著者
小林 豊
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.445, 2004

植物は、植食性節足動物に食害を受けると、しばしばSOSシグナルと呼ばれる揮発性物質を放出する。このSOSシグナルは、植食者の天敵を誘引し、天敵は植食者を退治する。つまり、SOSシグナルを介して、植物と天敵の間に互恵的関係が成り立っている。近年の研究から、未加害の植物がこのSOSシグナルにさらされると、自身もまたシグナル物質を放出するようになることが明らかになった。シグナル物質の生産に何らかのコストがかかるとすれば、このような形質の適応的意義はそれほど明らかではない。著者は、このようないわゆる「立ち聞き」の適応的意義について考察し、三つの仮説を立て、数理モデル化した。そのうち、第一の仮説「被食前駆除仮説」については、既に発表済みである。今回は、第二、第三の仮説について考察する。<br> 第二の仮説「被食前防御仮説」によれば、「立ち聞き」による二次的なシグナルは、前もって天敵を呼び寄せておくことにより、将来の食害の危険を軽減するための戦略である。著者は、ゲーム理論的なモデルを構築して、このような機能をもったシグナルが進化的に安定になる条件を調べた。<br> 一方、第三の仮説「血縁選択仮説」によれば、「立ち聞き」による二次シグナルは、近隣の血縁個体を助けることにより自身の包括適応度を上げるための戦略である。もし隣り合った個体が同時にシグナルを出すことによりシグナルの天敵誘引能を向上することができ、かつ隣り合った個体同士が互いに遺伝的に近縁ならば、このような戦略が進化しうるだろう。各格子がパッチになっているような格子状モデルを用いてこのような「立ち聞き」戦略が有利になる条件を調べた。<br> 本発表では、これらの数理モデルの結果を報告し、仮説間の関係についても議論する。
著者
中西 希 伊澤 雅子 寺西 あゆみ 土肥 昭夫
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.39-46, 2010-05-30

1997年から2008年に交通事故に遭遇したツシマヤマネコ42個体(オス21個体、メス21個体)について、歯の萌出・交換状態と体サイズ及びセメント質年輪を用いて年齢査定を行い、交通事故と年齢の関係について分析した。また、栄養状態についても検討を試みた。交通事故遭遇個体の年齢は0歳から9歳であった。全体の70%以上が0歳で、2〜4歳の個体は確認されず、残り30%近くは5〜9歳の個体であった。交通事故の遭遇時期は、5〜9歳のオスでは2〜6月と9月であったのに対し、0歳のオスでは9月から1月に集中していた。0歳メスは11月に集中していた。0歳個体の事故が秋季から冬季に集中していたことから、春に生まれた仔が分散する時期に、新たな生息環境への習熟や経験が浅く、車への警戒が薄いため、事故に遭遇しやすいこと、また、分散の長距離移動の際に道路を横断する機会が増えることが要因と考えられた。栄養状態に問題のない亜成獣や定住個体が交通事故で死亡することは、個体群維持に負の影響を及ぼすと考えられた。
著者
伊澤 雅子 土肥 昭夫 小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.373-382, 1982-09-30
被引用文献数
3

IZAWA, Masako, DOI, Teruo & ONO, Yuiti (Dep. Biol., Fac. Sci., Kyushu Univ.). 1982. Grouping patterns of feral cats (Felis catus) living on a small island in Japan. Jap. J. Ecol., 32 : 373-382. Range utilization and social relationship of feral cats (Felis catus) were investigated by direct observation and radio-tracking. The range structure of the feral cat in this study also resembled the pathnetwork systems described by HEDIGER. The range of cat was composed of three characteristic components such as a feeding site, resting sites and paths. Each cat used only one feeding site and did not switch it seasonally. The cats utilizing the same feeding site organized "feeding group". Synchronization of feeding activity and overlapping ranges of the members of the same feeding group were observed. These features of feeding group show the amicable relationship among the members. It was considered to result in the adaptation to clumped distribution of abundant food resource.
著者
馬場 稔 土肥 昭夫 小野 勇一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.189-198, 1982-06-30
被引用文献数
5

Home range and activity studies were carried out by radio-tracking and direct observation on nine giant flying squirrels. The radio-tagged animals utilized their home ranges heterogeneously, and heavily used areas corresponed with the patchy distribution of secondary forests which were the major food resources. Home ranges were considerably overlapped with one another especially at a shrine courtyard where nesting sites were clumped. Mature forest providing tree holes suitable for nesting appeared to be indispensable for their settlement. The range size varied from 0.46 to 5.16 ha. The shape and size of the range are considered to depend on the distributional pattern of food and nesting sites. Further, they occasionally shifted their heavily used areas, which suppsed to be caused by the local shifting of food availability. Their gliding ability directly connected patchily distributed resources by one or a few glidings. Thus, their heterogeneous utilization within their home ranges can be more easily investigated than any terrestrial mammals.
著者
谷亀 高広 吹春 俊光 鈴木 彰 大和 政秀 岩瀬 剛二
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.259, 2005 (Released:2005-03-17)

ラン科植物はリゾクトニア属に属する不完全菌類が菌根菌となることが広く知られているが、近年それ以外の担子菌が菌根共生する場合のあることが明らかにされている。〈BR〉 そこで本研究ではラン科植物の菌根共生に関する知見の集積を目的としてサイハイラン属のサイハイランとモイワランについて菌根菌の同定を行った。サイハイランは日本各地の丘陵地帯の湿った林内に自生する緑色葉を持つ地生ランである。一方、同属のモイワランは深山の沢筋に自生する無葉緑ランである。サイハイランは神奈川県藤野町のコナラ林において、モイワランは青森県佐井村のオヒョウ、カツラ林において、それぞれ1個体を採取した。菌根菌分離は、リゾーム内に形成された菌根菌の菌毬を分離培地(Czapec・Dox+酵母エキス寒天培地)上へ取り出し、そこから伸張した菌糸を単離培養するという方法(Warcup&Talbot 1967)を適用した。その結果、サイハイランより5菌株、モイワランより2菌株の菌根菌が分離された。それぞれ1菌株についてオガクズ培地で前培養し、これを赤玉土に埋没させることで子実体形成を誘導し、その形態的特徴から菌根菌の同定を試みた。両種から分離された菌株は、子実体の観察の結果、いずれもヒトヨタケ科ヒトヨタケ属キララタケ節に属することが明らかとなった。また、野外から採取したそれぞれのランのリゾームを子実体形成を誘導した菌の培養菌株と共に赤玉土に植え込み、菌根菌を感染させたところ、それぞれのランでリゾームの成長および塊茎の形成を確認した。〈BR〉ヒトヨタケ科の菌がランの菌根菌として同定された例は無葉緑種のタシロランがあるが(大和2005)、他は報告例がない。本研究によって、新たにサイハイラン属について、緑色葉を持つ種と無葉緑の種がともにヒトヨタケ属の菌を菌根菌とすることが明らかとなった。
著者
大河内 勇 吉村 真由美 安部 哲人 加賀谷 悦子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.796, 2005 (Released:2005-03-17)

小笠原諸島では、近年昆虫類が固有種を中心に急速に減少しており、減少の時期と、減少の及んでいる地理的範囲、及び減少している種の生態が、1960年代以降侵入して拡がった北米からの外来種グリーンアノールAnolis carolinensis(爬虫類、有鱗目)と一致することから、グリーンアノールが主要な減少要因と影響と考えられている。グリーンアノールの影響は単に固有種の減少にとどまらず、生態系にひろく浸透している。例えばこれまでに本種が小笠原の固有のハナバチを激減させ、花粉媒介のシステムを劇的に変えてしまったことがわかっている。 本報告では、これに加え、二つの生態的影響を報告する。一つ目は、グリーンアノール自身が花粉の媒介者となる可能性である。昼行性のトカゲ類が花粉媒介を行うことは、インド洋、太平洋の熱帯の島々では知られている。その理由として、トカゲ類の密度が高く、天敵が少なく、餌不足になることが挙げられている。この点について、グリーンアノールの密度との関連で報告する。 二点目はやはり外来のマツノザイセンチュウ病との関係を報告する。小笠原には戦前に外来のリュウキュウマツが導入された、全島を覆ったが、1970年代に侵入したマツノザイセンチュウ病で急速な松枯れが始まった。しかし、いかなる防除もしていないのに、松枯れは数年で終息、いまや激減してリュウキュウマツが復活しつつある。これも外来種でマツノザイセンチュウの媒介者、マツノマダラカミキリがグリーンアノールに激減させられているためと考えられる。
著者
吉本 治一郎 西田 隆義
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.446, 2004 (Released:2004-07-30)

広葉樹の幹から滲出した樹液には多くの昆虫が吸汁のために集まることが知られている。そのような場所では穿孔性昆虫のボクトウガ科Cossidaeの幼虫も頻繁に観察されることから、これらが特に滲出に関係しているのではないかと考えられている(市川 私信)。そこで、本研究において、ボクトウガ類の幼虫が樹液資源の存在様式とそれらに集まる昆虫群集の構造にそれぞれどのような影響を及ぼしているのかについて調査を行った。2002年には全パッチ(滲出部位)の約61%で、2003年には約36%で、幼虫または幼虫の巣の存在をそれぞれ確認した。これらは幼虫の穿孔と樹液の滲出との関係が示唆されたパッチであると言える。幼虫個体数の季節変動は両年とも総パッチ数の変動とほぼ一致したが、後者で若干の時間的な遅れが見られた。また、2002年には、幼虫個体数の増加に伴って樹液食昆虫の種数と個体数が有意に増加した。翌年にも、巣が存在したパッチ(幼虫存在パッチを含む)において、樹液の滲出期間、樹液に覆われた面積(パッチ表面積)ともに幼虫および巣のないパッチを上回っていた。さらに、群集の属性(総種数・総個体数・多様度)に関しても同様の傾向が見られたが、種によってその傾向は異なり、特に、ケシキスイ類、ハネカクシ類、ショウジョウバエ類など、いわゆる樹液スペシャリストに属する種の個体数は、巣のあるパッチの方で顕著に多くなっていた。以上より、ボクトウガ類の幼虫は樹液の滲出を促進し、その分布とフェノロジーが樹液資源の存在様式を規定することが示唆された。さらに、これらは資源を介して群集構造にも間接的に正の効果を与えていることが明らかになった。だたし、これらの効果は種によって異なっていたことから、樹液に対する依存度などの種固有の生態学的特性が相互作用に反映されたのではないかと予想された。
著者
東 浩司 戸部 博
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.241, 2005 (Released:2005-03-17)

花の匂いは被子植物の多様化をもたらした植物と昆虫との相互関係を仲介する重要な要素のひとつである.演者らはすでにアケビA. quinataとミツバアケビA. trifoliataおよびその雑種とされるゴヨウアケビA. x pentaphyllaの花の匂いの化学分析から、アケビは虫媒花的であり、ミツバアケビは風媒花的であること、また、ゴヨウアケビは質・量ともに中間的であることを示してきた.さらに、アケビの花の匂いは、その化学的特性から二つのタイプに分けられることも明らかになった.本研究では、さらにアケビのサンプル数を増やすことで、アケビの花の匂いの二つのタイプがはっきりと区別されるものなのかどうかを検討した.アケビの花の匂いのGC-MS分析を行った結果、22サンプル(個体)中7サンプルはβ-ミルセンが主成分(47%_から_92%)で、かつリモネンがほとんど含まれなかった(<3%)(タイプ1).一方、10サンプルではβ-ミルセン(36_から_53%)とリモネン(33_から_50%)が約1対1の割合(比率0.85_から_1.39)で含まれていた(タイプ2).さらに今回新たに、β-ミルセン(20_から_26%)とリモネン(57%_から_76%)が1対2_から_4(比率0.25_から_0.45)の割合で含まれているタイプが見られた(タイプ3).さらに、アケビ属3種すべてのサンプルの分子系統解析(葉緑体DNA8,800塩基)を行った結果、アケビとミツバアケビはそれぞれ単系統群になり、アケビでは種内変異は見られなかった.ミツバアケビでは種内多型が見られた.ゴヨウアケビでは5個体中3個体がアケビとまったく同じ塩基配列を示し、2個体はミツバアケビのクレード内に位置した.このことから、ゴヨウアケビはアケビとミツバアケビの両方向から雑種を形成していることが示された.
著者
村上 興正
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.119-130, 2000-01-15
参考文献数
25
被引用文献数
1

生物多様性条約第8条の外来種の管理には,導入の阻止と現存外来種の管理の2側面が含まれているが,世界的には前者がもっとも重要だとされている.まず,外来種移入防止のためには,輸入と移動,捕獲と飼養,放逐と逃亡の各段階での規制が必要である.また,すでに野生化した外来種の管理には,撲滅や防除などの規制が必要である.この点で,1995年に策定された生物多様性国家戦略で述べられているCITES,種の保存法,植物防疫法など日本に現存する法律が,これらに係わる行為をどの程度規制できるかを具体的に検討した.その結果,日本における現行の法律は各々その目的が異なるために,現在問題視されている生態系に影響を与える外来種の管理という側面では,一部でしか関係しておらず,とくに,外来種の移入の阻止という点で多くの問題が抜け落ちることが明確となった.既存の法律の強化では,現在進行中の国際的な外来種管理のための指針すら満たせないことが明確となり,今後新たな枠組みによる法律が必要であることが明らかとなった.
著者
山崎 梓 清水 健 藤崎 憲治
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.706, 2005 (Released:2005-03-17)

世界的な大害虫で極めて広食性であるオオタバコガIHelicoverpa armigeraIは、終齢幼虫において、黒から緑や黄色まで、様々な体色を発現する。しかしこの色彩多型は、ワタリバッタ類やヨトウガ類に見られる相変異とは異なり、摂食した食草の種類やその部位といった餌メニューによって、体色の発現頻度が変化することがこれまでの研究から示唆されている。葉を与えたものは緑色を、花や実を与えたものは茶色を発現する傾向が見られたが、この傾向はフルシブの兄弟を用いても認められたことから、遺伝的な要因よりも餌の影響を強く受けていると考えられた。生存率などの幼虫のパフォーマンスも餌によって大きく異なった。また、野外調査において、クレオメ上の中齢幼虫と終齢幼虫の分布(花か葉上か)とその体色を比較した結果、体色が顕在化する終齢期に、花より葉に緑色幼虫が多く存在する傾向があった。これは、室内実験においてクレオメでは葉のほうでパフォーマンスが高いことと一致しており、選択的に質の高い部分を摂食していることや、鳥などの捕食者に見つかりやすい終齢期に、目立たない部位に存在していることなどを示唆する結果となった。BR体色に関係する色素を分析した結果、茶色幼虫(人工飼料を摂食したもの)と緑色幼虫(タバコの葉を摂食したもの)では、体液に含まれるカロチノイド系色素とビリン系色素の量が異なることが示された。体液以外に存在する色素や体色による行動の違いなど、今後解明すべき点は多いが、少なくとも餌由来のカロチノイド系色素と、体内で合成したビリン系色素の作用は、オオタバコガ幼虫の体色を決定する要因の一つであると考えられた。
著者
石間 妙子 関島 恒夫 大石 麻美 阿部 聖哉 松木 吏弓 梨本 真 竹内 亨 井上 武亮 前田 琢 由井 正敏
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.118-125, 2007-11-30
被引用文献数
1

現在、ニホンイヌワシAquila chrysaetos japonicaは天然記念物および絶滅危惧IB類に指定されており、その繁殖成功率は最近30年間で急速に低下している。繁殖の失敗をもたらすと考えられる要因の中で、近年、鬱閉した針葉樹人工林の増加による採餌環境の悪化が注目されつつある。この対応策として、2002年、林野庁は岩手県北上高地に生息するイヌワシの繁殖成績を改善するため、列状間伐による森林ギャップの創出を試みた。イヌワシの採餌環境としての列状間伐の有効性を評価するため、林野庁が試験的に実施した列状間伐区、間伐区と環境が類似している非処理対照区および事前調査によりイヌワシの採餌行動が度々確認された採餌区の3調査区を設け、イヌワシの探餌頻度および北上高地に生息するイヌワシの主要な餌であるノウサギとヘビ類の個体数を比較した。ノウサギ生息密度の指標となる糞粒数は、間伐区において伐採翌年に著しく増加したが、伐採2年後には減少し、3年後には伐採前とほぼ同じ水準まで減少した。ヘビ類の発見個体数は、調査期間を通していずれの調査区においても少なかった。イヌワシの探餌頻度は、調査期間を通して間伐区よりも採餌区の方が高かった。このように、本研究で実施された列状間伐は、イヌワシの餌動物を一時的に増やすことに成功したものの、イヌワシの探餌行動を増加させることはできなかった。今後、イヌワシとの共存を可能にする実用的な森林管理方法を提唱するため、イヌワシの採餌環境を創出するための技術的な問題が早急に解決される必要がある。
著者
戸田 裕子 桜谷 保之
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.798, 2005 (Released:2005-03-17)

ハイイロテントウは1987年に沖縄県恩納村で発見されて以来、分布を拡大し、現在では沖縄県のほぼ全域に生息している。北アメリカ原産のテントウムシで、外来種と考えられている。主な生息場所は外来植物ギンネム上で、それに発生する外来種ギンネムキジラミを捕食することが知られている。本研究では沖縄におけるハイイロテントウを中心としたこうした外来種同士の食物連鎖や在来捕食性テントウムシとのギルド関係の調査と、食性を明らかにするための飼育実験を行った。沖縄本島の数箇所で、年に数回ギンネム、ハイビスカスを中心にハイイロテントウや在来テントウムシを調査した。ギンネムにおいてはハイイロテントウがみられた場所では在来種ダンダラテントウなどに対して優占種であったが、ハイビスカスではダンダラテントウが優占種で、ハイイロテントウはほとんど生息が認められなかった。テントウムシ類は成虫で越夏や越冬をする種が多いが、ハイイロテントウ成虫も8月の調査では樹木の葉の重なり内で越夏していた。ハイイロテントウはギンネムキジラミのみを利用しているスペシャリストと考えられるが、11月には少数ながらハイビスカスでもアブラムシを捕食している成虫が観察された。飼育は25℃14L10Dの条件下で行った。餌としてギシギシアブラムシ、ナシミドリオオアブラムシ、サツマキジラミ、ヤマトキジラミを与えた。アブラムシ類を与えたものは成虫でも数日で死亡し、孵化した幼虫では2日ほどで全滅した。キジラミ類を与えた場合はある程度の生存率で幼虫も発育した。このようにハイイロテントウは餌のギンネムキジラミとともにスペシャリスト的で、侵入地で3段階の食物連鎖を構成しながら、在来種との種間関係を生じていることが明らかになった。
著者
橋本 佳延 中村 愛貴 武田 義明
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.103-111, 2007-11-30
被引用文献数
4

中国原産のトウネズミモチは近年、日本において都市の空地、都市林、里山、都市河川等に逸出、急速に分布拡大していることが確認されており、生育と繁殖力が旺盛で早期に優占群落を形成することから在来の生態系や生物多様性に多大な影響を与える侵略的外来種となることが危惧されている。本研究では都市河川に侵入した外来樹木トウネズミモチの個体群が洪水によって受ける分布拡大への影響を明らかにするために、平成16年10月に大規模な洪水が発生した兵庫県南西部を流れる猪名川低水敷の5.3haの範囲において、その洪水直後と洪水翌年にトウネズミモチ個体群の調査を行い、結果を洪水前に行われた既存研究の結果と比較した。調査ではトウネズミモチの個体数、各個体のサイズ、結実の有無、倒伏状況を記録したほか、空中写真撮影を行い調査地における裸地面積および植被部分の面積を測定した。結果、洪水によって陸域に占める裸地の面積は洪水前に比べ871%拡大し、個体群の主要な構造を形成するサイズ1m以上の個体の1/3が消失した一方で、実生・稚樹個体数は洪水直後の24個体から洪水翌年には49個体に増加した。また洪水によってサイズ1m以上の個体の1/3が倒伏し、洪水後の個体群の平均樹高は洪水前の3.3mから2.2mに低下した。個体群に占める結実個体の割合は洪水翌年が24.5%となり、洪水前の46.8%の約1/2に低下した。洪水翌年における立木個体に占める結実個体の割合は37.5%であったのに対し倒伏個体に占める結実個体の割合は4.5%であった。これらのことから、河川敷のトウネズミモチ個体群は洪水による個体数の減少によってその規模が縮小するとともに、個体の倒伏に伴い結実状況は悪化する一方で、洪水によって形成された裸地に新規個体が参入し、残存個体の繁殖力も立木個体を中心として翌年より緩やかに回復するものと考えられ、洪水によるトウネズミモチ個体群の分布拡大を抑制する効果は軽微であることが示唆された。
著者
島田 卓哉 齊藤 隆 大澤 朗 佐々木 英生
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.461, 2004 (Released:2004-07-30)

ミズナラなどの一部の堅果には,タンニンが乾重比にして10%近くの高濃度で含まれている.タンニンは,植物体に広く含まれる植食者に対する防御物質であり,消化管への損傷や消化阻害作用を引き起こすことが知られている.演者らは,ミズナラ堅果を供餌したアカネズミApodemus speciosusが,著しく体重を減らし,高い死亡率を示すことを既に報告している.その一方で,アカネズミは秋季には堅果を集中的に利用することが知られているため,野外ではタンニンを無害化する何らかのメカニズムを有しているものと予測される. コアラなどの一部の哺乳類の腸内には,加水分解型タンニンを特異的に分解するタンナーゼ産生細菌が存在し,タンニンを代謝する上で重要な働きを持つことが報告されている. そこで,演者らは,アカネズミ消化管内にタンナーゼ産生細菌が存在するかどうか,存在するとしたらどの程度の効果を持つのかを検討した. タンニン酸処理を施したブレインハートインフュージョン培地にアカネズミ糞便の懸濁液を塗布し,タンナーゼ産生細菌の分離を行った.その結果,2タイプのタンナーゼ産生細菌が検出され,一方は連鎖球菌の一種Streptococcus gallolyticus,他方は乳酸菌の一種Lactobacillus sp.と同定された.野外で捕獲されたアカネズミが両者を保有する割合は,それぞれ62.5%,100%であった.また,ミズナラ堅果を用いて堅果供餌実験を行い,アカネズミの体重変化,摂食量,消化率,及び糞便中のタンナーゼ産生細菌のコロニー数を計測した.その結果,体重変化,摂食量,消化率は,乳酸菌タイプのタンナーゼ産生細菌と正の相関を示し,この細菌がタンニンの代謝において重要な働きを有している可能性が示唆された. さらに,アカネズミのタンニン摂取量,食物の体内滞留時間,タンナーゼ産生細菌のタンナーゼ活性等の情報から,タンナーゼ産生細菌がタンニンの代謝にどの程度貢献しているのかを考察する.
著者
後藤 和久
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.39-46, 2014-03-30

白亜紀/古第三紀境界の大量絶滅は、地球史の中でも有数規模であった。絶滅は、特に光合成生物とそれを直接的な基盤とする生食連鎖に属する生物について顕著であるのに対し、いわゆる腐食連鎖に属していたと考えられる生物は大きな被害を受けていない。また、石灰質の殻を持つ海洋生物の絶滅率が突出して高いという特徴がある。絶滅を引き起こした原因として、直径10kmの小惑星の地球への衝突が引き金となり、その後に発生した複合的な環境変動が考えられる。具体的には、太陽光の遮断による光合成の停止と寒冷化、酸性雨や有毒物質による陸上・海洋の汚染、そして輻射熱による地表面の高温化などが、大量絶滅パターンを説明できる環境変動として挙げられる。今後、生態学的研究により、観測されている絶滅パターンを再現するために必要な環境変動の規模や持続時間を解明することが望まれる。
著者
今井 葉子 角谷 拓 上市 秀雄 高村 典子
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.15-26, 2014-05-30

2010年に開催された第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で合意された、愛知ターゲットの戦略目標Aにおいて、多様な主体の保全活動への参加の促進が達成すべき目標として掲げられている。この目標を達成し広範で継続的な保全活動を実現するためには、重要な担い手となる、市民の保全活動への参加あるいは保全行動意図をどのように高めるかが重要な課題である。本研究では、社会心理学の分野で用いられる意思決定モデルを援用し「生態系サービスの認知」から「保全に関連強い行動意図」(以下、「行動意図」)へ至る市民の意思決定プロセスを定量的に明らかにすることを目的に、市民を対象とした全国規模のアンケート調査を実施した。既存の社会心理学の意思決定モデルにもとづきアンケートを設計し、4つの「生態系サービス(基盤・調整・供給・文化的サービス)」から恩恵を受けていると感じていること(生態系サービスの認知)と「行動意図」の関係を記述する仮説モデルの検証を行った。インターネットを通じたアンケート調査により、5,225人について得られたデータを元に共分散構造分析を用いて解析した結果、「行動意図」に至る意思決定プロセスは、4つの生態系サービスのうち「文化的サービス」のみのモデルが選択され、有意な関係性が認められた。社会認知に関わる要素では、周囲からの目線である「社会規範」や行動にかかる時間や労力などの「コスト感」がそれぞれ「行動意図」に影響しており、これらの影響度合いは「文化的サービス」からのものより大きかった。居住地に対する「愛着」は「社会規範」や「コスト感」との有意な関係が認められた。さらに、回答者の居住地の都市化の度合いから、回答者を3つにグループ分けして行った解析結果から、上記の関係性は居住環境によらず同様に成立することが示唆された。これらの結果は、個人の保全行動を促すためには、身近な人が行動していることを認知するなどの社会認知を広めることに加えて、生態系サービスのうち特に、「文化的サービス」からの恩恵に対する認知を高めることが重要となる可能性があることを示している。
著者
吉田 勝彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.438-445, 2005-12-25
被引用文献数
1

一次生産量変動の大きさが動物の食性の幅の進化に与える影響を明らかにするため、進化的に構築された食物網に一次生産量変動を加えるコンピュータシミュレーションをおこなった。この食物綱は動物種と植物種で構成され、植物種は一次生産をおこない、単独で成長するが、動物種は他の種を捕食しないと生きられないとする。動物種は自分の好みに合う餌を選んで捕食する。動物種はそれぞれ違った食性幅をもち、食性幅が狭いほど、捕食によって取り入れたエネルギーを効率よく成長に使えると仮定する。シミュレーションの結果、一次生産量変動がない場合には食性幅の狭いスペシャリストが優占する傾向が見られた。小規模の一次生産量変動が加わると、食物綱全体の種数がわずかに減少する。この時、元々多くの餌を捕食しているジェネラリストにはほとんど影響がなかったが、少数の餌しか捕食していないスペシャリストの種数は大きく減少した。大規模な変動が加わるシミュレーションでは、時々大規模な一次生産量の減少が起こり、動物種の多くが絶滅し、その結果植物の種数が大幅に増加する。このような条件では、食性幅を広げればそれだけ多くの餌を得られるし、他の動物種との餌の競合も起こりにくいため、ジェネラリストが定着しやすくなる。そのため、大規模な一次生産量変動が加わるとジェネラリストが相対的に増加すると考えられる。