著者
中塚 幹也 関 明穂 新井 富士美
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

性同一性障害では,心の性と身体の性が一致せず,子どもの頃から性別違和感を持ち,不登校,自殺念慮,自殺未遂などを経験する率も高い.本研究では,各地の当時者の在学する学校,教育委員会,ジェンダークリニックを受診する性同一性障害当事者等への調査により,小学校,中学校,高等学校,大学での対応状況,問題点を明らかにし,対応マニュアルである『学校の中の「性別違和感』を持つ子ども:性同一性障害の生徒に向き合う』を作成,配布した.
著者
中塚 幹也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.608-615, 2021 (Released:2021-10-01)
参考文献数
30

ジェンダークリニックにおける性同一性障害/性別違和/性別不合のチーム医療の中で,産婦人科医は,精神科医,泌尿器科医,形成外科医などとともに診療を行っている.産婦人科医は,診察や検査により生物学的性(身体の性)を確定することで診断に関わるとともに,トランス女性(MTF当事者)への女性ホルモン治療やトランス男性(FTM当事者)への子宮・卵巣の切除術(性別適合手術)を行う.さらに,性別適合手術が終了すると,戸籍の性別変更を希望した当事者が家庭裁判所に提出するための診断書作成も行う.産婦人科医の中でも生殖医療を専門とする場合には,ホルモン療法や手術療法による妊孕性の低下への対応としての精子凍結や卵子凍結,また,第3者精子による人工授精などの生殖医療に関する説明を行うことも多い.さらには,学校の中で性教育をすることも多く,性の多様性についての講演や授業,家族形成も含めたライフプラン教育にも関与する.学校との連携に関しては,思春期の児童・生徒に対する二次性徴抑制療法の実施などの点でも産婦人科医の役割は重要である.
著者
中塚 幹也 小西 秀樹 工藤 尚文
出版者
岡山医学会
雑誌
岡山醫學會雜誌 (ISSN:00301558)
巻号頁・発行日
vol.113, no.3, pp.273-278, 2001-12-31
参考文献数
11
被引用文献数
3
著者
関 明穂 鈴木 久雄 中塚 幹也
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

性同一性障害の人の体力・運動能力測定を前年度に引き続き実施した。これまでに測定に協力していただいたのは20歳代のトランス女性で、全員がホルモン療法を受けていた。測定を行った人の体格、体力・運動能力測定の結果は、同年代の男性・女性の基準値がオーバーラップしている範囲内であったが、測定数が少ないため、さらに例数を増やして検討を行う必要がある。また、性同一性障害・トランスジェンダーの人がマラソン大会に参加することについてのアンケート調査を、大会の主催者を対象として実施した。449件(回収率47%)の回答のうち、時間計測を行っていて男女別の種目があるとの回答があった395大会について分析した。これまでに性同一性障害・トランスジェンダーの人が参加したことがあるとの回答が14大会(3.6%)からあった。もし、性同一性障害・トランスジェンダーの人から「男女どちらのカテゴリーで参加可能か」との問い合わせがあった場合、どう回答するかを聞いたところ、「本人の申告する性別で参加してもらう」が約4割で最も多く、次いで「その人の状況に応じて判断する」「戸籍上の性別で参加してもらう」の順であった。また、性同一性障害・トランスジェンダーの人がマラソン大会に参加する場合に問題が生じる可能性があることとして、約8割が「更衣室」を、約6割が「トイレ」「上位入賞時の扱い」「男女どちらのカテゴリーで参加するか」と回答していた。マラソンは順位を争う競技スポーツの側面と、多くの市民ランナーが参加する健康スポーツの側面とを有している。マラソン大会の主催者は健康スポーツの観点から多くの人に本人の希望に添った形で参加してもらいたいとの思いがある一方で、競技スポーツの観点から競技の公平性を保つために、どのような条件で性同一性障害・トランスジェンダーの人の参加を認めるのがよいのかが課題であると考えているものと思われた。
著者
中塚 幹也 秦 久美子 江國 一二美 高馬 章江 江見 弥生
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.404-411, 2005-07

性同一性障害の外来診療システムに関して当事者に自記式質問紙調査を行った。調査期間は2003年9月〜2004年2月, 対象は同意の得られた108名で, Female to Male Transsexuals(FTM)症例が68名, Male to Female Transsexuals(MTF)症例が40名であった。診察券上の氏名や性別の記載の変更は可能としているが, 性別を変更していた症例では, 診察券に満足している症例が多かった(FTM症例82.4%, MTF症例62.3%)。診察室への呼び込みは, 戸籍上未改名の症例では, 通称名や姓のみで呼ばれることを希望する症例が多かった。待合に満足していた症例は, 受付, 会計, 薬局, 各診察室とも70%以上であったが, FTM症例では産婦人科の待合が「恥ずかしい, 居づらい」という意見が多く, 満足している症例は34.6%と低率であった。トイレに関して満足している症例は, FTM症例, MTF症例とも30%台であり, 「男女共用にして欲しい」との意見がみられた。また, FTM症例では, 「男性用トイレの個室を増やして欲しい」「男性用トイレの個室に汚物入れを置いて欲しい」などの意見があった。これらの結果を検討し解決することで, 外来診療システムの改善につなげる必要がある。
著者
横溝 珠実 二宮 忠矢 片岡 久美恵 中塚 幹也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-064, (Released:2021-03-31)
参考文献数
18

目的 子どもへの虐待防止のためには,妊娠中から社会的ハイリスク妊産婦への支援を開始する必要がある。岡山県が独自に開始した「妊娠中からの気になる母子支援」連絡システムの現状と成果を検討する。方法 2011年運用開始からの8年間の取り組みを振り返り,運用前の状況や開始のための準備,運用の実際,連絡事例の内容等について検討した。「妊娠中からの気になる母子支援」連絡票4,598件のうち,連絡票送付時期および17項目のリスクの種類について単純集計を行った。また厚生労働省の平成30年度福祉行政報告例より岡山県の児童虐待相談対応件数の推移を明らかにした。結果 岡山県内の分娩取扱医療機関および分娩取扱いはないが妊婦健診を実施している医療機関52施設のうち,すべての医療機関(100%)が岡山モデルに参加していた。医療機関で気になる妊産婦を把握し,連絡票を送付した時期は,2011年~2018年の8年間全体でみると,妊娠中が56.1%,産後が43.6%,無記入0.3%となっていた。連絡事例の内容をみると社会的リスク因子として「未婚」1,318件(28.7%),「精神科的支援が必要」1,090件(23.7%),「10代の妊娠」769件(16.7%),「夫・家族の支援不足」801件(17.4%)などが高率であった。岡山県内における児童虐待相談対応件数は「妊娠中からの気になる母子支援」連絡票を活用したシステム開始の翌年である2012年以降は減少に転じており,2012年度の相談件数1,641件に比べ,2018年度は850件と半減していた。各保健所と産科医療機関等との連絡会議などを通じて,連絡事例の検討や連携システムのあり方などについて継続的に協議を重ねていくなかで,岡山県内において本システムが浸透し,定着しつつあった。結論 職域のハードルを越えて,「気になる」という感覚を共有することで,支援を必要とする妊産婦を見落とさない環境が整いつつある。また,その後も地域に応じたネウボラの取り組みや産婦健診,産後ケア事業,養育支援訪問等の普及や医療機関と行政の連絡会議が各保健所単位で定期的に行われていること等により,虐待リスクの可能性がある妊産婦への支援を早い段階で開始することで,虐待が深刻になってからの相談や通告件数が減少してきている可能性がある。
著者
中塚 幹也
出版者
日本生殖免疫学会
雑誌
Reproductive Immunology and Biology (ISSN:1881607X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.1-8, 2016 (Released:2018-08-05)
参考文献数
34

Pregnancy provides an opportunity to reveal various cardiovascular disease risk factors and estimate a woman's lifetime risk because of its unique cardiovascular and metabolic stress. Pulsed Doppler ultrasonography in the uterine artery may be useful in distinguishing women with recurrent pregnancy loss (RPL) caused by vascular dysfunction from women with unexplained RPL. Furthermore, the plasma level of adrenomedullin, which is often associated with pathological processes of the vasculature, is elevated in women with RPL. In the light of these studies, vascular dysfunction may be the key to the pathophysiology of pregnancy loss. History of pregnancy loss is known to be associated with a higher risk of myocardial infarction, and the risk increased significantly with the number of pregnancy loss. Reproductive history of obstetrical complications associated with RPL such as preeclampsia, premature delivery, fetal growth restriction, and placental abruption could be considered a“failed stress test,” possibly unmasking early or preexisting vascular dysfunction and vascular or metabolic disease. Therefore, these women should be carefully monitored and controlled. Healthcare professionals should take a careful and detailed history of RPL and characteristic pregnancy complications. It is unlikely to treat all young women with low dose aspirin following the occurrence of PRL without any other risk factors. Pharmacological therapies for hypertension, insulin resistance, or dyslipidemia are also available but should be tailored on an individual basis.
著者
中塚 幹也 安達 美和 佐々木 愛子 野口 聡一 平松 祐司
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.543-549, 2006-01
被引用文献数
6

日本の公的医療機関では, 精神神経学会の性同一性障害(GID)治療ガイドラインに従い, ホルモン療法は18歳以上に施行しているが, 年齢制限には検討の余地がある。このため, GID症例自身が, 説明, ホルモン・手術療法を何歳ごろ受けたかったかを調査した。対象はGID症例181名で, FTM症例117名, MTF症例64名であった。FTM症例の初経は12.8±1.6歳, 乳房増大の自覚は12.2±1.7歳であり, MTF症例の変声は13.6±1.7歳, ひげは15.3±2.5歳にみられた。中学生以前に性別違和感の生じた症例に限って検討すると, GIDについて知った年齢は, FTM症例で22.0±6.6歳, MTF症例では27.0±9.8歳であった。FTM症例では, GIDの説明は12.2±4.2歳, ホルモン療法の開始は15.6±4.0歳, SRSは18.2±6.0歳にしてほしかったとしていたが, MTF症例では, いずれも二次性徴の起こる前の各10.7±6.1歳, 12.5±4.0歳, 14.0±7.6歳と早期の治療を希望していた。現在のGID治療ガイドラインの年齢制限の緩和が必要であるが, 学校教育の中でのGIDの概念の解説, 思春期における適切なGID診断システムの確立などが重要となろう。
著者
横溝 珠実 二宮 忠矢 片岡 久美恵 中塚 幹也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.425-432, 2021-06-15 (Released:2021-06-25)
参考文献数
18

目的 子どもへの虐待防止のためには,妊娠中から社会的ハイリスク妊産婦への支援を開始する必要がある。岡山県が独自に開始した「妊娠中からの気になる母子支援」連絡システムの現状と成果を検討する。方法 2011年運用開始からの8年間の取り組みを振り返り,運用前の状況や開始のための準備,運用の実際,連絡事例の内容等について検討した。「妊娠中からの気になる母子支援」連絡票4,598件のうち,連絡票送付時期および17項目のリスクの種類について単純集計を行った。また厚生労働省の平成30年度福祉行政報告例より岡山県の児童虐待相談対応件数の推移を明らかにした。結果 岡山県内の分娩取扱医療機関および分娩取扱いはないが妊婦健診を実施している医療機関52施設のうち,すべての医療機関(100%)が岡山モデルに参加していた。医療機関で気になる妊産婦を把握し,連絡票を送付した時期は,2011年~2018年の8年間全体でみると,妊娠中が56.1%,産後が43.6%,無記入0.3%となっていた。連絡事例の内容をみると社会的リスク因子として「未婚」1,318件(28.7%),「精神科的支援が必要」1,090件(23.7%),「10代の妊娠」769件(16.7%),「夫・家族の支援不足」801件(17.4%)などが高率であった。岡山県内における児童虐待相談対応件数は「妊娠中からの気になる母子支援」連絡票を活用したシステム開始の翌年である2012年以降は減少に転じており,2012年度の相談件数1,641件に比べ,2018年度は850件と半減していた。各保健所と産科医療機関等との連絡会議などを通じて,連絡事例の検討や連携システムのあり方などについて継続的に協議を重ねていくなかで,岡山県内において本システムが浸透し,定着しつつあった。結論 職域のハードルを越えて,「気になる」という感覚を共有することで,支援を必要とする妊産婦を見落とさない環境が整いつつある。また,その後も地域に応じたネウボラの取り組みや産婦健診,産後ケア事業,養育支援訪問等の普及や医療機関と行政の連絡会議が各保健所単位で定期的に行われていること等により,虐待リスクの可能性がある妊産婦への支援を早い段階で開始することで,虐待が深刻になってからの相談や通告件数が減少してきている可能性がある。
著者
井關 敦子 中塚 幹也 山口 琴美 山田 奈央 大橋 一友
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

MtF当事者は社会適応が低くqolが低いと報告される.MtF当事者2名にインタビューを行った.共通する点は,性別違和についてネガティブな価値観を持つとは限らずその価値観も多様であった.日常生活において他者の配慮があれば大きな困難なく生活でき,就業や経済状態が安定していること,家族がいることは重要であった.その他,29年度は,性の多様性に関わる以下の活動や研究を行った.29年9月に看護職,教育,研究職向けの講演会「LGBTを理解する」を岐阜大学は開催し,研究責任者は講師となった.LGBT支援団体からの協力も受け,科学研究費を活用しこの講習会を遂行した.この講習会は看護,教育,医療従事者のLGBTに対する認知を促した.29年12月には中部地方の看護職の.GBTに対する認識について質問紙調査を実施し,その結果は30年3月のGID学会で発表した.また,28年12月に実施した「岐阜県内の小中学校に勤務する養護教諭のLGBTに対する認識」に関する質問紙調査の結果が、30年3月GID学会誌に論文として掲載された.これらの調査や活動から,今後の研究を遂行するうえで重要な情報を得た.また研究を遂行するうえで,協力者を得る機会になっている.
著者
中塚 幹也 関 明穂 新井 富士美
出版者
岡山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

教員を対象として,性同一性障害に関する授業を行うことへの意識,必要な教材などについてのインタビュー調査,質問紙調査を実施した.この調査結果は,公開シンポジウム,教育関連,小児科医,精神神経科医,産婦人科医などの学会にて発表した. 全国の教員に対するアンケート調査結果や性同一性障害に関する専門家や性同一性障害当事者からの助言なども参考とし,教員が効果的に生徒に性同一性障害に関する情報を提供するための資料,また,より深く議論ができるようなワークを作り,テキスト,DVDを制作した.
著者
中井 祐一郎 下屋 浩一郎 田村 公江 浅田 淳一 鈴井 江三子 中塚 幹也 新名 隆志 林 大悟
出版者
川崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

出生前診断による選択的人工妊娠中絶について、無記名アンケートによる一般市民の意識を調査した。一般的な人工妊娠中絶については、母体外生存が不可能なことを条件として容認するという者が、男女ともにほぼ2/3であった。非選択的人工殷賑中絶との比較した場合の選択的中絶の道徳的位置付けについては、女性の半数以上がより問題が大きいとした。胎児の選択権については、女性の85%、男性においても75%が認めていないが、権利としては認めないが、状況によってはやむをえないとする回答が過半を占めた。新型出生前診断については、女性の70%、男性でも65%が、妊婦に対する情報提供を限定的にすべきであると回答した。