著者
田中 健作 井上 学
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.91-103, 2017 (Released:2017-08-12)
参考文献数
17

本稿では,バス路線運営における自治体間関係の特質を見出すために,中心集落規模の異なる中部地方の名張市周辺ならびに栄村周辺の2地域を事例に,山村の県際バス路線の運営枠組みを検討した。両地域ともに,周辺山村側の自治体や集落では,経済的機能や地形条件といった地理的な制約の下で受益を最大化させるために,生活圏や行政域に対応した領域横断的な交通サービスの設定を目指した。その際には県際バス路線に対する広域的な視点よりも,地域の中心周辺関係と行政域によって形成された利害関係が影響しているため,周辺性が高く財政力の弱い自治体ほど財政負担を増大させていた。自治体間のバス路線の運営枠組みは,地理的条件に基づく利害関係の差異によって,周辺性の高い山村側の負担や制約が大きくなる構造にあるといえる。
著者
田渕 理史 並木 重宏
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.100-111, 2019-08-06 (Released:2019-08-26)
参考文献数
128

脳は内発的に情報を生み出すことで自身の構造を創り上げることが出来るだけでなく,情報表現のために機能状態を自身で創り換えることも出来るシステムである。 最近の研究から,“神経細胞の自発活動パターン”が,この過程において重要な役割を担っている可能性が示唆されている。 しかしながら,自発神経活動パターンがどのような分子機構によって形成され,どのような情報を伝達しているのか,さらに神経回路の設計指針としてどのように使われているのかなど,まだよく分かっていないことが多い。本総説では,発達期神経系において観察される自発神経活動パターンの時間構造と,それらの形成を担っている分子機構に関して,筆者ら自身の研究も含めた最近の動向を紹介する。 さらに,神経系の発生ないし生後発達の過程において脳の神経回路の基本構造を創り上げる時だけでなく,成熟した脳がより最適化された情報表現を行うために神経回路の機能状態を創り換える時においても,特異的な時間構造パターンを有する自発神経活動が神経機能の再構築のために使われている可能性を議論したい。また,自発神経活動の時間構造の機能的意義の理解に向けた将来発展的な方法論の開発の必要性についても考察したい。
著者
星野 さや香 柴山 知也 Miguel ESTEBAN 高木 泰士 三上 貴仁 高畠 知行
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集B3(海洋開発) (ISSN:21854688)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.I_994-I_999, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
8

気候変動が現在のペースで100年にわたり継続したと仮定して,将来の気象条件下で強大化した台風が日本に来襲した場合に発生する高潮の危険性を予測し,沿岸域防護手法を提案した.東京湾を例として検討し,算出した高潮より標高の低い地域について,失われる資産額の算出を行った.また,算定した最高高潮水位を水準とした防潮堤の嵩上や新設,堤外地の地盤高の嵩上にかかる費用の算出を行った.約100年後の気象条件下で,190cmの海面上昇を考慮した場合,東京港・川崎港・横浜港には標高にしてそれぞれ4.5m・4.0m・3.9mの高潮高を推算した.これらの標高以下の地域が全て浸水したと想定すると,東京では75兆円,神奈川では4兆円を越える被害が出る.強大化した台風が防潮堤や水門の機能を停止する場合を想定して,将来的に荒川流域の高潮防護計画を確立する必要がある.算出した高潮高への対策として胸壁防潮堤の新設・堤外地の嵩上を行うと,直接的費用は東京港において約2,600億円,川崎港・横浜港において約1,200億円となる.
著者
松江 正彦 長濱 庸介 飯塚 康雄 村田 みゆき 藤原 宣夫
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.318-324, 2009 (Released:2010-07-27)
参考文献数
10
被引用文献数
6

温室効果ガスの主要な構成要素であるCO2 を減らすためには,排出量を減らすことと併せて,植物による吸収・固定を推進させることが必要である。都市緑化等の推進は,その対策の一つとして重要な役割を担っており,その効果を定量的に明らかにし,京都議定書の報告等にも活用可能な算出手法の開発が求められている。本研究では,木質部重量の増加量からCO2 の固定量が算定できることに着目し,我が国の街路樹や都市公園などに多用されている樹木の部位毎の乾燥重量測定・樹齢判読等を行い,胸高直径を基にした樹木1 本当たりの年間CO2 固定量の算定式の作成を試みることとした。これまでに,樹齢20 年前後の6 樹種を対象に同様の手法で研究・報告を行っているが,今回はその内の5 種に新たな1 種を加え,樹齢30 年から50 年前後の樹木を調査対象とし,先行研究のデータと合わせて解析した。その結果,樹齢50 年前後までを適応範囲とする年間木質部乾重成長量の算定式とそれを基にした年間CO2 固定量算定式を作成した。今後さらなる研究を進め,都市緑化樹木のCO2 吸収・固定効果を明らかにすることで,都市緑化の促進に貢献するものと考えられる。
著者
東 望歩
出版者
中古文学会
雑誌
中古文学 (ISSN:02874636)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.17-31, 2012-06-05 (Released:2019-05-18)
著者
中村 和夫 小林 奈保子 谷本 守正
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.444-447, 2014-09-15 (Released:2014-10-31)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

食用きのこ12株のフスマ固体培養を行い,その抽出液の凝乳活性を測定した結果,ヤマブシタケ(Hericium erinaceum) NBRC 100328に高い凝乳活性を見い出した.さらにMAFF7株のヤマブシタケについて凝乳活性を測定したところ,4株について凝乳活性が存在した.これら5株について低温殺菌牛乳を用いたカードの作製を行った結果,5株全てにおいてカードの作製が可能であった.全凝乳活性およびカード収量が高かった,Hericium erinaceum MAFF 435060,MAFF 430234,NBRC 100328をチーズ作製に適した株として選抜した.
著者
松岡 清利
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集 (ISSN:00290270)
巻号頁・発行日
vol.43, no.376, pp.4501-4509, 1977-12-25 (Released:2008-03-28)
参考文献数
8
被引用文献数
2 3
著者
佐藤 忠文
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.187-203, 2019-12-31 (Released:2020-01-18)
参考文献数
36

本研究では,自治体が広報活動で使用する広報写真について,情報資源化へ向けた課題を考察する。近年,オープンデータや文化情報資源に対する関心が高まるが,資源としての広報写真の現状はこれまで明らかにされていない。そこで本研究では,まず広報写真の性質を論じ,行政広報論の視点のもと広報写真家の言説に着目,そこから広報写真の共通構造を導出した。次に,それをもとに情報資源化の問題点について仮説を構築し,自治体に対し質問紙調査を行いその現状を明らかにした。最後に,調査結果をもとに課題を考察した。研究の結果,広報写真は,効率的な内容理解と行動変容を促す創造的な視覚媒体と言え,広報目的の達成に向けて,確実性,共感性,倫理性,記録性からなる共通構造を持つと考えられた。そして質問紙調査から,①撮影・管理,②アーカイブ,③二次利用の状況が明らかになった。そのうえで,①の課題として,撮影量に対応可能な効率的なメタデータ管理方法と柔軟な権利処理手続きの開発,②の課題として,広報写真の文脈までを保存し管理の煩雑さに対応可能なアーカイブ構築,③の課題として,商用利用を含む利用促進へ向けた利用ルール等の整備が明らかになった。本研究の成果は,主に3点である。従来の言説をまとめ広報写真理解のための理論を構築したこと,これまで明らかにされなかった広報写真の現状を一定明らかにしたこと,そこから情報資源化へ向けた具体的な課題を明らかにしたことである。
著者
渡邉 栄三
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.287-292, 2019-12-15 (Released:2020-01-15)
参考文献数
28

Autophagyは, 細胞の自己成分をlysosomeに運び込み分解する機構であり, 必ずしも細胞死を意味するわけではない. 飢餓応答としての栄養供給という働き以外にも, 不要なオルガネラの分解, 病原微生物の排除, 腫瘍抑制などの役割も確認されており, むしろ生命維持に必須のシステムである. そして敗血症病態下での重要臓器 (肝, 腎, 脾臓の免疫担当細胞など) においては, 発症早期には一過性にautophagyは亢進するものの, その後停滞傾向に向かうことが判明してきており, 臓器保護的な役割を担っている. 一方, 敗血症時の骨格筋では, autophagy過活性が筋萎縮を惹起することも報告され, 臓器やその構成細胞によっては諸刃の剣である. 敗血症とautophagyの関与の解明と, autophagyの生体でのモニタリング手法の確立が, 敗血症時のautophagy動態の制御を企図した栄養管理実現へのポイントである.
著者
根無 新太郎
出版者
東洋文庫
雑誌
東洋学報 = The Toyo Gakuho (ISSN:03869067)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.1-27, 2018-03

There were two types of military force used to suppress rebellions during the late Qing period: bing (兵), or regular troops consisting of the Green Standard Army and the Eight Banners, and yong (勇), or temporary volunteer troops organized into Yongying (勇營), mainly under governors-general and governors, in addition to tuanlian (團練) units on the village level. In Zhili (直隸) Province during the outbreak of the White Lotus Rebellion of the 1860s, bing, yong and tuanlian forces were deployed together to quell the insurrection, but the lack of discipline on the part of the bing-yong troops during the operation merely added to the civil unrest caused by the Rebellion. The Qing Court, in consideration of the effects of the worsening law and order on the capital of Beijing, reorganized the Green Army at the hands of the governor-general of Zhili in order to strengthen the government’s control, thus leading to the formation of Zhili Lianjun (直隸練軍).However, after the outbreak of the Nian Rebellion led to the further deterioration of law and order in Zhili Province, and as it became necessary to reinforce Zhili Lianjun with Yongying, the Court designed a new capital defense plan under which Yongying were deployed to limited areas, including southern and coastal areas of Zhili, either far away from Beijing or at the spot of the actual fighting, while Zhili Lianjun was stationed around Peking. This new capital defense plan was partly based on the Court’s, especially its Board of War’s (Bingbu 兵部), suspicion of Yongying, which included former rebels who had surrendered, and were thus deemed untrustworthy to serve around the Capital. This suspicion was further deepened due to the fact that Yongying also served as the governors-generals’ militia. As well, the Board of War had intervened several times during the establishment of Zhili Lianjun, owing to its concern over its close relationship with the governor-general of Zhili. The author takes up the Board as an excellent example of how the center’s attitudes toward the periphery began to change during the late Qing period.
著者
山本 功
出版者
埼玉大学社会調査研究センター
雑誌
政策と調査 (ISSN:2186411X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.53-62, 2017

2015年7~9月、全国の運転免許センター等で警察庁による全国統一治安意識調査が実施された。これは、都道府県比較が可能なわが国で初めての体感治安・犯罪不安に関する調査である。この調査データを用い、都道府県を分析単位として人びとの居住地域体感治安と犯罪不安の分析を行った。関心の焦点は、都道府県単位での人口あたり刑法犯認知件数といういわば客観的な犯罪情勢と、体感治安・犯罪不安という人びとの主観とがどれほど乖離するのか、あるいは一致するのかの観察にあった。敷衍すれば「安全」と「安心」がどのような関係にあるのかを明らかにすることでもある。結果として、居住地域体感治安と総合的犯罪不安に関して、人びとの主観はその県の刑法犯認知件数と相当程度一致しており、人びとの居住地域に対する評価はかなりの程度正鵠を射ているものであった。Since the beginning of the 21st century, criminology literature has focused on the discrepancy between fear of crime, subjective security, and objective security. In 2015, the National Uniform Subjective Security Survey was carried out by the National Police Agency. This questionnaire compared all the prefectures in Japan for the first time. This study aims to observe whether subjective security matched the number of reported penal code offence cases. In this study, prefecture-level correlation and a multiple regression analysis were used to test fear of crime, subjective security of residential areas, and reported penal code offense cases. The results revealed that the fear of crime and subjective security were significantly positively associated with the number of reported penal code offense cases.
著者
島内 憲夫
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.307-317, 2015 (Released:2015-12-03)
参考文献数
35

筆者の教育講演の焦点は,次の10点にある.①オタワ憲章設立前夜1980年代前半の動き,②オタワ憲章とバンコク憲章の特徴と相違,③健康の社会的決定要因(SDH),④Kickbuschの構想~健康教育からヘルスプロモーションへ~,⑤著者の日本でのヘルスプロモーション推進戦略,⑥人々の健康の捉え方,⑦健康はどこで・誰によって創られているのか,⑧健康格差社会の切り札,⑨幸福な生き方を支えるヘルスプロモーション,⑩ヘルスプロモーション哲学.ヘルスプロモーション活動は,人々の健康課題を共有し,解決し,共に推進することに焦点を置いている.その理由は,「健康は共に生み出すものだ」と考えているからである.それゆえ,分野間協力・住民参加等の人々の協働を必要としている.この協働は,人類が経験したことのないワクワクするほどの価値がある活動であり,人間性復活への活動(健康のルネサンス)であり,健康格差時代を力強く生き抜くための知恵なのである.21世紀を生きる我々人間は,未来をコントロールし,人生をあらゆる面において豊かなものとする,かつてないチャンスを与えられている.だからこそ,我々人間は自分の能力を全面的に発揮し人生を楽しみながら,世界のすべての人々と共にヘルスプロモーション活動を実践しなければならない.
著者
窪田 亜矢
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.39.3, pp.607-612, 2004-10-25 (Released:2017-08-02)
参考文献数
20

2002年ホームレス自立支援法が成立した。自治体に実施計画が義務づけられるなか、東京都では自立構築システムのもとで緊急一時保護センターや自立支援センターなどが設けられた。センターの立地やデザイン、内容についてはまだお問題はあるし、ここまでの施策は就労を前提としていることがしばしば指摘されてきた。しかし民間借り上げ住宅も検討され、多様な選択肢が用意され初めている。新宿区では NPOや自治体のみならず地域住民や路上生活者自身が加わる検討協議会も立ち上げられた。事態は進展しつつある。今後は、予防まで含めた総合的な取り組みを進めること、路上生活者自身の主体的な取り組みの支援、居住の権利に基づきながら問題を政治化していくことが必要だ。
著者
宇野 功一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.121, pp.45-104, 2005-03-25

近世博多の祭礼祇園山笠を例に、祭礼費用の増加過程と、その結果として生じた祭礼費用徴収法の変更および祭礼費用負担者層の拡大の諸相について明らかにした。分析対象は行町と片土居町という二つの町である。祇園山笠には二つの当番、山笠当番と能当番があった。本稿ではおもに、より重要でより多額の費用を要する山笠当番について論じた。この当番は数年に一度または十数年に一度だけ各町に巡って来たので、各町はこの間に多額の当番費用を準備することができた。そのためこの祭礼は徐々に豪華になっていった。しかし江戸後期になると当番費用が高騰し、豊かでない町では当番費用の徴収法に工夫を凝らすことになった。分析した二町の例から、当番費用負担者層と当番運営者層が町内の表店に居住する全世帯に拡大していく過程が観察された。とりわけ幕末の片土居町ではこの拡大が極限にまで達していた。つまりこの町では居付地主・地借・店借の別なく町内の表店全世帯に同額の当番費用が割り振られており、当番運営においても原則的には表店の全世帯主が平等に参加していたようである。また、その内容は異なるものの、両町とも町中抱の家屋敷を利用することで当番費用の一部を捻出していた。特異な祭礼運営仕法によって祭礼費用が高くなりすぎた結果、祭礼費用にかんして徴収法の変更と負担者層の拡大がなされ、それに伴い祭礼運営者層も拡大した、という一例を示した。
著者
松永 正樹
出版者
日本コミュニケーション学会
雑誌
ヒューマン・コミュニケーション研究 (ISSN:09137041)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.39-68, 2013-03-31 (Released:2017-11-30)

Despite the vast literature on employee "voice" -a set of organizational behaviors to speak up with intentions to improve one's work processes-the communicative features and underlying structure of "voice" behaviors have yet to be explored. Previous studies focus on whether organizational members speak up, leaving the issue of how they communicate "voice" unattended. Additionally, extant research overly highlights rational decision-making; consequently, theorizing about relationally-centered decision-making processes regarding "voice" is lacking. To address those limitations, the current research analyzed the data collected from 539 full-timers in Japan. The first part of the study utilizing the latent profile analyses identified five distinct "voice" strategies. Those analyses revealed that direct communication is rather atypical, and many utilize indirect strategies. In the second part, the underlying structure of "voice" was examined using multi-level structural equation modeling. The results indicated that: (a) employees' attitudes and subjective norms as well as leader-member exchange (LMX), but not communication efficacy, are associated with "voice" intentions; (b) LMX's effects are partially mediated via psychological factors; and (c) group-level LMX differentiation demonstrated explanatory power above and beyond the individual-level predictors. These results are discussed with reference to the relevant literature along with the current research's limitations and future directions.