- 著者
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村上 周三
岩佐 義輝
森川 泰成
- 出版者
- 一般社団法人日本建築学会
- 雑誌
- 日本建築学会論文報告集 (ISSN:03871185)
- 巻号頁・発行日
- no.325, pp.74-84, 1983-03-30
- 被引用文献数
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15
本研究は, 長期にわたって行われた風観測と住民意識調査の結果に基づいて風環境評価尺度の作成を試みたものである。本研究結果を要約すると以下のようになる。(1)一日全体の風環境評価を6段階に分類し, 各々の評価と風速値(日最大平均風速, 日最大瞬間風速)との関連を分析した。(2)特に, 一日全体の風環境評価として居住者が「風の強い日」という認識をし始めるのは, 日最大平均風速で約4.0m/s, 日最大瞬間風速で約10.0m/sである。(3)風によって発生する代表的な環境障害を12項目選び, 各々について瞬間風速値との関連を示した。さらに対応する風速値に応じてこれらの障害を次の3グループに分類した。(i)時間最大瞬間風速5.0〜9.0m/sで発生する障害(髪や衣服が乱れる, ごみが舞上る等), (ii) 9.0〜12.0m/sで発生する障害(建具が音をたてる, 立看板が倒れる等), (iii) 12.0〜15.0m/sで発生する障害(歩行中吹き飛ばされそうになる等)。(4)一日全体の風環境評価の決定は, その日生じた環境障害に大きく影響されることを確認し, 両者の対応関係を分析した。以上より, 各評価段階と一日を代表する風速値, 及びそのような日に発生すると予想される環境障害とを対応づけ, 一日単位の総合的な風環境を知るための図表を作成した。これより強風に関しては日最大瞬間風速10, 15, 20m/sが一日の風環境評価を行うための代表的な指標であることを示した。(5)市街地における風環境評価尺度としては, 風速出現頻度の概念が必要不可決であり, 上記(1)〜(4)の結果を基に風速出現頻度に基づく風環境評価尺度を作成した。この尺度は風の影響の受けやすさの程度をその空間の使用目的により3段階に分類し, 各々に対する風速の許容出現日数を設定したものである。(6)風洞実験により市街地の風環境評価を行う手法について述べ, 実際に都下の3市街地に対して上記の評価尺度を適用し風環境の評価を行った。さらに, 既往の評価方法による結果とも比較検討し, 本評価尺度の有効性を大まかに確認した。これらの分析結果や筆者等が提案した尺度は市街地低層部で生じた限られた調査結果に基づくものであり, 必ずしも十分なものとは言えない。今後より多くの実例に適用し, また関係各位の御教示, 御批判を得て改善してゆきたいと考えている。