著者
前川 光司 米田 政明 富樫 洋
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.103-108, 1980-06-30

The age composition of 362 red foxes, Vulpes vulpes shrencki KISHIDA, which were collected in eastern Hokkaido during the autumn and winter of 1970-1973,was determined by examination of the annual layers of canine tooth cementum and the fusion of the cranial sutures. The average percentage of individuals younger than 1 year old was 67% during the three-year study period. Some of the red foxes survived longcr in eastern Hokkaido than in other districts. The survivorship curve was estimated for the population surveyed.
著者
金子 之史
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.107-114, 1976-06-30

Reproduction of Microtus montebelli inhabiting cultivated lands was studied bi-monthly during the period from May, 1971 to March, 1972. The population was characterized by two main breeding seasons, in spring and fall, with sporadic breeding during winter. The average embryosize per pregnant female, based on 40 specimens captured during one year, was 5.1. The largest mean embryo-size appeared in September. The pattern of change in the male breeding rate and mean testis length showed similarities to that in female breeding rate, pregnancy rate and mean embryo-size. From the comparison of the breeding season in Kyoto with that in other localities, it is suggested that high temperature exerted a restraining influence on the breeding of the vole in summer. The seasonal change of embryo-size in Kyoto differed from that in Iwate. The reasons for the difference are discussed.
著者
森 章
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.283-291, 2009-11-30
被引用文献数
1

森林は陸域の生物相の約65%を支えており、森林における生物多様性の保全は、多くの分類群の保全につながる。しかし、人為の影響を欠いた森林はごく僅かで、多くの森林が人間の生活活動の場である。そのような森林においても、生態系の人為改悪を防ぎ、生物多様性の保全という機能を持たせることが、これからの持続可能な森林管理における主要課題である。本研究では、「自然生態系、生態プロセス、生物多様性の保全を主目的にしていない景観中のエリア」と定義される"マトリックス"において、如何に生物多様性に配慮するか、配慮できるか、その重要性を論じる。そこで、日本と同様に森林面積が高く、保護区率の低いスウェーデンでのマトリックスマネジメントの事例に着目した。スウェーデンでは、歴史的に長い間、人間活動が行われ、土地所有形態も零細かつ複雑になっている。国や地方自治体が大規模な自然保護区や国有林を一元的に所有・管理できる状況ではなく、国有林面積は僅か7%ほどで、民有林が国土の大半を占めている。しかし、スウェーデンでは、各土地所有者が生産性だけに焦点を当てた森林施業を行うわけではなく、生物多様性に配慮した新しい森林施業・管理を行っている。国立公園や自然保護区といった法的な保護対象となる森林の保全だけでなく、希少種の生育する潜在性の高い森林を数多くの私有地に指定し、伐採せずに保護している。また、伐採活動を行う施業林においても、伐採時に全ての樹木を伐採、搬出するのではなく、動植物相のための住み場所としての樹木や枯死木を残しておくといった、生態系の機能や生物多様性に対する配慮がなされている。つまり、スウェーデンでは、マトリックスの中に存在する、経済活動の対象となる森林において、如何にして生物多様性に配慮しながら管理、保全するのかを重要視している。このようなスウェーデンで実施されている新しい森林管理は、人為影響を受け続けた日本の森林生態系の保全、復元、そして管理に対しても、非常に重要な示唆を含んでいると考えられる。
著者
大塚 康徳 徳永 幸彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.284, 2004 (Released:2004-07-30)

インゲンゾウムシの幼虫の豆への侵入率は幼虫が1頭しか存在しないときよりも複数頭存在している場合の方が高い侵入率を示す。これには幼虫が豆に侵入する際の方法が2通り存在することが深く関わっている。2通りの方法とは「自ら豆に穴を開けて豆に侵入する方法」と「他の幼虫によってすでに開けられた穴を利用して豆に侵入する方法」である。自ら穴を開けて豆に侵入した幼虫をpioneer、すでに開いていた穴を利用して豆に侵入した幼虫をfollowerと呼ぶ。pioneerとfollowerをわける大きな要因は豆の表皮にあり、豆の表皮が存在しない状態の侵入率は豆の表皮が存在する場合の侵入率を大きく上回る。そこでpioneerとfollowerをより厳密に次のように定義した。pioneerとは豆の表皮を食い破って豆に侵入した個体であり、followerとは表皮を食い破らずに豆に侵入した個体である。過去の研究や著者の実験から幼虫はすでに開いている穴を好んで利用しており、pioneerとして豆に侵入できる幼虫も好んでfollowerとして豆に侵入していた。しかし、少なくとも1頭はpioneerにならなければどの個体も豆に侵入することができない上に、1個の豆という限られた資源に多数個体が侵入すれば当然資源が枯渇し個体数の減少につながる。よってインゲンゾウムシの幼虫の豆への侵入行動は、他の幼虫の存在に依存した戦略行動といえる。今回の研究では資源量は無視して問題を単純化し、豆への侵入に限定して幼虫が複数等存在するときの幼虫の最適戦略、つまり最適なpioneerの比率について実験を行った。また、pioneerとして豆に侵入できる幼虫も好んでfollowerとして豆に侵入していたこと、そして少なくとも1頭がpioneerにならなければ全個体が豆に侵入できずに死んでしまうということからインゲンゾウムシの豆への侵入行動をn人のチキンゲームとしてとらえモデルを作成した。
著者
伊原 禎雄
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.175, 2004 (Released:2004-07-30)

アジア産サンショウウオの地域ごとの餌の違いや捕食行動の比較については,これまで未調査であった.そこで,トウキョウサンショウウオの神奈川県横須賀市津久井,野比,山中,千葉県夷隅町万木,福島県いわき市四ツ倉の各個体群の餌組成や捕食行動を比較し,その違いや共通性を検討した.本研究では総計で82個体のトウキョウサンショウウオを捕獲し,胃内洗浄法を用いこららの内59個体から個体を傷つけることなく胃内容物を採取した.その結果,検出した個体あたりの胃内容物の湿重量,捕食した餌個体の体長や体積には地域間での差は無いことが示唆された.餌動物の内,ミズムシを除いた動物の全てが土壌動物であり,各地点の餌組成の個体数割合の中で等脚目の占める割合が最も高かったが,地点ごとに捕食された主要な等脚目の種は異なっていた.この結果から,トウキョウサンショウウオは生息地の潜在的な餌資源のなかで等脚目を餌として選考することが示唆され,サンショウウオの餌とする等脚目の選考基準として個体数や体の大きさの違いが重要な要因の様であり,餌とする等脚目の生態にあわせて捕食活動を変化させている可能性が示唆された.
著者
米倉 竜次 河村 功一 西川 潮
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.153-158, 2009-07-31
被引用文献数
2

外来種の小進化に関する研究は分子遺伝レベルでの解析と表現型レベルでの解析を中心に発展してきた。しかし、分子遺伝マーカーでみられる遺伝変異はおもに遺伝的浮動による影響のみを反映しているのに対し、表現型レベルでの変異には遺伝的浮動に加え自然選択による影響も大きく関与していると考えられる。したがって、分子遺伝レベル、もしくは、表現型レベルのみの解析では、定着成功や侵略性に影響する外来種の性質が遺伝的浮動により影響されているのか、もしくは、自然選択により影響されるのかを区別することは難しい。しかし、外来種の表現型の小進化に対して遺伝的浮動と自然選択のどちらが相対的に重要であるのかを把握しなければ、導入された局所環境への外来種の定着成功や侵略性が小進化によりどう変化(増加、それとも減少)するのかを議論することは困難であろう。この総説では、この問題を解決する方法としてF_<ST>-Q_<ST>法を概観するとともに、外来種の管理対策へのその適用についても考えた。
著者
野村 康弘 倉本 宣
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.445, 2005 (Released:2005-03-17)

カワラバッタEusphingonotus japonicus (Saussure)は砂礫質河原という植生がまばらな河原に特異的に生息する昆虫である。近年各地で減少が著しく、東京都では絶滅の危機が増大している種と選定されており、一刻も早い対策が求められている。本種は主に被植度の少ない砂礫質河原に好んで生息することが先行研究により報告されているが、それ以外の保全に関する情報は今のところ報告されていない。そこで、多摩川における本種のメタ個体群を把握し、保全に関する基礎的知見を得ることを目的とし、研究を行った。調査対象地は多摩川の河口から51-59kmの範囲にある14の生息地で行った。調査方法は成虫が出現した時期から、個体に識別番号と個体群の情報をマーキングし、個体コード、性別、捕獲した地点をそれぞれ記録した。調査は2004年7月-10月にかけて行った。総捕獲数は6271匹で、再捕獲数は1630匹だった。その中で生息地間を移動した個体は85匹であった。各個体群の面積と移出率(移出個体数/再捕獲数)を対数モデルで検討したところ、強い負の相関が認められた(R=0.675、p<0.01)。また、出水後の調査により、多摩川における本種の生息地のほとんどが水に浸かるということが明らかになった。以上のことから小さい生息地が多数あることにより、本種の移動、生息地間ネットワーク化を促進し、出水による絶滅回避の確率を高くすると思われる。大きい生息地が少数存在している場合には、大規模な出水により個体群は大きなダメージを受ける可能性が高いことから、本種の保全戦略としては小さな生息地が多数存在するように管理することが重要であると考えられる。
著者
雨宮 隆 榎本 隆寿 ロスベアグ アクセル 伊藤 公紀
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.726, 2004 (Released:2004-07-30)

【はじめに】生態学的レジリエンス(以下,レジリエンス)とは,生態系の復元力,弾力性,自己組織化能などを意味する.レジリエンスは生態系の多重安定性の概念から提唱され(Holling, 1973),富栄養化や生息地の縮小等により減少し,その結果生態系は異なる状態へと変化し易くなると考えられている.本研究では,レジリエンスの概念を生態系の構造・機能・動態・自己組織化能の観点から整理し,生態環境の管理について検討を行う.【レジリエンスの図的表現】レジリエンスは,例えば生態系の状態を表す分岐図を用いて説明される(Scheffer et al., 2001).制御パラメータは人為的な負荷を表し,あるパラメータ領域において生態系は双安定性を示すことがある.レジリエンスは安定状態と不安定状態の幅で示され,この範囲内の擾乱であれば生態系は元の状態に戻るとされる.【レジリエンスと環境管理】ここではレジリエンスの概念を広く捉え,レジリエンスを次の3つに分類し,環境管理について検討する.(1)Type Iレジリエンス:上記のように安定状態と不安定状態の幅で示されるような復元力.状態間遷移が起こると,生態系の動態(状態)は変化するが構造と機能は変化しない.従って,負荷の低減,生物操作などによる環境修復が考えられる.(2)Type IIレジリエンス:Type Iと同様の復元力であるが状態間遷移により種の絶滅等が生じ生態系の構造が変化する.しかし,生態系の自己組織化能(数理モデルでは力学系)は保持される場合で,絶滅種の再生や回復により元の状態の復元の可能性が残されている.(3)Type IIIレジリエンス:生態系の自己組織化能の喪失に関わる復元力.無機的な環境変化により種の絶滅等が生じた場合で,生態系の回復が極めて困難となる.それぞれのレジリエンスの喪失が生態環境リスクの各エンドポイントとなり得るだろう.
著者
戸田 裕子 桜谷 保之
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.186, 2004 (Released:2004-07-30)

フタモンテントウ(〈I〉Adalia bipunctata〈/I〉)は、1993年に大阪市南港において日本で初めて発見され、外来種と考えられている。1993年以降これまで発見地を中心に継続的に調査を行ってきた。本研究では発見地および周辺の公園・緑地等において、侵入後の分布や生活史、在来テントウムシとの種間関係を調査した。分布については、最初の発見地である南港中央公園(350m×500m)において発見以来ほぼ毎年発生が確認されているが、他の場所では2001年まで発生がみられず、分布の拡大は起こっていないと考えられた。しかし、2002年には2から3kmほど離れた2ヶ所で発生がみられるようになり、2003年には新たに2ヶ所で分布が確認された。2004年には南港地区(約3km四方)のほとんどの調査地で発生が確認され、南港以外の大阪府内や、約20km離れた兵庫県神戸市でも発生が確認された。発生密度は南港中央公園で最も高く、そこから離れるに従って減少する傾向にあった。したがって、南港中央公園が最初の侵入地で、発生の中心と推察された。この2から3年で分布がかなり広がり、さらに飛び火的に拡大する傾向にあると考えられる。種間関係については、フタモンテントウと同じ樹上(シャリンバイやトウカエデ)に生息する在来種ナミテントウとの個体数関係を中心に調べた。その結果、フタモンテントウの生息密度が高い地域の方が低い地域よりもナミテントウの個体数の割合が低い傾向がみられ、フタモンテントウの個体数増加や分布拡大はナミテントウやダンダラテントウ等、在来テントウムシの生存に影響を与えつつあると推察される。
著者
遠山 弘法
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.230, 2004

スミレ属の多くは開放花、閉鎖花をつける。このような2型的な花による繁殖システムは、送粉昆虫利用度の季節的変化に対する適応であると考えられている。つまり、送粉昆虫の利用度が高い春先に開放花の他殖による種子生産を行い、樹木の展葉にともなって光環境が悪化し、送粉昆虫の利用度が低下する初夏以降に閉鎖花の自殖による種子生産を行うことで、一年を通じ繁殖成功を最大にしていると考えられている。<br><br>このような繁殖システムを持つスミレ属の近縁2種間では、生育地の光環境や送粉昆虫利用度の違いに対応して開放花への投資量が異なる可能性がある。つまり明るい環境下に生育し、開放花による他家受粉が期待できる種は開放花へより多くを投資し、一方で暗い環境下に生育し、送粉昆虫があまり期待できない種は開放花への投資を抑え、残りの資源を閉鎖花に投資するのではないかと考えられる。そこで、本研究では、主に明るい環境に生育するヒゴスミレと暗い環境下に生育するエイザンスミレを用いて、種間の光環境や送粉昆虫に対応した資源分配パターンを検証し、両種の適応的な資源分配パターンを明らかにする事を目的とした。<br><br>この目的にそって、熊本県阿蘇の集団で季節的な光環境、開放花数、閉鎖花数の変化、生育地の送粉昆虫の種構成、開放花への総投資量を調べた。<br><br>種間の光環境と送粉昆虫の違いに対応して、開放花生産期間や開放花への投資量の違いが観察された。暗い環境下に生育するエイザンスミレは、効果的な送粉者であるクロマルハナバチへ適応しており、その女王が現れる春先の短い間に開放花生産を集中して行い、残りの資源を閉鎖花へと分配していた。一方で、明るい環境下に生育するヒゴスミレは、多くの分類群の送粉昆虫へ適応しており、開放花生産期間を長くし、開放花へ多くを投資する事で他家受粉を促していた。<br>
著者
瀬戸山 雅人 嶋田 正和
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.302, 2004 (Released:2004-07-30)

昆虫において、一見すると人間の脳のように高度な情報処理能力がなければ実現できないような精錬された行動を示すものがいる。発表者は、その行動の裏にある「昆虫でも実現できるようなシンプルな情報処理によるシンプルな行動決定のルール」の観点から、ヨツモンマメゾウムシの産卵時にみられる均等産卵分布について、どのような行動決定のルールがこの分布をもたらしているのかを研究してきた。雌のヨツモンマメゾウムシは、すでに卵を多く産みつけられた豆に対して産卵を避け、卵のついていない豆を選んで産卵することにより、豆当りの卵数が均等になる。その結果、豆内での幼虫の種内競争が均等に軽減される。本研究では、卵の均等分布をもたらすこの行動がどのような知覚情報をどう用いて実現されているかを、ニューラルネットワークモデルを利用して解析した。具体的には、単純なフィードフォーワード型のニューラルネットワークモデルを用意して、これに実際のヨツモンマメゾウムシの行動パターンを教師信号として誤差逆伝播法を用いて学習をさせた。このときヨツモンマメゾウムシが意思決定に用いている情報として、現在いる豆の卵数、1つ前の豆の卵数、2つ前の豆の卵数、蔵卵数、前回の産卵からの経過時間、他の雌との遭遇回数を使用した。ニューラルネットが教師信号を十分に学習したのを確認した後は、モデルの汎化性のテストを行った。汎化性のテストは、学習済みのニューラルネットを搭載した仮想のヨツモンマメゾウムシを豆を配置した仮想環境に置き、その環境で均等産卵が達成できるかで評価した。汎化性のテストの結果としてモデルが産卵行動の特徴を実現できていることが確認されたら、ニューラルネットの中で各情報がどのように重み付けされているかを解析した。
著者
横畑 泰志
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.43, 2005 (Released:2005-03-17)

哺乳類、鳥類の寄生虫には人間や家畜、家禽に有害なものが見られるため、それらの宿主の日本国内への持ち込みには法的規制(感染症法、家畜伝染病予防法など)や検疫による対応が行われており、結果的に寄生虫の自然界への逸出もある程度防がれていると考えられる。しかし、有史以来のヒトや家畜などの移動によって、寄生虫を含む多くの寄生生物が自然分布の範囲外に分布を広げてきたであろう。野生動物の寄生虫でも、シカ類の第4胃に寄生する数種の毛様線虫が養鹿業に伴い大陸間で互いに、あるいは日本から大陸へと宿主ごと持ち込まれ、野外に定着している例が比較的よく知られている。演者は 24 種 2 亜種の日本の外来哺乳類について文献情報を収集し、飼育下での情報も含めて宿主 8 種から 28 種の外来寄生蠕虫類の報告を得た(横畑、2002)。また、日本産陸生脊椎動物に見られる外来寄生虫として、「外来種ハンドブック」(改訂版、2003)の巻末リストに吸虫類 1 種、条虫類 5種(2 種は国内移動)、線虫類 19 種(1 種は国内移動)、昆虫類 1 種を挙げたが、その多くは住家性ネズミ類に寄生しており、国内の野ネズミには見られないものである。その後、鳥類などで該当する事例が散見されており、今後も調査の進展に伴い種数が増加してゆくであろう。また、野生動物とヒトや家畜などに同種の寄生虫が見られる場合は、家畜などに寄生する外来のものが野外に逸出することによって野生動物に見られる土着のものとの交雑が進んでいるであろうが、検証はほとんど行われていない。 国内では、エキノコックスのように人間に重篤な患害を及ぼすもの以外では十分な研究は行われていない。日本の陸生脊椎動物は、しばしば島嶼隔離や人為的な生息地の縮小・分断化によって個体群が小規模化しており、そうした状況下では寄生虫群集も単純化しているものが多い。したがって外来寄生虫の侵入も容易であると考えられる。
著者
小林 誠 渡邊 定元
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2004 (Released:2004-07-30)

北海道の黒松内低地帯には,日本の冷温帯域の主要構成種であるブナ(Fagus crenata)の分布北限域が形成され,以北(以東)の冷温帯域には,ミズナラなどの温帯性広葉樹と針葉樹とからなる針広混交林が広く成立している。この現在のブナの分布域と分布可能領域との不一致については,様々な時間・空間スケール,生態学的・分布論的研究アプローチによってその説明が試みられてきている。 植生帯の境界域においてブナや針広混交林構成種には,どのような生態的特徴,個体群の維持機構が見られるのだろうか?植生帯の境界域におけるこれら構成種の種特性を明らかにすることは,植生帯の境界域形成機構の解明に際して,重要な知見を与えるだろう。これまで渡邊・芝野(1987),日浦(1990),北畠(2002)などによって,北限のブナ林における個体群・群集スケールの動態が明らかになりつつある。本研究ではこれら従来の知見を基礎とし,最北限の「ツバメの沢ブナ保護林」における調査によってブナとミズナラの動態を検討した。 ツバメの沢ブナ林においてブナ林は北西斜面に,ミズナラ林は尾根部に成立し,両者の間には混交林が成立している。1986年に設定された調査区の再測定と稚幼樹の分布調査から,(1)ブナとミズナラの加入・枯死傾向は大きく異なり,ブナは高い加入率と中程度の枯死率で位置づけられたが,ミズナラは加入・枯死率ともに小さかった。(2)ブナの稚幼樹はブナ林内・ミズナラ林内においても多数見られ,ブナのサイズ構造からも連続的な更新が示唆されたが,ミズナラの稚幼樹はほとんど見られなかった。(3)ブナは調査区内において分布範囲の拡大が見られたが,ミズナラには見られないことなどが明らかになった。これらのことは,分布最北限のブナ林においてブナは個体群を維持・拡大しているのに対し,ミズナラの更新は少なく,ブナに比べ16年間における個体群構造の変化は小さいことが明らかになった。
著者
徳田 御稔
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.163-165, 1961-08-01
著者
金谷 整一 中村 克典 秋庭 満輝 寺川 眞理 池亀 寛治 長野 広美 浦辺 菜穂子 浦辺 誠 大山 末広 小柳 剛 長野 大樹 野口 悦士 手塚 賢至 手塚 田津子 川上 哲也 木下 大然 斉藤 俊浩 吉田 明夫 吉村 充史 吉村 加代子 平山 未来 山口 恵美 稲本 龍生 穴井 隆文 坂本 法博 古市 康廣
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.77-84, 2005-06-30
参考文献数
24
被引用文献数
3

2003年9月に種子島の木成国有林で確認されたヤクタネゴヨウの新群生地において, 2004年1月に調査を行った結果, ヤクタネゴヨウ13個体とクロマツ7個体の枯死が確認された.これらのうち, 材片を採取したヤクタネゴヨウ10個体のうち7個体からと, クロマツ7個体のうち6個体からマツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウが検出された.このまま枯死したヤクタネゴヨウとクロマツを放置すると, 今後, マツ材線虫病被害が拡大すると予測されることから, すべての枯死木を伐倒し約50cmの丸太に玉切りし, 直径1cm以上の枝とともに個体群外へ搬出した.搬出した丸太と枝は, 焼物製作のための薪として焼却した.今回の活動を踏まえ, 今後のヤクタネゴヨウ自生地保全にむけたマツ材線虫病被害木のモニタリングから処理の一連の作業手順を提案した.
著者
森 豊彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.701, 2005

中米ホンデュラスの標高約1600mから2300mの山地において、ガジナコガネ<i>Phyllophaga obsoleta</i>(甲虫目コガネムシ科)の生活史、食性、行動、発生消長等を2000年4月から10月までの間に調査した。生息地の優占植生は松と広葉樹の混交林であった。主な土地利用形態は野菜栽培、トウモロコシ栽培、ジャガイモ栽培、果樹、コーヒー栽培、牧場であった。生活史において、成虫の出現期間と産卵期間は4月上旬から7月上旬、幼虫期間は4月から12月、蛹化期間は12月から4月までと推定された。産卵は土中へ行われ、孵化から幼虫、蛹、羽化までも土中で行われた。卵から成虫までの発育期間は1年であると推定された。幼虫の食性において、1令幼虫は主に土壌中の有機物を摂食し、2令と3令幼虫は有機物だけでなく、多様な草本植物、野菜、作物、牧草、コーヒー樹等の根を摂食した。一方、成虫の食性では、室内実験と野外調査の結果、コナラ属の樹木、特に落葉広葉樹のコナラ類の葉や低木果樹のモラ(バラ科)の葉をより好んで摂食した。しかし、成虫は果樹のリンゴ類、モモ類、アボガド類の葉への摂食は比較的少なく、柑橘類の葉の摂食は見られなかった。成虫は夜間に活動し、灯火に飛来した。交尾行動は5月において、午後7時頃から午後9時頃に観察された。日中、成虫は土中や落葉下に潜入して活動を休止した。成虫の発生消長において、雨期が始まる4月上旬からはじまり、5月中旬から下旬にかけて出現数が最大になり、6月下旬から7月上旬に終息した。土中で羽化した成虫が地上へ出現する引き金は、乾期から雨期に変わり、降雨量が10mm前後の日が数日間続くことであると考えられた。成虫は野菜、作物の害虫として大発生し、街灯がある村全域に大量に飛来した。
著者
梶本 卓也 中井 裕一郎 大丸 裕武 松浦 陽次郎 大沢 晃 Abaimov Anatoly P. Zyryanova Olga 石井 篤 近藤 千眞 徳地 直子 廣部 宗
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.265, 2005

中央・東シベリアの永久凍土連続分布域には、近縁2種のカラマツ(L. gmelinii, L. cajanderi)が優占する疎林が分布している。これまでの調査から、成熟した林(100年生以上)では、根が全現存量に占める割合は30-50%と北方林の中でも顕著に多く、同化産物のアロケーションが根にかなり偏っていることがわかっている。このことは、個体の成長や林分発達が地上部の光獲得競争よりも地下部での土壌養分、とりわけ窒素をめぐる競争に支配されていることを示唆している。本研究では、こうした点を裏付けるために、中央シベリアの成熟した林(約100年生)や山火事更新直後の若齢林(10年生前後)を対象に新たに伐倒・伐根調査を行い、既存のデータも加えて、アロケーションや根系発達が時系列でどう変化するのか検討した。その結果、100年生林では根が現存量に占める割合はやはり30%以上と高く、各個体の根系水平分布面積は樹冠投影面積の3-5倍に達していた。また林分レベルで推定された根系分布面積合計、単位土地面積当たり1を大きく上回り、根系がすでにほぼ閉鎖していることが示唆された。一方、更新直後の実生や若木では、根の割合は個体サイズとともに低下し、成長良好な大きめの個体で15-20%と成熟木よりかなり少なかった。この永久凍土地帯では、山火事更新後、コケや地衣、低木等林庄植生の回復に伴って、地温が低下し活動層の厚さも徐々に減少する。そして、もともと限られた無機態窒素の利用も制限されていく。こうした根圏環境の時系列変化を踏まえてカラマツ個体のアロケーションを考えると、土壌養分吸収の制限が少ない山火事後の更新初期段階では地上部の成長に偏っているが、数10年を経ると地上部から根へ大きくシフトし、その時期を境に地下部での個体間競争が起こって、やがては根系が閉鎖した林分状態に達することが推察される。
著者
上村 佳孝
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.52, pp.64, 2005

ある形質に対する最適値が雌雄で異なる場合,性的対立は生じる.盛んに交尾を試みる雄に対して,雌が拒否行動を示せば,交尾回数に関する性的対立の存在が容易に予測される.しかし,今回の発表では,雌雄ともに著しく高い頻度で交尾をおこない(乱交性),交尾に関して目だった葛藤がないように見えるコバネハサミムシ(以下,コバネ)を題材に,本当に葛藤がないのか?考えてみたい.<br>激しい精子競争が生じているコバネでは,雄の体長に匹敵するほど長い交尾器を用いて,細管上の受精嚢(雌の精子貯蔵器官)から,すでに存在している精子の掻き出しをおこなう.しかし,雌の受精嚢はさらに長く,一部の精子しか掻き出すことはできず,すでに他の雄の精子を持つ雌と1回交尾した雄が残す子供の割合は約2割である.<br>体サイズの大きな雄は雌を独占し,より多数回繰り返し交尾し,高い繁殖成功を得る.雄の体サイズは有意な遺伝的基盤を持ち,大きく繁殖成功の高い父親の息子はやはり繁殖成功が高くなると期待される.このような条件のもとでは,雌は自らを独占する能力の高い雄の精子を集めることで,優れた息子を得るという遺伝的利益を得ることができ,一回の交尾あたりの父性の置換率を2割程度に抑えることで,このような利益が最大化されることを数値シミュレーションは示した.すなわち,低い精子置換率をもたらす雌の長い受精嚢は,何度も繰り返し交尾可能な優れた雄の精子を効率良く集めるための適応と考えられる.しかし,雄が同じ雌と繰り返し交尾をおこなうという現象は,一回の交尾あたりの精子置換率が低い場合に進化し易いものと予想され,両形質は共進化する可能性がある.<br>発表では,雌雄双方の適応を考慮した共進化モデルと,一方の性の視点のみを考慮した最適化モデルの解析結果を比較し,交尾回数・精子置換率という複数繁殖形質の共進化の観点から「隠された対立」の分析を試みる.
著者
入江 貴博
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.55-63, 2007-03-31
被引用文献数
3

寒冷な生息地(高緯度・高地)ほど成体サイズのより大きな個体が見出される種内地理的パターンはベルクマン・クラインと呼ばれ、分類群を越えて動物界に広く知られているが、その近接・究極要因は分類群によって異なる。野外においては、しばしば複数の環境要因が体サイズとともに共変動を示すことが、その原因となる環境勾配の特定を難しくする。また、環境要因は体サイズそのものに直接の影響を与えるとは限らず、成長率や成長期間といった他の生活史形質に影響することで、体サイズを間接的に支配する場合もある。従って、体サイズ・クラインの原因となっている環境勾配を明らかにするためには、体サイズ以外の形質を含めた生活史形質と環境の勾配に関する野外データの収集に加え、飼育個体を用いた環境操作実験によって近接要因を特定する必要がある。また、生活史理論に基づく数理モデルを用いた最適生活史の推定は、究極要因の特定にきわめて有効な手法である。ベルクマン・クラインの成立には、集団間の遺伝的変異が介在する場合が少なくないが、一方で体サイズやその他の生活史形質における表現型可塑性も同様に重要である。従って本稿の後半では、ベルクマン・クラインの近接要因であると特定または推定される個別の環境要因ごとに、それらが体サイズに関する遺伝的分化や表現型可塑性にどのような影響を及ぼしているかについて、特に外温動物に関する研究例を紹介する。