著者
石塚 晴通 小野 芳彦 池田 証寿 白井 純
出版者
日本語学会
雑誌
國語學 (ISSN:04913337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.86-87, 2001-03-31

「日下部表」と称する資料は,JIS漢字第1次規格(JIS C 6226-1978)の原典の一つである「標準コード用漢字表(試案)」(情報処理学会漢字コード委員会,1971年)の土台となった漢字表であり,日下部重太郎の著した『現代国語思潮続編』(中文館書店,1933年)に附録「現代日本の実用漢字と別体漢字との調査及び「常用漢字」の価値の研究」として掲げられている。この研究では,(1)JIS漢字の字種の選定に果たした日下部表の位置,(2)日下部表の「別体漢字」とJIS漢字における異体字の扱いとの関係,(3)日下部表に反映した現代日本語の漢字の使用実態,の3点について日下部表の内容を検証し,次の結論を得た。(1)日下部表掲載の漢字6473字のうち,JIS X 0208:1997で符号化可能なのは約90%,JIS X 0213:2000で符号化可能なのは約97%である。(2)日下部表の「別体漢字」796字のうち,JIS X 0208:1997で符号化可能なのは約68%,JIS X 0213:2000で符号化可能なのは約84%である。日下部表の「別体漢字」の枠組みと,JIS X 0208:1997及びJIS X 0213:2000のそれはおおむね合致している。枠組みの精度は同程度である。(3)JIS X 0208:1997に不採録の漢字667字のうち,461字がJIS X 0213:2000に採録されており,これらは現在でも使用の実績が確認できるものである。また,研究・調査のために文字を符号化し電子化テキストとする際に問題となるのは・JISの包摂規準の適用方法である。特に問題となるのは,「互換規準」に該当する29組の漢字,人名許容字体別表・常用漢字康煕別掲字の漢字104字,及び包摂規準の変更・追加に該当する漢字であり,これらに留意し,適用した包摂規準を明示すれば操作可能なかたちで情報交換が可能である。
著者
建石 由佳 小野 芳彦 山田 尚勇
雑誌
情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.25(1988-HI-018), pp.1-8, 1988-05-09

日本文の表面の情報から、構文や意味によらないでその文章の読みやすさを評価する式を、読みやすさと関係のある表面情報のうちの4種類、すなわち(1)文の平均の長さ(文字数)、(2)各文字種(英字、ひらがな、漢字、カタカナ)について、その文字種の連(同一文字種の文字の一続き)の相対頻度、(3)文字種ごとの連の平均の長さ、(4)読点の数の句点の数に対する比、から線型式により求めた。主成分分析により、読みやすさに関係のある成分を見つけ、その計算式を評価式とした。この成分はサンプルとしてとった科学技術系の日本文におけるスコアの分布が、読みやすさについての経験的知識とよく一致した。また、このスコアを読みやすさの指標に使えることを、クローズ法と、それにかかる時間の計測とを用いた実験により確かめた。
著者
小野 芳彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.404-414, 1990-03-15

2ストロークコード入力であるTコードの使い勝手を良くし また実務に就くまでの練習期間を短くするために 二つの補助入力方式を開発した.一つは字単位の合成を行うもので Tコードで入力した2文字の字形を組み合わせてその字形をもつ漢字を入力フロントエンドが探索することによってコード化されていない文字でも入力できるようにしたものである.JIS X 0208の全漢字について字形を二つの部品に分ける試みを行い 2文字から直接 あるいはその部品から間接に合成を行って目的の漢字を検索するアルゴリズムを実現した.これは 従来の字形入力がもつコードの重なりを極端に低くしている.もう一つはコード化入力方式に熟語のカナ漢字変換機能を融合したもので 被変換表記にTコードで入力できる漢字を交ぜるようにした方式である.これによってカナ漢字変換の欠点である同音語の選択の濃度を低くでき 変換結果を目視しないで打鍵を続ける可能性を高くした.通常の設計では辞書の大きさが数倍にふくれるのを コードの習得グレード別の辞書を作るという方式で押さえている.
著者
高田 智和 石塚 晴通 小野 芳彦 豊島 正之 赤尾 栄慶 池田 証壽 大槻 信 小助川 貞次 白井 純 當山 日出夫 横山 詔一
出版者
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

奈良時代から現代までの日本の漢字(日本の筆写漢字に多大な影響を与えた唐から宋時代の中国漢字も含む)について、公的性格・規範性の高い文献での用例整理と、私的性格の強い文献での用例整理に基づき、歴史的変遷・共時的異化の二面からなる資料体を作成した。また、この資料体の作成により、漢字字体の基礎概念を明確化し、字体編年基準の透明化を行い、その知見を『漢字字体史研究』(石塚晴通編、勉誠出版、2012年)として公刊した。
著者
小野 芳彦 山田 尚男 池田 研二 斎藤 正男 山田 尚勇 大岩 元 小野 芳彦
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

前年度までの研究で、日本文の入力作業を大脳半球の言語作業優位性と操作空間作業優位性の問題としてとらえることの妥当性を実験的に検証した。本年度は最終年度であるため、研究のとりまとめを中心とした。1.操作空間作業であるタイピング作業を操作空間的に学習させるTコード練習システムの有効性を、獲得したコードの打鍵誤りの分析から示した。これは、コードの記憶誤りが記憶の空間的な構造を反映して特異な偏りを示すことを説明できるものである。2.Tコードの練習過程におけるコードの獲得を含めた習得経過のモデル化と、モデルの適用による練習文の評価をおこなった。文字をみてコードを打鍵することの繰り返しがコードの獲得につながる。一般的に、肉体的あるいは認知的作業速度の上達は繰り返しの回数の定数乗に比例するという法則を満たすが、打鍵速度の上達も、個々の文字の打鍵について同じ法則を適用して説明できることを示した。ただし、短期記憶に保持されたコードが再利用されない場合に限られる。初期の練習ではその保持できる文字数が2であることが観測された。ここで、練習文に同じ文字や文字列パターンの繰り返しがあると、それらは短期記憶に貯められ、コード獲得には役立たないことが示唆される。3.上記のモデルから、濃密ではあるが短期記憶に保持できないパターンの練習文を設計した。この新しい練習文による打鍵実験を新たな被験者に対して行ない、モデルの検証を合せて行った。実験データーから、短期記憶の保持文字数が2ないし3であることの確認ができた。さらに、句読点の直後には、短期記憶の消去が伴いがちであること、すなわち、練習文の読み取りのために短期記憶が占有されてしまうことが確認できた。
著者
白幡 洋三郎 村井 康彦 井上 章一 小野 芳彦 山地 征典 園田 英弘 村井 康彦 飯田 経夫 山折 哲雄 イクトット スラジャヤ 長田 俊樹 白幡 洋三郎 セルチュク エセンベル
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

平成6年度は、イスラム文化圏における日本の生活文化の受容調査であり、対象国としてトルコを選び、イズミール、アンカラ、イスタンブールを中心に調査を行った。トルコはイスラム文化圏とはいえ、近代化に一定の成功をおさめた国であり、生活用品の分野においては先進国と同様の工業製品がみられるものの、日本製品はきわめて少なかった。また親日国であるといわれているにもかかわらず、教養・実用・趣味・娯楽等の分野においても日本にかかわりのあるものは意外なほどに見つからなかった。むしろ西洋、とくにドイツとの関係が著しいことが確認できた。このことにより、トルコをイスラム文化圏と見るとともに、西洋文化圏もしくは西洋文化に強く左右されている文化圏と見て、日本文化とのかかわりを考察すべきであろう。平成7年度の対象地域は南アジア・東南アジアであった。ベトナムにおいては、ベトナム戦争終結後、社会主義政権が新たな経済政策をとり、その安定的発展によって民衆の生活に新しい展開が生まれている。その新しい展開の中に日本の伝統的な文化に属す茶道・華道なども、一定の受容が見られる。しかしとりわけ日本の生活文化としては、現代の大衆文化と見てよい電化製品の普及やカラオケ・コンピュータゲームなど娯楽分野での受け容れがきわめて顕著に見られた。また、もともとは中国経由で入ってきた盆栽が、日本語のBONSAIとして広まっている。すなわち中国経由の既存文化が、外からの刺激(日本の文化)によって新しい展開を見せている点で注目される。文化の盛衰を構造的に分析する材料として重要だと考えられる。またインドにおいては、日本の生活文化の進出はきわめて低調であり、大衆文化としてほとんど受け入れられていないことがわかった。華道や俳句では、知識人を核にした富裕層にのみ愛好会や同好会の形で存在している程度である。これは国民の所得水準によって規定されているものと考えられ、日本の生活文化の普及を大衆レベルでの異文化受容と考えた場合、経済的な要因が大きな困難となる実例であろう。タイにおいては、広い分野での日本の生活文化の受容が見られる。とくに日本の食品や生活用品はすでに広く生活の中に定着している。日本食やインスタントめんなどは、日本の手を放れ自前で独自の加工を施したものも豊富に出回っている。マンガは日本のものが翻訳されて各種出版されており、タイ人の手によるタイ語ならびに中国語の漫画が出回るほどになっている。娯楽や実用・趣味の分野でも日本の生活文化は広く受容されていることがあきらかとなった。平成8年度の調査地域である旧社会主義圏では、生活必需品のレベルでの日本の生活文化受容が見られたものの、それ以外での、「教養」「精神」「趣味」「娯楽」など、経済的な余裕に左右される分野での受容は乏しいことが明らかとなった。この地域では、社会主義政権の崩壊後、生活は不安定になったが、一方で西側諸国からの物資・情報が、以前より広範に流入している。従って、旧社会主義政権下にくらべて「異文化」の受容は進んではいるものの、その範囲は狭い。テレビ、冷蔵庫、オ-ディオ機器などの電化製品では、高価な日本製はあこがれの的だが、日本製を装ったものが市場に流通しており、特異な日本の生活文化受容が見られる。社会主義政権の崩壊に急激な暴力革命が伴ったル-マニアでは、経済復興が遅れており、国民生活に余裕がなく、日本製品に限らず西側の製品全般が贅沢品とみなされ、これらの需要は低迷している。華道・茶道・盆栽・俳句などの教養分野は、わずかに一握りのインテリ層に受容され、禅や宗教など精神文化の領域は表面にはまったく現れていない。日本の生活文化を大衆レベルでの海外への進出からとらえると、受容する側の生活水準に規定されることが明らかになった。したがって、文化の通文化性に関しても、その文化項目固有の「通文化性」は、受け入れる側の経済的、文化的状況に大きく左右されるといえるであろう。
著者
小野 芳彦
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.404-414, 1990-03-15
被引用文献数
2

2ストロークコード入力であるTコードの使い勝手を良くし また実務に就くまでの練習期間を短くするために 二つの補助入力方式を開発した.一つは字単位の合成を行うもので Tコードで入力した2文字の字形を組み合わせてその字形をもつ漢字を入力フロントエンドが探索することによってコード化されていない文字でも入力できるようにしたものである.JIS X 0208の全漢字について字形を二つの部品に分ける試みを行い 2文字から直接 あるいはその部品から間接に合成を行って目的の漢字を検索するアルゴリズムを実現した.これは 従来の字形入力がもつコードの重なりを極端に低くしている.もう一つはコード化入力方式に熟語のカナ漢字変換機能を融合したもので 被変換表記にTコードで入力できる漢字を交ぜるようにした方式である.これによってカナ漢字変換の欠点である同音語の選択の濃度を低くでき 変換結果を目視しないで打鍵を続ける可能性を高くした.通常の設計では辞書の大きさが数倍にふくれるのを コードの習得グレード別の辞書を作るという方式で押さえている.
著者
岡留 剛 小野 芳彦 山田 尚勇
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1797-1798, 1986-10-01

英文タイプ作業についてすでに知られている知見や、コード化入力方式による日本文タイプ作業の認知的実験の解析により、われわれはタイプ作業時のタイピストの認知モデルを構築した(Okadome,Ono,Yamada,1986)。そのモデルの特徴の一つは出力キューが左右の手別々に存在するということである。本報告では、現在までに知られている脳科学の成果をふまえることにより、このタイプ作業時の認知モデルに対する脳科学的基礎を与えることを試みる。なお、以下の議論はヒトまたサルの知見に基づいている。
著者
岡留剛 小野芳彦 山田尚男
雑誌
情報処理学会研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)
巻号頁・発行日
vol.1985, no.22, pp.1-7, 1985-07-10

タイプ作業時の脳の情報処理過程には、左右の手ごとに出力キューがあるというパイプラインモデルを提唱する。われわれは、日本文入力方式として熟練者にとって最も楽であり自然なものとはどのようなものであるかを定めるために基礎的研究を行なってきた。本論文はその一端であり、タイプ作業においてわれわれが見出したタイプエラーや、現在までに報告されているタイプ作業におけるさまざまな現象を解析することにより、一つのタイプ作業中の情報処理のモデルを構築した。このモデルは多段階の処理部から成り、各段階は時間的に重ね合わさって処理が行なわれる。このモデルによれば、打鍵がきわめて速く行なわれることや種々のタイプエラーなどを説明でき、とくに、出力部ではキューが左右の手それぞれに存在するとという仮説によってある種のタイプエラーが自然に解釈できる。
著者
村井 康彦 小野 芳彦 コーニッキー ピーター 白幡 洋三郎 園田 英弘 パンツァー ペーター スミス ヘンリー 飯田 経夫 山折 哲雄 KORNICKI Peter SMITH Henry PANTZER Peter ピーター コーニッキー ペーター パンツァー ヘンリー スミス
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

本年度の調査は、17世紀まで世界の先進文化をリ-ドしていたラテンヨーロッパ、特にスペイン・ポルトガルとそれらによって植民地化されていたラテンアメリカにおける日本文化の現状を調査する事を中心軸に据えた。また先進国の中でも、調査をやりのこしていたアメリカ合衆国を加えた。スペイン・ポルトガルの両国は、現在ヨーロッパ先進国に対する農業生産物の供給国として、むしろ開発途上国的な色彩を持っている。そこで、日本の工業製品はこの両国との競合関係にはなく、日本製品の出超の事態にある。家電製品、自動車等は、いうまでもなくスペインやポルトガルの製品が日本には皆無であり、日本製品のみが両国に進出している。しかしながら、ヨーロッパ先進諸国、ドイツ・イギリス・フランスの製品と比較すれば、日本製品の進出は少ない。現地調査の結果、日本の生活文化として特に注目に値するのは、テレビゲーム、盆栽、テレビアニメの3つでであることがわかった。テレビゲームは、ポルトガル・スペインのおもちゃ屋の店頭でもっとも目立つ場所に飾られており、他国の製品の出番はほとんどないといってよい。じじつジェトロのマドリード支部での聞き取り調査でも現在の日本・スペイン間の貿易に、テレビゲームが占める割合は他の電気製品・工業製品を大きく圧倒するとの事であった。盆栽は、ヨーロッパ先進諸国でも相当の普及を遂げているが、ラテンヨーロッパでは現地の独自の盆栽文化が育っている事が特徴である。すなわち、ドイツ・フランス・イギリスでは、どちらかといえばまだ日本の伝統的な盆栽文化が尊重されており、愛好家は日本趣味の持ち主や日本通である事が多いのに対して、ラテンヨーロッパでは盆栽協会の会長以下幹部を現地人が占めており、盆栽愛好が庶民層にまで広がっている様子がうかがえた。またブラジルの調査でも、多数の日系人の存在にもかかわらず、盆栽協会の活動にブラジル人が進出しており、盆栽が庶民層に普及している事がはっきりした。先進ヨーロッパ諸国と違って、盆栽がもはやエキゾチシズムの対象でもなく、日本趣味の対象でもなくなっている。すなわち本当に現地に根を下ろした生活文化に育っている事は注目に値する。また、茶道・華道とは違って日本人の枠を離れて現地化しつつある点に盆栽文化の特徴があるようだ。テレビアニメはラテンヨーロッパでは極めて頻繁に放映されている日本製の番組である。朝の子供番組の時間帯には毎日2、3本の日本製アニメが吹き替えで放映されている。先進ヨーロッパのうちドイツ・イギリスではほとんど放映がみられないのに比較してフランスでは頻繁に放映されている。テレビアニメに関しては先進ヨーロッパ対開発途上的ラテンヨーロッパという対照がみられない。むしろカトリック圏(スペイン・ポルトガル・フランス、そして未調査ではあるが現地情報によればイタリアも含めてよい)では日本製アニメが多数放映されているのに対してプロテスタント圏ではほとんど放映がないと分析するのがよいだろう。その原因は、視聴者の好みから来るよりは、放映する側の思想にあるのではないかと考えられる。すなわちプロテスタント圏では子供向けに、全体として堅い教育番組が多いのに対して、カトリック圏では娯楽番組にも十分な放映時間を割いているという事情が考えられる。アメリカ合衆国の日本生活文化ではやはり食品が注目に値する。ドイツやイギリスでも同じであるが、インスタント食品としてのカップヌードルがこれらの国では相当の進出を見せている。ところがスウェーデンではほとんどこの種のインスタント食品はみられなかった。日本企業の関心の持ち方にも左右されるであろうが、むしろ、現地の食習慣が進出の多少に影響しているものと考えられる。