著者
村木 祐介 MURAKI Yusuke
出版者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
雑誌
宇宙航空研究開発機構特別資料 = JAXA Special Publication (ISSN:24332232)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-SP-20-001, pp.1-15, 2020-08-28

宇宙利用の低コスト化により、通信・測位・リモセン等の宇宙の「機能的価値」に基づく従来の宇宙利用とは異なる、宇宙が有する「夢」「憧れ」「好奇心」「美しさ」などの「精神的価値」に基づく「感動駆動型宇宙利用」の実現可能性が高まっている。人工衛星の芸術・エンタメ利用など、アニメ、マンガやゲームといった産業に強みを持つ日本が世界を先導できる可能性のある新たな市場であり、従来とは異なる要求に基づく研究開発による技術革新や、個人消費に基づく持続的な宇宙開発利用の実現が期待される。人工衛星を用いた疑似宇宙旅行体験など安価な感動駆動型宇宙利用が普及すれば、宇宙飛行士のみが経験できた「Overview Effect (概観効果)」を世界中の人々が共有し、地球環境の保護や国際平和といった人類の普遍的価値が世界中で共有される新たな社会を実現できるかもしれない。
著者
岸上 伸啓 キシガミ ノブヒロ Nobuhiro KISHIGAMI
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2006-03-24

本論文はカナダ極北地域に住む先住民イヌイットの食物分配に関する文化人類学的研究である。本研究の目的は、1980年代から2001年頃までを対象としてケベック州極北部ヌナヴィク地域のアクリヴィク村においてイヌイットがいかなる理由で、どのように食物を分配し、それがどのような社会的な効果や機能を生み出しているかに関して、社会変化や社会関係と関連づけながら記述し、分析することである。その上で、変化しつつあるイヌイット社会において食物分配の実践が果たしてきた役割について考察する。 本論文は6章からなる。第1章では、本論文の目的を述べた後、論文全体の概要について述べる。第2章では、食物分配とは何かを定義した後、イヌイットをはじめとする狩猟採集民社会における食物分配に関する研究を、社会・人類学的研究と生態学的研究(生態人類学と進化生態学)に大別して整理をする。その上で、本論文で取り扱う問題を設定し、この研究の学術的な意義や仮説について述べる。本研究の仮説はイヌイット社会の経済的変化が急激に進む中で、食物分配の実践を通してイヌイットの社会関係が再生産されてきたというものである。そして本章の最後では、現地調査について概略する。 第3章は、本論文の調査対象地であるカナダ・ヌナヴィク地域ケープ・スミス島周辺の自然環境と歴史について記述する。ここでは、現在のイヌイット社会が世界システムや国家の中に包摂され、その一部として存在していることを強調する。 第4章では、1980年代から2000年にかけてのアクリヴィク村の経済構造を貨幣経済と生業経済の点から概略した後に、アクリヴィク村の家族・親族、世帯、キャンプ集団、村落構造、婚姻制度、養子縁組制度、同名者関係、助産人関係、友人関係について記述する。 第5章では、アクリヴィク村において観察された食物分配の全体像を提示した後、ハンター間の獲物の分配、ハンターから村人への獲物や食物の分配、村人間での食物分配、村における食事を通しての食物分配、キャンプ地における食物分配、村全体での共食会、村外との食物分配、そのほかの食物分配や交換、そしてケベック州ヌナヴィク地域で1980年代半ばに創設されたハンター・サポート・プログラムとそれを利用した村全体での食物分配の諸事例を紹介する。そのうえで、これらの食物分配の特徴、その時間的な変化と連続性について述べる。 第6章では、現在のイヌイット社会の食物分配の特徴や内容を、本論文で提起した食物分配の新たな類型に基づきながら検討する。また、アクリヴィク村の事例を用いて、狩猟採集民社会の食物分配の研究から引き出されてきたいくつかの仮説を検討することにより、現代のイヌイットの食物分配の特徴を指摘する。さらに、イヌイットが食物分配の実践を通していかに拡大家族関係や同名者関係などの社会関係を再生産してきたことを検討する。そのうえで、本研究から引き出された結論を要約する。 本論文の結論は、以下の通りである。 (1)アクリヴィク村の食物分配には、基本形として「分与」、「交換」、「再分配」が存在している。さらにハンター・サポート・プログラムによる分配や村全体での共食は、ボランニーの「再分配」の形態である。アクリヴィク村の事例に基づくと、イヌイットの食物分配の中心は、「交換」ではなく、「分与」や「再分配」である。 (2)アクリヴイク村の事例では、「狩猟採集民の分配は分与である」とするバード=デイヴイッドの説(Bird・David1990)や「狩猟採集民の食物分配は再分配である」とするウッドバーンの説(Woodburn1998)をある程度支持している。食物分配を食物の「交換」として理解し、食物分配の形態と社会的な距離との関係をモデル化したサーリンズのモデル(Sablins1965)に関しては、全体的な傾向としてアクリヴィク村の事例はモデルを支持するものの、大型動物の肉の分配(分与)や老人・寡婦・病人への食物分配(分与)は親族関係の有無に関係なく実践されているため、モデルの反例となる事例が存在している。 (3)アクリヴィク村の事例に基づくと、イヌイットの現在の食物分配の機能には、1)カントリー・フードを入手する手投としての機能、2)世帯間での食物の平準化機能、3)食物分配には既存の社会関係を確認し、維持する機能や、食物分配を意図的にしないことによって既存の社会関係を壊す機能、4)ハンターが分与の実践によってコミュニイティー内から社会的な名声や敬意を獲得する手段としての機能、5)文化的な価値観を実現させるという精神的な満足機能、6)コミュニティー意識やエスニック・アイデンティティーの生成・維持機能などがある。このように現在のアクリヴィク村の食物分配は複数の機能を持ち合わせた実践である。特に、食物分配は、食料を必要とする人にとって有利に働く実践である。 (4)アクリヴィク村のイヌイットの食物分配の大半は、親族関係や同名者関係など社会関係に沿った実践であるが、共労、場の共有(コミュニティーの成員であること)、弱者(もたざる者)であること、政治協定による′公認条件など社会関係以外の要因に基づく食物分配が存在する。そして食物分配の実践は、拡大家族関係など社会関係やコミュニイティー意識を確認させ、再生産させる。 (5)地域的にも、時間的にも極北地域のユピート・イヌイット社会における食物分配の形態や機能には差異が見られる。ヌナヴイク地域のアクリヴィク村の事例は、政治協定によって制度化された食物分配を実践している点ではユニークであるが、大半の食物分配が拡大家族関係に沿って実践されている点や「分与」や「再分配」の形態が主流である点では、ほかの地域の事例と共通点が認められる。 (6)食物分配は社会関係や世界観と深く相互に結びついているため、食物分配の衰退は拡大家族関係や世界観の変化などを生み出す原因のひとつになると考える。アクリヴィク村の事例のように新たな食物分配が制度化されたとしても、村人の狩猟・漁労活動が低下すれば、それに連動しながら食物分配の頻度が低下し、分配の範囲が狭まる可能性がある。 (7)現在のヌナヴィク地域のイヌイットは、国家や貨幣経済(世界経済システム)の中に取り込まれているが、カナダ政府やケベック州政府との政治交渉と協定を通して新たな社会を構築してきた。本論文ではその一例として、ヌナヴィク地域のイヌイットは、政治交渉を通して国家や州政府とうまく折り合いをつけ、国家や州政府が提供する制度や資金を利用しつつ、食物分配を実践し続けることによって、彼らの生活を組織する上で核となる社会関係を再生産させてきたことを例証した。カナダの先住民イヌイットの社会は、「国家に抗する社会」や「国家に抗せなかった社会」ではなく、「国家を受け入れ、利用した社会」である。
著者
河 正一 金井 勇人
出版者
埼玉大学日本語教育センター
雑誌
埼玉大学日本語教育センター紀要 (ISSN:21875871)
巻号頁・発行日
no.11, pp.15-27, 2017

本稿では、言葉の変化の過程として現れる敬語表現に焦点を当てて、二重敬語(敬語連結)、敬称、マニュアル敬語、謙譲語、不均衡な表現、さ入れ言葉、(さ)せていただく、慇懃な表現について、それらの表現における規範性と印象を調査した。そして、二つの要因の調査に基づき、敬語表現の変化の段階や揺れの原因とは何かについて、分析を試みた。
著者
植田 渥雄
雑誌
日中言語文化 : 桜美林大学紀要 (ISSN:18820972)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2-26, 2004-03-31
著者
近畿大学中央図書館
雑誌
図書館だより = Toshokan Dayori
巻号頁・発行日
no.199, pp.1-4, 2022-12-01

2022年12月-2023年1月合併号
著者
濱名 陽子
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.9, pp.165-173, 2016-03

本稿は、教員の資質能力としての「教育的愛情」に関して、これまでの教員養成に関する日本の審議会の議論のなかでの位置づけの変化を概観したうえで、この資質能力が現場で実際にどの程度必要とされているのかをいくつかの調査研究から整理しさらに教育学のなかでこの問題がどのように取り扱われてきたかを検討することで、教員や保育者の資質能力としての「教育的愛情」をどうとらえるべきかを検討する。結論として、「教育的愛情」は教員や保育者が教育実践のなかで育てていく専門性のひとつとして位置づけるべきではないかとしている。
著者
栗林 健太郎 三宅 悠介 力武 健次 篠田 陽一
雑誌
インターネットと運用技術シンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.48-55, 2021-11-18

物理空間上のセンサーやアクチュエーター等のデバイスとサイバー空間上の計算処理とを架橋する IoT システムにおいては,物理空間とサイバー空間との間における双方向のデータフローの構成が重要な課題となる.デバイス層,エッジ層,クラウド層の 3 層からなる IoT システムのアーキテクチャーモデルにおいては,設計・実装における構造的な複雑さが課題となる.その要因として(1)プログラミング言語や通信プロトコルの選択肢が多様であること,(2)データの取得方式が多様かつデータフローが双方向性を持つ,(3)IoT システムの全体を通じたデータフローの見通しが悪くなることの 3 つがある.本研究は,課題のそれぞれに対して(1)3 層を同一のプログラミング言語と通信プロトコルを用いて統合的に設計・実装できる手法,(2)push,pull,demand 方式のいずれにも対応し使い分けられる基盤,(3)3 層からなるデータフローを一望のもとに把握できる記法を提案する.提案のそれぞれに対して(1)提案手法を用いて 3 層からなる IoT システムを実際に統合的に設計・実装できること,(2)提案手法を用いるとデータの取得方式のいずれにも容易に対応できること,(3)提案する記法がデータフロー全体を十分に表現できることを評価することで,提案手法の有効性を示す.
著者
加藤 博己
出版者
近畿大学先端技術総合研究所
雑誌
近畿大学先端技術総合研究所紀要 = Memoirs of Institute of Advanced Technology, Kindai University (ISSN:13468693)
巻号頁・発行日
no.27, pp.31-39, 2022-03-31

[要旨]ペンギン類は、同種内で雌雄個体間に外見の差が少ないため、外見からは個体の雌雄を正確に判別することが困難である。その一方で、日本国内で飼育され、動物園・水族館で展示されているペンギン類を維持し、展示を継続するためには、国内での効率の良いペンギン類の繁殖が必要であり、その第一段階として、ペンギン類の各個体の性別を知ることは必須である。本稿では、当研究室で実施しているPCR 法によるペンギン類の雌雄判別について紹介する。[英文抄録] Since there is little difference in appearance between males and females, it is difficult to accurately distinguish the sex of each individual penguins from the appearance. On the other hand, in order to maintain and continue the exhibition of penguins bred at zoos and/or aquariums in Japan, efficient breeding of penguins is necessary. As a step of efficient breeding, it is essential to know the sex of each individual penguins. In this article, I will introduce the sexing of penguins by the PCR method carried out in my laboratory.