著者
木村 哲也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.44-48, 2021-01-10

日本では,長年にわたりハンセン病隔離政策が行われ,患者・回復者および家族は偏見と差別によりさまざまな人権侵害を受けてきた。この政策に現場の行政保健師がどのように関わったのかを,高知県の保健師への聞き取り調査による証言を基に紹介する。また,それを受けて,差別・偏見を解消するために必要なことや,公衆衛生の専門職として持つべき視点を述べる。
著者
渕野 恭子 石戸 岳仁 武田 莉沙 小島 一樹 井上 克洋
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.239-243, 2021-02-15

要約 目的:遷延する原因不明の両眼球結膜浮腫および両眼球結膜充血からクッシング症候群と診断し,原疾患の治療により眼症状の改善が得られた1例について報告する。 症例:53歳,女性。 病歴:6か月前から持続する両眼球結膜浮腫,両眼球結膜充血を主訴に藤沢市民病院眼科を受診した。0.1%ベタメタゾン点眼を使用したが症状は改善しなかった。眼症状の発症と同時期から高血圧,顔面浮腫や両下腿浮腫もみられ胸腹部CT検査を施行したところ,左副腎腫瘍がみられた。血液検査で副腎皮質刺激ホルモンが低値,尿中コルチゾルが高値であり副腎性クッシング症候群と診断され,左副腎摘出術が施行された。手術後速やかな結膜浮腫,結膜充血の改善が得られた。 結論:眼症状を契機に最終的にクッシング症候群の診断に至った症例を経験した。局所の治療に反応せず遷延する両眼の眼球結膜浮腫,眼球結膜充血がみられた場合,全身疾患の1症状として眼症状が起きている可能性があるため他科と連携して精査を進めることが肝要であると考えられた。
著者
髙橋 忠志 尾身 諭 泉 圭之介 菊池 謙一 遠藤 聡 尾花 正義 太田 岳洋 長谷川 士朗 柚木 泰広 北澤 浩美 方波見 裕子 八木 真由美 長井 ノブ子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.271-274, 2019-03-10

はじめに 荏原病院(以下,当院)は東京都の区南部医療圏における中核病院の1つである.リハビリテーション科においては,中枢神経疾患や運動器疾患,廃用症候群,呼吸器疾患などを中心に,急性期から早期リハビリテーション介入を行っている.がん患者に対するリハビリテーションは2015年に所定のがんのリハビリテーション研修を修了し,がん患者リハビリテーション料が算定可能となった. がんのリハビリテーションガイドラインでは,周術期がん患者に対するリハビリテーションは呼吸器合併症の減少・入院期間の短縮のため勧められるとされている1).しかし,当院ではがん患者リハビリテーション料算定可能となった後も,がん患者のリハビリテーション科依頼は少なく,周術期がん患者に対して十分なリハビリテーション介入を行えていなかった. さらに,周術期の呼吸器合併症の予防で有効な手段として口腔機能管理が挙げられる.周術期の口腔機能管理は,口腔ケアによる口腔細菌数の減少,口腔感染源の除去,挿管・抜管時の歯牙保護が主な目的であり,周術期口腔機能管理料を算定できる.2016年度の診療報酬改定において,医科歯科連携の推進として,周術期口腔機能管理後手術加算の引き上げ,栄養サポートチームに歯科医師が参加した場合の歯科医師連携加算が新設され,現在,医科歯科連携がいっそう求められている. 当院では2016年度に外科,歯科口腔外科(以下,歯科),看護部,リハビリテーション科が協働して,がん患者の周術期サポートチームを立ち上げた.このチームをSupport Team of Rehabilitation,Oral care and Nursing care Group for perioperative patientsの頭文字を取り“STRONG”とした. これまで,医科歯科連携として,手術を行う主科と歯科の連携の報告は散見するが,歯科とリハビリテーション科が連携して呼吸器合併症を予防する取り組みは報告が少ない. 今回,当院の外来におけるがん患者周術期サポートチーム“STRONG”の取り組みを紹介する.
著者
中川 国利
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.825, 2019-07-20

尿意を感じればトイレに行くのが自然であり,我慢にも限界がある.では長時間に及ぶ手術中にトイレに行きたくなったら,外科医はどうしているのだろうか. かつての名物外科教授の中には,手術中に尿意を催し,「婦長,尿瓶」と宣った強者がいたそうだ.そして手慣れた婦長は「失礼します」と語って教授の排尿を手伝い,教授は手を休めることなく手術を続け,「ご苦労様」と語ったと伝えられている.
著者
小林 克治
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.819-824, 2015-10-15

はじめに レビー小体病(Lewy body disease;LBD)はパーキンソン病(Parkinson's disease;PD),レビー小体型認知症(dementia with Lewy body disease;DLB),パーキンソン病認知症(dementia with PD;PDD),レビー小体嚥下障害(Lewy body dysphagia)を総括した臨床概念で,剖検によって偶然にレビー小体関連病理が発見されたものは偶発レビー小体病(incidental Lewy body disease;iLBD)と呼ばれる。これに加え,運動症状や認知症のない精神症状群,すなわちisolated psychosis(孤立性精神病)は1998年にLennox13)によってpure psychiatric presentation(純粋精神症状:PPP)と呼ばれた。つまりPPPは機能性精神病のように経過するLBDと考えられる。 このPPPは新しく定義された臨床事実でも臨床概念でもない。うつ病で経過した患者にパーキンソン症状が加わり,PDのうつ病であったと分かることは珍しいことではない。LBDでは幻視,意識変動,うつ病,せん妄,レム睡眠行動異常,妄想性誤認,幻聴など精神症状または非運動症状が多く,これらの症状と運動症状が下位疾患ごとに重なり合っているために21),精神症状からLBD下位疾患を診断することは難しい。このためにLBDでPPPの疾患概念が使われることはなかった。PDと認知症については1年ルールがあるが,認知症以外の症状についてはこのような取り決めはない。LBDは精神症状が多様で豊富な神経疾患であり精神症状からの診断が難しいが,心筋meta-iodobenzylguanidine(MIBG)検査やドパミントランスポーターのスキャンなど診断マーカーが近年進歩を遂げ,運動症状や認知症のないLBD,すなわちPPP,を診断できるようになったので,自験例を集めて検討した。
著者
大木 弘治 内田 宗志
出版者
メジカルビュー社
巻号頁・発行日
pp.532-535, 2019-05-19

はじめに大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement;FAI)は, 2003年にGanzらによって新たに提唱された概念であり,大腿骨や寛骨臼の形態 異常により,インピンジ(衝突)することで股関節痛が誘発され,さらには股関節 可動域制限を生じる。股関節唇損傷や変形性股関節症の一因として,広く認識さ れるようになった。 FAIは形態により,①大腿骨頚部の骨性隆起によるcam type,②寛骨臼縁の過被 覆によるpincer type,③その両者が併存するmixed typeの3タイプに分類される。 最初の治療は,投薬,リハビリテーションなどの保存療法が中心であるが,そ れでも改善しない場合,あるいはエリートスポーツ選手などでは手術療法が選択 肢の1つとなる。手術は,寛骨臼と大腿骨の膨隆部分を切除してインピンジメント を解消し,またインピンジメントにより損傷した関節唇を修復もしくは再建する が,最近ではより低侵襲な治療として,股関節鏡視下での手術が広く行われるよ うになった。 本稿では,筆者らがFAIの手術において行っているコツについて述べる。
著者
内田 宗志 近藤 みほこ
出版者
学研メディカル秀潤社
巻号頁・発行日
pp.1340-1343, 2019-09-25

Q1大腿骨寛骨臼インピンジメントの診断と治療において,放射線科のMRIの読影レポートに求める内容はどのようなものでしょうか?Q2疲労骨折とシンスプリントはどのように線引きをして,画像診断や読影レポートを記載すればよいのでしょうか?
著者
岩澤 うつぎ 宮川 かおり 柿沼 寛 鈴木 啓之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.35-38, 1995-01-01

43歳,男.約20年来,尋常性乾癬と診断され加療されていた.当科初診の10カ月前より関節の腫脹,疼痛,運動制限が出現.皮疹の性状と病理組織所見,およびリウマチ血清反応陰性を示す関節症状を併せて関節症性乾癬と診断した.関節痛増悪のため入院,メソトレキセートの少量間歇投与を試みたが効果なく,サラゾスルファピリジン(サラゾピリン®)に変更したところ関節症状は軽快し,通常の生活および職場復帰が可能となった.サラゾスルファピリジンの関節痛に対する作用機序など若干の考察を記した.
著者
下平 浩揮 内田 宗志
出版者
メジカルビュー社
巻号頁・発行日
pp.36-51, 2018-04-01

<画像診療のポイント>●寛骨臼形成不全は外方の被覆だけではなく、前方の被覆ならびに股関節の不安定性の評価も必要である。●大腿骨寛骨臼インピンジメントの画像評価は、正面、軸位に加えてDunn viewでも行う。●関節軟骨の評価には、MRIにおける脂肪抑制プロトン密度強調像、T2マッピングを用いる。●大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折のMRI骨頭内線状低信号は、関節面に対して平行であり、大腿骨頭壊死症は凸である。●Os acetabuliを認める場合、寛骨臼ならびに大腿骨頭から頸部にかけての骨形態の評価も必要である。●恥骨結合炎は、MRIにおける軟骨下板の前後方向における骨髄浮腫が特徴的な所見である。
著者
土井 健司
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.470-472, 2021-05-01

時間がない?!TEEで何を評価するかみなさん,こんにちは。TEEしてますか。今回は,Stanford A型大動脈解離の術中TEE評価のお話です。「A型大動脈解離の緊急手術が入ります」と外科医から連絡がくると,われわれ麻酔科医は「上行置換術でサクッと終わればいいな…」などと淡い期待を抱いて臨むものです。 しかし,患者の病態だけでなく,施設の状況や術者の好みによる違いなどで,大動脈解離の術式は多彩であり,注意すべきことも満載です。
著者
上農 喜朗
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.533-542, 2021-05-01

はじめに1997年,私は創刊されて間もない本誌に「熱力学と麻酔」というタイトルで,熱力学的な視点からみた麻酔作用機序を紹介しました1)。それから約四半世紀がたちましたが,最近も同じような検討を行った論文が発表されています2,3)。熱力学に例外はなく,当然なこととはいえ,昔の研究が再検討され支持されたことは嬉しいことです。 ところで,私は当時からリン脂質膜の相転移温度を低下させたり,酵素の反応を抑制したり,膜の活動電位を抑えるというような分子レベルでの麻酔薬の作用と,生体で見られる麻酔現象の間に乖離があることが気になっていました。そこで,両者をつなぐ神経ネットワークに重要な役割があるのではないかと考えていました。 その頃漠然とイメージしていたのが,本稿のサブタイトル「意識は記憶の時間微分である」という言葉です。全身麻酔の重要な要素である意識消失を数学的に表現したものです。本稿では麻酔薬の分子レベルでの効果と臨床の麻酔作用をつなぐものとして神経ネットワークをモデル化し,麻酔薬が作用したときの伝達遮断を数学的に考察します。
著者
George Zhou 長坂 安子
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.500-502, 2021-05-01

ポストコロナの時代が到来しても,外国人患者の数はこれまでと変わらずに増えていくことが予想されます。そこで,Zhou先生に,回復室でよく使う基本的な英語のフレーズを教えていただきます。(長坂 安子)
著者
山田 高成 橋本 雄一 浅井 隆 滑川 元希 中川 雅史 古谷 健太
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.447-461, 2021-05-01

「全身状態が悪いので局所麻酔で手術してみたのですが,結局うまくいかなかったので,麻酔科管理でお願いします!」外科医からこう依頼されると気持ちは複雑だ。麻酔科医冥利に尽きる機会に間違いないと思う反面,よほど状態の悪い患者に違いない。聞けばこれまでに術後抜管困難で気管切開したことがあるとか。しかも腎移植後で,血管閉塞の手術をしたいとのことである。今回は気管切開せずに済むかな…,大事な腎臓も守り切れるか…。あれ,頸から何か入っている! ミニトラックだ! 抜いていいのか? こんな時は…そうだ,LiSAの症例カンファレンスで全国の麻酔科医に相談しよう! というわけで,先生方,お力をお貸しください!
著者
柳 健 笹島 耕二 宮本 昌之 横山 正 丸山 弘 田尻 孝
出版者
日本内視鏡外科学会
巻号頁・発行日
pp.775-779, 2008-12-15

◆要旨:患者は56歳,男性.肛門よりロウソクを挿入し,腹痛にて受診し入院となった.腹部CTにて直径65mm×長さ150mmの直腸内異物を確認した.大腸内視鏡検査にて直腸Raに異物の肛門側端を認めたが除去不可能であり,経肛門イレウス管を異物の口側に挿入して減圧した.腰椎麻酔下での経肛門的摘出を試みたが不可能であった.経肛門イレウス管の挿入により内服による腸管洗浄が可能であった.3日後,腹腔鏡下に小切開を置き,術者の右手を腹腔内に挿入し,用手的圧迫により経肛門的に異物を除去し得た.腹腔鏡補助下手術は腸管を詳細に観察でき,かつ最小の創で的確な手術が可能であり,非観血的に除去不可能な巨大直腸内異物に対しても非常に有用であった.
著者
高橋 任美 杉田 直 山田 由季子 鴨居 功樹 高瀬 博 望月 學 丸山 和一 木下 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1281-1283, 2009-08-15

要約 目的:ぶどう膜炎の発症と経過などに及ぼす月経の影響の報告。対象と方法:ぶどう膜炎で通院中の女性54名に,月経周期とぶどう膜炎の自覚症状について問診を行った。年齢は12~51歳(平均31歳)で,内訳はサルコイドーシス8名,原田病8名,Behçet病7名,特発性ぶどう膜炎26名,その他5名である。結果:9名(17%)が月経がぶどう膜炎の自覚症状に関係すると答えた。うち8名では月経直前から月経期間中に症状が悪化した。54名中8名にぶどう膜炎の発症後に妊娠した経験があり,うち出産した5名全例で出産後にぶどう膜炎が一時的に悪化した。結論:ぶどう膜炎がある女性では,月経周期により女性ホルモン動態が変化し,ぶどう膜炎の発症または経過に影響する可能性がある。
著者
市瀬 博基
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.366-371, 2016-04-10

今回から3回にわたって慶應義塾大学病院看護部のEBP(Evidence-Based Practice:エビデンスに基づく実践)の導入について検討していきます。EBPとは,「臨床意思決定に向けた問題解決手法」であり,看護の文脈では,看護研究における最新の知見,現場の看護師の専門的知識と判断,そして患者のニーズや価値を統合するための仕組みをつくり,臨床実践に反映するための取り組みを指しています1)。 慶應義塾大学病院看護部では,看護の質保証をめざしたこれまでの取り組みを拡張する形で,2013年からEBP導入に取り組んでいます。看護ケアの「実践と並行して評価を行い,その評価を次のケアに活かす活動が体系的に行われる」ための組織的な支援体制を整備し,「実践レベルで(EBPが)浸透することによりPDCAサイクルが回り,エビデンスを活用できる組織に変えていく」ことが狙いです2)。
著者
坂木 孝輔 山口 庸子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.208, 2019-03-10

現場に相談できる人がいてほしい 現場では,「エビデンスに基づく実践がしたい」と思う一方で,日常業務に追われ,理想と現実のギャップを感じている看護師は少なくないと思います。臨床で分からないことがあったとき,いきなり原著論文を調べるという人は少ないでしょう。まず先輩や他職種に聞いてみたり,教科書や雑誌の特集を見たりするのではないでしょうか。 日常の実践から生じる疑問はあっても,それをPICOやFINERといった枠組みを使ってリサーチクエスチョンに落とし込むのはなかなか難しいものです。いざ,情熱を持って信頼できる仲間たちと研究しようと思っても,時間がなかったりメンターがいなかったりするのが現状ではないでしょうか。
著者
白方 隆晴
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.366-367, 1988-04-01

リバルタ反応は,腹水や胸水などの穿刺液が濾出性のものか浸出性のものであるかの鑑別に利用される検査法の一つである. 腹水や胸水は腹腔や胸腔に多量に水分が貯留したものであり,その生成の原因により濾出液と浸出液に分類される.心不全,肺静脈血栓症での毛細血管内圧の上昇やネフローゼ症候群,肝硬変などでの血漿の膠質浸透圧の低下が原因で生成される腹水や胸水は濾出液である.一方,感染症や悪性腫瘍などで毛細血管透過性の充進やリンパ系の通過障害によって生成される腹水や胸水は浸出液である.
著者
櫻本 秀明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.68-71, 2020-01-15

集中治療後症候群(PICS)とは? PICS(ピックス)とは,post intensive care syndromeの略で,集中治療後症候群といったような日本語訳になる言葉である.PICSについてのはっきりとした定義はない.2012年に集中治療にかかわるステークホルダーを一堂に揃え行われたカンファレンスの報告によれば1),「重症疾患後に身体,認知,メンタルヘルス状態に関する新しい障害が観察された,または障害が悪化し,継続する状態」を指し,そして,この用語は患者(PICS)だけではなく,その家族(PICS-F)にも適応できるとされる. PICSにはいくつかのドメインがあり,その症状ごとに,図1のようにまとめられている.呼吸機能障害,筋神経系障害などを含む身体機能障害,認知機能障害,うつ・不安・心的外傷後ストレス障害(post traumatic stress disorder:PTSD)を含むメンタルヘルス障害,家族にみられる精神症状(post intensive care syndrome-family:PICS-F)に分けられる.