著者
一戸 猛志
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

【目的】高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)のヒトでの感染がアジアを中心に増加し高い致死率を示しており、それらに対応できる交叉防御能のあるワクチンの開発が急務である。我々は2005/2006シーズンのインフルエンザ三価HAワクチンの経鼻接種によるH5N1ウイルスに対する交叉防御を調べる事を目的とした。【材料と方法】本邦で認可されている三価インフルエンザHAワクチンをBALB/cマウスに経鼻接種及び皮下接種した。アジュバントとして合成二本鎖RNAであるpoly(I):poly(C_<12>U)(Ampligen[○!R])を用いた。ワクチン1μgをアジュバントと共にマウスへ3週間隔で3度経鼻又は皮下接種した。接種2週間後の血清中、鼻腔洗浄液中のウイルス特異的な抗体価をELISAで測定した。さらにワクチン接種2週間後に強毒H5N1株を1,000PFU経鼻感染させ(2μl/片鼻)、感染3日後の鼻腔洗浄液中のウイルス価をプラークアッセイ法にて測定し、マウスの生存率を14日間観察した。【結果と考察】皮下接種群ではワクチン特異的な血液中のIgG抗体応答が、経鼻ワクチン接種群ではワクチン特異的な血清中のIgG、鼻腔洗浄液中のIgA抗体応答が誘導された。高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)による攻撃感染に対し、皮下接種群では防御効果が認められなかったが、経鼻接種群においてウイルス価の減少と生存率の上昇が認められた。アジュバント併用経鼻ワクチン群では、ワクチン株とは異なるH5N1ウイルス感染に対しても感染防御効果が見られた。このことからシーズナルインフルエンザワクチンの経鼻接種によりワクチン株と抗原性が異なる株が流行を起こしても、ある程度の感染防御効果が期待できることが示された。
著者
大澤 弘典 H. OHSAWA
出版者
東京理科大学
雑誌
理学専攻科雑誌 (ISSN:02864487)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.6-10, 1996-12-14

生徒に現実場面を基にした問題解決の体験をさせるために、陸上競技のリレー場面を取り上げた。生徒自身でデータを抽出し、そのデータから回帰線を予想・判断させた。その過程でグラフ電卓を問題解決の道具として利用した。また、総合的に生徒の学習を捉え、数学の授業に限らず他教科(体育)との合科として指導展開した。その結果、(1)グラフ電卓を利用することにより、扱いの困難であった現実場面問題の教材化が、例えば関数的な内容において、中学生(3年)に対しても可能である。(2)生徒の情意面では、単に数学の有用性の感得・体感に留まらず、原題材への再検討や新たな問題抽出の意識の高まりが少なからず発生する。(3)合科的授業展開により、問題解決の有機的な効率化が図れる等が明かになった。
著者
鈴木 窓香
出版者
東京理科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究では,マスク着用時の室内温度と二酸化炭素濃度の身体への影響を,実験により自律神経系の指標と血液中の酸素飽和度を測定し明らかにする. 評価には,接触型の心電図計を用い,心拍数と心拍変動から自律神経の状態を解析する.また,パルスオキシメーターを用いて血液中の酸素量の指標である酸素飽和度(SpO2)を測定し,マスク着用による酸素供給量への影響を評価する.これにより,室内の二酸化炭素濃度と温度の適切な制御によるストレスや疲労の軽減を目指す.検討の際,質問票による聞き取り調査により,個々の感じ方を把握する.また,室内温度や二酸化炭素濃度に対する感受性の個人差,年齢差,性別の違いを評価する.
著者
中井 泉
出版者
東京理科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

福島第一原発より一次放出されたと考えられる放射性粒子に対して,マイクロビーム放射光X線分析を中心とした物理・化学性状の分析を非破壊で実施し,複数のグループ(Group A,B,C)への分類を可能とした。これらは異なる発生源に異なるタイミングで,異なるプロセスにより生成・放出されたものと考えられ,事故事象を解明する上で重要な知見である。Group Aは,事故直後につくばで捕集されたエアロゾルと同様の性状を持つ粒子である。大部分は直径数μmの球形であり,1粒子あたり数Bqの放射能を持つ。2011年3月14日から15日にかけての2号機格納容器破損に伴う漏出が主要なソースであると考えられる。FeとZnを多く含むケイ酸塩ガラスが主成分であり,Uを始め,Rb,Mo,Snなど様々な重元素を含む。Group Bは原発北西の土壌から特徴的に発見されている粒子で,Group Aよりも大型で(10~100 μmオーダー),多くは不定形である。Group Aと同じくケイ酸塩ガラスが主成分だが,還元雰囲気下で揮発しやすいSrやBaを多く含む。また粒子内にμmオーダーでFeやSnなどの元素が濃集している。現在までに放出時間を特定できる試料は発見されていないものの,3月12日に発生した1号機の水素爆発に伴い生成・飛散したものと考えられる。Group Cの粒子は,現時点では3月30日につくばで捕集されたエアロゾルから発見されたもののみである。大きさはGroup Aと同程度であるが,不定形である。最大の特徴はClまたはSを特徴的に含むことであり,Siは少なく,また元素分布も不均一である。一部の元素については塩化物または硫酸塩として存在していることが明らかとなり,水につけることでCsを含む多くの元素が溶出したことから,上記の2グループとは異なる水溶性の放射性物質を含有しているものと考えられる。
著者
松野 健治
出版者
東京理科大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

外部形態が左右相称な動物においても、その内臓器官が左右非対称性を示す場合がある。脊椎動物の左右軸の成立機構に関しては、すでに多くの知見が得られている。しかし、旧口動物の左右非対称性形成機構については、ほとんど理解されていない。本研究では、遺伝学的解析手段が駆使できるショウジョウバエの消化管の左右非対称性に着目し、左右性に関与する遺伝子を網羅的に同定することを目的としている。平成16年度までの研究によって、およそ80%の頻度で、中腸と後腸が同調した逆位を示すMyo31DF^<souther>突然変異を同定している。Myo31DF^<souther>の責任遺伝子は、非定型ミオシンIをコードするMyo31DFであった。Myo31DFホモ接合体では、成虫の内臓においても、左右非対称性の逆転が観察されることから、Myo31DFは、成虫の左右非対称性の形成にも必要であることが示唆された。正常な左右非対称形成には、Myo31DFの後腸上皮細胞での発現が必要であり、Myo31DFは、後腸上皮細胞のアクチン皮層に局在した。また、後腸上皮細胞のアクチン細胞骨格の正確な形成を阻害すると、後腸と中腸が逆位を示すことから、Myo31DFは、後腸上皮細胞で、アクチン細胞骨格依存的に機能していると考えられた。ショウジョウバエ・ゲノムプロジェクトにより、ショウジョウバエには、3つのMyosinIが存在することが知られている。その中で、Myo31DFと相同性の高いMyo61Fは、Myo31DFと拮抗的に消化管の左右性を制御していることが示唆された。後腸の収束的伸長における上皮細胞の移動が、後腸の左右非対称性形成に関与していることが示唆されたことから、これら2つのミオシンが、収束的伸長の際の細胞再編成に、左右非対称な偏りを与えているのもと考えられた。
著者
小沢 博 矢崎 弥 竹田 竜一 植原 吉朗 アレックベネット 竹田 隆一 本多 壮太郎 BENNETT Alexander
出版者
東京理科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

質問紙調査、インタビュー、ビデオ等から国際化における剣道試合審判の問題点に関するデータを収集し、運動学(動作形態分析)的・文化論的視点より分析・整理した。国際化による文化変容の問題以上に、剣道試合規則の有効打突や反則行為の判定基準の不明確さ、海外への伝達の不正確さ、そして海外を含めた審判員育成の不十分さが問題の根源として明らかになった
著者
大嶋 直浩
出版者
東京理科大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

オウゴンは強力な抗炎症作用を示すことから、様々な漢方処方に配合されており、主に臨床現場で重宝されている。一方で、オウゴン含有漢方処方は間質性肺炎を引き起こしやすく稀に重篤になるため「予防」が重要である。しかし、その方法は確立されていない。最近私はオウゴン含有漢方処方の一つである黄連解毒湯の研究を行い、当該処方を調製する過程で間質性肺炎の原因物質とされているフラボノイドの抽出効率が著しく変化することを見出した。このことは生薬の配合により、フラボノイドの量を調節できることを示唆しており、より最適な生薬を組み合わせることで間質性肺炎の発症を予防できるのではないかと考えている。この仮説を立証するため、本研究ではオウゴンに様々な生薬を配合し、有効性と安全性を勘案したフラボノイドの量を明らかにすると共に配合すべき生薬の最適化を行う。昨年度はオウゴンに含まれるフラボノイドの一つであり、間質性肺炎の関連が最も強く疑われているバイカレインに焦点を当て、バイカレインと相互作用を示す生薬の探索を行った。今年度では、バイカレインの配糖体であり、オウゴンの主成分であるバイカリンに焦点を当てて、任意の生薬との組み合わせによる抽出量の増減を検討した。その結果、ベルベリンとの沈殿形成が考えられるオウレンとの組み合わせでは減少したが、オウバクとの組み合わせでは大きな変化を示さなかった。一方、リョウキョウとの組み合わせでは、バイカリンの抽出量は増加した。エキス自体の抽出効率に大きな変化を示さなかったことから、リョウキョウ由来の成分がバイカリンの抽出量を増加させる作用があることが示唆された。
著者
古谷 圭一 田中 勇武 竹本 和夫 坂本 和彦 江見 準 瀧島 任
出版者
東京理科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

本研究の主眼は、1.吸入粒子の呼吸器内沈着挙動の理論的実験的研究、2.呼吸器内に取り込まれた吸入粒子の種類、部位、沈着量、溶解量の評価、3.吸入粒子のフェイトアナリシスと生体影響評価である。第1のテーマに関して、人体呼吸器を16部に区別、これへの吸入エアロゾル粒子吸着とクリアランスを計算できる簡易式を開発し、その有効性を確認した、(高橋幹)、肺胞領域での吸入空気と肺内残存粒子の混合沈着機構をシミュレートできる不均一伸縮場ガラスシェル肺胞モデルを作成し、その影響が0.1μm付近の粒子に大きいことを明かにした。(江見)、第2のテーマに関して、化学形態の異なるNi化合物粒子吸入膜露実験を行ない、クリアランス期をおいて各臓器でのNi滞留量を比較した。(田中)、吸入エアロゾルスペーサーの効果をエアロゾル粒子数、粒径分布を測定し、4μm以下の小粒子を吸入させるためには大スペーサーが効果的であると結論した。(瀧島)病理解剖例を用い、人肺組織、肺門リンパ腺中の金属元素分析を行い、呼吸器病変、生活歴との相関を調査した。(竹本)気道鋳型モデル、微細気管内挿管法、吸入実験、培養肺マクロファージ試験管内実験など新手法を用い、NiO,石炭フライアッシュ,放射性BaSO_4,放射性Fe(OH)_3等微粒子の沈着量,毒性,溶解性,除去作用を明かにした。(高橋テ)、第3のテーマに関して、硫化ニッケル石炭フライアッシュの各種培養液への溶解挙動を明らかにした。(古谷)、フラッシュ脱離・質量分析法を開発し、ラット肺中数ngのPHAの定量に成功した。(飯田)レーザー励起蛍光・ミセル動電クロマト法を開発し、fgのPHA定量を可能とした。(今坂)モデル肺液へのPHA溶解度を測定する装置を開発し、生体影響評価に役立つ結果を得た。(坂本)本研究は、10名の相互の協力により、共通試料の提供、専門知識、設備の利用により、きわめて新しい成果を得ることが出来た。