著者
香坂 玲 内山 愉太
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.134-144, 2021-04-01 (Released:2021-06-26)
参考文献数
45
被引用文献数
5

2019年度に導入された森林環境譲与税(以下,環境譲与税)について,市町村は森林管理に関わり,税の使途も公表しなければならない。一方で市町村では受け皿の人材が不足しており,都道府県の支援が重要となる。本研究では,都道府県レベルにおいて①環境譲与税と府県単位の独自の超過課税(以下,県環境税)の使途の整理状況,②2020年度前後に設置された市町村支援の組織・会議体,③人事交流,④独自のガイドラインに着目して分析を行った。そもそも県環境税は各県に使途や背景に差異があり,全体比較には自ずと限界があるものの,二制度のすみ分けは主に間伐等の物理的な森林整備において府県間で対応が異なること等が特定された。支援では6県が独自にセンターを設置し,10府県が人事交流を実施し,県の普及員と市町村の職員を併任する制度を独自に導入した特徴的な事例(愛媛県)も存在した。17府県が森林経営管理制度または環境譲与税の独自のガイドラインを作成していた。41府県を対象とした定量分析では情報交換の会の設置状況は市町村数や私有林人工林面積率と相関があり,人事交流及びガイドラインの策定状況は譲与額との相関があった。
著者
原田 茜 吉田 俊也 Resco de Dios V. 野口 麻穂子 河原 輝彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.6, pp.397-403, 2008 (Released:2009-01-23)
参考文献数
14
被引用文献数
4 4

北海道北部の森林では, ササ地を森林化させるために掻き起こし施業が広く行われてきた。施業から6∼8年が経過した樹冠下の掻き起こし地を対象に, 9種の高木性樹種を対象として樹高成長量と生存率を調べ, それらに影響する要因(植生間の競争・促進効果)を明らかにした。成長量と生存率が高かったのはキハダとナナカマド, ともに低かったのはアカエゾマツであった。多くの樹種の成長は, 周囲の広葉樹または稚樹以外の下層植生の量から促進効果を受けていた。ただし, シラカンバについては, 施業後3∼5年目の時点では促進効果が認められていたものの, 今回の結果では競争効果に転じていた。一方, 生存率については, 多くの樹種について周囲の針葉樹による負の影響のみが認められた。密度または生存率の低かった多くの樹種に対して, 周囲のシラカンバやササの回復が負の要因として働いていないことから, 多様な樹種の定着を図るうえで, 除伐や下刈りの実行は, 少なくともこの段階では有効ではないと考えられた。
著者
田中 伸彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.155-167, 2014-06-01 (Released:2014-09-17)
参考文献数
21

里山に対する一般的な関心や嗜好の実態を明らかにする目的で,タイトルに里山を冠して過去に有償出版された公刊図書を対象に悉皆分析を行った。データの抽出には国立国会図書館の検索データベースNDL Searchを活用した。その結果,269件の「里山本」が確認され,最初の「里山本」は1985年に出版され,平成期とともにコンスタントに出版されるようになったこと,21世紀に入ってからは常に年10~20件程度の出版状況にあることが確認できた。対象読者は一般,児童,幼児向けのものが確認された。NDC分類の分析においては「里山本」は0~9類すべてのジャンルで確認されるという関心の全方位性が確認できた。都道府県のキーワード分析では,岩手県から沖縄県まで32の都府県から「里山本」が発信されていた。KJ法により書籍のキーワード分析を行った結果からは,七つの大分類,14の小分類に関心や嗜好が分類されるという結果を得た。上記の結果は,これまでの世論調査の質問設定項目や研究レビューによる報告よりも広い関心や嗜好を,一般市民が持つことを示していたため,これらの成果を里山施策にも活かす必要があることを指摘できた。

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著者
牧野 俊一
出版者
日本森林学会
雑誌
森林科学 (ISSN:09171908)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.48-51, 2006-02-01 (Released:2017-07-26)
著者
宮下 直
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.5, pp.321-326, 2008 (Released:2009-01-20)
参考文献数
22

クモ類は陸上生態系を代表するジェネラリスト捕食者であり,その約半数の種は植物上や地表に網を張って生活する造網性である。造網性クモ類は,捕食様式や生息場所が多様なうえに,餌や棲み場所の資源量や個体数などの把握が容易であるため,シカによるインパクトの研究には大変好都合な材料である。著者らは房総半島で,シカが森林の造網性クモ類に影響を与える仕組みや,クモの密度変化が餌昆虫に及ぼす影響を明らかにした。植生上のクモ類はシカ密度とともに減少したが,それには餌条件ではなく造網足場である下層植生の減少が効いていた。また造網性クモ類に寄生するイソウロウグモ類では,減少率がさらに顕著であった。一方,地表のリター上に造網するクモ類では,シカがいると増加する傾向があった。これは,地表の植物被度の減少が地表性種にとってはプラスに働いていることが原因と考えられた。さらに,シカの増加による植生上のクモ類の減少は,土壌由来の飛翔性昆虫類を増加させることがわかった。今後,こうした相互作用連鎖を理論面から一般化する試みが重要であろう。
著者
閔 庚鐸
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.1, pp.27-34, 2009 (Released:2009-03-24)
参考文献数
23

本稿は日本における製材業の生産構造や技術変化を分析したものであり, 1970∼2004年間の年次データを用いてトランスログ型費用関数を推定し, 投入要素の代替関係と価格弾力性, 規模の経済性, 技術発展の方向, 全要素生産性の成長率を計測した。生産構造の検討において, 同調性, 同次性, 単位代替弾力性, 中立的な技術発展, 技術変化なしの仮説が棄却され, 一般型関数を用いて分析を行った。投入要素は互いに非弾力的な代替関係にあり, 一つの要素の不足を他要素により代替し難いことを意味する。また, 製材業には規模の経済性が存在し, 生産規模が市場需要に相応していないことが明らかとなり, 生産規模を調整する必要があることが示された。次に, 製材業の技術は, 木材中立的, 労働節約的, 資本使用的に発展されたことが示された。最後に, 製材業の全要素生産性は微減の傾向にあり, 費用節減の技術発展が負の規模効果に相殺されていることが明らかになった。これは, 製材業において生産性を向上させるため規模効果の改善が重要な課題であることを示唆する。
著者
岡本 透 志知 幸治 池田 重人
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>東北地方の日本海側における江戸時代のスギの分布変化を解明するにあたり、秋田県を対象にして絵図の有効性を検討した。江戸時代初期の山地植生を正保国絵図とその郷帳により確認した。郷帳の山林の種別は、由利領は「芝山」「松山」など細分されていたが、秋田領は森林全般を示す「はへ山」のみであった。国絵図の描写を郷帳の記載と比較すると、由利領はおおむね山林種別ごとに描き分けられていた。一方、秋田領は「はへ山」にあたる場所に「杦山」「雑木」と注記があり、針葉樹と広葉樹が描き分けられていた。秋田藩では17世紀後半には森林資源の減少が進み、領内の森林資源の調査が進められた。山絵図が作成された地域では、その注記により当時の植生や林相の推測が可能である。また、同時期に作成数が増加した山論、水論などに関わる裁許絵図の中にも植生や土地利用が詳しく記載されるものがあり、利用することができる。秋田藩は19世紀始めに抜本的な林政改革を行い、山林区分ごとに絵図を数多く作成した。こうした大縮尺の山絵図では、描写による情報だけでなく、樹種や林相が注記されることが多いため、当時の植生の分布や状況を把握することができる。</p>
著者
芝 正己
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>「土地純収益説」と「森林純収益説」の論争の渦中の1885年, H.v.ザーリッシュの『森林美学』の初版が刊行された(1902年:第2版, 1911年:第3版が刊行)。この第2版の英訳本が米国ジョージア大学のW.クックJr.とD. ヴェーラウにより2008年に出版され,2018年の昨年,その日本語翻訳版が出版された。かって日本では,1918年に北大の新島善直と村山醸造が『森林美学』として, 当時のドイツの森林施業法や美学的分析法を北海道の天然林に応用を目指した。これは,我が国の森林美学に関する大系化された初めての書物であり,今田敬一による「森林美学の基本的問題の歴史と批判」の研究へと受け継げられることになる。近年,エコツーリズムやレクリエーション,森林セラピーなど生態系サービスの文化的価値が認識されてきており,森林美学はその価値を具現化するツールとして今日的意義を見出そうとしている。 本研究では、沖縄島北部やんばる地域の国立公園・世界自然遺産化の動向を念頭に、その現代的意義を論考する。</p>
著者
松岡 真如 小野寺 栄治 川上 利次 高野 一隆 木村 穣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.193-200, 2018-12-01 (Released:2019-02-01)
参考文献数
15

衛星からの電波を受信して位置を知ることのできる Global Navigation Satellite System (GNSS) 受信機は林業の現場に普及している。GNSS で計測された座標には位置誤差が常に含まれている。したがって,その座標を用いて計算した面積も誤差を持っている。面積誤差の大きさが分かれば,直接的に測量の精度を知ることができ,森林資源の管理に役立つと考えられる。本論文では,位置座標と位置誤差(標準偏差)とから面積の標準偏差を求める方法を説明する。また,誤差を含む座標を用いて計算された「面積の標準偏差の近似値」を面積の精度を示す指標として利用することを提案する。この近似値のあてはまりの良さを評価するため,本論文では GNSS による周囲測量を模した数値実験を行った。その結果,90%以上の実験条件において,近似値は実測値±3%の範囲に収まった。加えて,提案した指標を実際のデータに適用し,利用方法の例を示した。これらにより,提案した指標が GNSS 測量で得られた面積の精度評価に利用できる可能性が示された。
著者
田中 洋太郎 勝山 正則 長野 龍平 鷹木 香菜 谷 誠
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

滋賀県南部の桐生試験地において、鉛直及び横方向の地中水移動過程における溶存有機態炭素の動態解明を目的に、土壌水、地下水、渓流水を採取し、三次元蛍光分析を行った。検出されたピークは、難分解性フルボ酸様物質(A)、易分解性フルボ酸様物質(C)、変質性フルボ酸様物質(M)、アミノ酸様物質(T)であった(Wu et al., 2009)。土壌水のフルボ酸様物質の蛍光強度は表層0-20cmの鉛直浸透過程で分解・吸着によって急低下した。下層では蛍光強度が表層に比べ緩やかに低下するとともに、ピークM,Tが複数回確認された。地下水帯表層でも強度の低下が継続した。しかし、地下水帯下層では再び蛍光強度が上昇し、ピークC,Mが下層土壌層 と同程度の強度になった。Katsuyama et al. (2005)は、地下水帯下層が斜面部で基岩に浸透した地下水によって涵養されることを示したが、本結果はこの水が土層の蛍光特性を保持したまま移動することを示唆する。飽和帯地下水帯での横方向移動から渓流流出に至る過程では蛍光強度の変動は小さかった。以上から、DOC蛍光特性は地下水帯に至るまでに概ね決まるとともに、渓流へのDOC供給源を考える場合、地下水帯の層位に着目した質の評価が必要である。
著者
岩澤 勝巳
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

千葉県では、県中部~南部を中心にイノシシが生息域を拡大し、農作物の被害が大きな問題となっている。一方、千葉県では放置された竹林が周囲に拡大し、これらの竹林がイノシシの隠れ場所・餌場になって生息域の拡大要因の1つになっている可能性が指摘されている。そこで、対策の基礎資料とするため、モウソウチク林におけるイノシシの出没状況を無人センサーカメラで調査するとともに、イノシシによる掘り返し等の食害状況を調査し、隣接した人工林と比較することで、モウソウチク林の餌場としての評価を行った。 調査の結果、イノシシは人工林に比べてモウソウチク林に年間を通して多く出没し、特に晩秋と春に多く出没した。一方、掘り返しは夏と晩秋~春に多く認められ、夏には新しく伸長した地下茎を、晩秋~春にはまだ地下にあるタケノコを掘り出して食害していた。このことから、モウソウチク林は周辺に餌が多い秋などの時期を除いて、イノシシの重要な餌場になっていると考えられた。