著者
奥田 将生 磯谷 敦子 上用 みどり 後藤 奈美 三上 重明
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.2, pp.131-141, 2009 (Released:2016-01-18)
参考文献数
20
被引用文献数
7 6

鑑評会の出品酒を実験材料として,窒素(N)や硫黄(S)含量と50°C1ヶ月間貯蔵後のポリスルフィド生成量の関係を検討した。清酒中のNとS含量には強い正の相関関係がみられ,清酒中の硫黄化合物の多くは原料米のタンパク質に由来することが推察された。また,全硫黄化合物の2~5割がアミノ酸であることがわかった。50℃1ヶ月貯蔵により生成するポリスルフィドについて,DMDSは全試料で検知閾値以下であったが,DMTSは約半数の試料において検知閾値を上回った。貯蔵前清酒中の成分との関係において,DMTS,DMDS含量は,全N及びS含量,アミノ酸態のNやS含量に有意な正の相関関係がみられた。各成分間の偏相関分析の結果,着色度の増加には全Nとグルコース含量が深く関係するのに対し,ポリスルフィドの生成にはアミノ酸態のS含量が深く関係することが示唆された。以上から,硫黄化合物の多い清酒は老香が生じやすいというこれまでの推定を成分的に裏付ける結果が得られた。
著者
蛸井 潔
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.306-316, 2012 (Released:2017-12-12)
参考文献数
34
被引用文献数
1

ホップはビールに爽快な苦みと香りを与える。ホップ品種特有の香りと,そこに寄与する化合物の探索について国内外で盛んに取り組まれている。さらに近年は分析技術の発展に伴い微量な香気成分の探索も可能となった。本稿では,ホップ品種が与えるソーヴィニオン・ブラン様香気と,寄与成分である微量化合物について,ワインのチオール研究の第一人者である故富永敬俊博士らと共に筆者らが取り組んだ研究を紹介する。
著者
竹中 哲夫
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.11, pp.858-865, 2009 (Released:2016-02-15)
参考文献数
24
被引用文献数
1

味噌,醤油,納豆製造時に副生する蒸煮廃液(大豆煮汁)は排水処理にコストがかかるので,その有効利用が求められている。そこで,著者は大豆煮汁に含まれるアンギオテンシンI変換酵素(ACE)阻害物質として,ニコチアナミンを分離・同定した。さらに,このニコチアナミンを高血圧自然発症ラット(SHR)に投与して,降圧作用を認めた。したがって,大豆煮汁は脂質やタンパク質などの夾雑物が少ないので,ニコチアナミンの供給源として期待できるので解説いただいた。
著者
康巳 黄金井
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.1, pp.11-18, 2012 (Released:2017-10-23)
参考文献数
10
被引用文献数
2

平成6年の規制緩和により製造開始された地ビールは,当初のブーム後の品質淘汰を経て現在では品質も安定し,一定の市場を獲得し,我が国に「地ビール文化」を創造した。本稿では,全国で唯一の地ビール製造業の業界団体であるJBA(全国地ビール醸造者協議会)会長に,地ビール誕生から変遷を概観し,地ビール製造業の実態,地ビールの商品特性と社会的役割,将来展望等について解説していただいた。新たな市場を開拓する観点から,他種類の製造業者等にも参考となるので,ご一読をお勧めしたい。
著者
鈴木 康司
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.8, pp.568-575, 2014 (Released:2018-03-15)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

免疫力を高められるなどの機能性ヨーグルトの販売が今冬も好調だった。ヨーグルトにおいては,乳酸菌は善玉菌である。一方,同じ乳酸菌でもアルコール飲料に生育すると,腐敗や混濁を引き起こし,悪玉菌になる。グラム陽性菌に対して抗菌活性を示すホップ成分を含んでいるなど,ビールは微生物が生育しにくい飲料である。そのビール中で生育できるビール混濁乳酸菌について,長いビール醸造の歴史の中でどのように適応進化してきたか,また,その耐性機構はどのようなものかについて,解説いただいた。
著者
古林 万木夫 松下 裕昭 真岸 範浩
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.9, pp.647-651, 2009 (Released:2016-02-10)
参考文献数
22
被引用文献数
1

日本における醤油の消費量の減少に歯止めをかけるため,醤油の機能性(魅力)をPRすることも一方策と考えられる。日本の国民の約3人に1人が何らかのアレルギーに発症しているといわれるほど,アレルギーは国民病として社会問題化している。そこで,副作用の心配のない,食品由来の抗アレルギー剤の開発が望まれている。さらに,成人女性の約10%は鉄欠乏性貧血であり,約40%は貧血予備軍といわれ,栄養上大きな問題となっている。今回は特にヒト臨床試験において,醤油に約1%含まれる醤油多糖類(SPS)に抗アレルギー作用と免疫調節機能,および鉄吸収促進効果のあることを解説いただいた。
著者
磯谷 敦子
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.11, pp.847-857, 2009 (Released:2016-02-15)
参考文献数
22
被引用文献数
2

「ひね(陳・老成)」は,「ふるびている。老成している。」という意味で「ひねしょうが」や「ひね米」といった使い方がある。また,酒造りにおいては「老麹」,「老〓」などの表現があり「ひね」すなわち「悪い」ということではないと考えられる。しかし,清酒を貯蔵して生じる「老香」は劣化臭とされ,「老香」をださないように製造方法や貯蔵出荷管理方法に注意が払われてきた。老香は,これまで経験的知見から「よい老香と悪い老香がある」,「清酒を貯蔵しておくと1~2年は老香だが,長期貯蔵により好ましい熟成香に変わる」,「老香のでやすい酒(蔵)とでにくい酒(蔵)がある」などといわれていたが,複合香であり充分に解明されていなかった。筆者は,最新の分析技術を駆使して,古酒の香りと老香成分の違い,また,老香中の不快な香りの主要成分さらにはその前駆物質の発見など,これからの清酒の品質向上において鍵となる研究をされた。そこで,2回にわたり詳細に解説していただいた。
著者
鈴木 昭紀
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.10, pp.641-652, 2010 (Released:2016-02-04)

日本酒の販売数量は昭和48年から前年対比マイナスという状況が続き,昭和48年の最高時の40%を割り込み,酒類全体に占める日本酒のシェアも7%以下の状況になっているが,明確に歯止めがかかったとはいえない状況で,今もまだ減少傾向が続く状態で推移している。このような状況を打破するため,経営者はいろいろ検討されてきているものの,それらの各種試みが効を奏していない現状から,筆者の解析や今までの経験などを通じて至った結論をベースに,新たな今後の展開に対する考え方についての解説をお願いした。
著者
荒巻 功 江辺 正英 三浦 剛史 吉井 美華
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.106, no.12, pp.837-847, 2011 (Released:2017-03-28)
参考文献数
20
被引用文献数
5 8

酒造用原料米の無機成分の含有量について,品種や精米歩合ごとの測定を行い以下の結果を得た。(1)無機成分含量を比較すると,酒造好適米は一般米に比べてKが有意に高かった。また,五百万石,美山錦,兵庫北錦は,K,P,Mgが高く,山田錦は,Sが最も低かった。(2)玄米中の無機成分含量は,従来の報告と比較すると,P,K,Mgは低く,Ca,Mn,Feは同程度であった。同一地域産,同一品種での年度間差異はSiにバラツキがみられたが,その他の元素には大きなバラツキはなかった。(3)同一圃場で生産された山田錦と日本晴を比較すると,山田錦は,日本晴に比べて,有意にFe,Sが低く,2品種間の差異が認められた。(4)精米による含有量の変化を調べた結果,K,P,Ca,Mg,Mn,Siは,精米により玄米から精米歩合70%の間に急激に減少したが,精米歩合70~30%では,大きな変化はみられなかった。Sは,玄米から精米歩合30%まで精米歩合が低くなるにつれ直線的に減少した。(5)山田錦と五百万石の心白粒と無心白粒を精米歩合別に無機成分含量を比較した結果,顕著な差異は認められなかった。(6)SEM/EDXによる観察から,P,K,Mgはアリューロン層に,Siは玄米の果皮の表面部分に多く分布することが明らかとなった。
著者
後藤 正利 二神 泰基 梶原 康博 髙下 秀春
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.109, no.4, pp.219-227, 2014 (Released:2018-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1 3

白麹菌は,九州地方において本格焼酎製造に古から広く利用されてきた有用糸状菌=「国菌」である。しかし,白麹菌醸造特性についての分子生物学的な知見はとほとんどない。本稿では,白麹菌について最新の分子生物学的なツールを用いたゲノム解析,高頻度相同性組換え宿主の育種,マイコトキシン非生産性の要因,クエン酸高生産要因遺伝子の探索,糖質加水分解酵素の機能同定などの研究成果について解説していただいた。「白麹菌らしさ」の秘密が明らかとされつつある。
著者
寺本 祐司
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.8, pp.583-590, 2013 (Released:2018-01-15)
参考文献数
3

ベトナムの面積は約33万平方キロメートル。南北に,ほぼ北海道から本州の距離に相当する細長い国土を有している。1995年にASEAN加盟後の経済発展が著しく,日本から多くの企業が進出している。一方,南部や北部の平野には水田が多く水牛が草を食んでおり,かつての日本の農村に似た風景が広がっている。これらの農村では必ず米を原料とする蒸留酒が作られている。大都市の店頭でみかける酒類は,ビールと政府系企業が連続式蒸留機を用いて生産する米製ウオッカだが,農家で自家醸造される蒸留酒の生産量はこの米製ウオッカの10倍以上あるといわれている。本稿では,ベトナム南部メコンデルタの伝統酒について解説していただいた。
著者
岡崎 直人
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.104, no.12, pp.951-957, 2009 (Released:2016-02-16)
参考文献数
26
被引用文献数
1

麹はアジアの醸造文化の根底をなすものだが,その実態は,原料の種類,前処理方法,培養方法,菌の種類など大きく異なっている。本稿では,その違いを,原料処理とカビ増殖の相性,歴史,風土,食文化等から考察し,日本は中国から麹を利用する酒類の製造法を学んだが,それぞれの食文化,風土の違いから,日本独自の伝統酒の世界を作り上げてきたことを詳細に解説していただいた。
著者
安藤 義則
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.5, pp.300-305, 2012 (Released:2017-12-12)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

本格焼酎は日本古来の蒸留酒として,主に南九州で生産消費されてきた。1965年頃から現在に至る焼酎ブームにより全国に拡がり,日本の代表的な蒸留酒となってきた。本格焼酎は原料由来の独特な風味を持っているが,業界では消費者嗜好にあった焼酎の開発,研究が進められてきた。本格焼酎の中で,穀類焼酎は原料風味を弱く,芋焼酎・黒糖焼酎は原料の香味を強くする方向に流れになってきたが,香味成分の研究により原料の特徴の弱いあるいは強い商品など多様な商品群ができて欲しい。近年分析技術の進歩により,その原料風味の解明がなされるようになってきたので,今回は本格焼酎の香味成分の研究を紹介していただいた。
著者
山口 仁美
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.716-723, 2013 (Released:2018-02-13)
参考文献数
31

ニコチアナミンは高等植物に広く存在する非タンパク質構成アミノ酸である。近年,ニコチアナミンの抗高血圧作用が報告されており,食品に含まれるニコチアナミンの健康作用が期待され,様々な植物性食品における含量が報告されている。しかし,これまでの分析法には,醤油中ニコチアナミンを測定する上で問題があった。そこで,著者はマルチモードODSカラムのScherzo SW-C18を用いる高速液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)による,醤油およびその他の植物性食品のニコチアナミン分析法を確立したので,解説いただいた。今回示した分析法は,複雑なマトリックス(夾雑成分)の中から,イオン性で高極性の微量な機能性成分を,汎用的な手法で選択的かつ高感度に分析することを可能にしたものであり,食品中の他の機能性成分や危害要因の分析に,今後,この手法を応用できるので,ご一読いただきたい。
著者
橋爪 克己
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.110, no.1, pp.2-7, 2015 (Released:2018-04-12)
参考文献数
21

清酒には多数の苦味物質が含まれるが,大部分は閾値以下の濃度であり,単独で苦味を感じさせるものは少ない。著者らは以前,清酒のHPLC画分から呈味を手掛かりに苦味ペプチドを同定した。さらに最近,同様の方法で,フェルラ酸およびそのエチルエステルが強い苦味を呈することを見出した。フェルラ酸を含むフェノール酸は植物細胞壁の構成成分であり,清酒製造工程において麹の酵素によって遊離すると考えられている。本記事では,苦味物質としてのフェルラ酸等の同定,フェノール酸の原料米中の分布とその遊離に関わる麹菌酵素について,最新の研究成果をもとに解説いただいた。これらの苦味物質は特に活性炭未処理清酒で濃度が高く,近年増加している「無濾過」清酒の品質を考えるうえで,大変興味深い研究である。
著者
山本 綽
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.107, no.7, pp.499-506, 2012 (Released:2017-12-12)

この論文は,昨秋,札幌で行われたIUSM 2011 Sapporoでの明治の大化学者,高峰・北里両巨人についての講演から,高峰博士の業績を中心に,博士に私淑する著者によりまとめられたものである。著者は酵素工業の研究・生産・経営に長く携わってこられている方で,高峰博士の理解のための好適の一文である。
著者
井沢 真吾
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.105, no.2, pp.63-68, 2010 (Released:2012-02-13)
参考文献数
26

酵母が発酵によって生産するエタノールは,一方で酵母細胞自身にとって増殖や生理活性を阻害する毒物でもある。したがって,酵母はエタノールストレスに対する耐性メカニズムを備えていると考えられるが,その研究は主にmRNAの転写レベルで行われてきた。本論文の著者らは,エタノールストレス適応においてmRNA転写後の翻訳に至る過程で様々な調節が行われていることを明らかにした。また,清酒醸造においては酵母細胞内のmRNAの動態が他のエタノール発酵系と異なることを示した。
著者
能勢 晶 濱崎 天誠
出版者
Brewing Society of Japan
雑誌
日本醸造協会誌 (ISSN:09147314)
巻号頁・発行日
vol.111, no.6, pp.362-370, 2016 (Released:2018-07-13)
参考文献数
16

清酒製品の着色は,品質劣化の大きな要因であることから,製造者及び販売店は輸送時や店頭での着色増加が起こらないよう大きな注意を払っているのが現状である。 着色反応は温度の影響を最も大きく受けるが,今回,割水由来のフミン酸が存在すると,低温下でも蛍光灯の光により徐々に着色が進行し品質が劣化していくことが著者らによって見出された。 最近は,出荷前の瓶貯蔵が多くのメーカーで行われており,店頭での陳列時と合わせて,蛍光灯の光を受ける機会が増えてきており,当事者の知らない間に着色が進行していることが考えられる。醸造用水の環境悪化による有機物の混入も多くなってきていることから,フミン酸による着色現象や着色機構,品質への影響等について解説して頂いた。熟読をお勧めしたい。