著者
吉田 佳世
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.59-70, 2015-06-30 (Released:2017-04-03)

This paper describes women's status in Okinawan ancestral rituals, focusing on the differences between wives and sisters. I attempt to reexamine the image of female domination in Okinawan rituals, which has been grounded in the traditional concept of onarigami. Onarigami is the belief that a sister's sacred power guards brothers from danger. Anthropologists had paid much attention to this belief, because they regarded it as the basis of kinship systems in Okinawa. That research showed that sisters are ritually more predominant than wives, and that wives gradually become full-fledged members of their husband's family as they move through their life cycles, becoming first mothers and then grandmothers. However, academic curiosity about onarigami created a strong impression that female status in Okinawa is high. In recent research, those studies have been criticized for overemphasizing female domination. In addition, academic interest in women's studies has moved away from measuring the relative position of women, because it leads to a monolithic image of women. In recent studies, researchers have attempted to find differences between women and the causes of those differences. Based on those debates, I would like to pay attention to the real relationship between wives and sisters in ancestral rituals. This paper focuses on whether differences exist between wives and sisters regarding their roles and status, and if so, what actually causes those differences. Also, it asks what significance there is in the handling of rituals by women when it imposes a great burden on them. Four cases of memorial services for ancestors (suko) are presented, collected between 2007 and 2009 in X district in northern Okinawa Island. The paper's findings include the following points: Married sisters continue to play an influential role in the management of rituals as members of their parents' homes. On the other hand, wives, like guests, have no role at the beginning, but gradually begin to play an important role and build a solid position in the husbands' families. These features were nearly identical to those suggested in previous studies on onarigami. However, in fact, some sisters don't play major roles, and some wives don't assume leadership even if they become grandmothers. Understandably, they tend to keep a low profile in their families and do not have much say in decision-making. That indicates that women's status in their families depends on how they contribute to the rituals. In other words, all women are not automatically elevated to positions in their families, but acquire them over time by their own endeavors. By comparing them with men, this paper concludes that this feature is characteristic of women. The significance of women carrying the burden of rituals has changed with the modernization of Okinawa. In the past, it used to mean that women built up a strong position within the family. In recent days, however, it has come to mean that women follow in the tradition of male domination.
著者
縄田 浩志
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.228-228, 2008

1993年5月、シルック王国の首都ファショダを訪問し、新王クウォンゴ・ダク・パディエトとの対話がかなった。本発表の重要な目的とは、私また日本人そして世界の人びとに発せられたシルック王のメッセージを伝えることにある。
著者
青木 恵理子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

2015年7月5日に「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産として登録された。この遺産には、三井三池炭鉱、三菱端島炭鉱、三菱高島炭鉱など多くの炭鉱遺構が含まれている。本発表は、立て坑や繰り込み所など巨大施設に焦点をあてた世界遺産版のヘゲモニックな物語に、石炭人形など小さなモノたちに熱い望郷の念を託した「私たち」の物語が仕掛ける闘いとせめぎ合いを、集合的記憶という観点から考察する。

1 0 0 0 蚊火

著者
宮本 馨太郎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.108-121, 1947-11-01
著者
杉本 洋
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.I11, 2016 (Released:2016-04-23)

病気や障害を有する人々による当事者活動はセルフヘルプ・グループなどが知られている。本研究では当事者によるパフォーマンス活動を通して,着眼されることの少なかった当事者活動のサブカルチャー的側面についての考察を行う。そこからは,アンダーグラウンドな要素を持つサブカルチャー的実践は,弱さと強さ,健康と病気といった二元論的な視点を超えた保健福祉の理念の拡張を迫るものとなっていることがうかがえる。
著者
新本 万里子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第49回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.G07, 2015 (Released:2015-05-13)

本報告では、月経についての観念がどのように変化しているのかを、月経処置法の伝承者と伝承の内容に注目して検討することを目的とする。調査対象としたのはパプアニューギニア・アベラム社会である。報告では、月経処置法の伝承者が母から上級生や友人、教師に変化していること、伝承内容にも変化があることを示す。伝統的には月経はヤムイモ栽培との関係において忌避されていたが、伝承者の変化に伴い羞恥心が意識されるようになったことを明らかにする。
著者
児玉 香菜子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.233-233, 2008

「生態移民」は環境保全を目的とした中国政府による環境政策である。また、同時に脱貧困という目的も掲げられている。それにもかかわらず、「生態移民」には、政策の目的とは逆に、環境悪化と貧困化の危険性がある。中国黒河下流域に位置する内モンゴル自治区アラシャー盟エゼネ(額済納)旗を事例に「生態移民」の現状とそれによるモンゴル牧畜民の社会的・文化的変容を明らかにする。
著者
徐 玉子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.68-68, 2012

本発表は在韓米軍基地村の米兵専用のクラブで「エンターテイナー」として働くフィリピン移住女性たちの生活に密着した参与観察とインタビューに基づいて、よく国際人身売買の犠牲者として表象される彼女たちが移住先の性産業で遂行する労働をミクロなレベルで考察する。それによって、これまであまり議論されなかったセックスワークにおける感情労働について論ずると同時に、労働過程で発現されるエイジェンシーを浮き彫りにする。
著者
小林 宏至
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

中国では改革開放政策が打ち出され、それが広く人々に浸透していく1990年代まで、「聖地」の多くは「革命聖地」を意味していた。つまり共産党の愛国教育基地でもあった。だが近年、中国社会のなかで「聖地」の「再開発」が進んでいる。本発表で対象とするのは客家というエスニックグループの聖地である。行政主導により、少数民族でも宗教団体でもない客家というエスニックグループの「聖地」がつくられる意義を議論する。
著者
内山田 康
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.53-76, 2011-06-30

ミーナークシー寺院の北門を守るチェッラッタンマンは、偉大な神に否定された卑しい女神なのか。菜食の神々と肉食の神々の関係は、カースト間関係と相同のロジックを持ち、両者は相補的で階層的な関係にあるとするデュモン、ビアドゥー、フラーらの構造的な思考からこぼれ落ちたパーソンの過剰を本稿は取り上げる。パーソンは階層的に差異化した存在者ではない。パーソンは変態する。パーソンは他のパーソンの中に現れる。私は本稿において、高位の神の分身とされる低位の神の本性を、答えが予め決定している階層性の公準において捉えるのではなく、パーソンに内在する生成する差異とその外在化において探求する。すなわちアンチテーゼでチェッラッタンマンを捉えるのではなく、テーゼにおいてチェッラッタンマンは誰かを問う。南インドの周縁の伝統には、パーソンの連続性に関る古い主題と古いロジックが残っている。このロジックを辿ると、高位の神と低位の村の神の間に、差異と連続性が現れる。古い南インドの存在論のパースペクティヴから見ると、チェッラッタンマンとミーナークシーは、反復から生まれた相互の分身と捉えることができる。持続の中で、ミーナークシーは部分的にチェッラッタンマンの未来となり過去となる。私は全体性のパースペクティヴが捨象した契機を、存在への問いに導かれて記述することを試みる。
著者
山口 亮太
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第50回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.H14, 2016 (Released:2016-04-23)

本発表では、カメルーン東南部の農耕民バクエレの病や不調と、その原因追求過程に着目する。当事者の置かれた状況についての「物語」が検討される過程で、様々に生起する推測と疑念の連鎖が、最終的に決定を下せる権威者不在の状況で、どのように展開・収束しうるのか検討を行う。特に、妖術と関連している場合、リアリティ分離[ポルナー 1987]は容易には収束せず、それによって、妖術の疑いを遍在させることになる点を論じる。
著者
鈴木 七美
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.355-378, 2005-12-31

「介護」は、他者への配慮・自己への配慮といった人間関係行為の総体に関わる概念だと捉えられる。「介護」を問うことは、「全体としての生」をテーマとして、人間の身心に具体的に関わる配慮的関係のありようを再考することであり、それ自体社会的・文化的に規定された文化人類学研究の対象である。本稿では、「高齢社会問題」そのものがどのように問題化されているのか、その構造に関し検討を加えた。「介護」にかかわり、「自立した生活」などと表現される「個生」へのまなざしをとりあげ、「個別的ライフスタイル」や、相互性のなかに生きる人間のアイデンティティの表現としての「個生」の模索について考察した。「介護」の試みは、高齢者の福利厚生のみを対象とすることでは果たせず、どの世代に関しても諸関係性を紡ぐ過程で創造される充足に配慮した構想を立ち上げる必要に言及した。「介護」あるいは「ケア」、すなわち相互性のなかに生きることに関して検討することは、壮年を中心とした狭義の社会を問い直すことにほかならない。とはいえ、現代生活においても人々は自らの暮らしを問い直し関係性を紡ぐ方途を模索し続けている。各人の活動の充足を念頭に労働時間の短縮や変更が広く認められているスイス連邦では、自宅で暮らすことを願う高齢者を援助する「シュピテックス」を推進してきた。対面的コミュニケーションが日常的に実現できる地域では高い評価を受けているこのシステムだが、都市部ではコミュニケーションや高齢者の創造的活動については保証できないという問題点が指摘されている。この点を考慮しつつ、地域に適合的な産業振興を模索してきた町を例として、高齢者が充足する社会は、環境をも含め共生社会構想と切り離しては実現できないという点に言及した。人々が求めるものは、一方から他方へのサービスのみを考案することでは持続的に充足せず、循環機構を組み立ててゆくことが不可欠である。この過程で、人々は年齢を問わず「明日」を見据えることが習慣となり、常に変動の相にある新たな相互関係を築くことに参与することになった。ケアについて考えることは、諸関係性を生きる様式のヴァリエーションに関し現時点で再考することにほかならない。
著者
八木 弥生
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.335-354, 2005-12-31

本稿は、ふたりの乳がん患者会リーダーが、自らの病いの苦悩を見据え、日常的に相互交流を深めながらそれぞれの患者会を運営し、他の患者をケアしていくことによって、自己活用の価値や病いの意味に気づき、人をケアすることを通して自分自身もケアされていくことを認識するプロセスを明らかにすることを目的とした。ほとんど構成のないインタビューをそれぞれ別に実施し、自由に語られた彼女らの物語りを、それぞれのライフヒストリーとして再構成した。それ等を比較検討すると、家族背景や生活環境の多少の違いはあるものの、それぞれのライフヒストリーは相似形を成したので、これをふたりのライフヒストリーとした。ふたりのライフヒストリーは次のような8項に分けることができた。1 中年期の専業主婦として家族の世話に忙しく、自分の健康問題への関心が疎かになっていた日常の中で乳がんを発見する。 2 異なる環境でそれぞれに苦悩しながら、乳がんの治療を受け、自らのからだに生じていることへの認識を高める。 3 術後1年で同側への再発(Bさん)、退院後1週間で反対側の乳がんの発見(Cさん)という現実に圧倒される。 4 初発時より苦悩は深まるが、病気に関連するさまざまな学習を深める。 5 患者会のリーダーとなる過程でふたりは知り合い、さらに共通の知己となったT医師とも協同していく。 6 家族の協力を得て患者会活動を充実・発展させていく。 7 医師や患者会の援助を受け、ふたりの協同で活動を社会的に発展させていく。 8 患者会活動を通して、乳がんの経験の人生における意味を味わう。 また、逐語録を詳細に吟味し、病いの経験がふたりの人生にもつ意味を象徴的に語っている箇所を抜き出し、同じ要素をもつものを集めて分類して次の3項にまとめた。 1 自らの人生は自らが織り成すものである。 2 病いは共存していくもので、織り成していく人生の一部である。 3 病いを克服していく力は、苦悩を人生に織り成すことによって強められる。 ふたりの乳がん患者会のリーダーは、病いとともに生きることが自分の生き方を強く深くしてきたと解釈しており、さらに、患者会に集まる人々のための世話をする過程で、その人々もまた強められていく様子を見ていくことに喜びを感じていた。また検診に関して行政を動かし、医学生の教育の一端を担えるようになったことなど、病いを経験しなければ味わえない喜びを味わっていた。彼女たちは人をケアすることによって、ケアの本質である「成長」と「自己実現を果たす」プロセスを歩んでいた。
著者
白川 千尋
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.115-137, 2004-06-30

本稿は、日本のテレビ番組におけるメラネシア地域とそこで生活する人々の取り上げられ方について検討したものである。対象とした番組は1998年から2002年までの約5年間に放映された44件である。序論の第I章に続く第II章において、メラネシアのなかでとりわけどのような地域や人々が番組の対象としてより頻繁に選び出されているのかという点を明らかにした後、第III章と第IV章では、選び出された地域や人々の描かれ方の分析を行なった。また、第V章では、対称の選択の仕方や描き方をめぐる複数の番組間、あるいは番組と雑誌や図書などの間の参照関係を具体的に跡づけるとともに、そうした関係に対する民族誌的著作物の関与のあり方を明らかにすることも試みた。検討の対象とした番組ではイリアンジャヤやヴァヌアツ、パプアニューギニアの集落部や、腰蓑やペニスケースなどの「伝統的装束」を身につけた人々がとりわけ頻繁に取り上げられていた。また、番組ではもっぱらこれらの地域や人々の「近代的な世界」からの隔絶性が強調され、そうした世界との交流を示す事象は遠景に退けられたり捨象されていた。こうしたなかで、民族誌的著作物は番組製作者側によって番組を制作する際の情報源ないしアイデアの供給源として利用されることにより、対象の選択の仕方や描き方をめぐる参照関係のネットワークのなかに取り込まれていることが明らかになった。結論の第VI章では、こうした状況において人類学者が取り組むべき課題について触れた。
著者
新本 万里子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.115-115, 2011

報告では、パプアニューギニア、アベラム社会の婚資の支払いと初潮儀礼における贈り物慣行を分析する。それにより、婚姻後の女性と兄弟との紐帯が弱まり、相対的に女性の位置は夫方親族の方へ引きつけられていると考えられることを示す。あわせて、姻族間の贈り物慣行によって妻方親族へ賠償されるべき身体構成要素(substance)が夫方親族へ留まる傾向が生じていることを示す。
著者
小林 勝
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.407-428, 1992-03-30
被引用文献数
1

南インド・ケーララにおけるカースト制は,ナンブーディリ・ブラーフマンを中心=頂点とする<儀礼的位階>イデオロギーが著しく貫徹され,彼らが王権を超える地位を獲得していたことによって特徴付けられる。そのことの意味は,一番に,この地域が古代の統一王権を喪失して以来近代にいたるまで慢性的な政治的分裂状況にあり,そこにおける汎ケーララ的な次元での社会的統合の宗教的な要としての役割がこのブラーフマンに対して要請されてきたという歴史的な経緯に求められる。また,ナンプーディリは他に例をみない大土地保有者であり,そしてある場合には地方小王権に対抗し得るような強大な武力をさえ抱え込んでいたのであって,そうした彼らの世俗的な側面は一方で自らの汎ケーララ性を裏切りながら,しかし全体からすれば彼らの宗教的権威を王権から自立させて維持するのに大きな意義をもったのである。
著者
箭内 匡
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

原発被災とイメージの問題に関して、本発表では二つの作業を行う。第一の作業は、関連する様々なドキュメント(文字あるいは写真や動画映像によるもの)を検討しつつ、〈可視的なもの〉と〈不可視のもの〉の関係を、イメージ概念を軸にして考察することである。第二の作業は、本分科会の発表者の一人である武田直樹がつくば市で行ってきた、福島避難者支援のネットワークに関する映像記録資料について考察することである。