著者
塩田 昌弘 Masahiro SHIOTA
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学論集 = Otemae Journal (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.139-174, 2012-03-31

朝日新聞を創刊し、日本を代表する新聞社に育て上げた村山龍平(1850〜1933)は、阪神間(神戸市東灘区御影町)にある香雪美術館の美術作品のコレクターとして知る人ぞ知る人物である。一方、村山龍平の生まれた伊勢国田丸(現在の三重県度会郡玉城町田丸)には、村山龍平の功績を顕彰した村山龍平記念館が建っている。村山龍平とはどの様なことを成し、なぜ現代にもその影響を与えている人物なのか。村山龍平は幕末に生をうけ、田丸藩の士族として活躍、明治維新後、大阪に移り住み、明治・大正・昭和のわが国の激動期を逞しく生き抜き、世界の朝日(新聞)を創り上げ、文化に多大の功績を残した人物である。まさに、新聞界の英傑の名に相応しい。この小論では、村山龍平の人となりと当時の社会の動き、村山龍平記念館の活動と建築について考察しようと思う。さらに、香雪美術館の所有する旧村山家住宅(国重要文化財)を併せて紹介しようと思う。小論により、近代日本の黎明期を生き抜き、実業界のみならず文化・美術の方面にもその才能の華を咲かせた村山龍平の成そうとした志のもつ今日的な意義を考察したい。
著者
川北 典子 Noriko KAWAKITA 平安女学院大学現代文化学部現代福祉学科
雑誌
平安女学院大学研究年報 = Heian Jogakuin University journal (ISSN:1346227X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.65-72, 2001-03-10

Libraries were established in succession all over the country in the last years of the Meiji Era. In Shiga prefecture they also opened many public or private based libraries, which became the foundation of activity and management of the modern library. Otsu Public Library was one of them. Even it was established in good economic and social conditions, it closed after less than 40 years. This contribution tries to follow and study its history from establishment to closure, especially focus on the child reference services of library management. And moreover, there are many discussions about the relevance of the library as the center of social education or culture for children. The new role of the library is expected not only to encompass reading and children, but also to occupy a secure place in the community outside school and home. The contribution also examines the possibilities by following the history of the library since Meiji Era.
著者
高橋 綾子
出版者
東洋大学大学院
雑誌
東洋大学大学院紀要 = Bulletin of the Graduate School, Toyo University (ISSN:02890445)
巻号頁・発行日
no.55, pp.21-30, 2019-03

本研究の目的は、以前妖怪が果たしていた役割を現代では何が代わりに担っているのかについて社会心理学的手法を用い探索的に検討することである。本論では妖怪を「未知なる奇怪な現象または異様な物体であり、人間に何らかの感情や行動を生じさせ、かつ、固有名詞を持ち、社会的役割を果たすもの」と定義し、社会や人間に対する妖怪の作用を「社会的役割」と呼ぶ。本研究では社会的役割に着目し、妖怪事典の内容分析による代表的な妖怪の類型化(高橋・桐生, 2018)の結果を用い、以前妖怪が果たしていた社会的役割を現代では何が代わりに担っているのかについての探索的な検討を試みた。妖怪の類型化では3つのクラスタが得られ、クラスタごとの特徴や各クラスタに属する妖怪の特性が大まかに把握できたと同時に、妖怪の特性と恐怖喚起、注意喚起といった社会的役割との関連が示唆された。現代における代替物においても同様に3クラスタが得られたが、分布には偏りが見られ、代替物が補完できていない機能がある可能性が示唆された。今後は本結果をもとに現代における社会的役割の置換対象、表出方法、過不足の有無などについてより詳細に検討する。
著者
福西 大輔 フクニシ ダイスケ Fukunishi Daisuke
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学社会文化研究 (ISSN:1348530X)
巻号頁・発行日
no.17, pp.277-289, 2019

A strange thing happens at the bridge is that in folklore studies it is said that the bridge is not only connected to the opposite shore but also because the Japanese have recognized for many years as a connection between this world and the other world. However, considering the example of Aso Bridge, changes in the population caused by bridges have a major influence on creating a monster. Also, the exchange with new outside due to the bridge being made is also a factor to create a monster.
著者
秦 裕緯 シン ユウイ Qin Yuwei
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学社会文化研究 (ISSN:1348530X)
巻号頁・発行日
no.17, pp.243-253, 2019

STRAY LEAVES FROM STRANGE LITERATURE is written by Patrick Lafcadio Hearn in New Orleans. LES COULISSES and THE GHOSTLY KISS are two special essays in this work since they share a special scene: the theatre. Which is barely appears in other essays of Hearn. The description of the theatre scenes in these two essays also shares many similarities, such as the association between this the stage and life, which Hearn called "the shining temple" ; and the association between the backstage and "the Unknown World" Correspondingly. The emphasis on the light and shadow also appears in both of the two essays. By analyzing these special ways Hearn describing the theatre we can find a deeper significance inside this scene, which reflects the author's views of life and death, and also exerts a far-reaching influence on the later works after Hearn came to Japan.
著者
外池 亜紀子
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2015-03-31

イヌの起源は1万5千年から3万3千年前と考えられており、祖先種の一部の集団がヒトの近くで生活するようになってイヌへ進化したと言われている。その後、およそ1万年前に農業の発達と共に小ささや従順さなどによる強い人為的選択が始まったとされている。さらに200年前に、犬種クラブや組織的な繁殖が始まり、多くの犬種が急激に作成された歴史がある。この進化と家畜化の過程において気質・行動や認知能力が選択圧に大きく寄与して、変化したと予測できる。例えばイヌはオオカミに比べて解決不可能な課題が提示された場合にヒトの方を早く振り返ることや、ヒトの指差しにしたがって指し示されたカップを選ぶ確率が高いことが報告されており、イヌはその進化・家畜化の過程で特異的な認知能力を獲得したと考えられる。しかし、その遺伝的背景は未だ明らかとなっていない。 現在、非公認犬種も含め世界には700から800もの犬種が確立されている。最近の遺伝子クラスター解析により、それらの犬種の中には祖先種に近いクラスター(以降原始的な犬グループと呼ぶ)が存在することが明らかとなり、原始的な犬グループには、柴犬や秋田犬等の日本固有の犬種が含まれていた。このことは柴犬や秋田犬等の日本犬が、その他の犬種よりも遺伝的にオオカミに近いことを意味している。 本研究では、イヌの選択圧の中心的役割と考えられる気質・行動や認知能力において、原始的な犬が一般的な犬種とオオカミの間に位置し、その行動は遺伝的に制御されていると仮説を立てた。さらにこの仮説に基づき、イヌの進化・家畜化の過程でオオカミから変化した行動に関与する遺伝子の探索を目指し、以下の第1章から第4章までの研究を行った。第1章:原始的な犬グループのイヌの一般的な飼育下における行動特性 日本及び米国における一般の飼い主及びブリーダーを対象としたイヌの行動特性に関するアンケート調査を、インターネット媒体を用いて実施した。イヌの行動解析システムは、C-barqを用いた。質問は、米国100問、日本78問から成り、様々な場面における犬の行動を5段階で評価する内容である。犬種を既に報告されていた遺伝分岐図を元に8つのグループに分類し、犬の行動特性の犬種グループ比較に用いた。質問項目について因子分析及び平行分析を行い、各因子の平均値を因子得点として分析に使用した。 アンケート結果を因子分析したところ、11の因子に分類された(訓練性、活発度、愛着、分離不安、侵入者に対する攻撃性、飼い主に対する攻撃性、見知らぬ人に対する攻撃性、見知らぬ犬に対する攻撃性、非社会的刺激に対する恐怖反応、見知らぬ人に対する恐怖反応、見知らぬ犬に対する恐怖反応)。そのうち、原始的な犬グループのイヌはどの犬種グループよりもヒトへの愛着が低いことが明らかとなった(p<0.05)。原始的な犬の愛着はその他のどの犬種グループよりも低く、先行研究で知られている遺伝分岐図と一致した結果である。その他の犬種グループでは、ワーキンググループは、見知らぬ人に対する恐怖反応、見知らぬ犬に対する恐怖反応、非社会的刺激に対する恐怖反応、飼い主に対する攻撃性、活発度が低いことが明らかとなった。また、ハーディンググループは訓練性が高く、トイグループは飼い主に対する攻撃性、見知らぬ人に対する攻撃性、侵入者に対する攻撃性が高かった。第2章:原始的な犬グループのイヌの社会的認知能力の特性 様々な犬種のイヌを用い、イヌの認知能力の犬種差を解決不可能課題及び指差し二者選択課題により評価した。解決不可能課題では、餌を容器で覆い容器を固定した状態で、イヌがヒトを見るまでの時間、ヒトを見ている時間、ヒトを見る回数、交互凝視の回数を測定した。指差し二者選択課題では、2つのカップのどちらかに餌を隠した上で、ヒントを出すことによりイヌが餌の入っている方のカップを選ぶ回数を測定した。ヒントとしては容器をとんとんとたたく(タッピング)、容器へ視線を向ける(視線)、容器を指差す(指差し)の3種類を組み合わせて用いた。 解決不可能課題では、原始的な犬は、最初にヒトを見るまでの時間がトイグループ、スパニエルグループ、ハーディンググループよりも長く、ヒトを見ている時間がスパニエルグループ、ハーディンググループ、レトリバーグループよりも短く、ヒトを見る回数がスパニエルグループ、ハーディンググループよりも少なく、交互凝視の回数がトイグループ、スパニエルグループ、ハーディンググループ、レトリバーグループよりも少なかった。また、原始的な犬と一般的な犬種とで2群比較を行ったところ、最初にヒトを見るまでの時間、ヒトを見ている時間、ヒトを見る回数、交互凝視の回数の全てにおいて、原始的な犬は一般的な犬種よりも有意にヒトを見ない結果が得られた(p<0.01)。 指差し二者選択課題では、原始的な犬の成績は、視線+指差し+タッピング課題、視線+指差し課題、指差し課題の全てにおいてその他の犬種グループと同等であり、犬種グループによる有意な差は見られなかった。原始的な犬と一般的な犬種とで2群比較を行ったところ、視線+指差し+タッピング課題において、原始的な犬は一般的な犬種よりも正答数が有意に高かった(p<0.05)。視線+指差し課題、指差し課題では、有意な差は見られなかった。第3章:イヌの認知能力に関連する遺伝子の探索 コミュニケーション能力に関わるホルモンとして、オキシトシンとコルチゾールに着目し、メラノコルチン2受容体(MC2R)とオキシトシン、オキシトシン受容体の遺伝子を選択した。さらにゲノムワイド解析によってイヌの進化に関わると報告されている候補遺伝子からWBSCR17を選抜し、これらに関連する遺伝子の多型を調べ、犬種差や行動実験の結果との関連性を調べた。 イヌの進化候補遺伝子であるWBSCR17(ウィリアムズ症候群関連遺伝子)において、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型(C>T)が検出され、原始的な犬では一般的な犬種に比べTを持つ頻度が高かった。またこのT型の遺伝子型を持つ個体では、指差し二者選択課題の視線+指差し+タッピングの課題の正答数が高い結果となった(p<0.05)。MC2R(メラノコルチン2受容体遺伝子)において、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型(G>A)が検出され、原始的な犬では一般的な犬種に比べAを持つ頻度が高かった。またこのA型の遺伝子型を持つ個体を一般的な犬種内で比較した結果、指差し二者選択課題の視線+指差し+タッピング課題、視線+指差し課題、指差し課題の正答数が低い結果となった(p<0.05)。OT(オキシトシン遺伝子)において、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型(C>A)と反復数多型(repGGGGCC)が検出され、原始的な犬では一般的な犬種に比べ一塩基多型ではAを持つ頻度が高く、反復数多型では25塩基及び37塩基の長さの配列を持つ頻度が低かった。原始的な犬に多いA/A型の一塩基多型を持つ個体では、A/C型の遺伝子型を持つ個体よりも、解決不可能課題のヒトを見ている時間、ヒトを見る回数、交互凝視の回数においてヒトを見ない結果となった(p<0.05)。反復数多型では25塩基又は37塩基の長さの配列をヘテロで持つ個体において、挿入を持たない個体よりも解決不可能課題でヒトを見る回数が多い傾向が見られた(p=0.078)。OTR(オキシトシン受容体遺伝子)においては、原始的な犬と一般的な犬種とで出現頻度の異なる一塩基多型が検出されたものの、行動実験の結果とは関連性が見られなかった。第4章:日本犬のβアミラーゼコピー数多型 オオカミ、秋田犬、柴犬、原始的な犬グループ以外のイヌ(ラブラドール、スタンダードプードル等の様々な犬種)のアミラーゼコピー数を調査した。柴犬は、一般的にペットとして飼われている柴犬と天然記念物柴犬保存会の厳しい管理の元で交配が行われている縄文柴を用いた。 オオカミのアミラーゼコピー数は先行研究で報告されているとおり、2コピー程度であった。また、オオカミへの遺伝的近さから予想したとおり、秋田犬のコピー数はオオカミよりも多いが一般的な犬種より少なかった(p<0.01)。一方、秋田犬と同じく原始的な犬グループに含まれる柴犬のコピー数は、一般的な犬種と同程度であり、柴犬のオオカミへの遺伝的近さと反した結果となった。縄文柴のコピー数は、柴犬より少なく(p<0.01)、秋田犬より多かった(p<0.05)。 本研究によって、原始的な犬グループのイヌは一般的な犬種と比較してヒトへの愛着が低く、解決不可能課題においてヒトを見ないことが明らかとなった。これは先行研究によって知られている遺伝分岐図の結果と一致する結果であり、イヌの進化・家畜化は気質・行動や認知能力によって選択されていることを示唆する内容である。一方で、指差し二者選択課題でヒトからの社会的な指示を読み取る能力では、原始的な犬グループのイヌは一般的な犬種と同程度又はより高いという結果が得られた。解決不可能課題と指差し二者選択課題では関連性が見られず、解決不可能課題においてヒトを見ることや指差し二者選択課題でヒトからの社会的な指示を読み取る能力は、イヌの進化・家畜化において別々に獲得されたものであることを示唆する結果といえた。イヌの認知能力に関連する遺伝子の探索では、WBSCR17遺伝子、MC2R遺伝子が第一の選択に関与し、OT遺伝子が第二の選択に関わると考えられ、探索した遺伝子型の結果からも、イヌの進化・家畜化に二段階が存在する可能性が示された。