著者
須見 洋行
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.137-146, 2014 (Released:2018-03-06)
参考文献数
26
被引用文献数
2 1

血液には,血液を凝固させる凝固系と凝固した血液を溶かす線溶系が存在し,そのバランスが大切である。筆者はこれまでに血液の凝固-線溶系について研究を重ね,1980年代に血栓を溶解するナットウキナーゼを発見し,納豆の健康食品としての有効性を裏付けた。本稿では,焼酎香気成分が線溶因子の1つであるt-PAの放出を促進し,血小板凝集を阻害することについてご紹介いただく。これまでに,適量飲酒は心臓疾患や脳梗塞に良いという結果が多くの疫学調査で報告されているが,焼酎香気成分の寄与もあるのではないだろうか。
著者
松島 健一朗
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.9, pp.643-650, 2014 (Released:2018-04-06)
参考文献数
30

国菌と呼ばれる麹菌はしょうゆづくりにおいて最も重要な微生物である。筆者にしょうゆの今までとして,しょうゆづくりにおける麹菌の役割としてのタンパク質の分解,日本の製麹法の確立としての撒麹,しょうゆのこれからとして,麹菌のゲノム解析,遺伝子組換え技術の発展におけるジーンターゲッティング,グルタミナーゼの遺伝子レベルにおける役割の解析,圧搾性改良が期待されるマンナン分解酵素を制御する転写因子ManR,麹菌がアフラトキシンを生産しない遺伝子レベルでの理由を解説いただいたので,麹菌を扱っている方はご一読いただきたい。
著者
後藤 邦康
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.149-159, 2012 (Released:2017-10-24)
参考文献数
4
被引用文献数
2 2

全国新酒鑑評会は,国内において全国的規模で開催されている唯一の鑑評会であり,最高の酒造技術を擁して製造される吟醸酒を対象としている。この鑑評会は,出品する蔵元,技術者各位の酒質向上への真摯な姿勢によって支えられ,現在なお継続しており,今年(平成24年)の開催で第100回目を迎える。これまでにもいろいろな角度から述べられてきた全国新酒鑑評会ではあるが,この節目の時に当たって,新たな視点に立った捉え方で改めてこの100年を概観していただいた。関心ある方の一読をお薦めする。
著者
里見 正隆
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.11, pp.842-852, 2012 (Released:2017-12-15)
参考文献数
20
被引用文献数
1

CODEXにおいて魚醤油のヒスタミンの基準値は400ppmに設定される予定であるので,魚醤油のヒスタミンの低減は重要である。著者は魚醤油のヒスタミンがTetragenococcus halophilusのピルボイル型ヒスチジン脱炭酸酵素により,ヒスチジンから生成されるので,ヒスタミン非生成のT. halophilusスターターとショ糖を魚醤油諸味に添加することにより,ヒスタミンを低減できることを明らかにした。さらに,魚醤油にベントナイトを2%添加することにより,ヒスタミンを約20%低減できるが,前者の技術の方が経済的に有効であることを明らかにしたので,解説いただいた。醤油,味噌醸造におけるヒスタミン生成菌は魚醤油と同様であるので,多いに参考にしていただきたい。
著者
宇多川 隆
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.7, pp.477-484, 2012 (Released:2017-12-12)
参考文献数
7
被引用文献数
1 6

魚醤は魚を塩漬けにして,発酵される伝統的な調味料であり,その製造には約1~3年の長期間を要する。近年,タンパク質分解酵素製剤や麹を添加する方法が開発されているが,微生物汚染を避けるために食塩の添加は必須であった。著者は高温条件(55℃)において,微生物汚染を回避し,かつ,食塩阻害によるタンパク質分解酵素の阻害を回避するために,食塩無添加でサバ魚醤の発酵期間を15時間前後と大幅に短縮でき,ヒスタミン生成菌の汚染も回避でき,ヒスタミンの生成が10~20ppmに抑制できる速醸法を開発したので,解説頂いた。
著者
春見 隆文
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.10, pp.618-627, 2010 (Released:2016-02-04)
参考文献数
19
被引用文献数
2 2

微生物は高浸透圧の環境にさらされると,細胞内の水分が細胞外に移動するため生育が困難となる。しかし,酵母やカビなどは細胞内の浸透圧を高めて細胞外の高浸透圧に耐えるメカニズムを備えている。本稿では,微生物における浸透圧応答を適合溶質としての糖アルコールの生成について,一般的な出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeとエリスリトール生成菌Trichosporonoides megachiliensisを例に解説していただいた。
著者
岡嶋 研二
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.285-293, 2010 (Released:2012-02-24)
参考文献数
25

インスリン様成長因子–I(IGF–I)はほとんどの組織で発現し細胞の分化や成長,機能維持に重要な役割を演じる。著者らは知覚神経を刺激することによりIGF–Iの産生が増加することを見出した。これらの所見を基に,日本酒による美肌効果はその中に含まれるα—グルコシルグリセロール(α GG)が知覚神経を刺激し,IGF–Iを増加させるために発現することを突き止めた。本稿ではIGF–Iの生体内機能について詳細に解説して頂いた。更に日本酒がもつ美肌効果,認知機能の改善,抗うつ効果に関し実験データを基に解説して頂くと共に,赤ワインやビールにも認知機能改善などの効果が期待できることについても触れて頂いた。
著者
伊藤 一成 福崎 智司 産本 弘之 三宅 剛史
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.10, pp.687-693, 2011 (Released:2017-03-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1

我々は,生もとの小仕込み試験を行い,そこに含まれるオリゴペプチド成分について速醸もとと比較し解析を行った。その結果,生もとでは苦味ペプチドを含む全オリゴペプチドが速やかに減少するのに対し,速醸もとでは多くの苦味ペプチドが残存することを見いだした。こうしたオリゴペプチド成分の動向には酵母は関与しておらず,完成時の苦味ペプチド含量が麹歩合による顕著な影響を受けたことから,麹由来の酵素による苦味ペプチドの分解様式が生もとと速醸もとで異なっていると思われた。
著者
早川 雅巳
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.640-646, 2009 (Released:2016-02-10)
参考文献数
12

ウイスキー,ブランデーやワインなどの酒類と樽の関係については実用面,科学技術面から多数の知見が集積されてきている。これは,樽がこれらの酒類の品質にいかに大きな影響を及ぼすかを示すものと思われる。今回,樽の専門家である筆者に,樽材となる世界の主要なオークについて,その特性,酒類製造への利用の歴史,現状からオーク資源の今後にまでわたり詳細に解説していただいた。
著者
岡本 雅子 Singh Archana K. 東原 和成
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.5, pp.278-285, 2016 (Released:2018-07-12)
参考文献数
20

食べ物の「おいしさ」には,味や香り,食感,外観,経験,情報などさまざまな要因が関わっている。これらの要因が脳でどのように処理され,私たちは「おいしさ」を感じているのだろうか? 本稿では,脳機能イメージングを用いた研究から得られた知見をもとに,味覚,嗅覚などの相互作用により私たちが「あじ」ととらえている感覚が生じるしくみや,情報が「あじ」に与える影響,さらには脳機能イメージングの食品産業への応用の可能性について解説いただいた。一読をおすすめする。
著者
恩田 匠
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.12, pp.881-889, 2013 (Released:2018-02-13)
参考文献数
23
被引用文献数
1

フェノレやブレットと呼ばれる赤ワインのフェノール性の異臭は,世界中のワインで深刻な問題となっている。これまで国内では充分な情報がなかったが,国産ワインのフェノレに取り組んでおられる著者に,国産ワインのフェノレの現状と予防について解説していただいた。
著者
数岡 孝幸
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.298-305, 2015 (Released:2018-04-23)
参考文献数
18

清酒業界においては,清酒の需要低迷・消費激減から危機感を感じ,今までに無いタイプの清酒を製造する事を模索している。その解決策の一つとして,純粋培養酵母を使用した清酒製造ではなく,広い自然界から有用な清酒酵母を分離し清酒製造に応用する方法である。このような自然界からの酵母分離は,様々な分野で試みられているが目的とする酵母の分離が難しいのも現実である。しかしながらその困難さを克服し,製品化に至った成功例として筆者が行っている花から分離した「花酵母」による清酒製造であることは間違いないところである。筆者は解説文の中で清酒製造用酵母の過去と現在行われている酵母分離方法を紹介し,分離酵母を用いて製造された清酒の特徴を細かく紹介している。また,スクリーニング源採取月,平均気温と分離効率の関係など興味あるデータも掲載されていて研究者にとっては参考になることも多い。是非とも一読願いたい。
著者
中野 浩
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.390-389, 1953

従来酒類の矯正方法中脱酸にはNaOH, CaCO<SUB>3</SUB>, K<SUB>2</SUB>CO<SUB>8</SUB>等の中和剤による方法がとられて来たが, 最近イオン交換性合成樹脂による酒質の矯正 (脱酸, 脱塩) が試みられ, 可成の成績を修めている様である。即ち本邦においては麻生氏等 (1) がイオン交換樹脂を用いてリンゴ酒の品質向上を図り, 最近では伊藤氏等 (2)(3) がアルコール及び不良清酒, 酸敗清酒をイオン交換樹脂にて処理する事により矯正出来ると報じている。又津田恭介氏 (4) はイオン交換樹脂を用いて酒類の脱酸及び, 防腐剤として用いた牛乳中のサリチル酸の除去を試みており, Buck, Mottern氏等 (5) はResinous Products & Chemical Co. で製造されたイオン交換樹脂を用いて, 林檎汁を試料にアニオン交換法, カチオンーアニオン交換法, アニオンーカチオンアニオン交換法の三つの方法について研究を行つている。<BR>本試験は防腐剤として用いたサリチル酸が粗悪製品であつた為, 清酒にフエノール様の臭気及び強烈なる収斂味を帯び飲用に供し得なくなつたものについて脱サリチル酸を目的として行つたものである。(尚供試試料は酒造場においてサリチル酸投入直後, 早期発見により攪拌前に上下層を分離したものの下層部分で, そのサリチル酸含有量は石当り25匁である。)<BR>即ち試料を突間速度*15~20で膨潤イオン交換樹脂層を通過せしめ, 流出液に活性炭素を投入し5時間後に濾過精製した。その結果酒質はボケて押味も不足となつたが, サリチル酸含有量は規格以下になりフエノール様の臭気及び収斂味も感じられなくなつた。
著者
吉沢 淑
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1266-1262, 1961

1) いろいろの蒸溜酒のフーゼル油中の高級アルコールの組成をガスクロマトグラフィーを用いて定量した。<BR>試料としてウイスキー, ブランデー, カルバドス, ラム, しようちゆう18点を用いた。<BR>2) 固定相としてジオクチルフタレート, グリゼロール, トリエタノールアミンの3種類を用いた。<BR>メタノール, エタノール, n-, イソプロパノール, n-, イソ, 2級, 3級ブタノール, n-, イソ, 活性アミルアルコール, ペンタノールー3, メチル-n-プロピルカルビノールが分離出来た。<BR>3) フーゼル油中にイソアミル, 活性アミルアルコール, ペンタノール-3, n-, イソ, 2級ブタノール, n-プロパノールを認めこれらの量の酒の種類による相違などについて検討した。
著者
小泉 武夫 忍田 憲一 石橋 信治 鈴木 雄三 鈴木 明治
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.192-196, 1975

1.飲酒に供した酒類により, 尿の臭いが特徴づけられることはしばしぽ飲酒者の体験により知られるところである。本報告では熟し香構成成分解明の手掛かりを得ようと, 清酒とそれ以外の酒類 (ぶどう酒, ピール, ウイスキー, 甲類焼ちゅう) を飲酒した場合の尿中揮発成分について比較した。<BR>2.飲酒することにより排尿中の成分は, 飲酒前に比べて複雑に増加することを知った。<BR>3.ガスクロマトグラフィー分析で, 清酒飲酒後の尿中に14成分の存在を推定したが, 他の酒類の場合でもほぼこれに近い尿成分であった。<BR>4.薄層クロマトグラフィー分析により塩基性区分を検討したところ, 飲酒に供した酒類の別により検出成分に差がみられた。特に清酒飲酒の場合特異的であり, これら尿中塩基化合物は, 清酒飲酒の際の尿の不快臭に重要な要因となっているものと推察した。
著者
金田 弘挙
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.6, pp.417-425, 2014 (Released:2018-03-14)
参考文献数
37
被引用文献数
3 3

ビールの香味は,従来,官能評価により行っており,その美味しさを表現する言葉として,「こく」「きれ」「のどごし」などあるが,これらを定量的に分析値として示すことは困難であった。筆者らは,「味覚センサー」や「脳波」「筋肉の動き」などを測定することで,ビールの美味しさとの相関を発見し,さらにはお客様の気分との関係を明らかにしてきた。これらビールの美味しさを解明する一連の取組みについて解説いただいた。