著者
相馬 敏彦 浦 光博
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.13-25, 2007
被引用文献数
2

本研究において我々は,排他的なサポート関係に影響する要因について検討した。<br> 一般的信頼感(山岸,1998)と,進化論的な理論的枠組みとから,我々は次のように予測した。恋愛関係に所属する者は,個別的な信頼感の影響を統制しても,関係の外部からのサポート取得を抑制するだろう。また,これらの関連は,一般的信頼感の低い者に顕著に認められるだろう。<br> 以上の仮説を検証するために,我々は136人の大学生を対象とした調査を行った。仮説は支持された。一般的信頼感の高い者は,個別的な信頼感を発展させた恋愛関係であっても,その外部にサポート取得することができた。同様の結果は,個別的な信頼感の高い,もしくは低い異性との友人関係では認められなかった。これらの結果は,一般的信頼感の低い者が,恋愛関係に所属したときに,多様なソーシャル・サポート・ネットワークを形成することが困難であることを示唆する。最後に,所属する関係によって,資源交換のされやすさが異なる可能性について考察された。<br>
著者
川本 大史 入戸野 宏 浦 光博
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.33-40, 2011-04-30 (Released:2012-02-29)
参考文献数
22

人は他者から受け入れられているかどうかに対して敏感に反応する。社会的排斥は個人の感情や行動に多様な影響を及ぼす。しかし,集団から受け入れられていると感じる状況において他者から選択されなかったときに,排斥と類似した反応が生じるかは不明である。本研究では,そのような小拒絶に対する認知過程について,コンピュータ上で簡単なキャッチボールを行うサイバーボール課題を用い,事象関連電位(event-related potential: ERP)を測定することによって検討した。その結果,投球後約200 ms 後に,参加者に投球されたとき(受容試行)と比較して,投球されなかったとき(小拒絶試行)に,陰性のERP 成分であるfERN が惹起された。fERN は予測より悪かった事象に対して生じることが知られている。本研究の結果から集団の中で他者から選択されないことはネガティブに知覚されることが示唆された。
著者
山浦 一保 浦 光博
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.201-212, 2006

Subordinates sometimes feel dissatisfaction regarding work-related instruction from their superiors. In such situations, what condition facilitates the subordinates' choice of constructive behavior, such as integrative coping? Analysis 1 suggested that the superior-subordinate relationship and the perceived organization system were important factors that affected the subordinates' choice of integrating behavior toward their superiors. The results of analysis 2 supported hypotheses that the degree of incongruence between the subordinates and their superiors on the orientation influenced the subordinates' attribution tendencies to the superior- or relationship-factor, which affected their choice of integrating behavior. These results suggest that it is important to foster interpersonal relationships that can have superiors and subordinates establish communication to share reciprocal orientation and to maintain the organizational environment to support the interaction.
著者
浦 光博 南 隆男 稲葉 昭英
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.78-90, 1989-03-20 (Released:2016-11-23)
被引用文献数
3

This article contains two parts. In the first part, we review recent studies on social support and define three new trends in the area of social support research. The first trend is recent increment of studies examining the relationship between social support concepts and some other concepts in social psychology. The second trend is a series of studies re-examining social support process from the viewpoint of more general features of social interaction process. The third trend is the emphasis of roles of various ecological factors in social support processes. All of these three trends are considered to have impacts on future directions of this area of research. In the second part, we report results of the studies in which we examined the relationship between social support and family stress and individual stress in a situation of job-induced separation. This examination is considered to be related with the third trend reported in the first part. The results revealed that the social support, on the one hand, buffer negative effects of stressful life events on family and individual adaptation, but on the other hand, the buffering effects may have a limitation.
著者
浦 光博 ウラ ミツヒロ
出版者
追手門学院大学笑学研究所
雑誌
追手門学院大学笑学研究所年報
巻号頁・発行日
no.2, pp.5-16, 2017-03-30

笑い / 関西人 / 心の余裕
著者
中村 佳子 浦 光博
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.151-163, 2000-03-20 (Released:2016-12-15)
被引用文献数
1

The relation between the process of social support and the receiver's trust in a support provider was examined in a longitudinal design. Support receivers were 270-freshmen at university. Support providers were their parents, a new and an old friend. Analysing questionnaires indicates the following: (1) When person was subjected to high stress level, the received support improved the receivers' trust in the providers independent of the source of support. (2) For medium stress level, disparities between the receivers' support expectation and the actual receipt modified their trust in fathers and new friends. (3) The prospective receipt of support was related not only to the previous receipt support and norm on support provision but also the receivers' trust in the providers.
著者
長谷川 孝治 宮田 加久子 浦 光博
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.45-56, 2007-08-01 (Released:2017-02-08)

This study examined the mutual influence processes between self-appraisal on the Internet and actual self-appraisal. Specifically, we researched the discrepancies in each self-evaluation, and how the degree of those discrepancies related to mental health. In a forum on the Internet, a survey with a two-wave panel design was conducted on the Web for mothers with pre-school children who were exchanging childcare information. At the time of each investigation, the actual self-appraisal (SA), the reflected self-appraisal (RSA: participants infer how a significant other evaluates them), the reflected self-appraisal on the Net (RSA-N: participants infer how a significant other in the forum in which they participate evaluates them), and mild depression were measured as an index of mental health. The result showed that the discrepancy betweerl SA and RSA-N was significantly larger than the discrepancy between SA and RSA. We further found that the level of the RSA-N score was significantly lower than that of RSA or SA. However, depression was not influenced by the lowness of the RSA-N score or the discrepancy between SA and RSA-N, but was instead influenced by the lowness of the SA score or the discrepancy between SA and RSA. Moreover, Path analysis found the self-process on the Internet. Specifically, Time 1 SA affected Time 2 RSA; in turn, RSA correlated with RSA-N at Time 2. These results suggested that the self-appraisal on the Internet was formed based on actual self-appraisal by using the Internet about an actual problem.
著者
南 隆男 稲葉 昭英 浦 光博
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.151-184, 1987
被引用文献数
3

われわれ1人びとりの日常生活は,ロビンソン・クルーソー的に自足的に展開されているのではない.それは,なん人もの他者との関係性のうちに進展しているのである.そして,このこと自体は誰にとっても異論のない自明のことである.しかし,ひととひととの関係性をどう把えどう記述しそこにいかなる意味付与をしていくかについては多くの視角と立場とが存在している.コミュニティ心理学や社会心理学,ひろくは行動科学の領域において,近年にわかに注目を集めだした「ソーシャル・サポート」の論議も,人間の社会関係についてのひとつの"新しい"立場であり,それは「日常の社会関係に包含されている相互援助機能」に焦点をあてている.すなわち,他者から得られる具体的および精神的援助が個人の心身の健康維持と増進に深く関与している可能性に注目するのである.この可能性をめぐって理論的そして経験的な検討がある種の熱気をおびながら遂行されている.アメリカにおいてそれはとくに著しい.わが国においては,実質的な研究がようやくティク・オフしようとしているところである,といえよう.本稿では,そのティク・オフの流れに沿った,ひとつの予備的な探索的試みの結果が「資料」として報告・提示された.(1)ソーシャル・サポートが,(1)所属的サポート,(2)実体的サポート,(3)評価的サポート,および(4)尊重的サポート,の4側面にわたって問題とされた.それぞれのサポートが「実際に得られているのか」ということより.それぞれのサポートを「提供してくれると思われる他者の拡がり」が尋ねられた.いわゆる「ソーシャル・サポート・ネットワーク・サイズ」に焦点があてられたのである.(2)大学生(2年生男女)を対象として質問紙による調査が試みられた.その結果,上記のごとく,ソーシャル・サポート・ネットワーク・サイズを機能別に4つに分けて検討することが現実には難しいことが判明した.すなわち,問題としたサポート・ネットワーク・サイズの4側面には経験的弁別性がほとんど認められなかったのである.測定法をかえてさらに検討してみる必要性があろう.(3)以上から,サポート・ネットワーク・サイズの全体(包括的ソーシャル・サポート・ネットワーク・サイズ)を指標として,まずは人口学的変数との関連が追究された.(1)性,(2)兄弟数,(3)入学経路,(4)居住形態,(5)1ヶ月あたりの"自由に使えるお金",および(6)"恋人"の有無,の6特性との関連が吟味されたが,いずれとも意味のある関連は見い出し得なかった.(4)ついで,(1)大学生活に対する満足の度合い,および,(2)抑うつの程度の2種を基準変数として,それぞれに対して包括的ソーシャル・サポート・ネットワーク・サイズ変数が持つ規定力が問われた.階層的重回帰分析の結果によれば,いずれの基準変数に対しても,そのヴァリエーションを説明していくうえで,有意味な独自の力を保持することが確認された.われわれの今回の試みにおいては,この確認が1番のポイントといえよう.(5)基準変数の「抑うつ傾向」に対しては,包括的ソーシャル・サポート・ネットワーク・サイズ変数が「マキャベリズム志向」変数と相乗効果を発揮している事実が見い出された.マキャベリズム志向が高いひとにあっては,ソーシャル・サポート・ネットワーク・サイズの拡がりは抑うつを低下させる方向で関与しているように思われる.以上が,われわれの今回の試みにおける主要な結果である.それぞれの解釈にあたっては慎重な配慮が要求されよう.ひとつの事実にはちがいないが,どこまで"動かぬ事実"かについては,今回の試みだけではほとんどなにも言えぬからである.その意味において「資料」なのであり,ソーシャル・サポート研究の向後にむけて参考に供するものである.
著者
長谷川 孝治 浦 光博 前田 和寛 浦 光博 前田 和寛
出版者
信州大学
雑誌
人文科学論集. 人間情報学科編 (ISSN:13422782)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.53-63, 2009-03-15

本研究では,低自尊心者における下方螺旋過程に対する友人関係の進展段階の調整効果が検討された。長谷川(2008)は,低自尊心者の下方螺旋過程の存在について明らかにした。すなわち,低自尊心者は,友人が本当に自分のことを大切に思ってくれているかどうかを繰り返し確認するという安心さがし行動をとり,その結果,その友人から拒絶されているという認知が高まる(肯定的に評価されているという認知が低下する)ことが示された。本研究では,このような不適応な相互作用プロセスは,低自尊心者が二者関係の進展段階を考慮していないために生じると予測し,検討を行った。パス解析による検討の結果,低自尊心者は,つきあいの浅い友人に対して安心さがしを行うほど,友人からの反映的自己評価が低下することが示された。また,親しい友人に対して,低自尊心者が安心さがしを行っても,反映的自己評価の低下は見られなかった。高自尊心者は,友人の親しさに関わらず,安心さがしを行うことが反映的自己評価を下げることはなかった。これらの結果について,アイデンティティー交渉の観点から考察された。
著者
西村 太志 浦 光博
出版者
広島国際大学心理科学部
雑誌
広島国際大学心理科学部紀要 = The bulletin of Faculty of Psychological Science, Hiroshima International University (ISSN:21883734)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.37-49, 2013

本研究は,自己評価動機の顕現化と参照他者の選択の様相が,自尊心の程度によって異なることについて,マインドセット理論を援用した検討を行った。熟慮、マインドセット状態において,低自尊心者は自己関連情報の収集を志向する,すなわち自己査定的な動機が高まるが,実際の情報収集の時点では自己防衛バイアスの影響を受けた選択が行われると予測した。将来の目標を想定させる場面を設定し,102名の大学生・短大生を対象に思考時間を操作する調査実験形式で実施した。その結果,低自尊心者は相対的に長時間思考した際には,自己査定動機の顕現化の程度を持続し続けるが,選択する他者の属性は客観性に乏しい人物であることが明らかとなった。さらに,自己査定動機のみならず自己高揚動機の自己防衛的側面も顕現化していることが示された。低自尊心者が長時間の思考をした場合,正確性への志向性を持つと同時に情報の獲得は自己防衛の影響を受けていた。低自尊心者の自己関連情報に関する判断の質や,状況の特質に応じた自己関連情報の獲得の可能性について議論された。
著者
西村 太志 浦 光博
出版者
広島国際大学心理科学部
雑誌
広島国際大学心理科学部紀要 = The bulletin of Faculty of Psychological Science, Hiroshima International University (ISSN:21883734)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.37-49, 2013

本研究は,自己評価動機の顕現化と参照他者の選択の様相が,自尊心の程度によって異なることについて,マインドセット理論を援用した検討を行った。熟慮、マインドセット状態において,低自尊心者は自己関連情報の収集を志向する,すなわち自己査定的な動機が高まるが,実際の情報収集の時点では自己防衛バイアスの影響を受けた選択が行われると予測した。将来の目標を想定させる場面を設定し,102名の大学生・短大生を対象に思考時間を操作する調査実験形式で実施した。その結果,低自尊心者は相対的に長時間思考した際には,自己査定動機の顕現化の程度を持続し続けるが,選択する他者の属性は客観性に乏しい人物であることが明らかとなった。さらに,自己査定動機のみならず自己高揚動機の自己防衛的側面も顕現化していることが示された。低自尊心者が長時間の思考をした場合,正確性への志向性を持つと同時に情報の獲得は自己防衛の影響を受けていた。低自尊心者の自己関連情報に関する判断の質や,状況の特質に応じた自己関連情報の獲得の可能性について議論された。
著者
相馬 敏彦 山内 隆久 浦 光博
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.75-84, 2003
被引用文献数
2

本研究では,恋愛・結婚関係における排他性が,そのパートナーとの葛藤時への対処行動選択に与える影響が検討された。我々は,恋愛・結婚関係における排他性の高さが,関係での葛藤時に,個人にとって適応的な対処行動の選択を抑制すると予測した。調査は,恋愛・結婚パートナーを有する社会人108名を対象に行われた。被験者は,パートナーとそれ以外の9の対象からの知覚されたサポート尺度と,パートナーとの葛藤時の対処行動尺度に回答した。分析の結果,予測通り,パートナー以外のサポート源からもサポートを知覚できた排他性の低い者は,交際期間の長い場合には建設的に対処し,一方排他性の高い者は,交際期間が長い場合に建設的な対処行動を抑制しやすいことが示された。この結果から,排他性がそのメンバーの不適応を導く可能性が論じられた。<br>
著者
浦 光博 南 隆男 稲葉 昭英
出版者
日本社会心理学会
雑誌
社会心理学研究 (ISSN:09161503)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.78-90, 1989
被引用文献数
3

This article contains two parts. In the first part, we review recent studies on social support and define three new trends in the area of social support research. The first trend is recent increment of studies examining the relationship between social support concepts and some other concepts in social psychology. The second trend is a series of studies re-examining social support process from the viewpoint of more general features of social interaction process. The third trend is the emphasis of roles of various ecological factors in social support processes. All of these three trends are considered to have impacts on future directions of this area of research. In the second part, we report results of the studies in which we examined the relationship between social support and family stress and individual stress in a situation of job-induced separation. This examination is considered to be related with the third trend reported in the first part. The results revealed that the social support, on the one hand, buffer negative effects of stressful life events on family and individual adaptation, but on the other hand, the buffering effects may have a limitation.
著者
南 隆男 浦 光博 稲葉 昭英
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.199-227, 1988

以上に述べてきた結果ならびに考察は,大略つぎの5点にまとめることができよう.(1)夫の単身赴任による家族システムの変化に対する適応の程度は,妻の価値観と高い関連を持つ.(2)特に家族適応に対する妻の評価は,夫の赴任期間がどの程度であるかに関わらず,妻個人の価値観によって大きく規定される.(3)妻個人の適応状態は本人の価値観とともに夫の赴任期間とも高い関連をもつ.夫の赴任期間の長い群の方が,短い群あるいは中程度の群よりも個人適応の程度が高くなっている.(4)夫の赴任期間が長い群で個人適応の程度が高くなるのは,妻のとった対処戦略が効果を及ぼしたと同時に,夫の帰宅日数が増加したことによって妻の負担が低減されていたことにもよる.(5)妻の価値観,適応状態と対処戦略の関係は一義的に決まるものではない.まず価値観が対処戦略を規定し,ついでその対処戦略が適応状態を規定するという関係性と,価値観が適応状態を規定し,つぎに適応状態が対処戦略を規定するという関係性の2つを想定することができる.以上の結果と考察は,遡及的な方法を用いて得られた調査データのうち,限られた変数間の関連のみを分析することによって導き出されたものである.したがってあくまでも仮説の域を出るものではない.今後,次のような諸変数を分析していくことによって,単身赴任家族の危機適応過程をより明確に理解することができよう.まず,問題のところで触れたように,状況的変数として家族システムの特性と社会的環境の特性とを分析する必要があろう.今回の分析では,妻の個体的特性として価値観の効果を検討した.そして,適応状態や対処戦略に対してその価値観がきわめて大きな影響を及ぼすことが示唆され,その影響のメカニズムについてはかなり複雑な因果関係が想定された.この妻の個体的特性である価値観の効果に加えて,家族システムの特性と社会的環境の特性の効果を検討することによって,個体(妻個人)-集団(家族)-社会の3つのシステムがいかに関連し合いながら家族や妻個人の適応を規定するのかをより明解な形で理解することができよう.また,人口統計学的な変数と適応過程との関連についても検討する必要がある.今回の分析結果からは,適応過程についての心理的な過程をある程度理解することは可能であるが,ここで得た知見を実際の単身赴任家族の危機適応に応用するためには,心理的過程と人口統計学的な変数との対応関係を明確にしておく必要があろう.さらに,単身赴任の状況そのものについてもより精しく検討する必要がある.今回の分析では,家族の危機適応過程として「単身赴任→対処戦略→適応」という過程を想定し,この過程に介在する諸変数の効果を検討した.しかし,夫の単身赴任が直ちに何らかの対処を必要とするほどの危機的状況をもたらすとはかぎらない.むしろ,夫の単身赴任によって家族システムが変化し,その状況において他の何らかの出来事が生じた場合にはじめて家族にとっての危機的状況が生じ,それに適応するための対処戦略がとられるものと考えるべきであろう(稲葉ほか,1986).したがって,対処戦略の効果を正確に理解するためには,夫の赴任期間中にいかなる出来事が生じ,それに対してどのような対処戦略がとられることによっていかなる効果が生じたのかというより具体的な過程を分析することが必要である.今回の調査で得たデータからは以上のような分析が可能であろう.しかし,それでも遡及的な方法を用いたことによる限界は克服されない.したがって,厳密な意味での因果関係については明確な結論を出すことはできない.また,単身赴任をしている夫の側の心理的過程や行動について明らかにならないかぎり,単身赴任家族の危機適応の全体的過程を理解することはできない.今後は,因果関係を正確にとらえることができ,また夫の側の心理的過程や行動も同時に分析することができるような方法を用いることによって,単身赴任家族の危機適応についての力動的かつ全体的な過程を明らかにしていく必要があろう.
著者
長谷川 孝治 浦 光博 前田 和寛
出版者
信州大学人文学部
雑誌
人文科学論集人間情報学科編
巻号頁・発行日
vol.43, pp.53-63, 2009-03-15 (Released:2015-09-18)

本研究では,低自尊心者における下方螺旋過程に対する友人関係の進展段階の調整効果が検討された。長谷川(2008)は,低自尊心者の下方螺旋過程の存在について明らかにした。すなわち,低自尊心者は,友人が本当に自分のことを大切に思ってくれているかどうかを繰り返し確認するという安心さがし行動をとり,その結果,その友人から拒絶されているという認知が高まる(肯定的に評価されているという認知が低下する)ことが示された。本研究では,このような不適応な相互作用プロセスは,低自尊心者が二者関係の進展段階を考慮していないために生じると予測し,検討を行った。パス解析による検討の結果,低自尊心者は,つきあいの浅い友人に対して安心さがしを行うほど,友人からの反映的自己評価が低下することが示された。また,親しい友人に対して,低自尊心者が安心さがしを行っても,反映的自己評価の低下は見られなかった。高自尊心者は,友人の親しさに関わらず,安心さがしを行うことが反映的自己評価を下げることはなかった。これらの結果について,アイデンティティー交渉の観点から考察された。