著者
松田 芳郎 大石 勝昭
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.479-486, 2005-12

本稿の目的は,病院マネジメントシステムの角度から「意思決定と問題解決のプロセス」を論考し,一般の病院に共通すると考えられるシステム論を構造的に解明することである。「意思決定と問題解決のプロセスは同じ構造の思考過程が相互関連して立体的に連鎖する」,「その作用に実践的な目標を与えるものが病院マネジメントシステムである」と筆者らは想定して本稿を組み立てた。しかし,本稿はデスクワークだけの産物ではなく,筆者らが金沢医科大学病院の電子カルテシステム(フルオーダリング,医事会計,健康管理情報などの各部門連携機能を含む)開発プロジェクトなどの経験(1995〜1998年)を通じて得たフィールドワークの産物でもある。本稿は,論考の筋道を明らかにするためシンプルな記述を心がけた。シンプルな記述とは,思考範囲を特定の対象に絞って推論し,確信に至らなかった仮定を捨てて残ったエッセンスを記すことである。勢いその論考は抽象的にならざるを得ないが,といってそれは実際の病院マネジメントシステムの原則を逸脱したものではない。マネジメントシステムの在り方は病院により千差万別であるが,各々のバラツキを払ってなお残る共通プロセスを浮き彫りにすることが,筆者らの意図したことである。実務の具体性と論考の抽象性は表裏の関係にある。ゆえに「意思決定と問題解決のプロセス」は,病院が大きな問題を解決するときの道標に成り得ると確信する。
著者
島田 ひろき
出版者
金沢医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

13年度の研究成果より,マウスにおいてパラコート(PQ)解毒系として,肝臓の薬物代謝系酵素(NADPH-cytochrome P450 reductaseおよびCYP3A,2B)が働いていることがin vivo実験で明らかとなった。そこで,本年度はPQ代謝経路がどの様に関わっているかを更に詳細に明らかにするため,マウス肝ホモジネートよりポストミトコンドリア画分,ミクロソーム画分およびサイトゾルを調製し,in vitroでのPQ代謝活性を測定した。マウス肝ホモジネートをPQとNADPHとともに反応させると,PQが減少し,代謝中間体であるparaquat-monopyridone(PM)が生成した。CYP3A阻害剤であるtroleandomycinはPQの減少を抑制し,PMを増加させた。また,PMはミクロソーム画分ではなくサイトゾルで生成していた。フェニトインによってマウス肝のCYP3Aおよび2Bを誘導すると,ポストミトコンドリア画分でのPM生成が減少したが,サイトゾルでは変化が見られなかった。これらの結果より,PQはサイトゾルでPMとなった後,小胞体薬物代謝酵素系によって水酸化解毒されることが明らかとなった。これまでに我々はPQ毒性発現がミトコンドリアにおけるフリーラジカル生成によるものであること,細胞膜透過性フリーラジカルスカベンジャーが毒性を抑制することを明らかにしている。そこで次に,リファンピシンやフェニトイン処理によってCYPを誘導したマウスにPQを投与し,引き続きフリーラジカルスカベンジャーであるα-トコフェロール(α-T)を繰り返し静注投与した。その結果,PQ単独投与では生存率が40%だったのに対し,CYP誘導とα-T投与によって100%にまで回復した。以上のことから,PQ中毒においてCYP誘導とα-T投与が有効な治療となりうることが強く示唆された。
著者
安田 幸雄 黒田 尚宏 堀 有行 相野田 紀子 大原 義朗 鈴木 孝治
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.408-412, 2005-12
被引用文献数
1

医学教育評価には客観試験が多用されている。中でも多肢選択問題(MCQ)は単位時間当たり多くの問題を出題できるため,信頼性が高い。また事前に合格ラインを決定できること,事後に問題の良否を検討できることも優れた特徴である。しかし,臨床能力の評価法としての妥当性はやや劣る。医師国家試験(国試)にはMCQが使用されており,信頼性の高さは認められている。また近年の出題基準の改訂により妥当性も向上していると考えられる。国試にはAタイプ,Kタイプ,Xタイプの3種類が使用されているが,Aタイプが最も知識レベルを正しく反映し,Kタイプが多くなるほど正答率は上がり,Xタイプが多くなるほど正答率は大きく下がると推測される。共用試験のコンピュータ試験(CBT)トライアルにはMCQのうち,AタイプとRタイプが使用されている。Rタイプは臨床問題解決能力を評価するのにより適した方法と考えられている。CBTはいつでもどこでもテストが受けられることを目指している。この条件を満たすためには,膨大な数の問題をプールしておくだけでなく,異なる問題セットで受験者を適正に評価する方法論が必要となる。項目反応理論(IRT)はこの目的で開発された新しいテスト理論で,受験者の絶対評価を目指している。このテストが実施されるようになると,医学教育は変貌を余儀なくされるものと予想される。
著者
吉田 純子 石橋 隆治 西尾 眞友
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.420-426, 2005-12

細胞内Ca^<2+>イオンは筋収縮,分泌,および細胞の増殖・分化などの情報伝達において重要な二次メッセンジャーとして働いている。その細胞内濃度の恒常性は,細胞膜に存在するCa^<2+>透過性イオンチャネルやイオントランスポーターおよび細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からの遊離や取り込み機構によって保たれる。高血圧,狭心症,不整脈の治療薬の一つであるCa^<2+>括抗薬は電位依存性L型Ca^<2+>チャネルに結合し,細胞内へのCa^<2+>流入を抑えて血管平滑筋や心筋細胞の興奮性を低下させる。しかし,近年,ある種のCa^<2+>拮抗薬がL型Ca^<2+>チャネル遮断ではなく,抗酸化作用や血管平滑筋の増殖抑制作用を介して動脈硬化や血管再狭窄に対する予防効果を示すことが明らかにされてきた。また,がん細胞に対する増殖抑制作用も報告され,ヒトがん細胞を用いた我々の基礎的研究結果からもCa^<2+>拮抗薬のがん細胞増殖抑制作用が示唆されている。本総説では,Ca^<2+>拮抗薬の多様な薬理作用,特に細胞増殖抑制作用について概説し,細胞内Ca^<2+>濃度を調節する分子群が,抗動脈硬化薬や抗腫瘍薬の新しい分子標的となる可能性を展望した。
著者
田村 幸子 新谷 恵子 佐々木 栄子 元雄 良治
出版者
金沢医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

平成23年は全国がん診療連携拠点病院で外来化学療法を受けるがん患者を対象に、実態調査を行った。回収できた826名のデータから、身体側面では痛みやその他症状の実態、精神・心理側面では不安・うつの実態、社会側面では就業・同居家族の実態が、それぞれ明らかになった。またQOLの実態も明らかにした。平成24年は回収データの統計分析を行い、QOLと各問題との関連に基づいてケアの方向性を考察した。平成25年は具体的なケア方法を探求し、身体症状への看護介入として「症状マネジメントの統合的アプローチ」、不安・うつへの予防的看護介入として「がん体験の語り」が有用であると考察した。今後の課題は有用性の検証である。
著者
野島 孝之 長嶋 和郎 竹上 勉
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

横紋筋肉腫と鑑別診断上,問題となる悪性軟部腫瘍症例について組織学的,分子生物学・遺伝子学的検討を行った。その結果,横紋筋肉腫の組織学的な診断には,免疫組織化学的にデスミン,サルコメリックアクチンが有効で,両者は大部分の腫瘍細胞に陽性を示したが,ミオグロビンは極一部の腫瘍細胞の胞体内に陽性を示すに過ぎなかった。CD99(MIC2遺伝子産物)は横紋筋肉腫の70%の症例に陽性所見を得、CD99の横紋筋肉腫の診断への有効性を示唆する。しかし,染色態度はEwing肉腫/PNET群では細胞膜に強度の陽性所見を示すのに対し,横紋筋肉腫では細胞質内に弱い染色態度を示すに過ぎず,診断学上の価値はデスミン,サルコメリックアクチンに劣ると思われる。横紋筋肉腫の胞巣型では異なる染色体上の2つの遺伝子、PAX3、あるいはPAX7とFKHRが部分的に結合し、正常とは異なるDNA配列により異常な蛋白を産生し、腫瘍が発生すると考えられている。遺伝子解析ではPAX-FKHRの再構成キメラ遺伝子の存在が胞巣型に特異的であり,検索した胞巣型全例にこのキメラ遺伝子を検出した。鑑別診断上問題となる悪性リンパ腫,Ewing肉腫/PNET群,悪性線維性組織球腫,胎児型横紋筋肉腫では検出されなかった。一方,多形型横紋筋肉腫7例中1例にPAX-FKHR変異遺伝子を検出した。組織学的には多形細胞,巨細胞を交える紡錘形細胞肉腫の像で,胞巣型の部分は全く含まれていなかった。PAX-FKHR変異遺伝子の検出は1例のみであるが,PAX-FKHR変異遺伝子の存在は胞巣型と多形型の腫瘍発生機構における類似性を示唆するものであった。
著者
山口 宣夫 小川 法良 杉山 清 伊川 廣道 松葉 慎太郎 清水 昌寿 宗 志平
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

妊娠直前または妊娠中に母マウスを免疫すると、仔動物の能動免疫が長期間(1/6生涯)且つ強力に抑制されることを報告してきた。抑制が強く認められたのは、綿羊赤血球及び卵白アルブミン等のTD抗原であった。仔に抑制を誘導する因子の解析では、抗原分子あるいは母親の移行抗体共に否定的であった。しかし、母仔共にCD4陽性のT細胞が関与していることが判明した。仔における抗体産生の抑制は、母親の主要組織適合抗原複合体(MHC)に拘束されることが明らかになっている。また、母親のTcellをcell-free状態にすると仔に抑制が成立せず、母親と仔の細胞の間にcognateな反応が必要である。また平成12年度〜14年度の研究では仔のリンパ組織中に母親由来の細胞の移行をDNAフィンガープリント法により証明する等の方法により、母仔間に母親リンパ球のtraffickingを証明してきた。15年度はこれらの成績を基にインフォームドコンセントを実施した健常ヒト母子(母親とその男児2名)ボランティア1組を選択し、子における母親由来のリンパ球の移行をHLAハプロタイプの解析により証明することを試みた。HLA遺伝子座はA、B、C、DR、DQを網羅して母親(40才)由来のホモ遺伝子を獲得したリンパ球を児(11才、13才)の末梢血中に追跡した。しかし、この家族間での母子間traffickingを証明するには至らなかった。解析方法の感度、移行細胞の頻度ならびに児体内での増殖能等の影響が考えられた。本年度の成績を踏まえて、今後は自己免性疫患児の症例数を増す様に企画してゆきたい。
著者
黒田 尚宏
出版者
金沢医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は,平成18年度に作成した携帯電話のメール機能を利用したメーリングリストのシステムを利用し,学生の協力を得て更なる試験を実施した.学生の反応は即時応答性が高いことが実証され,またテュートリアル形式の授業の評価コメントを送ったり,授業の宿題など重要なお知らせを通知したりといった使用法については,学生へのアンケートの結果,学生にとっては有用性が高いことが判明した.携帯電話のメール機能を学生への連絡や呼び出しに使うという方法について,学生側の通信費の負担感について調査を行った結果,データ(パケット)量の多いWeb形式よりはメールの方が負担感は少ないものの,ある程度考慮して欲しいという意見が大勢であった.ただし,自分にとって有用な情報は紙の掲示だけでなく携帯メールにも送って欲しいという意見も多く,通信費の問題はあるものの,一方で学生の欲しがる情報を与えていれば,他方で教育目的の活用も受け入れられるであろうという示唆を得た.本学では学生個人のノートパソコンを必携化しているため,通信費の負担が理由で携帯電話のメール機能を利用したくない学生は,本学より付与されるパソコンの電子メールアドレスを利用すればよく,メール機能を教育目的に利用する基盤は整っていると考えられた.平成19年度は更に,簡易なMCQなどの小テストをメールとして発信し,その返信を自動収集・集計する機能を新たに追加して,学生に対してその使い勝手や有用性について検証を行った.検証の結果,Questionメールに対するAnswerメールの対応付けに大きな問題があることが判明した.例えば,複数の教員から同学年の学生に同時期にQuestionメールが発信された場合に,学生がそれぞれに回答した時,どのメールがどのQuestionに対応しているかの判断をどのように解決するか,という問題である.この問題に対し,本文の先頭にQuestionを一意にする番号(制御コード)を付加し,返信時にもそれをそのまま付けた形で返す方式を採用したが,学生側がこれをよく理解していないため,この制御コードを返信時に削除してしまう事態が多発してしまった.他の方式も検討したが,いずれも学生に周知しておかなければならない何らかのルールを設定する必要があり,メールのみでは最良の解決策は考えられなかった.したがって,小テストについてはメール内にWebページへのリンクを掲載し,Web側で回答させるのがよりよい解決方法ではないかという結論に至った.
著者
石垣 靖人
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.320-325, 2005-12

例えば色素性乾皮症,Werner症候群,血管拡張性失調症などの劣性遺伝疾患ではmRNAの読み枠の途中で終止コドンを生むナンセンス変異が原因遺伝子に見いだされ,その発現は,mRNAレベルでほぼ消失していることが知られている。これはナンセンス変異をもつ遺伝子のmRNAが細胞内で選択的に分解されていることが原因であるが,この分解経路のことをRNAサーベイランス,またはナンセンス変異依存mRNA分解機構(Nonsense-mediated mRNA decay),略してNMDと呼ぶ。現在考えられているNMDのモデルでは,はじめにスプライシングに伴ってエキソンとエキソンのつなぎ目にタンパク質の複合体(Exon junction complex)が結合する。この複合体を介してNMD関連因子がmRNA上へ集結する。このあとの翻訳で,リボソームがナンセンス変異で停止すると,変異の3'側に結合するNMD関連因子と相互作用して変異mRNAだけを選択的に分解に導く。この時,リン酸化および脱リン酸化反応が分解へのスイッチとして機能すると考えられている。ナンセンス変異は遺伝疾患で見いだされるだけでなく,スプライシングの失敗やRNA編集の結果として,常に生体内のmRNA上に生まれているらしい。NMDはこのような遺伝情報のノイズを排除しており,遺伝情報の品質管理に必須な機構であると考えられている。
著者
岩淵 邦芳 福徳 雅章
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

p53は発癌の抑制に関与する転写因子であり、p53の遺伝子の異常が各種のヒト癌の発症に関係することが明らかになってきている。我々はyeast two hybrid systemを用いて、p53のDNA結合ドメインを介して野性型p53とのみ結合する2種の細胞性蛋白質53BP1,53BP2を見い出し報告してきた。本研究機間に53BP1,53BP2の機能に関して以下のような結果を得た。1.1972残基から成る53BP1の全アミノ酸配列を明らかにした。p53との結合領域であるC末270残基は、酵母蛋白質RAD9および乳癌抑制遺伝子産物BRCA1のC末に見られるBRCTdomainと呼ばれるモチーフと相同性を示した。2.53BP1、53BP2のゲノム遺伝子はそれぞれ染色体上の15q15-21、1q41-42に位置した。3.動物細胞内で53BP1、53BP2の^cDNAからそれぞれ22kD以上、150kDの大きさの蛋白質が産生された。抗53BP1抗血清によるウェスタンブロッテイング法で、肺癌細胞株H358細胞に^cDNAからのものと同じサイズの内因性53BP1を検出した。4.53BP1は1)細胞質と核内 2)核内に均一 3)核内にドット状と3つの局在パターンを示したが、53BP2は常に細胞質に局在した。5.53BP1、53BP2はp53の転写活性化因子としての機能を増強させた。BRCTdomainは細胞周期のチェックポイントに関与する蛋白質に広く見い出されており、又、両蛋白がp53による転写を活性化する事から、両蛋白はp53のシグナル伝達経路のなかでp53の上流に位置する可能性がある。今後、両蛋白によるp53活性化の機序を検討する予定である。
著者
下川 隆
出版者
金沢医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

有尾両生類の一種であるアホロートルを用いて、切断された四肢骨格筋の再生メカニズムの分子機構を解明することを試みてきた。本研究では、マウスやニワトリの四肢発生過程で、前/後肢の決定に関与するPitx1に着目し、アホロートルにおいてPitx1のクローニングを行い,四肢再生過程ならびに発生過程における発現パターンについて、解析を行った。Pitx1の切断四肢再生過程における発現様式について,RT-PCRにて解析を行ったところ,前肢および後肢のいずれにおいても発現が認められた。前・後肢の部位による発現パターンの変化は認められず、全体的に一様に発現することが明かとなった。Pitx1の四肢再生過程における発現レベルは、前・後肢いずれにおいても,再生初期において発現レベルの増加が認められ、再生過程が進むに従い漸減していた。このことから、四肢再生過程でPitx1は、再生組織のパターン決定には関与せず、主に再生組織の増殖に関与しているものと考えられた。Pitx1の再生四肢における機能を解析するために,再生芽にアンチセンスオリゴDNAをエレクトロポレーションで導入したところ,再生芽の形成・伸長の遅延が認められたところから、四肢再生過程では再生組織の増殖に関与していることが確認された。さらに,成体のアホロートルにおいては、Pitx1が再生していない通常状態の四肢において発現していることが明らかとなった.このことは、マウス等の従来の報告とは異なっており、四肢再性能になんらかの関与を示すと考えられた。Pitx1について、発生過程における発現パターンをホールマウントin situ hybridizationで解析したところ、後肢にのみ発現が認められたところから、四肢発生過程では、前/後肢の決定に関与していると考えられた。
著者
及川 卓
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.178-185, 2003-10

背景:エトポシド(VP-16)投与下の肺腺癌にCAMを併用した際の抗腫瘍作用およびアポトーシス誘導の増強効果についてin vitroおよびin vivo実験にて検討した。方法:ヒト肺腺癌細胞株(A549,LCSC#1)を対象に,VP-16,CAMの単独・併用投与におけるin vitroでの抗腫瘍作用をCell Counting Kit-8にて,アポトーシスについてはAnnexinVにて,アポトーシス関連蛋白の発現はWestern blotting法にて検討した。In vivo実験では,マウス大腿部にマウス肺腺癌細胞株(LL/2)を皮下移植し,VP-16,CAMを強制胃内投与後,腫瘍体積の経時変化を解析し,腫瘍細胞のアポトーシス誘導についてApopTagを用いて検討した。結果:VP-16にCAMを併用することにより,抗腫瘍作用とアポトーシス誘導の増強を認めた。Western blotting法では,Cyt-c下流のXIAPの軽度抑制を認めた。LL/2移植マウスの検討でも,VP-16にCAMを併用することにより抗腫瘍作用の増強,腫瘍細胞のアポトーシス増加が確認された。結論:VP-16投与下の肺腺癌にCAMを併用することにより抗腫瘍作用とアポトーシス誘導の増強を認めた。今後XIAPも含め,機序に関する更なる検討が必要である。
著者
上原 啓吾
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.161-167, 2005-10

【目的】門脈内に分泌されたGLP-1が肝門脈域における迷走神経感受機構を介してインスリン分泌を促進するか否かを明らかにするために,ラットで生理学的量のGLP-1及びグルコースの門脈内注入による血中のインスリン濃度を選択的肝迷走神経切断および非切断の条件下で測定した。【方法】Wistar系雄性ラットを用い,1)摂食時の動脈血GLP-1濃度を測定,2)摂食後のGLP-1血中濃度に相当する注入量を決定,3)選択的肝迷走神経切断あるいは非切断を行い無麻酔無拘束下に門脈内にグルコース10mg/kg/minを10分間投与,続いてグルコースに加えGLP-1 1.0pmol/kg/minまたはvehicleを10分間並行投与しインスリン濃度を測定した。【成績】摂食15分後の血中GLP-1濃度の上昇は8.6±2.4pmol/lであり,GLP-1 1.0pmol/kg/min門脈内注入はこの変動に相当する上昇をもたらした。グルコース注入中,グルコース濃度はGLP-1注入の有無,迷走神経切断の有無で差を認めなかった。非切断ラットではGLP-1注入3分後からインスリン濃度は有意に増加,GLP-1注入10分間のarea under the curve (AUC)はvehicle注入の約5.4倍であったが,選択的迷走神経切断によりAUCは40%に減少した。【結論】生理学的量のGLP-1門脈内投与は血糖上昇に対するインスリン分泌を増大させたが,選択的肝迷走神経切断によってこの作用は大きく減弱した。摂食時GLP-1の示すインスリン分泌促進に迷走神経機構が関わることが示唆された。
著者
太田 隆英
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

Rhoファミリータンパク質の制御分子であるRhoGDIβ(Rho GDP-dissociation inhibitor β)は癌の悪性進展に関わることが知られているが、その役割は依然として不明である。本研究では、免疫蛍光染色法やGFP 標識RhoGDIβを用いてRhoGDIβの細胞内局在を明らかにするとともに、RNAiによりRhoGDIβをノックダウンした時の影響を詳細に観察し、RhoGDIβがcentrosomeの機能の制御や細胞極性の制御を通じて癌悪性伸展に関与することを示した。
著者
王 芙蓉 加藤 伸郎 須貝 外喜夫 孫 鵬
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

アルツハイマー病は大脳皮質での緩慢な神経細胞減少を特徴とする。神経幹細胞で補充する手法を開発し、その神経生物学的根拠について特に脳由来神経栄養因子の関与の面から明らかにすることを目的とした。アルツハイマー病モデルマウスにおいて、脳由来神経栄養因子を発現させることが知られている経頭蓋磁気刺激によって学習能力が改善することを見出した。蛍光を発する神経幹細胞を単離し、これを脳内へ移行させるための手技を利用可能にした。
著者
森河 裕子 三浦 克之 西条 旨子 中西 由美子 中川 秀昭 北岡 和代 西条 旨子 中西 由美子 中川 秀昭 北岡 和代
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

交代勤務特に深夜勤務への適応・不適応(耐性)に伴う健康問題と、適応・不適応に関連する要因を検討した。一製造工場の男性夜勤交代勤務者を対象に全体調査と抽出調査を行った。夜勤交代勤務への適応に最も強く影響したのは年齢であり、慣れによって不適応感が軽減していくものではないことが示された。客観的睡眠モニターから深夜日の睡眠はコマ切れであり、効率の悪い睡眠であることがわかった。不適応者における睡眠以外の健康影響として、疲労蓄積による自然免役能の低下が示唆された。夜勤交代勤務による健康影響の最小化のためには、特に不適応感を抱いている者に対する適切な対応が必要である。