著者
板橋 雅子 高村 範子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.56-60, 1985

すんき漬種の代りに菌種とその含有量がほぼ一定であるプレンヨーグルトを用い,王滝蕪と小松菜を原料としてすんき漬処理をしたものを,すんき漬種を添加して同様に処理したものと比較考察し,以下の結果を得た。<BR>(1) 粗たんぱく質含有率はプレンヨーグルト処理物,漬種処理物共原料中の水溶性非たんぱく質の溶出によって原料より高い値を示すが,前者は後者よりやや低い。原料別に見ると王滝蕪の方が残存率が高い。<BR>(2) 漬物中の遊離アミノ酸は王滝蕪ではプレンヨーグルト処理物は漬種処理物よりもはるかに多く,甘味および旨味アミノ酸含有率が高く,官能検査でもすぐれている。小松菜では両者の間に顕著な差がない。<BR>(3) 全アミノ酸含有率は粗たんぱく質の場合と同様に,漬処理物が原料より高い値を示し,その増加率は王滝蕪の方が小松菜より多い。添加物による相違はプレンヨーグルト処理物の方が漬種処理物より含有率がやや高い。<BR>必須アミノ酸含有率は王滝蕪,小松菜共にプレンヨーグルト処理物と漬種処理物との間に大差は見られない。<BR>(4) プレンヨーグルトを添加した場合の漬汁のpHは,最初はプレンヨーグルトそのものの値を示し,時間の経過と共に葉菜中の水分の浸出によって高くなるが,3週間後より次第に低下し,乳酸発酵の進行を示す。
著者
板橋 雅子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.356-361, 1987
被引用文献数
5

すんき中に見出されている乳酸菌の単菌数種を用いてすんき漬を行ない,すんき漬種を用いた場合と比較して,以下の結果を得た.<BR>(1) 漬物中の粗たんばく質の量は,単菌使用のものがすべて漬種使用のものより多い.<BR>(2) 漬物中の遊離アミノ酸中,旨味アミノ酸であるアスパラギン酸およびグルタミン酸の和の値は<I>B.coagulans</I>使用のものが,最大で,このものは官能試験でも最高に評価された.<BR>(3) 漬汁中の乳酸含量の測定結果により,菌種により乳酸菌発酵能が大きく異なることが知られた.すなわち,<I>L. buchneri</I>は非常に大で<I>S. faecalis</I>は非常に小さい.
著者
板橋 雅子 高村 範子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.208-211, 1985

王滝蕪と小松菜とを用いて,最初から乳酸を加えてすんき漬処理を試み,同時に行なった漬種(乳酸菌源)処理物と諸性状を比較して以下の結果を得た。<BR>(1) 粗たんぱく質含量は原料よりも漬処理物の方が大きな値を示すが,その度合は乳酸処理物の方が漬種処理物よりも大きい。このことは乳酸処理ではたんぱく質の分解が少ないことを示す。<BR>(2) 漬処理物中の遊離アミノ酸含量は原料中のそれより減少しているが,減少度は乳酸処理物の方が漬種処理物より少ない。このことは,漬処理による原料葉菜の組織の破壊が乳酸処理の方が少ないためと考えられる。<BR>(3) 乳酸菌源を用いずに乳酸添加のみによってすんき漬を行っても同様な結果が得られる。<BR>(4) 乳酸処理によるすんき漬は葉緑素の鮮度が良好に保存され,味覚上においても良好であった。
著者
能岡 浄
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-6, 1975
被引用文献数
39

フィリッピン産の緑熟健全バナナ果実を6℃に貯蔵したもの,6℃に9日間置いた後20℃に昇温貯蔵したものおよび20℃に貯蔵した果実(対照区)についてデンプン,還元糖および非還元糖の変化と,見かけのG6Pase,PFKおよび見かけのF1, 6DPase活性の変化を調べて次の結果を得た。<BR>対照区において,4日目までは初めとほとんど変らないが,6日および8日目になるとデンプンが著しく減少し,それに見合うだけの糖の急増が認められ,同時にPFK活性も急増する。また8日目以後還元糖が急増し,見かけのG6Pase活性も8~10日目まで直線的に急増する。10日目以後デンプンはほとんど含まれなくなり,PFK活性は次第に減少するが,見かけのG6Pase活性は急増し,糖はさらに増加する。見かけのF1, 6DPase活性は貯蔵日数とともに少しずつ増加し,10日目には約3倍に急増するが,以後半減する。<BR>6℃に4日間貯蔵した果実は対照区と大差ないが,6日および9日間貯蔵した果実および6℃に9日間置いた後20℃に昇温すると1日および3日目では,デンプンの減少はほとんど認められないが,それ以上に糖,特に非還元糖が増加する。また見かけのG6PaseおよびPFK活性は対照区よりも低いが,見かけのF1, 6DPase活性は著しく高い。<BR>6℃に9日間置いた後20℃に昇温して5日および7日目の果実ではデンプンが急減し,それに見合うような糖の著しい増加が認められ,対照区の6日および8日目と同じような傾向を示す。しかし酵素レベルで対照区の8日目と比較すると,見かけのG6Pase活性は高いが,PFK活性はかなり低い。いっぽう見かけのF1, 6DPase活性は著しく高い。<BR>以上の結果に基づき,糖の代謝経路を考察した。
著者
辻 昭二郎
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.61-65, 1984
被引用文献数
1 5

食感の変化を機器によるバラメーターで表現することを検討した。測定にはテンシプレッサーを使用した。<BR>(1) そばとうどんの食感の基本的な違いも両者のfract.特性の差として示せる。<BR>(2) 測定や解析が簡便で再現性のよいパラメーターとして,新たにfract. indexを導入して検討した。<BR>(3) Fract. indexはそばのfract.特性および"のび"にともなう食感の変化を数字的に表現するのに極めて有用であった。<BR>(4) Fract. indexの値で0.74近辺がそばの食感として最適なfract.であり,これよりある程度高くなるとうどんに類似し,逆にこれよりある程度低くなると"のび"たそばの食感に類似するものと考えられる。<BR>(5) そばの放置にともなうテクスチャーの変化においてadhesivenessの変化がかなり大きく,これも"のび"にともなう食感の変化と大きく関係している。
著者
河野 勇人 姫野 国夫
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.39, no.12, pp.1135-1139, 1992
被引用文献数
1 2

発酵食品における製品の再発酵を防止するための天然保存料の開発を目的に,食塩存在下において<I>Zygosaccharomyces rouxii</I>に対するキラー活性を有する酵母菌を<I>Kluyveromyces</I>属酵母のIFO type strainから検索した.クロステストによる検索の結果, <I>K. thermotolerans</I> IFO 1778株,<I>K. vanudenii</I> IFO 1673株, <I>K. lactis</I> IFO 1267株, <I>K.phaffii</I> IFO 1672株が, NaCl存在下(4%w/v)でキラ一活性を有していた.この4株の培養上澄液を添加したNaCl含有培地による<I>Z.rouxii</I>の培養試験の結果では, IFO 1778株のものが最も阻害効果が強かった.また,<I>K. thermotolerans</I>に属するIFO株9株のうち,このIFO 1778株のみ<I>Z.rouxii</I>に対しNaCl依存性のキラー活性を示した. IFO 1778株のキラータイプはK<SUB>1</SUB>~K<SUB>11</SUB>に属さない新しいタイプであり,そのキラー活性は核性遺伝によると思われた.
著者
畑 明美 緒方 邦安
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.132-137, 1976
被引用文献数
1

果菜類のナス,ピーマン,メロン,イチゴについて,生育中ならびに貯蔵中の硝酸塩含量について調べた。<BR>(1) ナスの果実の生育に伴い硝酸塩含量は増加し,いわゆる収穫適期に最高になり,夏採りナスでは,その後,完熟期にはやや減少した。部位別の含量分布をみると,果梗側の基部に含量が高く,出荷適期のもので270ppmも含まれており,果頂部はその1/4~1/5の含量であった。貯蔵中,硝酸塩はやや減少するようであるが,低温下では低温障害が生じ,20℃下では貯蔵後6日で一部腐敗果がでて亜硝酸塩の生成がみられた。<BR>(2) ピーマンの果実の硝酸塩含量を7月と8月の採取果で比較すると,収穫初期の7月果に含量が高く後期では約半分となった。生育に伴う硝酸塩の変化については8月収穫の果実でみたが,幼果期から完熟期へしだいに減少した。 1℃, 12℃, 20℃および1℃のCA(O<SUB>2</SUB> 3%: CO<SUB>2</SUB> 3%)下に貯蔵したが,いずれの区も貯蔵1カ月を経過しても硝酸塩量の変化はみられなかった。<BR>(3) メロンでは未熟果が適熟果に比し含量が高かった。とくに皮部に多く,胎座には少なく,食用とする適熟果の果肉部で17ppm程度であった。<BR>(4) イチゴの硝酸塩は約10ppmで果菜類中では少ない方であるが, 0℃および0℃のCA貯蔵でもあまり減少がみられなかった。 CA貯蔵では,かびの発生がおさえられる傾向がみられたが,亜硝酸塩含量は普通空気区とあまり変らなかった。<BR>本実験を行なうにあたり,試料提供など実験に援助をいただいた京都府大附属農場,寺田友良,今井俊夫の両氏に対し,また分析にあたりご協力いただいた川崎俊和氏,竹崎宏氏に深謝します。
著者
門田 利作 中村 武彦
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.7-10, 1967
被引用文献数
1

以上の実験結果をまとめてみるとつぎのようになる。<BR>(1) 日向夏の外果皮に対する収率は2.12%で全果に対して0.44%であった。これを他の柑橘類レモン,オレンジと交献<SUP>12)</SUP>によって比較してみるとそれぞれ全果に対し0.80%, 0.40%前後であるので,日向夏はこれら柑橘類に比べて精油含有量に大きな差はないようである。<BR>(2) 日向夏芳香中性化合物中,炭化水素化合物として,テルペン系のα-ピネン,d-リモネンを確認でき,かつ他の柑橘類と同じくd-リモネンが主成分であると思われる。<BR>(3) 炭化水素化合物以外に含酸素化合物としてテルペン系のシトラル,リナロール,ゲラニオールが確認され,また脂肪族としてカプリルアルデヒド,デシルアルデヒド,ノニルアルコール,デシルアルコールが確認できた。<BR>(4) ここで確認されたテルペン系および脂肪族化合物は他の柑橘類精油中にも含まれているにかかわらず,日向夏の芳香には一種独特のものが感じられる。これがなにに由来するかいろいろな要因によるものと思われるが,まず第1に考えられることは特有の微量物質の存在,成分の含量比などと思われる。引きつづきガスクロマトグラフ法で研究する予定である。<BR>本報の一部は1964年10月16日宮崎市で行なわれた日本農芸化学会西日本支部大会で講演した。
著者
板橋 雅子 高村 範子
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.859-863, 1985

木曽地方の現地で行なわれているすんき漬の方法(漬種添加,ズミ果実添加,ヤマブドウ果実添加)を実験室で同一条件下に漬処理を行ない,以下の結果を得た。<BR>(1) 粗たんぽく質および総アミノ酸の含量はズミ果実破砕物添加漬製品が最高で,ヤマプドウ破砕物添加漬製品が最低であった。<BR>(2) 漬処理初期と終期のpHはヤマブドウ丸のまま添加漬製品が最低で,漬処理終期のpHはヤマブドウ破砕物添加漬が最高であった。<BR>(3) ズミ果実破砕物添加漬製品は遊離アミノ酸含量が最低であるにも拘らず,官能試験で最高の評価を得た。これは恐らく破砕されたズミ果実中のリンゴ酸,コハク酸,クェン酸および果糖,ブドウ糖が漬物中に浸透したためと考えられる。
著者
平田 孝 渡辺 直哉 石谷 孝佑
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.33, no.9, pp.685-689, 1986
被引用文献数
1

二重包装した焼きのりと味付けのりの水分変化を予測する手法について検討した.まず,焼きのり,味付けのりの水分収着等温線を作成し,経験式に当てはめた.各種の包装形態に適用できるように一般化した数学モデルと水分収着等温線の経験式を用いて,二重包装した焼きのり,味付けのりの水分変化をシミュレートした.開発した数学モデルによって計算された予測値は実測値と良く一致した.コンピューターシミュレーションは乾燥食品の防湿包装設計に有益であると考えられた.
著者
森 光國
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.259-264, 1975

トマトジュース缶詰の品質指標を選定するため,全カルボニル化合物について分離・同定した。また揮発性カルボニル化合物についてもガスクロマトグラフで測定した。その結果大要次のことが明らかになった。<BR>(1) 主要なカルボニル化合物として3-デオキシグルコソン,3-デオキシペントソン,HMFおよびフルフラールが分離同定された。<BR>(2) これら主要カルボニル化合物のうち,量的に多いのは3-デオキシグルコソンおよびフルフラールで,HMFは高温下に貯蔵した場合にのみ多量に生成した。これに対し,フルフラールは室温下でも明らかに生成した。<BR>(3) いっぽう揮発性カルボニル化合物としては9成分のn-アルカナール類,3成分のn-メチルアルキルケトン類およびフルフラールが検出され,このうち貯蔵によりけん著に増加するのはフルフラールであった。<BR>(4) 以上のことからトマトジュース缶詰の品質指標をカルボニル化合物からみた場合にはフルフラールが適当と思われる。
著者
中林 敏郎 真野 三蔵
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.22, no.11, pp.549-553, 1975
被引用文献数
2

焙煎中のクロロゲン酸類の質的および量的変化を明らかにするために,熱分析曲線の変化とクロロゲン酸類の変化との関係を検討した。<BR>(1) コーヒ豆粉砕物の圧縮成形試料を用いることにより,再現性のある熱分析曲線を得ることができた。<BR>(2) コーヒー豆,そのメタノール抽出物,およびクロロゲン酸の熱分析曲線は類似しており,200℃付近に吸熱があり,それ以上で著しい発熱と重量減が起こる。<BR>(3) 200℃付近の吸熱はクロロゲン酸類からの多数の熱変化物の生成反応に基くもので,熱変化物の一部が焙煎コーヒーに含まれることをTLCクロマトグラフィーで明らかにした。<BR>(4) 200℃以上での急激な発熱と重量減は,コーヒー豆成分の酸化や燃焼によるもので,この段階での褐色色素の急増に平行してクロロゲン酸類が急減することをアンモニア発色法を用いて明らかにした。<BR>(5) 以上の結果から,焙煎中クロロゲン酸類は直接,あるいは多数の熱変化物や他の成分との反応で生成する2次生成物を経て褐色色素に変化するものと推定した。<BR>本実験を行なうに当り熱分析の御指導を頂いた本学部の加藤芳朗教授に感謝する。また御援助を頂いたソントン食品工業株式会社および試料を提供して頂いた(株)トミヤコーヒー店(静岡市)に感謝する。
著者
武田 泰輔 岡田 早苗 小崎 道雄
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.31, no.10, pp.642-648, 1984
被引用文献数
1 4

穀類粉のなかの,小麦粉による発酵生地の代表的食品であるパンにおいて,乳酸菌がどのような働きをしているかを究明する実験によって,以下の結果が得られた。<BR>(1) 製パン工場の食パン生地及びバターロール生地中の酵母と乳酸菌の菌数を計測した結果,4時間の発酵過程中に酵母は生地1g当たり10<SUP>8</SUP>個のオーダーで,乳酸菌は生地1g当たり10<SUP>6</SUP>個のオーダーで存在することを認めた。<BR>(2) この乳酸菌の主たる由来を原材料中の生イースト及びドライイーストに求め,これら13試料について乳酸菌数を計測した。その結果,生イースト7試料については製品1g当たり10<SUP>8</SUP>~10<SUP>10</SUP>個のオーダーで,またドライイースト6試料(うち2試料は国産,4試料は欧米よりの輸入品)については製品1g当たり10<SUP>2</SUP>~10<SUP>6</SUP>個のオーダーで存在していた。<BR>(3) 上述の各試料より総計81株の乳酸菌を分離取得し,形態,発酵タイプ等の特徴から各試料に優勢を占める株を代表株として計15株を選び詳細な同定試験を行ってBERGEY'S MANUAL第8版に照合し種名を決定した。<BR>(4) その結果,パン生地からはLactobacillus planta-rum, L. casei,生イースト及びドライイースからは,L. plantarum, L. casei, L. brevis, L. cellobiosus,及びBacillus coagulans系統の乳酸菌が同定された。これらは,発酵性糖を高濃度に含む植物質の発酵液などによく見られるタイプである。<BR>(5) これら分離乳酸菌が,増殖のない状況下でどの程度の生物活動をし得るかを調べた。パン生地と生イーストから分離した代表株9株について,3%ブドウ糖を含むGYP液体培地に,1ml当たり菌数が10<SUP>8</SUP>~10<SUP>9</SUP>個となるように多量の菌体を接種して48時間培養後,その乳酸生成量を測定した結果,いずれの乳酸菌株も,多い少いの差はあるが,すべて乳酸を生産した。このことから,これら乳酸菌は,生地中の分裂増殖がない状況下でも何らかの活動をするものと考えられる。よってパン生地発酵過程中で,乳酸菌は生地やパンの品質,味覚等に何らかの影響を及ぼしているものと考えた。<BR>(6) 研究室の実験規模で,酵母と乳酸菌をそれぞれ別々に純粋培養し,酵母だけで生地発酵して焼いたパンと,酵母と乳酸菌を混合して生地発酵して焼いたパンとで風味等を比較した結果,前者はいわゆる酵母臭があったのに対し,後者ではそれが消失することや,生地の伸展性が良好になるなど,両者間に差があることを認めた。<BR>(7) 以上のことから,培養酵母を添加して造る通常のパン生地発酵には,乳酸菌も関与しており,パンの品質や味覚などに何らかの好ましい影響を与えていると考えられる。従って,旧来の自然発酵生地(パン種)中の固有の乳酸菌を究明し,パン製造に適した優良な乳酸菌を見つけ出して,今日のパンの品質や味覚等の向上改善をはかることが,可能であると考える。
著者
前田 清一 江口 貞也 佐々木 裕
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
農産加工技術研究會誌 (ISSN:03695174)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.166-170, 1960

1. L-リジン塩酸塩1.25%溶液(pH 4, 7, 8, 9, 11)を121℃, 2時間加熱したが,きわめて安定であった。<BR>2. 糖類が共存する場合加熱するとブドウ糖と果糖共存時でのリジンの破壊は酸性側ではみられないが,アルカリ側に移行するにしたがい増大する。しかし蔗糖共存時ではなんら影響を受けないように思われる。<BR>3. 破壊リジン溶液を酸処理すると,破壊リジンの一部はリジン定量菌に反応するようになるが,人工胃液処理の場合は反応しないと考えられる。<BR>4. リジン強化コッペパンは醗酵工程ならびに焙焼中においては添加リジンは安定であった。<BR>5. リジン強化食パンは醗酵工程中で添加リジンは破壊されず安定であったが,焙焼中には17%破壊され,トーストするとさらに10%破壊された。<BR>6. 炊飯時において添加リジンは15~20%, 6時間放置後で,さらに10~15%破壊された。炊飯直後のご飯をpH 2, 37℃で1時間振盪すると添加リジンの10%が賦活された。<BR>終りにリジン強化パン製造に御協力いただいた東京栄養食糧学校ならびに日清製粉K.K.中央研究所に厚く謝意を表します。
著者
末綱 邦男
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.7-14, 1990

Streptomyces californicusの液体培養によって生産された赤色色素を単離精製し,機器分析 (UV,IR,MS, NMR)によりその構造解析を試みた結果,ジデオキシグリセオロジンCと同定した.また,ジデオキシグリセオロジンCはペプチドとの複合体を形成することによりその水溶液は美麗な赤色を呈するので,天然食用色素としての可能性を検討した.基礎的検討の結果,色素-ペプチド複合体水溶液の色調はpH3~5では赤色から赤橙色を呈して, pH6~9では赤橙色から赤紫色を呈した.また,熱に対しては非常に安定であるが,紫外線に対する耐光性は劣った.安全性については初期試験の段階であるが,その急性毒性値はきわめて低く,また突然変異誘発性も有しないと推定された.今後各種食品への利用適性などの応用研究を進め,さらに安全性面での保証が十分得られるならば食用色素としての開発が可能と考えられる.本研究において,終始御指導を賜わりました名古屋大学化学測定器センター近藤忠雄博士, UBE科学分析センター(株)斎藤啓治氏に深く感謝いたします.
著者
伊藤 汎
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.25, no.9, pp.524-525, 1978

糖蜜甘味香の主要成分の一つであるバニリンの精糖工程中における生成の有無を検討した。試料としては同一精糖工場の同一期間の原料糖,ファインリカー,洗糖蜜,廃糖蜜を継続して10日間採取して,原料糖からの流れのタイムラグを防止した。<BR>その結果,原料糖から移行したバニリンは清浄脱色工程で全て除かれ,清浄脱色工程を通らない洗糖蜜に含まれて回収晶析工程を経て糖蜜中に残ったものだけが廃糖蜜中に蓄積されることがわかり,精糖工程中でのバニリンの生成はないことが明かとなった。
著者
渡辺 智子 土橋 昇 高居 百合子 大政 謙次 田中 浄 鈴木 彰
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.7-16, 1993
被引用文献数
1

ナメコ栽培におけるO<SUB>3</SUB>暴露(対照区およびO<SUB>3</SUB>試験区:0.03ppm区,0.1ppm区,0.3ppm区)の影響を化学成分面から検討した. <BR>O<SUB>3</SUB>暴露により有意に増加した成分は,傘では水分,脂質,炭水化物,V.B1およびV.C,柄では水分およびV.C,全子実体では水分,脂質およびV.Cであった.O<SUB>3</SUB>暴露により有意に減少した成分は,傘では重量,タンパク質,灰分,Fe, Na, KおよびZn,柄では重量,灰分,KおよびZn,全子実体では重量,灰分,Na, KおよびZnであった. <BR>O<SUB>3</SUB>暴露濃度との間に有意な正の相関を示したものとして,傘では水分および脂質,柄では水分,タンパク質およびV.C,子実体では水分と脂質およびV.B<SUB>2</SUB>であった.O<SUB>3</SUB>暴露濃度との間に有意な負の相関を示したものとして,傘では重量,タンパク質,灰分,NaおよびZn,柄では重量,炭水化物および灰分,全子実体では重量,灰分,NaおよびZnであった. <BR>通常環境(対照区)の栽培において,ナメコの傘は柄に比較して,炭水化物以外のすべての一般成分,Fe, Na, K, Zn, V.B<SUB>1</SUB>, V.B<SUB>2</SUB>およびV.Cを多く含有していた.
著者
川井 英雄 鷹野 真二 内木 美絵子 鈴木 桂子 兼次 忠雍
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.493-497, 1994

紅茶浸出液にビタミンCを添加し, pHおよび加熱殺菌の条件を変えて,密封容器中でのビタミンCの残存率を検討した.また,市販缶詰紅茶飲料のビタミンC量,Brix, pHを調査した.<BR>紅茶浸出液にビタミンCを添加(25mgと40mg/100g)後, pHを5.50, 6.00, 6.50に調整, 115℃で13分と19分, 120℃で4分と6分および121℃, 15分加熱した. 加熱殺菌後,総ビタミンC (TVC)は70~80%残存し, pHや加熱条件による差はほとんど認められなかった.紅茶浸出液に上記と同様にビタミンCを添加し, pHを4.60に調整,上記と同様な条件で殺菌した.この場合に115℃で10分以上より120℃,数分のほうがTVC,還元型ビタミンC (AsA)ともに高い残存率を示した.市販缶詰紅茶飲料のTVC量は平均14.9mg/100gであった.ストレートティーのBrixは平均4.9, pHは平均5.56であった.フレバリーティーはストレートティーより, Brixは高く, pHは低かった.
著者
川村 信一郎 深川 正弘
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.30-33, 1968

香川県産の金成と米国北部産のメリットをヘキサンで余り高温にならないようにして油を抽出した脱脂大豆に水を加えて,脱脂大豆無水物100部に対し水分120部として120℃に50分蒸煮すると,還元糖がはじめ0.1~0.2%であったのが,10倍前後の0.8~1.0%にふえた。これはグルコースとフルクトースであり,ガラクトースもできたらしい。非還元糖は脱脂大豆に10~11%含まれていたのが1~3%だけ減少した。定量的ペーパークロマトグラフィーの結果でもサッカロース,ラフィノース,スタキオースがそれぞれ減少した。全糖の量が減少しているので,非還元糖から生じた還元糖の一部は二次的に変化したものと考えられる。そのひとつとしてアミノカルボニル反応が考えられ,実際着色が進むことは周知のとおりである。水溶性窒素は1%に減少した。
著者
津田 孝範 藤井 正人 渡邉 美栄 中莖 秀夫 大島 克己 大澤 俊彦 川岸 舜朗
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.475-480, 1994
被引用文献数
2

本金時抽出物の抗酸化性について食品レベルで抗酸化効果を示すかどうか検討した.<BR>(1) 本金時抽出物は,リノール酸モデル系において強い抗酸化性を示し, α-トコフェロールと同等かそれ以上の抗酸化性を示した.<BR>(2) 本金時抽出物は,クエン酸との間に強い相乗効果を示すが, α-トコフェロールとの間には,顕著な相乗効果を示さなかった.<BR>(3) ラードを用いたAOM試験においても本金時抽出物は強い抗酸化性を示し,クエン酸との間に強い相乗効果が認められた.従って,本金時抽出物を食品加工へ利用するときには,クエン酸を同時添加することが効果的であると考えられた.<BR>(4) 本金時抽出物を,ラードを用いたビスケットに添加したところ効果的にPOVの上昇を抑制し,クェン酸を同時添加すると更に強い抗酸化効果が認められた.<BR>(5) 本金時抽出物とクエン酸を同時添加したコーンサラダ油で揚げた小麦粉あられは, POVの上昇抑制効果が見られたが,その効果は,ビスケットへの添加効果と比較すると弱かった.<BR>(6) 本金時抽出物をβ-カロチンを含むモデルジュースに添加したところ,効果的にβ-カロチンの退色を抑制し,本金時抽出物は,ジュース中のような水系においても強い抗酸化効果を示すことが明らかになった.