著者
玉木 一郎 畑中 竜輝
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

フモトミズナラは東海地方と関東地方の一部に生育するコナラ属の希少樹種である。本研究では,自生地が多く存在する岐阜県の14集団417個体を対象に,それらの遺伝的多様性の程度や遺伝的分化の程度を明らかにすることを目的とした。自生地を網羅する14地域から,集団あたり約30個体の葉サンプルを採取した。DNAを抽出し,EST-SSR7座の遺伝子型を決定した。各集団における<i>H</i><sub>E</sub>と対立遺伝子数は,それぞれ平均(SD)0.745(0.012)と8.8(0.5)の値を示し,集団間のばらつきは小さかった。<i>G</i><sub>ST</sub>とHedrickの<i>G'</i><sub>ST</sub>は,それぞれ0.009と0.049の値を示し,遺伝的分化は6/7座で有意であった。しかし,<i>D</i><sub>A</sub>遺伝距離に基づくNJ樹からは明瞭な地理的傾向は認められず,地理的距離とDA遺伝距離の相関も有意ではなかった(r = 0.062; P = 0.659)。STRUCTURE解析においても,単一の任意交配集団が支持されたことから,岐阜県のフモトミズナラの遺伝的分化の程度は弱いことが示唆された。今後は同じ地点から採取した近縁種かつ普遍種のコナラと遺伝的変異の程度を比較する予定である。<br>
著者
大谷 雅人 岩泉 正和 佐藤 新一 宮本 尚子 矢野 慶介 平岡 宏一 那須 仁弥 高橋 誠
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

林木遺伝資源の生息域内保存を進めるにあたっては、集団内の遺伝的変異の維持機構を明らかにすることが重要である。本研究では、中間温帯林の主要な遷移後期樹種であるモミを対象として、花粉及び種子を介した遺伝的流動の様態を分析した。福島県いわき市の固定試験地(約1 ha)の7地点において2002年、2005年、2010年に採取された自然散布種子のうち約650粒の胚と雌性配偶体、および試験地内の成木327個体について、SSR12遺伝子座における遺伝子型を決定した。種子散布量には豊作年と並作年の間で約5倍の差が認められたが(125.2~652.9粒/m<sup>2</sup>)、試験地外からの遺伝子流動の割合は調査した3繁殖年次間でほぼ一定であった(種子経由:約13~15%、花粉経由:53~57%)。種子親・花粉親として寄与した試験地内の成木の個体数や多様性についても、繁殖年次による差異は認められなかった。ただし、複数年にわたって種子親・花粉親として寄与した個体は3繁殖年次の寄与個体ののべ数のそれぞれ60.3%、42.4%にすぎなかったことから、各成木個体の雄性・雌性繁殖成功は年次ごとに大きく異なることが示唆された。
著者
長谷川 陽一 吉田 明弘 三嶋 賢太郎 高田 克彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

花粉化石に含まれる分解が進んでいるDNAを解析するためには、1細胞あたりに多数コピーが含まれる細胞質DNAを用いる必要がある。スギの葉緑体DNA(cpDNA)には、多くのマイクロサテライト(SSR)領域が含まれていることが明らかになっているが、スギの葉緑体SSRの多様性を天然林集団で明らかにした研究はない。そこで本研究では、高標高のスギ天然林集団として八甲田山1・2と秋田駒ケ岳カルデラ内の3集団を、低標高の集団として鰺ヶ沢、碇ヶ関、仙岩峠、鳥海、雄勝峠の5集団を対象として葉緑体SSR18座とクローン識別用に核SSR5座を用いた解析を行った。高標高の集団の、八甲田山1では全10サンプルが1クローンと、八甲田山2では全45サンプルが8クローンと、秋田駒ケ岳では全19サンプルが1クローンと推定された。また、八甲田山2における8クローンは全て、葉緑体SSRを使っても識別することが可能であった。低標高の集団では、69%~96%の個体が葉緑体SSRマーカーによって識別可能であった。これらの結果から、スギ天然林集団において葉緑体SSRマーカーに遺伝的多様性があることが明らかになり、花粉化石のDNA解析に使用できると考えられた。
著者
村瀬 仁美 上山 洋平 小林 達明 高橋 輝昌 徳地 直子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P1043, 2004

関東地方の暖温帯に分布するコナラ二次林群落としてクヌギーコナラ群集、クリーコナラ群集等が知られている。互いに丘陵地を中心にその分布域を接している。土壌条件で前者は、孔隙率が高く、A層が深く腐植に富み、pHが相対的に高い理化学性の良好な土壌に主として立地し、後者は、孔隙率が低く、A層が浅く腐植が相対的に乏しく、pHが低い強酸性の理化学性の悪い土壌に立地している(辻、1991)。一般的に、前者のような土壌の窒素の無機化速度は、後者のような土壌に比べると速く、硝化率も大きいと考えられる。また、硝酸態窒素を利用する植物は硝酸還元酵素活性(Nitrate Reductase Activity:NRA)も高くなると考えられる。Tokuchiら(1999)は、花崗岩質山地の斜面下部で無機化速度が速く、硝化率も高く、斜面上部では逆の傾向があることを示し、それらの立地に対応した植物-土壌系が成立することを示唆している。Koyama&Tokuchi(2003)は、それらの立地を代表する樹種3種の実生の硝酸還元酵素活性を調べ、立地の硝化能力と対応することを示した。<BR> 本研究では、平面的に群落分化が見られる狭山丘陵で植物-土壌系の関係を調べようとした。<BR> 調査地は、東京都武蔵村山市および瑞穂町と埼玉県所沢市に広がる東西11km、南北4kmの狭山丘陵の西端にあたる野山北・六道山公園内のコナラ、クヌギなどの様々な夏緑樹林が混生する林分に設けた。対象樹種は、アオハダ、アカマツ、ヒノキ、アカシデ、イヌシデ、クリ、クヌギ、アラカシ、コナラ、ムクノキ、エノキ、コウゾ、コブシ、クロモジ、ミツバアケビ、ヒサカキ、コアジサイ、ウワミズザクラ、モミジイチゴ、ネムノキ、フジ、ウリカエデ、アカメガシワ、ヌルデ、イヌツゲ、マユミ、ゴンズイ、アオキ、ミズキ、リョウブ、ネジキ、ヤマツツジ、エゴノキ、マルバアオダモ、ムラサキシキブ、クサギ、ウグイスカグラ、ガマズミ、コバノガマズミ、オトコヨウゾメ、サロトリイバラ、アズマネザサの計42種で、2003年8月下旬から10月上旬の晴れた日の10時30分から12時30分の間に各樹種、3個体ずつ葉をランダムに採取し、Havill et al.(1974)に従い、NRAを測定した。<BR> 各樹種のNRAは数値が高い順に、ムクノキ・ミツバアケビ・コウゾ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・マルバアオダモ・モミジイチゴ・ヌルデ・ウグイスカグ・イヌシデ・リョウブ・クサギ・エゴノキの「高」グループ15種、ミズキ・コナラ・イヌツゲ・アラカシ・アカメガシワ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの「中」グループ9種、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・フジ・ネムノキ・コアジサイ・クヌギ・ヤマツツジの「低」グループ8種、サルトリイバラ・ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの「なし」グループ6種と区分された。これらをクヌギーコナラ群集とクリーコナラ群集の2つの植生タイプに大別すると、クヌギーコナラ群集は、「高」グループが、ムクノキ・コブシ・ムラサキシキブ・エノキ・アズマネザサ・ヌルデ・イヌシデ・エゴノキの8種、「中」グループが、コナラ・アラカシ・マユミ・ガマズミ・アカシデ・ゴンズイの6種、「低」グループが、フジ・クヌギ・ヤマツツジの3種、「なし」グループが、サルトリイバラ・ヒサカキの2種の計19種となり、クリーコナラ群集は、「高」グループが、ミツバアケビ・マルバアオダモ・ウグイスカグラ・リョウブ・エゴノキの5種、「中」グループが、コナラ・イヌツゲ・アラカシ・ガマズミ・アカシデの5種、「低」グループが、ウリカエデ・アオハダ・コバノガマズミ・ネムノキ・コアジサイ・ヤマツツジの6種、「なし」グループが、ヒサカキ・クロモジ・ウワミズザクラ・ネジキ・クリの5種の計21種となった。<BR> NRAが「高」や「中」を示した樹種は理化学性の良好な土壌に主に生育しているものがほとんどであった。また、例外はあるものの、同科の種のNRAは同グループに属している傾向を示した。<BR> 以上から、クヌギーコナラ群集ではNRAが「高」、「中」の樹種が多く、クリーコナラ群集はクヌギーコナラ群集に比べ、「低」、「なし」の樹種が多くなったことから、狭山丘陵を構成している樹種のNRAは2つの植生タイプに対応する傾向があることが示唆された。
著者
農林科1、2学年白井勇斗、柳瀬聡子、影山雅晃、清水渚
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

大島高校さくらプロジェクトとは、日本一早いお花見ができる伊豆大島の観光名所を生徒の手で作ることを目的に、平成24年度から活動を開始した長期的なプロジェクトである。<br> 私たち東京都立大島高等学校の地元、伊豆大島には、大島で育種開発された「夢待桜(ユメマチザクラ)」という、1月~2月に淡いピンクの花を咲かせる新種の桜がある。大島高校では、この「夢待桜」を全校生徒の手で接ぎ木繁殖して苗木を作り、10年後、20年後の桜並木をイメージしながら校内の通路沿いなどに計画的に植樹している。<br> これまでに、大島高校敷地内の他にも、島内の企業と連携して幅広く植樹していただくなど、私たちが育てた150本以上の苗木が有効活用されている。また、全校で取り組む活動であるため、接ぎ木や植樹の体験を通じて、多くの生徒に農業技術や環境活動に興味を持ってもらっている。<br> また、この桜の木の繁殖は、日本全国どこでも実施できる取り組みである。大島高校ではこのプロジェクトの成果を「高校生による桜の繁殖ガイドライン」として、全国の高校でも展開できるような夢のある活動にしていきたい。
著者
鶴田 燃海 向井 譲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.125, 2014

SSRマーカーを用い、日本のサクラを代表する園芸品種ソメイヨシノの連鎖地図を構築した。Mapping pedigreeにはソメイヨシノ(CY)を種子親、野生種のエドヒガン(E750)を花粉親としたF<sub>1</sub>の実生178個体を用いた。Pseudo-testcross法により、50のSSRが座乗した、期待される8連鎖群からなる384.8cMのCY mapおよび、SSR11座からなる130.3cMのE750の部分地図が構築された。<br>このソメイヨシノとエドヒガンとの交雑による実生のうち101個体は、生育不全により本葉の展開から数ヶ月以内に枯死した。実生でみられた生育不全は雑種不和合の一つと考えられ、構築した地図にこの生育不全(HIs: Hybrid inviability of seedlings)のマッピングを試みた。<br>HIsと関与する遺伝子領域を、健全な実生と生育不全の実生とでマーカー分離比の歪みの比較を行うことにより、また遺伝子型と形質との関連解析および、QTL/MTLマッピングにより探索した。これらの結果はすべて、HIsがCY mapの第4連鎖群、BPPCT005およびBPPCT010マーカー間の12.3cMの領域に位置することを示した。
著者
加藤 珠理 勝木 俊雄 岩本 宏二郎 松本 麻子 吉丸 博志
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

サクラには多種多様な栽培品種があり、全国各地の植物園等で収集・保存されている。著者らによるこれまでの研究では、多摩森林科学園、国立遺伝学研究所、新宿御苑で保存されている主要なサクラの栽培品種についてDNA分析を行い、クローン性を整理してきた。この結果と照合することで、他の集植機関・地域(松前公園、日本花の会結城農場、東京都神代植物園、東京都小金井公園、東大小石川植物園、東大日光植物園、石川県、京都府立植物園、京都御苑、植藤造園、大阪市大植物園、福岡市植物園、監物台樹木園など)で管理されているサクラ(584個体)の実態解明を試みた。本研究では、少数のDNAマーカーで効率よくクローン識別を行えるマーカーセットを検討して、多型性の高いSSR9座のマーカーセットを用いて、DNA分析を行った。その結果、先行研究で整理された栽培品種と一致するものが406個体、残りの178個体は、遺伝子型が異なる新規クローンとして約126タイプにまとめられた。これらの新規クローンについては、今後、詳細な検討を行うことで分類上の位置づけを行う必要がある。
著者
平野 悠一郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.132, 2021

<p>日本では1960~90年代にかけて、アウトドア・レジャー活動としてのキャンプへの関心が高まり、各地の国有林・民有林内にも多くのキャンプ場が設立された。しかし、1990年代後半以降は、経済不況と利用者の減少による施設過剰状態となり、大多数のキャンプ場の経営が悪化した。これを受けて、2000年代以降は、民間の経営主体を中心に、キャンプ場の再生の動きが顕著となる。その一環として、ウェブを通じた情報集約・予約システムの構築や、宿泊・体験の「質」を重視する動きが見られてきた。近年では、そうしたキャンプ場再生の動きが、幾つかの方向性を伴って加速しつつある。例えば、グランピングやワーケーションの場としての施設整備に加えて、自然教育の機会としてのプログラムを充実させ、また、地域資源活用による地域活性化の基点として位置づける等の傾向が、事例調査を通じて確認できた。</p>
著者
奥 敬一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p> 地域における人々の生活・生業が生み出す「文化的景観」は、文化財の新たなカテゴリーに加わってから10年以上が経過し、「重要文化的景観」選定地域も50を超えた。こうした文化的景観の捉え方は、共通の地域特性を持ったひとまとまりの視覚的範囲として設定されたコンテンツであることから、地域づくりへの活用にとっても大きな可能性をもっていると考えられる。しかし、景観を生み出した駆動要因である生活・生業の価値を重視し、普段は「見えない」部分が強調されることで、かえって来訪者や一般の生活者にとって景観の価値をわかりにくくしている面も否めない。文化的景観の価値を見る人々に伝え、地域に関わる動機付けを生み出すためには、景観の「直接目に見える部分」と「直接目に見えない部分」の双方を統合的に視覚化できる仕掛けが必要とされている。本研究では、そのような視覚的装置について、① 眺望・展望地点、② メディアに引用されるビジュアル、③ 野外での解説装置、④ 拡張現実、の4種類に整理して、その有効性や計画論を試みたい。</p>
著者
金子 信博 中森 泰三 田中 陽一郎 黄 垚 大久保 達弘 飯塚 和也 逢沢 峰昭 齋藤 雅典 石井 秀樹 大手 信人 小林 大輔 金指 努 竹中 千里 恩田 裕一 野中 昌法
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.394, 2013 (Released:2013-08-20)

福島原発事故により汚染した森林の除染には、伐採や落葉除去だけでは十分でなく、処理した木材と落葉の処分も問題である。森林土壌から、安全に放射セシウムを除去する方法を提案する。落葉分解試験を、二本松市のコナラ林で2011年12月から2012年12月まで行った。6月には、落葉の放射性セシウム濃度は土壌の2倍から3倍となり、土壌の約12-18%が上方向に落葉へと移動した。この移動は、糸状菌が有機物上で生育する際に土壌からセシウムを取り込むためと考えた。落葉の代わりに伐採した樹木をウッドチップ化し、土壌のセシウムを糸状菌によってチップに集める方法を考案した。汚染地域の木材中の放射性セシウム濃度はまだ高くないので、森林を伐採し、現地で幹材をウッドチップ化しメッシュバッグに入れ、隙間なく置いて半年後に回収することで、低コストで安全に除染が可能である。半年程度経過したウッドチップはまだ分解が進んでいないので、安全な施設で燃焼し、灰を最終処分する。単に伐採して放置するのでなく、この方法で森林施業を積極的に継続しつつ、汚染木材をバイオ燃料として活用し、復興に活用することが可能である。
著者
平野 尭将 小林 達明 高橋 輝昌 鈴木 弘行 恩田 裕一 高橋 純子 山本 理恵 斎藤 翔
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第126回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.858, 2015 (Released:2015-07-23)

里山生態系内での放射性セシウム(以下Cs)の動態を明らかにするため、川俣町山木屋地区の農家所有の里山と山木屋小学校の森林において樹体各部位と土壌のCsを調査した。農家所有の里山ではA0層の除去処理を行い、土壌中のCsの低下が里山生態系内にどのような影響を及ぼすのか調べた。コナラ・ミズナラは対照区で幹木部や葉のCs濃度が高かったのに対し、Cs除去処理区ではCs濃度が低いという関係が見られた。また、コナラとミズナラの全調査木の幹木部と樹皮の関係は見られなかったのに対し、幹木部と葉の間には明瞭な正の相関関係が見られた。そのため、Csの吸収は経皮吸収によらず、主に根から吸収され、樹液流によって幹木部から葉に運ばれていると考えられる。一方、アカマツの葉のCs濃度は、コナラやミズナラに比べると低く,幹木部のCs濃度は著しく低かった。コナラの葉は展葉前の葉のCs濃度が最も高い傾向が見られたがアカマツには季節変化は見られなかった。また、コナラでは辺材、心材でCs濃度に大きな差が見られたのに対し、アカマツではCs濃度に大きな差が見られなかった。
著者
中川 真海 加藤 正人 トウ ソウキュウ
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.132, 2021

<p>広葉樹の価値は、川下の需要の状況により大きく変化するため、広葉樹林業では需要と供給のマッチングが重要であるが、現状は、マッチングがうまくいかず国産広葉樹の約9割は価値の低いチップ材となっている。樹高や胸高直径で樹形が把握でき価値が決められる針葉樹と違い、広葉樹は枝分かれや曲がりが多くあるため、需要と供給のマッチングにはレーザー計測などで得られる、より詳細な情報が必要である。しかし、レーザー計測機器は高価であり、普及が難しく、これが、広葉樹林業が伸び悩んでいる原因の一つとなっている。</p><p>本研究では、安価かつ簡便に立体モデルを作成する方法を試行し、モデルの精度を検証した。iPhone SEを用いて樹木の連続写真または動画を、角度や枚数など撮影条件を変えて撮影し、それぞれの撮影条件ごとにSfM解析を用いて立体モデルを作成した。これらの精度を検証した結果について報告する。</p>
著者
大久保 達弘 深澤 瑛一 鈴木 紘子 逢沢 峰昭 飯塚 和也
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>リターフォールは、森林生態系の林冠から林床への放射性セシウム(RCs)の移行媒体、腐葉土製造の原料であるが、両者を関連づける情報は少ない。本研究は、福島第一原発事故後の栃木県のRCs初期沈着量の違う3ヶ所のコナラ林において、リターフォール、林床堆積有機物層(A<sub>0</sub>)および土層(A)のRCs濃度の7年間の変化、樹上生枝葉との比較、将来の腐葉土製造再開の可能性を考察した。リターフォール内の葉のRCs濃度は、事故直後はRCs初期沈着量の順に低くなったが、いずれの場所も林床のA<sub>0</sub>層濃度と比べ低かった。これはRCs初期沈着量に応じて林冠でのRCs沈着量が増加したが、事故当時コナラは展葉前で直接林床に降下沈着したためである。コナラ樹上枝葉のRCs濃度の季節変化(2015)は、当年枝葉は開葉直後の4月、5月が最も高く、その後はともに減少し、落葉期は葉で減少、当年枝は上昇した。以上の結果は開葉落葉に伴う枝葉のRCsの移行が枝内で限定していることを示唆する。将来的な腐葉土製造再開の可能性を知るためのA<sub>0</sub>層中のRCs濃度の減衰曲線は負の指数関数で近似され、初期沈着量の違いに応じて暫定許容値(400Bq/Kg)を超える期間が延長すると予測される。</p>
著者
苫名 孝太郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.296-306, 1939-06-10 (Released:2008-12-19)
参考文献数
3

(1) 本實驗は,最近試みられた電氣抵抗による土壤凍結測定法を改良して土壤水分の動態測定法を確立せんがために行はんとする試驗の豫備的實驗であつて野外觀測と室内實驗とに分れる。 (2) 野外觀測では,各對の極板(1.2寸×40寸の銅板)を厚1mの土壤を挾んで對立する如く地下0 0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.5, 0.7, 1.0及1.5mの深さに埋め,昭和13年夏50日間に亘り各極板間の電氣抵抗を測定した。此結果の概要は第2~第5圖に示されでゐる。 (3) 室内實驗では, A極板(1cm×2cm)及B極板(2cm×4cm)を使用,其間隔を0.5, 1, 2, 3, 4及5cmとし,之を直徑10cmの蒸發皿に充てた土壤a (粒徑<0.5分)又はb (粒徑1~2分)内に對立せしめ,土壤に一定の水を加へて電氣抵抗を測定した。注加水量の各土壤容水量に對する比は1, 1/2, 1/3, …1/10の10種であつた。第1表は其實測の結果である。 (4) 野外觀測から得た結論を述ぶれば i) 本實驗に現はれた電氣抵抗の變化は土壤含水量の變化によるものと斷定せざるを得ない。而して其變化の範圍精密度等は土壤含水量測定に適するものである。 ii) 土壤水分の消長は複雑であつて,一時的測定に基く推定は至難である。 (5) 室内實驗によつて得た結論は, i) 計器に現はれた電氣抵抗中には,極板間隔に正比例する抵抗と之に無關係な抵抗とがあり,(假に前者を土壤抵抗,後者を接地抵抗と呼ぶ。)隨つて下式が成立する。 R=α+βl 〓に R=總電氣抵抗(100Ω), l=極板間隔(cm) α=接地抵抗(100Ω),β=土壤抵抗係數(100Ω) 第2表は,本式に基き實驗結果より算出せるα及βの値を示す。 ii) βが含水量と共に變化する状態は極めて滑かであるが(第6圖及第7圖參照), αは必ずしも然らず,其原因は惟うに實驗上の誤差によるものか。隨つて,成る可くβのみについて比較を行ふことが望ましい。 iii) 第7圖はB極板使用の場合の含水量(容水量に對する)とβとの關係を示したものであるが,此場合a, b各土壤の曲線は一致しないから,斯種含水量とβとの關係は一定のものではない。他の種の含水量(即ち容積・重量・其他に對する)について見ても同樣である。 iv) 尚此第7圖によれば,粒徑の大なる場合は小なる場合よりもβが大きい。此傾向が常に然りや否やは別とし,粒徑によつてβが異ることだけは斷言し得ると思ふ。 v) 上記iii), iv)の事實及土壤の化學的成分から考へて,本法を或土壤に應用せんとする場合には,豫め其土壤毎に含水量とβとの關係を實驗的に求めて置く必要がある。 vi) 極板面積とβとの間には逆比例的關係が豫想せられるも,事實は第6圖又は第3表の示す如くA極板の時のβとB極板の時のβとの比は含水量と共に變化し,此關係を圖示すれば双曲線類似の曲線が得られる。故に更めて極板面積とβとの關係を研究しなければ,室内實驗の結果を極板の異つた野外觀測に適用することは出來ない。
著者
竹田 晋也 鈴木 玲治
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

ミャンマーのバゴー山地では英領時代よりカレン領域が設定され、ごく最近まで政府からの規制をほとんど受けない焼畑が営まれてきた。このカレン領域であるバゴー管区トングー県オクトウィン郡S村では、各世帯は毎年焼畑を開いて自給用陸稲に加えて換金用のゴマ、トウガラシ、ワタなどを栽培してきた。同村では2010年ごろから小規模ながらも谷地田造成による水田水稲作がはじまった。谷地田周囲の斜面にはバナナ、マンゴーなどの果樹とともにチーク(<i>Tectona grandis</i>)やピンカドー(<i>Xylia xylocarpa</i>)が植えられ、現地では「水田アグロフォレストリー」と呼ばれている。2012年に成立した農地法では、水田と常畑を対象に土地利用証明書の発行を通じた小農土地保有の合法化が想定されているが、焼畑はその対象外である。S村にも、最近の土地政策変化の情報が断片的に伝わりつつあり、各世帯は将来の土地所有権確保を期待して「水田アグロフォレストリー」をすすめている。19世紀末のカレン領域制定から焼畑耕作が続くS村では、自給用陸稲生産という基本的な性格は変わらないが、道路通信事情が改善され、学校教育が普及する中で、市場経済との接合が少しずつ進行している。
著者
吉村 哲彦 中野 美穂 千原 敬也 鈴木 保志
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第131回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.189, 2020-05-25 (Released:2020-07-27)

日本の各地で放置竹林の拡大が課題となっており、その対策として竹の伐採・搬出を伴う竹林整備が行われている。竹の内部は空洞であるため、その重量は一般的な木材に比べて軽量であるが、生産性や安全性の観点から機械化が必要ではないと考えた。そこで、本研究ではチェーンソーのエンジンを動力とするカナダ製のチェーンソーウインチ(Lewis Winch 400 MK2)を用いて、竹の長材および短材の搬出作業を下げ荷で行った。比較のために、人力による搬出作業も行った。その際、生産性と労働負担を明らかにするために、搬出作業のビデオ撮影を行い、あわせて心拍計(Polar製OH1)を作業者に装着して心拍数を計測した。その結果、生産性の観点でも作業負担の観点でも短材による搬出が不利になることがわかった。生産性の観点では人力による搬出が有利となるが、人力による竹の搬出作業の労働負担は極めて高く、継続的な作業は好ましくないことも明らかになった。結論として、竹の搬出作業は短時間であれば人力でよいが、長時間継続する場合にはチェーンソーウインチのような機械を用いる必要があることが示された。