著者
杉山 憲嗣 難波 宏樹 野崎 孝雄 伊藤 たえ
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.23-29, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
24

DBSは,疼痛疾患,不随意運動の治療法として始まり,中枢神経のループ回路障害の治療法として注目され,近年,難治性の強迫性障害(OCD),うつ病等々の精神科疾患にも適応されるようになった。中でも難治性 OCD に対する DBS は,USA で FDA の認可,ヨーロッパでも CE Mark approval を獲得し,そのDBS施行数は,論文発表例のみでも94症例となっている。複数報告例(総患者数= 81例)での治療有効率は約64 %(63.8 ± 21.9%)である。各ターゲットごとの報告例数,術後 YBOCS15点以下の改善者数,20点以下の改善者数は,①内包前脚/腹側線条体刺激:報告例数42 例,15点以下12 例,20点以下15例,②側座核刺激:報告例数33 例,15点以下8 ~ 11 例,20 点以下 13例,③視床下核刺激:報告例数19 例,15 点以下7例,20 点以下 11例であった。DBSによる治療が,精神科内,OCDの患者や患者家族内で選択しうる補助療法として認識され,検討されることを望むものである。
著者
吉永 怜史 久保 健一郎 仲嶋 一範
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.120-125, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
45

ヒトがなぜ精神疾患にかかるのかを解明するためには,精神疾患の発生学的理解が重要である。大脳皮質だけとっても,ヒトは多くの領野が細胞構築的にも機能的にも分化しており,疾患脳において異なる病的意義を有している。脳発生にも領域差がありうる。しかし,脳発生の領域差についての知見は乏しい。脳全体が多様な細胞からどのようにできてくるかを徹底的に理解して初めて,脳に内包されている脆弱性を見極めることが可能になると考えられる。この脆弱性と疾患脳との因果関係を議論することにより,病態形成の理解につながると期待される。正常発生の深い理解から,精神疾患の病因研究を進化させることを提案する。
著者
久保 健一郎
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.98-102, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
16

近年,自閉スペクトラム症をはじめとする神経発達障害の発症リスクを高める要因として,遺伝要因のみならず環境要因が注目されている。例えば,在胎28週未満の超早産が自閉スペクトラム症の発症リスクを高めることが知られている。環境要因のなかでも,母体への感染とそれに対する母体の免疫反応は,自閉スペクトラム症のみならず統合失調症をはじめとするさまざまな精神・神経疾患の発症にかかわるメカニズムとして注目されている。最近,マウスモデルを用いた研究から,母体の免疫活性化によって,大脳皮質の組織構造に局所的な変化が生じることが報告された。この局所的な変化は,ヒトの自閉スペクトラム症の死後脳で観察された,大脳皮質の「cortical patches」と呼ばれる組織構造の変化に類似しているとされる。我々の作成した神経発達障害のマウスモデルにおいても,組織構造の局所的な変化が大脳皮質の一部に生じることで,離れた脳部位への影響が生じ,これが動物行動の変化に結びつく可能性が示唆された。ただし,大脳皮質の組織構造の局所的な変化がどのように神経発達障害の発症にかかわるのか,そのメカニズムについてはまだ不明な点が多く残っている。
著者
久保 健一郎
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.108-113, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
26

統合失調症や自閉スペクトラム症などの神経発達障害が関与することが想定される精神・神経疾患において,疾患横断的に観察される脳の組織的な変化として,大脳新皮質における白質神経細胞の増加が報告されている。その要因として,発生段階における神経細胞の移動障害やサブプレートの細胞の遺残が想定されているが,まだ結論は出ていない。一方で,白質神経細胞の増加は,発生・発達期で脳への障害が生じたことを示唆する痕跡であるとともに,それ自体が病態に関与することも予想される。我々がマウスにおいて人為的に白質内の神経細胞を増やしてその影響を調べたところ,大脳新皮質における線維連絡の変化と前頭葉機能の低下が生じた。今後の研究では,動物モデルを用いた解析をさらに推進するとともに,動物モデルで得られた所見を参照しながら,実際のヒト死後脳組織を用いた解析を行っていく必要がある。
著者
新本 啓人 野村 淳 内匠 透
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.81-85, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は社会性の異常を呈する小児の精神疾患である。ASD は精神疾患の中ではもっとも遺伝的関与の高い疾患と考えられている。昨今のゲノム科学の進歩により,ASD を含む精神疾患の原因としてコピー数多型(copy number variation:CNV)が注目されている。ヒト染色体 15q11─ q13 重複モデルマウスは,CNV を有する ASD のマウスモデルとして開発された自閉症ヒト型モデルマウスである。今日さまざまな自閉症モデルマウスが存在しており,複数のモデルマウスを同じプラットフォームで解析することは重要なアプローチである。またCRISPR/Cas9 に代表されるゲノム編集技術の進歩により,さらなるモデル動物の開発が期待される。
著者
澤山 恵波
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.143-146, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
14

電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)の作用機序は未だに明らかにはなっていないが,難治性のうつ病でもその8割が改善を示す効果的な治療である。しかし乱用の歴史に伴う拒絶反応から感情的な議論が先に立ち,その手技の是非についての議論は先送りされてきた。日本では2002年パルス波治療器が認可され,徐々にではあるがECTにおいても治療の質が問われる時代になってきている。治療の質とは効果だけでなく,安全性や倫理面での配慮も含まれるが,今回我々は特に治療効果に影響を与える1.適応疾患,2.抗けいれん作用のある薬の漸減中止,3.刺激用量の設定,4.発作波の評価,5.閾値上昇への対応,6.術後回診,7.継続・維持ECTについて総論的に示すとともに,当院における取組を紹介する。
著者
吉川 和男
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.137-142, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
15

今から 1 世紀前に規定されたわが国の刑法 39 条には,「心神喪失者の行為は罰しない,心神耗弱者の行為はその刑を減刑する」との規定があり,精神障害者による犯罪行為については,刑罰を負わせず,刑を免除して,医療につなげる人道的配慮がなされている。また,1931 年に,大審院で下された判決が,わが国の責任能力判定の根拠として今日でも用いられている。一方,最近の脳機能画像検査や神経心理学的検査の進歩により,人の前頭葉の機能に関して比較的容易に豊富な情報が得られるようになった。これらの検査手法は未だ発展途上にあるとは言え,責任能力判定に求められる,被疑者や被告人の精神状態,弁識能力,制御能力に関しても,無視することのできない有力な情報を提供してくれる。このような発展をみる現代の精神医学にあって,責任能力判定だけが旧態然としたやり方に留まっていなければならない理由はないと思われる。本稿では 2 つの事例を用いて考察する。
著者
小坂 浩隆 田邊 宏樹 守田 知代 岡本 悠子 齋藤 大輔 石飛 信 棟居 俊夫 和田 有司 定藤 規弘
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.255-261, 2012

自閉症スペクトラム障害(ASD)の中核症状である社会性障害の脳基盤を解明するために,青年期の高機能ASD群に対して,共同研究機関とともに行ってきたfMRI研究を一部紹介する。自己顔認知課題においては,ASD群は自己顔認知処理がなされる後部帯状回の機能低下と情動処理に関わる右島の賦活異常を認め,認知と情動的評価に解離がみられた。相互模倣課題においては,自己動作実行と他者動作観察の同一性効果を求め,ASD群は左側の extrastriate body area の賦活が不十分で,症状重症度と逆相関を認めた。アイコンタクト・共同注視課題における2 台 MR同時測定(Dual-fMRI)においては,ASD群は視覚野の賦活低下を認めたほか,定型発達者ペアで認められた意図の共有を示す右下前頭葉活動の同調性が認められなかった。これらの脳領域が,ASD の social brain markerになる可能性があると考えられた。
著者
中澤 敬信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.124-128, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
22

自閉スペクトラム症は,社会的相互作用やコミュニケーションの障がい,言葉の発達の遅れ,反復的行動,興味の限局を主な症状とする神経発達障がいである。自閉スペクトラム症の発症割合は世界的に増加傾向にあるが,発症メカニズムや分子病態は不明な点が非常に多く残されている。患者の多くは弧発症例であるため,患者に新たに生じるde novo変異が注目されている。これまでに,およそ5,000程度の自閉スペクトラム症と関連するde novo変異が同定されており,それらは神経系の発達や分化に関連する遺伝子座,シナプス関連遺伝子座,クロマチン関連遺伝子座,転写制御関連遺伝子座に存在するものが多い。最近,高頻度に変異が同定されているCHD8やARID1B,TBR1等の自閉スペクトラム症と関連した機能解析が報告されている。我々は,神経系における機能がほとんど明らかになっていないPOGZに注目し,患者由来iPS細胞やマウスを用いた包括的な研究を実施している。
著者
内田 周作
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.23-27, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
27

カルシウムイオンは,真核生物細胞におけるシグナルメディエーターとして広範な細胞機能の調節にかかわっている。脳神経系におけるカルシウムシグナルの役割としては,神経伝達物質の放出,神経細胞の分化・成熟,神経可塑性,神経細胞死などが知られている。一方,ストレスフルな環境は気分障害や不安障害などさまざまな精神疾患の発症リスク要因となることが知られているが,最近,このストレス環境によって惹起される神経可塑性異常や行動変容に対する神経細胞内カルシウムシグナル異常の関与が示唆されている。本稿では,ストレスによるカルシウムシグナル異常と行動変容・精神疾患との関連について概説したい。
著者
田宗 秀隆
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.126-129, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
8

精神科医にとって,臨床経験の充実と基礎研究へ取り組む時間配分は課題である。ライフステージ変化も加わることも多い時期に,プロフェッショナルとしての立脚点が定まらない不安も抱え,何を優先するか迷うに違いない。筆者がキャリアパスを考えたきっかけは医学部時代のMD研究者育成プログラムである。卒業生は半数以上が基礎系大学院に所属しており,現況を報告する。 臨床で病の軌跡(Illness Trajectory)を知ることは研究のアイデアになりえ,研究の成果は臨床への還元が期待できる。異なる哲学・ルールを体験することも成長につながるだろう。 筆者は専門医と精神保健指定医を取得し,外的基準としての専門性を身につけたうえで大学院に進学した。前方視的に最適配分を決めるのは難しいが,自分なりの価値観(=内的基準)を確立できるようにトレーニング期間を過ごすことが重要だと思う。筆者の周囲では,折り合いをつけて選んだ道を歩んでいる精神科医が多く,多様性を認め合う文化を筆者もありがたく享受している。
著者
友田 明美
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.181-185, 2014 (Released:2017-02-16)
参考文献数
15

注意欠陥 / 多動性障害(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)は,年齢あるいは発達に不釣り合いな不注意,多動性 / 衝動性を特徴とする神経行動障害で,社会的な活動や学校生活への適応に困難をきたす。特に学童では 3 ~ 5%と非常に高い疾病率であり,早期の診断,適正な治療,および教育や医療面での専門的な支援が課題となっている。近年のいくつかの研究から,ADHD にはさまざまな疾患,例えば双極性障害(BPD),躁病などが併存することが指摘されている。しかし,児童青年精神科領域では,併存疾患の診断や,その病態把握,治療法のための客観的なエビデンスがまだ少ない。そのような中で,ドイツ,韓国,そして日本の研究者らが発表を行った。
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 桑野 信貴 瀬戸山 大樹 康 東天 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.182-188, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
43

近年,うつ病をはじめとする気分障害において脳内炎症,特に,脳内免疫細胞ミクログリア活性化がその病態生理に重要である可能性が示唆されており,筆者らは10年来ミクログリア活性化異常に着目した気分障害の病態治療仮説を提唱してきた。ヒトでミクログリアの活動性を探る代表的な方法として死後脳の解析やPETを用いた生体イメージング技術が用いられているが,こうした方法だけではミクログリアのダイナックで多様な活動性を十分に捉えているとは言い難いのが現状である。筆者らは,間接的にミクログリア活性化を評価するための血液バイオマーカー研究を推進してきた。一つは,ヒト末梢血単球にGM‐CSFとIL‐34を添加することで2週間で作製できる直接誘導ミクログリア様(iMG)細胞を用いた精神疾患モデル細胞研究であり,もう一つは,血漿・血清を用いたメタボローム解析・リピドーム解析などの網羅的解析研究である。本稿では,こうしたヒト血液を用いてのミクログリアに焦点を当てた橋渡し研究を紹介する。
著者
成本 迅
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.135-138, 2014 (Released:2017-02-16)
参考文献数
12

報酬予測と意思決定はさまざまな精神疾患で障害されていることが報告されている。最近では,計算論を用いた洗練された神経画像研究も報告されるようになってきている。本シンポジウムでは,神経計算論研究の第一人者である大阪大学の田中沙織准教授から報酬予測と意思決定に関する最新の計算論モデルについて紹介があり,ご自身のセロトニン制御による意思決定関連脳活動の変化に関する研究データが報告された。次に,オランダ,アムステルダム大学の Damiaan Denys 教授からは,強迫性障害に対する脳深部脳刺激療法の治療効果と神経画像研究について報告があった。最後に京都府立医科大学の酒井雄希助教から,セロトニン神経系の障害が想定されている強迫性障害,神経性大食症,抜毛症における報酬予測神経活動の異常に関するデータが報告された。計算論と神経画像研究の統合による精神疾患の意思決定神経基盤の理解に向けて一つの方向性が提示された。
著者
江頭 一輝 松尾 幸治 渡邉 義文
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.207-211, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
19

修正型電気けいれん療法(m-ECT)はうつ病をはじめ種々の精神疾患および一部の神経疾患に対し有効な治療法である。m-ECTのさらなる普及およびECTの治療効果や副作用を適切に議論するためにm-ECT施行方法の標準化が求められているが,発作の有効性を評価するための発作時脳波評価の具体的な基準は,われわれの知る限り報告されていない。欧米では発作時脳波スケールを用いた発作時脳波と治療効果の関連について,その性状が良いと治療効果も高いという所見が多くみられている。われわれは,発作時脳波スケールを用いたECT施行アルゴリズムを作成し,このアルゴリズムの臨床的有用性について後方視的検討を行った。アルゴリズムを導入した群は導入しなかった群と比べて少ないECTセッション数,短いECT期間で改善しており,本アルゴリズムの臨床的有用性が示唆された。
著者
功刀 浩 太田 深秀 若林 千里 秀瀬 真輔 小澤 隼人 大久保 勉
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.177-181, 2016

近年,緑茶の飲用頻度が高いとうつ病など精神疾患のリスクが低いことが指摘されている。緑茶特有の成分であるテアニン(L-theanine:N-ethyl-L-glutamine)は,グルタミン酸に類似したアミノ酸で,リラックス効果があることが知られていた。筆者らは動物実験により,テアニンはprepulse inhibition[PPI]で評価した感覚運動ゲイティング障害を改善する効果があるほか,持続的投与では強制水泳テストの無動時間を減少させ,海馬での脳由来神経因子の発現を高めるなど抗うつ様効果も認める結果を得た。健常者を対象にテアニン(200mgまたは400mg)を単回投与するとPPIが上昇することを見いだした。慢性統合失調症患者に8週間投与したところ,陽性症状や睡眠を改善する効果がみられた。大うつ病患者に対する8週間のオープン試験では,うつ症状,不安症状,睡眠症状に加えて認知機能の改善が観察された。以上から,テアニンは多彩な向精神作用をもち,統合失調症やうつ病といった精神疾患に対して有用である可能性が示唆された。
著者
鵜飼 聡
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.143-147, 2012 (Released:2017-02-16)
参考文献数
40

TMSを用いてヒトの皮質機能を評価する方法の中から,神経伝達物質の機能との関連が比較的強く,精神疾患の病態の検討や薬効評価の予測などへの応用が期待されるものをとりあげて紹介した。Cortical silent period の後期成分は運動皮質内のGABA-Bを介した皮質内抑制機構を反映し,統合失調症の陰性症状との逆相関や抗精神病薬による違いが示されている。統合失調症での障害が多数報告されている運動皮質への2連発磁気刺激による短潜時皮質内抑制は,主に運動皮質のGABA-Aを介したGABA性介在ニューロンの機能を反映しており,GABA系の機能異常と関連した統合失調症の病態の検討での成果が期待される。Short-latency afferent inhibition は,主に中枢性のコリン系神経伝達の機能を反映しており,認知症の診断や薬効評価の予測などの臨床応用を目指した今後の検討が期待される。