- 著者
-
山本 章
山﨑 紘一
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.2, pp.153-161, 2015-04-25 (Released:2015-05-19)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
-
1
目的:ESBL産生大腸菌が急増している事態を踏まえ,高齢者尿路感染症の抗菌薬治療の効率を比較検討する.方法:2013年1月以降の15カ月間に尿路感染症を起こした入所患者について,内服薬として①ホスホマイシン(FOM),ミノサイクリン(MINO),スルファメトキサゾール・トリメプタム合剤(ST),およびリファンピシン(RFP)のうちから2剤(原則としてFOM/MINOあるいはRFP/ST併用),②単剤としてのレボフロキサシン(LVFX)と,注射薬として③スルバクタム配合セフォペラゾン(SBT/CPZ),④メロペネム(MEPM),の計4種の治療効果を比較検討した.治療後に一般病原細菌が検出されなかった場合に治療有効と判定した.結果:①内服薬組み合わせ群での全病原細菌に対する治療有効率は9/11=82%で,ESBL産生大腸菌は結果不明例を除く4例でいずれも消失,②LVFX群では15例中3例に治療前,また3例に治療後ESBL産生またはLVFX耐性の大腸菌が検出され,培養結果判明後,治療薬をMEPM注射に切り替えた.結果不明の1例を除く14例についての治療有効率は9/14=64%であった.③SBT/CPZ群では治療前に検出されたESBL産生大腸菌は3例中2例で消失したが,治療終了後の尿から新たにESBL産生菌2例と一部耐性菌1例が検出された.全病原細菌に対する治療有効率は9/16=56%であった.④MEPM群ではESBL産生/LVFX耐性大腸菌(16例)はいずれも消失したが,全病原細菌に対する治療有効率は19/27=70%で,治療後Klebsiella pneumoniaeが残った例が見られた.⑤全症例についての尿中好気性病原細菌培養における感受性検査の結果では,ESBL産生大腸菌群に高頻度にβ-ラクタマーゼ阻害薬配合βラクタム系薬に耐性の株(SBT/CPZ:18/32=56.3%,CVA/AMPC:9/32=28.1%)が検出された.結論:比較的軽度の尿路感染症に対するFOM/MINOの有効性が確認された.SBT/CPZは有効率が低く,培養細菌の感受性テストでも耐性株が高頻度に検出されたので,β-ラクタマーゼ阻害薬配合βラクタム系薬の使用には注意を要する.MEPMはESBL産生大腸菌には有効だが,他の細菌や,他の臓器疾患との関係で今後の検討が必要である.