- 著者
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大島 康行
- 出版者
- 公益社団法人 日本植物学会
- 雑誌
- 植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
- 巻号頁・発行日
- vol.75, no.884, pp.43-48, 1962 (Released:2006-12-05)
- 参考文献数
- 13
- 被引用文献数
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チシマザサ群落の分布要因を解析する第一歩として, 光, 積雪量および温度条件のちがいが現存量におよぼす影響を物質生産の面から解析した. 北海道ワイスホルン山の林内照度を異にする2つのカバ林, チシマザサにおよぼす光条件の影響がしらべられた. その結果, チシマザサには生産された物質のうち呼吸によって消費される割合が大きいという耐陰性に不利な性質があるにもかかわず9), 光が弱くなるほど,葉の寿命が長くなり, また葉面積一葉重比が大きくなること, 光条件の変化にかかわらず生産された物質の葉への分配の割合が一定であること, 葉が常緑で約6か月の生育期間中その生産構造が一定の活動的な状態に維持されていること7), などの特性が光合成の特性とともに弱光の条件下で比較的高い現存量が維持されている原因となっていることが認められた. また落葉樹林下でチシマザサが下層群落として, しばしば割合に安定な状態を維持しているのは, その生産構造がほぼ一定の状態に維持され, 地表面附近の相対的照度が非常に低くその変動の幅が小さいことが一つの重要な原因となっている.またワイスホルン山のチシマザサの純群落で, 積雪量と現存量の関係を解析した. チシマザサ群落の現存量は積雪量が少なくなると低下するが, これはおもに積雪量が少なくなると桿の寿命が低下すること,および葉の寿命が短くなることによって葉量が減少し, そのため物質生産が低下することに原因していることが明らかになった.温度条件とチシマザサ群落の生育との関係を明らかにするため, 年平均気温の変化にともなう物質生産量と現存量の変化を計算した. その結果, 年平均気温 4.4°(ワィスホルン山の海抜 500m の地点)で最大の現存量が期待された.平均気温の4.4°より高い地域では呼吸による生産物の消費の増加が物質生産による生産物の増加をいちじるしく上まわり, また4.4°以下の地域では生育期間の減少が現存量の低下のおもな要因になっていることが明らかになった.