著者
青柳 孝洋
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第42回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.76, 2008 (Released:2008-05-27)

本発表は、イスラーム社会における歌の受容と生産をとりあげる。特にナシード・ディーニーと称されるイスラーム的宗教歌謡ジャンルについて、主に2007年8月~10月の2ヶ月間にシリアで行った現地調査を基に論じる。 伝統的にはアッラーへの信仰を促すような内容のものが宗教歌謡では一般的であった。しかし近年、現代的な要請を受けてその内容は広がりを見せてきている。
著者
東 賢太朗
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第43回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.43, 2009 (Released:2009-05-28)

本分科会では、人類学(者)がフィールドで出会う謎と秘密、不思議と驚き、すなわち「ミステリー」の魅力と可能性について議論を展開する。具体的には、人類学とフィクション(ミステリー、ファンタジー、SF)との関係、フィールドワークのプロセスにおけるフィクションとリアリティ、そして調査対象自体に内在するミステリーといった問題系に着目する。
著者
東 賢太朗
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第43回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.44, 2009 (Released:2009-05-28)

人類学のフィールドにおいて、「わかる」ための努力がなされる一方で、「わからない」ことが必ず残されていく。そのような解き明かされない「謎」の持つリアリティについて、本発表では考察する。フィクションの諸ジャンルでは、非現実や非日常の要素がリアリティの表現として効果的に用いられるのに対し、人類学には民族誌のもつ虚構性に対する批判が向けられる。両ジャンルの並置と比較から議論を展開したい。
著者
小西 信義
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第47回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.41, 2013 (Released:2013-05-27)

除排雪に関わるリスクは豪雪過疎地域では切実な課題である。この課題に対し、人びとがどのように対応しているかを明らかにするため、岩見沢市美流渡地区で経験的観察を行った。その結果、人びとは自然環境や個体を取り巻く状況に応じ、個体または集団の行動戦略を採っていることが明らかとなった。さらに、これらの行動戦略が互恵性に基づく活動であることを検討し、豪雪過疎地域における課題解決に寄与していることを指摘する。
著者
ベル 裕紀
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第48回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.81, 2014 (Released:2014-05-11)

韓国は、非熟練労働者の海外からの受け入れを行っている。この制度の下では事業所の変更が厳しく制限され、移住労働者にとっては、韓国人支援団体とのネットワークが、劣悪な労働条件や賃金未払、時には暴力から逃れるために、必要不可欠である。このネットワークを通じての移住労働者の集中とその結果生じたを支援団体の機能不全を解決するために、互助組織が形成されていった過程をカンボジア人の事例を通じて見ていく。
著者
出口 雅敏
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第43回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.159, 2009 (Released:2009-05-28)

サウンドデモは政治的表現を祝祭的次元において発信することで、一定の成功を収めてきた。だが近年は、警察や機動隊の過剰警備に包囲されがちである。こうした状況において、直接行動の現場を支配する「戦闘機約」に働きかけ、それを覆すような祝祭的戦術の駆使もみとめられ始めた。本発表では、サウンドデモの祝祭的次元についての検討を通じて、現代社会における示威行動の文化とその表現型式の特質について考察する。
著者
渡部 瑞希
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第45回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.117, 2011 (Released:2011-05-20)

カトマンズの観光市場における宝飾商人の間では、商品の品質・相場に関する情報が非対称であるにも関わらず、騙しの告発は稀で顧客関係も維持されている。本発表では、こうした状況がいかにして可能であるかに関し、買い手による情報探索と、市場に情報を提供する人々の情報操作を詳細にみていくことで明らかにする。
著者
佐藤 斉華
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.309-331, 2008-12-31

ニマ(仮名)は、「女は(嫁に)行く」ことが現在までなお揺るぎない規範性を保持しているネパール・ヨルモ社会に生きる、未婚の中年女性である。本稿は、社会的規範により抑圧され周縁化されている個人が、この規範との緊張を孕んだ関係のもとでいかなるエイジェンシーを発揮するのか、いかに自己を構築しその生存の場所を切り拓くのかという問いを、このニマが語るライフ・ストーリーを通して探究しようとするものである。興味深い事実は、婚姻を命じる規範がその一端を構成するところの、彼女にとって抑圧的な社会的編制のもとで生きることを余儀なくされながらも、彼女自身がこの婚姻規範を繰り返し肯定し、自らの「逸脱」性を率直に認めていることである。規範への全面恭順とそれが含意する自らの逸脱性の受容という、一見平板な身振りのもとで彼女が紡ぎだす語りを辿るにつれ浮かびあがってくるのは、しかし、規範への一面的な服従とは程遠いものであった。自己否定をあえて引き受けつつも自己の生存をしたたかに確保し、明示的には規範を肯定しながらもこの規範から逃れでていこうとする志向を滲ませる彼女の言葉は、体よい要約を拒み、不分明なその声は構造に折り込み済みのエイジェンシーを越えでる潜勢力を宿す。もちろん、そのような潜勢力がいかなる展開を遂げる(あるいは遂げない)かについて、軽々しく予断するのは不可能なことである。

1 0 0 0 海神宮考

著者
柳田 國男
出版者
日本文化人類学会
雑誌
季刊民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.178-193, 1950-11-15

Niruya or Niraikanai, a paradise on the sea important in the beliefs of the Okinawans as well as for the islanders south to the Takara strait, has detailed resemblanses to the Japanese tradition of Ryugu (Dragon Palace), called in old days Tokoyo no Kuni or Watatsumi no Kami no Miya (Palace of the Sea-god). The first syllable ni of Niruya means "a root", such as we find in Okinawan words as nidukuru which means the stock family of a village. The Ne no Kuni (Country of the Root) must have been the Japanese name for Niruya, but it has no more the meaning of a sea paradise. According to Ryukyuan traditions, there is an eternal fire beyond the eastern horizon on the sea where the sun is born, and fire, rice-seeds and rats were brought from Niruya. Life itself seems to have been believed to be a gift therefrom. The author is inclined to see in these folk beliefs of such "sea-peoples", a tendendy for the the Ryukyuans and the ancient Japanese to put their paradise not in the west, but in the east and beyond the sea. The author describes such Ryukyuan folk-tales as "Monkey's Liver", "Visit to the Palace of the Sea", "A Flower-vender and the Dragon-god", "God of the Drift-wood", and the August Dance on Okinawa and Amami-Oshima. All of these have some connection with Niruya, comparing them with Japanese data, the author refers to the possibility of solving certain problems of the origin and ancient relatives of the Japanese. He urges upon ethnologists the necessity to continue comparative studies along this line, in order to acquire new materials concerning the migrations of our ancestors.
著者
菊田 悠
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.361-381, 2013-01-31

本稿では中央アジアのウズベキスタン東部の町を舞台に、ムスリム(イスラーム教徒)の住民が、各職業にはその職に従事する人々を守護する聖者「ピール(pir)」がいると考え、それに対して加護を願い、聖者廟への参詣や儀礼等を行う現象(ピール崇敬)を分析する。これにより、ソヴィエト連邦時代の急激な産業・社会構造の変化にもかかわらず、今もピール崇敬の多くの要素が維持され、幾つかの業種では同業者の連帯や親方の数と技能水準の維持に力を発揮していることが明らかとなる。一方、調査地の中心産業である陶業では、ピール崇敬を通じた同業者の統制機能は縮小しているが、一部の陶工たちはピールの教えとして工房における行動規範を現代的な生活様式に合う範囲で語り伝えたり、人智を超えた不可解な現象を起こす存在としてピールに畏敬の念を抱いたりしている。また、ピールに理想の陶工像やソ連後の市場経済化で必要とされる作家性の源泉等を見出して重要視する陶工たちも存在する。すなわち、ピール崇敬は現在も集団の統制から個の表現まで幅広い機能を果たし、ピールは脱呪術化・日常倫理化と神秘性の絶妙なバランスを保っている。これはイスラーム的聖者の性質の多様性と現代社会への適応力を示し、教団組織(タリーカ)を基盤としない聖者崇敬の事例としても貴重である。
著者
高橋 絵里香
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.133-154, 2008-09-30

西欧/非西欧の二項対立は、人類学のパーソンフッド論における基本的な前提となってきたが、西欧的なパーソンフッドとしての「近代的個人」の背景にある自立の概念は、これまで十分に検討されてくることがなかった。しかし、自立/依存の概念は歴史的な変遷を遂げてきており、身体的自立・経済的自立・自己決定としての自立という3つの自立概念の「要素」は、現代では混在した状態にある。フィンランドの高齢者福祉における在宅介護サービスは、一人で暮らす人々の「自立」を支えているが、高齢者達が経験する身体的な危険はホームヘルパー達の介入を正当化し、彼らを施設へと移転させる契機としてシステムの中に組み入れられている。その一方で、そうした介入の機会は、高齢者達の側から能動的な働きかけを行う契機ともなっている。つまり、自立と依存は明確に分離することのできる概念ではなく、両者が錯綜した状態の中で互いの適用領域を定義し合っている。本稿で紹介する在宅介護サービスを通じて、他者への(からの)介入/非介入の境界上において、経済・身体・自己決定という自立の3要素が相互に連関し、自立のセットをなすという、近代的個人の一様態がエイジングの過程の中に見出される。
著者
田中 雅一
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第46回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.67, 2012 (Released:2012-03-28)

本発表の目的は、セックスワーカーたちのインタビューをもとに、彼女たちが男性客に対してどのような態度をとるのかという問いについて考察し、これまでの感情労働研究を批判的に検討することである。一般にセックスワーカーと客との間には絶対的な上下関係があるとみなされてきた。このため叱りつける、といった行為は想定されてはいなかった。その意味を探ることで女性たちのエイジェンシーの特質に迫りたい。
著者
外川 昌彦
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.174-196, 1992-09-30

本稿は, ベンガル・ヒンドゥの最大の年中行事であるドゥルガ・プジャの祭祀組織の分析を行っている。今日のドゥルガ・プジャの拡大は, 祭主と崇拝者とが一元化したコミュニティ・プジャの確立によって, もたらされたと考えられる。そのことは, イギリス植民地統治の前後にわたる, ヒンドゥ王権の祭祀, 英領期の富裕層の祭祀, 独立運動下の民衆の祭祀組織を通して検討され, 祭主と崇拝者の差異化とその一元化という祭祀構造の変化が指摘される。更に今日のコミュニティ・プジャにおける, 人々の主体的な参加と自立的な祭祀組織の形成を, カルカッタ市街地の調査事例を踏まえて検証する。歴史的事例と調査事例とは対照され, そこに階層化と平等化の構造的ベクトルが作用していることが指摘される。王権の解体と人々の自立的な祭祀の解釈が, この祭祀組織の構造変化をもたらし, 今日のドゥルガ・プジャの拡大を可能にしたことが示されるであろう。
著者
NAKAHARA Satoe
出版者
日本文化人類学会
雑誌
Japanese review of cultural anthropology
巻号頁・発行日
vol.14, pp.73-93, 2013

This article is an anthropological study of the Rongelap people in the Marshall Islands, and their recovery in the aftermath of the radiological contamination from nuclear bomb testing. Pursuing registration as a world heritage site and the reproduction of traditional local food are important ways in which the community has worked to reconstruct their lives based on a temporary island. It is important for them to reproduce dried pandanus in a temporary island, in particular, as it is a traditional and principal product of Rongelap people. They have been trying to overcome the tragedy set in motion through the military nuclear-weapons testing and have make renewal life reproducing of tradition.
著者
中西 裕二
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.221-242, 2006-09-30

本論は、桑山敬巳による「人類学の世界システム」論を、日本人による日本国内の文化人類学的調査研究、及びその日本語での記述に応用する可能性を探るものである。その一つの例として、歴史学者黒田俊雄の顕密体制論、その背景にある神仏習合思想、及びフィールドにおけるそれらの記述から導かれる諸問題を取り上げる。桑山は、「人類学の世界システム」という概念を設定することにより、文化の記述をめぐるヘゲモニーを明らかにしたと同時に、ネイティヴ、そしてネイティヴの人類学者の位置づけを明確化した。この、世界システムの中心と周縁の関係性は、日本の文化言説を創造するローカルシステムと日本人文化人類学者の関係性と類似している。日本の文化人類学は、日本を研究対象地域から除いたことにより、このローカルシステムの外部者となったからである。従って、世界システムの周縁から中心を相対化しようとする桑山の試みは、日本国内のローカルシステムに対しても有効であると考えられる。本論では上記の具体例として、中世史家黒田俊雄の文化史モデル、具体的には黒田が「顕密仏教」と呼んだ中世的宗教体系、及びその背景となる神仏習合に基づく民俗文化論を取り上げる。神仏習合はフィールドで観察可能であるのに対し、それを軸とする民族誌的記述は数が少ない。その原因がローカルシステムの文化言説におけるイデオロギー性と近代性に帰せられる点を指摘し、フィールドからの新たな日本研究のあり方を提示する。