著者
古志 貴和
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.275-281, 2017-03-15 (Released:2017-04-21)
参考文献数
7
被引用文献数
2

椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの腰椎変性疾患や慢性痛に対して,腰椎手術はあらゆる年齢層に対して広く行われている.適切な診断,手術治療により症状が軽減するものが大部分を占める一方で,術後経過の芳しくない脊椎手術後痛症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)が存在する.FBSSの原因は多岐にわたり,医療者の努力で防ぐことができるものとできないもの,さらには原因のわからないものが混在する.今回,FBSSに関し,自験例に文献的考察を加え,その原因と対策について検討を行った.
著者
白石 義人
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.341-345, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

日本における薬物依存や乱用による事件が社会的問題となっている中で,われわれ医療者(麻酔科医)は患者を薬物依存に陥らせないようにすべきことはもちろんである.しかし自分自身が薬物依存に陥ってしまうことは,医療者の社会的信用を失墜し,医療倫理にも反する.残念ながら日本においては処罰(刑事罰,行政処分)という概念が先行して,薬物依存に対する予防・啓発活動,治療システムの構築,さらには社会復帰という各段階を支援し実施する体制は現状では極めて貧弱であると言わざるを得ない.日本における薬物依存の現状や医療者の薬物依存に対する日本麻酔科学会のこれまでの取り組みを概説する.今後とも医療者の薬物依存の存在と危険性を医療者の共通認識とするために継続的に情報を発信していきたい.
著者
山田 博胤 玉井 利奈
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.001-007, 2012 (Released:2012-02-16)
参考文献数
9

手術患者の安全を確保することは,麻酔科医の最重要任務である.周術期におけるイベントを予知,そして予防すること,イベントが起きた際には適切に対処することが望まれる.この命題を完遂するにあたり,心エコー検査により得られる情報は非常に有用である.しかし,循環器内科医あるいは検査技師が施行した経胸壁心エコー検査(TTE)の報告書を読むことはしても,自らTTEを行う麻酔科医はまだ少数である.麻酔科医が術前に行うべきTTEは,循環器内科で行うfull studyとは異なるfocused studyである.一般的には,(1)左室収縮能,(2)大動脈弁狭窄の有無,程度,(3)右室負荷(肺高血圧)の有無,程度,(4)下大静脈の径と呼吸性変動の有無(静脈環流量の推定),(5)心不全(左室拡張不全)の有無,(6)心膜液貯留の有無およびその程度,の情報が取得できれば,周術期のリスクマネジメントに非常に有用である.
著者
北條 美能留 石井 浩二 原 哲也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.355-360, 2017-05-15 (Released:2017-06-17)
参考文献数
7

がん疼痛の薬物療法における非オピオイド鎮痛薬の役割は重要である.非オピオイド鎮痛薬の使用によりオピオイドの副作用軽減が可能になることもある.非オピオイド鎮痛薬は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンに大別される.NSAIDsはその作用機序の特徴から消化管障害,腎機能障害,血小板障害などのリスクがある.近年,さらに心血管系のリスクも存在することが明らかになった.一方,アセトアミノフェンは肝機能障害に関して注意が必要である.本稿ではがん疼痛治療に際し,非オピオイド鎮痛薬選択に関して注意すべき点を中心に概説する.
著者
辻本 三郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 = The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.359-373, 2008-04-28
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

&nbsp; Difficult airway management (DAM) についての知識と技術を習得することは, 気道管理のエキスパートである麻酔科医の使命である. ASAの 「Difficult Airway患者の管理のための実践ガイドライン」 はDAMの系統的な戦略を示したもので, DAMを実践するための指針となっている. このASAガイドラインとDifficult Airway Society (DAS) のDifficult Airway Society guidelines for management of the unanticipated difficult intubationをもとに, 麻酔導入時の気道管理, 特に成人患者の麻酔導入時の気道管理戦略について解説した. 日本で開発されたエアウェイスコープ<sup>&reg;</sup> (AWS) をはじめ, CCDカメラ搭載の喉頭鏡が気道管理に新たな展開をもたらしてきている. このAWSを含めて種々の気道管理器具を紹介するとともに, 代表的な気道管理方法についても概説した.
著者
坂口 嘉郎 冨永 昌宗 高橋 成輔
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 = The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.7, pp.322-326, 2004-09-15
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

九州大学医学部では1995年から高機能患者シミュレータを導入し, 医学生に対する麻酔科蘇生科のベッドサイド実習で利用している. 患者を対象とする臨床実習の前後に, 学生グループが自ら立てた計画に基づき, 麻酔シミュレーションを実践する. 酸素投与や換気補助をしないまま麻酔導入したりすることも少なくない. 疑似医行為の結果を目の当たりにすることで, 医学生らは自らの臨床能力の程度を自覚し, また医行為のもつ危険性も身をもって理解する. 高機能患者シミュレーションは, 患者に負荷を一切かけることなく, 医学生たちが, 主体的に修練する動機付けを得る意義があると考える. その効果的な運用についてはさらなる検討が望まれる.
著者
和泉 俊輔
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日臨麻会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.393-396, 2018

<p>対麻痺は胸部ステントグラフト内挿術の最も重篤な合併症である.脊髄障害の発生率を減少させるため,胸部ステントグラフト内挿術における脊髄保護戦略として血圧管理,脳脊髄液ドレナージ,術中神経モニタリングについて検討する.また胸部ステントグラフト内挿術では遅発性の脊髄障害が多いことが特徴とされる.障害の発生する時期に関連する因子として解剖学的な因子や血行動態の因子が考えられる.血圧管理,脳脊髄液ドレナージ,術中神経モニタリングはガイドラインにも掲載されており,患者予後の向上のためにも麻酔科医にとって必須の事項になる.</p>

1 0 0 0 OA 痛みの評価法

著者
濱口 眞輔
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.560-569, 2011 (Released:2011-08-15)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

痛みの評価は診断と治療効果の判定に不可欠であり,科学的信頼性と妥当性を有する方法が理想的である.また,患者が痛みを複数の医師に同様に伝えられ,医師も主観によらずに患者の状態を把握できる方法でなくてはならない.評価法としては言語や数字,視覚スケールによるものが簡便であり.疼痛外来などで頻用されている.そのほかには痛覚伝導系刺激やサーモグラフィなどの機器を用いた評価法,画像診断による評価法がある.痛みは患者の持つ内的経験であるため主観的評価となりやすく,外部からの客観的評価は非常に困難である.したがって,主観的評価法と客観的評価法を正しく理解して施行し,機器による評価では機器の特性を十分に理解して施行する必要がある.
著者
中山 雄二朗 小寺 厚志 宮崎 直樹 上妻 精二 瀧 賢一郎 大島 秀男
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.223-231, 2012 (Released:2012-04-25)
参考文献数
13

われわれは,過去5年間にArtzの基準で重度熱傷と分類され,熊本医療センターで手術が施行された46症例を対象として,在院死亡の予測因子を検討した.各因子の予測の精度はReceiver Operating Characteristic曲線下面積(AUC)で検討した.在院死亡は12例で在院死亡率は約26%であった.AUCは熱傷指数で0.88,熱傷予後指数で0.85,総熱傷面積で0.84,受診時の白血球数で0.84と,それぞれ高値を示した.白血球数は一般的かつ簡単に測定される検査値であるが,算出が複雑な熱傷予後指数や総熱傷面積と同程度に,重度熱傷患者の在院死亡の予測に有用な因子である可能性が示唆された.

1 0 0 0 OA 脳神経蘇生

著者
黒田 泰弘
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.364-372, 2018-05-15 (Released:2018-06-23)

てんかん重積状態,特に非痙攣性てんかん重積状態において,てんかん発作の管理,持続脳波モニタリングが重要である.脳梗塞超急性期における血栓溶解療法のtime windowが発症後4.5時間まで延長された.脳梗塞超急性期において,条件を満たした場合に,rt-PA投与に加えてステント型血栓回収機器を用いた再開通療法が勧められる.一過性神経発作(TNA)例においては椎骨脳底動脈系脳梗塞の発症リスクに注意する.敗血症関連脳症は,感染による全身性反応の結果として生じたびまん性脳機能障害で,昏睡もしくはせん妄を呈する.重症熱中症では,呼吸・循環を含む全身管理とともに体内冷却を併用し,ICU管理を行うことが望ましい.
著者
中馬 理一郎 星野 裕子 田中 修 尾原 秀史 岩井 誠三
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌
巻号頁・発行日
vol.8, no.6, pp.502-508, 1988

腎不全患者におけるベクロニウム (Vb) の神経筋遮断効果と薬動力学について, 10人の慢性人工透析患者を対象として検討した. 麻酔はGOFで行ない, Vbを0.08mg/kg1回静注し, 5人の患者は血中濃度を high performance liquid chromatography により測定し, 残り5人の患者は神経筋遮断効果をABM<sup>&reg;</sup>を用いて判定した. T<sub>1/2</sub>(&beta;)は15.3&plusmn;1.0分, クリアランスは3.0&plusmn;0.7m<i>l</i>/kg/minで, 正常腎機能患者における矢島18), 青木23)らの報告と同じ傾向を示した. 作用発現時間2.61&plusmn;0.63分, 回復時間16.6&plusmn;2.4分, 持続時間54.1&plusmn;18.7分で正常人と有意差はなかった. 蓄積効果についてはさらに検討が必要であるが, Vbは腎不全患者にも安全に使用できると思われた.
著者
丸山 一男
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.392-399, 1999-07-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
9
著者
水谷 仁 青野 麻由 渡部 愛子 三宅 絵里 佐伯 茂 小川 節郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.87-89, 2010-01-15 (Released:2010-02-19)
参考文献数
3

血清コリンエステラーゼ (ChE) が異常に低値を示した症例の麻酔を経験した. 症例は, 74歳, 女性. 今回, 胆石症に対し開腹胆嚢摘出術が予定された. 手術・麻酔歴はなく, 既往として悪性貧血, 高血圧を指摘されていた. 近医での血液検査でChE値の異常低値が20年にわたり認められていたが, 自覚症状がないため経過観察とされていた. 麻酔は, 胸部硬膜外麻酔併用全身麻酔を選択し, 術中は脱分極性筋弛緩薬, エステル型局所麻酔薬を避け, ベクロニウム, メピバカインを使用し特に問題なく手術, 麻酔を終了した. 血清コリンエステラーゼは薬物代謝に関与しているので, 術中に使用する薬剤の選択には十分な注意が必要と考える.
著者
紺野 愼一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.703-708, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
22
被引用文献数
1

慢性痛には心理社会的因子が深く関与している.しかし,患者の心理的因子を評価するのは容易ではない.そこで,われわれは外来で施行可能な問診票BS-POP(Brief Scale for Psychiatric Problems in Orthopaedic Patients)(整形外科患者に対する精神医学的問題評価のための質問票)を作成した.BS-POPはすでに信頼性,構成概念妥当性,基準関連妥当性,再現性,および反応性が計量心理学的に検証されている.心理社会的因子を評価せずに手術等の侵襲的な治療を行うと,症状は回復せずにむしろ悪化することが少なくない.リエゾン治療の必要な慢性痛を呈する症例では,心理社会的側面の洞察と同時に,症例によっては脳機能を評価した上で治療を行う多面的アプローチが重要である.
著者
藤原 茂樹 立原 敬一 川久保 芳文 森 聡史 豊口 泉 横山 武志
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.406-413, 2015-05-15 (Released:2015-08-19)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

圧モニタリングキットはそれぞれ固有の周波数特性(固有振動数および制動係数)を有している.この周波数特性はさまざまな因子によって影響を受ける.採血用のPlanectaTM(JMS,広島)も圧モニタリングキットの周波数特性に大きく影響を与える因子の一つである.また,動脈血圧モニタリングキットの共振現象を抑えるデバイス(制動素子)にROSETM(Argon Medical Devices, TX, USA)がある.本稿ではPlanectaTMならびにROSETMの圧モニタリングキットへの挿入が周波数特性に与える影響について概説する.
著者
山本 聡美 山本 悠介 近藤 裕子 廣瀬 倫也 北島 治 鈴木 孝浩
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.311-314, 2015-05-15 (Released:2015-08-19)
参考文献数
5

全身麻酔下に帝王切開術が予定された脊髄性筋萎縮症患者において,ロクロニウム筋弛緩とスガマデクスによる拮抗効果を評価した.挿管量としてロクロニウム1mg/kg投与後89.5分でポストテタニックカウント(post-tetanic count:PTC)は2に達した.その時点でスガマデクス4mg/kgを投与したところ,75秒で四連反応比は対照値に回復した.本症例ではロクロニウムへの感受性は増大していたが,スガマデクスにより迅速に回復が得られた.