著者
椎名 英貴
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.203-208, 2019 (Released:2020-04-28)
参考文献数
13

重症脳性麻痺児の多くは摂食嚥下に何らかの困難さを有している。摂食嚥下機能の到達レベルは児の重症度により規定され,経口摂取が困難な児の割合も多い。また,発達期の障害であることから援助は長期にわたり,年代により焦点となる問題は変化する。摂食嚥下リハビリテーションの基盤は適切な予後予測と医学的管理にある。リハビリテーションの実際では食事姿勢の設定,食物形態の調整,口腔運動機能へのアプローチが柱となる。異常緊張の低減と食事のための姿勢設定は食事援助の中でも大きな領域を占める。口腔運動機能の過敏性,緊張性咬反射,舌突出,などの神経学的な異常性に対しては症状に合わせた対応を行う。療法士が行う姿勢のコントロール,口腔器官への対応方法を家庭の中で実現するための指導が必要である。実現のためには言語聴覚士のみならず理学・作業療法士との協働,さらには座位保持装置など環境整備の必要性も高い。
著者
森内 浩幸
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-7, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
12

新型コロナウイルスは罹れば誰もが重症化するウイルスではなく,健康な子どもにとっては基本的に風邪のウイルスである。逆に,感冒コロナウイルスも,高齢者や基礎疾患のある人が罹ると重症化することがあり,重症化はウイルスそのものの性質というよりは宿主側の免疫応答の違いがもたらすものと言える。子どもにとっては,RSウイルスやインフルエンザウイルスの方が遥かに危険なウイルスである。また子どもの新型コロナウイルス感染の多くは大人からもたらされているものであり,子どもの感染は社会における流行の最終ステージと言える。子どもでも重症化のリスクとなる基礎疾患を持っている場合は注意が必要であり,周囲の大人と本人へのワクチン接種が望まれるが,健康な子どもへのワクチン接種はベネフィットとリスクのバランスを十分に検討すべきだ。
著者
高木 明
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.18-23, 2022 (Released:2022-07-31)
参考文献数
6

我が国の新生児聴覚スクリーニング,精密聴力検査機関,療育・介入の現状,課題について延べ,今後の方策に言及した。新スクに関しては結果の全数の可及的即時把握が肝要となるのでそれらを集約,coordinateするセンターが必要であり,今後は新スクの受検率,精度向上のためには産科との協働は欠かせない。里帰り出産などの結果把握のためには新スクは国による義務化が望ましく,また,産科,精密聴力検査機関からデータはon line入力(電子化)されるべきである。精密聴力検査機関の質の均てん化を図り,3ヶ月以内の診断ができるような体制を整える必要がある。人工内耳術後の療育・介入については現状では特別聴覚支援学校が担うことが多いが,音声言語獲得をめざす療育として十分とは言えず,専門家の養成が待たれる。
著者
杉本 寿史 永井 理紗 波多野 都 吉崎 智一 武居 渡
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.320-325, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
10

石川県では平成22年に「いしかわ赤ちゃんきこえの相談支援センター(みみずくクラブ)」が開設された。このセンターは保護者に対して3回の個別相談を行うことで難聴児を療育へつなぐ橋渡しを行っており,開設してから11年目を迎え96名の難聴児を受け入れてきた。今回このセンターをより良いものにするために,平成22年度から平成30年度に当センターに紹介された保護者を対象にアンケートを行い,今後の改善点について考察した。このセンターに対するアンケート結果は概ね良好であったが,下記の項目が今後検討すべき課題と考えられた。(1)システム:精密医療機関との連携強化。養育中の保護者に参加してもらうことも検討。(2)医学的情報提供:説明用の資料を保護者に提供し,資料にそって網羅的に説明する。(3)療育とサポート:療育担当者に参加してもらうことも検討。難聴児へのサポートに関する情報をまとめた資料を保護者に提供する。
著者
大石 勉 山口 明 荒井 孝 田中 理砂 安達 のどか 浅沼 聡 小熊 栄二 坂田 英明
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.274-281, 2015 (Released:2016-03-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1

先天性サイトメガロウイルス感染症(cCMV)は小児期感音難聴(SNHL)の最も一般的な非遺伝的原因であると共に神経発達遅滞の重要な原因である。 症候性 cCMV の33%,無症候性感染症の10–15%が SNHL を呈し,さらにそのうちの10–20%は遅発性難聴として発症する。出生時一見して無症候性に見えても SNHL を合併していたり,また後に神経発達遅滞が明らかになるいわゆる無症候性 cCMV 感染症は多い。 近年,cCMV における難聴治療にガンシクロビルやバルガンシクロビルを使用し,その有効性が明らかにされてきている。 cCMV を早期に正確に診断して治療を開始するには,全新生児の尿や唾液を対象として PCR 法などによる迅速かつ簡便なスクリーニングをおこない(universal screening),ABR などで難聴の有無を検査することが最も有効と考えられる。さらに,難聴を呈さない cCMV 児を定期的にフォローすることにより,遅発性難聴を洩れなく診断することが可能となる。このスクリーニング体制を確立することにより遅発性難聴を含む cCMV 難聴の可及的に速やかな診断と治療が可能となる。早急な体制整備が期待される。
著者
加藤 久美
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.209-215, 2010 (Released:2012-12-28)
参考文献数
8
被引用文献数
1

小児の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は成人と異なり,眠気よりも学力低下や,多動性・攻撃性などの注意欠陥/多動性障害(AD/HD)様の認知・行動面の問題が生じやすく,発達に影響を及ぼすとされているが,そのメカニズムはまだ明らかではない。脳に器質的な影響を及ぼすとの報告,全例ではないが OSAS 治療後に落ち着きや集中力などが改善することより,小児 OSAS に対する早期介入が重要であると考えられる。小児睡眠診療では AD/HD,広汎性発達障害(PDD)の発達障害を持つ児の受診が多く,未診断のケースも少なくない。小児睡眠診療を行う上では,発達面に留意して診療を行い,保護者の困り感や,脳波所見など気になる所見がある場合に,小児科や児童精神科,療育センターなどにコンサルテーションできる体制を整えておくべきである。小児 OSAS では,発達面を含めた長期視野でのフォローが重要である。
著者
田中 裕美子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.16-21, 2021 (Released:2021-07-31)
参考文献数
13

原因が見当たらないのにことばの遅れを呈する2歳児をレイトトーカー(LT:Late Talker)と呼ぶが,英語圏ではその約15%が4・5歳で特異的言語発達障害(SLI: Specific Language Impairment)に至るという。SLI児は文レベルで話していても深刻な言語の問題を呈し,就学後学習の躓きにつながり,それが長期に続くことが報告されている。つまり,早期のことばの遅れは言語発達障害に至る大きなリスク要因であり,子どもの言語の問題はことばを話すかどうかでは捉えられない。そこで,言語の問題をコミュニケーションではなく,学習言語の視点から捉えた評価や指導法を提言し,評価法の一つとして,教えた効果から言語習得力を捉えるダイナミックアセスメントを,LTの経過観察の中で文法や言語習得力を育む親の言葉かけや関わり指導法の一つとして日本版Toy talk(トイトーク)を紹介する。
著者
高橋 秀行 長井 今日子 飯田 英基 登坂 雅彦 安岡 義人 古屋 信彦
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.107-112, 2011 (Released:2012-12-28)
参考文献数
14

今回我々は,反復性髄膜炎に 3 回罹患した内耳奇形症例を経験したので報告する。症例は 3 歳女児,側頭骨 CT にて両側の内耳奇形を認め,聴力検査にて両側感音難聴を認めた。右鼓膜穿刺にて糖陽性の液体を認め耳性髄液漏と考えられたため,これを遮断する目的で試験的鼓室開放術を施行した。髄液圧をコントロールするため,手術に先立ち腰椎穿刺による髄液ドレナージを施行した。アブミ骨底板は欠損し膜性組織で閉鎖していた。その他の耳小骨に奇形は認めなかった。アブミ骨上部構造を除去すると大量の髄液噴出(gusher)を認めたため,追加の髄液ドレナージ・マンニトール点滴を行ったうえで,卵円窓へ側頭筋膜を十分に充填しフィブリン糊で補強した。術後12カ月の時点で再発を認めず,経過良好である。
著者
朝子 幹也 百渓 明代 川村 繁樹 池田 浩已 久保 伸夫 山下 敏夫
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.38-41, 2001 (Released:2012-09-24)
参考文献数
5

Patients consisting of 164 children aged 4-15 years were treated by a CO2 laser between July1995and October 2000. CO2 laser treatment of the inferior nasal turbinate is a useful procedure, which can be performed as outpatient surgery under local anesthesia. The short operation time and the good results provide excellent compliance by children. Follow-up was possible in 98 cases. Some 72.4% had excellent or good results after therapy. The patient group with multi-antigen allergy, was suppressed less effectively than those with the house dust-mite allergy. Therefore, the CO2 laser surgical technique can be considered as an effective method in the treatment of nasal allergy in children from a viewpoint of evidence-based medicine.
著者
今泉 直美 小林 斉 井上 由樹子 中村 泰介 庄司 育央 小林 一女 磯山 恵一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.32-36, 2017 (Released:2017-05-29)
参考文献数
9

Numb chin syndromeを初発症状として認めた急性リンパ性白血病の1例を報告する。症例は14歳男児。右口唇から下顎の痛みと痺れ,知覚麻痺を自覚し徐々に増悪した。近医小児科クリニック受診し精査加療が必要と考えられ当院耳鼻科受診した。初診時右口唇から下顎の三叉神経第3枝領域に疼痛と痺れ,知覚障害を認め,さらに右口蓋扁桃の腫大を認めた。血液検査では汎血球減少や芽球は認めず,LDH 700 U/l, sIL–2 2510 U/mlと高値を認め,造血器腫瘍が疑われた。頸部造影CT検査では右口蓋扁桃の腫大を認めた。右口蓋扁桃の生検を施行し,リンパ球様細胞のびまん性増殖を認め,免疫染色ではCD20(+), LCA(+), CD79a(+), CD10(+)でありBurkittリンパ腫が疑われた。その後骨髄検査にて成熟B細胞性白血病と診断した。化学療法開始後,右口唇から下顎の痛みと痺れ,知覚障害は徐々に改善を認め消失した。Numb chin syndromeとはオトガイ神経の単麻痺によって生じる下口唇からオトガイ部の痺れや感覚鈍麻・脱失をきたす症候群である。原因疾患は悪性腫瘍,全身性疾患,歯科疾患に大別されるが,悪性腫瘍による圧迫や浸潤が原因となることが多い。本症例のように貧血や出血傾向,易感染性,口腔内症状といった急性白血病の症状が認められなくても,口唇や下顎の痺れを初発症状として悪性腫瘍が存在することを注意し原因検索を行うべきである。
著者
マーシュ ロジャー・R フィー リチャー
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.63-73, 2003 (Released:2012-09-24)

フィラデルフィア小児病院では,これまで大勢の先天聾の子どもたちに人工内耳による治療を行ってきました。現在までに約200人が人工内耳埋め込み手術を受け,その数は毎年35人ほど増加しています。当病院は,単に人工内耳手術を行うことだけではありません。その後に子どもたちが適切な教育を受けられるようにすることも,我々の大きな役割の一つです。そこで今回米国における,人工内耳手術を受けた小児の教育についてお話しします。この話題に関しては私は専門家ではありませんが幸い,当病院の人工内耳治療チームのリチャード・フィー博士は難聴児の教育のエキスパートですので,今日の講演の内容について助けてもらうことができました。
著者
小林 泰輔 弘瀬 かほり 福永 一郎 兵頭 政光
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.268-271, 2020

<p>高知県では2016年度から,全額公費負担による新生児聴覚スクリーニングを開始した。同時にスクリーニングと精密聴力検査の結果の追跡が可能になった。2016年度から2018年度の新生児聴覚スクリーニングの受検者数は13,023人,受検率は92.4%であった。この間の新生児聴覚スクリーニングによる「要精密検査」児は98人,要精査率は0.75%であった。一側難聴は23人(出生数の0.12%),両側難聴は32人(出生数の0.16%)であった。現在は,各市町村と書面で直接連絡をとり,結果の集計とフォローアップを行っている。今後はフォローアップシステムをデジタル化するなどで,医療と行政の連携を強化し,あらたなフォローアップシステムの構築を検討しいく必要がある。</p>
著者
加我 君孝
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.312-319, 2013 (Released:2014-03-20)
参考文献数
8

新生児聴覚スクリーニングは,欧米だけでなく世界各国で実施されるようになり,わが国では約10年が過ぎた。各国の現在の状況はそれぞれ異なる。しかし共通した問題は,先進国においても聴覚口話法の教育施設が不足していることにある。この点はわが国も同様で,早期発見されても療育の体制が不十分であること,さらに新生児聴覚スクリーニングの実施率が約60%に過ぎないことが大きな問題である。この問題の解決のためには公費で全出生児の新生児聴覚スクリーニングを実施する他選択肢はない。
著者
足立 雄一
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.326-329, 2017 (Released:2018-03-31)
参考文献数
12

乳幼児は,その解剖学的ならびに生理学的特性から喘鳴を来たしやすい。呼吸時に聴取される狭窄音である喘鳴は吸気性喘鳴(stridor)と呼気性喘鳴(wheeze)に分類され,一般的には上気道から気管の狭窄ではstridorが,それより末梢側の狭窄ではwheezeが聴取されるとされている。その鑑別にあたっては,乳幼児では呼吸機能などの客観的な指標が得られにくいため,まず詳細な問診ならびに聴診によって疾患を絞り込んだ上で必要な検査を行う。治療に関しては,それぞれの疾患や病態に応じた治療を行うが,喘息を鑑別するにはβ2刺激薬を吸入後に再度聴診所見や努力呼吸の程度を評価したり,吸入ステロイド薬などの長期管理薬を一定期間使用してその効果を評価する。今後は,乳幼児喘鳴のフェノタイプやエンドタイプに基づく治療法の確立が望まれる。
著者
守本 倫子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.286-290, 2015

&emsp;ダウン症は800人に 1 人の割合で出生する染色体異常であり,ムコ多糖症はムコ多糖物質を代謝する酵素欠乏によるライソゾーム病である。どちらも滲出性中耳炎や感音難聴を合併しやすく,補聴器装用や鼓膜チューブ留置などの必要性やタイミングを見極めて治療を行っていく必要がある。また,咽頭狭窄があるため睡眠時無呼吸を来しやすい。アデノイドや扁桃摘出術は適応になるが,全身麻酔のリスクや,もともとの咽頭狭窄が原因で十分に治療効果が挙げられない可能性があることに注意する必要がある。2 つの疾患は遺伝的な原因も発症の機序も全く異なるものであるが,類似した共通の症状もある。手術治療が高い効果を挙げる一方,術後も症状が改善せず苦慮することも少なくない。こうした疾患においては,個々の治療方針についても小児科と連携をとっていくことが重要である。
著者
星野 直 有本 友季子 仲野 敦子
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.12-16, 2014

&nbsp;&nbsp;2 歳 3 か月の男児。結合型 7 価肺炎球菌ワクチン(PCV7)4 回接種済み。いびき,無呼吸に対し,全身麻酔下にアデノイド切除,口蓋扁桃摘出術を施行した。周術期抗菌薬は ampicillin を静注で使用(当日は術直前および10時間後に静注)。POD1 に40℃の発熱を,POD2 に痙攣を認めた。血液,髄液より肺炎球菌が分離され,同菌による細菌性髄膜炎と診断。急性期に集中治療を要したが,後遺症なく治癒した。髄液由来肺炎球菌は,血清型35B(PCV7, 13非含有血清型)の gPRSP であった。本手術後の髄膜炎は極めて稀だが,菌血症は高頻度に認められる。菌血症から髄膜炎への進展を予防するために,術前に PCV 接種を完了しておくことが望ましい。また,本症例のようなワクチン非含有血清型肺炎球菌や,その他の細菌による術後髄膜炎発症の可能性もあり,菌血症を想定した用法・用量による周術期抗菌薬の投与が必要である。
著者
緒方 勤
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.173-178, 2014 (Released:2015-03-13)
参考文献数
15

遺伝疾患発症機序の解明は,単一遺伝子におけるタンパクコード領域の変異解析を主に進展しその後,プロモーターやエンハンサーなどの遺伝子発現制御機構の破綻による遺伝疾患の発症が明らかとされてきている。さらに,解析技術の進歩と相まって,当該遺伝子周辺のゲノム構造異常に起因する疾患が存在することが明らかとなってきている。本稿では,このような新しいゲノム疾患について,アロマターゼ過剰症をモデルとして記載する。重要な点として,アロマターゼ遺伝子のコード領域から遠く離れたゲノム領域の異常(重複,欠失,逆位)により,アロマターゼ遺伝子の過剰発現が生じ,さらに過剰発現を招くプロモーターの性質が重症度を決定することが判明した。これは,ゲノムレベルの構造異常が単一遺伝子疾患を発症させるという点で画期的なものである。
著者
堀井 新
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.300-304, 2016 (Released:2017-03-23)
参考文献数
17

症例の少ない小児のめまい診療ではその原因疾患を年齢別,頻度別に理解することが重要である。小児で最多のめまい疾患は良性発作性めまい(BPV)および前庭片頭痛(VM)で,この2疾患で全体の約40%を占める。ともに発作性めまいを繰り返し,BPVは5歳以下の低年齢で見られ,その後片頭痛を発症するとVMと診断される。VMでは変動する蝸牛症状がみられる場合もあり,他の内耳疾患との鑑別が治療上の問題点となる。めまいの予防には片頭痛の予防薬である塩酸ロメリジンを,頭痛に対しては片頭痛治療薬を用いる。乳児期には難聴や運動発達遅滞から内耳奇形や小脳奇形が発見されることがある。幼児期は急性小脳炎やムンプス,ハント症候群などウイルス感染症および小脳腫瘍の好発年齢であり注意する。児童期には成人と同様BPPVやメニエール病も見られ始め,起立性調節障害が増加する。この疾患は治療上,社会心理要因の合併に注意が必要である。
著者
宮本 真 齋藤 康一郎
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.223-228, 2018 (Released:2019-04-05)
参考文献数
24

咳,嗄声,喘鳴といった上下気道の症状は,われわれ耳鼻咽喉科医が小児の患者を診察する際にしばしば経験する症状である。そのほとんどが鼻咽喉頭領域の感染症に関連した症状であるが,年齢により疾患も大きく変化するため患児の年齢にも注意が必要である。さらに身長や体重が大きくなる発育や知能や運動能力など機能が成長する発達を考慮しながら診断・治療にあたる必要がある。小児喉頭において,声門上の組織が脆弱なため吸気時に引き込まれやすいといった特徴があるため,吸気性の喘鳴の原因として喉頭軟弱症(喉頭軟化症)がもっとも多い。喉頭軟弱症のほとんどは2歳までに軽快するが,チアノーゼを伴うような呼吸障害や発育障害など重度の合併症があれば,Supraglottoplasty(声門上形成術)など外科的治療が必要となってくるため,そのタイミングの見極めが重要となってくる。