著者
網谷 龍介 戸澤 英典 大内 勇也 作内 由子 中田 瑞穂 八十田 博人 板橋 拓己 上原 良子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2022年度は、研究取りまとめのための準備を行い、成果公表のための作業を着実に進めることができた。2021年度に実施することができなかった資料収集については、分担者の職務上の都合などにより代替的な手法を検討し、おおむね論文の執筆に問題のないような方法を案出し、材料の収集を行うことができた。これらを踏まえて、日本国内の政治学系の三つの学会において、計7本のペイパーを通じて中間的な成果を報告した.オランダにおける経済専門家と政治過程の関係についての分析においては、政党間の競争が専門性に基づいたプログラムの鑑定を導く過程が分析された。ドイツの保守主義に関する事例においては、1970~80年代のドイツにおける保守運動の再編が検討された。さらに、ヨーロッパ規模比較研究における1970年代の把握についてのペイパーにおいては、同時代の分析が現在の回顧的な視点よりも多様な視角がみられることが検討された。フランスにおける地域主義運動の分析では,バスクを事例としてとりあげ、フランス国内の力学とスペインとの外交の絡み合いが明らかにされた。ヨーロッパ共同体における「人権」争点に関する分析では、人権がヨーロッパの共有する規範となるタイミングとその背景が検討された。さらに、イタリアの事例の分析では、フェミニズムが既存の政治勢力との関係の中で浮上する過程が、ヨーロッパ共同体とドイツにおける男女平等政策についての事例では、平等をめぐる異なった理解の相互作用が検討された。これらの報告には、関連する研究を国内で実施している研究者に討論者として参加していただくことができ、有益な助言を得た。これにより草稿と改訂の方向性が確定したため、2023年度中に本科研の成果を探鉱所として出版するめどが立っている。また、そのための準備会合を期間内にさらに一回設け、具体的な準備作業や手順を確認した。
著者
佐々木 尚之 毛塚 和宏 斉藤 知洋 宍戸 邦章
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

人々のライフスタイルや価値観の変容により、社会調査をめぐる環境は著しく悪化した。本研究では、無作為抽出した対象者に対して、オンライン調査または郵送調査、配偶者票の有無をそれぞれランダムに割り当てることにより、調査モードならびに配偶者票の有無が回答に与える影響を分析する。ICTの活用を代表とする今後の社会調査の可能性を検証し、新たな調査手法導入の是非、導入にあたっての課題、状況に適した調査手法の有無を解明することを目的とする。
著者
香川 せつ子 佐々木 啓子 中込 さやか
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

昨年度から続くコロナ禍による海外渡航制限のため、当初計画していた現地調査は実施できなかった。しかし国内の大学図書館や国会図書館が所蔵する一次資料や先行研究の渉猟およびネット上で公開された海外情報へのアクセスによって実証的研究を進めた。前年度から引き続いて19世紀末から20世紀初頭にイギリスに留学し、帰国後に教育・科学分野で活躍した大江スミ、二階堂トクヨ、黒田チカの軌跡と業績を検証し(香川・中込)、他方では奨学金によるアメリカのブリンマー・カレッジ等への留学が日本の女子高等教育にもたらした貢献(佐々木)ついて検討した。本年度の新たな取り組みとして、研究代表者の香川は実践女子大学創立者の下田歌子の19世紀末におけるイギリス留学について重点的に調査・研究した。『下田歌子と近代日本ー良妻賢母論と女子教育の創出』(共著、2021年9月刊行)では、下田梅子と津田梅子がともに華族女学校在職中に英米に留学していることに着目し、両者の西洋文化受容の過程を比較考察した。また別の論文では、下田と相前後してイギリスに留学した安井てつと下田を比較し、イギリスの女子教育から受けた影響を体育の奨励に着目して比較考察した。本研究課題の特質から、研究成果の海外への発信や海外研究者との交流にも努めた。2021年5月の女性と科学に関する国際研究会(Women and Science in the Twentieth Century)では香川が黒田チカについて報告、6月の国際教育史学会(ISCHE)では香川が二階堂トクヨ、佐々木が藤田たき、中込が大江スミについて報告、11月のイギリス教育史学会(HES)では佐々木が日本女性を対象とした米国留学奨学金について報告した。いずれもオンライン開催であり、海外研究者との対面での交流はならなかったが、頂いた質問やコメントを通して考察を深めることができた。
著者
野口 啓子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は19世紀中葉のルネッサンス期アメリカ文学を、従来活発に行われてきた人種・階級・ジェンダーという視点からの研究に、(文学的)ナショナリズムという視座を加味して考察することで、この時代の文学的特質を横断的に検証することの可能性を探ったものであるが、その結果、このようなナショナリズムからの視座がこの時代の文学の再評価や、人種・階級・ジェンダーの区分を統合的に把握する手段として有効であることが明確となった。
著者
島村 礼子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、語がもつと考えられる形態的緊密性という特徴を拠り所にしたときに、語の正確な定義がどこまで可能になるかについて考察することである。本研究で明らかになったのは主として以下の2点である。まず、語の形態的緊密性の原理は一般には、diSciullo and Williams (1987)などで言われている原理、つまり、統語規則は語の内部に直接アクセスしてはならない、という原理と考えられているが、これを、Haspelmath (1992)で示唆されている原理、つまり、語順や構成素配列に関係する統語規則は語の内部に適用することはできない、という原理に改めるべき(弱めるべき)である。二番目に、派生語の場合、その基体である動詞の項構造を統語構造へ投射するのを許す派生語と許さない派生語とがあり、その違いは主要部の接尾辞の違いに帰することができると考えられる。もしそうであるならば、形態的緊密性の原理によれば、上述の種類の統語規則は語の内部を「見ることができない」ことが予測されるのに対して、基体動詞の項構造の継承は、語内部の情報が統語構造において「見える」現象の一つの表れと見なすことができるように思われる。今後、形態的緊密性および項構造の継承を、形態論と統語論との相互作用の観点から、さらに考察することは興味深いことである。
著者
小倉 充夫 井上 一明 島田 周平 青木 一能 遠藤 貢 松田 素二 児玉谷 史朗
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

冷戦の終焉とアパルトヘイト体制の崩壊は南部アフリカ地域に政治的、社会的、経済的変動をもたらし、民主化、経済自由化、地域協力の進展を促した。1990年代初頭において多くの人々はこの地域の将来に楽観的であった。しかし変革からおよそ10年後の今日、南部アフリカ諸国は失業率の上昇などの経済的苦難、犯罪や感染症の増加など深刻な問題を抱えている。構造調整政策の導入は経済危機を克服するために導入されたが、多くの都市住民の生活を一層困窮させることになった。こうした状況が人々の移動のあり方ばかりでなく、政治意識・政治行動にも影響を与え、農村社会を変化させた。これらの問題を各分担者等はそれぞれの研究領域と対象地域において調査しまとめた。具体的には、ザンビアにおける民主化と非政府組織、ジンバブエからザンビアへの移住農民の生活、ザンビア東部州からの移動と農村社会、ジンバブエにおける農村・都市間移動と反政府運動、植民地時代モザンビーク農村における人口移動、モザンビーク・南アフリカ間の労働移動、アパルトヘイト後の南アフリカにおける和解、ユダヤ人移民差別、中国人労働者導入問題などである。南部アフリカ諸国は南アフリカを中心として相互に密接な関係を発達させてきた。それはアパルトヘイト時代においても継続していた。したがってこの地域においては、一国的な分析は多くの場合限界があると同時に、歴史的な背景と変化のなかに位置づけて現状をとらえる必要がある。それ故、本研究では歴史的分析を重視し、その成果は報告書にも反映された。
著者
小倉 充夫 青木 一能 井上 一明 遠藤 貢 舩田 クラーセンさやか 眞城 百華
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

大半のアフリカ諸国で、 国民統合は言語やエスニシティの同一性によってもたらされはしなかった。冷戦後の現代においても国民形成はアフリカでは最重要な課題であり続けている。この問題を民主化、移動、都市化と関連させて検討した。都市第一世代であった年長者に比して、現在の都市青年層はより教育を受けているが就業が困難であり、彼らの国民的そしてエスニックなアイデンティティの動向に注目する必要がある。
著者
井田 靖子
出版者
津田塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、モダニズム期(大まかに1910 年代〜1970 年代)の日本におけるデザイン思想の形成過程を、輸出デザインの理論と実践、Gマーク制度の発足前後の国際的なデザイン問題、海外とりわけイギリスのデザイン論との関連性、から検証することであった。国際性が特徴とされるモダニズム期を、国家の表象(ナショナル・プレゼンテーション)としての輸出デザインという「地域性」に重点をおいて、また国家間のデザイン論の交錯に着目して解明することにある。加えて当時の日本のデザイン活動を新たな「モダン・ジャポニスム」として捉える視点、その輸出政策について実際のデザインの図像分析を用いて質的研究を行う点、そして近代日本を国際的かつ視覚的にアピールしたモノの特性を需要と供給の両側面から解明する点、さらに、海外のデザイン論との関係に着目して解明する点、国家の表象に関して図像分析を用いて質的研究を行う点から研究調査を進めた結果、従来は見落とされていた輸出デザインとジェンダーの関連性に切り込むことができた。また、『工芸ニュース』を創刊号より戦後まで調査分析し、「モダン・ジャポニスム」の議論に重要であると思われるテキストの抽出を行った結果、議論は3段階(19世紀的ともいえる伝統的造形をさらに追求する初期、日中戦争から第二次世界大戦直後までつづく「東洋的」日本趣味の造形を追求する帝国主義的デザイン議論、そして1950年代を中心に改めて日本的造形をモダニティのなかに位置づける「ジャパニーズ・モダン」の議論)にわけて把握することができると判明した。また、この間にさまざまな意味づけを与えられた「工芸」という問題を多く含んだ言葉の意味の変遷も同時に考察した。さらに、一連のモダン・ジャポニスムを考察する上でとりわけ代表的ととらえられるのが竹材製品であり、それにたいする海外デザイナーの関心という外からの働きかけをうけて、日本国内での議論が熟していった様子も解明できた。
著者
井田 靖子
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、急速に都市化した近現代イギリスにおける「緑化」をめぐる人びとの思考の変化が、都市の住環境にどのように反映され表象されているかを考えるために、19 世紀から 20世紀初期のイギリスにおける緑の象徴的役割、 (人造植物も含む)観用植物や植物デザインなどを利用した私的空間の緑化と室内装飾との関連、労働者階級のための「合理的余暇」としての緑の働きなど、顕示的消費の対象としての植物のさまざまな役割を解明した。
著者
秦 邦生
出版者
津田塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、<情動>についての近年の批評的関心の台頭を踏まえて理論的枠組みを構築しつつ、英国モダニズム文学が同時代の「公共性」の変容過程に積極的に参入するさまを検証した。<情動>を個別作品の内面性や自律性を掘り崩す要素と見なすことで、シンクレア、ワイルド、ウルフなど、さまざまな作家の作品が同時代社会に批評的に介入し、それらが共同体の再編に向けたユートピア的衝動に駆動されているさまを浮き彫りにした。
著者
杉浦 光夫 森 光弥 丹羽 敏雄 片山 孝次 大槻 真 笠原 乾吉
出版者
津田塾大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1995年12月9日-12日,津田塾大学において、20世紀シンポジウムを行った。講演者および講演題目は次の通りである。20世紀数学の種々の局面をとらえた興味ある講習が多かった。11月9日13時00-14時 杉浦光夫(津田塾大)ヒルベルトの問題から見た20世紀数学、14時10分-15時10分斎藤利弥(河合塾)ポアンカレのAnalysis Situs.15時20分-16時20分松本幸夫(東京大)基本予想をめぐって、16時30分-17時30分三宅克哉(都立大)類体論とイデ-ル.11月10日 10時-11時 高瀬正仁(九州大)数学史家としてのアンドレ.ヴェイユ,11時20分-12時10分(河合文化研)20世紀数学基礎論の成果と展望、13時30-14時30分齋藤正彦(放送大)超準数学の理想A. RobinsonからE. Nelsonへ、14時40分-15時40分、高橋陽一郎(京大数理研)カオスを巡って、15時50分-16時50分宮野悟(九州大)計算量理論の誕生とその展開11月11日 鹿野健(山形大)解析学が数論してもたらしたもの、11時10分-12時10分堀田良之(東北大)簡約群の表現論における幾何学的描像、13時30分-14時30分佐武一郎(中央大)代数群と保型系数、14時40分-15時40分吉沢尚明(岡山理大)Radon変換の概念の発見と展開、15時50分-16時50分金子晃(東京大)コンピュータ・トモグラフィの歴史-数学者は何故ノ-ベル賞を取り損ねたか-、17時-18時足立恒雄(早稲田大)-フェルマークからヴェイユまで、11月12日 10時-11時小田忠雄(東北大)20世紀における代数幾何の発展、11時10分-12時10分上野健爾(京都大)20世紀代数幾何学-重複度と交点数をめぐって-、13時30-14時30分飛田武幸(名城大)ゆうぎの解析、14時40-15時40分再評価期の確率微分方程式、山田俊雄(立命館大)、15時50分-16時50分池田信行(立命館大)終路空間上の微積分-確率解析とFeynmanの経路積分-、17時-18時山口昌哉(熊谷大)20世紀の数学について、(これらの講演は「20世紀の数学」という題で日本評論社より出版される。)
著者
眞城 百華
出版者
津田塾大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

エチオピアのティグライにおいて1941年以後の帝国再編の中で中央政府の介入が深まり、ティグライ内の階層分化が深化した点が明らかになった。さらに中央政府とティグライの関係の中でエリトリアの政変の影響が色濃いことも明らかになった。エリトリア統合を狙う中央政府がティグライの行政官配置に介入し、またエリトリア統合のための社会運動をティグライのアドワ、アクスム地域で展開した。ティグライを介してエチオピア政府のエリトリアへの影響力の行使が見られた。
著者
新本 史斉 ヒンターエーダー=エムデ フランツ
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

「長編小説」の枠からはみ出し、最終的には、掌大の紙片数百枚に鉛筆書きの極小文字で書きつけられるまでに至るローベルト・ヴァルザーの散文作品は、現代ドイツ語文学屈指の、高度な複雑性を抱えた、過激な文学実験となっている。本研究においては、ヴァルザーのテクストに潜在している批評可能性を、英・仏・日本語の翻訳テクストの比較分析、諸言語への翻訳者との討論、さらには、これまで未邦訳であった作品の日本語への翻訳実践を通じて明らかにしている。
著者
川添 愛 戸次 大介 片岡 喜代子 齊藤 学 崔 栄殊
出版者
津田塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

自然言語のテキストには事実のみではなく、書き手にとって真偽が不明な情報や、反事実的な仮定など偽であることが明らかな情報も含まれる。この研究では、機械による情報の確実性判断の基盤とするため、様相・条件・否定表現などの言語学的な分析に基づき、人間が普段情報の確実性を認識するのに利用しているテキストの意味特性をアノテーション(タグ付け)するスキーマを設計し、それに基づいてアノテーション済みコーパスを構築した。
著者
椿 清文 LANBERT RT
出版者
津田塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

日本学術振興会外国人特別研究員としての一年目、ランバート氏は歴史研究と人種の問題に焦点を当てつつ、資料収集、理論書の解読、そして論文の作成をおこなった。「『ミシシッピ・バーニング』・ファイルの新たな開封」は2006年3月発行の『黒人文学研究』75号に掲載予定。「『オペラ・コミーク』からMTVの『カルメン』へ:メディアスコピー」「アリス・ウォーカーの『カラー・パープル』:ウーマニストの民話」「スティーブン・スピルバーグの『カラー・パープル』における映像の語りと印象主義的傾向」は現在アメリカの諸雑誌で審査中である。「ウォルター・モズリーの『青いドレスの悪魔』:ネオ・ノワールの改革の精神」はアンソロジー「異常な目:ポストコロニアリティと探偵小説」のための一章。ランバート氏はまた2006年の春から秋にかけて、日米の諸学会の大会、支部会などにおいて、ラルフ・エリソン、パーシヴァル・エヴェレット、『ミドル・パッセージ』などを取り上げつつ、人種に焦点を当てながら、文学と映画の関係について精力的に発表を行う予定である。