著者
遠藤 亘 田浦 健次朗
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC) (ISSN:21888841)
巻号頁・発行日
vol.2017-HPC-160, no.37, pp.1-10, 2017-07-19

本研究では,分散共有メモリ (Distributed Shared Memory, DSM) システムと分散スレッドスケジューラを統合したライブラリを開発し,並列分散環境において透過的でスケーラブルな共有メモリプログラミングを実現することを目指している.従来の DSM 処理系で問題となってきたコヒーレントキャッシュの低スケーラビリティを改善するため,スレッド依存関係に基づいた緩和型コンシステンシモデルを基本として,計算ノードをまたいだ動的負荷分散とコヒーレンスプロトコルによる通信を協調させる手法を導入する.DSM の実装において今回はページベース DSM とし,ディレクトリベースのコヒーレンスプロトコルを実装する.分散スレッドスケジューラにはユーザレベルスレッドを用い,DSM 上にコールスタックを配置することで透過的スレッド移動を実現する.このような実装手法により,利用者にはユーザレベルスレッドやヒープ領域の生成・破棄等の API が 提供され,マルチコアプロセッサ上のタスク並列処理系相当の生産性を分散環境において実現できる.また,並行開発した HPC インターコネクト用の低水準通信ライブラリを基礎として,RDMA の利用を踏まえた DSM とスケジューラの実装を行う.本稿では,開発した処理系において共有メモリのベンチマークプログラムを動作させて初期評価を行い,その結果を元に性能上の今後の課題について論ずる.
著者
岡 宏樹 吉田 明正
雑誌
研究報告システム・アーキテクチャ(ARC) (ISSN:21888574)
巻号頁・発行日
vol.2017-ARC-227, no.38, pp.1-7, 2017-07-19

Java プログラムの並列処理環境として Fork / Join Framework が導入されており,ワークスティーリングを伴うスケジューラが利用できるようになっている.このFork / Join Framework を用いて,タスク駆動型実行を伴う並列 Java コードを実装する方法が提案されている.この方法をメニーコア環境に適用する場合,並列ループの分割数に起因して並列コードが長くなる.しかしながら,並列 Java コードの増大は,JVM 上での Java プログラムの実行時間を増加させる傾向がある.そこで本稿では,タスク駆動型実行の並列 Java コードを短縮するコードコンパクション手法を提案する.本手法では,指示文付 Java プログラムを入力として,開発した並列化コンパイラにより Fork / Join Framework を用いたタスク駆動型実行コードを自動生成する.Intel Xeon Phi Knights Landing 上で性能評価を行ったところ,Java Grande Forum Benchmark Suite 2.0 のプログラムに対して,68 コア実行において最大 103 倍の高い速度向上が得られ,提案手法の有効性が確認された.
著者
馬屋原 昂 佐藤 宏樹 石巻 優 今林 広樹 山名 早人
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2017-OS-141, no.6, pp.1-7, 2017-07-19

マルチコアシステム上で多数のスレッドが同時実行される場合,メモリアロケーションがボトルネックになることがある.これは,複数のスレッドから同時にシステムコールが呼ばれることに起因する.TCMalloc,JEmalloc,SuperMalloc などの従来の汎用用途向けのメモリアロケータでは,各スレッドのローカルヒープメモリへロックフリーでアクセスすることで高速化を実現している.これに対して本稿では,完全準同型暗号計算を対象にした FCMalloc を提案する.完全準同型暗号計算ではメモリ使用量が既知の場合が多く,さらに,ある決まったパターンでメモリアロケーションが繰り返されるという特徴がある.こうした特徴を利用し,FCMalloc では pseudo free によってメモリマッピング情報を繰り返し利用することで,物理メモリレベルでメモリプールを用いる.さらに,ローカルヒープメモリ間の通信経路の構造を全結合とすることで,複数のスレッドによるアクセスのロック競合を減少させる.すなわち,システムコールの頻度を下げ,メモリ管理をできる限りユーザ領域で実現することにより高速化を実現する.完全準同型暗号上で構築した頻出パターンマイニングアルゴリズムである Apriori アルゴリズムを対象とした評価実験の結果,既存手法の中で最も高速である JEmalloc と比較して 2.4 倍の高速化を達成した.
著者
寺田 献 山田 浩史
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2017-OS-141, no.5, pp.1-7, 2017-07-19

オペレーティングシステム (OS) が障害を検知した際の一般的な解決方法は OS とアプリケーションプログラム (App) の再起動である.これまでに OS の不具合からプロセスコンテキストを復元したり保護したりする手法が提案されているが,これらを両立する手法は提案されていない.再起動にかかる時間はサービスを提供することができないサービスダウンタイムとなり,サービスの可用性を大きく損なう.既存の手法では OS の障害によって App の実行状態が破壊される可能性があり,OS の障害から App の保護を行うことはできていない.本論文で提案する ShadowBuddy は発生した障害から App の実行を守るために,OS が不正な操作によって App の実行状態を破壊することを防ぎ,OS から保護された領域に App の実行状態を保存する.OS による不正なページテーブル操作,OS による App のメモリ空間への不正な読み書きを防ぎ,OS 内に存在する App の実行状態を破壊したとしても再現することのできるチェックポイントを作成する.ShadowBuddy は最小で数 % のオーバヘッドで,OS 透過に App のメモリ保護を行うことができる.
著者
田邨 優人 中島 耕太 山本 昌生 前田 宗則
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2017-OS-141, no.22, pp.1-6, 2017-07-19

ハードウェアの進歩に伴い,従来よりも大幅に低レイテンシな記憶装置やインターコネクタが登場している.計算機環境のさらなる高性能化,大規模化が求められる昨今では,今後これらのデバイスが主流になると考えられるが,大部分の計算機システムではその高速性を活かせない場合が多い.その一つの原因としてカーネル内でデバイスからの応答の検知にハードウェア割り込みを使用していることが挙げられる.性能が重要視される HPC 分野などではハードウェア割り込みよりも高速にデバイスからの応答検知を行うために polling という手法が用いられる.しかし polling は CPU リソースを占有してしまうという特性から汎用的な計算機システムには積極的に用いられることはなかった.そこで本研究では CPU リソースを管理しながらカーネル内で polling を行うための polling idle ドライバを提案する.提案手法を NVMe over Fabrics に実装して評価を行ったところ,最大 47.1% のレイテンシ削減効果,最大 77.3% の iops 向上を確認し,また iops の上限値が従来から 40.2% 向上したことを確認した.
著者
小柴 篤史 坂本 龍一 並木 美太郎
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2017-OS-141, no.21, pp.1-7, 2017-07-19

オンチップアクセラレータを用いたパイプライン並列処理は,チップ間のデータ転送とタスク実行をオーバラップすることでアクセラレータの演算性能を活用できる.しかしアクセラレータや DMA の実行制御,同期制御を頻繁に行う必要があるため,従来のデバイスドライバを介したアクセラレータ制御ではユーザ / カーネル空間のコンテキストスイッチに起因するオーバヘッドを招き,処理性能が低減する課題がある.そこで本研究では新たな OS の資源管理手法として,パイプライン並列処理向けのアクセラレータの制御機構を提案する.提案手法は,本来ユーザプロセスが行う煩雑なハードウェア制御をカーネルプロセスが代行する.これによりユーザ / カーネルプロセス間の通信を抑制し,制御オーバヘッドを削減する.本研究ではその初期検討として提案する OS 機構を Linux に実装し,ヘテロジニアスマルチコアプロセッサのプロトタイプを用いて評価した.アルファブレンダのパイプライン並列プログラムに提案機構を適用した結果,提案機構はデバイスドライバを用いる場合と比較してソフトウェアの制御オーバヘッドを 86.2% 削減し,プログラムの実行速度を 1.66 倍高速化することを明らかにした.
著者
穐山 空道 広渕 崇宏
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2017-OS-141, no.12, pp.1-9, 2017-07-19

データセンタ省電力化のため計算精度を落とす代わりに消費電力を削減する近似実行 (Approximate Computing) が着目され,特に DRAM モジュールに適用し大容量化 ・ 消費電力増が進むメモリサブシステムを省電力化する研究が盛んである.近似実行では大幅な電力削減が可能な一方,データ化けによる計算誤差やクラッシュ等アプリケーションへの影響も大きく,実際のアプリケーションに対し近似実行の適用可能性の調査が必須である.適用可能性の調査には,どのデータを近似するか,DRAM の電力をどの程度削減するか等様々なパラメータが存在し,従って近似実行を活用するためにアプリケーションへの影響を様々なパラメータで軽量に調査できることが重要である.しかし既存研究ではメモリトレースツールやハードウェアエミュレータが利用され,これらは実機の数百倍から千倍程度低速である.そこで本研究では,コモデティな CPU のハードウェア機能を利用することでメモリへの近似実行がアプリケーションに与える影響を高速に見積もる手法を提案する.近似を許すデータと許さないデータを別々の NUMA ノードに配置しメモリコントローラーの性能カウンタから各データへの IO 量を取得することで,近似データへのエラー混入が計算結果に与える影響をハードウェアシミュレータなしに再現する.評価の結果,提案機構ではアプリケーションへの影響を実機の数倍程度の時間で見積もれることを確認した.
著者
柴田 博仁 堀 浩一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.1000-1012, 2003-03-15

本研究の目的は,「書きながら考え」「考えながら書く」デザインプロセスとしての文章作成を支援する環境を構築することである.本稿では,試行錯誤的な文章作成の状態から文章の全体構造が明確になる段階までのプロセスを一貫して支援する新たな枠組みを提案する.枠組みの特徴は,表現の自由度が高い二次元空間と,全体構造の把握が容易な木構造表現とを,書き手の思考プロセスを阻害することなく統合する点にある.提案する枠組みの検証を目的とし,文章作成支援システム iWeaver を試作した.システムを利用した文章作成プロセスの分析から,提案する枠組みの有用性を確認する.
著者
横山 輝樹 ヨコヤマ テルキ Teruki YOKOYAMA
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2013-03-22

本論は江戸幕府八代将軍徳川吉宗(在職 一七一六~一七四五)によって実施された武芸奨励を研究対象として、その歴史的意義の解明を課題とするものである。徳川吉宗は後世に「享保改革」と称される幕政改革を実施し、司法・行政・財政改革をはじめとする様々な改革を断行した。吉宗はこうした改革を進めると同時に、当時安逸に流れていた幕臣の気風を引き締めるため武芸を奨励する。吉宗が幕臣の士風刷新の為に武芸を奨励したことは広く知られており、吉宗に関する伝記や概説書の類にあっても言及されるところである。しかし、吉宗による武芸奨励の実態解明を課題に据え、これを正面から取り扱ったものは極めて少ない。歴史学の分野では、吉宗による司法・行政・財政改革などについての研究は盛んであるが、武芸奨励については改革を推進した吉宗の個人像を描く一端として、半ばエピソード的に取り上げられているに過ぎない。他方、武道学の分野では、日本武道の歴史を通史的に述べる際、武道熱の高まった時代として吉宗期が取り上げられている。特に、弓道史にあっては吉宗による歩射儀礼・騎射儀礼の研究と復興についての言及が見られる。こうした武道学に於ける吉宗研究は、今村嘉雄氏の研究によって一定の到達点に達した感があるが、武道学にあっては日本武道の発展を描くという独自の目的によって研究されたものであり、政策としての武芸奨励、即ち武芸奨励策の内実にまで踏み込むというものではない。現状の武道学の成果では、吉宗期を「前時代と比して武芸がより奨励された時代」、「武芸を好む将軍によって武芸が重んじられた時代」という評価に留まらざるを得ず、それは一面で、吉宗による武芸奨励とは、吉宗が将軍である間に限られた、一過性の奨励であったという評価に陥る可能性を含んでいるのである。果たして吉宗期の武芸奨励策とは、その様な評価に留まるものであったのであろうか。本論はこうした武道学に於ける吉宗研究の問題点(及び歴史学に於ける吉宗の武芸奨励に対する等閑視)に対して、実証史学の手法によってその解答のひとつを導き出そうとするものである。そして本論では、将軍拝謁を許された上級の幕臣である旗本で構成された、「五番方」(書院番、小性組、大番、新番、小十人組)と総称される幕府直轄の軍事部隊を取り上げ、これに対する武芸奨励策を分析対象とする。五番方は戦時に於いて幕府の主力部隊としての役割を担う存在であり、太平の世にあって五番方から失われつつある戦闘者としての本分を如何にして維持し、向上させていくかということは、吉宗が将軍になる以前から課題とされながらも未解決のまま吉宗の代に持ち越された問題であった。吉宗の武芸奨励策を俯瞰した時、五番方に対する武芸奨励策こそがその根本を為すものであるということが本論にあって分析対象とする所以である。即ち、旗本の軍事部隊に対する武芸奨励策を研究することの意義は、先行研究の不足点を補うというところに留まるものではない。それは江戸時代に於ける武士というものの存在意義を問うということに他ならないのである。寛永十五年(一六三八)の島原の乱からおよそ百年を経た吉宗期、戦乱から程遠い太平の世にあって武士は次第にその戦闘能力を失いつつあった。その様な時代にあって武芸が奨励されたということは、幕末に至るまで武士から「尚武」の気風が失われなかったこと、また実際の軍事的技量が維持・発展させられこと、また実際の軍事的技量が維持・発展させられたことの要因をなしている。そして、その歴史的意義として、19世紀の国際情勢の下、アジアの諸国が相次いで欧米列強の植民地となっていくなかで、国家の独立を堅持し、軍事の面における日本の近代化を達成していくうえにおいて大きな意義を担うことになった点を指摘する。この様な関心の下、本論では第一章で吉宗期以前に実施された武芸奨励策の限界について取り上げた。武芸奨励策とは吉宗によって始められたものではなく、それ以前から実施されていた。しかし問題は、そうした武芸奨励の掛け声とは裏腹に、五番方にあっては必ずしも実行に移されたとは限らないというところにあった。こうした状況の中にあって始められた吉宗期の武芸奨励策の独自の意義を論じる。第二章では吉宗期に創設された新制度である惣領番入制度を取り上げる。これは旗本の惣領(跡取り)を五番方の一員として召し出すという制度である。本来であれば惣領は家を継いだ後で五番方の一員となる訳であるが、同制度を活用すれば家を継ぐ前に五番方の一員になれた。それは、第一に収入の面で恩恵が存在した。同制度によって惣領が五番方の一員となった旗本家には、当主に与えられる家禄の他に惣領に与えられる役料というふたつの収入源が確保された。第二にそれは昇進の面でも恩恵があった。しかし同制度を通じて五番方の一員となるには、事前に課される武芸吟味を勝ち抜く必要があった。旗本惣領は同制度によってもたらされる恩恵を獲得するために、武芸に励み、武芸吟味に備えたのである。制度的に構成された恩恵を伴った武芸奨励策というべきものであった。第三章では将軍が自ら五番方の武芸の腕前を観閲する武芸上覧と、五番方を率いる番頭(隊長)が部下に対して実施した武芸見分を分析した。武芸上覧と武芸見分は、いずれも吉宗が将軍になる以前から幕府に於いて実施されていたものであるが、武芸見分の実施命令は五番方にあって無視されがちであった。これに対して吉宗は、武芸見分が五番方内部で実施されているかどうかを、武芸上覧を繰り返すことで自らが確認し、武芸見分実施の徹底を図った。武芸上覧に参加するということは子々孫々に至るまで内外に喧伝すべき名誉を得る手段でもあり、半ば強制的ではあるものの武芸に励むことは五番方の面々にとっても有意義なことであった所以を明らかにする。第四章では中絶状態にあった将軍の狩猟を吉宗が再興し、組織的な軍事調練としての意味を持つ次元にまで狩猟を昇華させた過程を論じた。獲物を追い出し、追い込んでいく勢子の役割を、五番方をはじめとする幕府の軍事部隊に担当させるという問題が本章の主題である。狩猟が軍事調練の役割を果たしていたということはこれまでも指摘されているところであるが、本論ではその実態に立ち入り、吉宗が年月をかけて完成させていった狩猟を通じた組織的軍事調練の形成過程を解明する。当初は勢子のやり方すら知らない者がほとんどであったが、吉宗は狩猟を繰り返すことによって徐々に勢子を担当する幕臣を鍛え、最終的には騎乗して獲物を追う騎馬勢子を務めるほどの水準に達し、号令に基づいて組織的に展開し得る大規模かつ高度に統制された旗本軍団の形成に成功する。三十年という長期間にわたって実施された吉宗の旗本五番方への武芸奨励とはこの様なものであり、それは吉宗没後も模範として継承されつつ、幕末の外圧・政情不安の中で国家の独立を堅持し、軍事面に於ける日本の近代化を達成していく上に於いて大きな意義を担うことになったのである。
著者
町田 輝雄
出版者
日本体育大学
雑誌
日本体育大学紀要 (ISSN:02850613)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.45-50, 2016-09-30