著者
寺西 眞 鈴木 信彦 湯本 貴和
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.530, 2005 (Released:2005-03-17)

ホトケノザは、主に他花受粉をおこなう開放花と自家受粉のみをおこなう閉鎖花を同時につける一年草で、種子にエライオソームを付着する典型的なアリ散布植物である。一般的に、自殖種子は親と同じ遺伝子セットを持つため、発芽個体は親と同じ環境での生育に適していると考えられている。一方、他殖種子は親と異なる遺伝子セットを持つため、親の生育環境と異なる新しい環境へ分散・定着するのに適していると考えられる。したがって、自殖種子は親元近くへ散布され、他殖種子は親元から離れた環境へ散布されるのが生存に有利であると考えられている(Near & Far Disperal model)。 そこで、アリによるホトケノザ種子の分散効果を考察・検討するために、野外にアリ飼育区(ホトケノザ6株とトビイロシワアリのコロニー)とアリ排除区(ホトケノザ6株のみ)を設置し、種子運命を追跡した。アリ飼育区および排除区の両区内ともに、ホトケノザは4月上旬に閉鎖花をつけ、4月下旬から5月下旬にかけて開放花をつけた。開放花には人為的に自家受粉・他家受粉を行った。11月中旬、アリ飼育区・排除区の両区内から実生が出現したが、両区の分布様式は異なった。アリ存在区の株のうち4株は12月に開放花をつけたが、アリ排除区のほうは1月になっても開放花をつけなかった。アリ存在区ではアリ排除区よりも1株あたりの高さ・総シュート長などが大きく、種子生産数も多かった。これらの結果から、ホトケノザはアリに種子散布を依存することで次世代株の種子生産数を上昇させ、適応度を上げることができると考えられた。今回の発表ではAFLP法による遺伝解析(他殖由来種子と自殖由来種子の追跡)の結果も合わせ、Near & Far Disperal modelを検証する。
著者
小林 隆人 谷本 丈夫 北原 正彦
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-12, 2004-06-30
被引用文献数
1

オオムラサキ(鱗翅目,タテハチョウ科)の保護を目的とした森林管理手法の確立に必要な資料を得るため,面積の広い森林が連続的に分布する栃木県真岡市下篭谷地区と都市化が進んで面積が狭い森林がパッチ状に分布する伊勢崎地区において,森林群落のタイプとその面積,寄主植物であるエノキの本数,エノキの根元で越冬する本種の幼虫の個体数,夏季における成虫の目撃個体数を調査した.両地区とも,アカマツ-クリ・コナラ林およびクヌギ,コナラ,針葉樹,タケの人工林などがパッチ状に分布し,アカマツ-クリ・コナラ林の面積率が最も高かった.本種の寄主植物であるエノキの母樹(樹高2m以上)は,森林地帯,農家の屋敷地,荒地に小集団で存在した.母樹の本数は両地区ともアカマツ-クリ・コナラ林で最も多く,他の森林群落および土地利用では少なかった.地区別の本数は下篭谷地区と比べて,伊勢崎では顕著に多かった.当年,1年生など発芽して間もないエノキの椎樹は,森林の部分的な伐採から1年ほど経た比較的新しい林縁部に見られた.下篭谷では,胸高直径が15cm以上25cm未満のエノキにおける本種の越冬幼虫の個体数が,他のサイズのエノキよりも有意に多くなったが,伊勢崎では幼虫個体数はエノキのサイズの間で有意に異ならなかった.一方,木の周囲の森林および落葉広葉樹二次林の面積と越冬幼虫の個体数との間には,両地区とも有意な正の相関が認められた.成虫の確認個体数は下篭谷地区で多く,成虫の多くはクヌギ林およびその付近で確認された.以上の結果から,落葉広葉樹二次林に対して土地利用の変換を伴う部分的な伐採を行うことは,エノキの密度を増加させる反面,本種の越冬幼虫や成虫の密度を減少させることが示唆された.このような両者の相反する生息条件を満たすには,クヌギ林とエノキが備わったある広さの落葉広葉樹二次林を伐期が異なる小班に区分することが必要である.
著者
松尾 洋
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.829, 2004 (Released:2004-07-30)

樹木の種子生産数の年変動は、その種子を産卵場所とする昆虫の個体群動態に多大な影響を及ぼす。特に、ほとんど種子生産がなかった年は致命的である。昆虫の休眠遅延(1年以上の休眠)はそのような予測不可能な変動環境に適応した現象として、様々な分類群で知られている。エゴノキの種子に産卵する年1化のエゴヒゲナガゾウムシもまた終齢幼虫の段階で休眠遅延を示す種である。これまでの研究から、1)室内・野外環境において同じコホート内で休眠年数に1〜4年の変異が存在し、2)2年目に羽化した個体は1年目に羽化した個体よりも大きいことがわかっている。大きな個体ほど休眠遅延する傾向は他の昆虫でも報告されているが、体サイズと相関のある他の要因が重要である可能性も残されている。本研究では、体サイズだけでなく、産卵時期および幼虫期の食物の質・量が休眠遅延率(休眠延長個体の割合)に与える影響を調べた。7月28日、8月1日、10日、20日の4回、果実のついた枝に網をかけ、雌10〜21個体に個別に産卵させた。終齢幼虫の生重および幼虫が発育した種子の体積を測定し、室内環境下で飼育し、羽化させた。また、幼虫の体サイズに影響をおよぼす、種子の体積・生重・乾重を繁殖期間を通して測定した。その結果、次の事が明らかになった。1)羽化個体と休眠延長個体が同じ母親から生じた。2)繁殖期後期に産卵された幼虫は前期に比べて終齢幼虫サイズが増加し、休眠延長率も増加した。また、3)繁殖期間中、種子の体積はほとんど変わらなかったが、種子の乾重は3倍以上に増加した。これらの結果から、エゴヒゲナガゾウムシでは、繁殖期後期に、十分成熟した種子に産卵された個体ほど休眠遅延する傾向があることがわかった。「寝る子は育つ」ではなく「育った子はよく寝る」である根拠を示すとともに、なぜ大きな個体が休眠遅延するのかを考察する。
著者
村上 裕 大澤 啓志
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.187-198, 2008-11-30
被引用文献数
2

愛媛県中予地域において、水稲栽培型とトノサマガエル・ヌマガエルとの関係を調査した。現地調査は、2005年に130地点のカエル類分布調査を、2000〜2005年に水稲栽培型調査を実施した。過去の栽培型(1958年)については資料調査とし、地域別の栽培型ごとの面積と品種数を明らかにし、2000〜2005年は水稲栽培型で区分した地図を作成した。1958年と比較して2000〜2005年の平野部における水稲栽培型の多くが短期栽培に変化し、普通期栽培品種においても栽培期間の短期化が進行していた。これに対して山間部の水稲栽培型は品種の変遷はあるものの、栽培型や栽培期間に大きな変化は認められなかった。標高と栽培型との関係では、早期栽培は標高50m以上にほぼ均一に分布していたが、短期栽培は標高20m以下に集中傾向がみられた。トノサマガエルは22地点(生息確認率16.9%)、ヌマガエルは40地点(同30.8%)で生息確認が得られた。標高と両種の関係は、トノサマガエルが標高による明瞭な傾向を示さないのに対して、ヌマガエルは低地依存性があることが明らかになった。栽培型と両種の関係では、トノサマガエルは水稲栽培期間の短期化によって生息地域が減少することが明らかになった。一方、ヌマガエルの生息確率は水稲栽培期間の短期化には影響を受けていなかった。以上のことから、トノサマガエルは標高よりも栽培型に影響を受けるが、ヌマガエルは栽培型よりも標高に影響を受けることが明らかになった。短期栽培は、栽培期間が短いため、兼業農家においても取り組みやすい栽培型である一方、水田を二次的自然環境として利用しているカエル類、特にトノサマガエルの生息に負の影響を及ぼしていると考えられた。
著者
横畑 泰志
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.87-96, 2003-08-30

尖閣諸島魚釣島では,1978年に日本人の手によって意図的に放逐された1つがいのヤギCapra hircusが爆発的に増加し,300頭以上に達している.その結果,この島では現在数ケ所にパッチ状の裸地が形成されるなど,ヤギによる植生への影響が観察されている.魚釣島には固有種や生物地理学的に重要な種が多数生息するが,現状を放置すれば島の生態系全体への重大な影響によって,それらの多くは絶滅することが懸念される.この問題の解決は,尖閣諸島の領有権に関する日本,中国,台湾間の対立によって困難になっている.日本生態学会はこの問題に対し.2003年3月の第50回大会において「尖閣諸島魚釣島の野生化ヤギの排除を求める要望書」を決議し,環境省,外務省などに提出した.同様の要望書は2002年に日本哺乳類学会において.2003年に沖縄生物学会においても決議されている.現在は国内の研究者による上陸調査の実施の可否について,日本政府の判断が注目されている.
著者
星野 義延
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.35-41, 1990-04-30
被引用文献数
1

The fruits of Zelkova serrata show no modification for dispersal and usually fall in autumn still attached to the fruiting shoot with several brown leaves. Observations on the fruit distribution on the ground beneath mature Z. serrata trees revealed over 65 percent of fruits to be still attached to the fruiting shoot and that almost all fruits lay at some distance from the mature trees. The fall velocities of fruits with and without shoot were measured at 1.51m・sec^<-1> and 5.36m・sec^<-1>, respectively. From these observations and data, it is concluded that the fruiting shoot acts as a winddispersed diaspore, assisting the fruit dispersal of Z. serrata. The detachment of the fruiting shoot is not incidental but is related to the abscission of Z. serrta.
著者
角田 裕志 満尾 世志人 千賀 裕太郎
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.243-248, 2011-11-30
被引用文献数
1

We investigated the fish fauna in 50 irrigation ponds in Iwate prefecture, northeastern Japan. Four cases of new invasions of alien largemouth bass, Micropterus salmoides, into previously non-invaded ponds were observed during surveys from 2008 to 2009. Given the limitations of natural migration by largemouth bass, all of these cases were likely the result of illegal stocking. In three of the ponds, establishment of new populations of bass was successfully prevented by the removal of collected individuals during our survey. However, the population eradication in the remaining pond failed, and the recruitment of juveniles was observed in 2010 surveys. Our results suggest that the Invasive Alien Species Act was insufficient to prevent illegal stocking of largemouth bass and that further countermeasures such as monitoring surveys and patrolling are needed.
著者
阿部 永
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, 1994-08-20
著者
大塚 泰介 山崎 真嗣 西村 洋子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.167-177, 2012-07-30
被引用文献数
2

水田の多面的機能は、そこに生息する生物間の相互作用に負うところが大きい。水田にキーストーン捕食者である魚を放流して魚を放流しない水田と比較すれば、対照区つきの隔離水界実験(メソコスム実験)になり、水田の生物間相互作用を解明する上で有効である。水田にカダヤシを放流しても、カに対する抑制効果が見られないことがある。カダヤシはカの幼虫・蛹のほかに、その捕食者や競争者も食べるので、捕食による効果の総和が必ずしもカを減らす方向に働かないためである。メコン川デルタの水田に3種の魚を放し、魚を放さない水田と生物群集を比較した実験では、ミジンコ目が減少し、原生動物とワムシが増加し、水中のクロロフィルa濃度が増加するという結果が得られている。水田にニゴロブナの孵化仔魚を放流した私たちの実験でも、これと類似の結果が得られた。ニゴロブナの後期仔魚および前期稚魚はミジンコ目を選択的に捕食し、ほぼ全滅させた。すると放流区では対照区よりも繊毛虫、ミドリムシなどが多くなった。また放流区では、ミジンコ目の餌サイズに対応する植物プランクトン、細菌、従属栄養性ナノ鞭毛虫などの数も増加した。メコン川デルタと私たちの結果は、ともに典型的なトップダウン栄養カスケードとして説明できる。また、魚の採食活動が、底泥からの栄養塩のくみ上げや底生性藻類の水中への懸濁を引き起こしたことも示唆される。これとは逆に、コイの採食活動によって生じた濁りが、水田の植物プランクトンの生産を抑制したと考えられる事例もある。こうした実験の前提となるのは、魚が強い捕食圧を受けていないことである。魚に対する捕食圧が大きい条件下での水田生物群集の動態は、今後研究すべき課題である。
著者
山口 正樹 杉阪 次郎 工藤 洋
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.111-119, 2010-05-30

アブラナ科の越年生草本タチスズシロソウArabidopsis kamchatica subsp.kawasakianaは環境省のレッドリストに絶滅危惧IB類として記載されている。生育地が減少しており、その多くが数百株以下の小さな個体群である。著者らは、2006年春に、琵琶湖東岸において3万株以上からなるタチスズシロソウの大群落が成立していることを発見した。この場所では2004年から毎年夏期にビーチバレーボール大会が行われており、砂浜が耕起されるようになった。この場所の群落は埋土種子から出現したものと考えられ、耕起により種子が地表に移動したことと、競合する多年草が排除されたごとが群落の出現を促した可能性があった。2006年には、この群落を保全するため、ビーチバレーボール大会関係者の協力のもと、位置と時期を調整して耕起を行った。その結果、3年連続で耕起した場所、2年連続で耕起後に1年間耕起しなかった場所、全く耕起しなかった場所、初めて耕起し左場所を設けることができた。この耕起履歴の差を利用し、翌2007年に個体密度と面積あたりの果実生産数を調査することで、タチスズシロソウ群落の成立と維持に重要な要因を推定した。2006年に初めて耕起した場所では、耕起しなかった場所に比べて、翌年の個体密度、面積当たりの果実生産ともに高くなった。2年連続耕起後に1年間耕起を休んだ場所では、3年連続で耕起した場所に比べて、翌年の個体数は増えたが果実生産数は増加しなかった。また、結実期間中(6月)に耕起した場所では、結実終了後に耕起した場所に比べて、翌年の個体密度と果実生産数が低下した。これらのことから、秋から春にかけてのタチスズシロソウの生育期間中には耕起を行わないことと、結実後に耕起を行うことがタチスズシロソウ個体群の保全に有効であると結論した。このことは、ビーチバレーボール大会のための耕起を適切な時期に行うことにより、砂浜の利用と絶滅危惧植物の保全とが両立可能であることを示している。
著者
宮地 伝三郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.39-40, 1965-02-01
著者
鮫島 由佳 椿 宜高
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.582, 2005 (Released:2005-03-17)

全ての生物は周囲の環境温度との関係によって、自らの体内で熱を発生させ一定の体温を維持する内温生物(鳥類・哺乳類)と、体温調節をほぼ外部の熱源に頼っている外温生物(その他の生物)に分類することができる。しかしこれには数多くの例外があり、外温生物とされる昆虫類の中にも活発に活動して内温的に体温を上げるものがいることが報告されている。トンボの体温調節に関してはMay(1976~)らによって多くの知見が得られており、それによると周囲の気温に対するトンボの主な体温調節法は気温順応、太陽熱性、内温性に大別することができる。体温調節法の選択は生息地の温度環境や生理的条件、基本的な活動パターンによって異なり、各種のトンボはそれぞれの環境に適応した戦略を持っていると考えられる。トンボは異なる体サイズを持つ複数種が同地域に生息している場合がほとんどであるから、体サイズによって異なる体温調節メカニズムを持っていることが考えられる。そしてそれは、内温性と外温性の飛翔戦略などの行動的調節や生理的調節に大きな影響を及ぼしていると考えられる。この点に注目して、トンボの体サイズと体温調節法との関連性について実験を行った。野外で採集した数種のトンボについて、サーモビジョンを用いて気温への順応速度および冷却速度を測定した。その結果、体サイズの大きいものほど周囲との熱交換率が低く、外部の熱源を利用しにくいことが分かった。そのような大型の不均翅亜目3種(オニヤンマ、オオルリボシヤンマ、ギンヤンマ)は、気温順応とは別に翅を震わせる行動(ウォームアップ)によって体温を上昇させた。また、この3種のうち生息分布域の南限が一番北にあるオオルリボシヤンマは、他の2種よりも低い温度からウォームアップを始めた。このことから、内温性の体温調節を開始する外気温は地理的な気候条件への適応を反映していると考えられる。
著者
池田 透 立澤 史郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.810, 2005 (Released:2005-03-17)

日本の外来種対策においては一般市民や地域住民との合意形成が充分とはいえず、駆除に向けては多くの問題が残されている。特に哺乳類では、駆除対策に関して動物愛護の立場からの感情的反発も根強く、こうした社会的状況を考慮せずして外来哺乳類対策の円滑な実施は不可能である。そこで本研究では、飼養動物由来の外来哺乳類であって人間との関係が密であり、かつ地域生態系への悪影響が危惧されている北海道天売島のノネコ問題を対象として、地域住民や一般道民の合意形成や、管理対策を円滑に進めるための体制づくりに必要な条件の検討を試みた。全島民を対象としたノネコ対策に関する地域住民意識アンケート調査の結果、ノネコ問題自体に関しては島民の関心は非常に高く、多くの島民にノネコの存在が問題視され、ノネコの除去にも賛成する割合も高いことが明らかとなった。島民の中にもノネコの存在が問題であり、解決すべき問題であるという意識は強い。ただし、多くの島民にとってのノネコ問題の焦点は畑や庭を荒らすとか魚を盗むといった生活被害への苦情が多く、海鳥の減少可能性などの生態系保全に関わる問題意識は低かった。この点からも、従来のノネコ対策の目的と実際に島民が望むノネコ対策の目的に大きな隔たりがあることが明らかとなった。また、ネコ飼育者と非飼育者ではノネコ問題に対する意識に大きな差がみられ、ネコ飼育者においては自分が飼育しているネコ以外にも愛情を注いでいることが推測され、このことがノネコの管理をいっそう困難にしていることが予想された。今後のノネコ対策の在り方として、ノネコの実態把握を進めるとともに、島民同士が積極的にノネコ問題に意見を述べられる状況を作り上げ、島民参加のノネコ対策を作り上げていくことが重要であると考えられた。
著者
森 章
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.45-59, 2007-05-31
被引用文献数
6

近年、生態系や景観レベルでの機能や動態を重視する管理り・保全方策に焦点が当てられている。特に森林生態系は多くの景観における主要要素であり、それゆえ生態系の健全性を包括的に維持する森林管理が、結果として、内包される遺伝子・種・個体群・群集、そしてさらには各森林生態系の存在する地域景観に至るまでの各レベルにおける多様性の維持に貢献できるといった、生態系を基準とした森林管理の概念が認知されるようになった。カナダ・ブリティッシュコロンビア州には、低頻度で起こる大規模な火事撹乱が規定する森林景観、高頻度・低強度の林床火事により維持されてきた内陸の乾燥林、小規模なギャップ形成が主要撹乱要因として卓越する太平洋岸温帯雨林など、様々な森林生態系が存在する。卓越する撹乱体制は州内でも地域ごとに大きく異なり、生態系の動的側面を重視しない管理方策により森林生態系を本来あるべき姿から変えてしまうことを避けるため、そしてすでに変化してしまった森林生態系の健全性の回復のためにも、近年自然撹乱体制に関わる研究が担う役割は大きくなっている。これは生態系を基準とした森林管理を実行する中で非常に重要と考えられている。そして現在、ブリティッシュコロンビア州では、森林を管理運営する立場の機関・団体が、現行の研究により得られる新たな知見を取り入れて、様々な撹乱により維持される森林の動的側面や森林景観の多様性を尊重しつつ、試行錯誤しながら管理方策を改善していく適応的管理が行われている。このように、最新の研究成果が実際の管理運営に反映されることは、これからの持続可能な森林管理において非常に重要であると考えられる。
著者
安部倉 完 竹門 康弘 野尻 浩彦 堀 道雄
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.83, 2004

「自然再生法」や「外来生物規制法」によって今後,外来生物除去や在来生物群集の復元事業が各地で行われると予想される.これらは,通常野外で実施困難な「特定種の除去実験」に見立てることができる.すなわち,事前・事後のモニタリング調査を有効に計画・実施することによって個体群生態学や群集生態学の課題解明に活かすことが期待できる.<br> 本研究では天然記念物である深泥池(約9ha)を野外実験のサイトに選んだ。深泥池には、低層湿原とミズゴケ類の高層湿原が発達し多数の稀少動植物が共存している。ところが、外来種の密放流により生物群集が激変したことが判ったため、1998年からブルーギルとオオクチバスの除去と生物群集調査を実施している.本研究の目的は、1)深泥池における外来魚侵入後の魚類群集の変化、2)1998年以後のブルーギル、オオクチバスの個体群抑制効果、3)外来魚の侵入直後、定着後、除去後の底生動物群集の変化を示すことである。深泥池では、1970年代後半にオオクチバスとブルーギルが放流された後、12種中7種の在来魚が絶滅した。1998年に約84個体いたオオクチバスは、除去により2001年には約37個体に減った。1999年に7477個体だったブルーギルは,2003年時点で4213個体とあまり減っていない.そこで,内田の個体群変動モデルを適用した結果,個体数の95%を除去し続ければ、最初5年間は減らないが、2004年以降減少すると予測された。<br> 底生動物群集では、ユスリカ科とミミズ類が1979年以後増加した。1979年に沈水植物群落に多く生息していたヤンマ科やフタバカゲロウは1994年には減少し,抽水植物群落に分布を変えた。イトトンボ科,モノサシトンボ科,チョウトンボ,ショウジョウトンボは2002年に増加した。毛翅目は1979年以降激減し種多様性も減少した。2002年にムネカクトビケラが増加したが種多様性は回復していない。野外条件における「特定種の除去実験」に際しては,他の人為影響の排除が望ましいが,保全のために必要な他の生態系操作との調整が今後の課題である.
著者
中嶋 美冬 松田 裕之 堀 道雄
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.755, 2005 (Released:2005-03-17)

魚類の左右性とは、体の前後軸を中心線とする右体側と左体側とで、一方が他方より構造的・機能的に優位にある種内二型を指す(「生態学事典」より)。特に下顎の非対称性が顕著であり、顎が右に開き体が左に曲がる個体を「左利き」、その逆の個体を「右利き」と呼ぶ。この種内二型は遺伝形質であり、1遺伝子座2対立遺伝子に支配される左利き優性のメンデル遺伝と考えられている。この魚の左右性は、形質値のヒストグラムが双山分布をする分断性非対称(Antisymmetry)の一例と考えられる。各種内の利き比率は数年周期で振動している。魚食魚では自分と反対の利きの餌個体を主に捕食することが明らかにされており、本研究ではこれを交差捕食(Cross Predation)と呼ぶ。反対に、同じ利き間での捕食を並行捕食(Parallel predation)と呼ぶ。このような捕食の非対称性が魚類の左利きと右利きの共存を維持する要因と考えられる。その理由は以下のような頻度依存淘汰により説明できる。餌種に左利きが多かったとき、それを捕食する種では右利きが有利となり多数派になるため、やがて餌種では左利きが減少して右利きが増え、捕食者ではかつて少数派であった左利きが有利となって後に多数派となるように、被食者と捕食者において多数派の利きの入れ替わりが繰り返されると予想される。本研究では、交差捕食が起こる仕組みを捕食行動から考察し、また数理モデルを用いて上記の仮説を検証した。
著者
奥野 良之助
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.113-121, 1984-03-30

About 1,500 individuals of the Japanese toad, Bufo japonicus japonicus, inhabiting the campus of Kanazawa University were studied by the toe-clipping marking method from 1973 to 1981. Investigations of the six breeding ponds on the campus revealed that toads belonging to each breeding group generally went to the same pond for breeding every spring throughout their life. The largest breeding group (pond H-group) had about 200 adult males and females, and the smallest one (pond N-group) had only 20 adults. Emigrations of toads among these breeding groups sometimes occurred. Twenty-five toads changed their breeding pond during the 8 years ; twenty-three of them moved from the largest pond H-group to the neighbouring smaller Y-and M-group ponds. Therefore, it was concluded that emigrations may occur from a larger group to a smaller one.