著者
恩田 匠 乙黒 親男 飯野 修一 後藤 昭二
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.407-417, 1997-06-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
29
被引用文献数
3

酵母により変敗した梅加工品の品質変化を調べ,さらに酵母汚染試料から酵母の分離を行い,得られた酵母菌株の同定と,その各種食塩濃度および各種pHにおける生育挙動ついて検討し,以下の結果を得た.(1) 酵母汚染した梅加工品は,主要成分である有機酸が減少しており,それに伴いpHが上昇していた.また,酵母汚染した梅漬は,硬度低下,あるいは組織崩壊を起こし,硬さを左右する構成ペクチンの分解が認められた.このペクチン分解にも産膜酵母が関与していることが考えられた.(2) 産膜汚染試料から分離した酵母25菌株は,Debaryomyces hansenii 4菌株,Pichia anomala 1菌株,Pichia membranaefaciens 3菌株,Torulaspora delbrueckii 1菌株,Candida jamata 1菌株,Candida krusei 3菌株,Candida pelliculosa 3菌株,Kloeckera apiculata2菌株,以下未同定の3菌種Candida sp. UME-A 2菌株,Candidasp. UME-B3菌株,Candida sp. UME-C 2菌株の5属11種に同定された.(3) 分離酵母の各種食塩濃度および各種pHにおける生育を検討した結果,P. anomala, C. famata, Candtda sp. UME-AおよびCandida sp. UME-Bと同定された菌株は食塩濃度20%のYM液体培地に良好に生育が可能な著しい耐塩性(中等度好塩性)とpH 2.0の梅酢液にも生育良好な低pH耐性を示した.(4) 低pH耐性を示す菌株,特にCandida sp. UME-B YITC 114株は,梅酢液中で高い有機酸の資化能を示した.これらの有機酸資化能の強い酵母が,梅漬類における主要産膜酵母であると思われた.
著者
小田原 誠 荻野 裕司 瀧澤 佳津枝 木村 守 中村 訓男 木元 幸一
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.81-86, 2008-03-15 (Released:2008-04-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

大麦黒酢,大麦糖化液,酢酸を高血圧自然発症ラット(SHR)に与え,大麦黒酢が血圧に与える影響について調べた.その作用機序の検討としてin vitroにおけるアンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害活性の測定を行った.また,酸度とエキス分を等しくした大麦黒酢と米黒酢について,SHRを用いた単回投与試験を行い,血圧降下作用を比較した.(1)単回投与試験,連続投与試験のいずれにおいても,大麦黒酢は蒸留水(対照)と比較して有意に血圧を降下させることが示された.これにより,大麦黒酢は血圧降下作用を有することが明らかとなった.(2)連続投与試験において,酢酸だけでなく大麦糖化液においても血圧降下作用が認められたことから,大麦黒酢の血圧降下作用は,酢酸と大麦由来の成分の両方によるものと考えられた.(3)大麦糖化液ならびに中和した大麦黒酢においてACE阻害活性が認められたことから,大麦黒酢には大麦由来の血圧降下作用物質が含まれ,ACEを阻害することで血圧上昇を抑制していることが示された.(4)酸度とエキス分が等しくなるように調製した大麦黒酢と米黒酢について,SHRを用いた単回投与試験を行った.大麦黒酢と米黒酢はどちらも対照と比較して有意に血圧が降下しており,今回の実験では大麦黒酢の方が血圧降下の程度が高かった.このことから,大麦黒酢は米黒酢と同等以上の血圧降下作用を有することが示された.
著者
小関 成樹 伊藤 和彦
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.907-913, 2000-12-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
9
被引用文献数
3 9

強酸性電解水によるカット野菜(キャベツ,レタスおよびキュウリ)の殺菌において,強アルカリ性電解水を前洗浄に用いた場合の影響について検討した結果,以下の知見が得られた.(1) キャベツおよびレタスを対象にした場合,強酸性電解水による殺菌が1分間のときには,強アルカリ性電解水で前洗浄することによって強酸性電解水による単独5分間の殺菌効果と同等以上の効果が示された.このことから強アルカリ性電解水の利用により処理時間の短縮が可能であることが示唆された.(2) カットキャベッおよびカットキュウリを対象にした場合,強酸性電解水による殺菌において,強アルカリ性電解水などで前洗浄をすることにより,殺菌時の強酸性電解水の性能低下(ORP,ACCの低下)を抑制することが示された.

1 0 0 0 OA ナイシンA

著者
島 純
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.37-37, 2008-01-15 (Released:2008-02-29)
参考文献数
3
被引用文献数
1

ナイシンAは,バクテリオシンと総称される抗菌性ペプチドの1種であり,乳酸球菌Lactococcus lactisにより生産される.2005年にCotterらが提唱した分類に従うと,バクテリオシンは抗菌特性や化学構造からクラスIおよびクラスIIに分類される.ナイシンAが含まれるクラスIバクテリオシンは,ランチビオティクと呼ばれる細胞膜攻撃性の耐熱性低分子ペプチド(<5kDa)である.ランチビオティクの特徴は,デヒドロアラニン,デヒドロブチリン等の修飾アミノ酸を含むことである.また,デヒドロアラニン,デヒドロブチリンの一部は,システインとの分子内縮合によりモノスルフィド結合を有するランチオニンや3-メチルランチオニンを形成する.ナイシンAの抗菌スペクトルは,他のクラスのバクテリオシンと比較して広く,他種乳酸菌やグラム陽性の食中毒細菌の多くに抗菌活性を示す.また,ナイシンAと部分的に構造が異なる天然類縁体であるナイシンZ及びナイシンQの存在が報告されている.ナイシンAの化学構造を模式的に図1に示した.一方,クラスIIバクテリオシンは,ランチオニン等の修飾アミノ酸を含まない低分子ペプチド構造を有するバクテリオシンの全てを包括するとされている.乳酸菌の生産するバクテリオシンが注目される大きな理由は,バイオプリザベーションへの応用の可能性が大きいことにある.有害食品微生物の制御の代表的手法は加熱であるが,全ての食品素材に加熱処理を適用することは出来ない.その場合には,食品保存料の使用が必要となるが,消費者の安全性指向の高まりにともない,化学合成された食品保存料の使用を敬遠する傾向にある.このようなことから,生物由来の安全な抗菌作用を有する天然抗菌物質を活用して,有害食品微生物を制御しようとするバイオプリザーベーション技術の開発が期待されている.バイオプリザーベーションに用いる保存料はバイオプリザバティブと呼ばれ,食経験が十分にあることや有害作用がないことが確認されている必要がある.ナイシンA等を生産する乳酸菌は,ヨーグルトやチーズ等の発酵乳製品や味噌,醤油等の発酵食品の製造に用いられてきており,長年に及ぶ食経験を有していることから,安全が確保されているGRAS(Generally recognized as safe)微生物と認識されている.そのような観点から考えて,ナイシンAをはじめとする乳酸菌バクテリオシンは,バイオプリザバティブとして最適な条件が揃っていると言える.バクテリオシンの食品への利用には,様々な手法が考えられる.1つは,精製したバクテリオシンを食品添加物として利用する手法である.また,バクテリオシン生産菌を発酵食品のスターターとして用いることで,発酵を行いながらバクテリオシンを生産させて有害細菌の増殖を防ぐ手法も考えられる.これらの方法ばかりでなく,食品の種類や形態等に合わせて,多様なバイオプリザベーション手法の構築が可能である.ナイシンAを代表とするクラスIバクテリオシンは,バイオプリザバティブとしての活用が最も期待されている天然抗菌物質であると思われる.実際に,ナイシンAは世界50カ国以上で既に食品保存料として使用されている.我が国においては,現段階ではナイシンAの食品添加物としての使用は認可されていないが,食品安全委員会においてナイシンAに係る食品健康影響評価が進められており,今後の動向が注目される.バクテリオシン生産能を含めた乳酸菌の潜在機能を有効活用することにより,食品の安全性向上が強く期待できる.
著者
Yoshiaki MIYAKE
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.186-193, 2006 (Released:2007-08-25)
参考文献数
23
被引用文献数
10 16

Niihime fruit, produced in the coastal area of the Sea of Kumano in Mie prefecture, is a new sour citrus fruit. This is the first study to examine the characteristics of the flavonoids in niihime fruit. The content of flavonoids in the juice and peel of niihime fruit was determined by HPLC and their distribution was examined in comparison with seven other species of sour citrus fruits. Niihime fruit was found to contain a comparatively high quantity of bioactive flavonoids of the flavanone glycosides with rutinose sugar chain such as eriocitrin and hesperidin as well as the polymethoxyflavones such as nobiletin and tangeretin. The peel extract of niihime fruit exhibited comparatively high antioxidative activity among sour citrus fruits using the DPPH radical scavenging assay. Furthermore, the flavonoids eluted from niihime fruit by over time in hot and cold solutions of water, 5% ethanol, and 25% ethanol, which are commonly used in the field of food processing and cooking, were examined. The flavonoids eluted from niihime fruit in hot 25% ethanol solution was highest content in solutions, and the content of flavonoids eluted in 5min was an approximate half of content eluted in 60min. The flavanone glycosides, eriocitrin and hesperidin, were eluted in higher contents in hot solutions than in cold solutions. The polymethoxyflavones, nobiletin and tangeretin, were eluted to some extent in hot 5% ethanol but were found in low contents in cold solutions. The highest contents were eluted in hot 25% ethanol. The difference in the elution properties between flavanone glycosides and polymethoxyflavones is considered to be a result of their hydrophobic properties. The scavenging activity of DPPH radical for eluates was shown to increase over time, and the activity was suggested to be related to the elution content of eriocitrin, which is an antioxidant in niihime fruit. This study showed that niihime fruit contains a comparative abundance of bioactive flavonoids and these flavonoids are able to be eluted using hot solutions of water and ethanol.
著者
上野 真理子 寺島 晃也 多田 耕太郎 山口 静子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.118-127, 2007-03-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

富山県の伝統食品かぶらずしの品質と食味特性の関係を明らかにするため,県下の代表的な10社の市販品の理化学的分析と官能評価を行い,主成分分析による総合的な解析を行った.市販品は微生物数から推察される発酵状況や有機酸,糖組成に差があり,発酵を主とする伝統的製法タイプ,発酵度合い不十分タイプ,甘味添加を主とする食味調整タイプの3つに大別された.さらに,理化学特性と官能特性を総合した主成分分析の結果,消費者には 2つの価値観が同等の重みを持って存在することが明らかになった.1つは甘味中心に調整された食味を高く評価する価値観で,もう1つは伝統的製法に基づき熟成された食味を高く評価する価値観であり,少なくともいずれかの価値観を満たさない食味は消費者嗜好に適合しないことが示唆された
著者
佐藤 秀美 畑江 恵子 島田 淳子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.904-909, 1996-08-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
6
被引用文献数
1

食パンを赤外線ヒータで加熱した時の内部の水分分布が経時的にどのように変化するかを,特にクラムに着目し,調べるとともに,この水分分布の変化に及ぼすヒータの放射波長特性の違いの影響を検討した.その結果,以下のことが明らかになった.(1) 上下2層に分けて測定したクラムの水分含量はともに,加熱直後に一旦低下し最低値をとった後,加熱前の水分含量よりも高くなった.この加熱過程において,上層の方が下層よりも水分含量は早く,しかも大きく変化した.(2) ヒータの放射波長特性は食パン内部の水分分布に影響を及ぼした.長波長領域の赤外線を放射するヒータで加熱した場合ほど,食パンの部位により,水分含量は大きく異なった.
著者
柴田 真理朗 杉山 純一 蔡 佳瓴 蔦 瑞樹 藤田 かおり 粉川 美踏 荒木 徹也
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.196-201, 2011-05-15 (Released:2011-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
6 3 6

糊化させた米のパンの品質への影響を評価するため,小麦粉パン,米粉パンに加え,糊化させた米粉を添加したパン(糊化米粉パン),お粥を加えたパン(お粥パン)を調製し,それぞれの形状,粘弾性係数,および気泡パラメータを計測した.(1) お粥パンが最も膨張し,糊化米粉パンも小麦粉と同等に膨張したことから,糊化処理した米の添加によってパンの膨張が促進されることが分かった.(2) 糊化させた米を添加したパンは,小麦粉,米粉パンより粘弾性が低い,つまり柔らかいことがわかった.(3) 4種類のパン試料の気泡構造は同一であったことから,粘弾性の差は気泡壁(固相)の違いに依るものと推察された.以上より,糊化処理をした米粉または米の配合が15%の場合,グルテンなどの品質改良剤や,特別な前処理なしで従来の小麦粉100%のパン,または米粉パンより膨張性が良く,柔らかい食感を持つパンを調製することが可能であることが確認された.
著者
岩附 聡 木島 佳子 塩野谷 博
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.236-244, 2011-06-15 (Released:2011-07-31)
参考文献数
44
被引用文献数
2 3

ヒト病原菌に対する抗体の摂取により,腸内細菌叢の改善が期待できるが,その情報は乏しい.我々は,ヒト病原菌に対するミルク由来の自然抗体を多く含む乳清蛋白を中高年健常人ボランティアに投与し,糞便細菌叢の変化をT-RFLP法とFISH法により解析した.T-RFLP法では,腸内細菌は29のOTU(菌の分類群)に分けられ,ミルク抗体の3週間の摂取により減少した菌はOTU369(クロストリジウムクラスターIV),OTU469(バクテロイデス),OTU853(バクテロイデス)であった.また,増加した菌はOTU366(バクテロイデス),OTU443(菌名未定),OTU995(クロストリジウムサブクラスターXIVa)で,ビフィズス菌,乳酸桿菌その他には影響が見られなかった.FISH法による解析は,ミルク抗体の影響を8週にわたり行った.全細菌数およびビフィズス菌には影響しなかった.大腸菌,ディフィシル菌,ウエルシュ菌は減少したのに対し,バクテロイデスとプレボテーラ,フラジリス菌,乳酸桿菌は増加した.ミルク抗体の糞便中への回収を測定すると,摂取したミルク抗体320mgの800μg (0.24%)が糞便中に回収された.ミルク抗体による腸内細菌叢への影響をエンドトキシンのトランスロケーション,関節リウマチの改善作用との関係について考察した.本研究を行うにあたり,WPCの自然抗体の研究にご協力いただきました女子栄養大学衛生学教室桑原祥浩教授・上田成子教授,本論文の作成にご助言いただきましたChondrex Inc. 寺戸国昭博士,また,本研究に参加していただいたボランティアの皆様に感謝申し上げます.
著者
石川 健一 加藤 丈雄 小宮 孝志
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.361-364, 2003-08-15 (Released:2009-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
1

発酵漬物の製造において,乳酸菌を添加した漬物を検討した.スターターカルチャー用乳酸菌の選択と発酵条件について,以下のような結果を得た.(1) 36株の乳酸菌から発酵漬物に適したものを検索したところ,生育速度が速いこと,好ましい酸味や香りを生産することなどから,8菌株を選択した.(2) 最も好ましい香気を生成した,Leuconostoc paramesenteroides DA-1株について性質を検討した結果,最適発酵温度は10°Cで,食塩0∼3%,グルコース無添加のモデル漬物中でよく発酵した.(3) 大根を用いて低食塩の漬物を調製した結果,Leuc.DA-1株を接種することで,腐敗や変色がおこらず,梅酢様の良好な香気,うま味を生成した.
著者
松本 照代 鈴木 裕
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
農産加工技術研究會誌 (ISSN:03695174)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.147-151, 1955-09-20 (Released:2009-04-21)
参考文献数
10

1) 完熟蚕豆中30%含まれている蛋白質を抽出し塩類で凝固させ大豆の豆腐に似たカードを製造してみた。2) 蚕豆中の含窒素物は水で82%, 0.2% NaOHで95%抽出される。抽出された蛋白質を凝固させるには90℃以上にする事が不可欠の条件である。尚凝固剤を加える時の温度は50℃以上であれば凝固するが,外観上の組織は70℃前後の時加えた物が豆腐に一番よく似ている。3) 加える凝固剤はMgCl2, MgSO4, CaCl2, CaSO4を用いたがMgSO4が小量で凝固を起させたが出来た凝固物のなめらかな点ではCaSO4が一番良かつた。4) 抽出された含窒素物は凝固剤CaCl2で80%凝固し,凝固剤の濃度が増しても窒素の割合に変化がなかつた。5) 出来たカードと上澄液の成分を調べた。カード中の含窒素量に蛋白質算出窒素係数6.25をかけると100 %を越すので蛋白質の窒素含有量が16%より多いのではないかと思われた。カード中の脂肪は非常に少量であつた。
著者
津志田 藤二郎
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 : Nippon shokuhin kagaku kogaku kaishi = Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.8, pp.448-449, 2006-08-15

<B>1.食事バランスガイドの制定</B><BR>食事は,運動やストレス,喫煙,飲酒などとともに,私たちの健康に大きな影響を与える要因の一つになっており,健康を維持するためにはそのバランス,すなわち「フードバランス」あるいは「食事バランス」が重要であると考えられるようになった.アンバランスな食事を続けると高血圧や糖尿病,心疾患,脳血管疾患,アレルギーなどの免疫系失調等の生活習慣病に陥る確率が高くなり,生活の質が低下するのみならず早死にを招く結果となることは,誰もが理解するところである.しかし,理解しながらもその実践となると,心もとないのが現実である.こうした事態を打開するため,平成12年に制定した「食生活指針」を具体的な行動に結び付け,国民一人ひとりがバランスのとれた食生活を実現していくことができるよう,食事の望ましい組み合わせやおおよその量を分かりやすくイラストで示した「食事バランスガイド」を,農林水産省と厚生労働省が共同で平成17年6月に決定・公表した.主食(米やうどん,パン)と副菜(野菜やいも,キノコ,海藻等の料理),主菜(肉や魚,卵,大豆等の料理),そして牛乳・乳製品と果物の5つのグループの望ましい摂取量をコマの体積からイメージできるように図案化し,摂取バランスが悪いとコマが倒れ,いわば生活習慣病などの不測の事態が生じることをイメージさせるガイドである.コマの上の軸にはコップがあり,水やお茶などの飲料水摂取の重要性も意識させ,さらにコマの上を走る人間の姿も図案化され,食事のみならず普段からの運動の重要性も見て取れ,世界的に見ても分りやすくユニークなガイドになっている(図1).この「食事バランスガイド」は,同時期(平成17年6月)に制定された「食育基本法」を実践するための教材ともなっており,わが国に健全な食生活を定着させるために大きく役立つものとして期待されている.<BR><B>2.マクガバン報告から現在まで</B><BR>食事と健康の関係について注目し,それを行政的な課題として取り上げた最初の事例は,1977年の「マクガバン報告」である.米国の上院議員であったマクガバン氏は,1960年代の米国民一人当たりの医療費が世界のどの国よりはるかに高いにも係わらず,平均寿命が世界26位であることに失望を覚え,アメリカ上院栄養問題特別委員会を設置して世界から学者を集めて食事と健康に関する調査を行い,膨大な調査結果(マクガバン報告)を1977年に発表した.その中で,(1) 炭水化物摂取の奨励,(2) 脂肪摂取の抑制,(3) 飽和脂肪酸より不飽和脂肪酸摂取の推奨,(4) コレステロール摂取の抑制,(5) 砂糖摂取の抑制,(6) 食塩摂取の抑制を取り上げ,タンパク質(P)と脂質(F),炭水化物(C)摂取の比率は,当時の日本の食事が理想的であり,米国の食事は間違っていることをすなおに認め,以後積極的な食事改良政策を展開した.その後,米国農務省は1992年に各食品群別に食べる量をピラミッドに示した面積から推定できるフードガイドピラミッドを制定し,2005年には個人の事情に合わせることが可能なマイピラミッド型のフードガイドを制定するに至っている.なお,米国でのフードガイドピラミット制定以来,オーストラリアやカナダ,イギリス,オランダ,ポルトガル,中国等でもそれぞれ独自の図案によるフードガイドが制定され,各国が生活習慣病の予防に向けた取り組みを活発に行う時代が到来している.<BR><B>3.国民栄養調査と「日本食事摂取基準(2005年版)」の制定</B><BR>こうした「フードガイド」制定の科学的な根拠としては,わが国で毎年実施している国民健康栄養調査がある.それによると3大栄養素であるPFCについては,30歳以上69歳までの人の摂取目標量がそれぞれエネルギー比で20%未満,20以上25%未満,50以上70%未満となっている.また,脂肪については飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けてその摂取基準を定めており,18歳以上の男性では飽和脂肪酸の目標量(エネルギー)が4.5~7.0%,n-6系脂肪酸の摂取目標量(エネルギー)が同様に10%未満,n-3系脂肪酸の摂取目標量(エネルギー)が男性の18歳以上49歳までが9.4%以上,50~69歳までが11.6%以上,70歳以上が8.8%以上となっている.この他,ビタミン,ミネラルなど微量栄養素についても,それぞれ摂取量の基準が「日本食事摂取基準(2005年版)」に示されており「食事バランスガイド」には,この食事摂取基準を満たすための役割も期待されており,当面はわが国において摂取量が不足している野菜の摂取目標値1日350gと果実の摂取目標値1日200gの実現が重要な課題になっている.
著者
Takehito SAGAWA Hidaka IKEDA Tatsuyuki HIRAOKA Kazuichi HAYAKAWA
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.491-495, 2013 (Released:2013-06-29)
参考文献数
17
被引用文献数
3

Rosemary (Rosmarinus officinalis L.) is a member of the Lamiaceae family that is commonly used in herbal teas. Plants from the Lamiaceae family have numerous peltate glandular trichomes (PGTs). These PGTs contain essential oils, which influence the perception of rosemary aroma. In the present study, we used gas chromatography-mass spectrometry (GC-MS) to evaluate the chemical quantities of 10 active odor compounds from rosemary, i.e., camphene, 1,8-cineole, camphor, linalool, borneol, verbenone, carvone, geraniol, bornyl acetate and alpha-pinene. In addition, we used X-ray computed tomography (X-ray CT) to examine the tissue structure of PGTs from the leaves and stems of rosemary plants. We confirmed that PGTs included 3 types of essential oil. Moreover, we clearly demonstrated that individual PGTs have different structures, filled with different types of essential oil. Our findings suggest that combined use of X-ray CT and GC-MS is an effective means of evaluating the qualities of rosemary PGTs and essential oil.
著者
Zhanglin Ni Fubin Tang Yihua Liu Danyu Shen Runhong Mo
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-6, 2015 (Released:2015-04-08)
参考文献数
22
被引用文献数
6

This paper describes a liquid chromatography inductively coupled plasma mass spectrometry (LC-ICP-MS) method for the determination of low-level sulfite in dry vegetables and fruits. Aqueous 0.1% solution of formaldehyde was chosen as extraction solution for releasing the bound sulfite and forming the more stable hydroxymethanesulfonate (HMS). Sulfite was separated using an anion exchange column with isocratic elution by a 50 mmol•L−1 ammonium nitrate in 0.1% formaldehyde solution (pH 7). Sulfite was detected as 32S16O+ by ICP-MS in DRC O2 gas mode. In the optimum conditions, the linearity of the method is 0.05 – 5 mg•L−1 for sulfite, and the detection limit is 0.02 mg•L−1. The results demonstrated that the method achieved acceptable quantitative recoveries of 78.5% to 91.6% with relative standard deviations (RSDs) < 5%. Compared to the AOAC official method, the proposed method presented advantages of rapid and sensitive.
著者
柴原 裕亮 岡 道弘 富永 桂 猪井 俊敬 梅田 衛 畝尾 規子 阿部 晃久 大橋 英治 潮 秀樹 塩見 一雄
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.280-286, 2007-06-15 (Released:2007-10-04)
参考文献数
16
被引用文献数
7 15

ブラックタイガー由来精製トロポミオシンを免疫原として,甲殻類トロポミオシンに特異的に反応するモノクローナル抗体を作製し,甲殻類トロポミオシン測定用のサンドイッチELISA法を確立した.本法では,甲殻類に分類されるえび類,かに類,やどかり類,おきあみ類のトロポミオシンとは交差率82~102%と全般的に反応したが,軟体動物に分類されるいか類,たこ類,貝類トロポミオシンとの交差率は0.1%未満であった.また,食品全般においても甲殻類以外で反応は認められなかった.検出感度は甲殻類由来総タンパク質として0.16ppmであり,食品表示に求められる数ppmレベルの測定に十分な感度であった.再現性もCV値10%未満であったことから,精度よく測定できると考えられた.さらに,食品由来成分の存在下においてもマトリックスの影響を受けないこと,加熱により変性を受けた場合にも測定可能なことを確認した.したがって,本法は甲殻類由来トロポミオシンに対して特異的であり,加工食品における甲殻類検知法として使用可能であると考えられた.
著者
山岸 賢治 老田 茂 木村 俊之 岩下 恵子 新本 洋士
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.456-458, 2007-10-15 (Released:2007-11-30)
参考文献数
9

生キクラゲ水抽出液の50~70%硫安沈殿物は,マウス前駆脂肪細胞3T3-L1のトリグリセライド蓄積を阻害した.さらに陰イオン交換カラムクロマトグラフィーで部分精製した画分は,3T3-L1の分化を抑制した.この活性画分には,分子量10000以上のタンパク質が複数認められた.
著者
平良 淳誠 大嶺 和可奈 大見 のり子 平良 和代 永田 純一
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.295-300, 2012-06-15 (Released:2012-08-04)
参考文献数
22
被引用文献数
1

沖縄在来系統由来9品種と比較品種系統2品種のカンショ茎葉について,LPS刺激したRAW264.7細胞より誘導される一酸化窒素ラジカル(NO)産生に対する抑制作用を評価した.全品種のカンショ茎葉抽出物にNO産生抑制作用が認められ,同様の葉野菜であるホウレンソウやエンサイよりも比較的高活性であった.NO発生剤NOR3を用いて,カンショ茎葉抽出物のNO消去活性を検討したところ,その主要ポリフェノールであるカフェオイルキナ酸誘導体の総含量と正相関したことから,NO産生抑制メカニズムとしてNO消去作用が寄与している可能性が示唆された.本研究からカンショ茎葉は,過剰なNO産生に伴う様々な炎症性疾患の予防機能性食品として有用食素材になることが示された.
著者
Akihiro OHARA Fumie SAITO Tsugio MATSUHISA
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
Food Science and Technology Research (ISSN:13446606)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.190-193, 2008 (Released:2008-07-29)
参考文献数
16
被引用文献数
5 14

The antibacterial activities of 81 edible plants against the dental caries pathogen Streptococcus mutans were investigated. The fresh vegetative crude extracts were subjected to the paper disc method. Furthermore, in order to fractionate the active component, hexane, ethyl acetate and methanol extracts from freeze-dried samples were also examined. Antibacterial activities were positive in 17 samples, including cinnamon and Japanese ginger. Among these, the stabilities of the active components against heat treatment or storage at 4 °C for one week were also investigated. Following these treatments, the activities of balsam pear and garlic extracts were lost, while the active components in ginger, Japanese ginger, clove and cinnamon appeared. Samples of the genus Zingiberaceae, including Japanese ginger and ginger, contained abundant and stable antibacterial components acting against S. mutans.