著者
谷岡 能史
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.44-59, 2010-01-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

7~10世紀の暖候期(5~10月)における気候について,六国史と『日本紀略』を対象史料として検討した.長雨や干ばつを中心に集計した結果,干ばつは7世紀末~8世紀,長雨は9世紀の特に後半に多く記載されていた.理化学的な気温復元結果から,前者は温暖化の時代であり,7月における干ばつの増加と関連があるとみられる.後者のうち,879~887年は7月に長雨が多く,梅雨前線の北上が遅かったことが示唆される.これに加え,平安遷都という都城の立地条件の変化が史料編者の意識を変化させた可能性もある.また,理化学的データではとらえきれないスケールの小さい変動も記載の変化に関わっていたと考えられる.
著者
上杉 昌也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.618-629, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

本稿では,現在の市街地の原型が形成された高度経済成長期の大阪東北部に注目し,セル・オートマトン(CA)を用いて市街地の面的拡大過程が適切に説明できるかを検証するとともに,その視点から当該地域の市街地拡大の特徴について考察した.CAシミュレーションによって,既成市街地を核とした拡大の過程や膨張した市街地どうしが連坦しさらに大きなかたまりになっていく過程から,局所的な相互作用の集積がマクロなスプロール現象を導いたことが確認された.一方でモデルの限界も見られ,東部丘陵地域および門真市南部などの飛地的な大規模集合住宅については現実に近いパターンを再現できなかった.以上のことから,現在の大阪東北部の市街地は,周囲の市街地とは連坦しない大規模集合住宅地に先導された市街地拡大過程と,既成市街地を基盤にして小規模な土地利用転換が累積した市街地拡大過程によって特徴付けられることが示された.
著者
宇根 義己
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.548-570, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
43
被引用文献数
5 4

タイで最も多くの日系自動車部品企業が立地するアマタナコン工業団地を取り上げ,企業集積のプロセスとリンケージの特性を明らかにした.まず,当団地の立地戦略において,バンコク都心部から通勤可能である上,政府機関の地域別税制恩典制度においてバンコク大都市圏よりも厚い恩典が享受できる点が企業に評価された.当団地には量産型車種を生産する自動車工場が立地していない.だが,1990年代以降の自動車工業地域の拡大に伴い,当団地がその中央部に位置するようになり,物流コストの低減を重視する部品企業の立地が促進した.さらにアジア通貨危機後は,団地内のエンジン工場の生産拡大に対応してエンジン部品企業が立地した.また,日本人・商社の関与による大規模開発が当団地に安心感と知名度をもたらし,農村地域からの労働力と日系企業を引きつけた.以上のプロセスにより当団地に企業集積が形成された.国内のリンケージは,複数の自動車企業や垂直的・水平的関係にある企業との間に形成されている.リンケージを空間的にみると,日系企業が集中する特定の工業団地間を中心としており,団地内リンケージは限定的である.
著者
藤本 潔
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.465-490, 2009-09-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
88
被引用文献数
1

氷河性アイソスタシーにより沈降傾向にある北海南部大陸沿岸の海面変化研究史をまとめるとともに,地質層序や地形発達との関係も考慮し完新世中期以降の海水準微変動について考察した.オランダ西部から北西ドイツに共通する現象として,5200~4500 cal BPの海面上昇停滞または海面低下と,4500~4100 cal BPの上昇の加速が認められた.また2350~1900 cal BPの塩性湿地の一時的な離水現象から,この間の海面低下とその後の再上昇が推定された.北西ドイツで推定されている3300~2900 cal BPの急激な海面低下はオランダでは認められない.オランダの海面変化曲線は圧密の影響を排除するため,基底泥炭基部から得られた14C年代値に基づく地下水位変動曲線から間接的に推定されたものである.この手法では海面低下の検出は難しく,見かけ上海面上昇速度の低下または停滞と認識される可能性がある.
著者
與倉 豊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.521-547, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
39
被引用文献数
4 4

本稿では,産(企業)・学(大学,高等専門学校)・公(公設試験研究機関など)の連携の事例として,経済産業省が実施する「地域新生コンソーシアム研究開発事業」を取り上げ,共同研究開発ネットワークの構造とイノベーションに関する計量的な分析を行った.研究テーマの共有に基づく組織間ネットワーク構造の可視化と指標化を行った結果,次のような知見を得た.まず,地域ブロックごとにネットワーク構造が,共同研究開発先を多く有するコアが複数存在する「分散型」と,コアが限られている「集中型」とに分かれることを確認した.また,共同研究に参加する組織の中心性の高さが,事業化の達成と密接に関わることを明らかにした.さらに,共同研究開発の空間的拡がりの違いを,研究分野別・組織属性別に検討した結果,「ものづくり型」の研究分野ではローカルなアクターが指向されているのに対して,「サイエンス型」の研究分野では,より広域的なネットワークが形成されていること,大学や高等専門学校が遠距離との共同研究開発において中心的役割を担っていることが明らかとなった.
著者
番匠谷 省吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.212-226, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿は,伐期を迎えた国産材産地における製材業に焦点を当て,原木供給,製材工場における木材の生産,流通という一連の過程の分析を通じて,製材業の生産構造について検討した.事例として取り上げたのは日本を代表する木材産地の一つである宮崎県都城市である.都城市の製材業に影響を与えている主な地域的要因は①他の国産材産地に比べてスギの伐期が早く,豊富な資源が存在した点,②行政の積極的な取組みにより流域林業,製材業が整備された点,③国内の乾燥材市場の成熟にいち早く対応し,市場での地位を築くことができた点,の3点である.このような環境下において,都城市の大規模業者は素材消費量,乾燥材生産量を増加させ,積極的な設備投資により効率化,無人化を進め,低コスト路線にシフトしつつある.一方で,中規模業者は原木消費量では維持,減少傾向にあり,乾燥材は生産しているものの,効率化,無人化の段階には達しておらず,低コスト路線にはシフトしていない.また,経営基盤が脆弱なため,安定した売上が見込める製品市場への出荷や,複数の製材工場による乾燥機の共同所有などの生残り戦略がみられる.
著者
杉浦 真一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.188-211, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
5 3

介護保険に関して,近年の市町村合併は,旧自治体ごとの負担(保険料)を均一化する一方で受益(サービス給付)を必ずしも平準化できない点で地域的公正の観点から問題を生じさせている.本稿は,旧自治体別の介護保険について,新自治体となる合併地域全体との間の量的・質的差異を全国スケールで分析した.主な結果は次の通りである.①新自治体とのサービス給付水準の差異が顕著な旧自治体を抱える新自治体は概して非都市的な地域特性を多く含み,高齢者人口規模などからみた首位都市としての地位が相対的に高い旧自治体による編入合併が多い.②合併によって新自治体との間で著しい給付水準の差異を有する旧自治体は全国的に分布するが,特に県境地帯の山間部や離島など周辺性を有する地域に多い.③それらの旧自治体は合併前の数年間をみても事業特性に大きな変化がなく,合併後も受益と負担の不均衡による地域的公正の問題が新自治体内で存続する可能性が示唆される.
著者
楯谷 一郎 平野 滋 伊藤 壽一
出版者
THE JAPAN LARYNGOLOGICAL ASSOCIATION
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.67-70, 2010-12-01 (Released:2011-04-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1
著者
山本 健見
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.127-155, 1993-12-31 (Released:2008-12-25)
参考文献数
73
被引用文献数
4 5

本稿は,ドイツの代表的大都市の中から,都市人口に占める外国人の比率が高く,しかも外国人全体の中に占めるトルコ人比率が特に高い都市である西ベルリン,ケルン,デュースブルクと,外国人比率は高いがトルコ人はユーゴスラビア人につぐ第2位集団でしかないミュンヘンとシュトゥットガルトとを取り上げて,各都市における民族的少数集団の空間的セグリゲーションの状態と程度を描くとともに,その要因を考察することを目的とする。その際,空間的セグリゲーションは,問題となる社会集団間の社会的距離を反映するという古典的人間生態学の理論の妥当性を検証することも,本稿の目的の一つである。 ドイッの大都市を事例としたこのテ・一マに関わる既往の諸研究は,アメリカの黒人ゲットーなどと対比して,ドイッ各都市に共通する特徴を重視してきた。しかし,ドイツ各都市において民族的少数集団が集積・集中している地区の特徴は類似しているものの,民族的少数集団の空間的セグリゲーションの程度に関する各都市の間の差異はかなり大きい。ドイツの各都市は固有の特徴を示しており,古典的人間生態学の理論は妥当しない場合が多い。類型的に見れば,北部の経済的に停滞してきた都市,すなわち西ベルリンとデュースブルクで空間的セグリゲーションの程度が大きく,南部の経済的躍進の著しい都市,すなわちミュンヘンとシュトゥットガルトで小さい。ケルンは両者の中間に位置付けられる。 このような類型的な特徴を説明するためには,民族的少数集団の側の居住地に関する主観的選好という要因よりも,構造的な要因に,すなわち各都市の形成史に制約された住宅供給の特質という要因を重視すべきである。本稿では,デュースブルクを事例として公益住宅企業が果たした役割を考察し,またミュンヘンを事例として「社会住宅」の果たした役割を考察した。その結果,空間的セグリゲーションに関する古典的理論からすれば逆説的なことであるが,差別が空間的分散を生み出し,また住宅供給側の主観的差別の欠如ないし小ささが空間的集中をもたらしていることが明らかとなった。
著者
野原 健司
出版者
アクオス研究所
雑誌
水生動物 (ISSN:24348643)
巻号頁・発行日
vol.AA2019, pp.AA2019-10, 2019 (Released:2019-10-13)

We investigated genetic population structure and tetrodotoxin (TTX) content of yellowfin toxic goby Yongeichthys criniger in the Japanese coastal area. Two divergent mitochondrial lineages (lineages A and B) were found, and the frequencies were clearly different among Okinawa-Iriomote Island, Amami Oshima Island and northward of Yakushima Island. Genetic heterogeneity among three groups were supported by principal coordinate analysis based on the pairwise FST values. TTX contents were measured in goby samples from Kochi Prefecture (Kashiratsudoi River) and Yakushima Island (Isso Port and Anbo River). TTX contents of skin and muscle tissues of Kashiratsudoi River and Isso Port samples were relatively high, while TTX was not detected in most individuals collected in the Anbo River. Therefore, it is suggested that the TTX contents of this species considerably vary even among geographically close areas and/or seasonally.
著者
Loren SIEBERT
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1-26, 2000-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
58
被引用文献数
1 2

Department of Geography and Planning, University of Akron, Abstract: Japan's ancient provinces were converted into modern prefectures after the Meiji Restoration of 1868. In the Kanto region, the eight former provinces of Musashi, Sagami, Awa, Kazusa, Shimosa, Hitachi, Shimotsuke, and Kozuke were reorganized into the seven prefectures of Tokyo, Saitama, Kanagawa, Chiba, Ibaraki, Tochigi, and Gunma. At the same time, railroads were being built to provide a new transportation method linking geographic areas. To what extent and how rapidly did the new prefectures replace the old provinces in geographic perception? One measure of that acceptance is how the new prefectures influenced the names given to rail companies, lines, and stations, all of which were created after the province system was replaced. Mapping and categorizing of rail names from 1872 to 1995 shows that province-based names significantly outnumbered prefecture-based names. This is especially true for station names, but is strongly apparent for rail company and line names as well. For line names, provincebased names have outnumbered prefecture-related names throughout the period. Only in the case of company names has the number of prefecture-related names (including those based on a capital city with the same name as the prefecture) finally exceeded the number of provincebased names. Spatially, province-based company, line, and station names are spread extensively throughout most of the Kanto region, whereas prefecture/capital-based names are found primarily in and around Tokyo itself. These temporal and spatial patterns reveal that the provinces have lived on in geographic perception long after their official demise.
著者
松本 栄次
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.50-62, 1994-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ブラジル北東部地方(ノルデステ)の主要な地生態系としては, 1) 湿潤熱帯気候下で深層風化した結晶質岩地域に発達するマール・デ・モロス型地生態系, 2) 同じく湿潤熱帯気候下で,未固結の堆積物からなる台地地域に見られるタブレーロス型地生態系,および, 3) 熱帯半乾燥気候下で有刺灌木林(カーチンガ)に覆われた侵食小起伏面からなるペディプレーン型地生態系がある。それぞれの地生態系における植生の破壊によって生ずる特徴的な劣化プロセスは,ハーフオレンジ(円頂丘)斜面におけるラテライト皮殻の形成,タブレーロス台地面における「白砂」の生成,および土壌侵食によるペディプレーンの露岩地化である。 ほとんど石英砂のみからなる不毛な土壌である白砂の生成は湿潤熱帯でもっとも特徴的な地生態系劣化プロセスのひとっである。タブレーロス台地上の白砂は,鉄・アルミニウム酸化物が地下浅所に析出して形成されたハードパンを不透水層として,その上に貯留され,またはその上を流動する酸性の浅層地下水の作用によって生成される。 タブレーロス台地面のように砂質な土壌の場合,森林の伐採によって蒸発散量が減少し土壌水分が増加する傾向がある。このような地中水の増加・地下水面の上昇は,ハードパンを浅所に形成し白砂を生成する上で有利な条件である。こう考えると,人間が白砂の生成を助長している可能性が高いと言える。
著者
白坂 蕃
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.68-86, 1984-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
53
被引用文献数
2 2

わが国の山地集落では,1950年代後半から著しい人口減少がみられた.一方,経済の高度成長によって,山地に対するレクリエーション需要が増大してきた.そしてレクリエーション活動の地域的展開に伴い,既存集落の変貌や新しい観光集落の形成がみられた.特にスキー場の開発による集落の変貌と,新しい集落の形成はその典型である. 筆者は,スキー場がその集落の形成・発展において重要な役割を演じ,スキー場と集落がひとつの複合体として機能する場合を,「スキー集落」と規定した.そして,スキー場の地域的分布の条件を考えるために,日本におけるスキー場の開発過程とスキー・場の地理的分布を明らかにした.さらにスキー集落をその起源により類型化し,スキー集落形成の諸条件を明らかにした. わが国のスキー場の地理的分布をみると,年最深積雪量50cm以上の地域で,しかも滑走可能期間が110日以上の地域に著しい集中がみられる.これらの自然条件に加えて,スキーヤーの発源地が基本的には大都市であるために,スキー場の立地には交通条件が大きく関与している.また,一般に日本のスキー集落の形成にあたっては,温泉の存在がその発展に大きな条件になっている.さらにスキー場の開発には広大な土地が必要であるため,スキー集落の形成においては,スキー場適地の土地所有形態が重要な要因で,これには共有地の存在が有利な条件となる. わが国におけるスキー集落は多種多様であるが,筆者は,それぞれの集落の起源や変貌の過程によって日本のスキー集落は基本的に二つに類型化できることを明らかにした.すなわち,第1は,既存の集落がスキー場の開発によって,従来の集落を著しく変貌させた「既存集落移行型スキー集落」である.第2は,スキー場が開発され,地元民の移住などにより,従来の非居住空間に新しい集落が形成された「新集落発生型スキー集落」である.
著者
前田 繁男 無敵 剛介
出版者
社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.385-390, 1991-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
14

経穴部の鍼通電刺激時における電気的特性の検討を非経穴部と比較して行い, また, 鍼通電刺激中の皮膚血流変化から経絡の流注の方向と陰イオンの流れる向きとの関連について考察し以下の見解を得た。(1) 経穴部 (合谷と手三里) 及び隣接した非経穴部に刺針し電気鍼刺激を行い電気鍼施行中に針の間に流れる電流波形を分析し, 両者のインピーダンスを比較すると経穴部の方が非経穴部よりインピーダンスは小さく, またベクトルインピーダンスメーターでもこのことが確かめられた。(2) 鍼通電刺激時の電流の向きと皮膚血流量変化の関連については, 陰イオンの流れが経絡の流注と同方向の場合に有意な血流量の増加がみられた。