著者
大浦 由香子 田中 基 清水 昌宏 武井 秀樹 照井 克生 小山 薫
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.090-094, 2014 (Released:2014-02-26)
参考文献数
12
被引用文献数
1

27歳,一絨毛膜二羊膜性双胎の初産婦.妊娠31週より切迫早産および妊娠高血圧腎症のため当院に入院中であった.妊娠32週に肺水腫による呼吸不全および低酸素血症が出現し,緊急帝王切開術が予定された.手術台に移動させた直後に心肺停止となり,直ちに心肺蘇生を開始するとともに産科医に帝王切開を開始するよう促した.心停止4分後に手術開始し,同時に心拍再開を確認,1分後に2児とも娩出した.児娩出後の母体呼吸循環状態は安定し,母・2児とも後遺症なく退院した.妊婦の心肺蘇生法とともに「死戦期帝王切開術(perimortem cesarean section:PCS)」の知識の普及およびトレーニングが望まれる.
著者
河野 崇 荒川 真有子 横山 正尚
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.408-411, 2014 (Released:2014-06-17)
参考文献数
9

近年,ロクロニムによるアナフィラキシーに対してスガマデクスの投与が有効であった症例がいくつか報告されている.スガマデクスの投与は,手術室において容易に行うことができることから,試みる価値がある治療選択肢の一つと考えられる.しかし一方で,スガマデクス投与後の筋弛緩作用の必要性を考慮する必要がある.今回われわれは,麻酔導入時にロクロニウムが原因と推測されたアナフィラキシーに対してスガマデクスを投与後に喉頭痙攣を生じた症例を経験した.本症例を通してロクロニウムアナフィラキシーに対するスガマデクス投与の注意点を考察したい.
著者
吉川 博昭 安藤 富男 渡部 真人 北村 晶
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.172-175, 2016-03-15 (Released:2016-04-20)
参考文献数
4

気管分岐異常を有した患者において分離肺換気を必要とする全身麻酔管理症例を経験した.症例は24歳の男性で左後縦隔腫瘍に対する腫瘍切除が予定された.37Fr左用ブロンコキャスTMを用いた盲目的な2回の気管支挿管では適正な位置への留置ができなかった.3回目に気管支鏡で観察した際,気管分岐部の高さで右上葉気管支(気管気管支)を含む3腔が同時に観察された.気管支鏡ガイド下の誘導により,適正位置への留置および分離肺換気が可能となった.本症例では画像での気管分岐異常の術前評価ができていなかった点,および初回から気管支鏡ガイド下の誘導法による気管支挿管を用いなかった点が反省点であった.
著者
土井 克史
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.376-380, 2013 (Released:2013-07-13)
参考文献数
20

硬膜外麻酔を代表とする区域麻酔は,手術侵襲に伴うストレス反応を抑制することにより,さまざまな利点を有すると以前より報告されている.近年でも全身麻酔のみと比べて,呼吸器系合併症,手術創の感染,深部静脈血栓症などの軽減に有効と報告されている.このため手術後の死亡率を減少させる可能性もある.また最近では,区域麻酔が悪性腫瘍の術後の再発や転移に与える影響について注目が集まっている.乳がん手術における傍脊椎ブロックがその再発や転移を減少させるという報告に始まり,大腸・前立腺・腹部がんなどでの検討があるが,いまだ一定の見解を得ていない.
著者
林 行雄
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.110-116, 2007 (Released:2007-03-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

もともとα2アゴニストは鎮静, 鎮痛, 交感神経の抑制などの多彩な薬理作用をもっているが, これらの作用の多くが麻酔管理に有用であることが麻酔領域でのα2アゴニストの臨床応用を促進した. 新たに開発されたDexmedetomidineは強力なα2アゴニストであり, 麻酔領域への臨床応用が図られたが, 諸般の理由でいったん臨床試験は打ち切られたものの, その良質な鎮静作用により, 後日術後鎮静薬として上市された. 今後の臨床応用の拡大と副作用の抑制が大きな課題といえる.
著者
鈴木 利保
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.407-417, 2009-07-15 (Released:2009-08-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

東海大学医学部付属病院リニューアルにおける効率的な手術室運営の実際をハード面から言及した. 手術室を有効に利用するためには, 以下の工夫が必要である. (1)手術室を増やし, 一部の手術室では, 1部屋に2台の手術台を置き, 1人の術者が次々と手術のできる環境を作る, (2)Convertibleな手術室に代表される連続して手術を可能にする手術室の構築, (3)一足制, 手術進捗管理システム等の患者の出し入れをスムーズに行うための工夫, (4)入院医療の外来化および麻酔科医の有効利用, (5)短期入院手術センター (SSSC) を利用した日帰り手術, 短期入院手術化の推進.
著者
川崎 孝一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.438-447, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
57
被引用文献数
2

麻酔・手術に関連した不整脈の発生率は非常に高く,60%以上の患者で手術中になんらかの不整脈を認めるといわれている.手術中の不整脈の原因は多岐にわたり,麻酔薬もその原因となりえる.特に揮発性麻酔薬はこれまでの研究で不整脈との関連性が明らかにされており,ハロタン麻酔時のアドレナリン誘発性不整脈はよく知られている.一般的に麻酔薬が単独で不整脈を誘発することはほとんどないと考えられるが,多くの麻酔薬は直接的あるいは間接的に心臓の刺激伝導系に作用を及ぼすことから,房室伝導を障害する他の因子が存在する場合には催不整脈性が高まることが示唆される.一方,麻酔薬は抗不整脈作用も有しており,術中に発生する不整脈に対しては麻酔薬との相互作用を十分に考慮して対応することが重要である.
著者
瀬尾 憲正
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.498-512, 2008 (Released:2008-06-07)
参考文献数
23

「エホバの証人」 信者の宗教的理由による輸血拒否への医療従事者の対応には, いわゆる 「絶対的無輸血」 と 「相対的無輸血」 の立場がある. これまで 「エホバの証人」 信者の輸血拒否に関する訴訟は散見されるが, いずれの立場をとるべきかについては, 法令による規制はない. 自治医科大学附属病院は2007年8月30日より 「絶対的無輸血」 から 「相対的無輸血」 の立場をとることに変更した. 対応においては, 宗教的理由による輸血拒否を人格権として認めるとともに, 病院全体としての立場を明示し, 十分に説明した後に, 病院の立場を認めるかどうかについて, 宗教的圧迫にも配慮して自由に意思決定ができるようにすることが重要である.
著者
小出 康弘 原田 高志 中村 京太 岡崎 薫 山田 芳嗣
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.1-7, 2005 (Released:2005-03-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1 1

6時間を超える開腹手術において, 細胞外液補充液を無作為に2群に分け, Mg非配合群 (ヴィーン® F) 16例とMg配合群 (フィジオ® 140) 14例について, 血液生化学検査を経時的に計測した. イオン化Mgは, Mg非配合群で経時的に低下したが, Mg配合群ではその低下が有意に抑制された. ClはMg配合群で手術開始6時間後に高値となり, 両群間の変化に有意差が認められた. 出血量, 輸血量, 輸液量, 尿量は両群間に有意差はなく, Mg非配合群ではイオン化Mg低下率は総輸液量と有意な相関が認められた. 2mEq・l -1 のMgを含有した細胞外液補充液の術中使用はイオン化Mgの低下を抑制するために有用である.
著者
石川 義継 鳥越 桂 平賀 一陽 福田 貴介 渋谷 鉱 高地 明
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.381-383, 2012 (Released:2012-07-05)
参考文献数
6

非オピオイドや弱オピオイド鎮痛剤で治療困難な癌性疼痛や慢性疼痛の患者に,フェンタニル貼布剤を用いた鎮痛が行われる.今回,常用中のフェンタニル貼布剤(デュロテップ®MTパッチ)8.4mg/3日を手術直前に剥離後,6時間を経て退薬症状が生じた症例を経験した.術後(剥離6時間後)に多呼吸や頻脈,発汗過多といった退薬症状が出現した.フェンタニル持続静注を2日間行い治療した.低体温による皮膚血流低下,全身状態不良や術中出血量の程度により血清フェンタニル濃度低下をきたした可能性がある.フェンタニル貼布剤常用患者では,剥離後早期に退薬症状が出現する可能性もあるため,周術期管理に注意を要する.
著者
福田 謙一 笠原 正貴 西條 みのり 林田 眞和 一戸 達也 金子 譲
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.696-701, 2005 (Released:2005-11-29)
参考文献数
4
被引用文献数
1

歯科治療行為による知覚神経障害は決して少なくない. 歯科領域の知覚神経障害は, 日常生活で容易に不快感を認識できるため, 患者を長期にわたって苦しめることがあり, 医事紛争に発展するケースもある. ここでは, 東京歯科大学水道橋病院歯科麻酔科・口腔顔面痛みセンターに通院している知覚神経障害患者のうち, 発症が医原性で医事紛争に発展した症例のなかから5症例 (症例1: インプラント埋入, 症例2, 3: 根管充填処置, 症例4, 5: 抜歯処置) を取り上げ, 歯科治療後知覚神経障害による医事紛争の現状と歯科臨床における問題点について報告した. 歯科治療における事前説明や事後対応は, いまだ十分に確立されていないのが現状であった.
著者
宮澤 一治 太田 助十郎 小嶋 由希子 水沼 隆秀 西川 俊昭
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.18, no.9, pp.724-728, 1998 (Released:2008-12-11)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2 4

仰臥位で行われた手術後,一過性に下肢のしびれ感,疼痛,歩行障害が出現し,腓骨神経麻痺の診断で治療を要した3症例を経験した.3症例とも症状は一過性で麻痺を残すことはなかった.今回の腓骨神経麻痺は術中の体位固定による膝部の過伸展が主な原因ではないかと考えられた.膝上部大腿後面にスポンジ製パッドを敷き,膝窩部をやや屈曲させ,また,ベルト状の抑制帯は膝部を避け,ややゆとりをもって大腿部もしくは下腿部に巻くなどの防止策をとって以来,仰臥位手術後の腓骨神経麻痺の発現をみていない.
著者
井上 義崇 川崎 貴士 阿部 謙一 緒方 政則 蒲地 正幸 佐多 竹良
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.196-201, 2001-05-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1 1

術中出血量が4,000ml以上であった成人16症例について,血漿イオン化カルシウム(iCa)濃度および血漿イオン化マグネシウム(iMg)濃度の変動とその補正のあり方を検討した.iCa濃度(mmol・l-1)は術中補正が行われたにもかかわらず,0.71±0.13まで低下し,手術終了時にほぼ正常値に復帰した.iMg濃度(mmol・l±)は0.46±0.06から0.19±0.07まで下がり,手術終了直後は0.27±0.07,術後1日目には0.38±0.06まで回復した.これらの血清電解質濃度の低下には,血液成分の希釈による影響が大きいことが示唆された,大量出血時には循環血液量の補充に用いた製剤の種類と量に応じたCa2+およびMg2+の補充を考える必要があり,電解質維持を考慮した製剤の検討が望まれる.
著者
宮尾 秀樹
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.7, pp.917-924, 2010 (Released:2011-02-07)
参考文献数
14

麻酔中の輸液は血管内輸液,間質への輸液,細胞内への輸液の3本立てで考える.細胞外液製剤はブドウ糖以外の糖を浸透圧調整のため含んでいる製剤が容量効果と利尿効果をもっているので使いやすい.ヒドロキシエチルスターチ(HES)は血管内輸液として適切である.膠質浸透圧は測定膜,内皮細胞臓器特異性,病態を考慮する必要がある.HESには抗炎症作用があり,末梢循環を維持することができる.6% HES70は腎や止血凝固への影響は最も少ない.輸液のモニターとして尿量が臨床的である.圧モニターとしてのCVPより経食道心エコー下の容量負荷を重視した考え方がある.混合静脈血酸素飽和度や乳酸値は輸液を含めた周術期管理の総合的なモニターとして重要である.
著者
木内 淳子 安部 剛志 松村 陽子 野坂 修一 前田 正一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.702-706, 2005 (Released:2005-11-29)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

2003年末までに, 判例時報などの法律雑誌に掲載された麻酔科関連領域の判例について検討した. 全身麻酔および硬膜外麻酔に関しては, 麻酔専門医による麻酔管理も訴訟の対象となっていた. 病院開設者とともに, 麻酔担当医も被告となっている症例が半数を占めた. 救急医療の領域では, 過失と結果の因果関係に関して, 医療側に厳しい判例が平成12年に最高裁判所から出された. この判断の影響でその後の救急医療領域で, 同じような判断が3判例みられた. 説明義務については, 過失がない場合においても, 十分な説明に基づく同意がない場合は下級審判決が覆り, 最高裁で医療側有責とされた. 今後麻酔科医には, 医療水準に合致した医療と十分な説明が求められると考える.
著者
佐藤 俊明
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.213-219, 2005 (Released:2005-04-21)
参考文献数
30

心筋細胞のミトコンドリア内膜に存在するATP感受性K+ (mitoKATP) チャネルやCa2+活性化K+ (mitoKCa) チャネルは, プレコンディショニングの成立に重要な役割を担っている. MitoKATPチャネルの活性化によりK+が細胞質からマトリックスへ流入すると, ミトコンドリア内膜が脱分極し, Ca2+のdriving forceが減少するのでミトコンドリアCa2+過負荷が抑制される. MitoKCaチャネルも同様のメカニズムでミトコンドリアCa2+過負荷を抑制する. ミトコンドリアCa2+過負荷の軽減は膜透過性遷移孔の開口を遅らせるためアポトーシスも抑制するので, 強力な心筋保護作用を発揮すると考えられる.
著者
佐藤 健治 森田 潔
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.185-191, 2013 (Released:2013-05-16)
参考文献数
6

岡山大学病院では1996年に麻酔科の院内急性痛対策をPOPS(Postoperative Pain Service)と命名し,実践的マニュアルを作成した.術後早期の良好な疼痛管理が可能となった.近年注目が集まるERAS(Enhanced Recovery after Surgery)では,離床を促進し経口摂取を妨げない疼痛管理が必要となる.手術室で開始された硬膜外PCAや静脈PCAの漸減や終了,経口鎮痛薬へのステップダウンや嘔気・嘔吐対策などが課題となる.岡山大学病院では手術が決まった外来時点より,多職種連携の医療チームが手術患者にかかわり,快適・安全・安心な手術と周術期環境を効率的に提供する周術期管理センター(ペリオ)を2008年に開設した.われわれはPERIOの取り組みの中でPOPSの課題解決を模索している.
著者
恒吉 勇男 永田 悦朗 當房 和己 竹原 哲彦 上村 裕一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.119-123, 2004 (Released:2005-03-31)
参考文献数
12

敗血症を合併し長期間臥床を余儀なくされた患者で多発性に骨化性筋炎を発症した症例を経験した. 患者は61歳男性. 前交通動脈の動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対し緊急開頭クリッピング術を施行した. 術後に肺炎から敗血症を合併し, 約2ヵ月間意識障害を呈した. 初期より強い痙縮を伴った下腿関節の拘縮が出現したため, 関節可動域増強訓練を施行した. また, 排痰を目的として, 患者を定時的に腹臥位とした. しかし, 第40病日ごろから下腿関節部および肩・肘関節部の可動域が著明に低下し, 単純X線所見で多発性に異常骨化像が認められた. 長期臥床を要する患者では理学療法が必要とされるが, 骨化性筋炎の発生には十分注意すべきである.