著者
石井 美保
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.147-147, 2008

本分科会では、憑依・夢・癒し・出産・老いを事例として、身体の規範化と偶発性の間を揺らぐ〈身体-自己〉のあり方を多面的に検討する。身体変容の経験を形成する言語行為や、日常と非日常の臨界における間身体的な共同性の生成とその破綻に着眼することを通して、日常的な秩序のコードから外れつつも、他との関係性の中で独自の健全さを模索する〈身体-自己〉の可能性を提示したい。
著者
加瀬澤 雅人
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.157-176, 2005

近年、アーユルヴェーダは世界的な医療となりつつある。南アジア地域固有の医療実践であったアーユルヴェーダは、今日では世界各地に拡大し、それぞれの地域で新たな解釈が加えられ実践されている。インドにおいてもアーユルヴェーダがグローバル化した影響は大きい。多くの患者が海外からインドに訪れるようになり、南インド・ケーララ州では、このような患者のための滞在施設が乱立し、アーユルヴェーダは一大産業となりつつある。世界とのかかわりのなかで、インドのアーユルヴェーダ実践は変容し再構成されているのである。しかし、アーユルヴェーダがグローバルな産業として発展している現状について、インド現地のアーユルヴェーダ関係者の不安もある。海外でアーユルヴェーダが医療ではなく「癒し」術として広がり、その一方でアーユルヴェーダの生薬や治療法にたいしては先進国の企業によって特許が取られていく。このような状況は、インドのアーユルヴェーダ医師や製薬関係者の海外進出を阻み、アーユルヴェーダを彼らの関与できない方向へと転換している。こうした状況のなかで、アーユルヴェーダの知識・技術に関する権利を国家的に保護し、インド主導で医療・産業としての可能性を世界規模で広げていくために、近年ではこれらの知的財産・技術をインドの「ナショナルな資源」として位置づける動きが生まれつつある。
著者
奈倉 京子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.615-634, 2016

従来の研究の中で、中国は中国系移民にとって揺るぎのない「故郷」であり、当事者と常につながりを維持している対象であることが自明視されてきた。これに対し本稿では、父方祖先の出身地とのつながりに着目しながら、実際に中国での生活を経験することになった中国系移民の個人が持つ通時的な中国認識のダイナミズムを考察する。 考察の対象とするのは、排斥や戦争のために帰国を余儀なくされた中国系移民の二世の人々で ある。突如、中国と直接的に関わることを余儀なくされた人々にとって中国とはどのような存在 なのだろうか。筆者は帰国華僑のコミュニティ調査に基づく2つのケースから、彼らの中国認識について分析した。 2つのケースから、彼らにとって中国を「故郷」と認められない状況が生まれていることが明らかになった。1つ目のケースは、当事者の矛盾する中国認識を示している。帰国後も父方祖先の出身地の親戚との付き合いを続けており、中国に愛着を感じてはいる。だが中国社会の目に見えない規範のために「故郷」から跳ね返されてしまう。もう1つのケースは、父方祖先の出身地との連絡が途絶えていることに加え、中国で生活を経験してきたどの場所に対しても愛着を持つことがない。当事者は中国よりも元移住先の地に親しみを抱いている。彼にとっての中国は、「故郷」を消失している状態の中で、物理的生活を営むいくつかの無機質な場の点在として現れている。 このような中国系移民の中国へのつながりのあり方は、クリフォードの「起源(roots)」と「経路(routes)」の考え方により説明できる。本稿のケースから、父方祖先の出身地を中心に据えるような本質的に理解されてきた「起源」が、「経路」によって意味づけ直されたり、変更されたりすることが明らかになった。本質的な「起源」への「経路」が持つ構築性を浮かび上がらせているのである。このような考え方は、中国系移民が中国との関係を所与のものとする従来の認識に再考をせまるものである。

1 0 0 0 OA 想像の主権

著者
井上 昭洋
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第48回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.105, 2014 (Released:2014-05-11)

本発表の目的は、現在のハワイ人主権運動を19世紀後半から現在に至るハワイ人の抵抗の歴史の中に位置づけ、主権運動に内在する問題や困難性を考察することにある。1860年代のキリスト教徒による宗教運動、19世紀末の反併合請願運動、20世紀初頭の民族主義的な政治活動から、1970年代に始まる社会運動、1980年代後半以降の主権運動や先住民の権利を巡る訴訟問題に至るまで概観し、今日の主権運動について考える。
著者
左地(野呂) 亮子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.177-197, 2013-09-30 (Released:2017-04-03)

住まいの空間をめぐる人類学の研究において、これまで、住居と象徴的、類比的関係をもつ身体や、空間の意味を読み解く媒体となる身体が注目されてきたが、感覚や運動を通して周囲の環境へと働きかけ、居住空間構築のプロセスに関与するような身体の経験については十分に議論されてきたとはいえない。そこで本論文では、フランスに暮らす移動生活者マヌーシュのキャラヴァン居住を事例として、環境や他者と関係を結びながら「方向=意味」を産出し、空間を「つくりあげる」身体の働きを明らかにすることを試みた。マヌーシュは、キャラヴァンという移動式住居を用いて野外環境を取り込んだ開放的な居住空間を構築するが、そこでは外部環境や他者との交わりの領域へと身体の正面を向ける独自の「構え」があらわれる。本論文では、このマヌーシュの身体の姿勢、ないしは環境や他者への構えを「身構え」と呼び、それが日常生活で出会い共在する他者との相互行為をどのように方向づけることで、キャラヴァン居住の空間構成にかかわるのかを検討した。そしてそれにより、マヌーシュの住まいの空間が、他者とのあいだで「共在感覚」を生み出しながら空間を拡張する身体の働きを通して構築されていることを明らかにした。
著者
山崎 幸治
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第45回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.37, 2011 (Released:2011-05-20)

本発表では、今後のアイヌを含めた文化人類学的日本研究の方法論開発に向けての素地を整えることを目的に、発表者のこれまでのアイヌ研究における実践から、現状における課題を提示し、今後の研究方法のあり方を展望する。日本の先住民族であるアイヌに関する研究の実践事例は、分科会副題『「日本人」がどのように日本を調査して日本語で語るか』に内包されている様々な問題を顕在化させよう。
著者
宮崎 あゆみ
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

本発表では、日本の中学校における長期のエスノグラフィを基に、どのように生徒たちが、いわゆる「女性語」「男性語」から乖離した様々なジェンダー一人称を使用し、自らの多様な一人称実践に解釈を加え、非伝統的なジェンダー言語イデオロギーの意味空間を構築していたかについて分析する。言語の解釈に注目することで、ジェンダー言語イデオロギーがどのように複雑化し、シフトしているのかをつぶさに観察することができる。
著者
大川 真由子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.25-44, 2004-06-30 (Released:2017-09-28)

本稿は、オマーンにおいて専門職として社会進出を果たしているアフリカ系オマーン人のエスニック・アイデンティティを明らかにすることを目的としている。具体的には1970年代以降のオマーン社会において、ネイティブ・オマーン人との関係性の中で、「ザンジバリー」という社会カテゴリーがどのように生成・表象されてきたのかを検討し、名称(「名づけ」と「名乗り」)、系譜、混血といって視点から彼らのエスニック・アイデンティティを分析する。一般的な移民と異なり、アフリカ系オマーン人は移住先だけではなく、祖国でも差異化されるという特徴をもつ帰還移民である。アフリカ系オマーン人は、東アフリカへの移住、スワヒリ化、ザンジバル革命、オマーンへの帰国というさまざまな歴史的経験を通じて、複雑なアイデンティティを形成した。本稿はこうした歴史的経験に加え、父系を強調するアラブの系譜意識が彼らのアイデンティティ形成に影響を与えることを指摘する。ネイティブ・オマーン人から「ザンジバリー」と呼ばれ、アラブとみなされていないにもかかわらず、アフリカ系オマーン人は系譜を用いてみずからのアラブ性を主張する。筆者は、「ザンジバリー」と「名づけ」られた側の「名乗り」や自意識のあり方の考察を通じて、彼らのアラブ性の主張のなかにも多様性が存在することを明らかにする。さらにはその主張が実践を伴わないことを示すことにより、彼らのエスニック・アイデンティティの揺れを描写することが可能となるのである。
著者
奥野 克巳
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第47回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.116, 2013 (Released:2013-05-27)

動物殺しは、一般に、人によって行われる動物殺しの面の問題検討に大きく傾いている。本分科会では、動物による動物殺し、動物による人殺し、人による人殺し、人の動物殺しを相互に比較検討することによって、動物殺しの論理と倫理について考察する。そのことは、動物殺しが人による動物殺しを中心に語られてきたことへの補正でもある。本分科会の目的は、動物殺しに関して、その人類学的な課題を浮かび上がらせることである。
著者
飯國 有佳子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.128-128, 2010

これまでミャンマー(ビルマ)の精霊信仰における霊媒については、当人のセクシュアリティが守護霊との関係性を決定し、精霊からの招命の証拠として夢に反映されるというフロイト的分析がなされてきた。本発表では精霊からの招命としての夢を、霊媒個人の心理に還元せず社会的な行為として捉えながら、夢が語られる/語られない状況の変化が、精霊信仰という文化的システムにいかなる変容をもたらしているのかを分析する。
著者
亀井 伸孝
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

近年の大学および学生を取り巻く環境の変化を受け、フィールドワーク教育いかに構想していくかについて、実践事例をもとに検討する。愛知県立大学国際関係学科では、2011年から実施しているフィールドワーク・フェスタ「旅の写真展」の実践を通じ、フィールドワークの振興を図っている。フィールドワーク教育においては、学生たちがすでにもっているモノなどに着目し、その潜在能力を引き出して活かすことも重要であろう。
著者
中村 八重
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

自治体や民間団体を主体として朝鮮通信使を見直す事業が振興している。これらは「日韓交流」を掲げる団体と各地の自治体による、地域を越えて記憶を共有しようとする試みとみることができる。本発表は、全国の各地で朝鮮通信使行列の再現が行われるようになった現象をとりあげこうした事業の発展過程で新たに作られていく記憶と忘却されていく記憶について論じる。
著者
山内 健治
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.243-243, 2008

沖縄戦における集団自決壕からの生存者に関する聞き取り内容の社会人類学的分析である。沖縄本島で1945年4月2日に起こった、通称、チビチリガマとよばれる83名の死者をだした避難壕の様子と日本軍・米軍との人間関係の構造を分析し、人類学者としてのその意味を考察する。事例は、チビチリガマからの生還者・ハワイ・オアフ島在住・上原進助氏のライフヒスリーを中心とする。
著者
根本 達
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.345-366, 2013

本論では後期近代の特徴が見られるインドの中間集団として、宗教社会運動の中で再創出されてきたナーグプル市の仏教徒(「不可触民」)集団を取り上げ、ヒンドゥー教から仏教への改宗運動に取り組む仏教徒活動家と、宗教を分断する活動家の働きかけを受けつつも宗教間の境界に立ち続ける「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」の視点に着目する。仏教徒たちは指導者アンベードカルの教えを基盤とする仏教徒共同体を創出している一方、生活世界から立ち上がる「親族」関係の網の目の中にもそれぞれの居場所を持っている。前者は「国民的同一性」の論理に依拠する閉鎖的で排他的な共同体であり、国際社会を宗教によって切断・分類するものである。そこでは「エンジニア」のやり方を基礎とする「分ける者」の連帯が構築されている。後者は「関係性による同一性」の論理に依拠し、水平的に拡張する対面関係の網の目であり、それぞれが家族的な愛情によって繋がっている。現在のナーグプル市では仏教への改宗運動における取り組みを通じて、排他的共同体と対面関係の網の目が対立しており、「過激派」を含め、仏教徒たちは「差別に抗する団結か、家族的な愛情か」という二者択一の問いの前でジレンマに直面している。このような中、「半仏教徒・半ヒンドゥー教徒」と呼ばれる仏教徒青年たちは抗議デモと日常的な喧嘩の間に類似性を見出し、排他的共同体と対面関係の網の目を繋ぎ合わせ、「団結か、愛情か」という二者択一のジレンマを乗り越えている。そこでは「ブリコルール」のやり方を基礎とする「繋ぐ者」の連帯が構築されている。不確実性を特徴とする後期近代において、「分ける者」の連帯の形成が排他的共同体間の対立に繋がるものである一方、「繋ぐ者」の連帯には別々の共同体に属する自己と他者が別の経路を通じて同一の連帯に参加する可能性が常に残されており、自己と他者の交渉の場が開いたままになっている。
著者
松田 ヒロ子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.549-568, 2016

1945年8月に日本が無条件降伏した際、台湾には約3万人の沖縄系日本人移民(沖縄県出身かあるいは出身者の子孫)がいたといわれている。そのなかには、1895年に日本が植民地化して以来、就職や進学等のために台湾に移住してきた人びととその家族や親族、戦時中に疎開目的で台湾にきた人びとや、日本軍人・軍属として台湾で戦争を迎えた沖縄県出身者が含まれる。本稿はこれらの人びとの戦後引揚げを「帰還移民」として捉え、その帰還経験の実態を明らかにする。沖縄系移民は日本植民地期には日本人コミュニティに同化して生活し、エスニックな共同体は大きな意味を持っていなかった。にもかかわらず、米軍統治下沖縄に引揚げの見通しが立たないまま、台湾で難民状態におかれた沖縄系移民らは、はじめて職業や地域を超えて全島的な互助団体「沖縄同郷会連合会」を結成した。中華民国政府からは「日僑」とよばれた日本人移民らは、原則 として日本本土に引揚げなくてはならなかったが、米軍統治下沖縄への帰還を希望した人びとは、 沖縄同郷会連合会によって「琉僑」と認定されることによって引揚げまで台湾に滞在することが特別に許可された。すなわち、帝国が崩壊し引揚げ先を選択することが迫られたときに、それまで日本人移民コミュニティに同化して生活していた人びとにとって「沖縄(琉球)」というアイデンティティが極めて重要な意味を持ったのである。しかしながら、「琉僑」として引揚げた人びとが須らく米軍統治下沖縄社会を「故郷」と認識し、また既存の住民に同郷人として受け入れられたわけではなかった。とりわけ台湾で幼少期を過ごして成長した引揚者たちは、異なる環境に適応するのに苦労を感じることが多かった。また、たとえ自分自身は沖縄社会に愛着と帰属意識を持っていたとしても、台湾引揚者は「悲惨な戦争体験をしていない人」と見なされ、「戦後」沖縄社会の「他者」として定着していったのである。
著者
箭内 匡
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第47回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.53, 2013 (Released:2013-05-27)

この発表では、ジャン・ルーシュの仕事の全体(民族誌映画のみならず、民族誌的・社会学的著作、劇映画、エスノフィクション映画、教育的活動など)、そしてその仕事の人類学内外への影響の全体を視野に入れつつ、近年多数公刊されてきたルーシュに関連する文献資料・映像資料を参照しながら、彼が「共有人類学」と呼んだものの根本的な特徴(友情、口頭伝承、メディア、生成、喜び)の描写を試みる。
著者
太田 好信
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.319-319, 2008

本発表は、政治学者と文化人類学者の両者が関心を示してきたテーマとして、先住民運動における政治とアイデンティティとの関係をめぐる議論の整理を目指す。具体的には、グアテマラ共和国の「マヤ民族」というアイデンティティを政治的アイデンティティの一例として再解釈する。最後に、政治的アイデンティティという視点から文化人類学におけるアイデンティティをめぐる一連の議論、文化による政治(運動)の是非などについて再考する。
著者
黄 潔
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

本報告は「憑く」という民俗現象に関する文化人類学的研究である。これまで積蓄してきた、日本民俗学の憑物信仰論や、中国華南少数民族の「蠱毒」に関する文化人類学研究の論点を、西南中国トン族の事例から考察する。調査地の語り及び呪術の実践のなかに表出する、鬼をめぐるトン族のもつ民間宗教や結婚禁忌との関係から、西南中国トン族の憑きもの信仰を論ずる。