189, 2010-10-30 (Released:2011-10-30)
参考文献数
47
被引用文献数
2

本稿の課題は(1)この20余年の階層研究における家族をめぐる研究の整理,(2)家族社会学で階級や階層に払われてきた関心のありようの検討,(3)両分野における1980年代半ば以降の研究動向のまとめと今後の課題の提示,という三つである。(1)に関しては,階層研究では家族は所有する社会経済的資源をもとに再生産機能を遂行する単位であるとみなされてきたこと,女性や家族も研究対象となったが家族内部の関係性への関心は低かったことが明らかになった。(2)に関しては,階級・階層論的アプローチの必要性は90年代後半まで指摘されてきたものの,実証研究は少なかった。また,90年代には家族の「個人化」「多様化」を「個人の選択」ととらえた研究への関心が高まったが,階層論的観点からの検討はおこなわれなかった。(3)については家族の社会階層や女性自身の階層が家族に及ぼす影響の実証的検討,階級や階層を考慮した個人化の再検討の必要性を指摘した。
著者
西村 幸浩
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.72-84, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
19

本稿では,いじめ裁判で家族に対して課されている帰責の変容と,司法において受容されている家族観を明らかにする.具体的には,1979年から2016年までのいじめ裁判の判決文94件を対象として,内容分析を行った.その結果,(1)1990年以降,被害者家族への帰責の度合いは加害者家族よりも強まっている,(2)家庭環境の細部にまで踏み込んで過失が追及されるようになった,(3)子どもの教育に対して,親は第一義的な責任を持つように求められる傾向が強くなっている,(4)「親は子の最良の教師」といった,ある種の理想化された家族像が求められるようになっている,という知見が得られた.これらの変化の背景として,「家庭の教育力」言説が司法に浸透している可能性が示唆された.本稿は,司法の中の家族言説を研究する意義と,その家族言説が被害者家族と加害者家族のいずれに向けられているかに着目した分析の必要性を示した.
著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.20-32, 2020-04-30 (Released:2021-05-11)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本稿の目的は,「就業構造基本調査」匿名データ(2007年)を用いて,シングルマザーの正規雇用就労と世帯の経済水準の関連について検討することである.傾向スコア・マッチング法を用いた統計分析より,得られた主要な知見は次の3点である.第1に,正規雇用への就労はシングルマザーの時間あたり賃金を32.0%上昇させ,相対的貧困率と就労貧困率をそれぞれ36.5%, 39.5%低減させる効果を持つ.第2に,正規雇用就労の効果には階層差が存在し,賃金と就労貧困率については低学歴層ほどその就労効果が小さい.第3に,正規雇用就労を達成したとしても,非大卒のシングルマザーはその半数以上が自身の就労所得のみでは貧困状態を脱していない.以上の結果は,シングルマザーを対象とした就労支援施策に加えて,女性が結婚や出産を通じて直面する労働市場上の不利を解消することが母子世帯の経済的地位を高めるうえで重要であることを示唆する.
著者
打越 文弥
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.136-147, 2016-10-31 (Released:2018-04-11)
参考文献数
20

本研究では,日本における学歴同類婚の世代間連鎖とその趨勢を検討する.類似した社会的特徴を持つカップルが結婚する同類婚という傾向の中でも,学歴同類婚は開放性指標に加え,不平等拡大に寄与する要因としても注目されている.既存の研究は一世代に限定したときの同類婚に注目していたが,結婚パターンにも世代間の同質性の効果があるという指摘を踏まえ,本研究は世代間関係に着目した上でも,学歴同類婚の傾向が見られるかを時系列的に検討する.複数の社会調査データを統合した計量分析から以下が明らかとなった.第一に,親世代の学歴結合の同質性は子ども世代の同質性と関連を持つ.第二に,学歴同類婚の連鎖はいったん減少し,近年のコーホートで再び増加している.第三に,ログリニアモデルの分析から,周辺度数を考慮したうえでも,同類婚の連鎖は近年強化されている傾向が示され,その要因は中・高学歴の同類婚連鎖の連関が強まったことに求められる.
著者
栗村 亜寿香
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.143-155, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
52

戦後民主化の時代,戦前の家族制度が廃止され,個人の自律と家族成員の平等や愛情を提唱する家族の民主化論が興隆した.彼らは戦前の家族制度復活論や個人主義化による家族解体のリスクもふまえ,自律した家族成員がいかに関係を形成しうるかという問いに取り組んでいた.戦前の家族の情緒的関係に対して民主化論者が批判的だったことはすでに明らかにされたが,それに代わる新たな家族関係がいかに構想されたかは十分検討されていない.なお自律・対話と親密性の両立という問題は当時固有のものではなく,「家族の個人化」や女性の社会進出が進んだ80年代以降にも家族の対話の必要性とその困難さが議論されてきた.自律や平等といった価値を手放さずに他者と親しい関係を形成するには,自律や対話と両立する親密性について検討する必要がある.本稿は当時の議論の検討を通じ,民主的家族における親密性に関して「多面的な自己開示」という見方を提起する.