著者
梅野 貴恵 宮崎 文子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Japanese Lournal of Maternal Health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.327-335, 2008-07-01
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究では母乳育児を継続している10名の女性の,分娩直後から産後12ヵ月までの血中ホルモン濃度の推移を検討した。血中ホルモンとしては,エストラジオール,プロラクチン,LH,FSHに着目し,産後2日目,産後1ヵ月,3ヵ月,6ヵ月,9カ月,12ヵ月目の合計6回測定した。10名の女性のうち,4名はそれぞれ産後6ヵ月目,8ヵ月目,10ヵ月目,12ヵ月目に月経が再開した。月経が再開した対象者を「月経再開群」,産後12ヵ月までに月経の再開がなかった6名を「月経なし群」とした。血中エストラジオールは,両群ともに産後1ヵ月には減少するが,「月経再開群」は産後3ヵ月から上昇傾向を示した。「月経なし群」は産後12ヵ月まで低値を維持したままであった。母乳育児中の女性のプロラクチンは,産後12ヵ月まで徐々に減少傾向を示すが,1日の授乳回数の影響をうけ,授乳回数の減少とともにプロラクチンの低下が進行し月経が再開する。
著者
杉下 佳文 上別府 圭子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.444-450, 2013-01-01
参考文献数
21

周産期は,気分障害が出現しやすくうつ病の時点有病率は10〜15%である。一方で,子ども虐待死亡事例における実母の精神的問題は「うつ状態」が約3割を占め,全国で産後うつ対策が展開されている。死亡した子どもの年齢は,生後0日児の割合が高いことから,虐待死は母親の妊娠期の精神状態に左右され,妊娠期からの抑うつが関連していることが考えられる。産後うつをスクリーニングする尺度はエジンバラ産後うつ病自己評価票(以下EPDS)が広く使用されているが,妊娠期の使用は検討段階であり,欧米においても妊娠期EPDSの得点と産後うつ病発症予測の的中率については議論中である。そこで,妊娠期におけるEPDS使用の臨床応用および妊娠うつと産後うつの関連についてEPDSを用いて検討することの2点を研究の目的とした。定期妊婦健康診査で同意が得られた妊婦161名に妊娠期と産後の2時点でEPDS調査を行った。参加率は79.4%,質問紙回収率100%,産後回収率85.0%であった。妊娠期EPDS高得点者は14.3%であり,産後EPDS高得点者は19.8%であった。妊娠期EPDSの高得点者が産後EPDS高得点者になる相対リスクは17.0であり,両者には中程度の相関が確認された。妊娠期にEPDSを使用することは,産後うつ疑いを抽出する意味があり,臨床への応用が示唆された。
著者
天貝 静 江守 陽子 村井 文江 小泉 仁子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.387-395, 2014-07

本研究は社会経済的地位と,妊娠週数33〜37週にある女性の抑うつあるいは人生満足度との関連について明らかにすることを目的とした。地域の中核病院である一施設において, 225名の妊婦に対し,抑うつと人生満足度に関する自記式質問票を配布した。また,産褥2〜4日に,妊娠期の調査に回答した女性のうちの192名に面接を行い,社会経済的地位について調査した。最終分析数は153件であった。その結果,研究対象者の年齢は20歳代が多く,学歴は夫婦とも高くなく,拡大家族が多かった。これらは調査施設周辺の地域の特徴を反映したものと思われる。さらに,女性を人生満足度得点と社会経済的地位で比較を行ったところ,人生満足度得点はパートナーの学歴と関連があった。妊娠中の抑うつ感情では,抑うつ傾向のある女性は抑うつ傾向のない女性より経済的困難感を自覚し,パートナーの学歴と年収が低かった。一方,女性が経済的困難感を自覚するとき,妊娠中に抑うつである確率は4.611倍(p=0.015, [1.341, 15.850]),パートナーの雇用形態が正規雇用のときは,抑うつである確立は0.099倍(p=0.001, [0.016, 0.631])となることが示された。よって,医療者が周産期にある女性の社会経済的地位と健康との関係に注目する意義は大きいと考える。
著者
久保 恭子 刀根 洋子 及川 裕子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Japanese Lournal of Maternal Health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.303-311, 2008-07-01
参考文献数
4
被引用文献数
5

本研究の目的は孫をもつ女性のインタビューで得られた資料をもとに,祖母性と祖母力について分析し,祖母自身の生涯発達における意味について,また祖母の育児支援のために専門家として支援することは何かについて明らかにするための資料を得ることである。結果,1.本調査の対象となった祖母性の特徴として,[癒し体験][いきがい][命のつながり][浄化][重荷][家族の変化][夫婦関係の好転]があった。2.祖母力の特徴として,孫の成長発達にあわせて育児全般すべての項目において支援を実施していた。これらのことから,祖母になるということ,育児を支援するということが祖母の生涯発達におおむねよい影響を及ぼしていることがわかったが,育児支援が[重荷]であると感じる祖母もおり,どのような育児支援が負担となるのか詳細な分析を行う必要がある。
著者
儀間 繼子 仲村 美津枝 大嶺 ふじ子 玉城 陽子 宮城 万里子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Japanese Lournal of Maternal Health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.358-364, 2006-07-01
参考文献数
16
被引用文献数
2

妊娠中に行った運動(骨盤底筋体操,ストレッチング,ウォーキング)が分娩にどう影響を及ぼすかを検討した。対象者は,妊娠異常・合併症のない初産婦161人で帝王切開例,吸引分娩例や分娩時薬剤使用例などを除く自然分娩例57人とした。調査期間は2000年1月〜2001年7月である。骨盤底筋体操,ストレッチング,ウォーキングの3運動の実施状況から点数化し,合計得点0点を非運動群とし,運動群は運動の実施強度により,1〜6点の6群に分け,運動との関連を検討した。自然分娩例57人の運動群は47人,非運動群は,10人であった。3〜6点の運動群は34人で59.6%いた。運動群47人中45人はウォーキングを行っていた。運動群間で有意差がみられたのは分娩第1期所要時間であった。3〜6点の運動群の分娩第1期所要時間393±198分は,非運動群640±428分より有意に短縮していた。ウォーキングと骨盤底筋体操,ストレッチの3運動群,または,ウォーキングとどちらかを組み合わせた2運動群は,非運動群に比べ分娩第1期所要時間で有意に短縮していた。運動によって,初産婦は分娩第1期所要時間が短縮されることは,産後の疲労を軽減し,産後の回復にもつながることが示唆された。
著者
柴田 眞理子 尾島 俊之 阿相 栄子 中村 好一 岡井 崇 戸田 律子 北井 啓勝 林 公一 三砂 ちづる
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.374-383, 2005-07
参考文献数
14
被引用文献数
1

妊娠, 出産における医療, 助産に関して, 実施したほうがよいか否か, 議論のある20項目について, 助産師の考え方や実態を明らかにすることを目的として, 日本助産学会, 日本母性衛生学会の名簿から無作為抽出した1, 807人を対象に自記式郵送調査を行った。その結果, 実施に賛成で重要性も高い事項は, 授乳時間を定めない, 塩分制限, 産婦の希望による分娩時の体位決定であり, 低い事項はルーチンな会陰切開, 会陰縫合を通常の縫合よりも1針多めに行う, 入院時洗腸などであった。80%以上の症例での実施割合が高い事項は, 砕石位での分娩, 分娩第2期に仰臥位にする, 授乳時間を定めない, 点滴をするであった。実施時の考慮事項では, 妊産婦や児の身体状況, 施設の方針, 妊産婦の希望の順であった。今後の方針をみると, 母乳育児や分娩体位などでは, 積極的に進めていくや減らしていきたいを支持し, 薬剤使用, 医療処置などでは, 現状維持を支持していた。以上から, 妊娠, 出産における医療, 助産の実践に関しては, 助産師の立場からのエビデンスの蓄積と, それに基づいた適切な実施を検討していくことの必要性が示唆された。
著者
宮本 政子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.554-562, 2012-01-01
参考文献数
14

本研究は妊娠期に生じる抑うつ的な気分が,妊娠経過中の出来事や妊婦が生育過程で得た抑うつスキーマとどのように関連するかを明らかにする目的で,128名の妊婦に調査を行った。そのうち19名はエディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)の測定値が9点以上の抑うつが疑われる妊婦であった。この19名を高群とし,妊婦全体やEPDS1点以下の低群20名との比較を事例検討も含めて行った。その結果,高群の妊婦には次の特徴がみられた。1.胎児発育が悪く身体的合併症や産科的異常を複合して発症する妊婦や,精神科などの既往歴を有する妊婦が多い,2.抑うつスキーマが低群や妊婦全体に比べて高く,なかでも他者依存的評価得点が高い,3.妊娠期間中に日常生活や家族関係の問題が発生し,負担度の大きな問題が発生した妊婦では抑うつスキーマが低い場合も抑うつ気分が強い。以上の結果から,妊娠期からEPDSを測定し,9点以上の抑うつが疑われる妊婦や上記1に該当する妊婦は抑うつスキーマを測定することが望ましい。そして,妊婦の心身の状態や抑うつスキーマを継続的に把握し,妊娠経過中必要な精神的ケアや生活指導を行い,適切な時期に専門的治療につなげられる支援体制を整える必要がある。
著者
岡部 惠子 佐鹿 孝子 大森 智美 久保 恭子 宍戸 路佳 安藤 晴美 坂口 由紀子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.343-351, 2009-07-01
参考文献数
17

「健やか親子21」が課題としてあげている思春期における若年者の人工妊娠中絶,性感染症の増加などの問題解決にとって性教育は重要な役割を果たし得る。しかし,「健やか親子21」の中間報告においてそれらの改善は十分とはいえないという結果とともに,適切な指導者のいないこと,適切な教材に対する共通理解が得られていないことを性教育上の課題としてあげている。本研究はこれらの問題解決への具体的方策を得るために,大学生に対して高等学校時代の性教育に関する認識調査を行った。調査の結果,(1)性教育は約60%が男女合同で受けている。(2)性教育授業担当者は保健体育教諭が85.4%,養護教諭は134%であった。(3)適切な性教育授業担当者としては養護教諭を1位に,性教育の専門家を2位(両者とも6割弱)にあげ,保健師・助産師・看護師は4位(37.9%)であった。(4)性教育を「理解できた」とする者は82.8%,「役に立った」は46.2%であった。(5)性教育の受講内容は「性感染症」を最も多くあげ,「異性の人格尊重」「異性の心理と異性との付き合い方」が少なかった。(6)高校時代にもっと聞きたかったのは「性感染症」「妊娠」「異性の心理と異性との付き合い方」「人間としての生き方」が多かった。以上の結果より,看護職者が高校生への性教育に関与していくための方向性が示唆された。
著者
森田 亜希子 森 恵美 石井 邦子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Maternal health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.425-432, 2010-07-01
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究の目的は,初めて親となる男性における,産後の父親役割行動を考える契機となった体験を明らかにすることである。妊娠34週以降の妊婦をもつ夫21名を対象に,半構成的面接法によって研究データを収集した。データを質的・帰納的に分析した結果,産後の父親役割行動を考える契機となった体験は,父親役割モデルとの出会いや想起により,自分なりの理想的な父親像について考える,妊娠・出産する妻への愛情を再確認して,夫/父親として協力する気持ちが芽生える,周囲から育児に関する情報を受けて,仕事と家庭内役割のバランスについて考えるなど,10の体験が明らかになった。導かれた産後の父親役割行動を考える契機となった体験の3つの特徴と,この体験をもつための前提条件から,父親としての自己像形成に必要な素材の内容を把握し提供すること,妊娠・出産をする妻に対して関心を高めるよう促すこと,仕事と家庭内役割の役割調整の必要性に気づくよう促すこと,が示唆された。
著者
樋貝 繁香 遠藤 俊子 比江島 欣慎 塩江 邦彦
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Japanese Lournal of Maternal Health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.91-97, 2008-04-01
参考文献数
21
被引用文献数
1

生後1ヵ月の子どもをもつ父親の産後うつの実態と関連要因を把握することを目的に関東近郊の9ヵ所の医療機関で調査した。調査内容は,基本属性,子どもの出生時の状況,職場環境,職務内容,給与に関する満足感尺度,産後うつを測定する尺度はEPDSとCES-Dを用いた。配布数は592名で回収数は166名(28.04%)であった。EPDSでは13.75%,CES-Dでは18.67%の父親がうつ状態であった。産後うつとの関連要因は,職務内容や職場環境,給与であり,子どもの出生時の状況との関連性は認めなかった。父親への精神的サポートは,親としての自信がもてるアプローチの必要性が示唆された。