著者
五十嵐 世津子 森 圭子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.326-334, 2004-07
被引用文献数
1

今日のような不妊治療がなかった時代に,子どもを産むための方策として,どのような言い伝えが存在したのかを明らかにし,現代における生殖観との違いについてみた。そのための資料として,昭和の初期に聞き取り調査をしてまとめられた「日本産育習俗資料集成」を用いた。1)子どもを得るための方策として429件の内容があった。(1)妊娠するための具体的な方策に関するもの(2)妊娠を祈願するもの(3)男児を出産するための方策に関するもの(男女の産みわけも含む)(4)分析不能なものの4つのカテゴリーに分類できた。2)妊娠するための具体的な方策は,「食べる」(50件),「またぐ」(46件),「すわる/腰かける」(26件),「寝る」(25件),「もらう」(24件),「身につける」(17件),「育てる」(14件),「温泉にはいる/行く」(13件),「ぬすむ」(9件),「くぐる」(5件),「借りてくる」(4件),「さする/なでる」(4件),「灸をする」(3件),「抱く」(3件),その他(10件)であった。3)今日の不妊治療のような積極的な治療的行為としての意味を見いだすことはできず,上記の方策は,【摂食に関わる行動・動作】【日常生活上での身体的な活動を伴う行動・動作】【身体接触を伴う行動・動作】【日常生活に付随した行動・動作】に分類できた。この行動・動作の背後にある意味として,摂食や接触,また日常的な行為のなかで,なにかにあやかって,さらには,なにかをとりこんで妊娠・出産するという意味合いのつよい方策であった。
著者
古川 亮子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.290-298, 2006-07
参考文献数
8
被引用文献数
1

本研究は,両親学級の実態調査を通して,今日の妊婦教育の現状・課題を検討することを目的とする。対象は,新潟県内の医療機関49施設と行政機関115施設のうち,倫理的配慮のもとに研究協力を得られた86施設であった(回答率52.4%)。1)行政機関による両親学級の実施率は,医療機関による両親学級の実施率に比べ有意に高かった(p<0.05)。2)両親学級の実施率は,土・日・祝日(p<0.01)または午前中と夕方(17時以降)(p<0.05)において,母親学級に比較し有意に高かった。3)両親学級の妊婦以外の参加者,特に夫・パートナーの参加は,母親学級に比べて有意に高かった(p<0.05)。4)新生児に関する演習の実施は,両親学級が母親学級に比較して有意に高かった(p<0.01)。5)評価の実施は,両親学級(48.0%)が母親学級(26.7%)に比べ有意に高かった(p<0.05)。両親学級と母親学級の実施状況には,上記の5項目以外には大きな差はみられなかった。今後は,「両親学級」の普及に及んだ社会背景やその特徴を考慮しつつ,家庭にも男女共同参画を盛り込んだ妊婦教育の提供を考慮する必要がある。
著者
増田 明美 塚本 康子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.607-615, 2007-01
被引用文献数
2

本研究は,中学校の思春期(12〜15歳)に不登校を経験した者と経験のない者のセルフエスティームについて,思春期(15〜18歳),青年期(19〜22歳),成人前期(23〜30歳)の発達段階別に検証することを目的とした。調査方法としてRosenbergのSelf-esteem尺度の日本語版を使用し,通信制高校生15〜30歳の未婚者703人(男339人,女364人)を解析対象とした。不登校経験者317人(男133人,女184人),不登校経験のない者386人(男206人,女180人)のセルフエスティームを検証した結果,以下のことが明らかになった。1)女子は男子に比べると,セルフエスティームが有意に低かった。2)不登校経験者と非不登校経験者のセルフエスティームを比べると女子の不登校経験者のほうが有意に低かった。男子では差がなかった。3)不登校経験者と非不登校経験者のセルフエスティームを発達段階別にみると,思春期の女子には差はなかったが,青年期,成人前期の女子では不登校経験者のほうが有意に低かった。男子では差がなかった。
著者
坂口 けさみ 大平 雅美 湯本 敦子 上條 陽子 芳賀 亜紀子 徳武 千足 本郷 実 市川 元基 福田 志津栄 楊箸 隆哉
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.323-330, 2007-07

わが国では成人女性の30〜40%が尿失禁を経験しており,尿失禁によって社会的活動やQOLが著しく損なわれる場合が少なくないものと推測される。今回,尿失禁を経験している一般成人女性819人を対象としてQOLの実態およびQOLに関連する要因について検討し,以下のことが明らかになった。1.尿失禁経験者の約半数は,漏れなくなって欲しい,治らないと困る,知られたくない,恥ずかしいなどの社会的ストレスを感じていた。2.尿失禁経験者のおよそ20%は,趣味やレジャー,旅行や仕事など,外出や人との交流が必要な場面において影響があると回答した。3.QOLは,尿失禁の程度が重い者,出産回数が1〜2回,母親の尿失禁既往,分娩の異常,子宮膀胱下垂感,尿失禁以外の排泄障害の合併および骨盤底筋群体操を実施した女性ではそうでない女性に比較して有意に低下していた。以上,一般成人女性において尿失禁を有することがQOLを著しく低下させる要因となっていることが明らかとなり,尿失禁の発症を予防していくための啓発活動をより推進するとともに,個人がもつ心情を少しでも軽減できるようなかかわりが必要であることが示唆された。
著者
蝦名 智子 松浦 和代
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.111-118, 2010-04-01
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究は,思春期後期における月経・月経随伴症状の実態,セルフケアの実態,月経教育の実態と今後の課題を明らかにすることを目的とした。第1〜3学年の女子高校生421名を対象に質問紙調査を行い以下の結果を得た。1.対象の平均年齢は16.3歳であった。初経が発来しているものは約99%であり,平均初経年齢は11.9歳であった。2.MDQ(Menstrual Distress Questionnaire)得点から,思春期女子の月経随伴症状は,先行研究に比較して強くなっていることが示された。月経随伴症状は,経血量が「多い」群と,月経の不安・悩みが「ある」群で強く有意の差があった。3.月経の記録を記入しているものは132名(40.2%)であり,月経の記録を記入しているものの割合は,学年進行に伴い有意に高かった(p<0.001)。4.月経に関する教育内容のうち受けたことがない割合が高かった項目は,「月経前症候群」26.9%,「月経の記録と観察」23.0%,「基礎体温の測定と記録」20.9%,「月経中の生活」20.3%,「月経異常」17.6%であった。5.月経教育の実態から,今後の思春期後期における月経教育の重点課題は,1)月経随伴症状の理解,2)月経の観察と記録,3)基礎体温の測定と記録であり,対象者の行動変容をねらいとした教育方法の改善が望まれる。
著者
梅野 貴恵
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.498-505, 2010-07-01
参考文献数
20

本研究は,長期母乳育児経験をもつ女性の更年期症状の関連因子を因果モデルによって構造的に明確にすることを目的とした。産後12ヵ月までの母乳栄養育児を継続したことのある,現在40〜60歳の女性103名を対象に,著者が2005年に調査したデータを用いて,共分散構造分析を行った。更年期症状は,『更年期の心理的満足度』と密接に関連し,さらに成熟期における『出産・育児体験歴』が『更年期の心理的満足度』に強い影響を与えていることが認められた。つまり出産回数,母乳育児期間,産後の無月経期間などの頻度が多くなるほど『更年期の心理的満足度』が高まり,『更年期の心理的満足度』は,生きがい感や夫婦関係満足感,仕事やりがいなどの心理面に影響され,さらに『更年期の心理的満足度』を高めることとなる。この『更年期の心理的満足度』が高い人ほど更年期症状が軽度であることが本モデルにより示された。以上のことから,出産や母乳育児,産後の無月経などの成熟期における経験が,女性自身の更年期の心理社会的背景に影響を及ぼし,更年期症状に結びついていることが示唆された。
著者
今野 佳絵 茆原 弘光 松本 桃代 小笠原 加代子 永井 泰 福岡 秀興 渡邊 浩子 吉池 信男
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.286-293, 2011-07-01
参考文献数
12

【目的】非妊娠時BMI別の推奨体重増加量と新生児の体格との関連,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を用いた栄養素等摂取状況との関連について,妊娠各期を経時的に検討した。【研究方法】対象は基礎疾患のない197名の妊婦。妊娠12,20,32週にBDHQを実施,妊婦健診時に体重測定,分娩後に出生時体重,胎盤重量を測定した。対象者は非妊娠時BMI別にやせ,普通,肥満群の3群に分けた。さらに各群は妊娠推奨体重増加量別に過少,適切,過多群のサブグループに分け,サブグループ間での評価項目の差異を比較検討した。【結果】やせ群において,体重増加量が過少な群は適切または過多に増加した群と比較して,新生児の身長,胎盤重量が小さく,妊娠12週においては栄養素摂取量のn-3系脂肪酸,ナトリウム,亜鉛が少なかった(P<0.05)。【考察】非妊娠時にやせの妊婦が体重増加不良であると,新生児体格が小さくなること,有意に摂取量の少ない栄養素があることが明らかになった。今後は非妊娠時「やせ」の母体や体重増加量不良の妊婦も含めて管理していく必要性が示唆された。
著者
津間 文子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.573-582, 2013-01-01
参考文献数
14

<目的>祖母が子ども世代に対する子育て支援として「孫育て」を担うことで,祖母自身にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにする。<研究方法>対象者は郡部に居住する祖母15名。半構成的面接法で質問し,質的帰納的に分析を行った。<結果>分析した結果【健やかに育つためにできる限りの支援をする】【喜びが新しい役割の形成を促進する】【生活の中心が変化する】【対応を必要とする負担がある】【多様な役割を体力と気力に応じて身に付けていく】【よい関係を築く努力をする】の6カテゴリーと15サブカテゴリーが抽出された。<考察>祖母の「孫育て」は,子ども世代の期待する祖母の役割に沿うことであった。祖母としての役割形成の発展は,家族と良好な関係を築き"元気である"という自覚となり,経験的にいわれてきた親密な人間関係は心身の健康によいという生理学的な効果を支持していた。さらに祖母の自らのライスタイルに子ども世代に対する子育て支援としてかかわる選択は,孫が成人した後も継続する概念となっていることが推察される。