著者
野村 康弘 倉本 宣
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.528, 2004 (Released:2004-07-30)

カワラバッタEusphingonotus japonicus (Saussure)は、砂礫質河原という植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川における本種の分布域、個体群の規模、産卵地選好性を明らかにし、保全に関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。 多摩川の砂礫質河原を踏査した分布調査により、河口から47-57kmの範囲で個体群を確認した。また、標識再捕獲法による個体数推定では一つの個体群の平均が371±174(95%信頼区間)個体で、調査を行った場所の全体(6箇所)としては2,296±978個体と推定された。砂礫質河原面積と個体数で回帰分析を行ったところ、正の相関関係(r2=0.85)が認められた。本種の個体数には砂礫質河原面積が影響していることが示唆された。産卵地選好性の研究では飼育箱に本種を20匹放し、6つの異なる環境を設定して行った。環境条件は砂礫構成を1.透かし礫層、2.礫間にマトリックスがあるパターン、3.表層細粒土層があるパターンとし、下層の粒度分布を粗砂、細砂の2つを設定した。卵鞘は合計で23個産卵され、全体で最も多く産卵された環境は、透かし礫層で粗砂の環境であり、全体の43.5%を占めた。さらに、砂礫構成だけでみてみると透かし礫層が最も多く69.6%を占め、下層粒度だけでは粗砂のほうが多く69.6%を占めた。このことから、地面と礫または礫と礫の間に多くの空間が構成され、植生がほとんどない下層の礫径が大きい環境を好むことが推察された。
著者
池田 佳子 荒木 佐智子 村中 孝司 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-31, 1999-06-25
被引用文献数
9

浚渫土中の土壌シードバンクを利用した水辺の植生復元の可能性を小規模なまきだし実験により検討した.水分条件を一定に保つことのできる実験装置「種子の箱舟」の中に霞ヶ浦の湖底から浚渫された底泥(浚渫土)約0.55m^3を1998年3月下旬にまきだし,出現する維管束植物の実生の種を,新たな実生がみられなくなる11月下旬まで定期的に調査した.その結果,合計22種708実生が得られた.また,湖に隣接し,土壌がときどき水をかぶる場所(冠水条件)と,常に水をかぶっている場所(浸水条件)を含む小規模の窪地(10m×5.5m)を造成し,1998年3月下旬に全体に厚さがほぼ30cmになるように浚渫土をまきだし,9月下旬に成立した植生を調査した.窪地の植生には22種の維管束植物が認められた.湿地に特有の植物である「湿生植物」と「抽水植物」は箱舟で5種,窪地で12種出現した.また,出現した帰化種は箱舟で9種,窪地で3種であった.浚渫土の土壌シードバンクは水辺の植生復元の材料として有効であることが示唆された.
著者
川勝 正治 手代木 渉 八木橋 元一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.43-47, 1969-04-01

The vertical distribution of freshwater planarians in the Tsugaru Peninsula in Aomori Prefecture (Lat. 40°40′N. to lat. 41°20′N. and Long, 140°10′E. to Long. 140°45′E.), the northernmost part of Honshu, was surveyed in 1966 and 1967. The Peninsula faces both the Tsugaru Straits and Mutsu Bay. The larger part of the Peninsula is covered with low mountains, of which the highest peak is 827 metres in height. The south-western part of the Peninsula is characterized by a level plain of cultivation. The main river system in the area surveyed is the Iwaki, which discharges into Juni-ko Lake and the Sea of Japan. In the area surveyed, six species of freshwater planarians, Dugesia japonica ICHIKAWA et KAWAKATSU, Phagocata vivida (IJIMA et KABURAKI), Phagocata teshirogii ICHIKAWA et KAWAKATSU, Polycelis auriculata IJIMA et KABURAKI, Polycelis sapporo (IJIMA et KABURAKI) and Dendrocoelopsis lacteus ICHIKAWA et OKUGAWA, were found. D. japonica was found to be common at the stations below the altitude of about 160 metres (inhabitable water temperature range, 8.0〜22.2℃). Ph. vivida was common at the stations below the altitude of about 380 metres (5.0〜21.8.C). Pol. auriculata was found in both the cold-water mountain streams and in some cold-water springs in the seaward district (0.5〜480m, 9.0〜14.0℃). Pol. sapporo, one of the common species in Hokkaido, was found at the stations below the altitude of about 120 metres (9.0〜21.8℃). It is an interesting fact that this species was rather common at the stations in the Tappizaki Cape district in the Tsugaru Peninsula. Small populations of Ph. teshirogii and Den. lacteus were found in the Tsugaru Peninsula. The type of the vertical distribution of the planarians in the area surveyed is (JSV)-JSVA-SVA-VA-A (J : D. japonica ; V : Ph. vivida ; S : Pol. sapporo ; A : Pol. auriculata). The geographical distribution of Pol. sapporo and Den. lacteus in Honshu were discussed. According to the best of our knowledge, Pol. sapporo has been recorded only from the northern side of the demarcation line drawn between the base of the Shimokita Peninsula and of the Tsugaru Peninsula (cf. KAWAKATSU 1965,p. 356,Fig. 5,1967,p. 125,Fig. 5). Den. lacteus has been recorded both from the Tsugaru Peninsula and in a little south of the southern demarcation line of distribution of Pol. sapporo (cf. KAWAKATSU, TESHIROGI, ISHIOKA & KASAHARA 1968).
著者
川勝 正治 手代木 渉 八木橋 元一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.34-41, 1967-02-01

In this paper, the vertical distribution of freshwater planarians in Hirosaki City, the Mt. Iwaki district (Lat. 40°30′N. to 40°50′N. and Long. 140°15′E. to 140°30′E.) and in the Juniko district (Lat. 40°32′N. to 40°35′N. and Long. 139°56′E. to 140°00′E.), all in the western part of Aomori Prefecture, Honshu, is reported. Mt. Iwaki (altitude, 1625 metres) is an extinct volcano of the Chokai Volcanic Zone and is situated at the south-western corner of the Tsugaru Plain. The Juniko district near the seashore of the Sea of Japan is characterized by many ponds or marshs. The main river systems in the area surveyed are the Iwaki and the Narusawa. The surveys were made in the summer of 1965 and in the spring and summer of 1966. In the area surveyed, five species of freshwater planarians, Dugesia japonica ICHIKAWA et KAWAKATSU, Phagocata vivida (IJIMA et KABURAKI), Phagocata teshirogii ICHIKAWA et KAWAKATSU, Polycelis auriculata IJIMA et KABURAKI and Bdellocephala brunnea IJIMA et KABURAKI, were found. D. japonica and Bd. brunnea were found to be common in many springs in Hirosaki City. Small populations of Ph. vivida and of Ph. teshirogii were also found in some of these springs. In the other districts of the area surveyed, D. japonica, Ph. vivida and Pol. auriculata were widely distributed. D. japonica was found in the stations below the altitude of about 525 metres (inhabitable water temperature range, 9.0〜25.0℃). Ph. vivida was found in the stations within the altitude range from about 40 to 620 metres (5.0〜15.0℃) above sea level. It is however clear that Ph. vivida is the species of nondominance in the western part of Aomori Prefecture. Pol. auriculata was common in the stations within the altitude range from about 200 to 1320 metres (5.0〜14.5℃). The type of the vertical distribution in the area surveyed is shown as J-JV-JVA-VA-A (J : D. japonica ; V : Ph. vivida ; A : Pol. auriculata). The geographical distribution and the breeding of Bd. brunnea were also discussed. According to the best of our knowledge, this species is distributed in Middle and North Honshu (from Kyoto City in the Kinki Region to the Shimokita Peninsula in the northernmost part of the Tohoku Region). In general, their active breeding season was from early February to mid-May. In one breeding period one worm laid one cocoon of 2 to 2.5mm in diametre. The hatching of the cocoons was observed within 23 to 37 days after the laying. In the laboratory cultures, 3 to 12 jveniles were released from one cocooon.
著者
井上 英治 竹中 修
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.831, 2004 (Released:2004-07-30)

ニホンザル餌付け集団において、父性解析と交尾行動の観察を行ない、どのようなオスが子供を残していたのかを明らかにした。ニホンザルは、母系の集団であり、オスは性成熟に達すると、群れを移籍し、その後も数年経つとまた他の群れに移籍するとういう生活史を持つ。また、明確な交尾期があり、秋_から_冬に交尾を行ない、春_から_夏にかけ出産をする。これまで、ニホンザルの性行動について、オスの交尾成功は順位で決まるものではなく、メスの選択が影響していて、メスにとって新しいオスを好む傾向があることが示されてきた。また、DNAを用いた父性解析を行なった研究でも、オスの順位と子供の数は相関せず、メスの選択が影響することが示されている。しかし、どのような特徴のオスが子供を残しているのかについては分かっていない。そこで、本研究では、嵐山E群という個体の詳細な情報がわかっている群れを対象にして、交尾期の行動観察と引き続く出産期に生まれた子供の父親を決定した。父性解析は、サルの毛からDNAを抽出し、11座位のマイクロサテライト遺伝子の遺伝子型を決定した。そして、子供と遺伝子を共有していないオスを排斥し、残ったオスを父親と決定した。父性解析の結果、嵐山E群では、群れの中心にいるオトナオス(中心オス)は子供をほとんど残していないことが明らかになった。周辺にいるオトナオス(周辺オス)や、群れ外オスが子供を多く残していた。また、中心オスは、交尾が少ないわけではなく、個体追跡を行なったオスについて、交尾頻度と子供の数に相関は見られなかった。子供を産んだメスの交尾行動を分析すると、受胎推定日から離れている時には、高順位のオスとの交尾が多いが、受胎推定日の近くになると周辺オスとの交尾が増えることが示された。嵐山の中心オスは、在籍年数が長く、子供を産んだ母親の父親である可能性があるためにメスに避けられていたと考えられる。
著者
金子 信博 榎木 勉 大久保 慎二 伊藤 雅道
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.359, 2005 (Released:2005-03-17)

ヤンバルオオフトミミズによって作り出された地表面の微小生息場所に生息する小型節足動物群集,特にササラダニの群集構造を比較した.ヤンバルオオフトミミズは沖縄本島北部にのみ生息し,日本で初めて見つかった土壌穿孔表層採餌種(anecic)である.本種は地下約20cmに横走する坑道に住み,落葉を土壌表面の入口に集めた上で摂食し,土壌と混じった糞を出口に排泄する.糞塊は20cmほどの塔状になる.集められた落葉はmiddenと呼ばれている.照葉樹林は秋に一度に落葉が集中するのではなく,春と秋を中心に長い時間にわたって落葉が供給される.沖縄では気温が高いため,落葉の分解速度は高い.ミミズにとっては落葉を他の分解者に利用されないように自分の生息場所であるmiddenに集めていると考えられる.坑道やmiddenではミミズから供給される可溶性炭素や窒素が栄養源となって微生物の活性が高く,微生物バイオマスも多いと考えた. リターの堆積量は糞塊の周囲で最も多く,middenとミミズの影響のない土壌では差がなかった.ササラダニの個体数密度はリター層ではミミズの影響のない土壌できわめて少なく,middenと糞塊でほぼ同じ程度であった.一方,土壌層ではミミズの影響のない土壌で最も少なく,糞塊よりもmiddenでの密度が高かった.ササラダニの種数はミミズの影響のない土壌と糞塊で差がなかったが,middenではこれらの倍近い値を示した.これらのことからヤンバルオオフトミミズは落葉資源を移動させ,土壌と混合することによって地表面の微小生息場所の多様性を高め,ササラダニの密度と多様性を大きく高めており,生態系改変者として土壌生物群集に大きな影響を与えていた.
著者
津田 みどり
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.11, 2005

種間の相互作用に関与する形質の進化は、コストがかからない場合には軍拡競争へと発展する。しかし、コストが他の形質にかかるとその限りではないことが知られている。本講演では、寄主_-_寄生蜂系の進化モデル(Tuda and Bonsall, 1999)をマメゾウムシー寄生蜂実験系に即して改良し、これに基づいた予測を紹介する。このモデルでは種間の相互作用に関与する形質と、それとは中立な形質の間にトレードオフ(コストがかかるため生じる2形質間の二律背反)がある場合に、それが進化のダイナミクスと帰結にいかなる影響を及ぼすかに注目している。寄主側のトレードオフは系の持続に寄与することがあるが、寄生蜂側のそれは寄与しないことなどが明らかにされた。このような進化動態を野外で観測することは一般に難しく、実際、そのような報告もない。そこで実験系を駆使した検証が重要となる。最後に、マメゾウムシー寄生蜂実験系を用いた検証方法について議論し、できれば実験結果を一部紹介したい。
著者
井出 純哉
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.381, 2004 (Released:2004-07-30)

鳥は蝶の成虫の重要な捕食者と考えられている。しかし、捕食の場面を観察できることはまれなので、実際どの程度の捕食圧が蝶にかかっているのかは明らかではない。鳥が蝶を捕獲しようとして失敗した時に、蝶の翅に鳥の嘴の痕(ビークマーク)が残ることがあるが、その頻度は鳥の捕食圧の推定に利用できると考えられる。そこで、ジャノメチョウ亜科の蝶のクロヒカゲの翅に残されたビークマークを三年間にわたって京都市北部の山地で調査し、鳥がどれくらいクロヒカゲの成虫を襲っているか推定した。本種の成虫は5-6月の初夏世代、7-8月の盛夏世代、9-10月の秋世代と、一年に三世代が出現する。樹液を餌としており、暗い所を好むので通常は林内に分布するが、気温が低い時期には比較的明るい場所に出てくることも多い。翅に嘴の痕が残っていた個体の割合は初夏と盛夏には数%から十数%だったが、毎年秋になると増加し50%に達することもあった。蝶の成虫は捕獲しにくく、見た目の大きさの割に食べる所が少ないので、鳥にとって良い食料ではないと思われる。そのため、鱗翅目幼虫などのもっと好ましい餌が少なくなった秋によく襲われたと考えられた。また、秋になって気温が下がり、蝶の動きが緩慢になったことが襲われやすさに影響した可能性もある。雄と雌を比べるとわずかずつではあるが雌の方が一貫してビークマークのついた個体の割合が多かった。雌は卵を抱えている分腹部が重いためゆっくりとしか飛べないので、雄よりも襲われやすかったのかもしれない。
著者
村上 健太郎 上久保 文貴
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.820, 2005

大阪府南部から和歌山にかけての沿岸部は,温暖な地域として知られ,暖温帯から亜熱帯地域にかけて生育する植物の分布北限となっている。特に,年平均気温15℃,年最低気温平均値-3.5 ℃の等値線はヒガンバナ科ハマオモトの分布限界であり,ハマオモト線として知られている。しかし,近年,年間を通して気温は上昇傾向にあり,今後植物分布に大きな影響を及ぼす可能性がある。そこで本研究では,近年の気温上昇にともなって,大阪府周辺のハマオモト線付近を分布限界とする植物の分布について調べ,気温変化との関連を考察した。まず,1938年に描かれたハマオモト線に近い19府県の1980年代以降の気象観測所データと1990年代初めまでに作成された各県植物誌による植物分布データを,市民向けに開発された地理情報分析支援システムMANDARAに入力し,ミミズバイ,タイミンタチバナなど30種の分布限界域における気温データをえた。次に,大阪市立自然史博物館および兵庫県立人と自然の博物館のハーバリウムにおいて,大阪府および兵庫県の上記南方系植物30種の採集地および採集年代を調べ,1980年代以前と1990年代以降で,分布に差があるかを調べた。その結果,ヤナギイチゴなど,一部の種では,分布が北上している可能性が示唆された。また,先述した分布限界域の気温データを用いて,これらの植物の大阪府付近での現在の分布限界域について推定すると,多くの植物が現状では京都市付近まで分布拡大可能であると推定された。本研究でとりあげられた種のうち,自生個体が京都市付近にまで分布拡大している例は少ないが,都市域の石垣などの人工物に適応しているイヌケホシダや京都市内の二次林に移入したアオモジなど,人為によって持ち込まれた可能性が高い種については,大阪府_から_京都市において確実に分布を拡大している。今後は,各種の分散力やハビタットの選考性に関する調査を行い,より正確な分布拡大予測を行いたいと考えている
著者
片山 昇 鈴木 信彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.735, 2005 (Released:2005-03-17)

同所的に生育する花外蜜腺をもつカラスノエンドウと花外蜜腺をもたないスズメノエンドウにおいて、アワヨトウ幼虫を用いたbioassayにより化学的防御の強さを推定し、また両種の株上の昆虫群集を比較し、化学的防御とアリ防御による被食防衛の効果を推定した。 スズメノエンドウにくらべカラスノエンドウ葉中のC/N比は低く、アワヨトウ幼虫の摂食活性は高かった。したがって、スズメノエンドウよりもカラスノエンドウでは化学的防御が弱く、葉食性昆虫にとって良的な資源であると考えられた。野外のスズメノエンドウの株上にはほとんどアリはみられなかったが、カラスノエンドウ株上には、アミメアリやトビイロケアリ、クロヤマアリなどのアリ類がみられた。アリがいない場合にくらべ、アリが頻繁に訪れるカラスノエンドウ株上には葉食性昆虫やアリを随伴しないアブラムシの個体数が少なかった。さらにアリはカラスノエンドウの主要な植食者であるアルファルファタコゾウムシの幼虫を排除するため、カラスノエンドウの花外蜜腺はアリ防御の機能を持つと考えられた。しかし、アリの誘引効果はカラスノエンドウ生育地間で大きく異なり、全体の約66_%_のカラスノエンドウにしかアリはみられなかった。アリがいた場合でも、スズメノエンドウにくらべ植物上の植食性昆虫の個体数は多い傾向がみられた。このように被食防衛の側面からみると、他の防衛戦略にくらべ花外蜜腺によるアリ防御は、それほど効果的ではないと考えられた。これらの結果から、カラスノエンドウのアリによる被食防衛の意義について考察した。
著者
川越 哲博 鈴木 信彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.673, 2005 (Released:2005-03-17)

植物の性表現や花形質の進化には自殖による近交弱勢が大きな影響を与えてきた。しかし雌雄異熟や雌雄離熟など、これまで自殖回避のために進化したと考えられていた形質が、雄機能と雌機能の干渉の回避にも役立っていることが明らかになってきた。雌雄異花性(雌雄同株)も主に自殖(近交弱勢)を回避するための適応と考えられてきたが、雌雄同株植物の中には自家不和合性を備えているものも多く存在する。自家不和合性植物においては、雌雄異花性の適応的意義は自殖の回避では説明できない。しかし自家受粉すること自体にコストが生じるのなら、両性花と比べて自家受粉を減らすことのできる単性花は適応的である。この仮説を検証するために、自家不和合性の雌雄同株植物アケビにおいて自家受粉のコストを調べるための人為受粉実験を行った。受粉処理は以下の4通り:(1) 自家受粉のみ、(2) 他家受粉のみ、(3) 自家受粉と他家受粉を同時に行う、(4) 先に自家受粉し、その24時間後に他家受粉。自家受粉のみでは結実は見られなかった。他家受粉と自家受粉を組み合わせた2処理では、自家受粉のタイミングに関わらず他家受粉のみの処理と比べて果実生産が大きく低下した。この結果は自家不和合性のアケビでも自家受粉することによって適応度が低下することを示すものである。雌蕊上での花粉管伸長を観察した結果、自家花粉も花粉管を発芽させ、雌蕊中に侵入し、少なくとも一部の花粉管は胚珠まで到達していることが分かった。このような遅延型の自家不和合反応が自家受粉のコストをもたらすと考えられる。本研究の結果は性機能間の干渉が雌雄同株の進化に影響することを示唆するものである。
著者
北本 尚子 上野 真義 津村 義彦 竹中 明夫 鷲谷 いづみ 大澤 良
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.54, 2004

サクラソウ集団内の遺伝的多様性を保全するための基礎的知見を得ることを目的として、筑波大学八ヶ岳演習林内に自生するサクラソウ集団を対象に、_丸1_花粉と種子の動きを反映するマイクロサテライトマーカー(SSR)と、種子の動きを反映する葉緑体DNA(cpDNA)多型を用いて遺伝的変異の空間分布を明らかにするとともに、_丸2_遺伝構造の形成・維持過程に大きな影響を及ぼす花粉流動を調査した。<br> 7本の沢沿い分集団と1つの非沢沿い分集団に分布する383ラメットの遺伝子型を決定した。SSRを指標とした分集団間の遺伝的な分化程度はΘn=0.006と非常に低かったことから、分集団間で遺伝子流動が生じていることが示唆された。一方、cpDNAで見つかった4つのハプロタイプの出現頻度は沢間で大きく異なっていたことから、沢間で種子の移動が制限されていると推察された。これらのことは、現在の空間的遺伝構造は沢間で生じる花粉流動によって維持されていることを示唆している。<br> 次に、沢沿いの30*120mを調査プロットとし、SSR8遺伝子座を用いて父性解析を行った。30m以内に潜在的な交配相手が多く分布する高密度地区では、小花の開花時期により花粉の散布距離に違いが見られた。すなわち、開花密度の低い開花初期と後期では45_から_80mの比較的長距離の花粉流動が生じていたのに対して、開花密度の高い開花中期では平均3mと短い範囲で花粉流動が生じていた。一方、30m以内に交配相手が少ない低密度地区では、開花期間をとおして平均11m、最大70mの花粉流動が見られた。このことから、花粉の散布距離は開花密度に強く依存することが示唆された。花粉媒介者であるマルハナバチの飛行距離が開花密度に依存することを考えあわせると、開花密度の低いときに生じる花粉の長距離散布は沢間の遺伝的分化も抑制している可能性があると推察された。<br>
著者
吉田 勝彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.771, 2004 (Released:2004-07-30)

環境変動が起こったときに、どのような生物が絶滅しやすいのか、を明らかにすることは、生物の保全を考える上で重要な課題の一つである。生物には様々な種類の餌を食べるジェネラリストと特定の餌しか食べないスペシャリストが知られているが、環境変動が起こったときにどちらが絶滅しやすいかについては諸説あり、現在結論は得られていない。その原因の一つはスペシャリストの方が一般に分布が狭いため、両者を同じ条件で比較できなかったことである。もし生物群集の進化のコンピュータシミュレーションを行い、その中で進化的に出現した様々な食性を持つ生物を共存させることができれば、同じ条件での比較が可能になる。そこで本研究では、仮想的な食物網に一次生産量の変動を起こすコンピュータシミュレーションを行った。この食物網は動物種と植物種で構成され、植物は外界からのエネルギー流入を受けて一次生産を行う。モデルの中では、外界からのエネルギー流入量を変動させることによって、一次生産量を変動させる。動物種はそれぞれの好みに従って捕食する餌を選が、好みの幅が広いほど、取り入れた生物量のうち自分の成長に使えるものの割合が低くなると仮定する。シミュレーションの結果、変動がない場合はスペシャリストの方が絶滅しにくかった。しかし、規模の小さな一次生産量の変動が起こると、食物網のベースになる植物種が打撃を受けて絶滅し、その結果少数の餌しか捕食していないスペシャリストが絶滅しやすくなった。この時、多くの種類を餌としているジェネラリストはほとんど影響を受けなかった。規模の大きな変動が起こる場合、一次生産量が極端に減少するイベントが時々発生するが、この時、極端なスペシャリストと極端なジェネラリストが生き残る可能性が高く、中間的な性質を持つ生物が絶滅しやすかった。本研究の結果は、環境変動の規模によって、保全すべき種の優先順位が変わる可能性があることを示唆している。
著者
吉田 保志子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.390, 2005 (Released:2005-03-17)

鳥類による農作物被害では、カラス類によるものが面積でも量でも最大となっている。カラス類はゴミや作物の収穫くずなどの人為起源の食物を摂食することが知られており、個体群管理のためには、これら人為起源の食物のコントロールが重要と考えられるが、農村地域における生息密度や食物に関する情報は不足している。そこで本研究では、年間を通したカラス類の個体数と採餌物の変動を調べた。 茨城県南部の平地農業景観に5ヶ所に分けて総延長76kmの調査ルートを設定し、見通しの良さに応じてルートの両側各20から100mを調査範囲として、合計11.4km2を自転車で月1回調査した。調査においては、出現したハシブトガラスおよびハシボソガラス(以下ブト、ボソと称する)の個体数、行動、採餌物を記録した。 記録個体数は、ブト、ボソともに秋冬期に多く春期に少ない傾向を示した。群れサイズ別に見ると、単独または2羽での出現はどの月においてもほぼ一定数を占め、群れは主に秋冬期に出現していた。非積雪地ではブト、ボソいずれにおいても周年なわばりを維持するという報告があることから、単独または2羽での出現個体の多くはなわばり個体である可能性が高く、群れは主に非繁殖個体によって構成されるのではないかと考えられた。 ブトとボソの採餌物は大きく異なっており、ブトは人家のゴミおよび畜舎で得た食物が多かったのに対し、ボソはほとんどの食物を農地で得ており、作物くず(ラッカセイ、稲、サツマイモ等)と農地の昆虫・動物(アメリカザリガニ等)が多かった。なお、調査ルート沿いのゴミ集積所は金網製の箱形が多く、そうでない集積所でもカラス類によるゴミ荒らしの観察件数は少なかったため、採餌されたゴミの多くは裏庭のゴミ穴等から得たものと思われた。
著者
土肥 昭夫
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.62-66, 1969-04-01

The feeding experiments of the guppy, Poecilia reticulata, were carried out under various bait concentrations. A water flea, Daphnia pulex, was used as the bait. 1) The guppy continously feeds on the bait all through the day, when supplied with a sufficient amount. 2) The consumed number of baits can be described as a function of the time required for feeding, as follows, n=N(1-e^<-at>) where n is the number of baits consumed till the time t, N is the initial concentration of bait and 'a' can be expressed in the present experiments as the function of the initial concentration of bait and the full function can be described as, n=N(1-e^<-5.468t>/N^<0.913>) 3) The equation between the number of baits consumed and the initial concentration of the bait showed good agreement with the equation obtained by IVLEV (1955). This equation is described as, r=R(1-e^<-ξp>) where R is the maximum amount of food consumption at a definite time and ξ is the coefficient of proportionality.
著者
向坂 幸雄 雨甲斐 広康 吉村 仁
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.253, 2004

季節的に出生性比を調節する生物の存在はいくつか知られているが、その適応的意義を解明する上では数理的アプローチが重要である。特に、体サイズも小さく、一回の産仔数が多い両生類では、成長後の繁殖参加の雌雄差を出生時期毎に実際に追跡するのは非常に困難であり、数理的解析によって、調べるべきポイントを明らかにすることは特に重要である。演者らはツチガエル(<i>Rana rugosa</i>)では長期に渡る繁殖期中で季節の進行と共に出生性比の変化が起きていることを明らかにした。また、その傾向が地域集団間で逆転していることも明らかにした(第49回大会発表)。我々はツチガエルの生活史を念頭に置き、シミュレーションのような確率的要素に依らない解析的ESSモデルを構築し、繁殖機会が年に2回あるモデル生物での季節的性比調節の可能性を、雌雄で異なる成長速度などを考慮して検討した。これまでに我々が構築してきたモデルでは、性比を集団内の出生性比とは独立にとれる突然変異個体の侵入条件を考察する際に、出生年とその前後1年づつの非突然変異個体しか背景集団として考えていなかった。しかし、繁殖機会が最大2年に及ぶモデルでは、各年次での背景集団を考慮しなければ正確なESSの解析はできない。今回その範囲を前後それぞれ2年ずつ計5年分を考慮し、さらに突然変異個体が前期と後期のいずれの場合に生まれるかについても分離して考えることで、より詳細な条件推定をすることを可能にした。年2回の繁殖機会相互での出生性比の適応的パターンは8通りでき、大まかに分けると4通りに区別できた。このことから、雌雄間でその後に経験する繁殖機会の数に差ができ、またその違いのでき方が出生時期によって異なるような場合には繁殖時期によって性比を1:1からずらすような形質がESSとなり得ることがわかった。
著者
吉田 洋 林 進 北原 正彦 藤園 藍
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.430, 2005

本研究は,山梨県富士北麓地域に生息するニホンザル(<i>Macaca fuscata</i>)1群を対象に,ラジオテレメトリーと,GPSテレメトリーから得られるデータの特性を把握することを目的とした.調査はまず,対象群のニホンザルメス2頭を箱罠で捕獲し,1頭にVHF発信器(ATS-8C, Advanced Telemetry System, USA),1頭にGPS発信器(Collar120, Televilt, Sweden)を装着して放逐した.ラジオテレメトリーは週3-4回,日中に実施し,GPS発信器は週4回,午後0時に測位するように設定した.今回用いたGPSの測位精度は,3Dで±15m以内(90%)である.調査は,2003年12月から2004年5月に実施した.<br>調査の結果,測位成功率はラジオテレメトリーが100%(n=66),GPSが77.2%(n=92,うち3D以上が50.0%,2Dが39.8%)であった.月毎にみると,GPSの測位成功率に大きな変動はないものの,3D以上の割合が4月から低下し,逆に2Dの割合が増加した.この結果は,落葉樹の開葉と,ニホンザルの耕作地および遊休農地の利用の減少からもたらされた可能性がある.さらに,固定カーネル法で行動圏面積(95%)とコアエリア面積(50%)を求めたところ,ラジオテレメトリーではそれぞれ13.1km<sup>2</sup>,2.8km<sup>2</sup>,GPSではそれぞれ17.6km<sup>2</sup>,2.2km<sup>2</sup>と,GPSで得たデータのほうが,行動圏面積は大きく,コアエリアの面積は小さく算出された.この結果から,ラジオテレメトリーでは測位が難しい場所でも,GPSでは測位できること,地形が急峻な場所では,GPSが測位し難いことが影響している可能性があるといえる.
著者
角 恵理
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.300, 2004

コオロギの歌は種特異的であり、種認識において重要な役割を果たすと考えられる。日本列島に分布する3種のエンマコオロギ属コオロギ(エゾエンマコオロギ、エンマコオロギ、タイワンエンマコオロギ)のメスに対してプレイバック実験を行い、配偶者選択において鍵となる歌のパラメーターを調べた。<br> 第一に、3種のメスに対して、3種のオスの歌を再生してきかせた。その結果、分布の重ならない2種間ではお互いの歌を選択しあう割合が高かったが、分布の重複する2種間ではそのような誤判別はまれであった。すなわち、分布の重複する2種の間では、自種の歌を正確に判別しており、交配前隔離に歌が有効に機能していることが示された。<br> 第二に、そのような判別は歌のどのパラメーターの違いに基づくものかを明らかにするために、コンピューターで合成した歌を再生しメスの反応を調べた。その結果、歌のパルスペリオドに関しては3種の平均値の歌をプレイバックした場合には、自種の平均値の歌を選択する傾向が認められた。一方、優位周波数については、そのような傾向は認められなかった。チャープ繰り返し率、パルス数については、3種のメスに共通して、チャープ繰り返し率が高くなるほど、パルス数が多くなるほど、選択するメスの割合が高くなった。<br> 以上の結果から、コオロギの歌は同所的に分布する近縁他種から自種を正確に判別するのに有効であること。その際の自種の認識には、歌のパルスペリオドが重要であることが示された。また、メスは、自種の歌がとりうる値の範囲を超えて、チャープ繰り返し率が高く、パルス数が多い歌を選択すること、すなわち超正常刺激に対する好みが示された。<br>
著者
谷 友和 工藤 岳
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.141, 2004

落葉樹林の林床は、上層木の葉群動態を反映して光環境が季節を通じて大きく変化する。夏緑性高茎草本植物は冷温帯林にふつうにみられ、生産性が高く、時として地上高が2m以上に達する。本研究では北海道道央域の2カ所の落葉樹林下において、6種の高茎草本(チシマアザミ、ヨブスマソウ、バイケイソウ、エゾイラクサ、ハンゴンソウ、オニシモツケ)を材料に、高茎草本が光環境の季節変動に対し、どのような生産活動を行っているのかを明らかにし、林冠下で高くなるための成長戦略について考察する。<br>サイズの異なる個体の地上部を採取し、乾燥重量を測定したところ、どの種でも同化-非同化器官重の比は高さによらず一定であり、単位重量当たりの葉を支持する茎への投資は高さに関わらず一定であると考えられた。同一個体の複数の葉で最大光合成速度(Pmax)と呼吸速度の季節変化を調べたところ、どの高さの葉でも、林冠閉鎖による光量低下に伴って、Pmaxと暗呼吸速度が低下した。個体内では上の葉から下の葉に向かってPmaxと暗呼吸速度の勾配が生じた。葉の老化による光合成低下と共に、弱光環境への光順化が起こったと考えられた。光合成速度、葉面積の季節変化と林床層の光環境の季節変化を組合せ、伸長成長が終了するまでの期間の個体ベースの日同化量を推定した。順次展葉種では、林冠閉鎖の進行途中に純同化量が最大となった。光量の低下と共に光合成と呼吸速度を低く抑え、かつ伸長成長と共に葉を蓄積し、同化面積を増やすことで個葉レベルの光合成低下を補っていたと考えられた。このような成長様式は、林床の光変動環境下で個葉レベルの同化量を維持するための戦略であると考えられた。一方、一斉展葉型のバイケイソウでは、林冠閉鎖の進行と共に純同化量は減少を続けたため、短期間に同化活動を集中させる春植物的な戦略を取っていると考えられた。