著者
松本 克彦
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.196-203, 1968
被引用文献数
1

前報に続き, コナダニ類のヒポプスの成因を検討した.すでに繁殖しているコウノホシカダニLardoglyphus konoiの集団を種々の湿度環境におき, ダニ数および年齢構造の変動を観察した.コウノホシカダニを煮干し6 : 乾燥酵母剤4の割合で混じた飼料で, 温度25℃, 湿度76% R. H. (NaCl飽和溶液にて調整)において, あらかじめ4週間飼育した.繁殖ダニ数は飼料0.5g当り平均256匹であつた.この飼料を10gずつ小コツプに取り, これを, K_2SO_4 (98% R. H.), KNO_3 (94% R. H.), KCl (87% R. H.), Na_2SO_4 (82% R. H.), NaCl (76% R. H.), NaNO_2 (66% R. H.), NaHSO_4・H_2O (52% R. H.)の各飽和溶液を入れたデシケーターにそれぞれ置いた.温度は25℃と一定にした.1)飼料内ダニ数への各湿度の影響は, 実験開始2日目から現われた.低湿度66%, 52% R. H.ではダニ数は減少した.最高ダニ数を示した湿度は82% R. H.であり, 7日目で912匹となつた.87% R. H.以上の高湿度では最高ダニ数に達する時期が, 他の湿度に比べて遅くなつたが, 増殖率は相当良好であつた.2)飼料内から外部へ移動する這い出し現象は低湿度においては実験開始時から盛んに行なわれた.94% R. H.以上の湿度における這い出し現象は, 他の湿度に比べ1日遅れて2日目から始まつた.各湿度における這い出し現象の最盛期は, 飼料内のダニ数が減少期に入つてからであつた.飼料内のダニ数に対する這い出しダニ数の比, すなわち這い出し比は最適繁殖湿度82% R. H.および94%, 98% R. H.では小さく, 低湿度では大きな値を示した.這い出し数の最高は87% R. H.の湿度で示された.3)湿度76% R. H.以上の飼料内ダニの年齢構造に対する湿度差の影響は14日以内には見られず, 17日以後になると, 高湿度では成虫の比率が高くなつた. 66% R. H.以下の低湿度では2日目以後から成虫が少なく, 前若虫の占める率が大きくなつた.ヒポプスは各湿度ともほぼ10日前後に現われた.ヒポプスの出現比率は最適繁殖湿度82% R. H.をはさんだ87, 76% R. H.に極大値を示した.4)這い出しダニの年齢構成は各湿度とも初期ではほとんど成虫で占められていたが, 這い出しダニ数の増加とともに, 若い時期のダニ数が多くなつた.ヒポプスの出現時期は湿度98% R. H.ではやや遅れるが, その他の湿度ではほぼ同じ8日前後であつた.ヒポプス出現率が10%以上の大きい値を示す時期は湿度が高くなるにつれて遅くなつた.出現率の大きさは飼料内のヒポプスと同じく, 76%および87% R. H.の所で極大を示した.
著者
宮城 一郎 當間 孝子 長谷川 英男 只野 昌之 福永 利彦
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.259-262, 1992
被引用文献数
2 5

1990年5月, 8月, 石垣島での日本脳炎伝搬蚊の調査時に, 水田からCulex vishnuiの幼虫と蛹が多数発見された。本種はCx. pseudovishnui Collessと形態的特徴が酷似するためしばしば混同されてきた。Cx. vishnui幼虫の形態的特徴は胸部背面に微細な突起(spicules)を有し, 腹部6-III∿VI毛は2分岐, 1-VI, 1-VI毛は3∿4分岐, 1-V毛は4∿5分岐, 側鱗(combscales)は通常18∿25個であった。本種はこれまで明確な記録はなく, 今回が琉球列島で初の生息記録となる。
著者
黒佐 和義
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.245-276, 1958
被引用文献数
1 8

1)線状皮膚炎を惹起する有毒甲虫, Paederus fuscipes Curtisアオバアリガタハネカクシの生活史・習性について野外観察並びに実験的調査を行い, また各期の外部形態を記載した.2)成虫は体長7mm内外で一見蟻のような形状を有する.蛹は体長4.5mm内外の裸蛹で, 全体乳白色乃至橙黄色を呈し, 前胸背の前縁部と後縁部及び第1, 3〜7腹節の側端に各1対の非常に長い剛毛状突起がある.第2齢(終齢)幼虫は体長4〜6mmで, 細長く, 白色乃至橙黄色を呈し, 第9腹節に1対の長い尾突起を具える.第1齢幼虫は体長2.2〜2.4mm.卵は殆ど球形で, 産下当初は淡黄白色で長径約1.1〜1.2mmであるが, 発育に伴つて急速に増大し, 色彩も黄褐色に変る.3)本種は本邦では北海道から九州迄全土に亘つて広く分布するが, 概して暖地に多産し, 水田・畑・池沼の周辺・川岸などに棲息する.成虫は地表及び雑草上で生活する.東京都の成増では成虫は4月下旬乃至5月中旬頃から10月下旬に亘つて灯火に飛来し, 6・7月頃にピークを形成するのが認められた.成虫の灯火飛来活動はいわゆる前半夜型に属し, 暗化後2時間半以内の飛来個体が1夜の総飛来数の過半に達した.4)交尾の際, 雄は雌の背上に乗り, 大腮で雌の前胸と中胸の間の縊れた部分をくわえる.卵は地表の土壌間隙に1個ずつ産下される.1頭の雌の総産卵数は18〜100個(平均約52.3個)であつた.越冬した雌は4月下旬乃至5月中旬から通常7月中・下旬迄産卵を行い, 6月上旬に羽化した成虫は7月から9月に亘つて産卵を行つた.5)卵期間は3〜19日で, 孵化率は96.2%であつた.幼虫期は僅か2齢からなる.第1齢及び第2齢の期間はそれぞれ約4〜22日及び7〜36日であつた.老熟した幼虫は浅い土中に蛹室を造り, 約2〜9日後蛹化する.蛹の期間は約3〜12日であつた.6)成虫は雑食性であるが, 特に食肉性の傾向が強く, 野外では種々の昆虫, ダニ, 土壌線虫などを捕食し, また植物のやや腐敗した部分などを食するのが見られた.幼虫の食性も成虫と同様であつて, 捕食性の傾向が強く, 実験室内では牛肉或いはキュウリの一片の何れを与えても飼育することが出来た.7)周年生活環は東京附近では不規則で1年3世代のものと2世代或いは1世代のものがある.越冬は常に成虫態で行われる.越冬の際多数の個体が集団を作ることがある.8)有毒物質は卵・幼虫・蛹・成虫の何れからも証明された.成虫では有毒物質は体液中に含まれており, 虫体が破壊されて体液が外へ洩れ出ない限り皮膚炎を起すことはないと考えられる.本邦に産するPaederus属のハネカクシ8種のうち, fuscipes, tamulus, poweri, parallelusの4種は有毒物質を含むことが判明したが, 線状皮膚炎の原因として実際に重要なのはアオバアリガタハネカクシ唯一種である.本邦に於いて筆者により明かにされた灯火飛来性を有する68種のハネカクシの内には皮膚塗擦試験で軽微な皮膚炎を惹起するものがあるが, アオバアリガタハネカクシ以外に線状皮膚炎の症状を呈するものはない.
著者
金子 清俊
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.57-58, 1972

中田五一氏がイランに滞在中採集したネズミジラミを預かり, 同定したところ, Polyplax asiaticaとPolyplax paradoxaの2種であった。いずれもイランからは初記録であり, 後種の雄は生殖器の特徴が今日まで知られていなかったので, 記載をし図を付した。
著者
佐々木 均 西島 浩 小野 泱
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.87-90, 1988
被引用文献数
3

吸血源動物を知る目的で, 北海道に分布するSimulium属の主要種である, アシマダラブユとアカクラアシマダラブユの2種のblood-mealをELISAを用いて, 免疫学的に同定した。アシマダラブユでは抗ヒト, 抗ウシ, 抗ウマ, 抗ヒツジ, 抗エゾシカ血清に, アカクラアシマダラブユでは抗ヒト, 抗ウシ, 抗ウマ血清にそれぞれ陽性反応を示したが, 抗鳥類血清に陽性反応を示した個体はなかった。この2種のブユは趺節の爪が歯をもたないS型であることからほ乳類吸血性とみられていたが, 本報に示された結果からこのことが免疫学的にも確認された。
著者
鈴木 猛 水谷 澄
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.273-286, 1992
被引用文献数
1 2

The Guatemala-Japan Cooperative Project on Onchocerciasis Research and Control sponsored by Japan International Cooperation Agency (JICA) was run for 8 years (1975-1983), targeted mainly at the establishment of effective vector control measures of Guatemalan onchocerciasis by applying an insecticide to the streams inhabited by the principal vector, Simulium ochraceum. Following basic studies on taxonomy, biology and transmission of the suspected vector blackflies, extensive and intensive studies were carried out on insecticides, i.e., trough tests to determine the comparative effectiveness of various chemicals, laboratory tests to determine the extent of adsorption of insecticides to soil, and field tests to determine insecticidal carry in various types of streams and the behaviour of insecticides after application in streams. It gradually became clear that the special feature of this vector control lies in infestation of S. ochraceum larvae in streamlets, which accelerates adsorption of insecticides to streambeds, hence accounting for extremely short carry. Together with the information on distribution of the target streams based on geology, geomorphology and geography, the control strategy was established : applying 24g of 5% temephos wdp fortnightly to all the streams with the discharge range of 0.1-50 liter/sec, irrespective of the discharge rate. After the Phase 3 operation commenced in July 1982,the density of S. ochraceum on human bait was suppressed to an extremely low level far below 1.9 flies/man/hr, the critical level theoretically established. The epidemiological evaluation has been made, but final conclusions are not yet drawn.
著者
宮本 詢子 大内 忠行
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.251-259, 1976
被引用文献数
10 17

Surveys of house dust mites were carried out during a period from December 1974 to January 1976 in two households in the suburbs of Tokyo, one in a newly buit concrete apartment house, and another in a nine year old wooden Japanese style house. Both had the rice straw mats (tatami) as the floor material. The mites were isolated from dust collected with a vacuum sweeper at monthly intervals. The dust samples were sieved first with a 9 mesh and a 200 mesh sieve, and fine dust on the 200 mesh was collected and weighed; 0.5g of the fine dust was transferred to a 100ml beaker, sstirred in 50ml of Darling's solution (mixture of equal amount of glycerine and saturated sodium chloride solution in water) for 10min, and was centrifuged for 5 min at 300 r.p.m. The supernatant containing mites were filtered with a Buchner filter, and the mites on the filter papers were collected with a needle under a stereomicroscope. The recovery rate of mites from house dust with this centrifugation and floatation method was estimated to be about 80% of the total mites contained in the original materials. The house dust collected from the new straw mat surface in December 1974 before the apartment house was inhabited contained large numbers of Tyrophagus putrescentiae and Glycyphagus destructor and also small numbers of Tydeus sp. and Tarsonemts sp. These mite species are considered to be breeding in the straw materials. On the other hand, mites of the family Pyroglyphidae, especially Dermatophagoides farinae and D. pteronyssinus began to appear from about one month after the family moved in the house, reached a peak in July at the end of the rainy season and in the beginning of summer. The increase in the predatory mites of the family Cheyletidae and of Mesostigmata occurred after this in September or October. The total number of mites isolated from 14 dust samples collected at monthly intervals from the old Japanese style house was 17,142 and more than twice larger than that of the new apartment house. The most abundant was Dermatophagoides pteronyssinus (48.0%), followed by D. farinae (33.8%) : The seasonal density of the seven groups of mites was shown in a table; the peak density of Dermatophagoides was seen also in July.
著者
武衛 和雄 福原 佳春
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.183-186, 1961

1.大阪府箕面市の農村部落において, 1960年9月21日より10月21日に至る間, Nankorの油剤, 乳剤, 粉剤を用いてハエの成虫・幼虫駆除のフィルド実験を行なつた.2.家屋内に動力煙霧機を用いて0.5%油剤を33m_2あたり200ccを, 牛小舎に10%乳剤の20倍液を1m^2あたり100cc散布することにより, 屋内および牛小舎のハエの棲息密度は著るしく減少し, その効果はおおむね1週間持続した.3.牛小舎だけを対象とした駆除作業を行なうことにより, 屋内のハエの棲息密度は著るしく減少し, そのばあいの効果もおおむね1週間持続した.4.便池におけるニクバエ科の幼虫に対する殺虫効果は, 10%乳剤の400倍液を1m^2あたり2l散布することにより1日後には完全に死滅し, 再発生は散布後11日目にみとめられた.
著者
金子 清俊 加納 六郎
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.169-172, 1966
被引用文献数
2

筆者らは1965年の春と秋に, 台湾においてかなり多数の恙虫を採集した.宿主は鼠類, タイワンカグラコウモリおよびスインホーキノボリトカゲであつた.今回はそのうち鼠以外, すなわちコウモリとトカゲに寄生していた恙虫について報告する.コウモリ寄生の恙虫は, イワサキツツガムシで, トカゲ寄生のものは, トカゲツツガムシであつた.両種共に台湾では新記録である.イワサキツツガムシは原記載以後はじめての記録であり, 原記載と多少異なる点もあつたので, 国立科学博物館の上野俊一博士の御好意により, 石垣島産のカグラコウモリから採れた沢山の恙虫標本を見せていただき, これらを比較検討した.
著者
朝比奈 正二郎
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.35-41, 1988
被引用文献数
1

Two species of the cockroaches of the genus Trichoblatta were described and illustrated. T. pygmaea (Karny) was now revealed to range from the southern extreme of Kyushu to Taiwan through the islands of the Ryukyus. This species is found under barks and gathering on the fungi. T. nigra (Shiraki) has been known as a Taiwanese insect, but it was discovered from Ishigaki Island (♀) in 1982 and from Iriomote Island (♂) in 1986,both islands belonging to the Yayeyama Group close to Taiwan.
著者
池庄司 敏明 Bakotee Barnard
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.25-31, 1997
被引用文献数
2 7

ホニアラ市におけるマラリア駆除計画の一環として, 1993年10月から1996年2月までに11,373枚のペルメトリン処理蚊帳(通常蚊帳4,722枚, Olyset^[○!R]6,651枚)を配布した。配布蚊帳の現状把握とアフターケアーは, 駆除計画の持続性を維持するために大切である。そこで配布蚊帳のペルメトリン定量分析と効力試験をおこない, 処理薬剤の動態を調べ適切な使用法を推奨した。ガスクロで206枚の蚊帳を分析したところ, 残留量は258.1mg/m^2で, 残留量対数は使用月数に一次比例した。オリセットは洗剤使用の洗濯で76.3%の表面薬量を流出し, 太陽光暴露で81.5%が再露出した。無洗剤洗濯が推奨される所以である。蚊帳表面ペルメトリンの昆虫学的有効量閾値は60mg/m^2,疫学的有効量閾値は100mg/m^2で, 蚊は40分間にそれぞれに5.2と4.7回, 9.0と8.2分間係留した。一方, 無処理蚊帳には16回, 28分間係留した。野外では忌避性接触刺激性薬剤から飛逃するので, 昆虫学的に有効な蚊帳でも疫学的には有効ではない。現調査では配布蚊帳のわずか46.6%が昆虫学的に, 37%が疫学的に有効で, 薬剤再処理が切望された。
著者
渡辺 洋介
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衞生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, 1983-06-15
被引用文献数
1
著者
米本 申一
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衞生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, 1983-06-15