著者
河原 弘和 吉田 英一 山本 鋼志 勝田 長貴 西本 昌司 梅村 綾子 隈 隆成
雑誌
日本地質学会第128年学術大会
巻号頁・発行日
2021-08-14

【背景】 岩石と地下水の反応で生じるリーゼガング現象は、岩石中に特徴的なバンド模様を展開する。近年、そのバンドが岩石-流体反応の化学的特性や反応のタイムスケールを推測する手がかりになると指摘されている[1]。 豪州北部キンバレー地域東部に産するゼブラロックは、リーゼガングバンドの一例として知られる。ゼブラロックはエディアカラ紀のシルト岩層中にレンズ状に産し、酸化鉄鉱物(赤鉄鉱)からなる数mm〜2 cm幅の赤褐色のバンド模様を示す。ゼブラロックが産する露頭は不連続ながら50 km以上に渡って分布し、広域の地質イベントに伴って生じた可能性がある。これまで、ゼブラロックに関する研究は数例あるが[2][3]、その形成プロセスは未解明である。 本研究では、ゼブラロックの成因を基に鉄バンド形成時の岩石-流体反応の化学的条件を述べる。さらに、ゼブラロック形成に関連した地質イベントや鉄バンドの金属鉱床探査への応用の可能性を提案する。【結果】 薄片観察、XRD分析及びラマン分光分析の結果、ゼブラロックの主要構成鉱物は、極細粒の石英粒子及び粘土鉱物(カオリナイト、明礬石)である。特に粘土鉱物について、ほぼ明礬石からなるゼブラロックが本研究初めて記載され、(1)カオリナイト (Kao) に富むタイプと、(2)明礬石 (Alu) に富むタイプの2種類に分類された。XRF分析による両タイプの全岩組成は明瞭に異なり、特に鉄バンドのFe濃度は、Kaoタイプが~9%、Aluが~30%と大きな差が認められた。 XGT分析による元素マッピングでは、鉄バンド中のFe濃度は一様ではなく、バンドの片側に偏在した非対称の濃度ピークとして分布している。この傾向は両タイプのゼブラロックで共通して認められ、一つのサンプル中におけるピークの偏りは全て同じ方向であった。【考察】 ゼブラロックの粘土鉱物組み合わせの違いは、高硫化系浅熱水鉱床の周囲で、熱水の温度やpHの違いに応じて発達する変質分帯(珪化-明礬石帯及びカオリナイト帯)とよく一致している。これはゼブラロックが酸性熱水変質を被ったことを示している。さらに、Kaoタイプに比べてAluタイプに高濃度に含まれる鉄バンドのFeの存在は、Feの溶解度の温度依存性を反映し、Aluタイプの形成に関与した流体の方がより高温であったことを示唆する。実際に、変質分帯において、明礬石帯はカオリナイト帯より熱水系源に近く、より高温(かつ低pH)の流体が関与している。これらの結果から、ゼブラロックの粘土鉱物組み合わせとFe濃度の違いは熱水系のモデルと調和的であり、酸性熱水変質とバンド形成は同じイベントで生じたと考えられる。 ゼブラロックの元素マップで認められた鉄バンド中のFe濃度ピークは、浸透した流体と原岩との反応による鉄沈殿のリアクションフロントと見なすことができる。これは、Feを含む酸性熱水流体が原岩の堆積岩中に初生的に含まれていた炭酸塩鉱物との中和反応し、それに伴うpH上昇で、流体中のFeが酸化沈澱したことで説明することできる[4]。なお、ゼブラロック中に炭酸塩鉱物はほぼ含まれていないが、同層準の他地域の露頭では炭酸塩鉱物の存在が確認されている。 ゼブラロック形成に関与した熱水活動の候補として、豪州北部に分布するカンブリア紀のカルカリンジ洪水玄武岩の活動が挙げられる。その活動時期は初期−中期カンブリア紀の大量絶滅とほぼ同時期で、地球規模で表層環境に影響を与えたイベントとして注目されている。本研究地域では、ゼブラロックを胚胎する堆積岩層において、それより上位の年代で生じた火成活動はこの一度だけであることも本知見を支持する。【結論】 本研究によって、ゼブラロックの成因について以下の点が明らかとなった:・ゼブラロックは酸性熱水活動に関連して形成した・鉄バンドは、鉄を含む酸性熱水と原岩中の炭酸塩鉱物の中和反応によるpH緩衝によって生じたと考えられる・ゼブラロックの形成に関与した熱水活動は、カンブリア紀のカルカリンジ洪水玄武岩と関連する可能性が高い また、鉄バンド中の一方向のFe濃度ピークの偏りは浸透した流体の流向を示している[1]。従って、流向を逆に辿ることで、熱水金属鉱床が賦存することのある熱水系の中心の方向を推測できる可能性がある。熱水変質分帯と熱水の流向の両方を記録するゼブラロックは、熱水鉱床探査の有効な手がかりになると期待される。【文献】 [1] Yoshida et al., 2020: Chem. Geol. [2] Loughnan & Roberts, 1990: Aust. Jour. of Earth Sci. [3] Retallack, 2020: Aust. Jour. of Earth Sci. [4] Yoshida et al., 2018: Science Advances
著者
藪内 弘昭 林 知仁 藤原 麻紀子 大楠 剛司 森 めぐみ 宮井 一行
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【背景・目的】 発表者らは、これまでの研究において、文献情報を人工知能に学習させ、植物抽出物の生物活性を予測する手法を開発してきた。当研究では、当該手法を用いて抗菌活性を持つ植物抽出物のスクリーニングを実施し、そこから選抜したシロモジ精油の成分分析及び黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を評価した。【方法】 既報(藪内ら 平成30年度和歌山県工業技術センター研究報告 2019)の手法に準じて、植物抽出物の抗菌作用に関する先行文献データを人工知能に入力し、各植物抽出物について抗菌活性の有無を学習させた後、NCBI Taxonomy収載の植物に対し、抗菌活性の予測を行った。 予測に基づき選抜したシロモジ(Lindera triloba)を2021年9月に和歌山県内で採取し、葉及び枝それぞれについて、乾燥、粉砕した後、水蒸気蒸留により精油を抽出した。得られた精油の組成は、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)により推定した。また、各精油について、微量液体希釈法により黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する最小発育阻止濃度(MIC)を測定した。【結果・考察】 発表者らの手法を用いて植物抽出物の抗菌活性についてスクリーニングを実施したところ、候補の一つとして、日本固有種であるシロモジ(クスノキ科クロモジ属)の抽出物が選抜された。 GC-MS分析の結果、シロモジの葉の精油には、δ-カジネン、α-カジノール及びβ-カリオフィレンが、枝の精油には、α-カジノール、カンファー、リモネン、酢酸ボルニル及びδ-カジネンが、主に含まれると推定された。これらのうち、δ-カジネン、α-カジノール及びリモネンについて、抗菌作用を有することが文献で報告されている。 また、抗菌試験の結果、シロモジの葉及び枝の精油のMICは、それぞれ4 mg/mL及び1 mg/mLであり、シロモジの葉及び枝の精油は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性を示した。
著者
袁 博 高木 教夫 岡崎 真理 平野 俊彦
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

Arsenic and its compounds are widely distributed in the environment and exist in organic and inorganic forms. Although as a well-known poison, arsenic has been used medicinally for over 2,000 years. Notably, administration of trivalent arsenic derivatives (arsenite, AsIII) such as arsenic trioxide (ATO) has demonstrated a remarkable efficacy in the treatment of acute promyelocytic leukemia (APL), the vast majority of which is characterized by the promyelocytic leukemia (PML)-retinoic acid receptors (RARα) fusion caused by the t(15;17) translocation. Differentiation associated with the degradation of fusion protein PML-RARα, apoptosis induction, cell cycle arrest as well as autophagy induction have been shown to be linked to the therapeutic effects of ATO against APL. Several research groups including us have conducted detailed pharmacokinetic studies of ATO in APL by using biological samples such as peripheral blood, cerebrospinal fluid, bone marrow from patients. Aquaporin 9 and multidrug resistance-associated proteins (MRP1/MRP2/MRP4) have been reported to play pivotal roles in the uptake/efflux of arsenic, respectively. Here, we are going to introduce the mechanisms underlying the antitumor activity of AsIII and provide new insights into its potential novel application in terms of combinational treatment. Despite organic arsenicals mainly contained in seafood are known to be harmless, a novel organic arsenical, S-dimethylarsino-glutathione (darinaparsin, Dar), synthesized by conjugating dimethylarsenic to glutathione, has shown promising anticancer activity and is currently in use in human clinical trials in cancer patients. It has been demonstrated that Dar has overlapping, but distinct, signaling mechanisms of cell death induced by AsIII. We also provide some recent evidence of the cytocidal effect of Dar on several leukemia cell lines for understanding the arsenic compound in comparison to AsIII.
著者
松﨑 隆朗 清水 太郎 安藤 英紀 異島 優 山中 勝弘 三輪 泰司 濱本 英利 石田 竜弘
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】近年、がん抗原に対して特異的な免疫反応を誘導できるがんワクチンが注目されている。従来の皮下投与に比べて、免疫反応を増強するために抗原提示細胞が多く存在する皮膚を標的としたワクチンが注目されてきている。以前、我々は角質層透過性を持ち経皮吸収促進剤として利用できるイオン液体(ILs)にアジュバントとがん抗原模倣ペプチドを溶解させたワクチンを調製した。腫瘍を皮下移植したマウスの腹部にアジュバントを24時間貼付した後にペプチドの24時間貼付を行う免疫を3週間で3回行ったところ、有意な腫瘍増殖抑制効果が得られることを示した。本検討では、腫瘍増殖抑制効果が得られたメカニズムを明らかにするために、貼付部位の皮膚および流入リンパ節での免疫細胞の存在割合の変化を経時的に評価した。【方法】アジュバントであるResiquimod(R848)を含むILs(R848-ILs)およびOVAペプチド(OVAp)を含むILs(OVAp-ILs)を調製し、それぞれを貼付したマウスの貼付部位の皮膚およびリンパ節を経時的に回収し、その中の白血球(CD45)、更にはマクロファージ(CD11b)及び樹状細胞(CD11c)の存在割合をフローサイトメーターで測定した。【結果・考察】R848-ILsを貼付したマウスの皮膚では、各細胞の割合が貼付12時間以降に有意に増加した。また、R848-ILsの24時間貼付し続けた後にOVAp-ILsを貼付したところ、OVApの抗原提示を行っている細胞の割合が皮膚ではOVAp-ILs貼付3時間後から有意に増加し、リンパ節では貼付の6時間後から増加した。腫瘍増殖抑制効果が得られたメカニズムとして、R848-ILsによって皮膚免疫細胞が増加し、そこにOVAp-ILsを貼付することで、皮膚でペプチドが抗原として捕捉される機会が増加するのと同時にリンパ節へと運搬されやすくなり、結果として細胞傷害性Tリンパ球の活性化が強くなり、高い腫瘍増殖抑制効果に繋がったものと考えられた。以上より、イオン液体を利用したワクチン製剤は皮膚免疫反応の増強を可能とすることが示され、新規の非侵襲性ワクチンへの展開が可能であることが示唆された。
著者
先山 徹
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

兵庫県南部の六甲山地の大部分は花崗岩からなり,それらは古くから石材として利用され,「御影石」として各地に流通していた.この段階で「御影石」は六甲山地の花崗岩を示す用語であったが,現在では他地域のものであっても花崗岩石材を一般的に「御影石」と呼ばれようになっている.「御影石」がいつ,どのようにして六甲山の花崗岩から花崗岩石材の代名詞となったのか.そしてその理由はなぜなのか.その詳細は分かっていない.本発表では,筆者がこれまで続けてきた花崗岩の石材産地同定研究と名所図会の記述および六甲山地の地質から,その過程を考察する.これまで,六甲花崗岩で製作された石造物は中世から西日本各地に分布していることが,その岩相と帯磁率の研究から明らかにされてきた(先山,2014).一方,瀬戸内海沿岸や島嶼部には17世紀初頭の徳川大坂城築城をきっかけに多くの採石場が開かれ,特に北前船の時代には日本海側をはじめ全国各地にこの地域の花崗岩石材が広まった.それに対して六甲山地の花崗岩の流通範囲は縮小されていく傾向がみられる.一方,六甲山地の御影石については江戸時代後期の名所や名産を既述した絵図「摂津名所図会(1798年発行)や「日本山海名産図会(1799年発行)」にも記載されている.それらの「御影石」の項目では,「もともと御影村の浜から出荷されたことによって命名された」ことが記されている.この段階での「御影石」は六甲山地に由来する岩石のことを指している.さらに読み解くと,「山口(山麓)の石は取りつくされて,今は奥山の住吉村で採石したものを海岸まで運んでいる」という旨の記述がある.このことは,この図会が作成された時点では山地内の岩石が採石されているが,もともとは海岸近くの平地に転がっていた石を利用していたということを示唆している.さらに石材の品質についての項目があり,「御影石」についての項目であるにもかかわらず,その石質は「京都の白川石が硬くて良く,大きな鳥居などにも利用されている」旨の内容が書かれている.地理的にみてこの岩石が御影の浜から積み出されることは考えられない.このことから,その当時にはすでに六甲山地以外の花崗岩についても「御影石」と称されるようになっていたと推察される.前述のように,六甲山地は大部分が花崗岩からなり,その主体は淡紅色のカリ長石が特徴的な六甲花崗岩である.六甲山地では大名の刻印が刻まれた岩塊が多く存在し,その集中域は徳川大坂城築城のための採石場として知られている.その刻印集中域を地質図と重ね合わせた場合,花崗岩域だけでなく周辺の第四紀層中にも分布している.六甲山地山麓ではしばしば江戸時代の採石遺跡が発掘され,その多くは土石流堆積物である.なかには土石流堆積物上に鍜治場があり,堆積物中の岩塊に矢穴が見られることもある.つまり,そのころには過去の土石流堆積物中の岩塊を利用していたことになる.海浜に近い平野部は現在市街地となっているため不明であるが,六甲山麓ではこれまでに土石流の記録が多く残されていることから,江戸時代以前にも頻繁に土石流が発生していたと考えられる.それによって当時は海岸近くまで土石流による岩塊が多く存在していた可能性がある.以上のような情報を総合すると,以下のようになる.(1)頻繁に発生する土石流により,六甲山南麓では海岸近くまで岩塊が存在していた.(2)他地域に先駆け,それらの岩塊を加工し御影の浜から積み出した.その結果この岩石を御影石と呼ぶようになった.(3)この時点ではまだ大量に石材を出荷するところがなく,六甲花崗岩が各地に大量に広まったことから,次第に類似の花崗岩も御影石と呼ぶようになっていった.(4)大坂城築城にともなって瀬戸内各地の良質の石材が利用されるようになった.(5)六甲山南麓に転がっていた岩塊も取りつくされ,その後第四紀層の礫を利用し,さらに山地の岩石を使用するようになっていった.(6)江戸時代後半には石材産地の主体は瀬戸内海の各地に移っていったが,「御影石」という名称は他の花崗岩石材の俗称として残された. 現在,六甲山地に採石場は存在しない.しかし土石流の石材を利用してきた歴史は現在の建造物の石垣に見られる.それは人々が災害と関わりながら暮らし,現在の街を作ってきたあかしでもある.文献先山 徹(2013)花崗岩の識別と帯磁率による産地同定.御影石と中世の流通-石材識別と石造物の形態・分布-(市村高男編),高志書院,45-58.