著者
家島 彦一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
史学 (ISSN:03869334)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.493-512, 1967-11

松本信廣先生古稀記念
著者
山中 由里子 池上 俊一 大沼 由布 杉田 英明 見市 雅俊 守川 知子 橋本 隆夫 金沢 百枝 亀谷 学 黒川 正剛 小宮 正安 菅瀬 晶子 鈴木 英明 武田 雅哉 二宮 文子 林 則仁 松田 隆美 宮下 遼 小倉 智史 小林 一枝 辻 明日香 家島 彦一
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

中世ヨーロッパでは、辺境・異界・太古の怪異な事物、生き物、あるいは現象はラテン語でミラビリアと呼ばれた。一方、中世イスラーム世界においては、未知の世界の摩訶不思議は、アラビア語・ペルシア語でアジャーイブと呼ばれ、旅行記や博物誌などに記録された。いずれも「驚異、驚異的なもの」を意味するミラビリアとアジャーイブは、似た語源を持つだけでなく、内容にも類似する点が多い。本研究では、古代世界から継承された自然科学・地理学・博物学の知識、ユーラシアに広く流布した物語群、一神教的世界観といった、双方が共有する基盤を明らかにし、複雑に絡み合うヨーロッパと中東の精神史を相対的かつ大局的に捉えた。
著者
家島 彦一 黒木 英充 羽田 亨一 上岡 弘二 川床 睦夫 飯塚 正人 山内 和也
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本調査の主たる目的は、イスラム圏における統合と多様性のメカニズムを理解する-助として、当地における交通システムの歴史的変容を解明することであった。この目的を達成すべく、1988年度から2000年度にかけて-連の現地調査と文献調査を実施した結果、以下のような重要な研究成果を得ることができた。1.1988年度から2000年度にかけて行った南イラン・ザグロス山脈越えの古いキャラバン道調査では、バーチューン、アーザーディガーン、ローハーニーなどの地で、これまで記録のなかったキャラバンサライ(隊商宿)、水場、拝火神殿、石碑、城塞等の新たな歴史的遺跡群を発見した。この調査によって初めて、シーラーズ・シーラーフ間の正確なルートが明らかになった。2.2000年初頭に行ったエジプト南部のクース/エドフー(ナイル渓谷)〜アイザーブ(紅海岸)を結ぶキャラバン道調査では、イブン・ジュバイル、アブー・カースィム・アル=トゥジービー、イブン・バットゥータといったアラビア語メッカ巡礼書に登場する地名の同定に成功するとともに、新たな歴史遺跡数か所を発見。時代と場所を確定し、GPSを用いて図面に記録した。また、アバーブダー部族のベドウィンから当地の聖者廟に関する情報を得た。3.2001年初めに行ったホルムズ海峡からオマーンにかけての現地調査では、カルハート、ミルバート、スハールなどの港市遺跡を訪れるとともに、外国人労働者ネットワークの最近の動向について調査を行った。その結果、港湾における諸活動や人間移動の構造と機能は過去も現在もそう変わっていないことが明らかになった。この地域ではまた、最近のダウ船による貿易とダウ造船業の現況に関する調査も実施した。以上の成果を総合した結果、イスラム圏における共生と接触のダイナミズムをより深く理解するためには、交通システムに関する調査が今後も必要不可欠であることが確認された。
著者
家島 彦一 PETROV Petar GUVENC Bozku 鈴木 均 寺島 憲治 佐原 徹哉 飯塚 正人 新免 康 黒木 英充 西尾 哲夫 林 徹 羽田 亨一 永田 雄三 中野 暁雄 上岡 弘二 CUVENC Bozku
出版者
東京外国語大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

本プロジェクトは、広域的観点から、西は東欧・トルコから東は中国沿岸部までを調査対象とし、様々な特徴をもつ諸集団が移動・共存するイスラム圏の多元的社会において、共生システムがどのように機能しているかを、とくに聖者廟に焦点を当てて調査研究した。平成6年度はブルガリア・トルコの東地中海・黒海地域を重点地域とし、共生システムの実態について調査した。平成7年度は、ペルシア湾岸地域(イラン・パキスタン)を重点地域とし、主にヒズル廟に関する現地調査を実施した。平成8年度は、さらに東方に対象地域を広げ、中国沿岸部と中央アジア(新疆・ウズベキスタン)を中心に聖者廟などの調査を実施し、あわせてトルコとイランでヒズル信仰に関する補充調査を行なった。共生システムの様相の解明を目指す本研究で中心的に調査したのは、伝統的共生システムとして位置づけられる聖者廟信仰・巡礼の実態である。とくにヒズル廟に着目し、地域社会の共生システムとしていかに機能しているか、どのように変化しつつあるかについて情報を収集した。その結果、ヒズル信仰がきわめて広域的な現象であり、多様な諸集団の共存に重要な役割を果たしていることが明らかになった。まず、トルコでの調査では、ヒズル信仰が広範に見られること、それが様々な土着的ヴァリエイションをもっていることが判明した。ペルシア湾岸地域では、ヒズル廟の分布と海民たちのヒズル廟をめぐる儀礼の実態調査を行った結果、ペルシア湾岸やインダス河流域の各地にヒズル廟が広範に分布し、信仰対象として重要な役割を担っていることが明らかになった。ヒズル廟の分布および廟の建築上の構造・内部状況を相互比較し、ヒズル廟相互のネットワークについてもデータを収集した。興味深いのは、元来海民の信仰であったヒズル廟が現在ではむしろ安産・子育てなどの信仰となり、広域地域間の人の移動を支える機能を示している点である。さらに中国では、広州・泉州などでの海上信仰の検討を通じて、イスラムのヒズル信仰が南宋時代に中国に伝わり、媽祖信仰に影響を与えたという推論を得た。また、中央アジアの中国・新疆にも広範にイスラム聖者廟が分布しているが、墓守や巡礼者に対する聞き取り調査を行った結果、ヒズル廟などと同様、聖者廟巡礼が多民族居住地域における広域的な社会統合の上で占める重要性が明らかになった。聖者廟の調査と並行して、多角的な視点から共生システムの様相を調査研究した。一つは、定期市の調査である。イラン北部のウルミエ湖周辺における調査では、いくつかの定期市サークルが形作られていることが判明した。また、パキスタンではイスラマバ-ド周辺の定期市、新疆ではカシュガルの都市および農村のバザ-ルで聞き取り調査を実施し、地域的なネットワークの実態を把握した。他方、ブルガリアでは、聞き取り調査により伝統的な共生システムがいかに機能しているかについて情報収集を行い、宗教的ネットワークを中心として伝統的システムとともに、現在の共生システムがどのような状況にあるかについて興味深い知見を得た。キプロス・レバノン・シリアでは現在、宗教・民族対立をヨーロッパによる植民地支配の遺産ととらえ、かっての共生システムの回復を試みている様子を調査した。いま一つは、言語学的観点から共生システムをとらえるための調査で、多様な民族・宗教集団が共存するイスラエル・オマーン・ウズベキスタンで実施した。イスラエルでは、ユダヤ・イスラム・キリスト3教徒の共存に関する言語学的・民俗学的データを収集した。また、ウズベキスタンでは多言語使用状況の調査を行い、共和国独立後、ウズベク語公用語化・ラテン文字表記への転換といった政策にもかかわらず、上からの「脱ロシア化」が定着とはほど遠い実態が明らかになった。以上のように、イスラム圏の異民族多重社会においては、多様な諸集団の共存を存立させる様々なレベルにおける共生システムが広域的な規模で機能している。とくに、代表的なものとして、聖者廟信仰・巡礼の実態が体系的かつ具体的に明らかになった。