著者
中屋 慎 小谷口 美也子 北村 進一
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.288-297, 2015 (Released:2018-04-23)
参考文献数
11

定量分析を行うと,必ず「有効数字」や「誤差」が付きまとう。そして,統計学や推計学のやっかいになることになるが,なかなか教科書を開く気になれない。本解説は,身近な実例を引きながら,分かり易くそれらの概念を紹介したもので,定量分析に関わる方に(私も含めて),一読をお勧めしたい。
著者
金桶 光起
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.5, pp.320-326, 2014 (Released:2018-03-12)
参考文献数
14
被引用文献数
7

4-ビニルグアイアコールは清酒においては官能的に煙臭,薬品臭,香辛料臭と称される。その生成はワイン,ウイスキー,ビールにおいては酵母や乳酸菌等により,それぞれの原料由来のフェルラ酸の脱炭酸によって生成し,また,焼酎およびビールでは微生物の関与しない加熱工程でも生成することが報告されている。清酒における生成要因はこれまで報告がなく,筆者は清酒中の4-ビニルグアヤコールの生成要因について,微生物学的,化学的に検討した。特に高付加価値清酒の製造管理に重要なファクターになり得ると考えられる。
著者
中川 智行
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.9, pp.632-637, 2012 (Released:2017-12-15)
参考文献数
26
被引用文献数
1

アセトアルデヒドという物質は,多くの人に対して負のイメージを想起させる。イメージだけでなく,実際に細胞毒性を有することもよく知られたことである。著者は,アセトアルデヒドに晒される機会の多い酵母をモデルとして用い,アセトアルデヒドに対する細胞応答機構について取り組み,多くの興味深い成果を上げておられる。アセトアルデヒドに対して酵母が有する多様な耐性機構を中心に,意外な側面である細胞の活性化に関する事柄も含め,多面的に解説していただいた。
著者
田口 隆信
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.8, pp.550-556, 2014 (Released:2018-03-15)
参考文献数
5

上槽工程は省力化装置がなかなか普及せず依然として労力を必要とするとともに,最終の酒造工程として製品の品質に悪影響を及ぼさないように注意が必要な工程でもある。ここで紹介される上槽方法は,従来の方法と発想が異なり品質面を重視し完全に搾りきることを目指さない高級酒に特化した方法である。この方法によれば,同じように搾りきらない上槽方法である「袋吊り法」と同等の品質の上槽酒をより少ない労力で得ることができる。さらに,洗浄が容易なステンレス製の機器を使用するため,気を付けて洗浄などの管理を行えば特別なノウハウがなくても汚染により酒質を劣化させることはない。現状では「袋吊り法」より機器の導入費用は嵩むとはいえ既に10台以上の装置が稼働中とのことであり注目に値する上槽方法といえる。
著者
明比 淑子
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.9, pp.597-605, 2011 (Released:2017-02-27)

シェリーといえば,ポーの「アモンティリヤードの樽」,それから「007ダイアモンドは永遠に」で,“There is no year for sherry”(シェリーには年号はないよ)といわれたジェームス・ボンドが“I was referring to the original vintage on which the sherry is based sir. 1851. Unmistakable.”(私がいっているのはこのシェリーのベースとなっている最初のビンテージさ,1851年,まちがいない)と切り返す姿である。しかし,私自身,シェリーに関する知識は少なく「ソレラシステム」ではなく正しくは「クリアデラとソレラのシステム」であることを本稿で始めて知った。さらに,ポートやマデイラについては良質なマデイラやポート自体最近まで味わったことがなかった。酒精強化とともに酸化や熱という酒には大敵とされる条件を使って作り出す独特の香味,それを生み出した歴史と風土,大変興味深い解説である。
著者
境 博成
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 = Journal of the Brewing Society of Japan (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.102, no.8, pp.585-593, 2007-08-15
被引用文献数
1

イギリス, フランスに引き続き, 今回はスペイン産のリンゴ酒について紹介していただいた。同じリンゴ酒でありながら日本市場においてはアストリアス地方のシドラもバスク地方のサガルドアも知名度が低い。スペイン産リンゴ酒の歴史的背景, 原料リンゴ果からリンゴ酒の醸造, 醸造場に併設されるレストラン, 飲酒文化についての話まで巾広い話題を提供していただいた。
著者
吉田 元
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.56-61, 1993

日本に伝来した洋酒の歴史を紹介した文献は刊行されているが, 逆に外国人が日本酒をどのように自国に紹介していたかは, 大変興味深いテーマであるがまとまった文献はない。本稿は16~19世紀にかけて日本に渡来した宣教師, 貿易商, 外交官などの著作を調査し, 考証を加えたものである。(I) では16世紀を中心に, (II) では17, 18世紀, (III) では19世紀と3部作の膨大なものである。読み物として興味があるばかりでなく, 経営・製造の両面に有益なヒントが含まれている。
著者
但馬 良一
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.3, pp.177-184, 2012 (Released:2017-10-24)
参考文献数
49

ブショネ(bouchonne)と呼ばれるコルクからのカビ臭は,ワインの品質を著しく損なうオフフレーバとして国際的な問題となっている。コルクを使用するワインの20から30本に1本という頻度は,消費者,レストラン等の経済的損失ばかりではなく,嗜好品として大切な「ワインを飲む喜び」を奪うことになる。製造者にとっては,ぶどう栽培や醸造といった自分たちの責任範囲外に品質を損なう要因がありその頻度が高いことは容認できないであろう。しかし,この臭いの原因物質の閾地が極めて低く検査が困難である上,天然素材であるコルクの汚染にばらつきがあり,抜き取り検査だけでは汚染がないことを証明できないため,決定的な解決方法がなかった。筆者らはこの問題に対し早くから研究を進め,高圧水蒸気処理により,カビ臭原因物質を含まないコルクの生産に成功された。
著者
池田 浩二 中野 隆之 米元 俊一 藤井 信 侯 徳興 吉元 誠 倉田 理恵 高峯 和則 菅沼 俊彦
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.11, pp.875-881, 2012 (Released:2017-12-15)
参考文献数
27

「芋焼酎粕飲料(新飲料)」の生体防御能亢進効果に関する試験を行った。新飲料のガン抑制能試験では,サルコーマを接種したマウスに新飲料区の摂取によって腫瘍の重量増加が抑制されており,両者間は5%水準の有意差であり,ガン細胞増殖抑制効果が認められた。このときの脾臓のNK活性はコントロール区に比べて高い値を示し,この両者間では0.1%水準で有意な差が認められ,非常に強いNK細胞活性を示した。新飲料の摂取によって生体防御能が高く維持され,また,新飲料に含まれるポリフェノールの抗酸化作用によっても腫瘍の増殖が抑制されたと考えられた。
著者
奥田 将生
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.262-272, 2010 (Released:2012-02-24)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2

着色度の増加や老香の生成などの清酒の劣化は,含まれる窒素化合物や硫黄化合物が大きく影響すると考えられている。この劣化を防ぐために,清酒メーカーでは,米を磨き,アミノ酸度の低い清酒を醸造し,活性炭ろ過を行った後,製品化している。本稿では,清酒の劣化に対する原料米や清酒中の窒素や硫黄化合物の影響について解説いただいた。
著者
増子 敬公
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.4, pp.217-223, 2012 (Released:2017-12-11)

ワインはpHが低く,アルコールとSO2があるので微生物汚染に強い,と考えられていた。しかし,このような条件であっても醸造中や醸造後のワインの品質に危害を与える微生物はワイナリーに潜んでおり,安定して高い品質を維持するには適切なサニテーションが欠かせない。これまで日本語の解説が少なかったワイナリーのサニテーションに関する情報を紹介していただいた。
著者
佐藤 信 大場 俊輝 高橋 康次郎 国分 伸二 小林 幹男 小林 宏治
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本釀造協會雜誌 (ISSN:0369416X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.11, pp.801-805, 1977
被引用文献数
6 16

国税局鑑定官室, 県工業試験所などの調査書・報告・成績書から得た昭和50年の市販清酒の一般分析値を解析して, 生産地による清酒の差別化の現状を考察した。<BR>また, ワイン, ポートワイン, シェリー, ベルモット, リキュール, 甘酒, ジュースなど多数の飲料の酸度・アミノ酸度・糖量を分析するとともに, 酸度と糖量を広い範囲にわたって変化させた清酒をつくり, 清酒の味として認められるか, あるいはワイン, リキュー・ルの味と考えられるかを判断して, 一般分析値による清酒の範囲ならびに味覚による清酒の範囲を検討し, 次の結果を得た。<BR>1) 生産地による清酒の差別化については, 同一国税局内においても県ごとに差があり, 地域差は少なくとも県単位で比較すべきである。<BR>2) 味覚による清酒の範囲は, 現在の市販清酒よりもはるかに広く, 清酒の多様化の可能性を示唆した。<BR>3) 清酒以外の飲料の酸度・糖量は, 糖量・酸度を直交軸とする平面にプロットすると, 味覚による清酒の範囲に外側にあり, 清酒と他の酒類の差別が可能である。さらに, 弁別閾による酒質の細分化, 熟度による差別化, 酸組成による差別化について考察した。
著者
鈴木 俊二
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.10, pp.658-663, 2016 (Released:2018-08-06)
参考文献数
7
被引用文献数
1

ワイン用のブドウを夜間に収穫(ナイトハーベスト)すると,より優れた品質のワインが醸造できることが経験的に知られている。ブドウの温度が低いうちに収穫することで低温での原料処理が可能となり,酸化や微生物汚染のリスクを低減できるのがナイトハーベストのメリットだと考えられていた。しかし,筆者らのグループは,近年甲州の香気成分の一つとしても注目されているチオール系香気成分の前駆体に着目し,早朝に前駆体量がピークになることを明らかにしている。ナイトハーベストの意義を香気成分の面から明らかにした興味深い研究成果を解説していただいた。
著者
蛸井 潔
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.2, pp.88-97, 2013 (Released:2017-12-28)
参考文献数
27
被引用文献数
1

近年,アメリカやドイツでは古典的なアロマホップ,ビターホップという区分の品種だけではなく,フムロン(苦味物質)を高濃度で含みながら,極めて特徴的な強い香りをビールに付与できる「フレーバーホップ」と呼ばれる品種が開発され,クラフトビールなどで注目されるようになった。著者らの研究は,フレーバーホップの特徴香に寄与する成分を,ビール中のホップの香気成分として代表的なモノテルペンアルコール(ゲラニオール,リナロール,シトロネロール)の含有量,相互作用,酵母の代謝による変換という観点から考察したものである。

2 0 0 0 OA 飲酒と健康

著者
林田 真梨子 木下 健司
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.1, pp.2-10, 2014 (Released:2018-02-16)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

武庫川女子大学バイオサイエンス研究所では,2010年より久里浜医療センター監修のもとアルコール体質遺伝子検査および飲酒習慣に関するスクリーニングテストを実施している。それによって,未成年者に対しては飲酒防止のための健康教育,成人に対しては適切な飲酒習慣の指導を行っている。また,この活動には,我々にとって身近なアルコール体質検査を通じ,遺伝子診断によるオーダーメイド医療の普及・理解に向けた啓蒙を行うといった目的も含まれている。アルコール体質を5タイプに分類し,それぞれ留意すべきポイントがまとめられているので,読者の日々の健康管理に役立てられたい。
著者
山本 晃司
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.2, pp.76-80, 2015 (Released:2018-04-12)
参考文献数
3

麹菌は,さまざまな穀物に増殖し麹にすることが可能であるが,使用する原料に応じてそれぞれ適した製麹法が必要となる。ここでは,これまでその色合いに着目した用途が主であった小豆を,麹にして醸造に利用するための工夫と,小豆麹が持つ効能について解説していただくが,穀物の新規利用の試みとして非常に興味ある報告である。
著者
久留 ひろみ 玉置 尚徳 和田 浩二 伊藤 清
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.11, pp.741-748, 2010 (Released:2016-02-04)
参考文献数
20

実験室(鹿児島大学)及び奄美大島でミキを調製し,並びに市販のミキを購入した。それらのミキ中の乳酸菌を16SリボゾームDNA解析により同定した。実験室で調製したミキ中の乳酸菌を30種同定したが,全てLactococcus lactis subsp. lactisと同定された。しかし,奄美大島で調製したミキ中の乳酸菌(6種を同定)は実験室由来のものとは異なり,Leuconostoc lactis(3/6), Leuconostoc citreum(2/6)及び Lactococcus lactis subsp. lactis(1/6)であった。また,市販のミキ中の乳酸菌(6種を同定)はLeuconostoc citreum(5/6)及びLeuconostoc mesenteroides(1/6)であった。これらの結果は,ミキ中の乳酸菌は原料サツマイモや環境の違いによって異なることを示しているが,詳細な調査は今後の課題である。Lactococcus lactis subsp. lactisはナイシンの生産菌として知られているが,ミキ中のLactococcus lactis subsp. lactisもナイシンを生産した。ミキ中のバクテリアには乳酸菌の他に好気性菌も存在するが,ミキ培養の後半には好気性菌(CaCO3プレート上でのハロー非形成菌)の存在はなくなり,乳酸菌3(ハロー形成菌)だけでフローラを形成した。乳酸菌のスターターを使用することにより,ミキ初期の好気性菌の存在を大幅に低減した。スターターの使用は,ミキを安定的に製造する上で重要であると判断した。
著者
恩田 匠
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.11, pp.712-727, 2016 (Released:2018-08-06)
参考文献数
13
被引用文献数
1 7

シャンパーニュ委員会技術部門で研修を受けられた筆者には,これまでにブドウ栽培,アサンブラージュ,醸造の前編としての果汁の調製について詳細な解説をしていただいている。今回はベースのワイン(原酒ワイン)の醸造について,通常のスティルワインとの違いや新しい醸造技術を含めて解説していただいた。シャンパーニュの原酒ワインは,シャンパーニュ製造に特化して造られていることがよく理解できる。
著者
畑中 唯史
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.7, pp.431-436, 2016 (Released:2018-07-30)
参考文献数
8

睡眠障害は脳血管疾患,鬱病,全死亡に対するリスクの1つとされ,臨床的重要性が非常に高い。そればかりでなく,寝不足による生産性の低下が大きな経済損失をももたらすとの報告もある。海外と比べ,日本人は平均睡眠時間が顕著に短いばかりでなく,睡眠障害を抱える人の多数の存在が明らかになっているが,現在のところ,その対処が遅れている。筆者らは,日本人が古くから主食とし,安全・安心に摂取できる米に着目して,米由来タンパク消化物の機能性解明に取り組んでいる。その一環として,睡眠障害改善と関連があるセロトニン-N-アセチルトランスフェレース活性に着目した解析を行った。この結果,米由来タンパク消化物がこれを活性化することを明らかにし,予想される機構を提示した上,睡眠障害改善につながる可能性を示した。