著者
李 麗花 野瀬 健 丸野 俊一
出版者
九州大学基幹教育院
雑誌
基幹教育紀要
巻号頁・発行日
no.6, pp.33-49, 2020-02-28

At Japanese universities, the TA (teaching assistant) system that began in 1992 has continued for over 20 years. Despite the qualities of individual TAs being the most important component of the TA system, few universities have offered training programs aimed at improving such qualities. To clarify what kind of TA education is needed for current university education, this paper discusses how the current TA system is evaluated and how it should be reformed based on the results of a survey at Kyushu University. The new Kyushu University TA system that will be implemented starting in October 2019 will be managed and operated by the university headquarters through the Kyushu University education innovation initiative. The new TA system contains three levels of TA category: basic TA (BTA), advanced TA (ATA), and teaching fellow (TF). In addition, TA training programs that are suitable for each TA level have been newly introduced to promote TAs' own learning improvements through their work, and the hourly wage of TAs have been increased to improve their treatment. At the same time, it has been suggested that TAs are positioned as a part of university education improvements as one group of two-way education implementers as well as engaging in one-way learning. Although the new TA system was formed based on agreements of challenges determined by a survey, many concerns still remain about its introduction. Based on this discussion, we have pointed out the role and importance of TAs in university education and provided guidelines for future TA system reforms at universities.
著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.9-21, 2012 (Released:2013-12-27)
参考文献数
51
被引用文献数
1

世界観は,いわば見たり,気づいたり,体験したりすることの一形式として,個々の体系の背後にある(中略)それゆえ,すべての世界観は,ある態度の表現であり,器官であり,現実に対する意識のある側面の表現である.われわれが純粋に自然を探究するという態度を取り,したがって,われわれが感覚的に経験し,悟性的に結びつける場合には,実証主義がある.客観的観念論の意味では,われわれは観想的な態度をとる.われわれが行為的な態度をとる場合,自由の観念論がそれにふさわしい体系である.ここから以下のことが明らかになる.すなわち,現実は多面的なものであって,それはさまざまな世界観によっては一面的にしか表現されないと私は主張する.複数の世界観の中で表現されているのは,生そのものの多面性である.さらに,ここから明らかになることは,現実の客観的関連を認識すると主張する形而上学的体系は,厳密な学的妥当性を要求することはできないということである.
著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究 (ISSN:21894132)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.12-23, 2009

本研究の目的は、自然言語処理技術を援用して、熟達した噺家の語りに〈核〉として現れる中心的な概念を明らかにすることである。インタビューの逐語記録(芸談)をデータとし、複数の語が同一の文に同時に含まれるという共起情報を利用して、語によって表現される信念どうしの相互関係を推定し、信念地図を作成した。この手法は、先入観によるバイアスや見落としの危険性を低減させ、噺家の信念地図の時系列的な変化や師匠と弟子とのあいだの信念地図の類似性を客観的・定量的に検討することを可能にするものである。
著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.188-201, 2007 (Released:2009-10-30)
参考文献数
35

The purposes of the present study were to construct a humor elicitation model based on Comprehension-Elaboration Theory (Wyer & Collins, 1992), and to investigate the effects of Narrative Strategies on humor elicitation processes. 159 (79 male and 80 female) undergraduate and graduate students (18--25 yrs old) rated the model relevant variables after watching a videotaped RAKUGO performance. With structural equation modeling (SEM), it was confirmed that the model had generalizability and high intra-model consistency. The further results demonstrated that the performance with Narrative Strategies, compared to the one without the strategies, increased both comprehension and elaboration, which led to increase of humor.
著者
丹羽 空 丸野 俊一
出版者
Japan Society of Personality Psychology
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.196-209, 2010
被引用文献数
11

日本人の若者が,他者との親密な関係を構築していくうえでどのくらい深い自己を開示しながら相互作用を行っているのかを検討できる自己開示尺度は,これまで作成されていない。本研究では,自己開示の深さを測定する自己開示尺度を作成し,尺度の精度を検討するために,299人の大学生を対象に質問紙調査を行った。分析の結果,本尺度は (1) 趣味(レベルI),困難な経験(レベルII),決定的ではない欠点や弱点(レベルIII),否定的性格や能力(レベルIV)などという,深さが異なる4つのレベルの自己開示を測定でき,(2) 開示する相手との関係性に応じて自己開示の深さが異なることを敏感に識別でき,(3) 親和動機および心理的適応度を測定する既存尺度から理論的に予想される結果においても高い相関が見出され,妥当性の高い尺度であることが確認された。
著者
生田 淳一 野上 俊一 丸野 俊一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.117-120, 2006
参考文献数
6
被引用文献数
1

本研究では,公立中学校の1年生から3年生の生徒(517名)を対象に,学校既有の資料(アンケート,学力テスト)をもとに,学習場面での質問行動(わからないことがあったら質問する)についての実態と,動機づけ及び学業成績との関連を検討した.その結果,実態として,全体の52.6%が質問行動を利用しており,中学生にとって比較的利用可能性の高い学習ストラテジーであることがわかった.そして,質問する生徒の方が質問しない生徒よりも,学習する理由として内発的動機づけに関する項目があてはまると認識しているものが多く,学業成績が高いという結果から,質問行動と内発的動機づけ及び学業成績との関連性が示唆された.
著者
小林 敬一 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.377-385, 1992-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
14
被引用文献数
3

In this study, two issues concerning processes of prospective memory, that is, the relations between the use of memory aids and metamemory knowledge, and the effect of activities which arise on process till remembered, were examined. Eighty undergraduates were asked to bring four objects they may use in class or test hours two weeks later. The main results were as follows: 1) the relation between use or non-use of memory aids and metamemory knowledge weren't noticed ; 2) according to the importance and the effort made in order to bring the objects manipulated as experimental factors, recognition of importance, memory aids and conversation with others, etc., influenced the subject's performances in various ways, suggesting that conversation with others may have two functions (monitoring and reciprocal supplements) specially in the processes of prospective memory.
著者
野村 亮太 丸野 俊一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.257-272, 2014
被引用文献数
4

個人の認識論とは, 各人が暗黙に持っている"知識"や"知ること"の性質についての信念のことであり, 個々の信念は認識的信念と呼ばれている。本研究の目的は, 野村・丸野(2011)が想定した教授学習過程への影響のうち, 個人の認識論が授業観と授業中の振る舞いを規定するという想定を検討することであった。そのために, まず745名の学生を対象とした調査によって認識的信念尺度を作成し, その信頼性・妥当性を確かめた(研究1)。このうち, 159名(男性79名, 女性80名)の大学生に対して, 質問と回答を取り入れた講義を行った(研究2)。その結果, 同一の授業に対して, 認識的信念下位尺度のうち, 利用する知識についての性質(条件性および適用可能性)を高く見積もった群は, 授業に協同活動的な側面を見出しやすく, 授業中の質問と回答の意義を実感し活用していた。また, より議論中に自他の意見の調整を行ったと自己評価した。この結果は, 授業を協同的活動として捉えるための認識的信念という観点から議論された。
著者
加藤 和生 丸野 俊一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

2年間の研究を通して,次のような実績を得た:1.甘えタイプの理論化と尺度構成Kato(1995)の甘え過程モデルを展開しながら,甘えタイプのモデルを提案した.理論では,自己観と他者観のポジティブ・ネガティブの組み合わせにより,4つのタイプを区別した:甘え上手タイプ(A),甘え難いタイプ(B),気兼ねする甘え屋タイプ(C),混乱型甘え屋(D).これらのタイプを測定するために,甘えタイプ尺度を構成した.次に,自己観・他者観の測度の得点の違いから,理論的妥当性を検討した.2.甘えタイプによる甘え行動・交流での態度,認知過程,感情の違いの検討Kato(1995)の甘え過程モデルにもとづき,甘え態度,認知過程,情動体験を測定するための尺度を構成し,理論化した4つの甘えタイプによって甘え行動・交流の間で甘え態度,認知過程,情動体験にどのような違いがあるかを検討した.AタイプとBタイプは,多くの要因得点で対局をなしていた.C・Dタイプは,その中間に来ることがおおく,それらのタイプに特徴的な幾つかの要因得点では,独特の反応を示していた.3.甘え・甘えさせの素朴概念の分析従来の甘え研究者は限られた観察から甘え行動の一側面について議論することがおおく,甘え・甘えさせが実際にどういう行動や心理的過程を含んでいるかを分析していない.そこでそれらの素朴概念(自由記述)の内容分析をすることにより,一般の人が甘えや甘えさせることをどのように理解しているかを質的に分析した.4.大学生の愛着行動の質的分析甘えの研究意義を明らかにするために,類似概念と思われている愛着行動の分析を通して,逆に甘えの特徴を明らかにすることを試みた.そのために,Kato(1995)の甘え過程モデルの枠組みを用いながら,愛着行動の内容,動機,状況,および対象を自由記述の質的分析をとおして解明を試みた.
著者
丸野 俊一 松尾 剛 野村 亮太 小田部 貴子
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-11-18

本研究では、対話型授業に焦点を定め、(1)教師の対話方略の運用の仕方・変化、(2)創造的対話が生起するために不可欠な心的要因に対する子どもの気づき、(3)教師の認識論の違いと授業形態との関連、(4)批判的思考や共感性の育成の変化の様相を解明した。その結果、(1)教師の対話方略の運用は子どもたちの対話力の水準に依存する,(2)対話の生起には、異なる考えを認め合う、他者の視点を共有し、自分の考えを省察することの重要性に気づく、(3)授業スタイルは、教師が抱く認識論に大きく依存する、(4)対話型授業の中では、創造的・批判的思考のみでなく、情動的な共感性も育まれることが分かった。
著者
奈田 哲也 堀 憲一郎 丸野 俊一
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.324-334, 2012
被引用文献数
3

本研究の目的は, 奈田・丸野(2007)を基に, 知識獲得過程の一端を知り得る指標としてエラーバイアスを用い, 他者とのコラボレーションによって生起する課題活動に対するポジティブ感情が個の知識獲得過程に与える影響を明らかにすることであった。そのため, 小学3年生に, プレテスト(単独活動), 協同活動セッション, ポストテスト(単独活動)という流れで, 指定された品物を回り道せずに買いながら元の場所に戻る課題を行わせた。その際, 協同活動セッション前半の実験参加者の言動に対する実験者の反応の違いによって, 課題活動に対するポジティブ感情を生起させる条件(協応的肯定条件)とそうでない条件(表面的肯定条件)を設けた。その結果, 協応的肯定条件では, エラーバイアスが多く生起し, より短い距離で地図を回れるようになるとともに, やりとりにおいて, 自分の考えを柔軟に捉え直していた。これらのことから, 課題活動に対するポジティブ感情は, その活動に没頭させ, さらに, 相手の考えに対する柔軟な姿勢を作ることで, 新たな視点から自己の考えを捉え直させるといった認知的営みを促進させる働きを持つことが明らかとなった。
著者
尾之上 高哉 丸野 俊一
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.26-41, 2012

本研究の目的は,学び合う授業の中で,教師がどのような働きかけを実践していくことが.「児童が積極的に発言できるようになる」という変化を引き起こすことに繋がっていくのか,を明らかにすることであった。学び合う授業に熟練した教師が担任となった学級の児童のうち,「1学期当初は,発言することに強く抵抗し,ほとんど発言できなかったが,2学期後半頃から自発的に発言できるようになった」T児に注目し,T児の変化を生み出した教師の働きかけを,教師・T児・観察者の3つの視点から総合的に分析した。その結果,児童の積極的な発言行動を促すためには,次のような教師の働きかけが重要であることが示唆された。それは,児童に可能な範囲で発言を試みさせる過程で,(1)クラスの児童達が,発言児に対して共感的に関われるようになるための働きかけを行うことにより,児童達が「自分の発言に対して,周囲のみんなは共感的に関わってくれる」と認識できるようにすること,(2)発言することの意味を明示的にも潜在的にも伝える働きかけを行うことにより,児童達が「自分が発言することは,ここでの学びを深めていくために役に立つ」と認識できるようにすること,である。
著者
尾之上 高哉 丸野 俊一
出版者
日本教授学習心理学会
雑誌
教授学習心理学研究 (ISSN:18800718)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.12-25, 2012

本研究の目的は,学び合う授業の中で「共感性の重要性や意味(=共感性の価値)」を学ぶ体験を通して,共感性得点に変化がみられるか否かを明らかにすることであった。1学期から2学期の授業の中で「学び合う授業」が展開されるようになったことが示された学級の児童を対象に分析を行った。まず,児童は,学び合う授業の中で「共感性の価値」を学び得るのかを検討した結果,(1)インタビューの中で,共感性の価値に言及する内容を自発的に語るようになっていること,(2)授業のやりとりの中で,自発的に共感的振る舞いに取り組むようになっていること,(3)「共感性の価値」の実感の程度を調べる質問紙得点が,1,2学期の間に有意に増加していること,の3点から,児童は学び合う授業の中で「共感性の価値」を学び得ることが示された。次に,授業の中で体験した「共感性の価値」の学びが,共感性の高まりに繋がっているかを検討した結果,1学期から2学期にかけて「共感性の価値」得点が増加した児童の多くは,「共感性」得点にも高まりが示されることが確認された。本研究の結果からは,学び合う授業が,児童の共感性育成の場として機能し得ることが示唆された。