1 0 0 0 OA 妊婦の生理学

著者
田中 宏和
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.533-537, 2018-07-15 (Released:2018-08-29)

妊娠時は週数に応じたさまざまな生理的変化をきたす.血液学的な変化は顕著で,妊娠後期にピークとなる血液量の増加,凝固系の機能亢進と線溶系の抑制が起こる.血液量の増加に伴い心機能は亢進し,循環血液量の増加によって腎機能も亢進する.また呼吸機能は子宮の増大に伴い横隔膜の運動は制限されるが,横隔膜挙上による機能的残気量の減少によって亢進し,酸・塩基平衡にも影響を与える.妊娠による内分泌環境の変化による糖や脂質代謝の変化も特異的である.さらに増大した子宮と内分泌環境の変化は,消化器系,尿路系,骨格系にも影響を及ぼす.それぞれが,妊娠に適応し分娩に対応できるように,合目的的な変化となっている.
著者
鈴木 昭広 平井 裕康 岩波 悦勝 川向 みさき 佐野 克敏 舘岡 一芳 朝井 裕一 木村 仁美 國澤 卓之 横田 啓 岩崎 寛
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 = The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.57-65, 2006-01-13
参考文献数
7
被引用文献数
2 1

  定期手術患者445名の手術室入室時に, 前投薬の有無, 術前点滴の有無, 入室時の服装, 入室方法 (歩行, 車椅子, ベッド) を自由に選択させる試みを多施設で行った. 前投薬は全体の40%が希望した. 前投薬を施行しない場合, 入室時の不安度を示すVASは有意に増加した. 血圧はどの群でも入室時に増加した. 歩行入室の場合, 心拍数も有意に増加したが臨床的に重要な変化とはいえなかった. 点滴の有無は脈拍数に影響しなかった. 今回の試みに対する満足感を示すVASは89±16mmと高値であった. 患者の希望を最大限尊重し, 叶えられない事項については十分に説明を行うことで患者の満足感を向上させることができ, 安全な入室が行えると考えられた.
著者
森島 久代
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.617-625, 2004 (Released:2005-05-27)
参考文献数
17
被引用文献数
5 5

米国における医学部女性応募者数は2003~2004年度に男性応募者を上回る数に達した. これに伴い麻酔科を含めた専門科目を選択する女性医師の重要性が注目されるようになり, 教育機関における女性医師に対する男女差別の改善の必要性が浮き彫りになった. 本論文は米国における女性麻酔科医の現状と, 日米麻酔科医の現況に関する調査結果を紹介した. 最近, 教育機関における男女差別は著しく改善されたとはいえ, この傾向は日米ともいまだに存在し, 女性麻酔科医が助教授以上に昇進する機会は男性より低いのみか昇進までに年月を要した. 注目すべき結果は日本の若手女性麻酔科医は男性数をしのぐ数であるが, この傾向は30歳を超えると消失してしまう点である. これは米国と対照的であり, 女性自身の職業的意識が米国と異なっている点も認められた. さらに, 麻酔科領域で不足しているマンパワー充実のための暫定的な労働緩和策にも言及した.
著者
五十嵐 寛
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.75-79, 2020-01-15 (Released:2020-02-19)
参考文献数
9

シミュレーション教育に従事する方々を対象に,セミナーを開発する場合の最重要ポイントを,成果(アウトカム)基盤型教育とインストラクショナルデザインの観点から概説する.セミナー開発時の必須項目は,受講対象者の設定(入口)とアウトカム(出口)設定,教育効果の指標(カークパトリック・モデル),モチベーションへの配慮(ARCS動機づけモデル)などである.
著者
重松ロカテッリ 万里恵 河野 崇 山中 大樹 立岩 浩規 北岡 智子 横山 正尚
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.29-32, 2017

<p>鎮痛薬の有効性はプラセボ・ノセボ効果の影響を強く受ける.特に,鎮痛薬への期待と不安は,それらの発現に重要と考えられる.今回,臨床実習前の医学生を対象として新規に説明を受けた鎮痛薬の期待と不安の関係についてアンケートを用いた予備調査を行った.医学部4年生(108名)に対し,弱オピオイド鎮痛薬のトラマドールの説明を通常臨床と同様に行った.その後,トラマドールの鎮痛効果への期待と副作用の不安について11段階で評価した.その結果,トラマドールの鎮痛効果への期待度と副作用の不安度には有意な正の相関が見られた(Spearmanの順位相関係数:0.392).鎮痛薬のプラセボ効果を最大限にして,ノセボ効果を最小限にすることは医療従事者にとって永遠の課題といえるが,その達成のため今後もさらなる検討が必要と考えられる.</p>
著者
小澤 章子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.439-445, 2014 (Released:2014-06-17)
参考文献数
21

ASA困難気道ガイドライン2013では,挿管困難は直接声門視認型喉頭鏡(通常のMacintosh型喉頭鏡)で複数回,喉頭展開や気管挿管を行ってもできない場合で,その定義は相対的なものである.直接声門視認型喉頭鏡で声門を直視するには口腔,咽頭,喉頭の軸のアライメント調整が必要となり,頭頚部の解剖が大きく影響する.Cormack分類は喉頭の見え方を定量化している.自分と医療チームのレベルアップのために,気道管理トレーニングは必須である.
著者
松木 明知
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.586-591, 2019-09-15 (Released:2019-10-29)
参考文献数
24

日本の麻酔科医の社会的地位について歴史的に論じた.1960年に麻酔科が特殊標榜科として認められた.麻酔科標榜医の資格は適当な指導者の下で2年間の訓練を受ける必要がある.このために日本麻酔学会は1962年には麻酔科標榜医を認定するために麻酔指導医認定制度を作った.わが国の医学界で最初の専門医制度であった.この制度によって麻酔科医の医学界における地位は向上したが,社会における認知度は依然として低いと言わざるを得ない.学会としても麻酔科医の情報を社会に向けて発信する必要がある.

1 0 0 0 OA CEA手術の麻酔

著者
中川 五男
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.387-394, 2005 (Released:2005-07-29)
参考文献数
13

頸動脈内膜剥離術 (CEA) の麻酔は術中・術後管理のみならず, 個々の患者が抱える術前の病態を把握しておくことが麻酔科医にとって重要である. 今回はわれわれが行っているモニタリングを中心に本疾患の病態を評価し, CEA手術の麻酔をいかに行うかを検討した. CEA適応症例では循環器系合併症が多く, とくに両側狭窄例では虚血性心疾患の合併率が高かった. 術前より脳血管反応性が著しく低下している症例があり, このような例では術後hyperperfusion syndromeを発生する危険性が高く, 綿密な循環管理が必要となる. 脳虚血に対する術中モニタリングとしてわれわれはSEP, stump pressure, 近赤外分光法 (NIR) , TCD, 内頸静脈血酸素飽和度 (SjvO2) などを使用している. これらのモニタリングはそれぞれが何を反映するかが異なり, またその有用性にも差があるため, 単一のモニタリングでは適切な脳虚血の評価が困難なことがあり, すべての結果を総合的に検討し病態を評価すべきである.
著者
萬家 俊博
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.7, pp.665-670, 2006 (Released:2006-12-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

最近, 地球環境に及ぼす悪影響や種々の副作用を理由に亜酸化窒素 (笑気) が使用されなくなる傾向にある. プロポフォールとフェンタニルによる全静脈麻酔や酸素・空気・セボフルラン吸入とフェンタニルを併用した方法によって麻酔が成立し, 管理になんら困難を感じないことが多い. しかし, 鎮痛作用を有する亜酸化窒素を併用すれば, セボフルランの維持濃度やフェンタニルの投与量を減らしても安定した血行動態を維持できる. また, 亜酸化窒素は術中覚醒の予防に有用といわれている. 余剰麻酔ガスの分解処理対策を行い, その欠点や副作用を考慮して対象症例を限定すれば, 亜酸化窒素は手術室における全身麻酔にも有用な麻酔薬としてまだ存在する余地はあると考える.
著者
宜野座 到 林 美鈴 垣花 学
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.539-543, 2021

<p>ロボット麻酔システムDogenは,脳波モニタと筋弛緩モニタの情報からプロポフォールとレミフェンタニル,ロクロニウムを自動投与する麻酔維持システムである.今回の臨床治験でロボット麻酔システムの有効性と安全性を検証した.当院では6症例を担当しおおむね安定した麻酔管理を行うことができた.その中で,エフェドリンの中枢神経に対する間接作用がBIS値に影響しロボット麻酔システムが必要以上に鎮痛薬を増量させた可能性のある症例を経験した.ロボット麻酔システムはヒューマンエラーのリスク軽減や麻酔科医の生産性向上などに寄与する可能性がある一方で,使用に際しては十分な麻酔科学的知識が不可欠であると考えられた.</p>
著者
佐野 文昭 仙頭 佳起 平手 博之 祖父江 和哉
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.504-510, 2018

<p>血液弾性粘稠度検査は,ベッドサイドでほぼリアルタイムに血液凝固機能を評価できる.血液弾性粘稠度検査を用いることで,心臓外科手術や肝移植手術において輸血量を減少させることが知られている.濃縮フィブリノゲン製剤は,本邦では後天的低フィブリノゲン血症には適応がないが,文献では濃縮フィブリノゲン製剤の使用で血液製剤の使用量低下,治療コスト削減,予後改善が報告されている.当院では倫理委員会の認可のもと,大量出血時の低フィブリノゲン血症に対し濃縮フィブリノゲン製剤を使用し,一定の成果を得ている.本稿では自験例を含め,周術期の凝固系管理を考える.</p>
著者
加藤 孝澄
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.822-827, 2008-09-12 (Released:2008-10-17)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

筋弛緩薬の開発の歴史は, 脱分極性筋弛緩薬スキサメトニウム並みの速い作用発現を実現できる副作用の少ない非脱分極性筋弛緩薬の開発の歴史である. 近年, 本邦でも臨床使用が可能になったロクロニウムは, 投与の工夫でスキサメトニウムに迫る速い作用発現が得られるアミノステロイド構造をもつ非脱分極性筋弛緩薬である. 作用持続時間はスキサメトニウムほど短くないが, 同じ非脱分極性筋弛緩薬ベクロニウムと同程度で, ベクロニウムに慣れている麻酔科医にも違和感なく使用できる薬物である. さらに中間代謝産物が筋弛緩作用を有さず持続静注にも適している点でベクロニウムより優れている.
著者
鳥飼 宏之
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.460-466, 2019-07-15 (Released:2019-08-01)
参考文献数
3

手術室火災に対して病院内に消防法で設置が義務づけられているABC消火器を用いた場合,たとえ初期消火に成功したとしても,消火器から放出された微細な消火剤粉末が手術室全体に飛散し,ほとんどの医療機器が汚損する.その機器の汚損回避のためには,二酸化炭素消火器の利用が有効となるが,義務設置として導入することは難しい.ただし,消防法令に則って義務設置とされた消火設備等が適正に配置されている病院に対しては,自主設置として二酸化炭素消火器を導入することは可能である.二酸化炭素消火器を自主的に導入する場合,所轄消防に相談するとともに,使用者は消防訓練等を通してその操作法や危険性について理解することが大切となる.
著者
御村 光子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.247-251, 2008 (Released:2008-04-16)
参考文献数
2
被引用文献数
2 2

今回のパネルディスカッションはこれまでと異なり, 麻酔科領域の仕事に 「女性であることが逆に有利ではないか」 という視点で企画された. 事前の調査では麻酔科関連の仕事に女性が 「向いている」 との意見が優勢であった. 現状では女性の方が育児・介護等を通じて社会とのかかわりが強く, これらの生活上の経験がインフォームドコンセント, 小児麻酔, 緩和医療に生かされる. また, 患者としての経験が臨床麻酔上, 一層の力となりうる. 麻酔科関連の仕事が真に両性にとって働きやすい領域であるために解決すべき問題も多いが, 女性医師を取り巻く環境は必ずしもハンディキャップとなるものではない.
著者
芝 順太郎 佐藤 正章 原 鉄人 平岡 希生 竹内 護
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.160-165, 2021-03-15 (Released:2021-04-22)
参考文献数
6

メンター制度の初期研修医への教育効果に関する報告は少ない.われわれは初期研修医教育として振り返りカンファレンス(DC;Debriefing Conference)を導入している.DCは初期臨床研修医が自ら振り返りたいと考えた症例を提示し,ファシリテーター役の上級医数名と初期研修医で行った.DCの内容は麻酔管理上の問題点および臨床能力の向上に必要なスキルに分類した.またDCからコミュニケーションに起因する事象が初期研修医にとって問題であることがわかった.コミュニケーションを促進する改善策としてメンター制度を導入し,メンター制度がDCに及ぼす影響を検討した.メンター制度の導入によってDCにおいて疼痛管理とコミュニケーションに関する報告は皆無になった.
著者
和藤 幸弘
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.692-698, 2014 (Released:2014-10-25)
参考文献数
6

1995年の阪神・淡路大震災以降,災害医療体制の整備が進められてきたが,2002年の「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」制定を契機に内閣府,厚生労働省によって2005年から広域医療搬送計画と日本DMATの整備拡大が加速度的に推進されている.日本DMATは災害急性期に活動するチームで,2011年の東日本大震災でも全国すべての都道府県から383チームが東北の被災地域で医療活動を行い,広域医療搬送も実施された.この大災害で大規模な日本DMATの活動が稼働することが証明され,2014年現在1,150チーム(586医療機関)が登録しており,さらに拡大が図られている.一方で急性期の医療活動以外の問題点が広く認識された.本稿では広域医療搬送計画と日本DMATについて,また現在の災害医療の問題点について解説する.
著者
北村 咲子 武智 健一 安平 あゆみ 藤岡 志帆 浪口 孝治 萬家 俊博
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.743-747, 2017-11-15 (Released:2018-01-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RALRP)では,気腹と急峻な頭低位を要するため術中に眼圧が上昇する.このため,緑内障患者に対するRALRP適応の可否には議論がある.当院では緑内障患者でも,眼科医の術前診察により初期緑内障と診断されればRALRPを適応している.今回5例の緑内障併存RALRP症例に対し,麻酔中の眼圧を測定したところ非緑内障患者と術中の眼圧変化に差はなく,術後明らかな視機能障害を認めなかった.緑内障併存患者のRALRP症例の周術期管理に関し報告する.
著者
黒木 雅大 岡田 真行 鈴木 博人 川前 金幸
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.127-133, 2021

<p>超緊急帝王切開では母体の安全を確保しつつ,迅速な児娩出を目指す.そのために当院では超緊急帝王切開に対し多職種共通のプロトコールを作成し,手術決定から児娩出まで(Decision-to-Delivery Interval:DDI)の短縮を目指した.今回,この共通プロトコール運用の前後において,DDIとその内訳を検討した.共通プロトコールの運用後でDDIは有意に短縮し,特に手術室入室から気管挿管までが有意に短縮された.超緊急帝王切開において共通プロトコールの運用はDDIの短縮に有用であり,それには麻酔科医の行動が大きく関与している可能性が示唆された.</p>
著者
藤野 能久 北村 恵津子 榊 孝之 野坂 修一 天方 義邦
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.134-139, 1995

AVM破裂による脳内出血・脳室穿破から脳圧亢進症状を呈している妊娠32週妊婦に対する血腫除去術と帝王切開術の麻酔を経験した。<br>症例は28歳,女性,妊娠32週。突然の頭痛と嘔吐,引き続く意識消失と痙攣発作により,CT上,右脳内出血・脳室穿破と診断された。その後の血管造影で右側頭葉AVMと診断され,緊急開頭・血腫除去術が行なわれた。血腫除去術中から子宮収縮が認められたため,引き続き全身麻酔下に帝王切開術を施行した。妊娠中の脳神経外科の緊急手術と引き続き帝王切開術を施行する場合の麻酔管理について文献的考察を加えて報告した。
著者
小坂 義弘
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.293-300, 2020-05-15 (Released:2020-06-26)
参考文献数
8

今日まで順調な発展を遂げてきた硬膜外麻酔において,最近は合併症が多く,医療事故も麻酔科関係の半数を占めている.全国の大学病院麻酔科にアンケート調査をしたところ,硬膜外腔の確認を確実にできるhanging drop法のできる金属針が放逐され,hanging drop法のできないディスポーザブル針に変わり,硬膜外腔の確認法が硬膜誤穿刺等の危険のあるloss of resistance法になっていた.このため研修医に硬膜外腔穿刺をさせない大学が1/3もあり,硬膜外麻酔が危機にさらされている.現代では硬膜外麻酔は必須の鎮痛・麻酔法であり,その進歩を粗雑な針で後退させてはいけない.合併症の原因が,医師の技量よりも針に問題があるのなら,安全・確実にhanging drop法のできる良いディスポーザブル針を作る以外に良策はない.