著者
岡崎 千聖 逢沢 峰昭 森嶋 佳織 福沢 朋子 大久保 達弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.4, pp.116-123, 2018-08-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
56

群馬県では県北部のみなかみ町において2010年に初めてナラ枯れが発生した。このような飛び地的被害を起こしたカシノナガキクイムシ個体群の由来について,隣接県から近年自然または人為的に移入した,遠方から人為的に移入した,在来由来の三つの仮説が考えられた。もし,移入個体群であれば遺伝的多様性の低下や遺伝的に遠い系統がみられると予想される。本研究ではこれらの仮説を遺伝解析に基づいて検証した。みなかみ町およびナラ枯れの起きている近隣6県において,カシノナガキクイムシ試料を採集し,核リボソームDNA,ミトコンドリアDNAおよび核マイクロサテライト(SSR)を用いて遺伝解析を行った。核リボソームDNAおよび核SSRの遺伝構造解析の結果,群馬個体群は福島や新潟と同じ日本海型の北東日本タイプに属したことから,南西日本から人為的に移入したものではないと考えられた。また,ミトコンドリアDNAと核SSRを用いて各個体群の遺伝的多様性を調べた結果,群馬個体群の遺伝的多様性は低くはなく,他個体群と違いはなかった。よって,群馬個体群は近年の移入由来ではなく,在来由来と考えられた。
著者
田中 正臣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第129回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.186, 2018-05-28 (Released:2018-05-28)

【目的】ナラ枯れによる枯死木の処理について、資源の有効利用という観点から、枯死木のシイタケ原木への利用について検討した。【方法】ナラ枯れによって枯死したコナラ(胸高直径66.3cm)を約20cmに玉切り・小割し、ポリプロピレン製のフィルター付き耐熱性の袋に詰めた。それをドラム缶内で原木の材内温度が50℃を超えるまで蒸すことによって材内のカシナガを殺虫するとともに原木を殺菌した。原木が冷めた後、シイタケのオガ菌を袋中に振りかけ、室内に安置した。シイタケ菌が原木に蔓延してから袋から取り出し、原木を半日陰の林内に置床した。置床後、4年間に発生したシイタケ(子実体)の発生個数と生重量、傘の大きさを測定した。【結果】ナラ枯れによる枯死木(大径木)でもシイタケ原木として利用可能であることがわかった。シイタケ(子実体)は植菌後、1年目で子実体が発生した。発生個数、生重量は2年目が最も大きかった。発生した子実体の傘の大きさは、徐々に小さくなる傾向が見られた。総発生量(原木重量に対する生重量(%))は原木によって差があり、心材の影響が一因と考えられた。
著者
佐藤 都子 長谷川 陽一 稲永 路子 瀧 誠志郎 逢沢 峰昭 高田 克彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.274, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

広義ヒノキ科に属するアスナロ属は日本固有の常緑針葉樹であり、北方変種のヒノキアスナロ(Thujopsis dolabrata var. hondae)(以下、ヒバとする)と南方変種のアスナロ(Thujopsis dolabrata)が知られている。これまでの研究から、アスナロ属21集団を対象に系統地理的な遺伝構造解析を行った結果、(1)ヒバとアスナロがそれぞれ単系統に分かれること、(2)群馬県水上集団では2変種の遺伝組成を共有しており、交雑が発生している可能性が示された。アスナロ属2変種の分布は群馬県や栃木県等の関東北部地域で重複しており、この地域に存在するアスナロ属集団の遺伝構造は不明な点が多い。 本研究では2変種の分布域が重複する地域に着目し、新たに栃木県日光の天然集団を集団遺伝解析に加えた。その結果、栃木県日光集団は、群馬県水上集団と共にアスナロのクレードに含まれることが示された。さらに、2変種の分布重複域の遺伝構造に関する知見を得るため、栃木県日光集団を対象に集団内の空間遺伝構造解析を行っている。
著者
久米 篤
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第127回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.728, 2016-07-08 (Released:2016-07-19)

日本の中部山岳地域の森林限界上部ではハイマツ植生が広い範囲で優占しており,このような場所は,土壌発達の制限された貧栄養な環境であると推測されてきた.しかし,立山の山頂付近の栄養塩循環を調べた結果,山麓と同程度かそれ以上の大気窒素沈着があり,ハイマツはこれを葉面から効率的に吸収しており,さらに植生が利用している栄養塩類のほとんどは,黄砂や酸性雨などの大気由来であることが明らかになった.一方,ハイマツは山頂部から分布下限にかけて大型化するが,これには土壌発達の影響も示唆されている.そこで,土壌条件の影響を明らかにするために,立山室堂付近の標高や立地の異なる4つの群落で,有効土壌率と体積土壌含水率を測定し,有効土壌水分量(EWC)を求め,地上部の形態と比較解析を行った.その結果,ハイマツの平均群落樹高,当年枝伸張量や平均針葉長はEWCと高い正の相関を示した.この結果は,大気からの栄養塩類供給増加は,土壌と根圏の伸長にともなう根圏のバッファーサイズ,すなわち有効土壌容積によって影響が異なり,土壌の富栄養化よりかはポットサイズ効果としての容積増大が地上部成長の重要な要因であると考えられた.
著者
廣田 充
出版者
日本森林学会
雑誌
森林科学 (ISSN:09171908)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.38-39, 2017 (Released:2017-04-14)
参考文献数
3
著者
加藤 珠理 松本 麻子 勝木 俊雄 岩本 宏二郎 中村 健太郎 石尾 将吾 向井 譲 吉丸 博志
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第125回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.303, 2014 (Released:2014-07-16)

‘枝垂桜’は野生のサクラであるエドヒガンから生じた突然変異体であると考えられ、筆者らが行ったこれまでの研究成果においても、その可能性は支持されている。現在、‘枝垂桜’には複数の系統が存在するが、それらの起源は原種であるエドヒガンから、一回だけ生じた変異個体に由来するものか、それとも、独立に生じたいくつかの変異個体に由来するものかはわかっていない。また、原種である野生のエドヒガンについても、どの地域のエドヒガンがもとになって、‘枝垂桜’が生じたのかについてはわかっていない。この研究では、‘枝垂桜’の起源に関する様々な疑問を解決するために、‘枝垂桜’とその原種であるエドヒガンの関係を集団遺伝学的手法に基づいて評価し、考えられうる可能性を示したいと思う。研究材料としては、全国各地から収集され、多摩森林科学園で保存・管理されている‘枝垂桜’を用いた。比較のために用いるエドヒガンは複数の地域からサンプリングした集団を用いた。SSRマーカーを用いたDNA分析により、‘枝垂桜’とエドヒガン集団の遺伝構造について比較解析を行っており、本発表ではその結果について報告する。
著者
木庭 慧 竹内 啓恵 上原 巌
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

内閣府の調査(2011)によると、森林へ行く目的は「優れた風景、景観を楽しむ」との回答が最も多く、人がどのような森林景観を好むかを把握することは重要である。 そこで本研究では、森林において快適さを感じさせる要素のひとつであり、林相によって異なる色彩を切り口に、人がどのような色彩の森林を好むのか考察した。 調査は林相の異なる6プロットと、対照区(東京農業大学構内、和泉多摩川河川敷)において、写真撮影とアンケートを実施した。撮影した画像は代表色を抽出し、RGB値の三次元グラフ内での分布から色の豊かさを考察した。アンケート調査では、回答からプロット毎に全体の好感度と色の好感度を算出した。 その結果、林内では色の好感度と全体の好感度とで正の相関関係が認められたほか、対照区に比べ林内のプロットの方が、色の好感度が全体の好感度に影響を与えていた。 林相では、常緑樹林と対照的に落葉広葉樹林の好感度、色の豊かさが高く、より好まれることがわかった。一方の常緑樹林は、好感度と色の豊かさが共に低かったが、落葉広葉樹林を引き立てる重要な役割があり、両者のバランスが快適な林内景観を造る鍵になると示唆された。
著者
庄司 徳四郎
出版者
日本森林学会
雑誌
林學會雑誌 (ISSN:21858187)
巻号頁・発行日
vol.11, no.12, pp.660-669, 1929-12-10 (Released:2009-02-13)
著者
藤木 大介
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.458, 2013 (Released:2013-08-20)

兵庫県本州部のコナラ林約200林分を対象に2005年~2012年の8年間、目視によりコナラ堅果の豊凶を観測した。その結果、コナラ堅果の結実には県域スケールで年次的な豊凶があることが確認された。一方で、豊凶の同調性の強さは地域的な差異があり、兵庫県内でも同調性が強い地域と弱い地域があることが示唆された。発表では、これらに加え、豊凶に影響する気象要因についてアメダス・データを用いた解析結果についても示したい。
著者
梶村 恒
出版者
日本森林学会
雑誌
森林科学 (ISSN:09171908)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.17-25, 2002
参考文献数
21
被引用文献数
1
著者
小池 伸介 正木 隆
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.26-35, 2008 (Released:2008-10-15)
参考文献数
118
被引用文献数
17 24

食肉目による果実食の実態を把握するため,ツキノワグマ,テン,タヌキの3種を対象に,文献情報に基づいて果実の利用を分析した。その結果,ツキノワグマとタヌキは高木・ツル植物の果実をよく利用していたが,テンは低木とツル植物果実をよく利用していた。ツキノワグマは液果だけではなくブナ科の堅果などをよく利用していた。このような種間差は,高木の樹冠部にアクセスできる能力や利用する果実タイプが種によって異なるためと考えられた。また,ツキノワグマは脂肪分に富む果実を利用する傾向を示したが,他2種はそれらをあまり利用していなかった。これは冬季の冬眠の有無を反映していると考えられた。さらに,いずれの種も多くの樹種の液果を利用していることから,森林における種子散布者として重要な機能を果たしている可能性が高いと考えられた。
著者
石橋 聰
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

森林を管理していくうえでその成立過程を知ることは重要であるが、北海道の針広混交林の場合少なからず火山の爆発による噴出物等の影響を受けており、その林分推移を調べることで施業への貴重な知見を得ることができると考えられる。そこで本研究では、北海道中部の十勝岳の爆発による泥流跡に成立した森林において61年間観察を続けたデータを用いて、その林分推移を解析した。調査地は十勝岳山麓標高700mの美瑛川左岸にあり、安政年間(1854~1860)の十勝岳爆発による泥流跡に成立した林分内にある。設定は1954(昭和29)年で、調査区面積は1ha(100m×100m)である。 その結果、立木本数は61年間減少傾向を示し、調査開始時のほぼ半分の本数となった。一方、林分材積は増加し続けていたが、10年前をピークに減少に転じた。これはこの10年間にエゾマツ、トドマツ大径木の枯死が多く発生したためであり、二次林が成熟林に移行しつつあるとみられる。また、林型については下層に広葉樹の更新木が見られることから、今後は単層林型から複層林型へ変化していくと予想される。
著者
小塩 海平 山仲 藍子 嶋田 昌彦 椎野 太二朗 鶴岡 邦昭 柴山 俊朗
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.43-47, 2011
被引用文献数
1

オレイン酸およびオレイン酸誘導体非イオン系界面活性剤 (対照区 (水), ジグリセロールトリオレート5%, グリセロールジオレート5%, グリセロールモノオレート5%, ペンタエリスリトールジオレート5%, ソルビタン脂肪酸トリエステル (16, 18, 18: 1, 18: 2, 18: 3) 5%, オレイン酸5%, ソルビタントリオレート5%) をスギに散布処理し, 雄花に対する選択的褐変効果を評価した。供試した界面活性剤はいずれもスギ雄花に対する選択的褐変効果を有しており, ソルビタントリオレートはその高い褐変効果を示した。供試した界面活性剤のHLB値 (親水–親油バランス) が低いほど, スギ雄花の褐変に及ぼす影響が大きく, いずれの界面活性剤処理でも,スギ雄花からのエチレン生成が抑制された。これらのオレイン酸誘導体非イオン系界面活性剤処理は, 今後, スギ花粉飛散防止技術として実用化が期待される。
著者
栗生 剛 衣浦 晴生 中森 由美子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

紀伊半島で発生しているカシノナガキクイムシの防除手法を検討するため,樹種およびウバメガシ幹サイズの違いによる発生頭数,及びコナラ・ウバメガシが優占する林分での被害推移を調査した。発生頭数調査はカシナガ穿孔被害を受けた常緑広葉樹林(試験地A,B)で行った。試験地Aではコナラとウバメガシ穿入生存木に各5本,Bではウバメガシ大径木4本と小径木5本に羽化トラップを取り付け,6月から11月の毎週,トラップを回収した。また,試験地Aに調査区(面積0.3ha)を設定し,DBH10cm以上のブナ科樹木を対象に胸高直径,高さ2m以下の穿孔数を2年間調査した。ウバメガシの穿入生存木からの平均発生頭数はコナラよりも多く,ウバメガシの小径木(平均DBH11cm)においても,大径木(平均DBH21cm)と同程度の発生頭数であった。林分調査では,累積被害率は2年間共にシイ>コナラ>アラカシ>ウハ゛メカ゛シであった。1年目の平均穿孔数はコナラ>ウハ゛メカ゛シ>シイ>アラカシ,2年目はコナラ>アラカシ>ウハ゛メカ゛シ>シイとなった。これらから被害発生初期林分ではコナラ,ウバメガシの取り扱いが重要であると考えられた。
著者
松本 剛史 佐藤 重穂
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.5, pp.238-242, 2015-10-01 (Released:2015-12-23)
参考文献数
20

キバチ共生菌キバチウロコタケを人工的に接種したヒノキ丸太と対照丸太を2013年春期に野外に設置し, キバチ類に産卵させた。すると2014年度春期から夏期にかけてキバチ類が羽化脱出してきた。羽化脱出してきたキバチ類は全てオナガキバチであった。また, 羽化脱出してきたオナガキバチは全てキバチウロコタケ接種丸太からであった。産卵選好性の比較でも接種丸太を好んで産卵していることが明らかとなった。またキバチウロコタケ子実体発生丸太での成虫発生数が多く, 繁殖成功度も高かった。本試験によって野外においてもキバチ共生菌が接種された材を選好して産卵・羽化脱出していることが明らかとなった。
著者
宮下 智弘
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.369-373, 2007 (Released:2008-08-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1

スギ挿し木苗と実生苗の多雪地帯における造林初期の成育特性を比較した。互いに近距離に設定され,環境条件も類似している挿し木検定林と実生検定林の組合せを選択した。挿し木検定林には挿し木苗が,実生検定林には実生苗が植栽されている。選択された挿し木検定林と実生検定林の各組合せにおける同一系統の挿し木クローンと実生後代のデータをデータセットと定義し,三つのデータセットを用いて解析した。挿し木苗と実生苗の5年次生存率は同程度であったが,挿し木苗の10年次生存率は実生苗より明らかに低かった。枯死の原因の多くは,幹折れまたは根元折れであった。実生苗と比べ,挿し木苗の根元曲がりと樹高は小さかった。以上の結果から,挿し木苗は根元曲がりが少ないものの,成長にともなって多発する幹折れのために,生存率は低下することがわかった。挿し木苗の劣った樹高成長は,埋雪期間を長期化する。したがって,多雪地帯における挿し木造林は,雪圧による折損被害のため,生存個体数が少なくなる危険性が高いことが示された。
著者
後藤 秀章
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.479-485, 2009 (Released:2010-03-12)
参考文献数
45
被引用文献数
3 6

日本産キクイムシ類の分類について, これまでの研究史を述べるとともに, キクイムシ類研究の基礎的資料として, 日本産キクイムシ類の学名, および和名のリストを作成し, その中で5種について新たに和名を与えた。その結果日本産のキクイムシ類はキクイムシ科302種, ナガキクイムシ科18種が記録されていることがわかった。