著者
伊東 宏樹 日野 輝明 高畑 義啓 古澤 仁美 上田 明良
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.443, 2004 (Released:2004-07-30)

奈良県大台ヶ原において野外実験をおこない、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサの3つの要因が、樹木実生の生存に対してどのような影響を及ぼしているのかを評価した。1996年に、ニホンジカ、ネズミ類、ミヤコザサのそれぞれの除去/対照の組み合わせによる8とおりの処理区を設定し、その中に発生してきた、ウラジロモミ(1997年、2002年に発生)、アオダモ(1998年、2002年)、ブナ(1999年)の5つのコホートについて、マーキングして生存状況を追跡した。この結果を元に、それぞれのコホートの実生の生存時間について各処理の間で差があるかどうかをログランク検定により検定した。その結果、(1)すべてのコホートに共通して、シカ除去処理区におけるミヤコザサが生存時間に対して負の影響を及ぼしていることがわかった。また、(2)2002年のウラジロモミを除くコホートでは、ササ除去区において、シカが負の影響を及ぼしていた。一方、(3)アオダモ(1998年、2002年)およびウラジロモミ(2002年)の3つのコホートに対しては、シカの影響は、ササ残存区においては正の効果をもたらしていた。シカ除去処理をおこない、ミヤコザサを残存させた処理区では、ミヤコザサが急速に回復して林床を覆うようになった。(1)の効果は、このためであると考えられる。大台ヶ原のニホンジカは、ミヤコザサを主要な食料としており、ミヤコザサを減少させる要因である。(2)のように、ニホンジカは直接的には実生に対して負の効果をもたらすことがあるが、(3)のように、ミヤコザサを減少させることにより間接的に正の効果を及ぼすこともあることがわかった。ネズミ類除去処理については、顕著な効果は認められなかった。
著者
酒井 昭 倉橋 昭夫
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.192-200, 1975-12-31
被引用文献数
5

Dormant one-year-old twigs were collected from the mature and young plants of a number of conifer species cultivated at Yamabe, Hokkaido, and other places during midwinter, these were artificially hardened at sub-freezing temperatures to overcome differences in site of collection and to induce maximum freezing resistance. In most of the species distributed in the sub-alpine and sub-cold zones, the leaves and the twigs resisted freezing to -70℃ or below, while most of the species distributed in the temperate zone resisted freezing to only about -30℃, and the leaves and the twigs were found to be nearly equally hardy unlike the conifers distributed in sub-alpine and sub-cold zones. Also, most of these temperate conifers were observed not to be grown in a severe cold climate in Hokkaido. Thus, in the conifers distributed in the temperate zone, winter minimal temperatures appear to be the principal factor governing their growth in severe cold climates. A marked variation in hardiness was not observed among the pines Pinus denslflora and Pinus thunbergiana from different provenances.
著者
九鬼 なお子 大窪 久美子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.365, 2004 (Released:2004-07-30)

本研究は長野県上伊那地方をケーススタデイとして,立地環境の異なる水田地域におけるトンボ群集の構造と季節変化,また立地環境との関係性について明らかにすることを目的とした.調査地域は中山間地(未整備2、整備済1)と市街化地(未整備1、整備済1)の計5ヶ所を選定した.晴天日の午前と午後にルートセンサスを行い,半径5m以内に出現したトンボ目の種名・雌雄・個体数・出現環境・出現位置・行動を記録した.6月上旬から11月上旬まで月に2_から_3回,1調査地につき28回,計140回実施した.土地利用調査は2003年11月に行われた.総出現種は23種,総出現個体数23,150個体で,その分類群構成はイトトンボ科2種,アオイトトンボ科3種,カワトンボ科2種,オニヤンマ科1種,ヤンマ科2種,エゾトンボ科1種,トンボ科12種であった.出現種数及び総個体数は中山間地未整備で多く,市街地整備済みで少なかった.これは池や川,湿地等の多様な水辺環境が存在し、周辺にねぐら等になる林が多いためと考えられた.成虫の成熟段階別の個体数季節変動から各種の移動について考察した.出現種は移動性大(aウスバキトンボ,bアキアカネ)と移動性中(Aノシメトンボ等,Bナツアカネ,Cシオカラトンボ等),移動性小(オオアオイトトンボ等)の3グループに分けられ,さらに小分類された. 出現種の個体数データを用いてTWINSPAN解析を行った結果,調査地域は中山間地と市街地の2グループに分類され,トンボ群集は7グループに分類された.成熟成虫の出現場所と行動の割合から、各種の水田地域の利用の仕方について考察した.種ごとに特定の環境に集中して出現する傾向がみられ,環境を選択して利用していると考えられた.各調査地域では水辺や森林等の立地条件の違いに対応した種群が出現した.また水田地域に生息するトンボの種ごとの特性に応じた季節変動と行動が確認された.
著者
道前 洋史 若原 正己
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2005 (Released:2005-03-17)

卵は多くの母性因子を含むことから、そのサイズがエピジェネティック発生過程を通じて後の形質発現に大きな影響を与えることが知られている。すなわち、遺伝子型の違いだけでなく、発生機構自体も表現型多型の要因となる。本口演では、卵サイズと可塑的形質がエピジェネティック発生過程を通じて強く相関しているため、可塑的な反応性に制約がもたらされる例を報告する。 近年報告されている表現型可塑性は、自然選択の対象となり、多様な環境変化への生物の適応的反応と解釈されている。北海道に生息する有尾両生類エゾサンショウウオでは、その幼生期間に頭部顎軟骨が著しく肥大した可塑的形態Broad-headed morph(頭でっかち形態)が誘導される。この形態の誘導要因はエゾサンショウウオ幼生にとって大型餌動物である同種幼生やエゾアカガエル幼生の高密度化である。この事実はBroad-headed morphが大型餌動物の効率的捕食への適応的反応であることを示している。したがって、集団間での選択圧の違いがBroad-headed morph発生率の変異を引き起こすことは容易に推測される。我々は、異なる幼生密度の集団間でBroad-headed morph発生率が大きく異なっており、幼生密度が高い集団ほどBroad-headed morph発生率が高いことを示した。しかし、同時に卵サイズを調べた結果、Broad-headed morph発生率は卵サイズに依存したものであった。すなわち、Broad-headed morph発生率の集団内及び集団間変異は、卵サイズの変異によるものであった。このような結果は、現在の生態学的アプローチによる表現型可塑性の研究に対して、発生学的アプローチの必要性を訴えているものである。
著者
呉 盈瑩 藤田 剛 樋口 広芳
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.659, 2004 (Released:2004-07-30)

日本の南西端に位置する石垣島は、個体数の減少が懸念されている猛禽類サシバの日本における主要な越冬地である。サシバは毎年10月から翌年の3月まで、石垣島の主要な農地環境である牧草地で採食する。演者らは、まず、この地域での越冬期を通したサシバの生息地利用と食物品目などを2002年から2004年に調査した。ラジオテレメトリーや色足環によって個体識別を行ない、のべ6羽の個体追跡を行った結果、すべての個体が越冬期を通して行動圏を農地内に維持していた。一個体の一日の行動圏面積は、越冬期内の時期によって変化し、最小0.09 km2、最大 0.48 km2だった。サシバの越冬期における食物の95%以上がバッタ類であった。サシバは、止まり場に止まり、その周辺で発見した食物動物を採食する、待ち伏せ型の採食様式をとる。調査地のサシバが止まり場として利用したのは、スプリンクラー、電柱、防風林だった。行動圏内の利用様式に注目すると、観察された採食行動の95%は、牧草地での採食だった。牧草地一区画あたりの面積(2700_から_8100 m2)は、サシバの行動圏にくらべて小さく、サシバは、一日のあいだに何度も採食のために待ち伏せする牧草地の選択と放棄を繰り返していた。牧草地では刈り取りが年4回から6回行われているが、この刈り取りの繰り返し期間は牧草の品種、牧草地の立地、栄養条件などによってちがっているため、サシバの行動圏内にはさまざまな草丈の採草地がモザイク状に存在していた。そこで、演者らはサシバによる牧草地の選択と放棄過程に注目し、牧草の刈り取り、草丈、牧草地の配置、待ち伏せ場所であるスプリンクラー数、そして食物であるバッタの密度などが、サシバの採食パッチ選択と放棄にどう関わっているのかを解析した。今回は、これら越冬期におけるサシバの生息地利用と、その利用様式に関わる採食パッチ選択と放棄に影響する要因について報告を行う。
著者
粕谷 英一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.585, 2004 (Released:2004-07-30)

変数そのものでなくその適当な関数を使ってデータを解析をすることはこれまで広く行われてきた。変数変換の中でも、角度変換(アークサイン平方根変換)などとならんでよく使われてきたのがべき乗変換や対数変換である。べき乗変換の例としては平方根変換などがあり、対数変換もべき乗変換の系列の中に位置付けられてきた。変数変換により、もとのデータの平均値を変換したものと変換後の平均値が異なる、交互作用項が実質的に変化する、変数単独の効果(例、偏回帰係数)が他の変数に依存する、などの不都合で不適切な影響が人為的に生じる。変数変換を用いた過去のデータ解析のかなりの部分は、重要な結論が導かれたのであれば見直す必要がある。変数変換という操作の持つ問題点を認識することは、変数間の決定論的な関係を分析に際して明確にすることの重要性や誤差構造の重要性を浮かび上がらせ、生態学におけるデータ解析の質の大幅な向上に役立つ。_
著者
柴山 弓季 植田 好人 角野 康郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.176, 2004 (Released:2004-07-30)

自殖性絶滅危惧水生植物ヒメシロアサザの地理的変異柴山弓季(東京大・農学生命科学研究科)・植田好人(神戸市立西高校)・角野康郎(神戸大・理) 日本産アサザ属には他殖性を示す異型花柱植物アサザとガガブタのほかに、ヒメシロアサザNymphoides coreana (Lev.)Haraが存在し、3種とも絶滅危惧植物に指定されている。最近の繁殖生態学的研究の結果、ヒメシロアサザは他の2種と異なり、自動自家受粉による高い自殖性を維持していることが明らかになった(植田・角野,未発表)。ヒメシロアサザは、栃木県から西表島にわたって約10数個体群程度が局所的に残存しているに過ぎない。そこで本研究では、自殖性を示す本種の各個体群にみられる遺伝的分化を調査した。 各個体群から採集した種子を材料に発芽特性、種子形態(表面突起の有無)、種子サイズ、重量、花冠サイズおよび生活史(多年生か一年生か)を比較観察した。 その結果、上記の形質において顕著な地理的およびハビタット間(ため池か水田)分化が認められることが明らかになった。さらに、酵素多型分析により多型が認められたPGM, MDH, TPI, ADK, SkDHを組み合わせたmultilocus genotype(MLG)を決定したところ、各個体群に特有なMLGが存在していることが分かりそれぞれの個体群の遺伝的分化も裏付けられた。共有対立遺伝子距離に基づいた樹形図から、岡山県の個体群でさらなる遺伝的分化が確認された。このような分化は、自殖という繁殖様式によってお互いの個体群が遺伝的に隔離される中で生じてきたものと推測される。 今回の結果は、遺伝的多様性保全の観点から残存するすべての個体群の保全に努めることの必要性を示している。今後は、ヒメシロアサザ個体群の存続可能性を検討するためにF1, F2を作出して、近交弱勢や他殖弱勢の存在などを確認する予定である。
著者
粕谷 英一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.61, 2005 (Released:2005-03-17)

交尾の際のメスとオスのさまざまな性質では、ある性質が片方の性にとっては有利だがもう片方の性にとっては不利だということがある。性的対立(sexual conflict)と呼ばれる、このような考え方が、最近、交尾に関する性質の研究を刺激している。これまで、交尾の際に見られる特徴を片方の性(とくにメス)の性質だと見て、その性にとっての利益を考えることが多かった。たとえば、メスが複数のオスと交尾する理由の研究では、メスの利益を中心に据えて、複数回交尾によってメスが受ける利益はどんなものかと考えるのが普通だった。また、メスの交尾相手選好性の研究では、ある性質を持つオスとの交尾率が高いのはそのオスと交尾するのがメスにとって有利であるからだ、と考えるのも普通であった。だが、メスの利益をもたらすことは実証されていないことも多く、メスは1回だけ交尾するのが最適であるのに、オスは数多く交尾するのが有利で、オスの交尾試行に対してメスが拒否できずに複数回交尾となっている可能性がある。実際に、交尾自体がメスにとってはコストをもたらすことがある。よく知られた例では、キイロショウジョウバエでは精液に含まれる物質により交尾するとメスの死亡率が高まる。性的対立のアイデアはすでに交尾をめぐるメスとオスの性質の研究に適用されており、代表的なものとしてRiceらのchase-awayモデルがある。交尾行動の進化に関する研究に性的対立が与える影響を、メスの交尾相手選好性を中心に種分化なども含めて概観し、行動を観察した印象から利害を類推することの危険性や利害の実測の重要性などについて述べる。
著者
松浦 健二
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.288, 2004 (Released:2004-07-30)

擬態は幅広い分類群に見られる戦術であり、「だます側」と「見破る側」の軍拡競争の好例として、進化生態学の分野では盛んに研究されてきた。高等動植物による巧みな擬態の例は無数に知られているが、菌類による擬態をご存知だろうか。ここで、世界初の「シロアリの卵に擬態するカビ」について発表する。シロアリのワーカーは、女王の産んだ卵を運んで山積みにし、世話をする習性がある。このようにしてできる卵塊の中に、シロアリの卵とは異なる褐色の球体(ターマイトボール)が見られる。この球体のリボソームRNA遺伝子を分析した結果、Athelia属の新種の糸状菌がつくる菌核であることが判明した。菌核とは菌糸が柔組織状に固く結合したもので、このかたちで休眠状態を保つことができる。卵塊中に菌核が存在する現象は、ヤマトシロアリ属のシロアリにきわめて普遍的にみられる。日本のReticulitermes speratusと同様に、米国東部に広く分布するR. flavipesおよび米国東南部に生息するR. virginicusも、卵塊中にAthelia属菌の菌核を保有することが判明した。シロアリは卵の形状とサイズ、および卵認識物質によって卵を認識する。この菌核菌はシロアリの卵の短径と同じサイズの菌核をつくり、さらに化学擬態することによって、シロアリに運搬、保護させている。シロアリは抗菌活性のある糞や唾液を巣の内壁に塗って、様々な微生物の侵入から巣を守っている。卵に擬態することによって巣内に入り込んだ菌核菌は、一部が巣内で繁殖し、新たに形成された菌核はさらに卵塊中に運ばれる。卵塊中の卵よりも菌核の数の方が多いこともしばしばある。シロアリのコロニーが他の場所に移動する際や、分裂増殖する際には、菌核菌もそれに乗じて移動分散することができる。日本および米国におけるシロアリと卵擬態菌核菌の相互作用について議論する。
著者
若菜 勇 佐野 修 新井 章吾 羽生田 岳昭 副島 顕子 植田 邦彦 横浜 康継
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.517, 2004

淡水緑藻の一種マリモは,環境省のレッドデータブックで絶滅危惧I類に指定される絶滅危惧種で,日本では十数湖沼に分布しているといわれている。しかし,生育実態はその多くで明らかではなかったため,過去にマリモの生育が知られていた国内の湖沼のすべてで潜水調査を行い,生育状況と生育環境の現状を2000年に取りまとめた(第47回日本生態学会大会講演要旨集,p.241)。その中で,絶滅危惧リスクを評価する基準や方法について検討したが,新規に生育が確認された阿寒パンケ湖(北海道),西湖(山梨県),琵琶湖(滋賀県)ではマリモの生育に関する文献資料がなく,また調査も1度しか行うことができなかったため,個体群や生育環境の変化を過去のそれと比較しないまま評価せざるを得なかった。一方で2000年以降,阿寒ペンケ湖(北海道)ならびに小川原湖(青森県)でも新たにマリモの生育が確認されたことから,今回は,過去の生育状況に関する記録のないチミケップ湖を加えた6湖沼で複数回の調査を実施して,個体群や生育環境の継時的な変化を絶滅危惧リスクの評価に反映させるとともに,より客観的な評価ができるよう評価基準についても見直しを行った。その結果,マリモの生育面積や生育量が著しく減少している達古武沼(北海道)および左京沼・市柳沼・田面木沼(青森県)の危急度は極めて高いことが改めて示された。また、1970年代はじめから人工マリモの原料として浮遊性のマリモが採取されているシラルトロ湖(北海道)では,1990年代半ばに47-70tの現存量(湿重量)があったと推定された。同湖における年間採取量は2-2.5tで,これはこの推定現存量の3-5%に相当する。補償深度の推算結果から判断して,現在のシラルトロ湖における資源量の回復はほとんど期待できず,同湖においては採取圧が危急度を上昇させる主要因になっている実態が明らかになった。
著者
小林 万里
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.9, 2004

北方四島および周辺海域は第2次世界大戦後、日露間で領土問題の係争地域であったため、約半世紀にわたって研究者すら立ち入れない場所であった。査証(ビザ)なしで日露両国民がお互いを訪問する「ビザなし交流」の門戸が、1998年より各種専門家にも開かれたため、長年の課題であった調査が可能になった。<br>1999年から2003年の5年間に6回、北方四島の陸海の生態系について、「ビザなし専門家交流」の枠を用いて調査を行ってきた。その結果、択捉島では戦前に絶滅に瀕したラッコは個体数を回復しており、生態系の頂点に位置するシャチが生息し、中型マッコウクジラの索餌海域、ザトウクジラの北上ルートになっていること、また南半球で繁殖するミズナギドリ類の餌場としても重要であることも分かってきた。歯舞群島・色丹島では3,000頭以上のアザラシが生息し、北海道では激減したエトピリカ・ウミガラス等の沿岸性海鳥が数万羽単位で繁殖していることが確認された。<br>北方四島のオホーツク海域は世界最南端の流氷限界域に、太平洋側は大陸棚が発達しており暖流と寒流の交わる位置であることや北方四島の陸地面積の約7割、沿岸域の約6割を保護区としてきた政策のおかげで、周辺海域は高い生物生産性・生物多様性を保持してきたと考えられる。<br>一方、陸上には莫大な海の生物資源を自ら持ち込むサケ科魚類が高密度に自然産卵しており、それを主な餌資源とするヒグマは体サイズが大きく生息密度も高く、シマフクロウも高密度で生息している明らかになった。海上と同様、陸上にも原生的生態系が保全されており、それは海と深い繋がりがあることがわかってきた。<br>しかし近年、人間活動の拡大、鉱山の開発、密猟や密漁が横行しており、「北方四島」をとりまく状況は変わりつつある。早急に科学的データに基づく保全案が求められている。そのために今後取り組むべき課題について考えて行きたい。
著者
赤坂 宗光 露崎 史朗
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.334, 2004

火山における実生の生物学的侵入パターンが異なるマイクロハビタットにより標高傾度によりどのように変化するのか、また実生のパフォーマンスは攪乱地への侵入にとって有利となるかを明らかにするため、渡島駒ケ岳において急速に分布を拡大している北海道非在来種カラマツと、最も優占する在来種のダケカンバに対して播種実験および天然更新実生の分布の調査を行った。発芽、生存、資源分配、分岐パターン、および天然更新実生の分布パターンを3標高帯×3マイクロハビタット(裸地=BA、ミネヤナギパッチ=SP、カラマツ樹冠下=UL)で比較した。<br>対象2種ともに発芽率はLUがBA、SPよりも高かったが、標高間で差は見られなかった。生存率は標高間およびマイクロハビタット間で差は見られなかった。カラマツはダケカンバよりも高い生存率を示した。カラマツは全ての標高において、SPでの天然更新実生の密度が高く、ミネヤナギがシードトラップの役割を果たすことが示唆された。ダケカンバ実生は殆どみられなかった。カラマツは地上部重/地下部重比、高さ/直径比、分岐頻度で示される実生のパフォーマンスを標高・マイクロハビタットで変化させたが、葉重/個体重比は一定であった。BAにおいてカラマツは、地上部の高さ生長が抑制され、分岐の多い形態を示し、より地下部へ多く資源分配していた。この形態は風が強く、貧土壌栄養の環境に適応していると考えられた。カラマツ実生がSPでより細長くなったことから、被陰されたハビタットでは光獲得がより重要であることが示唆された。一方ダケカンバは、殆どパフォーマンスの変化が見られなかった。<br>これらから環境が厳しく、変動が激しい環境では、優れた実生パフォーマンスによって侵入種は在来種よりも全てのマイクロハビタットで高い生存と成長率を示すことができることが明らかになった。樹木限界やさらに高標高の植物群集は生物学的侵入による改変を受けやすいと考えられる。<br>
著者
伊川 耕太 中村 幸人
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.403, 2004 (Released:2004-07-30)

伊豆大島の気候的極相林はオオシマカンスゲ-スダジイ群集となるが、噴火の影響を受けている現存植生とは異なる遷移段階の植生がみられる。本研究では植物社会学的方法(Braun-Blanquet 1964)を用いて植生調査を行い(1)伊豆大島に存在する植生単位を抽出する。(2)一次遷移、二次遷移の系列ごとに植生単位を整理し、両遷移系列を明らかにする。(3)両遷移系列の関係について明らかすることを目的とした。一次遷移には、ハチジョウイタドリ_-_シマタヌキラン群集→ニオイウツギ_-_オオバヤシャブシ群集→オオバエゴノキ_-_オオシマザクラ群集→オオシマカンスゲ_-_スダジイ群集という遷移系列がしられている。二次遷移では、その成立要因として人為的影響があげられた。また、火山による攪乱が比較的弱い立地では、火山による二次遷移が見られた。それらは、火山灰の影響をうけ、林床にダメージを受けているが、種や個体サイズの違いによって生存に違いが見られた。また、低木以上の種も、火山灰や高熱により被害を受けるが、胴吹きなどによって再生する個体が見られる。その結果、火山の影響を受けた二次遷移の系列が成立し、植生単位として、ハチジョウイボタ_-_オオバエゴノキ群落、ツルマサキ_-_オオシマザクラ群落、オオバエゴノキ_-_スダジイ群落が判定された。これらの群落は、オオシマザクラ_-_オオバエゴノキ群集との共通種が出現しているものの、その標徴種を欠いていた。この群落はニオイウツギ-オオバヤシャブシ群集に対応し、オオバエゴノキ_-_オオシマザクラ群集へ遷移していくと考えられる。オオバエゴノキ-スダジイ群落は高い優占度でスダジイが混交するものの、オオシマカンスゲ_-_スダジイ群集の種は出現していない。この群落はオオシマザクラ-オオバエゴノキ群集に対応し、オオシマカンスゲ-スダジイ群集へ遷移していく。
著者
中西 弘樹
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.153-158, 2010
参考文献数
15

The history and present status of the conservation of <i>Hibiscus hamabo</i> Siebold et Zucc., which grows around salt marshes and is considered a semi-mangrove plant, were studied. Recently, several localities of this species have been designated as town, city, and prefectural natural monuments. The species is listed in the regional Red Data Book for most prefectures where it occurs. Citizens and government departments have performed numerous conservation activities. The conservation activities of citizens have varied, although some have incorrectly involved transplanting <i>H. hamabo</i> from other regions. It is important that conservation activities are carried out not only by citizens but also by government departments and researchers.
著者
井田 秀行 青木 舞
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.105-114, 2006-12-05
被引用文献数
2

教員養成系大学生の身近な自然観を把握するため、信州大学教育学部(長野県長野市)の学生284名を対象にアンケートを実施した。アンケートでは幼少期の生活環境と、当学部の「自然数育実習」で扱われている題材のうち日本の伝統植物や代表的樹木に対する認識を探ることに焦点を当てた。その結果、多くの学生の幼少期の生活環境は、農村部のような自然が身近にある場所であったり、お年寄りとの接触が少なくない環境であったりした。ここで、お年寄りとの接触頻度は住宅地よりも農村部で高いことが示された。なかでも、農村部に暮らし、お年寄りとの接触も多かった学生ほど、自然遊びや伝統的外遊びをしていた割合が高く、日本の伝統植物である「春の七草」の正答率も比較的高かった。このことから、幼少期の生活環境が伝統植物への認識に、ある程度影響を及ぼしている可能性が示唆された。一方で、「秋の七草」や「ススキの利用法」への認識は低く、その要因として、人の生活様式の変化に伴う伝統植物の利用放棄や生育適地の衰退が、世代間の伝承の停滞を導いた可能性がある。日本の代表的樹種に多く挙がったのは、サクラ、マツ、スギ、ヒノキで、その傾向に幼少期の生活環境との関連性は認められなかった。また、長野県の代表的樹種の首位に挙がったシラカバの占める割合は、長野県出身者が県外出身者を大きく上回っていた。これらの樹木は一般的に比較的身近な存在ではあるが、サクラを除けば、それら樹木への認識の多くは、日常生活との関わりというよりも、むしろ、現在までに得られた知識やイメージの集約により形成されたものと考えられた。以上から、将来の学校教員としての役割を踏まえると、教員養成系大学における自然教育では、こうした学生の実状に合わせた授業の展開が必要だろう。例えば、漠然と捉えている自然を、より身近にかつ具体的に捉えられるよう、導入には、自然に関わる地域の風習、文化、季節の行事など身近な題材を用い、そこに生態学的な視点を盛り込むことで、身近な自然と人の関わりを理解することから始めると効果的であると考える。
著者
鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.181-185, 2000-01-15
参考文献数
10
被引用文献数
10

日本列島における外来植物の侵入,特に,河原への侵入に関する保全生態学的な現状把握にもとづき,外来植物の蔓延や生物多様性への影響を防ぐための管理に関して,主に種子の分散・移動と土壌シードバンクの視点からの提案をまとめた.治山工事や各種の緑化工事が移入における種子供給源となっている可能性を指摘した.
著者
小林 頼太 長谷川 雅美 宮下 直
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.795, 2005

カミツキガメ(<i>Chelydara serpentina</i>)は淡水から汽水域にかけて生息するアメリカ原産の雑食性カメ類である.日本へは,1960年代からペットとして輸入され,近年では全国各地から野外へ逸出した個体が発見されるようになった.千葉県印旛沼周辺では1990年代中頃より本種が頻繁に発見されるようになり,2002年には国内で初めてカミツキガメの定着が確認された.カミツキガメは在来種と比較して大型であり,また多産であることから個体数が増加した場合,生態系へ大きな影響を及ぼす可能性がある. そこで本研究ではカミツキガメの管理を目的とし,まず,本種の印旛沼流域における分布を調査した. 2000年から2004年の期間に印旛沼流域において,罠掛けによる捕獲および聞き取り調査を行った結果,カミツキガメが確認された地点は流入河川である鹿島川及びその支流に偏っており,こうした傾向に顕著な変化は認められなかった.また, 2002, 2003年に合計28個体(オス10,メス18)に電波発信機を装着し,利用区間距離を記録した結果,外れ値の1個体を除いた27個体の平均(±SD)は405±192mであり,性差は見られなかった.また,この傾向は追跡期間(18-597日)とは相関がなかった.外れ値の 1個体に関しては短期間に移動し,最終的に利用区間は約2300mとなった. 次に,消化管および糞内容物から,カミツキガメを支える餌生物について評価した.その結果,カミツキガメは主に水草やアメリカザリガニなど,環境中に豊富にある資源を摂食していた.これらの結果をふまえ,今後のカミツキガメの管理方針について検討を行う.
著者
黒田 啓行 庄野 宏 伊藤 智幸 高橋 紀夫 平松 一彦 辻 祥子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.209, 2005

実は多くの漁業は漁獲量の制限などにより管理されている。漁獲許容量(TAC)は、現在の資源量(魚の量)などから算出されるのが通例である。しかし現実には、データや知見の不足により、資源量などの推定は難しく、さらに将来の環境変動などを予測することも容易でない。このような「不確実性」は、科学の問題だけでなく、合意形成をはかる上でも大きな障害となる。<br> ミナミマグロは南半球高緯度に広く分布する回遊魚で、商品価値は非常に高い。日本、オーストラリアなどの漁業国が加盟するミナミマグロ保存委員会(CCSBT)により管理されている。しかし、近年の資源状態については、各国が主張する仮説によって見解が異なり、TACに正式合意できない状況が続いていた。<br> この状況を打開するために、CCSBTは2002年より「管理方策」の開発に着手した。管理方策とは、「利用可能なデータからTACを決めるための"事前に定められた"ルール」のことで、環境変動や資源に関する仮説が複数あっても、それら全てに対し、うまく管理できるものが理想的である。そのため、様々な仮説のもとでのテストが事前に必要であるが、実際に海に出て実験することは不可能に近い。そこで、コンピューター上に資源動態を再現し、その「仮想現実モデル」のもとで、複数の管理方策を試し、より頑健なものを選び出すという作業が行われた。このような管理方策の開発は、国際捕鯨委員会(IWC)を除けば、国際漁業管理機関としては世界初の画期的な試みである。実際にCCSBTで管理方策の開発に当たっている者として、開発手順を概説し、問題点及びその解決方法について紹介したい。不確実性を考慮した管理方策の開発は、持続可能な資源の利用を可能にし、魚と漁業に明るい未来をもたらすものと考えている。
著者
館脇 操
出版者
日本生態学会
雑誌
植物生態学会報
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.17-21, 1951-06-30
著者
石井 弓美子 嶋田 正和
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.350, 2004 (Released:2004-07-30)

2種のマメゾウムシ(アズキゾウムシ、ヨツモンマメゾウムシ)と、その共通の捕食者である寄生蜂1種(ゾウムシコガネコバチ)を用いた3種の累代実験系において、3種の共存が長く持続した繰り返しでは、2種マメゾウムシの個体数が4週間周期で交互に増加するような「優占種交替の振動」がみられた。このような振動は、寄生蜂が2種のマメゾウムシに対して正の頻度依存の捕食を行う場合などに見られると考えられる。そこで、ゾウムシコガネコバチの寄主に対する産卵選好性が、羽化後の産卵経験によってどのような影響を受けるかを調べた。羽化後、アズキゾウムシとヨツモンマメゾウムシに一定期間産卵させた寄生蜂は、それぞれ産卵を経験した寄主に対して産卵選好性を高めるようになり、産卵による強い羽化後学習の効果が検出された。このことから、ゾウムシコガネコバチは、産卵による寄主学習により個体数の多い寄主へ産卵選好性をシフトし、正の頻度依存捕食を行うと考えられる。 さらに、累代実験系において実際に頻度依存の捕食が行われているかを確かめるために、「優占種交替の振動」が観察される累代個体群から1週間ごとに寄生蜂を取り出し、その選好性の経時的な変化を調べた。その結果、寄主の個体数が振動している累代個体群では、寄生蜂の寄主選好性も振動しており、2種マメゾウムシの存在比と、寄生蜂の選好性には有意な相関があることが分かった。 これらの結果から、寄生蜂とマメゾウムシの3者系において、寄生蜂の正の頻度依存捕食が「優占種交替の振動」を生み出し、3者系の共存を促進している可能性がある。このような、個体の学習による可塑的な行動の変化が、個体群の動態や、その結果として群集構造に与える影響などについて考察する。