著者
森下 翔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.449-469, 2014-03-31 (Released:2017-04-03)

本論の目的は科学実践における存在者の「実在性(reality)」について、人類学的な考察を試みることである。科学が歴史主義的・実践論的に理解されるようになって以来、私たちの持つ科学のイメージは大きく変化してきた。本論は科学実践における実在性をめぐる議論について、近年の実践論的科学論が科学実践における実在性の概念を局所化・歴史化したことを評価しつつ、そのプロセスを「表現と物質性の接続」というスキームへと還元してきたことを批判する。本論では地球物理学の一分野である測地学における「観測」と「モデリング」の実践について記述することを通じて、「観測網」や「図」などの具体的な構成要素と密接に結びついた-「表現」や「物質性」に還元される手前に存在する-存在者のさまざまな実在化の様態を示す。考察では「実在化のモード」という概念の導入を通じてこれらの様態の関係を考察し、実践における存在者の実在形態の多様性を分析する方途を模索する。
著者
飯塚 宜子 園田 浩司 田中 文菜 大石 高典
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.325-335, 2020 (Released:2021-02-07)
参考文献数
19

Anthropological fieldwork constitutes a dynamic process of the co-creation of knowledge and understanding between fieldworkers and informants by mixing and/or hybridizing different cultures. A crucial role for anthropology is its introduction of transcultural experiences to the public by fieldworkers. Accordingly, the authors conducted a workshop for Japanese elementary students about Baka hunting and gathering society in Africa. This paper examines how the workshop utilized play-acting in improvisational theater methods to increase the students' understanding and insight into other cultures. Play-acting enabled students to gain insight into “the otherness in self” by thinking of another culture as if it were their own. Specifically, through analysis of the video recorded classroom activities and interactions among students, lecturers, and performers, this paper explores how the field emerged during the workshop process.
著者
コーカー ケイトリン
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

本発表の目的は、ポール・ダンスの実践に焦点を当てて、エンスキルメントの中でフィーリングと想像力がいかに働くのかを明らかにすることにある。とくに、ポール・ダンスの危険性に着目して論を進める。そこで、運動に関わるフィーリングは自己受容性感覚(プロプリオセプション)だけではなく重力や抵抗の原理、遠心力などと共に、三次元的に動くための方向付けおよびエフォートとなり、想像力は繰り返される動きがスキルに変容する鍵となると論じる。
著者
肥後 和男
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.108-115, 1949

That the present Japanese have a physique resembling the Koreans more than the Ainu shows that their ancestors were nearer to the Koreans than to the Ezo (ancestors of the Ainu). The same may be argued with reference to language and mythology. Therefore, it seems reasonable to believe that the forefathers of the modern Japanese people may have come from the Korean area. However, the period of this movement is not clear. The Wei (Wa) of the ancient records of China were the ancestors of the Japanese. According to these records, they had already built many small states by the 1st century A. D. They practiced agriculture and had communications with China. The forefathers of the Imperial Family seem to have unified those small states under its rule toward the end of the 2nd and the beginning of the 3rd century. Their point of origin is still unknown. The opinion of some scholars that they were of the same stock as the horse-riding tribes who established dynasties in Manchuria and Korea in the 3rd century has not been verified. If Chinese records can be trusted, the Yamato (Yeh-ma-tai) kingdom seems to have been already in existence about the end of the 1st century. The erection of great tomb mounds for the burial of the kings at the beginning of the 3rd century A. D. seems to have followed the unification of the small Wa states under the Yamato dynasty.
著者
竹川 大介
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

フィールドワークの社会実践の現場として、北九州市内の生鮮市場である旦過市場における8年間の店舗「大學堂」の運営をおこなってきた。ここで最近になって市場再整備という大きな社会的葛藤が浮上し、一店主としての当事者性と大学に籍を置く者としての関わり方が問われることとなった。人類学とフィールドとの関わりについて考えるために、市場と大学のマリアージュが生みだそうとしている、答えとゴールのない模索を紹介する
著者
中村 八重
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

本発表は韓国のレトロブームのなかで植民地遺産としての建築物がどのように位置づけられているのかを、建築物の観光化をめぐる現象の分析を通じて明らかにしようとするものである。植民地時代の衣装を新しいものとして消費することが若い世代で流行している。こうしたブームが、従来「生きた歴史教育の場」という役割が課せられていた植民地遺産をめぐる言説や現象に与える影響を検討する。
著者
金田一 京助
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-20, 1948 (Released:2018-03-27)

It has been contended by physical anthropologists and prehistoric archaeologists that Ezo and Emishi, whose names appear in ancient Japanese history, were distinct from the Ainu. The author, basing his case on documentary and linguistic materials, particularly on place names of Ainu origin in northeastern Honshu, concludes that the Ezo and Emishi were one and the same group with the Ainu, and that they had moved down from the north to settle in northeastern Honshu.
著者
織田 竜也
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

ヴァーチャリティがリアリティを獲得する現場を「2.5次元」と概念化し、そこでの諸現象、とりわけ「ゲーム」「コスプレ」「聖地巡礼」に焦点を当てて考察する。事例としては『Street Fighter Ⅱ』や『戦国BASARA』を取り上げる。
著者
荒木 健哉
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.95-112, 2018

<p>本稿はナイジェリアのラゴス州において、数字宝くじを購入する人々が宝くじの購入(消費)を余暇活動や娯楽ではなく、他の生計活動とは異なる独自の労働や仕事とみなす論理を、宝くじの当せん番号の予想をめぐる実践に着目して明らかにすることを目的とする。ギャンブルを対象とした人類学的研究では、不確実性の高い状況下において人々は生活のあらゆる側面を経済活動の領域に位置づけることが指摘されてきた。ナイジェリアにおいても宝くじを購入する人々は、生計多様化戦略の1つに宝くじの購入を位置づけている。しかし、その他の生計活動と宝くじでは、前者における不確実性が社会関係に起因しがちなのに対し、後者は最小限の人為性しか介入せず、ある種の公正さを伴う純粋なチャンスのゲームであることが異なっていた。他方で興味ぶかいことに、宝くじの購入者たちは、宝くじの幸運は受動的に降りかかってくるものではなく、一定の技術により主体的に獲得できるものだとみなしていた。本稿では、この予想をめぐる実践を検討し、彼らが予想の技術を何らかの認識論的な枠組みにおいて解釈せず、ただ<存在する>とみなすことを通じて希望を創造/贈与することを論じる。そこから宝くじの消費実践を生計実践=仕事に埋め込む論理を探る。</p>