著者
中村 俊 小柴 満美子
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-43, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
19

社会性行動は個体間の感覚運動的相互作用によって発達する。我々は社会的きずなの形成を神経行動学的に解析し,その分子的基盤を解明することを目指して動物モデル(家禽ヒヨコおよびマーモセット)を開発した。まず社会性行動を統合的・定量的に解析するための行動テスト法を確立し,テスト中の身体動画像から得られたパラメータの多変量解析により行動の質を評価する方法を開発した。ついで,社会的きずなの形成には,社会的相互作用が特に有効な時期(臨界期,高感受性期)が存在することを明らかにした。この時期に相互作用を体験しない個体におけるセロトニン,ノルアドレナリン作動性神経系の賦活効果を検討したところ,SSRI/SNRI が有効であったが,同時に臨界期後の社会性行動の“トレーニング”が必須であった。この結果は,本モデルが発達障害や他の精神疾患における社会性行動障害の病態モデルとして有効であることを示唆している。
著者
高橋 秀俊 中鉢 貴行 森脇 愛子 武井 麗子 飯田 悠佳子 荻野 和雄 神尾 陽子
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.229-234, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
26

自閉症スペクトラム障害(ASD)では,知覚処理の非定型性について知られており,低次の知覚処理機能と高次の機能との関連の脳内基盤の発達的変化を明らかにすることは,ASDの病態形成メカニズムを理解する手がかりとなりうると考えられる。聴覚性驚愕反射(ASR)は,精神医学領域におけるトランスレーショナル・リサーチにおいて,国内外で広く研究されている。今回我々は, ASD 児 10名とそうでない児童34名を対象に,ASR検査を実施した。聴覚刺激として,65 ~ 110dB まで 5dBきざみで10段階の音圧の聴覚刺激を提示した。さらに,対人応答性尺度で評価された定量的自閉症特性との関連も検討した。ASD 児では,ASRの潜時が延長しており,微弱な刺激に対するASR が亢進しており,これら ASR の指標は,いくつかの自閉症特性と相関した。ASR の指標が, ASDの病態解明に関して有用である可能性が示唆された。
著者
橋本 謙二
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
脳と精神の医学 (ISSN:09157328)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.55-60, 2009-03-25 (Released:2010-04-27)
参考文献数
44
著者
小林 聡幸
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.13-20, 2010 (Released:2017-02-15)
参考文献数
19

緊張病を一定の病像や経過からなる病型として記述した Kahlbaum に反して,近年の操作的診断基準の緊張病症候群の記述は「緊張病性の特徴」と表されるように緊張病的な「見た目」が重要視されている。確かに緊張病的な「見た目」は様々な疾患で生ずる。緊張病は疾患を横断する非特異的な症状というのはひとつの見解で,緊張病が原始反射に類似しているという Kretschmer の指摘に遡る。換言すると,緊張病とは人間精神の古層の露呈という仮説が成り立つ。また臨床的には緊張病は統合失調症と躁うつ病の蝶番の位置にあるといえる。他方,Kraepelin の早発性痴呆概念自体が,Heckerの破瓜病とともに,Kahlbaum の緊張病の概念を包摂することで成立したことを顧みるならば,緊張病の内包を突き詰めていくと統合失調症の本質に行き着くという考えもある。それは時間性の病理である。
著者
十一 元三
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.91-96, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
35

広汎性発達障害(PDD)に関する認知科学的・精神生理学的研究について展望した。精神生理学的研究に関しては,覚醒や注意について事象関連電位や自律神経活動の指標を用いて PDD 群に何らかの所見を見出した報告が多い。対人的注意については行動学的検査をもとに共同注意の低下を示す所見が得られている。脳機能画像を用いた研究からは,顔・表情や感情などの対人的処理と関連する領域を中心に所見が得られている。例えば,表情に対する扁桃体の低活動,顔に対する紡錘状回や上側頭回の賦活減少などが報告されている。さらに,対人的刺激に対し,ミラーニューロンにあたる下前頭回弁蓋部や眼窩部前頭前野の賦活減少もしばしば見出されている。聴覚刺激を用いた研究でも,主に対人的刺激に対する非定型的反応が報告されている。以上のように,PDD に関して非高次機能および対人的認知機能を中心に所見が集まりつつあると言える。
著者
植村 富彦 楯林 義孝 持田 政彦
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.223-234, 2015

統合失調症の病態仮説として,神経細胞を中心としたドーパミン仮説,グルタミン酸仮説などが従来提唱されてきたが,その本質はまだよくわかっていない。本総説ではトリプトファン代謝経路上の分岐点に位置するキヌレニン(KYN)を水酸化する反応律速酵素,キヌレニン 3-モノオキシゲナーゼ(KMO)のミクログリアにおける活性低下およびアストロサイトにおけるキヌレン酸(KYNA)産生増加による認知機能低下の可能性,すなわち,「統合失調症の KYNA 仮説」を中心に紹介する。統合失調症における慢性炎症,さらにはアストロサイトも含む神経-グリア関連にも言及し,今後の創薬の可能性について議論したい。
著者
林(高木) 朗子
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.127-134, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
45

めざましい遺伝学の進歩により,多くの統合失調症感受性遺伝子が同定されているが,いまだに本症の病態機構は不明である。多数の疾患関連遺伝子による多因子疾患であるという本症の特色が,生物学の構築を困難にしていると考えられる一方で,こうした関連因子が何ら関連のない別個の作用を有するのでなく,幾つかの共通の分子機構(疾患関連シグナル)のうえで相互作用することが示されている。統合失調症関連遺伝子の多くがグルタミン酸伝達に関与することより,グルタミン酸作動性シナプスは,本症における重要な関連シグナル伝達経路の1つと考えられる。本稿では,統合失調症関連遺伝子として有力な遺伝子の一つであるDISC1(Disrupted-In-Schizophrenia-1)のグルタミン酸シナプスにおける関与を紹介しながら,発症メカニズムについての一つのモデルを紹介する。すなわち思春期以前は比較的健常であった人々が,なぜ思春期以降に発症するのか,その時に生じている細胞生物学的にメカニズムは何であるのかという疑問に焦点をあて,本症の病態生理について考察する。
著者
八幡 憲明 石井 礼花
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.253-256, 2011

注意欠如・多動性障害(ADHD)は,発達の水準に不相応な不注意・多動・衝動性という3 つの行動的特長を呈する障害である。従来,その病態においては実行機能の障害が示唆されていたが,近年は主に衝動性との関連から報酬系回路の障害も指摘されている。本稿では,ADHD患者において報酬系回路の活動性を検討することの意義について述べ,同分野における最近の脳機能画像研究をまとめると共に,今後の研究の発展性について検討を行う。
著者
新井 誠 市川 智恵 宮下 光弘 糸川 昌成
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.269-275, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
12

統合失調症多発家系の発端者から,反応性カルボニル化合物を解毒する律速酵素であるグリオキサラーゼI(GLO1)の遺伝子にフレームシフト変異を同定したことをきっかけに,およそ2割の統合失調症の病態が「カルボニルストレス性」である可能性を見出した。カルボニルストレス性統合失調症では,ペントシジンやビタミンB6といった生化学的所見,GLO1の遺伝子型によって早期診断が行える可能性が期待される。カルボニルスキャベンジャーとして機能するピリドキサミンが,カルボニルストレス性統合失調症の病態に根ざした治療,発症の予防薬となり,従来の抗精神病薬では難治性だった症例に対する新たな治療戦略となる可能性がある。本稿では,統合失調症におけるカルボニルストレス同定の経緯を紹介し,ペントシジンやビタミンB6が生物学的指標として個別病態を階層化するうえで有用性があること,また,統合失調症の将来的な治療法についてその展望を述べた。

1 0 0 0 OA メマンチン

著者
中村 祐
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.227-235, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
10

メマンチン塩酸塩はグルタミン酸受容体サブタイプの 1 つである N-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体拮抗を作用機序とする唯一のアルツハイマー型認知症の治療剤であり,本邦では2011年より販売が開始された。メマンチン塩酸塩は過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化を抑制することにより,神経細胞保護作用などを発揮する。また,メマンチン塩酸塩は攻撃性,行動障害等の行動・心理症状の予防・進行抑制作用がある。薬物代謝酵素による代謝の影響を受けにくい薬剤であり,主な副作用は,国内試験では,めまい,便秘,体重減少,頭痛などであり,安全性は高い。また,ドネペジル塩酸塩などのコリンエステラーゼ阻害剤と作用メカニズムが異なることから,コリンエステラーゼ阻害剤と併用が可能である点も特徴的であり,今後のアルツハイマー型認知症治療の中核的な薬剤になると期待されている。
著者
松田 哲也 伊藤 岳人 鈴木 春香 丸谷 俊之 松島 英介 小島 卓也
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.257-261, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
21

統合失調症の思考障害について,意識的・無意識的な意思決定システム,構え,自己認知という観点から考察する。我々は課題遂行時,まだそれに慣れていないときには,意識的な思考システムが優位に働くが,繰り返し行うことで無意識的な思考システムに移行する。一方,環境に変化があったときはそのシステムを必要に応じて切り替える。スムーズな思考には,このような柔軟な思考システムの切り替えが必要なのである。この切り替えには,構えが重要な役割をもつ。構えは繰り返し課題を行う中で整理され,単純化されていく。これには,自己認知(セルフ・リフレクション)による,自分の思考,行動に対する評価からの正確なフィードバック信号が必要である。思考には,これらの機能が正確に働くことが必要であるが,統合失調症は,これら一連の思考過程の何らかの異常があることで思考障害が引き起こされている可能性があるのではないかと考えられる。
著者
前川 素子 大西 哲生 吉川 武男
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.103-107, 2012 (Released:2017-02-16)
参考文献数
31

統合失調症脆弱性形成の有力な説として,神経発達障害仮説が考えられている。神経発達障害には,環境要因と遺伝要因の両方が関わることが知られているが,特に環境要因については妊婦の栄養不良,妊婦のウィルス感染,産科合併症・周産期障害,母子間のRh血液型不適合などの関与が想定されている。本稿では母体栄養が出生後の児に及ぼす統合失調症脆弱性形成に対する影響について, DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)仮説の視点から概説したい。
著者
住谷 さつき
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
脳と精神の医学 (ISSN:09157328)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.163-169, 2009-09-25 (Released:2010-10-05)
参考文献数
13