著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.16-27, 2008
被引用文献数
3

本稿では,男女一対一の性関係を基盤にした関係と血縁に絶対的な価値をおき,ジェンダーに基づく役割分担の再生産が行われる「従来の家族」に対し,レズビアン家族・ゲイ家族の実践から何を問いかけることができるかを,先行研究などから実例を挙げて検討した。(1) レズビアンやゲイにとって友人やコミュニティが家族になっていること,(2) 血縁家族は精神的な支えになるとの前提が疑問視され,誰を「家族」と見なすのかの再考がなされること,(3) レズビアンやゲイが親になることで,「親=父親+母親」との前提が崩され,親子関係が「無の状態から交渉できるもの」となりうること,(4)ジェンダー役割を問い,日常の家事や育児に柔軟に対応するパートナー関係の実践があることを挙げ,これらが「従来の家族」に問いかける可能性があると論じた。最後に,レズビゲイ家族の実践が主流への同化か挑戦かの判断の難しさを述べた。
著者
荒牧 草平
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.85-97, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
25

子どもに対する親の教育期待は,親の社会経済的地位と子どもの学歴を媒介する,重要な要因とみなされてきた.一方,近年の研究は,子どもの学歴に対し,親だけでなく,祖父母やオジオバといった拡大家族の学歴も関連することを報告している.こうした分析結果は,回答者にとっての重要な他者である親キョウダイの学歴や態度が,回答者の教育態度の形成に関与していることを反映していると考えられる.また,これと同様の影響は,家族以外の重要な他者である,友人・知人からも受けていると予想できる.したがって,本稿では,拡大家族や友人・知人を含めた家族内外のパーソナルネットワークが,回答者の高学歴志向の形成に与える影響を明らかにすることを目的とした.小中学生の母親を対象とした質問紙調査データの分析から,1)キョウダイ,夫の親,友人・知人の学歴が本人の高学歴志向に独自の正の効果を持つこと,2)ネットワークメンバーの持つ高学歴志向が本人の高学歴志向に独自の正の効果を持つこと,3)本人や夫の階層要因は直接的な効果を持たないことなどが明らかとなった.最後に分析結果の意味について階層論とネットワーク論の観点から考察を行った.
著者
打越 文弥
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.18-30, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
27

本稿は,先進国に共通した世帯収入の不平等化の要因として指摘される,女性の労働市場への進出が世帯間格差を拡大させるという仮説を検証する.先行研究が前提としてきた仮定が日本には当てはまらない点を指摘した上で,本分析は「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を使用し,マクロレベルの不平等生成プロセスの一端を,女性の就業と収入の変化という個人のミクロレベルの分析から明らかにする.分析結果の知見は以下の3点に要約される.第一に,女性の就労は世帯間の不平等を緩和するという平等化仮説が支持された.第二に,既存研究が指摘してきた女性の高学歴化と労働市場への進出の「緩い」関係が示された.第三に,高学歴・正規継続カップルでは夫婦共に収入が伸び,不平等化に寄与することが示唆されたが,このグループが全体に占める割合はわずかであり,全体としてみれば妻の就労は世帯間の収入格差を減少させる方向に働く.
著者
千田 有紀
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.94-94, 2000-07-31 (Released:2010-05-07)

ジェンダーの意味にまつわる現代のフェミニズムの議論は、たいていの場合、何らかのトラブルの感覚に行きついてしまうと、著者はいう。しかしジェンダーの意味をひとつに決定できないことは、フェミニズムの失敗ではない。トラブルは、「女」という謎めいた事柄に関連させられたことであり、大切なのはトラブルを避けることではなく、トラブルに隠された秘密を暴き、うまくトラブルを起こすことである。このような意味が、本の題名には込められている。副題は、「フェミニズムとアイデンティティの撹乱」。セックス、ジェンダー、性的欲望と実践からなる一貫したアイデンティティや「女」という主体の存在に疑問を投げかけ、これらがいかに権力の法システムによって生産されるかを解き明かした、フーコー流社会構成主義の本である。構成は、第一章が「〈セックス/ジェンダー/欲望〉の主体」である。この章は『思想』にかつて翻訳された章で、本書の章のなかでもっとも有名な部分であり、基本的な分析の枠組みが述べられている。ここでは、生物学的なセックス、文化的に構築されるジェンダー、セックスとジェンダーとの双方の「表出」、つまり「結果」として表出される性的欲望のあいだに、因果関係を打ちたてようとする法システムに疑問が投げかけられる。その結果、法システムこそが、ジェンダー、そしてセクシュアリティ、さらにはセックスを生みだすのであって、セックスが、ジェンダーやセクシュアリティを生みだすのではないことがあきらかにされる。本書の主張は、この章に還元されるものではないが、やはりこの本の白眉であることは間違いない。第二章は、「禁止、精神分析、異性愛のマトリクスの生産」である。レヴィ=ストロースの構造主義にはじまって、フロイト、ラカンの主張が分析の俎上にのせられる。近親姦のタブーは、禁止することによって欲望を生み出す装置である。精神分析に関する分析がなされているぶん、家族社会学者には興味深い章だろう。最後に第三章、「攪乱的な身体行為」では、クリステヴァ、フーコー、ウィティッグまでもが、批判的に検討される。とくに男と女の対立を止揚するものとして「レズビアン」というカテゴリーをもちだすウィティッグに対する批判は、システムのなかで解放を語る難しさについて考えさせられる。
著者
井口 高志
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.165-176, 2010-10-30 (Released:2011-10-30)
参考文献数
72
被引用文献数
3 1

本稿は,家族介護研究を中心に,支援・ケアに関する研究の潮流を整理し,家族社会学としてのこれからの課題を明らかにする。介護保険制度などの,ケアの「社会化」を目指した制度の展開とともに,ケアや支援に関する社会学研究が盛んになってきている。本稿では,まず高齢者と障害児・者の家族介護を対象とした研究の中に,この分野の源流とその後の流れを探る。次に,1990年代以降のケアの「社会化」を契機に生まれてきた研究について概観する。それらの作業から見えてくるこの分野の研究の焦点の一つは,ケア提供者,受け手,家族外のケア提供者などの個人に注目して,ケアへの意識やケアをめぐるやりとりを明らかにしていく探索的研究の展開である。もう一つの焦点は,人間の親密性や市民としての権利のあり方を問う問題視角の展開である。
著者
額賀 美紗子 藤田 結子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.130-143, 2021-10-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
30

本研究は,ぺアレントクラシー下での母親の教育責任の増大に注目し,働く母親の家庭教育をめぐる葛藤と家庭教育を通じた格差形成を明らかにする.この目的のため,就学前の子どもをもつ働く母親に半構造化インタビューを行い,彼女たちが家庭教育をどのように捉え,父親とどのように分担しているのかを階層視点から検討した.42名を対象とした分析から,「教育する家族」の子育てが,①父母協働志向の〈親が導く子育て〉,②母親に偏った〈親が導く子育て〉,③父母協働志向の〈子どもに任せる子育て〉,④母親に偏った〈子どもに任せる子育て〉に分化していることを示した.このモデルからは,子育て理念と父母のかかわりの違いが組み合わさることで,家庭教育を通じた大きな格差が就学前から生じている可能性が示唆された.また,働く母親の葛藤が,「親が導く」子育ての圧力と家庭教育への父親の関与の少なさによって生じていることも明らかになった.
著者
山田 昌弘
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.150-159, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
40
被引用文献数
1

戦後日本社会では,近代家族が普及し皆婚社会になると共に,独身者は,制度的にも慣習的にも例外と見なされ,社会的に処遇する仕組みを作らなかった.しかし,1980年頃から未婚化が進み,離婚が増大し,中年独身者が増大し,近年,問題化されるようになった.中年独身者の生活実態は多様である.居住形態は,過半が親と同居している.経済状況も多様であるが,特に親同居未婚者の収入は低く,多くは親と同居することによって生活を維持している.次に,感情生活では,パートナーシップが欠如している独身者は,その親密欲求を様々な対象に分散し,外部から調達して充足する傾向がみられる.今後,大量の親同居独身者が高齢化していく.親が亡くなった後,中高年になった独身者の経済生活,親密生活がどうなるか懸念される.
著者
石井 クンツ昌子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.83-93, 2004-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
31
被引用文献数
4

不登校, ひきこもり, 青少年犯罪など子どもに関する様々な問題はあとを絶たない。これらの要因のひとつとして子どもの社会性の欠如があげられると同時に親子関係の問題も指摘されてきた。日本の親子関係に関する研究は主に乳幼児の発達と母親を対象にしたものが多く, 父親が子どもの社会性にどのように影響しているかについての研究は少ない。さらに就学児の社会性と父親の子育て参加の関連についての研究はほとんどなされていない。米国の研究についても同様なことが指摘される。本稿では父親の子育て参加が就学児の社会性に及ぼす影響に焦点をおき, 母親の子育て参加, 父母の年齢と教育程度, きょうだいの数, 子どもの年齢と性別, そして家族構造などの影響を解明する。日米のデータを重回帰分析した結果, 父親の子育て参加が活発であるほど就学児の社会性が高いことが明らかになった。さらに子どもの社会性に関しては子どもから見た父親の子育て参加が父親自身から見た子育て参加よりもより強い影響を示していることも解明された。
著者
釜野 さおり
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.188-194, 2009-10-30 (Released:2010-10-30)
参考文献数
30
被引用文献数
3 2
著者
金 鉉哲 裵 智恵
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.173-186, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
36

現在,韓国の出生率は,世界で最も低い数値を記録している.韓国政府はさまざまな出産奨励政策を進めてきたが,韓国政府の努力が必ずしも有効であるとは言い難く,今後の展望も明るくはない.韓国における人口政策がその有効性を失ったのは,IMF経済危機の以後からである.韓国社会において少子化をもたらす最も大きな要因は経済的な問題である.特に過度な私教育費の問題は,夫婦の出産意欲を低下させ,出産忌避をもたらしていると指摘されている.過度な私教育費支出の背景には,加熱し続ける教育熱,高校の序列化など学歴競争を深化させる教育政策,そして労働市場における著しい賃金の格差など,複数の要因が関連している.現実を打開できる改善策を考えるのは容易ではないが,教育の側面から言うならば,とりあえず,学校の序列化に歯止めをかけることによって私教育費支出への負担を軽減する政策が必要であるだろう.
著者
松木 洋人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.18-29, 2007-04-30 (Released:2009-08-04)
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

本稿では, 子育て支援の提供者の語りを分析することによって, 彼らが自らの経験をどのように理解しているのかを考察する。子育て支援の理念は, 従来の公的領域と私的領域の区分の再編成を含意しているが, その一方では, 家族に育児責任を帰属する規範はなお根強く存在している。このような状況において, 外部の人間が子育てに対して支援を行うことは, 家族責任についての規範的理解との間でのジレンマを提供者にもたらす可能性がある。提供者がそのようなジレンマに直面することを回避するには, 提供者が自らの活動を家族関係への支援として定義することが有効であるが, 提供者が子どもの親との関係を十分に形成できない状況では, 職務の限定性が生じることは避けられない。支援の受け手の限定化を前提としつつ, 提供者がその限定対象を創出するような働きかけを子どもの親に対して行うことが, 子育て支援を家族支援として行うための一つの実践的な解決となる。

9 0 0 0 OA 家族の臨界

著者
上野 千鶴子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.28-37, 2008-04-30 (Released:2009-08-07)
参考文献数
26
被引用文献数
3 2 13

「家族」の通文化的な定義がすべて解体したあとに,「家族とは何か?」という問いを問うことにどんな意味があるだろうか? 家族はどこまでいけば家族でなくなるのか,あるいは家族の個人化と言われる趨勢のもとで,家族は個人に還元されてしまうのだろうか? 近代家族は「依存の私事化」を必然的に伴った。「女性問題」と呼ばれるもののほとんどは,子どもや高齢者などの「一次的依存」から派生する「二次的依存」によって生じたものである。再生産の制度としての「家族」の意義は,今日に至るまで減じていない。「家族」を「個人」に還元することができないのは,この「依存的な他者」を家族が抱えこむからである。本稿は,「家族の臨界」をめぐる問いを,「依存的な他者との関係」,すなわちケアの分配問題として解くことで,「ケアの絆」としての「家族」を法的制度的に守ることは必要であると主張する。そしてその根拠としてケアの人権という概念を提示する。
著者
不破 麻紀子 筒井 淳也
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.52-63, 2010-04-30 (Released:2011-05-10)
参考文献数
21
被引用文献数
8 10 5

夫婦間の家事分担は,収入や時間的制約の差を考慮に入れても,実際の家事の多くを妻が担っているという不公平な状態になっている。それにもかかわらず妻側の不公平感は高くなく,こういった状態は経済的・時間的要因では説明ができない。これに対してジェンダー理論では妻の伝統的性別役割分業意識が強い場合は不公平感が弱いという説明を行ってきた。本論文ではこれに加え,特定の家事分担状態が不公平であるかどうかの判断基準には,社会的環境の影響も強く働いていると予測する。つまり自分が属している社会の分担水準が公平の判断基準となり,それが自分の家事分担の不公平感に影響していることが考えられる。家事分担と不公平感に関する国際比較データから,妻の家事分担比率が高い国,性別役割分業意識が強い国では,実際に妻の家事負担が大きく,また,妻が長時間働いていたり,高学歴であっても,不公平感をもちにくいということが明らかになった。
著者
大貫 挙学 藤田 智子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.72-83, 2012-04-30 (Released:2013-07-09)
参考文献数
27

1970年代以降,フェミニズムは,ドメスティック・バイオレンス(DV)の背景に,近代家族における男性支配の権力構造があることを指摘してきた.これまで,多くの女性がDV被害に遭ってきたが,「被害」女性が「加害」者となってしまうケースもある.本稿では,DV被害女性が夫を殺害したとされる事件を取り上げ,動機の構成という点から,刑事司法における家族規範について考察する.裁判で弁護人は,被告人の行為を, DVから身を守るためのものだったと主張した.しかし裁判所は,弁護人の主張を退けている.検察官は,被告人の「不倫」を強調していたが,判決においては,「不倫」に対する非難ゆえに,弁護人の動機理解が否定されたのだ.本件裁判は,「不倫」を「逸脱」とみなす規範によって,弁護人のストーリーが排除される過程であった.近代家族モデルの犠牲者たる被告人が,家族規範からの「逸脱」ゆえに処罰されたといえよう.
著者
羽根 文
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.27-39, 2006-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2

急速な少子高齢化に伴い, 高齢者の介護問題がさまざまな角度から取り上げられているが, 介護殺人・心中事件は最も悲劇性の高い問題のうちのひとつであるとされている。この事件の大きな特徴として, 加害者である介護者の圧倒的多数が男性であることが挙げられる。そこで本稿では, 介護者が夫と息子の事件について事例分析し, 事件からみえてくる家族介護の困難と, そこに作用するジェンダー要因をもとに, なぜ男性が事件へ追い込まれやすいのか考察した。夫・息子の介護者とも互酬性の規範やジェンダー規範などにより, 強く介護を動機づけると同時に周りに相談できない状況に陥っており, また, 男性介護者というだけで周囲から高評価されることも, 彼らをより介護に打ち込ませる要因となっている。このような状況で介護を継続困難にする要因が発生すると, 介護意欲をそがれることで目的を失い, 殺人・心中に至るリスクが高まってしまうのである。
著者
佐々木 尚之
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.152-164, 2012-10-31 (Released:2013-10-31)
参考文献数
29
被引用文献数
6 3

近年の社会経済環境のなか,少子高齢化の主な要因として晩婚化や未婚化の進行が指摘されている.しかしながら,これまでの初婚に関する研究では,一貫した結果が得られていない.その原因の一つとして,初婚の要因となる変数の時間的変化をとらえることができないという,データ上の制約があった.そこで本稿では,「日本版General Social Surveyライフコース調査(JGSS-2009LCS)」の詳細なライフヒストリー・データを用いて,学歴,就業状態,居住形態の結婚に対する影響力が時間とともに変化するのかどうかに焦点をあてたイベントヒストリー分析を行った.その結果,それぞれの要因の結婚に対する効果が加齢とともに増減することが明らかになった.雇用環境の急速な悪化にもかかわらず,結婚における男性の稼得力が重視され続けている一方で,女性の稼得役割も期待され始めている可能性がある.将来の経済的展望が不確実な現状では,家族形成は大きなリスクとみなされている.
著者
湯澤 直美
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.45-56, 2009-04-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
2 1

子育て家族の経済基盤の二極化の進行のなかで,子育ての実態はいかなる現況にあるのか。本稿では,より困難が集約されている家族の現実を考察するため, 貧困の世代的再生産が把握される母と子のライフヒストリーをもとに,いかなる政策対応が求められるのかを検討した。分析からは,子ども期の貧困が若者期の貧困化に直結し,母子家族の貧困—女性の貧困へと分かち難く連なる慢性的貧困が確認された。子ども期の貧困の持続的な影響力は,貧困化と孤立化の連鎖により,生活基盤に加えて家族の形態も流動化させ,解体された家族は社会的排除のなかに置かれていた。子どもの貧困克服には,親世代における富の不平等に積極的に介入し,教育・福祉・医療・住宅・労働など包括的な支援システムが必要である。加えて,貧困リスクのなかで生きる子どもへのソーシャルワークによる子どもの孤立化の防止と,社会的包摂に向けたエンパワーメントの視点が必要であることを提言した。
著者
余田 翔平
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.139-150, 2014

本稿では,再婚率の(1)趨勢,(2)階層差,(3)趨勢変化の階層差に着目して記述的分析を行った.『日本版総合的社会調査(JGSS)』にイベントヒストリーモデルを適用した結果,以下の知見が得られた.第1に,近年の離死別コーホートほど,再婚ハザードは低下している.第2に,男性よりも女性のほうが,低学歴層よりも高学歴層のほうがそれぞれ再婚経験率が高い.第3に,学歴と再婚経験との正の関連は近年の離死別コーホートほど明確に現れており,一方で再婚経験率の性差は縮小傾向にある.<br>以上を踏まえると,日本社会では「離死別者の非再婚化」が進展しており,未婚化・晩婚化のトレンドとあわせて考えれば,無配偶の状態に滞留するリスクがライフコースを通じて高まっていると推測される.さらに,こうしたライフコースの変化は社会全体で一様に広がっているわけではなく,階層差を伴っている.