- 著者
-
澤内 聡
- 出版者
- 東京慈恵会医科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
頭部外傷のなかで,最も重篤な病態とされるのが,外傷性急性硬膜下血腫である.この原因は,血腫に合併する治療困難な脳腫脹にあるとされるが,その発症機序は未だに解明されていない.本研究は,外傷性急性硬膜下血腫動物実験モデルを用い,血清S-100蛋白,Neuron Specific Enolase(NSE)を測定することにより,急性硬膜下血腫に合併する脳腫脹の発症機序,病態を解明することを目的とする.過去の急性硬膜下血腫動物実験モデルは,硬膜下に血液を注入するのみで,脳腫脹,脳浮腫を呈することはなかった.しかし,硬膜下血腫にimpact acceleration head injury deviceを用いてびまん性脳損傷を加え,さらに低酸素(2次性損傷)を負荷することで,より臨床の状態に近い脳腫脹を呈する外傷モデルを開発した.Sprague-Dawley ratsを用い,気管内挿管下後,全身麻酔下に外傷を加えた.実験群は1)硬膜下血腫のみ,2)硬膜下血腫+びまん性脳損傷,3)硬膜下血腫+びまん性脳損傷+低酸素の3グループに分類した.外傷直後,外傷1時間後,6時間後,24時間後,48時間後に採取した血清中のS-100蛋白,NSEをlight immunoassay kitを用いて測定した.各実験群の血清S-100蛋白,NSEの測定値および推移より,急性硬膜下血腫に伴う脳腫脹は,血腫のみではなく,びまん性脳損傷かつ低酸素が重要な要因である可能性が示唆された.星状細胞で合成されるS-100蛋白,神経細胞で合成されるNSEの血液中の濃度を経時的に測定することで,その細胞障害のメカニズムの解明の一助になると考えられる.さらに,急性硬膜下血腫に伴う脳腫脹の主因は,従来,血管性浮腫と考えられていたが,むしろ細胞性浮腫が主体であると考えられた.