著者
浅川 雅己
出版者
札幌学院大学総合研究所
雑誌
札幌学院大学経済論集 = Sapporo Gakuin University review of economics (ISSN:18848974)
巻号頁・発行日
no.10, pp.1-11, 2015-10

ジェーン・ハンフリーズの一連の研究の意義は,家族をユートピアとみる点にあるのではない。その意義は,労働者階級の自己再生産は,資本と賃労働の対抗関係,資本主義的生産関係の在り方に依存していることを示した点にある。ただし,このように理解することは,再生産をめぐる諸困難との対決を先送りすることを正当化するものではない。ハンフリーズの研究は,「労働供給のコントロール」が労働者階級の再生産の在り方を大きく左右するものであることを明らかにした。そこから,労働者階級の再生産戦略の今後についていくつかの示唆を引き出すことができる。論文Article
著者
石谷 真一
出版者
神戸女学院大学
雑誌
論集 (ISSN:03891658)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.193-207, 2004-12-20

In clinical psychology two kinds of reality are supposed, one is the external reality, which is an objective world shared with others, and the other is the psychic or internal reality, which is his/her own subjective world. A sense of reality can be thought to be much influenced with the relationship between those realities. This report examined the healty and desirable way of sense of reality in the view point of the relationship between external reality and internal reality, through studying the novel 'Shimanto Rever'. By applying theories of analytical psychology and psychoanalysis, the author described the action of Atuyoshi, who is a leading character in that novel, as products of interaction between his inner needs and outer world. In the view point of analytical psychology, Atuyoshi's action was regarded as a part of his individuation process, and meaningful coincidence of outer world and inner world was found out. In the light of Kleinian's psychoanalytic theory, it was thought that his action was motivated by his inner phantasy that his injured inner object need to be restored. From the viewpoint of Winnicott's and other Independents' psychoanalytic theories, Atuyoshi's action was considered to be the dramatization of his inner phantasy, and the trial of exploring a new way of living. As a result, the vivid and imaginative sense of reality, which is regarded as a helthy and desirable sense of reality in clinical psychology, was thought to be occurred from the mutually indispensable and dependable relation between the external reality and the internal reality.
著者
高木 彰彦
出版者
九州大学
雑誌
史淵 (ISSN:03869326)
巻号頁・発行日
vol.139, pp.177-202, 2002-03-30
被引用文献数
1
著者
梅邑 晃 遠藤 義洋 鈴木 雄 渋谷 俊介 渋谷 香織 梅邑 明子 谷村 武宏 北村 道彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.962-967, 2009 (Released:2009-10-05)
参考文献数
15
被引用文献数
3

目的:切除不能悪性腫瘍に伴う上部消化管狭窄に対する胃空腸バイパス手術の直接成績や予後に関する報告は少ない.当科におけるバイパス手術症例について検討したので報告する.方法:1999年1月から2007年12月までにバイパス手術を施行した33症例について,背景因子,術後経口摂取開始日および経口摂取期間,術後生存期間,術後生存期間に影響を及ぼす因子について検討を行った.結果:平均年齢は69歳,男女比は19:14,疾患は胃癌が16例で最多であった.平均術後経口摂取開始日は7.2病日,経口摂取期間中央値は127日間,32例で術後5分粥以上を摂取できた.退院率は93.9%,50%生存期間は149日であった.術後生存期間は,術前全身合併症,貧血,低栄養,術後化学療法未施行の群で有意に低下した.結語:バイパス手術は,術後早期の経口摂取が可能で,切除不能悪性腫瘍患者のQOLの改善に大きく貢献する.ただし,全身合併症,貧血や低栄養などがある場合には適応を慎重に決定する必要がある.

1 0 0 0 OA 古今要覧稿

著者
屋代弘賢
出版者
巻号頁・発行日
vol.[23],
著者
河野 功
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

日本産シキミおよび中国産シキミ科(Illiciaceae)植物の有毒成分検索の過程で,シキミ科に特有と考えられる化合物群が得られた.そこで,より系統的に特異な化合物群の存在を検討する目的で,幾つかのシキミ科植物について成分検索を研究を開始した.その結果 1)シキミ(Illicium anisatum)の果皮から得られるanisatin,pseudoanisatinの他に,新規なanisatinの誘導体を得た.また,anislactoneAおよびBと名付けた新規なanisatin由来の骨格を持つ化合物を単離した.2)大八角(I.majus)の果皮の成分としてmajucinおよびneomajucinと名付けたsesquiterpeneを得た.これらはanisatinと同じ骨格を持つものである.また,phytoqu-inoidと呼ばれるヤエヤマシキミから得られていた化合物群も得られた.このものの分布も非常に限られており,シキミ科に特異的成分と言える.3)紅八角(I.macranthum)の樹皮によりmacrantholと名付けたtriphe-nylneolignanが得られた.また,4)南川八角(I.dunnianum)の果皮よりこれと同じ骨格を持つdunnianolとその異性体isodunnianolが得られた.5)野八角(I.simonsii)より同種のsimonsinolを単離した.以上のtri-phenylneolignan類はモクレン科(Magnoliaceae)見られるbiphenylneo-lignanの存在と考え合わせると,シキミ科のケモタクソノミー的考察を加える上で重要な知見を与えた.また,野八角にも有毒成分のanisatin型sesquiterpeneが存在することが分かった.一方,民間的に漢薬として用いられている地楓皮(I.difengpi)からglycerophenylpropanoidやglyceroneolignanに属する化合物を数種得た.この種のものは野八角からも単離されているので,この種の化合物の存在はシキミ科に特有のものと言える.以上の結果,シキミ科の特有の成分としてanisatin型sesquit-erpeneやphytoquinoid,triphenylneolignan,glycelophenylpropanoidあるいはglyceroneolignanの存在が示された.
著者
森 香中
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.19-22, 1951 (Released:2008-03-10)
参考文献数
8

マウスを用いてビタミンLの生殖生理的作用の追究を主眼としそ実験し次の如き結果を得た。(1) マウスでは50日間程度のL欠乏に対しては経産未経産を通じて著しい泌乳障害を起すとは考えられない。(2) 幼若マウスに対してLの経口投与は,♀♂共に体及び生殖器官発育には大した効果がみられないが乳腺組織の発育を促進するものと認められる。(3) 未性成熟♀マウスにAnthranilic Acid即ちL1とProlanとを適量混合皮下注射するとProlanの性腺刺戟効果を増大し,L1の乳腺組織発育促進効果をも増加さす,即ちProlanとビダミンL1との間には相互的協同作用が存在する。
著者
塚田 秀雄
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.7, pp.p56-75, 1978-12

第二次大戦後のフィンランド農業および農村は激しい変化の波に洗われたが,その内,技術革新による農林業内部での労働力需要の減少と工業化・都市化の進展に伴う農村人口の流出は表裏一体の現象であり,他の北西ヨーロッパ諸国にも一般に見られるところである.これらに先立って,対ソ連敗戦の結果,東南部の穀倉地帯であった Karjalaカレリアを喪失したために,約40万人にのぼる難民の受入れ,入植というフィンランドに固有の問題もあった.これらについては地理学の側から幾つかの研究成果が発表され,主に南西沿岸地域と東部・北部の発達途上地域の構造的な対照が指摘されることが多かった.筆者も緊急開拓事業についての研究を展望する中で,農業の北進傾向と南部での集約化が北部からの撤退へと変りつつあることを指摘した.これらの研究は巨視的な観点に立つ地域構造分析が中心であり,農家・農民レベルの資料による事例研究は多いとはいえない.本稿でとりあげる北カレリアについては比較的詳細な研究があるが,農家なり村なりが具体的にどのように変容していったかといった問題意識によるものではない.本稿において筆者は東部フィンランドの辺境の村が主として1960年代にどのように変化したかを,上述の諸研究とは異った立場で,もっともミクロな観点から考えてみる.いわば農林業と人口の動きを中心にしたカレリアの一地方自治体のモノグラフである.このような研究が単独でもつ意味はあるいは小さいかも知れないが,多くの地域についてのこの種の研究の集積が巨視的な研究とは異った方向から地域研究に資するところがあると考えている.
著者
塚田 秀雄
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.5, pp.p129-143, 1976-12
被引用文献数
1

スウェーデンで1775年に法制化されたStorskifte は,当時その治下にあったフィンランドにも行われた.Isojako は Storskifte のフィン語訳であり,「大分割」を意味する.目的はそれまでの中世的耕地制度,村落機構,村落形態を近代的に改変し,新しい生産基盤を確立することにあった.本稿では,従来わが国においては殆んど知られていなかったスカンジナビアにおける農業革命の事例として, Isojako を紹介し,その意義を検討することにする.問題として,とりあげるのは,①ヨーロッパの農業中心における農業革命との対比,②農村の景観や機能の変化,③フィンランド国内にみられる対応の地域差が中心である.
著者
塚田 秀雄
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.6, pp.p62-77, 1977-12

筆者は前稿で、18世紀、スウェーデン統治下のフィンランドにおいて実施された Isojako 大分割と呼ばれる農地および林地の再編成事業について紹介し、若干の考察を試みた。それは究極的には農家保有耕地の一筆統合によって耕地強制を廃し、合理的な農場経営を実現することを目的としていた。実際には、公的、私的土地所有権の法制的整理や村落共同体の改編などの性格が付随したこともあって、この改革は農民の側の多様な対応を生んだ。この農業革命の進展については、地域的な違いが大きかったが、筆者はその原因を当時のフィンランド農村に行われた農法、林落形態、土地所有形態の地域差、換言すれば、スウェーデン的な南西部とよりスオミ的な東部および北部の間の経済的、社会的な構造上の相違にあることを指摘した。この一般的な考察に対し、別稿では Isojako の最先進地であったヴァーサ県のライビア藪区についてやや具体的にこの土地改革の過程と結果を考えてみた。いずれにしても、その後も継続して行われたこの農業革命を考えるについては、二つの点が看過出来ない重要性を有っている。一つは1809年に至ってフィンランドがスウェーデンの支配を離れて、ロシア皇帝によって統治される大公国となったこと.他の一つは1848年に土地改革の徹底と促進について新しい法律が施行されて,それまでの Isojako に対し、それ以後の事業を Uusjako 新分割と呼ぶに至った点である。従って本稿では、スウェーデンで行われた Enskifte 一筆分割、 Lagaskifte 法分割と対比しながら Uusjako 実施までの、ロシア統治下の Isojako についてまず概観し、次いで1948年以後のUusjakoの進展とその成果について考察する。