著者
和久田 未来 臼井 晴信 西田 裕介
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 疲労感は、発熱や疼痛などと共に身体の異常を認知する重要なアラームの1つであり、理学療法士は個々の疲労を客観的に評価し、疲労の程度に応じて理学療法を変更する必要がある。しかし現在、疲労を客観的に評価する方法としてはfMRIを用いたり、疲労の結果生じるパフォーマンスの低下を評価したりするものが一般的であり、これらの評価方法では、理学療法士が臨床場面で簡便に個々の疲労を評価することは困難である。慢性疲労は自律神経機能障害と関連しているという報告から、疲労感を自律神経活動で評価することができると考えられる。そこで本検討では、一症例の疲労感と自律神経活動の経時的な変化から、疲労感と自律神経活動との関係性について症例検討を行った。【方法】 〔患者情報〕 本症例は70代女性(身長152.5㎝、体重54㎏)で、H24年3月27日に転倒して左大腿骨頚部骨折と診断され、人工骨頭置換術を施行している。本症例は疲労の訴えが強く、疲労感が強い日は理学療法介入の阻害因子となった。〔測定方法〕 測定期間はH24年5月20日から29日までの9日間で、疲労感と自律神経活動の経時的変化を測定した。疲労感の指標にはVisual analog scale(以下VAS)を使用した。自律神経活動は、心拍計(POLAR RS800CX Polar社製)を使用して背臥位でのRR間隔を5分間測定し、心拍変動解析から副交感神経活動の指標であるRMSSDとHF、交感神経活動の指標であるLF/HFを得た。統計学的分析は、疲労感のVASと自律神経活動との関係性はPearsonの積率相関係数を用いて検討した。さらに、疲労感のVASを従属変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い、自律神経活動が疲労感へ与える影響を検討した。有意水準は危険率5%未満とした。本検討はヘルシンキ宣言に従い、症例に対して目的を説明して同意を得て実施した。【結果】 疲労感のVASと副交感神経活動(RMSSD、HF)の経時的変化では、鏡像現象が観察でき、疲労感のVASと副交感神経活動との間には有意な負の相関関係が認められた(RMSSD:r=-0.71 p<0.05、HF:r=-0.74 p<0.05)。交感神経活動(LF/HF)においては有意な正の相関関係が認められた(r=0.68 p<0.05)。分散分析表の結果は有意で、独立変数のうちHFのみが採択され、寄与率は54%であった(偏回帰係数:0.74、95%信頼区間:[7.48-10.29])。【考察】 疲労感は主観的なものであるため、不定愁訴として捉えられがちであったが、本検討より主観的な疲労感の強さは副交感神経活動の退縮によって生じていることが示唆された。慢性疲労の原因は、自律神経の調整に関与する前帯状回でのアセチルカルニチンの代謝異常であると報告されている。アセチルカルニチンはアセチルコリン産生を促進する物質であることから、副交感神経活動と疲労感に強い因果関係が生じたと考えられる。【まとめ】 本検討より、副交感神経活動の指標の中でもHFの変動を経時的に評価することで、個人間の疲労感を客観的に評価できる可能性が示唆された。理学療法士が疲労感を評価して、疲労の程度に応じた運動介入やプログラムの変更により、慢性疲労患者のパフォーマンスの向上に寄与できると考えられる。
著者
長島 正明 中村 重敏 山内 克哉 入澤 寛 安田 千里 美津島 隆
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第24回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.P014, 2008 (Released:2008-12-09)

【はじめに】 近年,肺の葉切除や部分切除後の肺機能や運動能力についての報告は散見するようになったが,片肺全切除患者の術前から術後早期における肺機能や運動能力の回復過程の報告はない.今回,術前から術後早期における片肺全切除一症例の肺機能と運動能力を測定し,葉切除例と比較したので報告する. 【方法】 対象1:58歳男性(168cm,57kg,術前%肺活量94%,1秒率73%)左上葉肺癌(扁平上皮癌)Stage3Bで化学療法後開胸法にて左片肺全切除となった.対象2:59歳男性(174cm,62kg,術前%肺活量92%,1秒率67%)左上葉肺癌(扁平上皮癌)Stage3Aで化学療法後Stage2Bとなり胸腔鏡手術にて左上葉切除となった.2例は術前心疾患はなかった.術前,術後1週,2週,3週,4週においてスパイロメータを用いて肺機能を測定し,同時に,呼気ガス分析装置を用いて運動負荷試験を実施し,最大酸素摂取量を測定した.運動負荷は自転車エルゴメータを使い,20分の安静後,3分間の30Wウォーミングアップ,その後1分毎に10W増加させall outまで実施した.術前,2例とも1週間の呼吸訓練を実施された. 【結果】 2例とも術後合併症はなかった.術後訓練は早期離床後,自転車エルゴメータにて一日20分以上の持久力訓練と呼吸指導を実施した.対象1は術後4週,対象2は術後3週で退院した. 肺機能:%肺活量は術前と比較し,対象1は術後1週で34%,4週で46%,対象2は術後1週で54%,4週で72%まで改善した.1秒率は術前と比較し,対象1は術後1週で93%,4週で86%,対象2は術後1週で88%,4週で93%であった. 運動能力:最大酸素摂取量(ml/kg)は,対象1は術前20.0,術後1週で8.9,4週で14.2,対象2は術前18.9,術後1週で15.6,4週で19.6へ改善した. 【考察】 肺切除後の運動能力の低下は,肺切除に伴う肺の容積,血管床の縮小による肺機能の低下が原因と考えられる.したがって,片肺全切除例はその切除域が肺葉切除に比べ大きいため,より肺機能が低下したと考えられた.加えて,片肺全切除例は開胸術であり手術侵襲が大きいことも影響しているかもしれない.片肺全切除例は,術前に比べ最大酸素摂取量は術後4週において70%程度であった.一方,上葉切除例では術前を上回った. 【結論】 最大酸素摂取量は,術後4週で葉切除例は術前レベルに改善したが,片肺全切除例は70%程度の改善であった.今後,症例の蓄積が必要である.
著者
宮田 伸吾 寺田 茂 松井 伸公
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第24回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O006, 2008 (Released:2008-12-09)

【目的】 下肢周径囲測定の目的には筋肥大や筋萎縮の評価、浮腫の評価などがある。特に、筋肥大による周径囲の変動幅は短期間では小さく、周径囲測定の高い再現性が必要不可欠である。しかし、予備的研究では同一部位の測定を指示した際にも検者によって3cm程度の誤差が発生してしまう場合があることが判明した。誤差を生む要因としては、測定部位の決定能力の違い、測定値を読み取るときの巻尺の締める強度の違い、下肢の長軸に対する巻尺を巻きつける角度の違い、被検者と検者の測定肢位の違いなどが考えられ、この中で特に大きく影響を及ぼすと考えられたのが、測定部位の決定能力である。本研究の目的は検者にあらかじめ測定部位の決定方法に関して個別指導し、方法を統一した条件下での下肢周径囲測定の個人内再現性と個人間再現性を検討することである。 【方法】 被験者は7名(男性3名、女性4名)で、平均年齢26.0±5.0歳、平均身長167.0±9.1cm、平均体重58.5±10.1kgであった。被験者には本研究の目的と方法について説明し、参加の同意を得た。検者は当院リハビリテーション科の理学療法士10名で、平均経験年数は7.8±6.5年(0年から22年)であった。測定部位の決定方法や、測定値を読み取る際の巻尺の締める強度、下肢の長軸に対する巻尺の角度、被検者と検者の測定肢位を事前に指導し、統一した。特に、大きく影響を及ぼすと考えた測定部位の決定方法については個別に実技指導した。検者全員が同一の巻尺を使用し、測定順序はランダムとした。測定肢は左下肢とし、測定肢位は仰臥位で左下腿を検者の左大腿に載せ、左膝関節伸展0度とした。測定部位は膝蓋骨上縁から近位に10cmと腓骨頭下縁から遠位に7cmの2箇所とした。1回目の測定から6日間の間隔をあけて2回目の測定を実施した。測定値より、級内相関係数(ICC)を算出し、個人内再現性と個人間再現性を検討した。 【結果】 個人内再現性において大腿周径囲でICCは0.83から0.99であり、標準誤差は0.54cmから0.64cmであった。下腿周径囲でICCは0.91から0.99であり、標準誤差は0.37cmから0.46cmであった。 個人間再現性において大腿周径囲で1回目ICCは0.92、2回目0.92で、標準誤差は1回目0.25cm、2回目0.27cmであった。下腿周径囲で1回目ICCは0.93、2回目0.93で、標準誤差は1回目0.18cm、2回目0.16cmであった。 【考察】 個人内再現性においては大腿周径囲測定時と下腿周径囲測定時ともにICCは0.8以上で、桑原らの基準では良好、個人間再現性において大腿周径囲測定時と下腿周径囲測定時ともにICCは0.9以上で、優秀という結果であった。今回のように測定部位の決定方法、特に膝蓋骨上縁や腓骨頭下縁の触診法を統一することで、高い再現性が得られ、臨床において信頼に足るデータを得られることが解かった。
著者
林 優 赤羽根 良和 近藤 照美 笠井 勉 林 典雄
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第23回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O064, 2007 (Released:2007-11-02)

【目的】鵞足炎とは、薄筋、縫工筋、半腱様筋で形成される鵞足が、ランニングを主体とした反復する膝の屈伸により生じる鵞足部での摩擦障害と理解されている。鵞足炎は日常よく遭遇する疾患ではある一方でまとまった症例数の中での具体的な運動療法や治療成績に関する報告はほとんど散見されない。今回、鵞足炎と診断され運動療法が依頼された症例について、その臨床的特徴を検討すると共に、当院における運動療法の成績について報告する。 【対象・検討項目】平成14年8月より18年までに当院を受診し、スポーツ動作時に膝内側部周辺部疼痛を訴え、鵞足炎と診断された19例(男性13例、女性6例、平均年齢16.6歳)を対象とした。競技種目はバスケットボール5例、陸上5例、サッカー2例などであった。検討項目は_丸1_圧痛の局在部位_丸2_林によるトリガー筋鑑別テスト_丸3_走行時のmalalignmentの有無_丸4_下腿外旋テーピングによる症状の変化_丸5_治療成績は、スポーツ復帰率、スポーツ復帰後のスポーツレベル、運動療法期間について検討した。 【治療】原則として薄筋、縫工筋と半腱様筋停止部へのtraction forceを排した形での選択的ストレッチングを実施し、疼痛が軽減しないもの及び本人の都合上早期スポーツ復帰を希望するものにはインソールを作成した。 【結果】_丸1_圧痛は全例に認め、鵞足部単独1例、鵞足部+薄筋腱部11例、鵞足部+薄筋腱部+縫工筋腱部5例、鵞足部+縫工筋腱部1例、鵞足部+半腱様筋腱部1例であった。_丸2_トリガー筋鑑別テストは全例に陽性であり、薄筋単独18例、薄筋+縫工筋1例であった。_丸3_走行時のmalalignmentは、程度の差はあれ全例knee in toe outを呈し、大腿の過内旋が主体のもの11例、下腿の過外旋が主体のもの8例であった。_丸4_全例下腿の外旋制動テーピングによりランニング動作時の疼痛が軽減した。_丸5_治療成績は筋のストレッチングのみで疼痛が消失したもの9例、インソール併用で疼痛が消失したもの10例であった。スポーツ復帰率は100%であり、完全スポーツ復帰までの期間は平均4.9週であった。ストレッチングのみで復帰した症例の治療期間は平均4.2週、インソールを併用にて復帰した症例は平均5.4週であった。また、スポーツ復帰後の競技レベルの低下例はなかった。 【考察】薄筋には圧痛局在部位及びトリガー鑑別テストの所見が高率に発生しており、鵞足炎の主症状には、薄筋が関与したenthesopathyが大きな割合を占めると考えられた。また全例すべてにMalalignmentを認めた。大腿の過内旋や下腿の過外旋などのmalalignmentをベースに、ランニングなどの反復する機械的ストレスが作用し、鵞足部での滑走障害が生じた結果、疼痛が発現するものと考えられた。治療としては、選択的ストレッチングのみで47%の症例で疼痛の消失が得られたことより、鵞足炎に対する運動療法のファーストチョイスは鵞足構成筋に対する選択的筋ストレッチングが実施されるべきと考えられた。その後の経過の中で、Malalignmentの影響が強いと判断されたケースにおいて、alignment是正目的のインソールが適応となると考えられた。
著者
高橋 大生 井口 ゆかり 小川 元大 竹内 真太 西田 裕介 美津島 隆
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.143, 2012 (Released:2013-01-10)

【はじめに】 熱傷の急性期には早期の日常生活動作(以下、ADL)自立を目指す必要があるといわれている。また、自殺企図による熱傷の症例では身体的問題と精神的問題は並行して治療していかなければならないとされている。今回、焼身自殺を図ったことにより重症熱傷を呈したが、精神状態の変動に留意したリハビリの介入によってADLの向上、歩行の再獲得に至った症例を経験したため文献的考察をふまえて報告する。なお、症例には発表の主旨を十分に説明し同意を得ている。【患者情報】 対象は40歳代女性である。既往歴に大うつ病性障害、解離性障害があり、以前に3回の自殺企図があった。平成X年2月25日、灯油による焼身自殺を図り、当院へ救急搬送された。入院時所見としてTotal Burn Surface Area 50%のⅢ度熱傷、Burn Index(以下、BI)50、気道熱傷の合併を認め、Artzの基準で重症熱傷と診断された。当院ICUに入室し人工呼吸器管理となった。その後、同年2月25日、3月2日、8日に分層植皮術施行し、3月8日より拘縮予防のため理学療法の介入を開始した。5月23日に四肢関節可動域訓練、離床開始となった。【初期理学療法評価(6/3)】 身体機能の評価は安静臥位時HR144拍、呼吸数54回、ROM-T右足関節背屈-10°、左足関節背屈-5°、両股関節屈曲80°、MMT下肢2~3レベル、体幹・上肢3~4レベルであった。基本動作とADL評価は起居動作が中等度介助、起立は最大介助、歩行は実施困難な状態であり、FIMは40点であった。精神機能の評価は短縮版POMSの抑うつ項目が17点であった。問題点として#1. ROM制限、#2. 筋力低下、#3. 運動耐容能低下を挙げた。PT訓練はROM訓練、筋力訓練、起居動作訓練、呼吸指導とし、週5回、1回40分実施した。【治療経過】 初期は関節可動域訓練を中心とした拘縮予防を行った。5月18日、Head-up 40°可能となった。6月7日Tilt tableにて起立訓練を行った。6月13日に平行棒内歩行訓練開始し、6月23日にサイドストッパー型歩行器歩行訓練開始した。6月29日にT字杖歩行訓練開始となり7月4日に独歩開始した。【最終理学療法評価(7/4)】 身体機能の評価は安静臥位時HR121拍、呼吸数36回、ROM-T右足関節背屈-5°、左足関節背屈0°、右股関節屈曲95°、左股関節屈曲90°、MMT下肢4レベル、体幹・上肢4レベルであった。基本動作は全て自立となりFIMは79点であった。歩行能力は10m歩行試験(平地、T字杖)39.6秒、最大歩行距離は独歩で23mであった。【考察】 自殺企図の症例では精神的問題も治療していかなくてはならないとされていることから、本症例に介入する上で精神状態の変動を把握することはリハビリのフィードバックにつながる点で有用であると考えた。そこで精神状態と身体機能の変動を調べ、リハビリに反映していくために身体機能をFIM、精神機能をPOMSで経時的な評価を行った。その結果FIM得点の上昇に伴いPOMS(抑うつ項目)が減少する傾向がみられた。達成体験が自己効力感につながることから、可能な動作が増えたことで本症例の自己効力感が増大し、抑うつの軽減につながったと考えた。
著者
小澤 純一 中村 友美 塚谷 桐子 山田 汐里 堀 裕一 小林 義文 高島 浩昭 竹内 ゆかり 宮崎 昌代 田中 和徳 三村 夏代 恩田 めぐみ 杉下 泰明
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.159, 2011

【目的】<BR> 脳血管障害,腫瘍,変性疾患などによる小脳障害患者は,その病巣部位により上下肢運動の協調性の欠如,立位・座位・起立歩行障害,姿勢調整障害,眼球運動障害,構音障害などがみられる.近年,新しい小脳性運動失調の評価スケールとしてSchmitz-Hubschらにより,Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)が提唱された.その信頼性について,International Cooperative Ataxia Rating Scale(以下,ICARS)やBarthel index(以下,BI)等との有意な相関が報告されている.<BR> 日本においても,厚生労働省難治性疾患克服研究事業「運動失調に関する調査研究班」において日本語版SARAが作成された.SARAは全8項目(歩行,立位,坐位,言語障害,指追い試験,鼻指試験,手の回内回外運動,踵すね試験)から構成された簡便な評価スケールであり,評価者内,評価者間共に高い信頼性や内的整合性が報告されている.<BR> 今回,SARAと歩行に関連した機能的バランスとの関連性について検証し,理学療法評価法としての信頼性・妥当性について検討した.<BR>【方法】<BR> 対象は,平成21年4月から平成22年3月の間に当院に入院し,理学療法を実施した小脳性運動失調の患者である.認知症および高次機能障害などにより,検査実施に支障のある患者は除外した.また,対象者に対しては,事前に目的や方法等の研究内容について説明し,同意を得た上で行った.<BR> カルテより基本情報(年齢,性別,疾患名等),小脳性運動失調の重症度評価スケールとしてSARAを使用して評価を行った.あわせて,ADL評価としてBI,歩行関連の機能的バランステストとして10m最大歩行速度(以下,10m歩行),Timed up and go test(以下TUGT)と重心動揺解析システムG‐6100(アニマ社製)を使用してつま先接地足踏みテスト(Toe-touch gait test,以下足踏みテスト)を実施した.<BR> 統計処理は,SPSSVer.15.0を使用し,SARAと各評価項目との相関についてはスピアマン順位相関係数により検討した.統計学的有意水準は5%とした.<BR>【結果】<BR> 対象者数は,30名(平均年齢62.7±12.5歳,男性26名,女性4名)であり,小脳梗塞28名,小脳出血2名であった.発症より検査日までの経過期間は28.77 ±27.10日であった.SARAスコアは6.53±2.43点 ,BIは86.83±10.95点,TUGT15.41±4.36sec,10m歩行8.58±2.06secであった.足踏みテストは,総軌跡長:276.43±78.23cm,単位時間軌跡長:27.66±7.84cm/sec,単位面積軌跡長:4.66±1.37cm,外周面積:66.47±31.13cm)cm<SUP>2</SUP>であった.<BR> SARAスコアと各変数間の相関はBIでは弱い相関(r=-0.42)であったが,TUGT(r=0.53)と10m歩行(r=0.57)では比較的強い相関であった.また,足踏みテストの各指標(総軌跡長:r=‐0.26,単位時間軌跡長:r=‐0.25,単位面積軌跡長:r=‐0.1,外周面積:r=‐0.1)との間では,有意な相関は認められなかった.<BR>【考察】<BR> 小脳性運動失調の総合的な評価法として,SARAは半定量的な評価が可能であり,重症度や治療効果の判定に有用なツールである.評価手法も,一般的な神経学的評価手技を用いているため,同一評価者内および評価者間での評価のばらつきが少ないことが報告されている.また,ICARSの評価項目が19項目であるのと比較するとSARAは8項目と少なく,臨床的にも簡便に使用可能な評価尺度といえる.今回,SARAと歩行に関連した機能的バランスとの間で比較的強い相関が認められた事から,基準関連妥当性の一部が確認され,理学療法評価尺度として有用であると考えられた.しかし,BIや足踏みテストについては低い相関しか確認できなかった.BIに関しては,今回の対照群がある程度の立位・歩行が可能な比較的重症度の軽い対象者を多く含んでいたためとも考えられる.足踏みテストについては,各対象者の歩行の際の姿勢調整機構の特徴を足底圧中心のみの評価ではとらえきれないためと考えられた.<BR>【まとめ】<BR> 本研究において,歩行に関連した機能的バランスとSARAとの間で,比較的強い相関が一部確認されたことから,小脳性運動失調患者の重症度把握や理学療法の治療効果の判定等の評価手法として有用であることが示唆された.
著者
小長野 豊 江西 一成 井戸 尚則
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.85, 2010

【はじめに】今回,受傷後6年間経過し積極性の乏しい頚髄損傷者の理学療法を経験し,いくつかの知見を得たので報告する.【症例紹介】31歳男性,頚髄損傷・両大転子部褥瘡の診断名で,家族関係は疎遠であった.入院までの経過は,平成15年6月4日受傷し,C4~6前方固定術後,リハビリテーション(以下,リハビリ)を受けたがADL全介助であった.平成18年1月より母親を介護者として自宅生活を送ったが,平成19年母親死亡により施設入所となる.しかし,問題行動で強制退所となり,同年11月民間病院へ入院した.その後,褥瘡発生したが,治癒を認めず平成21年7月23日当院へ転院した.【初期評価】第6頚髄損傷(AIS:A).上肢の残存筋筋力は肘伸展の1以外3~4レベル,ROMは股・膝関節に20~30度の屈曲拘縮を認めた.両大転子部の褥創は右7×6cm左5×4cm,左右ともに真皮まで達していた.ADLは食事と車いす移動以外全介助であった.【経過】理学療法は,褥瘡治療(ラップ療法)を優先しつつ,循環改善のため起立台による立位訓練,関節可動域,筋力増強訓練を行った.しかし,当初は本症例・PTともに,明確な目標と理学療法内容に確信を持てずに積極的なリハビリを行えなかった.その後、旧知の頚損患者との接触,頸損者の動作映像の参照,独り暮らし実現へのスタッフの積極的関与などから,リハビリに前向きとなった.その結果,リハビリでは約2ヶ月目にROM,筋力,耐久性の向上を認め,いざり動作,座位バランス訓練が可能となった.この頃より,本症例・PTともに移乗動作獲得を明確に意識したリハビリを行い,約4カ月目にいざり動作,約6カ月目に移乗動作が可能となった.約8カ月目,医療相談員との協働によって介護付き賃貸住宅へ退院した.【まとめ】本症例では,基本的理学療法に加え,当事者間共通の目標設定を持てたことが功を奏したと考えられた.
著者
鈴木 琢也 小口 和代
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.24, pp.P032, 2008

【目的】近年,脳卒中患者の歩行の獲得に部分免荷トレッドミル歩行訓練(以下,BWSTT)が注目されている.しかし,BWSTT後の即時効果の報告は少ない.療養病床入院リハ中の発症後5ヶ月の重度脳卒中患者にBWSTTを施行し,訓練前後の歩行速度・歩行率・股関節伸展角度を検討した.<BR>【症例】64歳男性.脳底動脈閉塞による脳梗塞.Brunnstrom recovery stage test右上肢2・下肢2・手指2,左上肢5・下肢6・手指6.深部覚右上下肢重度鈍麻.FIM運動32点・認知30点・合計62点.<BR>【方法】BWSTTは懸荷モード12m/分で25m歩行を,5分間の休憩を挟んで2回実施した.実施前・直後・2日後に,5m平地歩行(左サイドケイン・右長下肢装具を使用し軽介助)を家庭用ハイビジョンデジタルビデオカメラ(Canon社製)で撮影した.計測の妥当性を検討するため,直後のみ三次元動作解析システムKinemaTracer(キッセイコムテック社製)で同時撮影した.歩行路の中央5歩分の右下肢イニシャルコンタクト時の左股関節伸展角度を検討した.マーカーをつけた腸骨稜と大転子の軸と大転子と膝関節外側上顆の軸で角度を計測した.統計学的処理にはANOVA(有意水準5%)を用いた.<BR>【結果】歩行速度は実施直前5.2m/分,直後5.3m/分,2日後6.5m/分.歩行率は実施前18.6歩/分,直後26.3歩/分,2日後27.4歩/分.股関節伸展角度は,実施前平均-3.6°,直後平均10.8°,2日後平均-3.8°で,直後に有意に増加していた(p<0.05).動作解析システムでの計測値でもほぼ同値であった.<BR>【考察】BWSTTについて寺西らは,膝折れや膝過伸展,股関節伸展不十分などによる歩行異常・不能症例に対して課題指向的歩行訓練実現を可能にすると述べている.多くの先行研究では,効果として歩行速度・歩行率増加が報告されている.本症例でも歩行速度・歩行率増加の効果は,2日後でも持続していた.一方で股関節伸展効果は即時的でキャリーオーバーしなかった.股関節伸展が増大した要因は,懸垂により体幹伸展を促せたことと,トレッドミルにより左下肢の踵からつま先へ重心移動がスムーズに行えたことが考えられた.以上よりBWSTTはアライメントへの効果より歩行周期への効果の方が持続的であることが推測された.<BR>【まとめ】重度脳卒中患者にBWSTTを施行し訓練効果を検討した.アライメントと歩行周期への効果を認め,後者はより持続的であった.動作解析装置のない環境でも,今回のように簡易な歩行評価項目なら,家庭用ビデオ撮影で十分検討が可能である.今後さらに慢性期・重度脳卒中症例にBWSTTを適用し,効果発現機序について検討したい.<BR>
著者
曽田 直樹 堀 信宏 大場 かおり 山田 みゆき 長谷部 武久 石田 裕保 河合 克尚 藤橋 雄一郎 田島 嘉人
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第23回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O007, 2007 (Released:2007-11-02)

【目的】股関節内旋筋及び外旋筋は、股関節を回旋させる以外の機能として歩行時に同時収縮による安定性の役割や遠心性収縮による制御としての役割などがある。そのため両筋群の筋出力の優位性を把握することが必要である。股関節内外旋筋出力の優位性は、一般的に外旋筋出力の方が高いとされている。しかし、股関節伸展位(解剖学的肢位)での報告が多く、関節角度や姿勢変化に応じた筋出力の優位性についての報告はまだない。適切な評価や治療を施行するためには、異なる肢位での筋出力の優位性を把握することは重要であると考える。そこで今回、運動肢位の違いによる股関節内旋筋と外旋筋の筋出力の優位性について若干の考察を加え報告する。 【対象】対象は、下肢に既往のない健常な成人84名とした(平均年齢22.5±4.7歳、平均身長168.3±7.2_cm_、平均体重61.7±9.8_kg_)。全員には、本研究の趣旨を十分説明した上で同意を得た。 【方法】運動課題は最大等尺性股関節内旋・外旋運動とし、股関節屈曲位(椅坐位)と股関節伸展位(背臥位)での条件で筋出力の測定を行った。その際、股関節内外旋中間位・外転10°膝関節90°屈曲位とした。筋出力の測定には、バイオデックス社のシステム3を使用し、各条件でそれぞれ1回測定した。測定は3秒間行い、測定間には10秒間の休息を入れた。代償動作の防止のために、ベルトにて体幹、骨盤、大腿骨をシートに固定した。両上肢は座面両端の手すり、あるいは支柱を把持した。測定順序は、ランダムに行った。統計処理は対応のあるt検定を用い、有意水準は1%未満とした。 【結果】股関節伸展位での内旋筋出力は58.9Nm、外旋筋出力は74.8Nmであった。また股関節屈曲位での内旋筋出力は98.2Nm、外旋筋出力は80.6Nmであった。伸展位では外旋筋出力、屈曲位では内旋筋出力が有意に高い値を示した。 【考察】今回の測定では股関節屈曲位と伸展位では内外旋筋出力の優位性が逆転する結果となった。要因として肢位が異なることにより股関節内外旋に参加する筋が異なることが伺えた。一般的に股関節内旋筋の主な動筋は、小殿筋前部線維・中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋であるが、KAPANDJIらによると梨状筋は股関節屈曲60度以下では外旋筋,60度以上では内旋筋として働くと報告している。またDelp SLらは大殿筋上部線維・中殿筋後部線維・小殿筋後部線維・梨状筋は伸展位では外旋筋として働き屈曲位では内旋筋として働くと報告している。つまりこれらの筋作用の逆転が今回の結果に大きく関わったと思われた。
著者
深澤 史朗 永井 素大 中村 公美
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.23, pp.O063, 2007

【はじめに】今回、心筋炎を発症し経皮的人工心肺補助装置(PCPS)装着後3日で離脱。しかし両下肢壊疽により両側大腿切断。その後臥床時に原因不明の左上肢麻痺(腕神経叢麻痺)や胆嚢炎を併発し車椅子でのADL自立獲得において難航した症例を経験させて頂いたので報告する。<BR>【症例、評価、経過】45歳女性。体重50kg。夫と義母の3人暮らし。子供なし。2005/3/26風邪症状で入院。心筋炎診断。3/27PCPS装着。4/13両下肢壊疽により切断。6/3BS訓練開始【1、断端 右40cm左5cm。2、MMT左上腕2~3左前腕2~3左手指2両下肢3。3、表在感覚は左手掌脱失。左前腕から手指は鈍麻。4、基本動作の寝返りは手摺を利用。起き上がり全介助。座位保持は骨盤後傾し全体に屈曲した姿勢で固定的に構える。前後左右への体重移動は不可能。5、ADL全て介助(FIM53点)。】6/14車椅子乗車。移乗全介助。座位バランスは左右移動時右側への移動が左に比べて範囲は大きい。前後への移動は骨盤前後傾によって調整可能。移乗は臀部挙上時軽介助。6/22胆嚢炎治療開始(絶食)。8/上旬食事再開。8/17カンファレンス(医療スタッフ、本人、家族)家屋見学。8/25プッシュアップ保持約2分可能。車椅子から床への移動は約10cm段差を3つ利用し、階段昇降式に可能。車椅子自走可能。9/2プッシュアップ段差越えは臀部より約20cmの段差が可能。車椅子からベッド移乗は監視。9/20毎週末外泊。10/21退院。<BR>【考察】訓練開始時は突然の両側大腿切断のため身体内部表像の変化に対応できなかった。座位時は、左上肢麻痺のため上肢を錘としてバランスコントロールができず、保護的利用も不可能。移動や移乗は全介助。又、胆嚢炎治療(絶食)のため疲れやすく、継続的訓練が困難。精神的にも今後への不安から落ち込んでいた。当時、本人は高齢な義母の負担を考えADL自立を熱望していた。そのため、本人や家族と相談を繰り返した結果、義足処方は体力面や安全面から先送り、車椅子ADL自立を退院時目標に設定し訓練を進めた。経過と共に左上肢麻痺は軽減したが動作遂行の妨げとなってしまった。そのため、バランス時の保護的利用やプッシュアップ動作獲得には多くの時間を要した。最終的に左上肢麻痺は残ったが、何とかプッシュアップ動作を獲得できた。<BR>車椅子座面の高さは、自宅キッチンや洗面台再利用と便座や階段昇降機座面への移乗労力軽減の両方から検討した結果40cmに設定。そして、訓練時車椅子から床移乗において台を作成して臀部から階段昇降する動作訓練に時間を割いた。結果、自宅で台やソファーを利用していつでもどこでも1人で移乗可能となり、浴室もスノコを階段状に設置して自立した入浴動作を獲得した。洗顔や排泄時の更衣動作等も安全で円滑に行い、全ての家事動作も自立。趣味の菓子作りにも成功。自宅内車椅子ADL自立を獲得できた。
著者
佐藤 武志 眞河 一裕 小田 知矢
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.184, 2011

【はじめに】<BR>岡崎市民病院では2004年より理学療法士が糖尿病の運動療法に関わっている。2011年6月現在、2名の理学療法士が糖尿病療養指導士の資格を取得し、1名の受験希望者がいる。糖尿病の治療に運動療法は重要であるが、理学療法士が糖尿病の運動療法に積極的にかかわっている施設は少ない。そこで今回、これまでの運動療法への取り組みの内容を振り返り、糖尿病療養指導士養成に向けての取り組みについて報告する。<BR>【背景】<BR>理学療法士は糖尿病の運動療法に関して、多彩な症例に即応できる専門性を発揮することができる職種である。しかし、理学療法士が積極的に糖尿病の運動療法に関わるためには1)業務量のバランス、保険点数、糖尿病治療の利益の確保などの病院の経営面に対する課題、2)同僚や上司に対する職場での理解、病院内の他職種に対するアピールなど、理解者を得るための課題、3)糖尿病患者への効果的な指導や知識の向上などの個々のスキルアップに対する課題、4)モチベーションに対する問題など乗り越えなければならない様々な課題がある。<BR>【経過】<BR>当院では2004年に内分泌・糖尿病内科から糖尿病教育入院参加の依頼があり、8職種(医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療法士、社会福祉士、歯科衛生士)による糖尿病療養支援組織が設立された。糖尿病療養支援委員会の組織の一員として職場内での理解、院内での理解を深めながら運動指導業務に関わっていった。1)2004年には教育入院患者に対する糖尿病教室への参画と個別運動療法が開始された。2)2005年からは外来患者向けの勉強会である「糖尿病を学ぶつどい」へ参画した。3)2007年には生活習慣記録機(ライフコーダ)を使用しての運動指導を開始した。4)2008年には2名の理学療法士が糖尿病療養指導士の資格を取得した。また外来糖尿病指導室の開設に伴い、外来患者に対する運動指導を開始した。5)2009年には世界糖尿病デーの企画として自転車エルゴメーターの体験やベンチプレスの体験を行った。6)2010年には個別運動療法患者に対して高負荷なレジスタンストレーニングであるベンチプレスを用いた運動療法、屋外歩行を開始した。<BR>【現状】<BR>現在当院リハビリテーション室では糖尿病療養指導士の資格を取得した理学療法士2名と、受験希望者1名で糖尿病運動指導を行っている。数多くの糖尿病運動療法に対する取り組みが行えたのは、自職のみではなく、糖尿病療養支援委員会という院内の組織の一員として活動したことで、職場内の理解を深めるとともに、病院内における活動を通じてさらに認知されたことがあるのではないかと考える。2011年内分泌・糖尿病内科により「糖尿病療養指導士資格取得への手引き」と「糖尿病療養指導士養成プログラム」が作成され、配布された。これには糖尿病療養指導士資格取得希望者が経験を積みやすいような具体的な到達目標が掲げられ、他部局での療養指導も十分に経験できるような内容が盛り込まれている。「糖尿病療養指導士養成プログラム」が構築されたことでより実践に近い糖尿病療養指導の方法を希望者は学ぶことができる。<BR>【今後に向けて】<BR>糖尿病患者はますます増加し、糖尿病運動療法の重要性は高まると考えられる。その一方で業務量の増大も見込まれる。理学療法の業務は多岐にわたり各分野を経験することは重要で、他の疾患とのバランスも考慮する必要がある。多忙な環境の中で業務を行うには情熱も必要であるが、そのモチベーションを維持していくにはやはりマンパワーも必要である。その為にも運動指導の達成感や充実感を後進に伝え、糖尿病の運動指導が行える理学療法士を養成していきたいと考えている。
著者
辻 量平 杉原 奈津子 寺林 大史 森腰 恵 大下 裕夫 天岡 望 種村 廣巳
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>がん患者に対するリハビリテーション(以下リハ)は多くの施設で提供され、がん拠点病院や緩和ケア病床、ホスピスでの活動も活発である。当院のような施設基準を有さない民間病院であっても、がん拠点病院の指導を受けながら、がん緩和ケアについてより質の高い医療とケアを提供できるかを模索することは大変重要なことである。今回、術中に腹膜播種などが確認できバイパスのみとなった切除不能がん患者に対し、周術期リハチームの方から、緩和ケアチームに対し予後も含めた情報提供を行い、周術期リハチームと緩和ケアチームがともに早期介入ができ、良好なかたちで在宅へ移行できた症例を経験したので、当院の今後の方針も含めて報告する。なお、ご本人・ご家族に本件の主旨を口頭および当院所定の文書で説明し、署名による同意を得た上で病院長の許可も頂いた。<br><b>【方法】 </b>症例は86歳男性。入院1か月前に食欲不振、嘔吐で近医受診し、当院紹介され、胃前庭部癌と診断され手術となった。手術1週間前のカンファランスにて手術方針や告知状況など情報を共有した。術前リハビリにより患者とのコミュニケーションを図り、患者が早い時期に在宅への移行を希望していることを知った。開腹の結果、腹膜播種が確認できたため、胃切除不能、胃空腸吻合に終わった。予後は3~6ヶ月との情報を得た。手術翌日に緩和ケアチームの早期介入を依頼した。<br><b>【結果】 </b>緩和ケアチームの早期介入によって術後の苦痛緩和が図れ、周術期リハは効果的に進んだ。術後の食欲不振、摂食障害は緩和ケアチームの一員である管理栄養士による食事相談や内容変更により術後第14病日には全量摂取可能となった。患者からの在宅復帰への強い希望もあり周術期リハの実施と緩和ケアチームとの連携により、高齢でしかも切除不能胃癌患者の術後としては比較的早い術後26病日に退院できた。なお地域連携の看護師やMSWによって術後19病日から退院や退院後調整が行われた。<br><b>【考察】 </b>当院では平成22年11月より緩和ケアチームが発足し、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、MSW、訪問看護師、理学療法士、作業療法士で構成されている。このような施設は少なくなく、がん緩和医療への質の高いリハの需要は高まっている。今回、進行胃癌患者に対し、術前からのリハを通してコミュニケーションがとれたこと、周術期に手術情報、予後情報、その他の患者情報をがん緩和ケアに携わる他職種と理学療法士とで共有でき、余命短い本患者が求める在宅へという希望を実現するため、早い時期から多職種が同じベクトルでそれぞれの専門職としての役割を果たすことで、患者の希望である早期在宅へ誘導でき、ひいては患者のQOLに益したものと考えられる。このような進行がん患者をケアするにあたり、それぞれの専門職でのチーム医療がいかに重要であるか痛感させられた1症例である。今後も本症例での経験を生かし、がん治療の早期から多職種が情報を共有することで、患者のQOLを高める実績づくりを行っていきたい。
著者
後藤 利明 山下 一朗 高木 章好 石井 智己
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.24, pp.P081, 2008

【はじめに】<BR>筋萎縮側索硬化症(以下ALS)は進行性の難病である.筋力低下の部位と程度、在宅生活であれば在宅での介護力の程度により、患者・家族に対する環境整備、補装具等が異なる.その為、チームでの適切な対応が重要となる.今回、訪問リハビリテーション(以下訪リハ)の経過の中で補装具を工夫したので報告する.<BR>【症例紹介】<BR>69歳 女性 家族構成:夫、長男、の3人暮し.現病歴:平成15年7月頃より頚部筋力低下.平成16年2月ALSと診断.平成18年~上肢筋力低下、球麻痺進行.平成19年1月胃瘻造設.6月痰がつまり呼吸停止、救急搬送され延命.気管切開、人工呼吸器管理となる.8月退院し在宅生活に入る.日中は主に夫、看護師、ヘルパーが介護.9月より週1回、訪リハ開始.<BR>【訪リハ開始からの経過】<BR>(平成19年9月)ADL:寝返り軽介助、入院時導入された頭頚部支持装具(体幹型)使用にて座位保持は体幹介助.起立・歩行は軽介助.リハビリの受け入れ良好で、特に離床・歩行へのモチベーションが高かった.そこで問題となったのは、入院中導入された補装具である.頭頚部の制動性は十分である.但し、拘束感・不快感が強く、着脱に2人の介助者を要し、体位変換が必要で時間を要する為、本人への身体負担もあり苦痛となっていた.そこで義肢装具士と相談し、頭頚部の制動性が十分で本人が装着時に不快感無く、1人の介助者で容易に着脱可能なものを模索した.胸郭に支持させることは呼吸運動の妨げとなることと、そこまでの制動性が不要であると評価し、頚椎カラーとした.材質:前部(発泡ポリエチレン・プラスチック)、後部(発泡ポリエチレン・綿).重量:80g.ベルクロでの2ヶ所の着脱とし、体位変換不要で1人の介助者で装着可能.(平成20年4月)ADLに大きな変化みられず.車椅子まで軽介助歩行、近所の公園に外出可能.座位1時間程度、楽に可能.1日1回は看護師、ご主人等が介助し離床、車椅子に移乗し座位で過ごされている.6月現在、筋力低下はみられているがADL は維持されている.<BR>【考察】<BR>ALSは言わずと知れた進行性の難病である.そして在宅で生活する方も少なくない.ALSという疾患の特徴から、より良い在宅生活を送る為には、個々の患者・家族に適した対応が適時に必要となる.離床し、歩行して座位で過ごすことは本症例の楽しみと希望である.それは残存能力を維持することだけではなく、何より大切なQOL向上に結びつくと考えられた.しかし導入されていた補装具は、それを補うことに不十分であった.今回、補装具導入に関して感じたことは、病院での介護力と在宅でのそれとは異なる、との意識が欠けた為、在宅に帰るケースであっても在宅生活が想定されていないと思われた.今回の経験では、導入時に在宅での実用性や家族の介護力をしっかりと把握した上で、家族・他職種との十分な連携と協力の重要性が認識された.
著者
鈴木 達也 岩堀 裕介 水谷 仁一 竹中 裕人 大家 紫 清水 俊介 矢澤 浩成 花村 浩克 筒井 求 伊藤 岳史
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.27, pp.48, 2011

【目的】投球動作による肩・肘障害の原因として,オーバーユース,コンディショニングの不良,不良な投球フォームなどがあげられる.我々は第7回肩の運動機能研究会において,wind-up phase(以下WU)での体幹後方傾斜と肘下がりとの関係を調査し,WUでの体幹後方傾斜とearly-cocking phase(以下EC)での肘下がりとの関係は示唆されたが,late-cocking phase(以下LC)での肘下がりとの関係は見られなかったことを報告した.今回,WUで体幹後方傾斜を認める選手に対し,その場で投球フォーム指導を行い体幹後方傾斜を修正し,投球フォームが即時的に変化するのかどうかを調査したので報告する.〈BR〉【対象】対象は,メディカルチェックを行い本研究に賛同し同意を得た肩・肘に愁訴のない中学生野球選手27名(平均年齢13.30±0.61歳)の中から,明らかにWUで体幹後方傾斜を認めた選手(以下WU体幹後方傾斜群)11名である.なお,11名は全員右投げである.〈BR〉【方法】方法は,CASIO社製デジタルカメラEX-FH25を用い,前方,側方,後方の3方向からハイスピードモードの動画で撮影した.frame rateは240fpsとし,18m先の相手に対し,セットポジションから全力投球で3球投げさせ(撮影1),デジタルカメラの映像から複数人で評価し3球とも明らかにWUで後方傾斜が確認された選手をWU体幹後方傾斜群として抽出した.次に,WU体幹後方傾斜群に対し言語教示と実技によりWUの後方傾斜を修正した状態で撮影1と同様の撮影方法で投球フォームを撮影した(撮影2).撮影と同時にBushnell社製スピードガンスピードスターVで球速も測定し,もっとも速い1球を分析対象とした.投球フォームの分析は撮影1,撮影2とも動画を静止画にして行った.投球フォームの評価項目は(1)ECでの投球側股関節屈曲不足,(2)FPでの体幹後方傾斜,(3)FPでの投球側肘下がり,(4)LCでの投球側肘下がりの有無である.それぞれの基準は(1)右手が最も下がった時点で膝関節と股関節が同程度に屈曲していなければ投球側股関節屈曲不足あり,(2)FPで地面からの垂線に対し,体幹が後方に傾斜していれば体幹後方傾斜あり,(3)FPで両肩峰を結ぶ線よりも投球側肘関節が下がっていれば肘下がりあり,(4)LCで両肩峰を結ぶ線よりも投球側肘関節が下がっていれば肘下がりありとした.撮影1と撮影2の静止画を比較し,(1)から(4)の項目が変化したのかどうかを,i)変化なし,ii)改善,iii)改悪の3項目に分類し,投球フォームの変化を確認した.〈BR〉【結果】WU体幹後方傾斜群の投球フォームの特徴として(1)EC股関節屈曲不足ありが11名中7名(63.6%),なしが4名(36.4%),(2)FPの体幹後方傾斜ありが11名中4名(36.4%),なしが7名(63.6%),(3)FP肘下がりありが11名中8名(72.7%),なしが3名(27.3%)(4)LC肘下がりありが11名中6名(54.5%),なしが5名(45.5%),であった.撮影1の投球フォームと撮影2の投球フォームを比較したところ,(1)EC股関節屈曲不足ありが7名中,変化なし4名(57.1%),改善3名(42.9%),改悪0名(0.0%),(2)FPの体幹後方傾斜ありが4名中,変化なし0名(0.0%),改善4名(100.0%),改悪0名(0.0%),(3)FP肘下がりありが8名中,変化なし6名(75.0%),改善2名(25.0%),改悪0名(0.0%),(4)LC肘下がりありが6名中,変化なし5名(83.3%),改善1名(16.7%),改悪0名(0.0%)であった.〈BR〉【考察】今回の結果から,WUの体幹後方傾斜を即時的に修正することにより,FPでの体幹後方傾斜は100%改善できた.しかし,FPでの肘下がりは25%,LCでの肘下がりは16.7%しか改善できなかった.FP,LCでの肘下がりに関しては別のアプローチが必要であると考えられた.
著者
鈴木 歩美 戸渡 敏之 赤津 嘉樹 鈴木 善幸 野本 恵司
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.23, pp.O044, 2007

【はじめに】破傷風は傷口から感染した破傷風菌の産生する神経毒素によって起こる重篤な中毒性感染症で、主症状は全身横紋筋の持続緊張・強直性痙攣などである。破傷風は潜伏期、第_I_期(前駆症状期)、第_II_期(開口障害から痙攣発症まで)、第_III_期(全身痙攣・後弓反張持続期)、第_IV_期(回復期)と分類される。第_II_期をonset timeと言い、この期間が48時間以内のものは重症で予後不良とされる。今回onset timeが6時間で致死率80%と推定され、且つ87歳という高齢にも関わらず、自宅退院となった症例の理学療法(以下PT)を担当したので報告する。<BR>【症例提示】】(学会発表に対し文書による同意を頂いた。)<BR>症例:87歳男性。主病名:破傷風。既往歴:特になし。<BR>現病歴:農作業中に右前腕挫傷し、1週後構音障害や嚥下障害認め、精査目的にて当院入院となった。翌日呼吸停止し経鼻挿管施行された。さらに自律神経障害による徐脈と頻脈出現し、一時的に体外式ペースメーカー挿入された。その後痙攣発作頻発し抗痙攣薬・筋弛緩薬を投与された。第18病日より状態安定しPT開始となった。<BR>【理学療法初期評価】意識レベルはJCS_III_‐200で、人工呼吸器管理中(SIMV+PS)であった。深部腱反射は上肢で亢進を認め、筋緊張は全体的に亢進していた。ROM‐Tは両肩関節・右肘関節・両足関節に制限があり、ADLはBarthel Index0点で全介助であった。<BR>【理学療法経過】排痰、ROM訓練よりPT開始し、第25病日よりギャッチアップ開始した。この時期には自律神経障害による血圧変動が見られた。第32病日より端座位開始したが、後弓反張強く後方へ転倒傾向があった。第35病日より車椅子乗車し離床を進め、第53病日より歩行訓練開始し、その後起居・歩行などの基本動作は向上し作業療法士(以下OT)によりトイレ動作・更衣動作訓練を進め、院内ADLほぼ自立となった。第129病日スピーチカニューレにて発語可能となり、言語聴覚士(以下ST)により発声・嚥下訓練などを進め、第157病日自宅退院となった。<BR>【理学療法最終評価】意識清明で精神機能は良好であった。ROM-Tは頚部・両肩関節に軽度制限を残した。MMTは全体で5レベルであり、深部腱反射は正常であった。ADLはBarthel Index100点となり基本動作は自立し、屋内外とも独歩にて移動可能となった。<BR>【考察】PTの留意点として、早期は随伴症状である自律神経障害や痙攣発作など不安定な全身状態に対するリスク管理や、病態の把握に必要な情報を聴取し慎重に対応することが必要であった。さらに回復期は、高齢と長期臥床の影響による二次的な筋力低下に加え、後弓反張による姿勢保持困難、筋緊張亢進によるROM制限とそれに伴う更衣動作困難や気管切開に伴う発声・摂食嚥下障害などが問題となり、OT・STなど他職種との連携による生活機能改善を目標としたアプローチが重要であった。
著者
室田 一哉 鈴木 和敏 河野 公昭 桑坪 憲史 村橋 淳一 勇島 要 木村 由香里 長屋 孝司 松永 義雄 山賀 寛
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.26, pp.140, 2010

【はじめに】今回、尺骨神経損傷にて手内在筋麻痺を呈したバレーボール選手の競技復帰に向けた理学療法を経験したので報告する。【症例紹介】16歳女性。右利き。高校バレーボール部所属でポジションはリベロである。競技レベルは全国大会出場レベルである。【現病歴】H21年7月下旬ガラスで右手関節を切り受傷。救急病院へ搬送される。右尺骨動脈・神経損傷、右中・環・小指深指屈筋腱断裂、右環・小指浅指屈筋腱断裂、右尺側手根屈筋腱断裂で緊急手術となる。術後約3週でdynamic splintを装着し、当院へ受診となった。【理学療法と経過】術後3週より伸展ブロック内での自動屈曲運動を開始。術後4週よりMP~DIP関節の自動伸展運動開始。術後5週より手関節~DIP関節屈曲位での他動伸展運動、ブロッキングEx.開始。術後6週より握力・ピンチ力向上のEx.開始。競技動作はMP関節屈曲位でのトス動作を開始。ボールはソフトバレーボールから開始しバレーボール、メディシンボールへと負荷を漸増した。トスは両手から開始し片手で行うなど徐々に難易度を上げて行った。術後8週よりMP関節の過伸展や重量物の把持などの危険な動作以外のADLでの積極的な使用を促し、術後12週でADLでの制限を解除した。アンダーレシーブなど部分的に競技復帰したが、術後14週でMMTはMP関節屈曲2、環・小指外転・内転ともに0であった。筋力低下によりトスやオーバーでのカット動作で環・小指のMP関節を過伸展する危険性を考慮し、環・小指のMP関節伸展制限の装具を作製した。装具を装着しトスやカット動作を反復して行い、動作が安定してきた為徐々に競技復帰した。術後20週でゲーム出場可能となり、レギュラーとして活躍し全国大会出場を決めた。【考察】今回、術後のリスク管理を徹底し競技に即した理学療法を行い安定した競技動作が獲得出来た事と、装具によってMP関節過伸展のリスクが予防出来た事により、競技復帰が可能であった。