- 著者
-
久米 篤
- 出版者
- 日本森林学会
- 雑誌
- 日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
- 巻号頁・発行日
- pp.728, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)
日本の中部山岳地域の森林限界上部ではハイマツ植生が広い範囲で優占しており,このような場所は,土壌発達の制限された貧栄養な環境であると推測されてきた.しかし,立山の山頂付近の栄養塩循環を調べた結果,山麓と同程度かそれ以上の大気窒素沈着があり,ハイマツはこれを葉面から効率的に吸収しており,さらに植生が利用している栄養塩類のほとんどは,黄砂や酸性雨などの大気由来であることが明らかになった.一方,ハイマツは山頂部から分布下限にかけて大型化するが,これには土壌発達の影響も示唆されている.そこで,土壌条件の影響を明らかにするために,立山室堂付近の標高や立地の異なる4つの群落で,有効土壌率と体積土壌含水率を測定し,有効土壌水分量(EWC)を求め,地上部の形態と比較解析を行った.その結果,ハイマツの平均群落樹高,当年枝伸張量や平均針葉長はEWCと高い正の相関を示した.この結果は,大気からの栄養塩類供給増加は,土壌と根圏の伸長にともなう根圏のバッファーサイズ,すなわち有効土壌容積によって影響が異なり,土壌の富栄養化よりかはポットサイズ効果としての容積増大が地上部成長の重要な要因であると考えられた.